太陽の種と白猫の誓い   作:赤いUFO

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85話:八つの門

 選手控室に戻るとアーシアがその場で座り込んだ。

 

「アーシアッ!?」

 

「あはは……すみません。お2人の顔を見たら安心して気が抜けちゃいました……」

 

 初めての単独戦闘。結果として敵の女王を撃破。

 全体的な流れとして見れば必要ない試合と言えるがそれでも彼女にとって大きな意味を持っていたに違いない。

 一誠に抱えられながらアーシアは質問する。

 

「イッセーさん……私、少しは強くなれたでしょうか?」

 

「アーシアは元々強かったさ。でも向こうの女王をひとりで倒しちまったんだ!誰もアーシアが弱いなんて思えねぇよ!」

 

 一誠の言葉にアーシアは嬉しそうに頬を緩めた。

 

「それで、腕の怪我は?」

 

「あ、はい。もう自分で治しました!」

 

「アーシア……」

 

 椅子に座らされたアーシアにリアスが近づく。

 彼女は笑みを浮かべてアーシアの頭を撫でた。

 

「イッセーの言う通りよ。アーシアは強くなったわ。クイーシャを倒したこともだけれど。自分で考えて戦い方を学んで前に出た。そのことこそが」

 

 ただ守られ、癒すだけではなく、戦う術を得た。

 傷つけることを忌避する彼女がそれらを学ぶのにどれだけ強い決意があったのか余人が知るところではない。

 だがその成果はこの試合で示したのだ。

 

「えぇ。貴女が私の僧侶で良かった。アーシアは自慢の仲間だわ」

 

「――――――っ!?」

 

 不意に涙が出そうになった。

 しかしそれを流さずにアーシアはコクコクと首を動かす。

 

 そうした一幕がグレモリー側で起きていると、サイラオーグから提案が出された。

 

 ―――――次を最終戦にして団体戦で決着を着けたいと。

 

 このまま行けば当たるのは一誠とサイラオーグ。もしくはまだ表に出ていない兵士だろう。

 アーシアは戦闘が知られていない初戦でしか戦えず、棄権する形になる。

 サイラオーグの兵士が出れば一誠は消耗する。彼はそれを望まずに万全の赤龍帝と戦いたかった。

 今後の展開が読めてしまうこととアーシアがクイーシャを降すという大番狂わせが起きた熱を維持するために次を最後の試合にしたいと委員会に提案したのだ。

 その提案にリアスの返答は【是】。

 彼女もここまで来てチマチマとダイスを振るより一気に決着を着けた方が性に合う。

 数分委員会からの返答待ちの末に結果は団体戦を許可する旨がアナウンスより伝えられた。

 

 こうしてこのレーティングゲーム最後の戦いが決まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 禁手を既に発動させて会場に上がった一誠に多くの子供たちが声援を送っていた。

 互いに王と兵士が向かい合っている。

 

「リアス。お前の眷属たちはどれも強力な者ばかりだった。特にあの僧侶の戦いは意外だったぞ。まさかあんな隠し玉を用意していたとは」

 

「あれはあの子が自分で考えて習得した力よ。私が指示したわけではないわ」

 

「そうか。兵藤一誠。ようやくだ。ようやくお前と拳を交わらせることができる」

 

 サイラオーグの言葉に一誠は自分なりに答える。

 

「これはゲームです。仲間が敗けたことで腹を立てるのは筋違いだって分かってます。でも俺は仲間がやられたのに何とも思わずに試合に挑めるほど大人じゃありません。この試合で仲間の無念の全てをぶつけさせてもらいます!」

 

「いいだろう!それがお前の力になるなら、遠慮なくその感情を爆発させろ!その全てを俺は打ち砕く!!」

 

 試合開始の合図が流れた。

 

 通常の禁手状態で倍加を行い、一誠は一気にサイラオーグに詰め寄るとその拳を顔面に叩き込んだ。

 しかし僅かに顔を動かしただけでその足は一歩も引かせることが叶わない。

 

「思った以上に芯に響くな。奢らぬ研鑽と実戦を潜り抜けて鍛え上げた拳だ。いくら神滅具を宿していたとしても、悪魔になって日の浅い者が易々と積み上げられる拳じゃない」

 

 まるでようやく対等な遊び相手を見付けた子供のような笑みで話す。

 一誠はこの戦いで温存などする気は無かった。

 自分が今日まで鍛え上げた全てをぶつけてようやく勝てる――――いや、戦う土俵に立てる相手だと認識している。

 その上で勝つのだと誓った。

 

 自分の拳を喰らって動かないサイラオーグに距離を取ると敵の兵士が間に入った。

 仮面によって隠された素顔は一誠と変わらない年頃の少年。しかしそれはすぐに変貌する。

 顔はひび割れ、身体が膨張し、その姿を獅子の獣に変化した。

 

 アナウンスの驚きが舞台に響く。

 自身の兵士をサイラオーグが説明した。

 

「こいつは神滅具(ロンギヌス)の1つ。【師子王の戦斧(レグルス・ネメア)】前に所有者が死亡し、単独で敵を殺していたところを俺が見付けて自身の眷属にした。獅子を司る我が家系の縁とも思ってな」

 

 神滅具に悪魔の駒を使ったという事実に誰もが驚く。一誠はアザゼルが居たら眼を輝かせそうだなぁと考えていた。

 

「所有者が居ないせいかこいつはとても不安定でな。この試合以前は暴れて危険なため表に出すことは出来なかった。こいつを抑えられるのは俺だけだからな」

 

 説明を聞いてリアスが前に出た。

 

「どちらにせよその獅子の相手は私ということね」

 

 リアスの手にはロキとの戦いで用意していた自身の滅びの魔力を祐斗の魔剣創造で創り上げた滅びの魔剣が握られている。

 

「部長!」

 

「イッセー。サイラオーグから一瞬でも意識を外さないで!その一瞬で貴方が敗北するわ!こっちはどうにかしてみる」

 

 それほどまでの実力者なのだとリアスは断言する。

 

 頷いた一誠はサイラオーグと向き合い、決意を固める。

 トリアイナでなければサイラオーグには勝てない。

 決めるなら短期決戦だと覚悟を決めた。

 

 まだ形態を変えずにサイラオーグに接近する。

 互いに殴り合い。一誠は敵の隙を伺いながらサイラオーグの剛腕に耐えていた。

 拳を受けながら、左の拳が右の拳より若干遅く、威力も劣っているように感じる。

 フェニックスの涙で治癒された筈の左手。

 だが受けたのは聖と魔を内包する聖魔剣。傷は癒せてもまだ貫かれた痛みだけは引いていなかった。

 

(ハハッ!確かに最高の状態でバトンを渡してくれたぜ、木場(しんゆう)ぅ!!)

 

 一誠はトリアイナの龍剛の戦車を発動させ、その鎧を分厚く変化させた。

 

「だぁあああああっ!!」

 

「ぬっ!?」

 

 渾身の一撃はサイラオーグの体を宙へと後退させる。

 その一瞬で一誠は龍剛の戦車から砲撃主体の龍牙の僧侶へとチェンジした。

 両肩の砲身から膨大な魔力が集められる。

 

「ドラゴンブラスターァアアアアッ!!」

 

 サイラオーグを包み込む程の巨大な砲撃が左右から発射される。片方は外れたがそれでもダメージは通った。

 煙を上げながら地上に落ちる敵を見て一誠は肩で息をしながらその落下位置を見つめている。

 決着が着いたわけではないのだから当然警戒を緩めない。

 起き上がったサイラオーグは体に付いた埃を払いながら満足そうに笑っていた。

 

「これ程のものか。強いとは思ったが、まだ過小評価だったらしい」

 

(ダメージは与えられてるんだろうけどピンピンしてるよ。どんだけ硬いんだこの人!)

 

 サイラオーグの防御力にうんざりしていると後ろの方からリアスの小さな悲鳴が聞こえた。

 見てみると、レグルスによってリアスの大きく傷を付けられていた。

 

 膝をついているリアスに追撃をかけることなくその獅子は話始めた。

 

『このまま放置すればそちらの王はリタイアすることになる。助けたくばフェニックスの涙を使用するかしかない』

 

 わざとだ。フェニックスの涙を使わせるために敢えてリアスに止めを刺していない。

 

「余計なことを、と言えば俺の王の資質が疑われるか。いいだろう、それは認める。だが赤龍帝との戦いはこのままやらせてもらうぞ」

 

『申し訳ありません。これも主を思うが故の行動』

 

 サイラオーグの言葉にレグルスが謝罪している間に一誠はリアスへと近づく。

 

「部長、涙を使います」

 

「ごめんなさい、イッセー。どうやら、私はあなたの足を引っ張ってしまったみたい。でも、一太刀は浴びせたわ―――――」

 

 リアスの一言と同時にレグルスが唐突にバランスを崩す。

 見れば、その右前足が傷を負っていた。

 

『なっ!?』

 

「滅びの魔剣を盾に使った。滅びの魔力で切れ味だけに性能を割り振ったあの剣には剣術も必要ない。ただ当てればいいのよ」

 

 弘法筆を選ばずという言葉があるがこれはその逆。

 当てるだけで大抵のものが切れる剣は使い手が剣士でなくとも構わない。一太刀だけなら振るうのではなく盾として使えば相手を切れるのだから。

 

『クッ!?』

 

 それでもリアスの過失は大きいのだが。

 

 リアスの治療を終えて再びサイラオーグに向き直り、今度の展開を考えていた。

 確かに決め手にはならなかったがこのまま行けばトリアイナで押しけれると考えられる。もちろん一筋縄ではいかないだろうが。

 

『サイラオーグさま!私を身に纏ってください!私の禁手ならばあの赤龍帝を遥かに超越する!わざわざ勝てる試合を本気を出さずに―――――』

 

 レグルスの進言をサイラオーグは怒声を持って返した。

 

「黙れ!!アレは冥界の危機にのみ使うと決めている!ここで赤龍帝を相手に使って何になる!俺は好みだけで戦うのだ!!」

 

 それを聞いた一誠の中である種の好奇心が刺激された。

 自分が尊敬するこの人がその禁手を使うことでどれだけ強くなるのか。それと戦ってみたいという欲。

 

「その獅子を身に纏ってください」

 

 一誠の言葉にサイラオーグは目を見開いた。

 

「俺は、全力を出した貴方と戦いたい。そうじゃなきゃ意味がないんです!最高の貴方を倒さないと俺は胸を張って仲間の下へと帰れない!本気でもない相手に勝ってどうやって胸を張れるんだ!!」

 

 一誠の叫びにリアスは好きになさいと諦めたかのような溜息を吐く。

 それにサイラオーグの返答は―――――。

 

「お前の気持ちはよく分かった。言い分も理解できる。しかしそれでも俺はレグルスの禁手を使うわけにはいかん」

 

『サイラオーグさまっ!?』

 

 その答えに異を唱えたのは他の誰でもないレグルスだった。

 

「それにな兵藤一誠。俺はまだ、お前に出せる手を出していない!レグルスを使わせたければ、先ず今の俺を越えて見せろ!」

 

 構えを取り、唸るような声を出す。するとサイラオーグのオーラが爆発的に上昇した。

 その上昇は赤龍帝の籠手にも匹敵するほどのデタラメな上がり方だった。

 それにドライグが驚愕の声を上げる。

 

『この力の上昇……奴はまさかっ!相棒!勝ちたければ今の内に勝負を決めろ!手に負えなくなるぞ』

 

「ど、どうしたんだよドライグ!?」

 

『奴は八門遁甲を開くつもりだっ!!』

 

「八門遁甲?」

 

 聞き慣れないそれに一誠は疑問を口にした。

 それにサイラオーグは嬉しそうに口元意を吊り上げる。

 

「流石は赤龍帝。知っていたか」

 

『……人体には八つのリミッターが存在する。開門・休門・生門・傷門・杜門・景門・驚門・死門の八つだ。それを開くことで爆発的に身体能力を上昇させるのが八門遁甲の陣と呼ばれている』

 

 ドライグの声にはどこか脅えが混じっていた。

 

『以前俺はその陣の使い手と戦ったことがある。まだ神器に封印される前の話だ。それを使ったのは体術を極めただけの武術家の人間だった』

 

「だ、だから何だって言うんだよ!」

 

『いいか、相棒。まだ俺が神器に封印されていない、全盛期の俺にたったひとりの人間が互角の戦いを演じたのだぞ!』

 

 ドライグの叫びに一誠は言葉を失う。

 三大勢力が戦争を中断して共闘してようやく二天龍を封じた。

 その片割れをたったひとりの人間が互角に戦ったという。

 

『結果的に見れば俺の勝ちだったろう。だがそれは最後の死門を開いた者は確実に死ぬからな。俺はただ、敵の時間切れで生き延びたに過ぎん。あのまま戦っていればどうなっていたか……』

 

 聞き捨てならない言葉が混じっている。

 

「それって!サイラオーグさんが死ぬってことか!」

 

 一誠の叫びにサイラオーグは自分の未熟さを自嘲するように答える。

 

「いや、俺が開けるのはまだ五門である杜門までだ。俺はこれをバアルの書庫で見つけ。独学で習得した。魔力を持たない俺にはうってつけの術だったからな」

 

 今もなおサイラオーグのオーラは上昇している。

 そして見た目も変化していく。

 鼻から血を流してその肌は赤く染まっていく。

 

「俺もコレを誰かに試すのは初めてだ!加減など出来ん!殺してしまうかもしれんが敢えて言おう!死ぬなよっ!」

 

 その言葉が再戦の始まりとばかりに距離があるにも拘らずにサイラオーグは拳を大きく振り抜いた。

 たったそれだけ。本来なら調子を見る為の動作確認とでも勘違いしそうな行為。

 しかし、一誠の鎧に変化が起きた。

 龍牙の僧侶の二門ある砲身の片方がまるで圧力を加えられたかのように破壊された。

 

「え?」

 

 状況が理解できずに呆けるとサイラオーグが警告する。

 

「兵藤一誠。このまま負けたくなければ先程の重圧な鎧に姿を変えろ!そのままでは俺はここからお前を倒せるぞ!」

 

 サイラオーグの警告に現実に引き戻された一誠はすぐさま龍剛の戦車へとチェンジする。

 またもサイラオーグは当たる筈のない位置から拳を繰り出した。

 

 なのに今度は一誠の体が大きく後退させられる。

 

「なんだよあれ!?」

 

 もしかしたら不可視な砲撃でも喰らわされたのかと思ったがドライグが即座にそれを否定した。

 

『今のはただの拳圧だ!奴が振るった拳そのものが強力な空気砲となって俺たちを押し退かせたに過ぎん!』

 

「拳圧って、んなバカなっ!?」

 

『……受け止めた腕の鎧を見てみろ』

 

 ドライグに言われた通り両腕を見てみると、一誠の形態の中でもっとも強靭な硬さを誇る腕の鎧が僅かに潰れていた。

 

『確かに禁手だなんだのと言っている状況ではなくなったな』

 

「俺もこの状態を長くは維持できん。すぐに決めさせてもらうぞ!」

 

 サイラオーグが地を蹴ると瞬間移動の如く一誠の目の前に現れた。

 

「クッ!?」

 

 破れかぶれに拳を突き出すが、当たる瞬間にサイラオーグが幻の如く掻き消えた。

 驚く間もなく後ろに現れたサイラオーグが一誠を蹴り飛ばす。

 単純に拳を避けて背後から蹴ったのだ。一誠の見失うほど速く。

 その一撃だけで一誠は意識が飛びそうになった。

 

「なら、こっちも速度で対応してやる!ドライグ!龍星の騎士だっ!!」

 

『やめろ相棒!騎士の速度でもあれには対応できん!装甲の薄い騎士の形態では一撃を喰らってやられるだけだ!』

 

「じゃあどうしろって……!」

 

 そうして迷っている間にサイラオーグは一誠に接近している。その反則的なスピードで宙に蹴り飛ばされた一誠を前後左右だけでなく上下からも襲いかかる。

 一撃を貰う度に重圧な鎧は破壊されていき、修復すら間に合わない。

 

「ウォォオオオオオオッ!!」

 

 獣のような咆哮とともにサイラオーグは一誠に拳を当てて隕石の落下の如く地面へと叩きつけた。

 その衝撃に視界が塞がる。

 

「イッセー……」

 

 そのあまりのデタラメさにリアスは何も反応できなかった。

 今の一誠ならサイラオーグ相手にも勝機があると思っていた。

 だがそれは思い上がりだったと痛感する。

 僅かな優勢は覆された。

 理不尽なまでの圧倒的な暴力。アレに対抗できるのが悪魔全体でもどれだけいるか。

 

 視界が晴れるとそこには仰向けになって倒れた一誠が右手でサイラオーグの拳を受け止めていた。

 その籠手の部分は既にボロボロだった。

 

「見事だ。最後の一撃だけは受け止めたか。だがその手も無事ではあるまい。そして、終わりだ!」

 

 反対の手で一誠に止めを刺そうと振り上げる。

 しかし兜が壊れて顔が見えた一誠は口元を吊り上げた。

 

「……クソッ!アザゼル先生からこれは使うなって念を押されてるのに。でも貴方になら……たとえ寿命を削られたって惜しくない!このまま何もしないで敗けられるかよっ!!」

 

 次の瞬間、一誠の右手の壊れかけた赤い籠手が白く染まった。

 

『Divide!!』

 

 その声が届くと同時にサイラオーグは全身に虚脱感が襲われた。

 

「なにをした……!?」

 

「以前、ヴァーリの奴と戦った時に白龍皇の能力を取り込んだんです。でも元々相反する力だからリスクが高くて。成功率も高くないし。成功失敗に関わらず俺の寿命は削られていく。ついでに言うと敵から力を奪い取るんじゃなくて奪い捨てるだけ。時間が経てば奪った力も戻ってしまう」

 

 立ち上がって一誠はでも、と笑う。

 

「どうやら、今回は成功見たいッスね」

 

 そのまま腕を引っ張ってサイラオーグの顔を殴りつけた。

 起き上がっり流した鼻血を拭って笑う。

 

「まだそんな力を隠し持っていたか!!」

 

「さっき散々偉そうなこといったけど。やっぱ敗けるのはダメだわ!俺はリアス・グレモリーの兵士だから……だから、主に勝利を捧げる!!」

 

 半減の力がどれだけ長引くか判らない。

 もう形振り構っていられない。

 約束したのだ。前に祐斗とギャスパーと。リアスの眷属として主に勝利を捧げようと。その誓いは破れない。

 

 走りながら鎧を最低限修復し、サイラオーグ拳を叩きつけると大きくよろめく。

 

『相棒!半減もそうだが八門遁甲は極端に体力を奪う!正念場だぞ!!』

 

「応っ!!」

 

 拳を振るいながら一誠は相手が自分よりデカい相手で良かったと思った。

 もう目が良く見えない。ただ、薄らと見える輪郭を闇雲に殴り続けているだけ。

 そしてもちろんサイラオーグも殴られているだけではない。

 

 その大きな拳を喰らう度に意識を失わないことが不思議でならなかった。

 

「ぐっ!?」

 

 殴られれば殴り返す。

 血飛沫が飛び、体からどう考えてもヤバい音が耳に届く。

 だが2人は殴り合いを止めなかった。

 ただ勝つのだと。その想いだけで倒れることは許されなかった。

 きっと足を地に離せばもう二度と立ち上がれないと理解しているから。

 

 歓声が聞こえる。

 一誠とサイラオーグ。どちらにも声援が響いていた。

 

 そんな中でドライグが警告する。

 

『相棒!そろそろ奴の力が戻る!』

 

 分かってる!答える代わりに渾身の拳でサイラオーグに殴りつける。

 顔面を真っ直ぐに射抜いたそれにサイラオーグも僅かに後退させた。

 

 だがそれだけ。

 次の瞬間にサイラオーグのオーラが元に戻る。

 反撃に彼もその拳を振るった。

 

 一誠の顔面に拳が突き刺さる。

 

「ゴフッ!?」

 

 しかし、血を吐いたのはサイラオーグだった。

 見ると、八門の内五門まで開いて赤く染まっていた肌は元に戻っており、その拳も先程までより弱くなっている。

 

「オォアアアアアアアアッ!!」

 

 顔面に突き刺さったままの拳を顔で押し退けて一誠は殆ど原型の無い籠手でサイラオーグを殴った。

 本当に本当の最後の一発。

 これで倒れないのならもう―――――。

 

「く、くはは……」

 

 そんな笑い声がサイラオーグの口から洩れた。

 

「ここまで全力を出したのは初めてだ。そうか。己の全てを出し切るとはこういうことか……」

 

 楽しいなぁと口が動く。

 その一言を最後にサイラオーグの体が前に折れ、一誠の体に倒れ掛かった。

 既に限界の一誠もサイラオーグの巨体を受け止められず、一緒に倒れる。

 限界まで体力を使い切っていた一誠も落ちる瞼に抗わずに意識を沈めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目が覚めた一誠は医務室のベッドから体を起こした。

 受けた傷は全て直っているが痛みだけはまだ完全には引いていない。

 僅かな眩暈を振り払うように頭を振ると横から声が聞こえた。

 

「目が覚めたか」

 

 隣のベッドに座っていたサイラオーグが話しかけてきたのだ。状況からして見舞いに来たわけではないだろう。

 

「俺たちの敗けだ。だが、不思議と充実はしている」

 

「俺からすれば試合に勝って勝負に敗けたようなものです。結局、貴方の全てを引き出すことができなかった」

 

 一誠には余裕はなかったがサイラオーグにはまだ禁手があった。結果的にはゲームで勝ちは拾ったが、一誠個人としては敗北に等しい結果だった。

 タイマンですら相打ちだったのだから。

 もしあの状態で禁手まで使われていたら。きっと戦いにすらならなかった。

 

「そう言うな。それも含めて俺の実力だ。お前はリアスを勝たせた。それだけは誇っていいことだろう」

 

「はい……」

 

 試合に勝った相手を敗けた相手が諭すという意味不明な何とも言えない状況だ。

 

「あの……今回俺は貴方の禁手を使わせることができませんでした。でも次に戦う時には必ずそれを使わせて見せます!もっともっと強くなって、サイラオーグさんの全力に応えられるように」

 

 真っ直ぐこちらを見つめる一誠にサイラオーグは嬉しそうに笑みを浮かべた。

 

「そうか。それはとても楽しみだ。ならば俺も、次戦う時は己が制約を棄て、全てを出すと約束しよう」

 

 そうして2人は拳を軽く打ち付け合った。

 そこで医務室に見舞客が訪れる。

 

「やぁ、2人も。怪我は大丈夫かい?」

 

「サーゼクスさま!?」

 

 現れたサーゼクスに一誠は声を上げてサイラオーグも驚きの表情をしている。そんな2人にサーゼクスは苦笑して椅子に腰かけた。

 

「今回のレーティングゲームはとても素晴らしいモノだった。ここまで興奮するゲームを観たのは何時以来かな。君たちの戦いは多くの観戦者を魅了したよ。一先ずはお疲れさま」 

 

 労いの言葉に恐縮するする一誠。そしてサイラオーグに一誠と話しがあるので言って彼とは餡巣許可を取ると本題に入った。

 

「実はね、イッセーくん君と木場くん。そして朱乃くんには中級悪魔への昇格の話が出ている」

 

「え?」

 

 どうにも現実感のない話に一誠は首を傾げた。こんなに早く昇格の話が来るとは思っていなかったからだ。

 呆けた表情をする一誠にサーゼクスは説明を続けた。

 

「コカビエルの件から始まり、これまでの功績はそれに値するモノだと判断された。いくつかの試験を受けてもらうことになるだろうが、それを終えれば晴れて君たちは中級悪魔だ。細かな詳細はリアスを通して通達する」

 

 そこまで言って次の話題に移った。

 その表情は少しばかり険しいものになっている

 

「それとだ。イッセーくん。旧魔王領に行ったアザゼルたちがついさっき帰ってきたという報告が上がった」

 

 一誠は大きく目を見開く。

 

「先生たち、無事なんですか!?それに日ノ宮の奴はっ!?」

 

「それは自分の目で確かめてくるといい。今は彼らが住んでいるマンションにいる筈だ。リアスたちにもここに来る途中に知らせてある。準備が整い次第行くといいだろう」

 

 それだけ言ってサーゼクスは退出した。

 イッセーも慌ててサイラオーグに頭を下げて退出した。

 

 仲間がどうなったのか確認するために急いで人間界の駒王町へと急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




本音を言うとサイラオーグ×八門遁甲が書きたかっただけでバアル戦を中途半端に書きました。

真紅の赫龍帝はまだいいかな、と思って一誠はしばらくはトリアイナで頑張って貰います。
自分、結構好きですよ、トリアイナ。


次話はまだ書き上がってないので明日更新できるかは微妙です。
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