要らなくなった雑誌やらチラシやらを纏めていると見覚えのない手紙を発見した。
「なんだこれ?」
封筒に入っていた数枚の手紙。一度握り潰されたのかしわくちゃなその封を開いて中身を読んでみると男が書いたと思しき字体だった。
読んですぐに後悔した。
『黒歌ちゃんへ。今日も素敵な裸だったよ。君の裸をマジマジと眺めて家で5回も
「きっもちわるっ!?」
最初だけでこの内容であり、後の文を読むのが怖くて閉じた。
すると後ろから黒歌がその手紙を手にする。
「うわ~。まだ残ってたのねコレ」
「姉さま。その手紙は全部処分したはずでは?」
「いやー適当な書類に混ざってて捨て忘れてたみたい。今捨てるわよ」
ビリビリと破り、蓋つきのゴミ箱にINする。
「なんだったんだよ今の手紙。おぞまし過ぎるぞ」
一樹の質問に黒歌はバツが悪そうに頬を掻き笑った。
「ここに住み始めた当初、ちょ~っとしたストーカー被害に遭ってね。いやーあの時は苦労したわ~」
「ストーカー!?初耳なんだけど!?」
「一樹と
「あの時は大変だった……」
白音も当時を思い出してうんざりとした顔をしている。
黒歌も少しだけ遠くを見つめて息を吐いている。
「前も言った通り、私たち野良猫生活が長くて人間社会の闇っていうか、危険性を嘗めてかかってたのよねー」
「あの……本当に良いんですか?こんな高そうな所に住まわせてもらって……」
「そういう契約だからな。ま、その分黒歌には働いてもらうし、決してアンフェアな契約じゃねぇよ。あーそうだ。白音、お前も人間の学校に通わせっからな。心の準備をしておけ。なにかあったら隣に俺も住んでるから言いに来い」
高級マンションの一室を見て委縮している白音の不安にアザゼルが苦笑して答えた。
殆ど家具は置かれていないがとても良い部屋だと分かる。
姉は堕天使総督の下で働くが自分は良いのだろうかと萎縮してしまうのだ。
そんなところに堂々と入り、ヒャッホー!と床に転がり回る姉の図太さに一種の畏敬の念が芽生える。
「家具なんかは明日運び込ませるから今日はこれで我慢しろよ。黒歌は明後日から雑用を頼むから覚悟しとけ」
「は~い」
「アザセルさん、ありがとうございます」
床に転がりながら手をひらひらさせる
「いや~。
腕を枕にしながらだらしなくする姉に白音は訊いた。
「姉さま。本当に私は何もしないで学校に通って良いんですか?」
「ん~?家事くらいはやってもらうけど、仕事は基本的に私が請け負うし、白音は家のことに専念してくれれば充分よ?もうこれは姉妹というより夫婦みたいね!」
新しい帰るべき場所に気持ちが昂っているのかテンションがおかしい。
しかし白音の表情は優れない。
「でも……私、家事とかあまり……」
「それは仕方ないでしょう。今まで根無し草だったんだから。少しずつ覚えていきましょう。きっと白音にはそういう事が向いてるわよ。私と違って」
「はい……」
ウインクする黒歌だが白音はただ曖昧な表情をしている。
しかし黒歌はその中で別種の不安が白音の中に有ることを見抜く。
「何かまだ心配事があるの?」
「その、あの人は大丈夫でしょうか……?」
白音の言うあの人。
自分たちを保護してくれた愛しい少年。
そして自分たちの所為で家族と平穏を奪われた子供。
姉妹の負い目そのもの。
「きっと大丈夫よ……親戚に引き取られるって話は聞いたし、家族を失った子供をそう悪い扱いにはしないでしょう」
「……はい」
無責任な言葉に一応納得した様子を見せて白音は笑う。
黒歌も立ち上がって白音の後ろに回り肩に手を置いた。
「ほらほら!せっかくの新生活なんだから楽しみましょう!そうじゃないと損でしょう?」
「そう、ですね……」
新しい生活への期待と僅かな不安。だが、ここからやり直せると思っていた。
しかしその後は色々と問題の連続だったのだが。
翌日。届くはずの大量の家具が昼頃に到着し、インターホンが鳴った。
白音は昼食の支度をしていたので黒歌が出る。
「あーはいはい!待っててー」
玄関のドアを開けた。
「どうもー。〇〇急便で――――ッ!?」
「?」
黒歌ははて?何をそんなに驚いているのかと首を傾げている。
家具を届けに来た若い配達員は顔を真っ赤にして黒歌から目を背けている。
「お客さんっ!?服!服をっ!!」
「あ……」
さっきまでシャワーを浴びていて体を拭いていた時にインターホンが鳴ったため、黒歌は全裸で玄関まで出ていた。
それを察した白音がバスタオルを持って駆けつけてくる。
「姉さまっ!?コレ!!」
「あーはいはい」
バスタオルを巻かせて部屋に引っ込ませると白音が頭を下げて対応した。
部屋に家具を運び込ませている間に再び現れた黒歌に作業員の視線が物凄いことになっていたが。
「まるっきり痴女じゃねぇか」
話を聞いて一樹が頭を押さえていると黒歌がえー、と口を尖らせた。
「だって長いこと野良生活で服の着脱の習慣が薄かったのよ?白音はすぐに順応したけど」
「当然です。それに―――――」
「それに?」
「なんでもない……」
恥ずかしそうに顔を背ける白音に黒歌がニヤニヤと答える。
「あの時の白音ってかわいい服とかそういうのに結構憧れたのよ。まぁ昔があんな生活だったから着れた時は内心はしゃいでたのよ。あ、ちなみに猫上って苗字もここに越してくる時に書類で必要だから適当に決めたのよ。猫の上位種的な意味で猫上。上を神にするか迷ったけどこっちがしっくりくるかなって」
「余計なこと言わないでいいんです、姉さま……」
テーブルの下で黒歌の腕を抓る白音にはいはい、降参のポーズを取る。
「他にも、色々とあったわねぇ」
懐かしそうに当時の記憶を掘り返した。
「ごめんなさい、姉さま……」
「大丈夫大丈夫。食べられるでしょ」
出来たハンバーグもどきを黒歌は箸でつまんで口に入れる。
見た目肉がくっ付いてない為にハンバーグというよりひき肉と玉ねぎの炒め物に見える。しかも火が中途半端にしか通ってないため、ところどころ生焼けだった。
「店で捨てられた残飯漁ってた時に比べればマシよ!気を落とさないの!」
「
白音からすれば食べられる物、ではなく美味しい物を食べさせたいのだが。この時の白音には大した調理技能はなかった。
「学校の方はどおー?」
「皆さん、良くしてくれますよ」
「そ」
通っている小学校は上手くいっていた。変な風に扱われることはないし、友好的だ。
ただ白音自身が人間でない自分が人間の学校に通うことへの違和感はあるが。
「いやー。ご近所付き合いって思ったより面倒なのねぇ」
少々疲れたように黒歌が言う。
まだ見た目二十歳達するかどうかの黒歌が高級マンションの一室を平然と借りられてることに人間の奥様方が遠目からヒソヒソと話している。
向こうは聞こえていると思っていないだろうが猫の妖怪として耳の良い黒歌にはばっちり聞こえていた。
水商売の女。
もしくはヤクザなどの情婦と思われているらしい。
黒歌自身かなり不定期な仕事なこととプライベートでかなりだらしない恰好をしていること。
周りが姉妹を良からぬ噂を立てる材料は幾つもあった。
「ま!気長に慣れましょ」
特に気にした様子もなく黒歌は生焼きひき肉の欠片を口に放り込んだ。
この悠長な姿勢が後に少しだけ問題を起こすと気付かずに。
それから一月二月と過ごせば住民たちも姉妹に対しての好からぬ噂も成りを潜め始める。
少しずつ社会に周りに順応を始めた頃にそれは起こった。
学校から帰って来てポストを確認するとチラシと以外にも封筒が入っていた。
「なにこれ……?」
名前は黒歌宛になっているが相手の名前が書かれていない。どう見ても直に入れた手紙だった。
とりあえず姉に渡せばいいだろうと入っているチラシと一緒に回収する。
そこで自分以外の気配がして振り返った。
だが振り返っても誰もない。
当時の白音も身体能力は同世代の子供と変わらないが気配探知の能力だけはそれなりのモノだった。
これが猫魈としての本能か、それとも長い危険な旅で身に付いた機器察知能力によるなのかは本人に判断できないが。
どこか薄ら寒い気分になりながら自分の部屋番号まで急ぎ足で向かう。
「姉さま、帰って来てますか?」
返事がないことからまだ帰って来ていないのだろう。
ポストから回収したものをテーブルに置いて冷蔵庫の中を確認する。
「……今日こそは納得できるご飯を作る」
少しずつ料理を含めて家事能力が身について来た。
今まで、ずっと苦労かけてきた姉に対してようやく自分が力になることが出来たのだ。手を抜く気はない。
夕飯の支度を整えていると黒歌が帰ってきた。
「ただいまー」
「お帰りなさい、姉さま」
「うーい」
疲れた様子でソファーに倒れ込む黒歌に白音が質問する。
「今日はどんなお仕事だったんですか?」
「んー?こっち側に事故で踏み込みかけた一般人の救出と記憶操作。今回はちょっと集団だったから疲れたわー。ていうかどんどん求められるハードルが上がってくわねー。ま、それだけの報酬は貰ってるから文句もないんだけど」
「そう言えば姉さま宛に手紙が届いてましたよ。ちょっと変な手紙なんですけど……」
「アザゼルからかしら?でも隣に住んでるのにわざわざ手紙?メールとかでもよさそうだけど……」
ソファーで寝転がりながら封を切って中身を確認すると黒歌は固まった。
「姉さま?」
「気持ちワルッ!?なにこれぇ!?」
入っていたのは手紙と写真。
写真はカーテンが開いた状態の居間でショーツとタンクトップだけ着た黒歌が何かを食べている写真であり、手紙の内容も読み上げるのがおぞましくなるほど気色悪い内容だった。
断片的に言うといつも君を見ている、とか。君に会いたい、声が聞きたいなどと言う文面が簡潔に綴られていた。
床に投げ捨てた手紙を拾って読むと白音も気持ち悪そうに眉を動かした。
「姉さま。アザゼルさんに相談したほうが良いのでは?その、写真も撮られてますし」
「ただのイタズラじゃないかしら?少し放って置けばすぐに飽きるんじゃない?」
「そう、でしょうか?」
今考えれば速攻でアザゼルに相談するべきだと思うが、当時の黒歌はこういうことに関してあまりにも無知だった。
白音も黒歌がそういうのなら大丈夫なのだろうとそこで思考を止めてしまった。
この日から毎日のように写真が添えられた手紙が送られてくるようになる。
最初の5日ほどは目を通していたが段々と過激になる内容と黒歌と白音の名前まで調べられて書かれている内容が気持ち悪く、届いたその日にゴミ箱に捨てるようになった。
ちなみに写真の画には白音のモノも混ざるようになっていた。
そしていよいよアザゼルに相談しようかなーと考えていた時にそれは起こった。
男はパソコンのモニターから今日撮った写真を眺めて口元を歪めていた。
写真は黒と白の姉妹。
今日は白い妹の学校の近くから教室で着替えている姿を撮影した。
「素晴らしいけど、もっと笑顔のある画が欲しいなぁ」
パソコン越しの画像から少女の身体に触れると本当に画の中にいる少女に触れているような錯覚を覚えて陶酔した表情になる。
しかしもうそれでは我慢できない。
手紙で何度も自分の気持ちを伝えた。
だから向こうも同じように自分を想ってくれている筈で、逢いたいと思ってくれている筈だと身勝手な考えが男の思考を支配する。
男にとって姉妹は一目惚れの相手だった。
あの美しい、愛らしい姉妹を自分だけのモノにしたい。
こんなにも相手を想っているのだから自分は彼女たちを好きにして良い筈だ、と歪んだ笑みを浮かべる。
部屋にはこれまで撮った写真がプリントアウトされて部屋中の壁に張られている。
これを見せればきっと感激して自分を慕ってくれるに違いない。
そんな都合の良い妄想を男は
(なんだろう……朝から視線を感じる……)
小学校からの帰路の途中に悪寒が走って早歩きで移動している。
纏わり付くような君の悪い視線。それが段々と強くなって寒気がした。
恐くて早く家に着こうとすると見知らぬ男から声をかけられた。
「ちょっといいかな?」
「?」
話しかけてきたのは30代後半程の男。もしかしたらもう少し上かもしれない。
「あ、なん、でしょう……か……」
「あぁとてもいい声だね。やっぱり遠くからじゃなくて生で聴くとすごく好いよ」
感極まったように笑う男に白音を警戒して摺り足で距離を取る。
それに気づいてか男は白音の手を掴んだ。
「っ!?」
「怖がらなくていいよ。おじさんは君たちと楽しくお喋りがしたいだけなんだ。から。ねぇ白音ちゃん……」
見知らぬ男が自分の名前を知っている嫌悪からこれ以上関わってはいけないと警鐘を鳴らす。
男は掴んでいる手とは反対の手で携帯を操作し、白音を撮る。
「その顔もいいけどおじさんは白音ちゃんの笑顔が見たいなぁ。ねぇにっこり笑ってよ」
「は、放してください!?」
無理矢理腕を放そうとするが握力が強くて外せない。
このとき白音はどうして今まで戦う術を学ばなかったのかと後悔し始めた。
その態度に苛立ったのか先程までの優し気な口調から一変させる。
「なに抵抗してるのさ?いいから早く笑いなよ!!」
そう言って白音の背を壁に打ち付ける。
更に怯えを深める白音に男は卑猥な笑みを深めた。
「まぁ、それは後の楽しみに取って置くかな。今は――――」
言うと、男は僅かに上半身を曲げて白音のスカートに手をやる。
「おじさんもちょっと我慢できないんだ。少しだけ。少しだけだからね?」
そうして白音のスカートの中に手を偲ばせようとする。
それが白音にはただ気持ち悪かった。
(怖い!助けて姉さま……!?)
心の中でここにはいない姉に助けを求める。
しかしそれが届くわけもなく男の指がショーツに触れようとした時。
「おい」
「ギョッ!?」
白音に触れていた男の身体が吹き飛んだ。
ぺたりと地面に尻もちをつくとそこには見知った男が居た。
「アザゼル、さん?」
「おう。どうなってんだこりゃ?」
現れたアザゼルが男を蹴り飛ばしたのだ。
「一応訊いとくが、アレ、お前の知り合いか?」
アザゼルの質問に白音は泣きそうな表情で首を横に振る。
それにアザゼルもそうだよなぁ、と納得する。
「な、なんだお前!?ぼ、僕の邪魔をするのか!?」
「そりゃこっちの台詞だ。俺の部下の妹に何してんだ。いくら何でもこの状況は言い訳できねぇぞ」
「う、うるさい!?僕と白音ちゃん!それに黒歌ちゃんは愛し合ってるんだ!!お前なんかにどうこう言われる筋合いなんてないんだぞ!?」
「はぁ?」
向こうの言い分にアザゼルは首を傾げて白音の方をチラリと見るが白音は変わらずに怯えた表情をするだけだった。
「なんだかわからんが、今なら児童猥褻行為だけで済ませてやるぞ
「うるさい!?何なんだよお前!?僕の邪魔をしてぇ!?」
「言葉が通じてねぇな。ま、なら力づくで大人しくさせっか……」
呆れたように息を吐いてアザゼルの身体がふらりと揺れる。
同時に男の意識は黒く堕ちた。
「白音っ!?」
事のあらましを説明された黒歌はアザゼルの許可を得て仕事を切り上げて戻ってきた。
すると家に居た白音を抱きしめる。
「白音!何かされなかった!?」
「だい、じょうぶです。アザゼルさんが助けてくれました」
「そう……良かったぁ……!」
何度もよかったと繰り返す姉に白音も泣きそうな顔で抱きしめてくれる姉の背に手を回す。
そこで警察との話を終えたアザゼルが戻ってきた。
「中々感動的な場面だが話をして良いか?」
頷く黒歌にアザゼルは警察から聞いた話を伝える。
「どうやら向こうはお前たちが越してきたストーカー行為をしていたらしい。奴さんの部屋にはお前たちの盗撮写真やら何やらが大量に見つかったぜ。精神衛生上、見ないことをお勧めするぞ。つーか!ストーカーされてんなら早く言え!今回はたまたま無事だったから良かったが、一歩なにかが違ってたら目も当てられなかったぞ!」
アザゼルの叱責に黒歌が口ごもる。
「だ、だってこんなの長続きしないと思ってたし……」
「まぁ、お前たちがこういうのに疎いのは仕方ないかもしれんが、それでも警戒しろ!お前ら、ただでさえ見た目が良いんだ。ああいう虫が寄ってくることもあるだろ。ま、今回は良い教訓になっただろ。明日は休んでいいから、白音のメンタルケア代わりにどっか遊びにでも行け!」
それから男は今回の件で警察に捕まったことを話してこういうことがまた起きたら遠慮せずに相談しろと言って場を去った。
アザゼルが去った後に黒歌は白音が無事だったことを本当に安堵した。
「ごめん、白音。怖い目に遭わせて……」
「謝らないでください。姉さまは何も悪くありませんから。あぁでも」
「?」
「姉さまに、お願いがあります。私を鍛えてもらえませんか?」
白音の申し出に黒歌は口を結ぶ。
「今回みたいなことになった時、自分の身くらい自分で守れるようになりたいです。これ以上、姉さまの足を引っ張りたくありません」
「別に足を引っ張ってるなんて思った事はないけど。白音がおかえりなさいって言ってくれるから私も頑張れるんだし。うん、でも。自衛手段は持っておいた方が良いかなぁ」
「じゃあ!?」
「うん。そのほうが私も安心できそうだし、仕事の合間になるけど師事しましょう」
黒歌の解答に白音は嬉しそうに頭を下げた。
「ありがとう、姉さま!」
この日以来、白音は妖術・仙術。体術を黒歌から師事される。
その過程で黒歌の仕事を時々手伝うようにもなり、多少の危機感を身に付けたのだった。
「というわけよ」
「……なんつーか災難だったな」
「今考えてもおぞましい……」
白音は当時の嫌悪と恐怖を思い出して体を震わせている。
それに一樹は白音の肩に手を置いた。
「確かに白音に何もなくて良かったわ。ま、次に似たようになったら言えな。俺も自分の彼女や義理の姉がそんな目に遭うなんて気が気でないし」
「そうねー男の子が居るとそういう時に頼りに―――――ん?」
そこで黒歌は一樹の言葉に引っかかりを覚える。
「一樹、今白音のこと彼女って言った?」
「言ったぞ。だって付き合ってるの知ってるだろ?」
「知らないけどっ!?」
「あれ?」
黒歌の驚きに一樹は首を傾げる。
一樹と白音は学園祭でオカルト研究部の面々に暴露したため黒歌も知っているだろうと勝手に思い込んでいた。
「普段の様子とかで分からなかったの?姉さま」
「分かるわけないでしょ!?一樹が白音に優しいなんていつものことだし白音だって大して変化もないし!いや、そんなことはどうでもいいわ!?今日はお祝いよ!交際記念パーティー!?」
「それ、やる必要あるの?」
「もっちろん!おめでたいことはなんだって祝わないとね!!」
急遽決まったお祝いに予期せず一樹は料理教室に通った成果を披露することとなったが、調子に乗って余計なことを根掘り葉掘り聞こうとする黒歌に白音が強烈なボディーブローを叩き込んで気絶させてお開きとなった。
片づけをしている最中浮かない顔をする一樹に白音が怪訝な顔をする。
「どうしたの、いっくん……」
「いや……今日の話聞いてさ。白音や姉さんが大変だったときに俺、何もできなかったんだなって思って」
「それは……」
「うん。分かってる。その時の俺だってそんな余裕はなかったし。でも理屈じゃなくてさ。やっぱり悔しいなって……」
大切な今の家族が酷い目に遭っていたかもしれない。その時自分は傍に居なかった。仕方がないのかもしれないが。それでも――――という感情は消えない。
そんな一樹に白音は後ろから抱きついた。
「私も、いっくんが大変な時になんにもできなかった。だから、お相子でしょ?それに、次からは、違う……」
過去は変えられないが今は、お互いに手を出せる位置にいる。
今度は助け合えるのだ。
「……そうだな。もし次に似たようなことが起こったら助けに行けるんだよな」
「うん。私、次にいっくんが危ない目に遭う時は必ず駆けつけるよ」
「俺も、白音や姉さんが危険なことになったら何に置いても助けに行く。もう、何か失うのは嫌だからな」
一樹は白音を抱きしめた。
それを、意識が快復した黒歌が気絶したふりをして眺めて密かに写真に残していたのだがそれに気付いたのはもう少し後の話。