太陽の種と白猫の誓い   作:赤いUFO

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81話:示された細道

「アムリタ、先輩……」

 

 白音が呼ぶとアムリタは小さく笑みを作る。

 

「冥界以来デスネ、シロネ」

 

 その微笑みはかつてのモノと変わらない。冥界で見た無機質な表情ではなかった。

 だが立場上、アムリタが敵であることは変わりない。戸惑いながらも警戒を解かずに相手の出方を待つ。

 そんな白音にアムリタは懐から薄い手帳を取り出し、白音の足元に投げた。

 

「ソレには、私が調べタイツキが囚われてイル場所を記してアリマス」

 

「!?」

 

 白音は拾い上げた手帳を強く握りしめて凝視した。

 

「彼はイマ、冥界の旧ベルゼブブ領に在ル研究施設に囚われてイマス。助けるのナラ、早く動イタ方がイイ。アレは、無垢でアルが故に加減を知らナイ」

 

 それで話が終わったとばかりに白音に背を向けるアムリタ。

 

「待ってください!!」

 

 そんな彼女を引き留めるように白音は声を上げた。

 アムリタは顔だけ振り返る。

 

「アムリタ先輩……貴女は、何が目的なんですか?どうして、敵に回ったり、助けようとしたり……!!」

 

 何を訊きたいのか上手くまとまらない。それでも訊かずにはいられなかった。

 中学時代によく一緒に行動していた2人。

 良く知らない周りは2人が付き合ってるなどと憶測を並べていた。

 だが少なくとも周りがそう見えるくらい仲が良く、また一樹も1番に思い浮かぶ友達でアムリタを上げていた。

 それが急に敵となって襲い掛かり、今度は助けるような行動を取っている。

 白音には彼女が何を考えて動いているのかまるで理解できなかった。

 

「……」

 

 アムリタは結局、白音の問いに答えることはなかった。

 ただ、申し訳なさそうな笑みをして、その場から転移で立ち去るだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは、いつかの夕暮れ。

 

 日ノ宮一樹が猫上姉妹との生活に慣れ始めた頃。

 白音は汗まみれになって訓練に明け暮れていた。

 姉の力になりたい。

 新しく家族になった少年を守りたい。

 過去の弱い自分と決別するために。

 肉体と闘気。妖力と知識。

 足りない物は多く、一歩一歩埋めていかなければならない。

 マンションの屋上で人除け結界を張り、体術の鍛錬を行っていた。

 

「ハッ!フッ!」

 

 身体に覚え込ませるように同じ動作を何度も繰り返す。

 この町で暮らすようになって数年。

 ようやく白音の鍛錬は実を結んできた。

 下級悪魔なら撃退出来るようになり、少しずつ姉の仕事も手伝えるようになった。

 強くなって、強くなって。もうあんな思いは―――――。

 そんなことを考えていると屋上に上がってくる足音が聞こえた。

 

「あ、ホントに居た……」

 

「いっくん……」

 

 どうやってここに?と訊こうとしたがしたがその前に勝手に話始める。

 

「姉さんが屋上に白音が居るからって呼んで来いって。お腹空いたってさ」

 

 どうやら人除けの結界を解除したのは姉らしい。

 見てみるともう結構な時間になっている。

 

「ほら、行こう」

 

 そうして手を引いてくる一樹。

 

「……いま、汗まみれなんだけど」

 

「別に気にしねぇよ」

 

 私が気にする、と小声で言うが、手を振り払うことはしなかった。

 むしろ少しだけ強くその手を握り返す。

 

「白音は、中学に上がったら、何か部活とかやるのか?頑張ってるみたいだし」

 

「別に……」

 

「そっか」

 

 白音の返答に時に気分を害した様子もなく、白音はでも、と続けた。

 

「やりたいこと。成りたいものは、ある」

 

「そっか」

 

 一樹の受け答えは変わらないが、その声は僅かな喜の感情が込められていた。

 その手が離れぬようにと、白音は一樹の手を強く握った。

 

 

 

 

 私に翼をくれるなら、私はあなたのために飛ぼう。

 

 たとえばこの大地のすべてが、水に沈んでしまうとしても。

 

 私に剣をくれるなら、私はあなたのために立ち向かおう。

 

 たとえばこの空のすべてが、あなたを光で射貫くとしても。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アムリタから渡された手帳を読んで難しい顔をしている。

 

「なるほどな」

 

 手帳を閉じてテーブルに置く。

 アザゼルは煙草に火をつけて大きく紫煙を吐き出した。

 

「結論から言ってこの手帳に書かれている内容は全くの(ホラ)ってわけじゃなさそうだ。書かれている場所は旧ベルゼバブ領にある研究施設だ。うちも調査当たっていた幾つかの候補にはこの場所も挙がっていた」

 

「な、ならその場所に日ノ宮の奴が――――!?」

 

「少なくとも可能性はある。だがこの情報は()から与えられたって点だ。簡単に信じるわけにはいかないだろ」

 

 言われて一誠は口をつぐむ。

 リアスは考える仕草をして白音に質問をする。

 

「白音、貴女の意見は?アムリタ・ズィンタという子について知っているのは貴女と桐生さんだけだわ。貴女から見て、彼女が渡してきた情報。それは信用できると思う?」

 

 リアスとしては、敵の罠である可能性が高いと見ている。しかし相手のことを一切知らずに判断出来ることでもない為、白音の意見を聞きたかった。アムリタという少女を知りながら出来る限り客観的な意見を、だが。

 そして白音もここで感情的な意見を抑えて言葉を選ぶ。

 

「冥界で会った時、アムリタ先輩は個人的にいっくんに執着しているように見えました。おそらく無限の龍神の思惑とは関係なく。いっくんがオーフィスに利用されて殺されるようなことは、彼女としても避けたい事態だと思います。そうでないと、修学旅行で先輩がオーフィスを攻撃したという話に理屈が通りません」

 

「そう……」

 

 白音の話を聞き終え、リアスは冥界の地図を見ながら難しい顔をしていた。

 気になったアーシアがおずおずと手を挙げる。

 

「あの、何か問題が……?」

 

「えぇ。旧魔王派の領土。そこに侵入するのはかなり難しいわね」

 

 現魔王政権に敗北した旧魔王派の者たちは冥界の僻地へと追いやられた。

 一時期、セラフォルーの側近を務めていたカテレアの家であるレヴィアタンは彼女の禍の団に加担した事実が発覚したため、領土を大きく削られている。

 

 互いに不用意な干渉を避けるために、領土内部への移動には制限がかけられている。

 外側からの転移で侵入しようとしても弾かれ、物理的に突破しようとすれば、それこそ蜂の巣になる覚悟が必要となるだろう。

 

「今の敵の戦力が分からないのも痛いわ。最悪、ディオドラが使っていた蛇。アレが量産されていて、大量に襲い掛かってきたら、一樹の奪還どころではなくなるでしょうね」

 

 リアスの言葉に全員が息を呑む。

 傷を負えば負うほどに力が増し、巨大化される蛇。

 あんな物が大量にバラまかれて使われるなど冗談じゃない。

 今の一誠なら僧侶の砲撃で吹き飛ばせるだろうが、それでも、だ。

 

「せめて、領土内に侵入(はい)れる算段がなければ厳しいわ。でも、グレモリー家やシトリー家の領土では遠すぎるし。ただ馬鹿正直に近くに転移しても相手に察せられてしまうでしょうね」

 

「冥界にある堕天使側の土地からもそうだな。どう移動手段を確保しても1週間から10日はかかる。そこからさらに向こうに気付かれずこの施設に移動するとなるとさらに2日ってとこか」

 

 凡そ10日前後。地図をなぞりながら言うアザゼルにそんなに時間がかかるのかと全員から沈黙が下りる。

 

「とりあえず、この情報を今日、サーゼクスたちを交えて意見交換をするつもりだ。オーフィスの奴がグレートレッドにちょっかいかけるつもりなら三大勢力も無視するわけにはいかねぇからな」

 

 手帳、預かるぞ。とアザゼルが懐にしまう。

 

 この日の話し合いはそこでお開きになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なにをしているのデスカ?」

 

 アムリタが英雄派の拠点に戻るとそこには忙しなく動き回る仲間たちが居た。

 今日アムリタは曹操に暇を貰いに来ていた。

 理由はどうあれ、オーフィスに攻撃行動を示した自分は禍の団での立場は悪くなるだろう。

 それに旧魔王派にいる一樹のことを調べて白音に情報を渡している。同じ派閥でないとはいえ、どう考えても背信行為だ。

 何らかの叱責が及ぶ前に禍の団を離れた方がいいと思っての判断だ。

 居心地は、良かったのだが。

 棒立ちになっているアムリタにジャンヌが荷物を運びながら答える。

 

「お引越しよー!曹操が今から禍の団を抜けるんですって!」

 

「ハ?」

 

「ほら、自分の荷物纏めちゃって!」

 

 と、背中を押して作業を促す。

 しかし、事情が分からないアムリタは困惑の表情を浮かべている。

 すると曹操が現れた。

 彼はいつもの漢服ではなく、ジーンズに半袖のTシャツという格好だった。

 

「俺たちはこれから禍の団を抜けて独自の行動を取る」

 

 曹操の宣言にアムリタは目を丸くした。

 

「禁手に至った者の数はそれなりに揃った。オーフィスの蛇の解析も大分進んだ。これ以上、ここに居る意味は薄い。スポンサーが居なくなるのは痛いがそれも先日見つけた。あまり頼りたくないところだけどね。向こうからこっちに来いと連絡を寄越してきた」

 

「そんなわけで我々はこれからそちらに陣営を移すわけだ。これから、禍の団は旧魔王派がなにかと口出ししてくるだろうし、その前にというわけだ」

 

「だからアルジュナが俺たちの所から離れる必要はない。それに前にも言ったがオーフィスは俺たちにとってもいずれ挑む対象だ。君が何かを気に病む必要もない」

 

 そう言って運んでいた荷物を下ろす曹操。

 それを見ていた周りがヒソヒソと会話をする。

 

「まったく。素直にアルジュナちゃんを手放したくないから禍の団を抜けることを決めたって言えばいいのに」

 

「彼なりに照れくさいんじゃないかな?まぁ。アルジュナもそれくらいのことで僕たちが迷惑に思うなんて思ってほしくないけど」

 

「ま、俺は何でもいいけどな」

 

「聞こえてるぞ、お前たち……!」

 

「?」

 

 曹操の一喝に周りが苦笑して作業を続ける。

 アムリタだけは首を傾げているが。

 

「ソレデ、次のスポンサートハ?」

 

 アムリタの質問に曹操は背を向けたままで答える。

 

「君をここに連れてきた君の御先祖。帝釈天だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で?その準備はなにかしら?」

 

 自室で戦闘用の道具の確認をしている白音に黒歌は問いかける。

 

「……」

 

 答えない白音に黒歌は溜息を吐いた。

 

「今冥界に突っ込んでどうするつもり?白音ひとりでどうにかなると本気で思ってるの?」

 

 静かな声音の中にある怒気を感じ取る。

 

「アムリタ先輩は、おそらく嘘は付いてません。あの人は本心からいっくんの奪還を望んでいる」

 

「……情報に嘘はないから単身で冥界の旧ベルゼバブ領に乗り込んで一樹の奪還をしようって?馬鹿も大概になさい。その前に取っ捕まるのがオチよ。それくらいわからない訳じゃないでしょ!」

 

「痛いです、姉さま……」

 

 頭を手でプレスする黒歌に小さく抗議する白音。

 

「焦るのはわかるけど、頭冷やしなさい。闇雲に動いても事態は好転しないでしょ」

 

 そのあまりに冷静な黒歌の態度に白音は苛立ちから視線を下げ、眉間に皺を寄せる。

 そして言ってはならない言葉を発してしまった。

 

「姉さまは、いっくんが今も酷い目に遭ってるかもしれないのに、平気なんですか?」

 

「そんなわけないでしょう……!」

 

 それは腹の底から憤りを吐き出すような重い声だった。

 下げていた視線を上げるとそこには悔恨の念を表情に出した黒歌の顔があった。

 

「一樹が辛い目に遭ってて何も感じないわけないでしょ。行き当たりばったりで行動して助けられるんなら、すぐにでも行動に移すわよ。でも助け出すなら失敗は許されない。なら、少しでも成功の可能性を上げるために準備する。それだけ」

 

「……」

 

 黒歌の言葉に白音は何も言えなくなった。

 きっと自分はまだ子供なのだろう。

 だから、感情で行動してしまう。

 相手のためだなんて理由を付けて自爆するような行動を勝手に取ろうとする。

 なんて浅はか

 

「……ごめんなさい、姉さま」

 

「絶対にあの子を助けましょう。私たちの家族を」

 

 黒歌が白音を自分の胸に抱き寄せる。

 その温かさが心地よかく、頭に落ちた水滴に心が痛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日。昼休みにオカルト研究部の部室に集められたメンバーはアザゼルの言葉に耳を疑った。

 

「実はな。旧魔王領に入れる手段が手に入った」

 

「……いくら何でも早すぎないかしら。昨日の今日よ?」

 

「あぁ、実はな。サーゼクスに相談したところ、手引きできる奴が居てな。そいつを紹介してもらった。おい、入れ!」

 

 部室の外で待機していた人物が部室のドアを開ける。

 その人物を見て全員が眼を見開き、レイヴェルがポツリと呟いた。

 

「お兄さま……!?」

 

「久しぶり、というわけではないが、元気そうで安心したぞ、レイヴェル」

 

 入ってきた人物はかつてのリアスの婚約者であるライザー・フェニックスだった。

 

「な、なんでお前が!?」

 

「それを説明するためにここに呼んだんだ。ライザー、いいか?」

 

「えぇ。リアス。俺は今、旧魔王派。特にシャルバ・ベルゼブブと取引している。フェニックスの涙を含めた多くの品々を卸している」

 

 ライザーの告白にリアスは厳しい視線を向けた。

 

「どういうことかしら?」

 

「君との婚約を賭けたレーティングゲームでの敗北により解消された俺は冥界から白い目で見られるようになったのは知っているだろう?魔王の妹と婚約していながらも袖に振られた情けない男としてな。まぁ、それに関してはその後に引き籠っていた俺にも問題はあったが」

 

 ライザーの言葉にリアスはバツが悪そうに視線を泳がせる。

 そんなリアスにライザーが苦笑する姿は、以前の傲慢さは鳴りを潜め、大人としての落ち着きがあった。

 

「そんな顔をするな。その件に関しては以前家に訪れた際に済んでいるだろう?冥界では結果が全てでゲームに負けて婚約を解消された俺の不甲斐無さが原因だ。だが、今社交界などで表に出るのは世間的に良くないから、家の商売を手伝っていたんだ。すると帳簿に明らかに不審な点が見つかってな。眷属たちと調査を進めていくと、親族の何人かが旧魔王派に商品を横流ししていたことが判明した。報告にあった京都で禍の団が使っていたらしいフェニックスの涙もそうした経緯で流れた物だろう。横流ししていた親族は既に締め上げて情報を吐かせた後に父上が遠方に左遷させた」

 

「そんな話は初めて聞きましたが……」

 

「お前はまだ子供だし、家の商売に直接かかわっているわけじゃないからな。こうした話を耳に入れさせたくはなかった。そのことを魔王さまに報告を入れた後にサーゼクスさまから提案があったんだ。左遷した者たちの代わりに旧魔王派への取引を続行してくれないかってな。幸いにして俺はその役に適任だった」

 

 自嘲するように肩を竦めるライザー。

 

「魔王の妹に婚約破棄された俺には明確に現魔王。特にグレモリーに良くない感情を抱いていると周りに思われている身でね。故に向こう側に擦り寄る理由がある。それを利用してスパイ活動をしているわけだ。もっとも向こうもある程度それを察しているだろうが、流されて来る品々に今のところ強く拒否される反応は無い」

 

 次々と話される事実にリアスたちは驚きの反応を見せる。

 アザゼルが前に出た。

 

「重要なのは、ライザーは旧ベルゼブブ領で次の取引を行うという事実。そしてその場所は例の情報にあった研究施設に近い位置にあるってことだ。それでも、丸一日は移動に費やすだろうがな」

 

 アザゼルの言葉に全員の眼の色が変わる。

 

「じゃ、じゃあ……!」

 

「あぁ、俺たちはそれに便乗して旧ベルゼバブ領に侵入。そして例の研究施設から一樹の奪還に入る」

 

 強く頷くアザゼルに喜びの感情を露にする。

 一誠が立ち上がり、拳を手の平に打ち付けた。

 

「よっしゃあっ!!これで日ノ宮の奴を取り返せるぜ!」

 

「良かったですね、白音ちゃん!」

 

 アーシアも白音の手を繋いで喜んでいる。

 しかし、アザゼルが言葉で冷水を浴びせた。

 

「いや、今回リアスたちは留守番だ。それ以外で行く。レイヴェルもな。正直、お前の実力じゃ足手まといだ」

 

「ちょっ!どういうことですか!?」

 

「どうもこうも。明後日何があるか思い出してみろ」

 

 アザゼルの言葉に一誠はあ!と声を出、祐斗が回答する。

 

「サイラオーグ・バアルとのレーティングゲーム、ですか……」

 

「そうだ。明後日行われるサイラオーグ・バアルとのレーティングゲーム。これは、冥界中の注目の試合(カード)だ。それ以上に、今回の任務はグレモリー眷属(お前たち)向きじゃない。なにより大人数で行動すれば、それだけ敵に勘付かれる。連れて行く理由がない」

 

 断言に一誠が感情的に反論する。

 

「俺たち向きじゃないって!そんなことないですよ!九重の母ちゃんだってちゃんと取り返せたじゃないですか!」

 

「アレは向こうが待ち構えている状況で、周りへの被害をあまり気にする必要が無かったからだ。今回は潜入だぞ?お前たちの戦い方は目立ちすぎるし、リアスに至っては冥界の有名人だ。リスクしかない」

 

「でも!?」

 

 尚も言い募る一誠をリアスが手で制止し厳しい表情で問いかける。

 

「私たちに、京都の妖怪たちと同じことをしろと言うの?」

 

 自分たちの長が攫われても積極的に動かず、のらりくらりとしている京都の妖怪。それと同じになることにリアスは嫌悪感を覚える。

 理屈としてはアザゼルの言い分が正しいと認めた上でだ。

 リアスにとって日ノ宮一樹は種族は違うが、同じ部の後輩で、仲間で、友人だ。それの危機に黙って待っているなど出来ないとその眼で訴える。

 そしてそれは、グレモリー眷属全員が抱く想いだった。試合より、友人を助ける力になりたいと。

 説得を続けようとするアザゼルだが先に口を開いたのはライザーだった。

 

「リアス。はっきり言おう。今回君に出来ることはない。それに今度の試合は冥界中に注目されている。市民だけでなく、魔王さま方や上位ランカーを含めてだ。そんな中で欠場などすれば、確実に俺のように鼻つまみ者にされるぞ。最悪、グレモリー家の次期当主の地位も失う可能性もある」

 

 ライザーの忠告にリアスは頭に血が上り声を荒らげた。

 

「それくらいのことは分かっているわ!でも―――――」

 

「いいや、分かってない!君はもう、自分の意志で好きに動ける立場で居られなくなりつつあるんだ!君の行動1つで眷属たちの未来にも大きな翳を落とすことにもなる!それにアザゼル殿も言っているが、今回は君と君の眷属向きの仕事じゃない!無理矢理ついて行って足を引っ張るつもりか!冷静になれ、リアス」

 

 ライザーの一喝にリアスは驚きながらも目を覆って顔を伏せる。

 彼女が出した答えは。

 

「わかったわ。今回は任せる……」

 

「部長!?」

 

「……今回は確かに私たちの出番はなさそうよ。悔しいけどね。アザゼル、もし必要な物があったら遠慮なく言ってちょうだい……」

 

 そんなリアスにあぁ、と返事し、アザゼルはロスヴァイセとイリナに顔を向ける。

 

「お前たちはどうする?出来るなら一緒に来てくれると助かるが……」

 

 アザゼルの問いにロスヴァイセが先に答えた。

 

「水臭いこと言わないでください。確かに、北欧のヴァルキリーとしては動き辛い案件ですが、私はこの駒王学園の教師でもあります。先生として拉致された生徒の救出に尽力します」

 

「私も行きます!もしかしたらあとでミカエルさまに怒られるかもですけど、友達として放って置けません!それに約束もありますから!」

 

 そう言ってイリナは白音にウインクする。

 あの鍋を食べた夕食で約束した。助けようと。

 白音は嬉しさを堪えるように顔を歪ませ、小さな声でありがとうございますといった。

 

 こうして、日ノ宮一樹を取り戻す戦いの準備は整った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




前話でライザーに関する感想が多くて驚きました。でもすみません、こんなオチです。


グレモリー眷属は奪還には不参加です。最初は参加させようと思いましたが、どう考えても不向きなうえにサイラオーグ戦と重なってますので。10人以上で潜入って流石に無理がある。


ゲームはサイラオーグ戦だけ書きます。作者のモチベーション維持のために。

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