太陽の種と白猫の誓い   作:赤いUFO

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昨日は投稿するのをド忘れしていました。申し訳ありません。

今回は原作ロキ戦でやっていた匙の神器付け足しの回です。


幕間9:匙元士郎は改造悪魔になる

「強くなるにはどうしたらいいのかなぁ」

 

「禁手化を会得すればいいんじゃねぇのか?」

 

「簡単に言うなよ!?」

 

 昼休みに呟いた匙に一樹がバッサリと答えると怒鳴られた。

 それに一樹は祐斗に視線を移す。

 

「だって、コカビエルと戦った時に祐斗が至れたし。あんまり悪魔になった期間に違いがないっていう兵藤でも夏休みで習得できたんだからなろうと思えばなれるんじゃねぇの?」

 

「……お前、禁手って簡単に会得できると思ってるだろ?」

 

「さぁ?」

 

 興味なさげに返答する一樹に祐斗が発現する。

 

「いっそのこと、アザゼル先生に相談してみたらどうかな?」

 

 

「あ、アザゼル先生かー。なんか、勢いでとんでもない無茶やらされそうだなー」

 

 否定できないだけに一樹も祐斗も笑みだけを張り付かせて顔を逸らす。

 

「でも、神器のことに関しちゃ先生に訊いてみるのが手っ取り早いと思うぞ」

 

「そう、だよなぁ……」

 

 一樹の言葉に難色を示していた匙が決意を固めて険しい表情を作った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「成程な。言いたいことはわかった。だが、禁手はそう簡単に至れる代物じゃない。ドラゴン系の神器は比較的到り易い分類だが、一朝一夕じゃなぁ」

 

「ですよね~」

 

 アザゼルの話を聞いて匙はあからさまに肩を落とす。

 しかしアザゼルの話はそこでは終わらなかった。

 

「だが匙、お前に関しちゃ禁手以外の強化案が無いわけじゃない」

 

「え!?」

 

「実はロキとの戦いのときにお前に神の子を見張る者が保有してるヴリドラの神器を全部くっ付けようって案があってな」

 

「!?」

 

「ヴリドラの神器は4つ。お前の持つ【黒い龍脈(アブソープション・ライン)】呪いの黒炎を放つ【邪龍の黒炎(ブレイズ・ブラック・フレア)】。相手の魔法力を削る領域を作り出す【漆黒の領域(デリート・フィールド)】。黒い炎で敵を囲い、動きを封じる【龍の牢獄(シャドウ・プリズン)】だ。以前、うちに喧嘩を吹っ掛けてきた奴らから引っこ抜いて長い間研究のために保管してたんだよ。お前を見つけた時にどうせなら全部くっ付けちまおうと思ったんだが諸々の事情でお流れになってな」

 

「諸々の事情って何ですか!?それがあればロキとの戦いだって少しは楽になったかもしれないのに!?」

 

 詰め寄るように問いかける匙にアザゼルは肩を竦めて答えた。

 

「まず1つは急な話で悪魔側が対価を用意できなかったこと」

 

「た、対価?」

 

「当たり前だろう。いくら戦力が欲しい状況つってもうちで保管してある神器を悪魔勢力にポンッとやる訳にはいかねぇさ。例え形だけでもそうしたやり取りは必要だ。次に、いくらヴリドラの神器の継ぎ足しとはいえ、後付けで付加された神器がお前の体にどう作用するか分からなかったこと。最悪、ヴリトラとの感応が深くなり過ぎてお前の意識が乗っ取られる可能性もあった」

 

「俺の意識が……」

 

 その時のことを想像して固唾を飲む匙。

 

「あぁ。最悪、敵味方の区別なしに襲いかかる可能性もある。だから時間が無かったあの時にヴリトラの神器を足すわけにはいかなかった。揉め事が増えるからな」

 

 アザゼルの言葉に匙は考えた上で決断を下す。

 

「先生、それでも俺は強くなりたいです」

 

「……」

 

「このままじゃ、兵藤とかにも差を付けられる一方です。あいつら、いつも最前線で戦ってどんどん強くなってく。俺が、禁手に至れれば一番良いって分かってますけど。上手くいかなくて。先生に頼って神器の継ぎ足しをするのが安易な手段だって分かってるけど……でも!」

 

 強くなりたいです、と訴える匙にアザゼルが目を細めた。

 

「分かった。準備してやる」

 

「え!?」

 

 あっさり了承するアザゼルに匙が驚いた表情をした。

 

「で、でもさっき対価が必要だって……!」

 

「それならお前の主のシトリーから既に貰ってる。先に相談したとき、お前が自分から相談してきたら頼むってな。それに最近はイッセーたちの方にかかりっきりだったからな。ここいらでシトリー眷属にも肩入れしなきゃ公平性に欠くとも思っていた」

 

 アザゼルの言葉を聞いて胸に手を当てた。

 

「手術前に今のお前の実力を測る。ついてこい」

 

「はい!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんで俺が……?」

 

「そう言うな。ライバルのイッセーとかに頼むわけにもいかねぇだろ。ちょっとくらい付き合えよ」

 

「まぁ……いいんですけどねぇ」

 

「日ノ宮!俺は手加減しねぇからな!そんな態度だと痛い目見るぜ!」

 

 やる気の無さそうに首を掻いている一樹と覇気に満ちて準備運動をしている匙。周りには猫姉妹とシトリー勢が観戦している。

 

「今回は匙個人の実力を測るための模擬戦だ。2人とも、準備は良いか?」

 

「はい!」

 

「ういーす……」

 

 正反対の受け答えをしてアザゼルが試合開始の合図として上げた腕を下ろした。

 

「行くぜ!!」

 

 匙が神器を装着し、黒い龍脈のラインを一樹の腕に巻き付ける。

 周りはわざとラインを巻き付けられたように見える一樹に首を傾げたがその答えはすぐに判明した。

 

「余裕見せやがって!お前の力を吸い取ってすぐに動けなく――――っ!?」

 

 攻勢に出ていたはずの匙が膝をついたことに周りが驚きの目を向けた。

 それに黒歌がポンッと手を叩く。

 

「そっか。一樹の生命力って悪魔が苦手な聖の気が濃いから悪魔の身体のあの子にも弱点になっちゃうのね」

 

「ついでに言うと、神器も邪龍関係だからな。はっきり言って相性最悪だろ」

 

 アザゼルの言葉にシトリー勢がなんとも言えない顔をする。

 そこでラインを外された一樹が溜め息を吐く。

 

「悪魔って、寿命とか身体能力とかは跳ね上がるけど弱点が増えるのが難点だよな。お得意の神器が使えないみたいだけど、どうする?」

 

「っ!?馬鹿にすんな!それならこの拳で直接ブッ飛ばしてやる!」

 

 神器を消して殴りかかろうとする匙。

 繰り出される拳の突き。一樹はそれを体を僅かに動かして躱す。

 一見一樹が後退して匙が押しているように見えるが、匙の攻撃は完全に見切られていた。

 何度目かに突き出された拳を首を動かすだけで躱し、手首を掴むと反対の腕で拳を打ち込む。

 

「ガッ!?」

 

 腹に一撃入れられて足をふらつかせる匙の手首を放し、今度は腹に蹴りを入れる。

 

「悪いけどさ。今のお前じゃ俺の相手になんねぇな」

 

 例え鎧の力を借りずとも禁手化した一誠と互角以上に渡り合える一樹には相性もあるが物足りない相手だった。

 その差は何処から生まれたのか。

 訓練の質か量か。それとも実戦経験の差か。もしくは才能か。

 少なくとも今の匙と一樹では対等な勝負にはならないという事実だけが僅か2分足らずで証明された。

 

「ざ、けんな……!」

 

 されど、それで納得できるかと問われて首を縦に振れる者ばかりではない。

 膝をついていた匙がゆっくりと起き上がる。

 

「会長、たちの前で……こんな無様なとこだけ見せられっかよ……!」

 

 魔力は全て身体能力に回す。

 後先のことは考えない。ただの一撃でもあの涼しい顔をしたクラスメイトの顔を殴らなければ立つ瀬がない。

 

 

 ――――――たった一発でいい。届け!

 

 爆発的な加速からの捻りのない正拳。

 

 一樹は先程度と変わらずに少しだけ首を動かして避けようとした。

 しかし、僅かにその計算が外れて一樹の頬に一筋の傷が出来た。

 だが次の瞬間、一樹の拳が匙の目の前に現れて殴られたと気付いたのはその拳が顔面から離れた後だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もうちょい手加減してやれよ。それにその傷。もしかしてワザとか?」

 

「思った以上に火事場の馬鹿力を出すから驚いて加減をミスっただけです。油断はあったでしょうが、わざわざ傷を負う趣味はありません」

 

 つまり匙の実力だと一樹は言った。

 もう用事が終わったとばかりに一樹と猫上姉妹はその場を去った。

 

 それと入れ替わるように匙が目を覚ます。

 

「あ……おれ……」

 

 痛みの走る顔を押さえて起き上がる。

 そんな匙にソーナが声をかけた。

 

「ずいぶんと、呆気なくやられましたね」

 

「か、会長……」

 

 あまりにも情けない戦いを見せたことに対する気恥ずかしさとか情けなさが襲ってきて匙は項垂れるように顔を下に向けた。

 そんな匙にソーナは膝を折り、顔を両手で挟んで自分に向けさせた。

 

「匙。貴方の力は確かに日ノ宮くんや兵藤くんに比べて劣っているかもしれない。でも、私たちはチームです。私が望んでいるのは突出した戦力ではなく団結力です。私の言っていること、解りますね?」

 

「……はい」

 

 いずれレーティングゲームにプロとして参戦する場合、おそらくソーナ・シトリーのチームは多くの敗北を経験するだろう。

 自分たちが負け星より勝ち星が多くなるには多くの経験が必要だ。

 

「そのためには、匙個人で強くなるのではなく、私たち全員で強くなる必要があります。貴方ひとりが焦って強さを求めることはないのです」

 

 ソーナの言い分は正しい。長期的に一歩一歩確実に強くなるために色々考えてくれているのも匙は理解している。

 だがそれでも。

 

「でも、俺は強くなりたいです……!いつかだとか、そんなことばかり考えて甘えて、強くなることから逃げるようになるのが1番怖いんです!!」

 

 確かに今日明日で何歩も先へ行ったライバルたちに追いつくなんて不可能かもしれない。でも、それを理由に時間をかければ、なんて言って諦めが心に根付くのが怖い。

 何か危機が起きた際に、あいつらが何とかしてくれるから大丈夫だとか。そう考えて蚊帳の外におかれて、いざ自分の目の前に何か起きた時に、大事な人たちを守れないのも怖い。

 目の前に選択肢がぶら下がっているからこそ余計にそう思うのだ。

 

「強く、なりたい……!大事なモンを自分の手で守れるくらい強く……!」

 

 握った拳で床を打ちながら訴える匙。

 それをどう受け取ったのか、ソーナは匙から手を放した。

 

「会長……?」

 

 ソーナは匙に返事を返さずに、アザゼルに頭を下げた。

 

「アザゼル先生。私の眷属を。匙を宜しくお願いします」

 

「分かってる。こいつも可愛い教え子だからな。万が一にも失敗なんてしねぇさ」

 

 ありがとうございますと頭を上げてソーナは匙に背を向けたまま告げる。

 

「匙。何度も言いますが、私たちはチームです。貴方が強くなるなら、私たちも等しく強くならなければいけない。貴方に守られているだけなど御免です」

 

 ソーナは周りの眷属たちに目でそうでしょう?と問いかけると皆一様にして頷いた。

 

「守りたい。強くなりたい。その想いがあるのは貴方だけではないことだけは忘れないでください」

 

 そう言って去って行くソーナ。

 匙はそれに床に額を擦りつけるように頭を下げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で?また呼び出されたわけで?」

 

「あぁ。匙の神器移植が終わってな。不具合を確認するためにだ。なんだ今度美味いもんでも奢ってやるから機嫌治せ、な!」

 

「別に機嫌は悪くありませんが。あぁでも。どうせ貰えるならアトラクションの無料券とかが良いですね。今度白音とデートに行くんで」

 

「サラッと惚気んじゃねぇよ。まぁ今回はそれで手を打とう」

 

 そんな風に男2人で雑談しているとアザゼルが鳴った携帯を手にした。

 

「どうした?――――あぁ!?匙の奴が暴走したぁ!?」

 

『はい。神器の移植が終わり安定期に入ったと判断して神器の制御訓練に入ったのですが、その瞬間に彼の意識が持っていかれました!今は強制的にそちらに転移させることも可能ですが、どうしますか?』

 

「そうしてくれ。後はこっちで対処する!」

 

『分かりました!』

 

 通信が切れて数秒、その場に現れたのは黒い炎だった。

 それがドラゴンの姿を形作って現れる。

 

「匙?」

 

 一樹が確かめるように問うと帰ってきたのは獣の咆哮だった。

 吐き出される黒い炎。それを一樹は自身の炎で相殺する。

 

「なに!?どうなってだよ!?」

 

「わりい!どうやら計算ミスったらしい!匙が暴走しちまってる!どうにか止めるぞ!」

 

「止めるぞってどうやって!?」

 

「とにかく消耗させろ!いくら何でも燃やす燃料が尽きればアイツも落ち着くはずだ!」

 

「簡単に言ってくれるよな!?無料券だけじゃ割に合わねぇぞ、くそがっ!!」

 

 匙から生まれた黒い炎が炎が一樹を取り囲む。

 そこで、一樹は違和感を覚えた。

 

「やべ、コレ!もしかしなくても俺の力を吸ってやがる……!?」

 

 取り囲む黒い炎が一樹の力を吸っていると感じて慌てて不慣れな空中に炎の翼を出して飛んだ。

 

「……早めに決着(ケリ)つけた方がいいな」

 

 どうするかなと考えて酷く頭の悪い提案が浮かんだ。

 

「仕方ねぇ。気は進まないが、根競べでどうにかするか」

 

 溜め息を吐き、全速力で匙へと突っ込んだ。

 炎のドラゴンの拳が一樹に振るわれる。

 一樹も自分の手に炎を纏わせてそれを受け止めた。

 

「さてと、匙……お前の黒い炎と俺の炎。どっちが先に尽きるか勝負するか?」

 

 鎧を纏った一樹が右腕を全体を燃やすように炎を生み出す。

 

「ヴリトラの炎を全部浄火する気か!?」

 

 アザゼルの言葉に反応せずに一樹は自分の炎を燃やし続ける。

 炎自体の相性はこちらが上だろうが黒い炎にこちらの気を吸われているために想像以上に追い込まれている。

 しかし徐々に黒い炎は一樹の聖なる炎に上書きされるように押され始めた。

 そして匙の姿が見えた瞬間に一樹が拳を握った。

 

「とっとと、目ぇさませぇええええっ!!」

 

 手加減など一切していない拳が匙の頬を穿ち、大きく殴り飛ばされた。

 元々3つの神器を移植したばかりの匙はそこで限界を迎えて元の姿に戻る。

 

「バカが!余計な手間かけさせんなってんだ!」

 

 肩で息をして火傷の残された右腕を抑える。

 

「ご苦労さん。上手くやったな!」

 

「見物してないで手伝ってくださいよ……」

 

「観察しながらデータ取ってた。そのおかげで不具合もだいぶ分かったぜ。次に目を覚ます頃にはそこら辺も調整しとく。礼なら、今度中華奢ってやっから勘弁しろ。あぁ、もちろん猫上姉妹(あいつら)もな」

 

 匙を持ち上げて連絡を取るアザゼル。

 一樹はそのまま家へと帰された。

 

 

 

 その後の数日間。治りが早い筈の一樹が右腕に包帯を巻きつけて生活することとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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