幻想郷でまったり過ごす話。   作:夢見 双月

11 / 12
作者名で、ツイッターやってまーす。
フォローしてくださーい。
面倒ですかー?
ならいいでーす。


十六夜咲夜と能力の話

 デーモンショック(主に霊魔の所為)から三日後。

 

 霊魔は人里にて待ち合わせをしていた。

 

 悪魔との闘いで負った、というか完全に自分の自業自得なのだが、筋肉痛は完治し、動けるようになった霊魔はこれまでの三日間の悪夢に思いを馳せた。

 

 文字通り、悪夢を見た訳ではなく。

 何が楽しくて、生理現象やその他諸々を彼女に任せなければならないのか。という話である。嬉しいが、恥ずかしさが何より勝った。

 

 決定的だったのは尿瓶である。全力で逃走し、早苗や魔理沙までもが動き、果てには偶々来ていた慧音も追跡に参加し、痛みに苦しみながら走る霊魔を女性陣が追いかけ回すというカオスな空間が出来上がった。女性達は全員善意から来る行動のため突き放す事が出来ず、説得の末、トイレだけは自力で行う事を許可された。

 

 二度と無茶はしないと固く誓った時である。

 

 

「待たせたかしら?」

 

 そういいながら、銀髪の瀟洒なメイドが目の前に立つ。

 

「いや、今回ばかりは待たされても文句は言えない。申し訳なかった」

 

 霊魔は頭を下げ、メイドである咲夜にそう告げた。

 

 

 あらましはこうである。

 

 三日前に紅魔館正面にて起こった惨状。行動不能となった霊魔の代わりに後始末を請け負ったのが咲夜である。

 

 単純に仕事が増えただろう咲夜自身に思うところは無かったが、霊魔が何か埋め合わせをしたいという事で、今日の待ち合わせとなる。

 

 その事で霊夢が、能力の話よりも先に「予定を埋めるな!」とキレ始めていたのだが、こればかりは仕方がないだろうと霊魔が鎮静化させていたが。

 

 

「さて、あなたにはこれからの私の買い物を手伝って貰っていいかしら?」

 

「いいが、そんなんでいいのか?」

 

「どこかの誰かさんにあてられてね。私も話し相手が欲しい時があるのよ」

 

「そうか。分かった」

 

「……ちなみに、誰の事か分かるかしら?」

 

「ん?美鈴だろ?前に俺はあいつと喋ってたし、それの影響だろ?」

 

「……貴方、やっぱりないわ」

 

「何がだ」

 

「鈍いのね、って話よ。行きましょう」

 

「???」

 

 そう言って、歩き始める咲夜。

 霊魔は頭を傾げながら後を追って行った。

 

 

 メイドと居候の奇妙な珍道中が始まった。

 

 

「よぉ、咲夜ちゃん!……と、霊魔じゃねぇか!浮気か!?」

「違うわ!」

「あー!れーまがきれいなねぇちゃんと一緒にいるー!しゅらば?」

「誰だ!?修羅場なんて言葉をこいつに教えたやつ!?」

「霊魔さん!?そういうのは良くないと思います!」

「違うっつってんだろうがぁ!!!」

 

 

「あははは!」

 

「おかしい!人に出会うたびに尽く誤解から始まるんだが!?」

 

「貴方達ってそういうことをしてるのね。てっきり、こっそりやってるのかと思ったわ」

 

「そんな事ないぞ。意外と二人で買い物やら用事を済ませる事も多いからな」

 

「どちらから誘うの?」

 

「霊夢の方からだ。基本的に俺はフリーだから、毎回付いていっている形だな」

 

「ふぅん……」

 

「なんだよその顔。刺さるぐらいには怖い笑顔だな」

 

「失礼ね。これでも上機嫌なのよ?」

 

「ならせめてその顔はやめとけ。いつもの可愛さが半減するぞ」

 

「……」

 

「なんだよその顔」

 

「いいえ、何も」

 

「さっ、行こうか」

 

「……ふぅ、これは中々に強敵ね」

 

「ん?なんか言った?……まぁ、いいや」

 

 

 そういった会話を所々交えながら買い物を進める。

 

 そんな中で咲夜が驚いたのは、霊魔の追従が徹底的であった事だった。

 食品は当たり前、女性の服選びにも付いて来て、さらには女性しか付けない化粧品の類いにすら興味を示す付き合いぶりである。

 

「見たいものはないのかしら?」と、聞けば。

 

「ない」と、即答である。

 

 

「恥ずかしくないのかしら?」と、付いてくる事について聞くと、

 

「商品見てるだけだろ」と、澄ました顔で言い切った。

 

 そういう事なら、とちょっとしたイタズラ心で咲夜はランジェリーショップ、つまりは女性用の下着屋に行ったが、霊魔は困惑するどころか、咲夜に似合うものを見繕い始めたので「あとで一人で買いに行くわ」と早々に切り上げた。

「似合うと思ったんだが……」と一人で勝手に凹んだ霊魔を置いていくかのように歩く咲夜の顔は、ほんのりと赤くなっていた。

 

 

 

 日が傾く。夕焼けに染まる景色が妙に明るく美しかった。

 

「こんな所ね」

 両手に買い物袋を携えて咲夜が呟いた。

 

「ほう?これのどこが『こんな所』だ!どこがっ!頭おかしいんじゃねぇの!?」

 後ろから霊魔が付いてくるが、両手にはパンパンに膨らんだ買い物袋が合計12個持っており、背中にはリュックサックタイプのものやナップサックタイプのものをいくつか抱えていた。

 

 正直、正面からでないと霊魔と認識出来ない程、持たされていた。

 

「そのぐらい、いつものことよ」

 

「お前の常識で物事を測るな!時を止められないヤツがこの量を持てば、こうなるに決まってるだろ!」

 

「そういえば、白胡椒も切れていたかしら……?」

 

「話を聞け!このバカメイド!」

 

 珍しく霊魔は咲夜に悪態を吐く。

 流石にやりすぎかしら、と思い、咲夜は時計を取り出した。

 

 

「うおわっ!?」

 荷物が急に無くなったために、霊魔はバランスを崩した。

 転ぶのを避けるためにたたらを踏んで、辺りの一変した景色を見る。

 

 紅魔館正門前。

 霊魔がパチュリーが誤って召喚したであろう、デーモンを地面ごと木っ端微塵にした所である。

 

 咲夜の時止めによって、ワープに近いことをされたらしい。

 彼女がここにいないと言うことは、主人に呼び止められたりしているのだろうか。

 

 時間があるので、咲夜に修復された地面を検分する。

 確かに、全て綺麗に直っていた。どこまでが砕けていたのかすら分からない程まで綺麗になっていたのにはただただ感服するばかりであった。

 

 

 今度何か差し入れでもしようかな。そう思いながら立ち上がった瞬間、後方から風を切り裂く音が聞こえた。

 

 咄嗟に背後に振り向き、弾き落とす。

 

 そばに落ちたのは銀に光るナイフだった。

 霊魔は投擲した人物に声をかける。

 

「随分と粗いな。お前としても本意ではないと見るが、どうだ?––––」

 

 

「––––咲夜」

 

 

「お嬢様が仰られたのよ。『あなたの能力を知りたい』とね。唐突だけれど、腕試しといきましょうか」

 

 そう咲夜は言った。

 既に指の間にナイフを数本挟んでいる。

 

「良く言うよ。なんかおかしいと思えば美鈴が門番してないじゃねぇか。最初からそのつもりのハラだったんだろ?」

 

「美鈴は休暇よ。たまには休みをあげないとね」

 

「その休みを決めれるのはお前かお嬢様のレミリアだろ。まぁ、門番の仕事をしてないだけで、働いてないかは知らんが」

 

 咲夜の表情が一瞬固まった。図星と見て、霊魔が話す。

 

「最近、あいつ自身に聴勁ってのを教えて貰ったんだ。だからある程度の気配なら遮断されてても分かる。左側の林の50メートル先で登って待機してるな。どう、合ってるか?」

 

「あれは触れていないと感じ取れないものと聞いたのだけど」

 

「風でなんとなく分からないか?」

 

「……あなた、本当に人間かしら。人とは思えないわ」

 

「さぁな。……で?イマイチやる気が出ないんだが、やるのか?」

 

「ええ、命令ですもの。あなた、無気力なまま死にたいのかしら?」

 

 咲夜の視線が冷たいものに変わる。

 変化した雰囲気も意に介さずに霊魔は答えた。

 

「無気力も何も、やる気起きないだろ。お前が悪い事した訳でもないし、こっちは出来るなら能力の本質は多くの人間にバラしたくないしな」

 

「能力の本質……。やっぱり『空を駆ける程度の能力』なんて嘘なのね」

 

「嘘じゃない。能力の一端を語呂よく言っただけだ。実際、やっていないだけで出来る事に変わりはない。まぁ、最近気付いた事ではあるが」

 

「胡散臭さに磨きがかかってるわね」

 

「うるせぇ、言いたくても言えねぇ事が多すぎるだけだ」

 

 

 その言葉に咲夜が驚いた。霊魔も失言に気付いて罰が悪そうにする。

 

 

「言いたくても言えない?あなたは何を……」

「言葉の綾だ。深い意味はないから気にするな」

 

 

「……そう。今はそれでいいわ。そろそろ始めましょう」

 

「だから、やりたくないんだが」

 

 咲夜はため息を吐く。霊魔という男、意外と強情である。

 これはお嬢様から言われた条件を言うしかない。そう思い、条件を提示した。

 

 

 

「あなたが来ないなら、博麗霊夢を殺すわよ」

 

 

 

 返事はない。だが、瞠目したような表情に一変した。

 咲夜は続ける。

 

「私は有耶無耶にされたくないの。命令ならば完璧をもって従う。貴方が従わないなら従わせるだけよ。霊魔」

 

 やる気は出たかしら、とは続けられなかった。

 

 

 刹那、咲夜の全身に走ったのは恐怖と事実だった。

 

 目の前の()()による底知れない殺意と、これから殺されるという純然たる事実。

 

 冷や汗が全身から溢れ、視界が急激に狭まる。

 霊魔の足元をしか注視出来ずに体が固まり、ついに震え出した。

 

 

 咲夜はやっとの思いで霊魔の眼を見る。

 

 顔が歪んでいた。

 

 今までに見た事がないぐらいに発露した怒りである。

 

 

 それと同時に咲夜が感じたのは、苦しみであった。

 感じたそのまま、霊魔は苦しんでいた。

 

 咲夜は自分の身の危険さえ忘れ、その感情がどこから来るのかを思考する。

 

 簡単な事だった。彼は私を殺すのを抑えているのだ。

 感情から来るどす黒い怒りを、それと同等の意志や決意で抑えていた。

 感情と理性。その二面性で葛藤していた。

 

 

 しばらくして、おさまった様子の彼は口呼吸を荒げながら言った。

 

「分かっていた」

 

 咲夜は、何が、とは言えない。

 

「誰かが、霊夢を餌に俺に何かをさせようとすることはいずれあるだろうと、分かってたんだ」

 

 咲夜は、何かを言う気もなくなった。

 

「分かってはいたんだ。でも……はぁ……、ここまで自我が消えちまうとはな……」

 

 確実に、霊魔は自分に向けて語っていた。

 

「ふ……ふふ、ふはは……!」

 

 そして、笑った。大きく口を開けて笑った。

 しばらくして、息を切らしながら言う。

 

「よかった。何もしなくて本当によかった。咲夜、大丈夫か?」

 

 霊魔に名指しされる事で、やっと口が動いた。

 ええ、と言ったつもりだったが、そう言えたのかは覚えていない。

 

 しかし、霊魔には聞こえたようで、うなづいていた。

 

 

「これも『成長』か。初めて、この感情に耐える事が出来た。礼を言いたい」

 

 本人は自己完結していた。

 咲夜には、彼の胸中に何があるのかは分からない。

 ただ、自分は高確率で死んでいたかもしれないという事は分かり、次第に足から力が抜けた。

 既に心は折れていた。瀟洒な姿が辛うじて表面を覆っているだけである。

 

 それを真似るように霊魔もへたりと座り込み、遠くに告げるように大声を出した。

 

「すまない美鈴。茶をくれないか!」

 

 

 

 

 紅い主人がいた。紅魔館の主である。

 彼女は狂ったように微笑んだ。

 

 やはり面白い。利用価値がある。

 

 隠すまでもなく、彼女こそ霊魔の実力を測ろうとした人物であり、そして今しがた最上の結果を得たのだ。

 声が思わず漏れる。

 

 あの激情をコントロール出来れば、幻想郷の上に立つ事も容易だろう。かつての異変で苦渋を飲まされた分だけでも、仕返しをするのにこれ以上の逸材はない。

 

 仕切り直した二人を見て、静かに嗤う。

 これからの選べる運命の中に霊魔が勝てる運命はない。咲夜が辛勝する運命こそあれ、霊魔は勝つ事はない。

 ……だが、先ほどの殺気だ。咲夜が気圧されながら戦うのは、勝利の後の疲労に直結するだろう。

 

 そう思い、紅魔館の主は運命を操作した。

『運命を操る程度の能力』。これを確かに使用した。

 

 

 

 

 だからこそ、これから起こる運命が信じられなくなった。

 

 

 

 

 少し遡り、紅魔館正門前。

 二人は人に見られるにはあまりにもだらしなく、美鈴から紅茶を受け取った。

 咲夜は一口飲み、「……ふぅ」と息を漏らした。

 

「なぁ、美鈴。緑茶なぁい?紅茶の作法とか知らないから、なんか飲みづらくてよぉ」

「知りませんよそんな事。それに……今は気にしなくていいと思いますけど」

 

 そうか、と一言漏らして豪快に煽り、一滴残らず口に含んで飲み干した。

 すかさず美鈴が「限度があるでしょう」と呆れる。

 

「霊魔」

 

「ん、ちょっと待て。……美鈴、外せ。頼む」

 

「あ、はい。では、ごゆっくり」

 

 そう言って、美鈴は紅魔館の中へ戻って行った。

 美鈴には、これから起こることが決して血生臭いものにはならない確信があったのか、霊魔が帰るまで外に出る事はなかった。

 

「……霊魔、ごめんなさい」

 

「謝るのはこっちの方だし、むしろ感謝さえするよ。やっと、自分の課題だった感情のコントロールが、一歩前に進んだんだから」

 

「……でも」

 

「それに、これ以上謝られるとさっきの事を思い出してしまう。それはお互いに嫌だろ」

 

「……そうね」

 

 気が付けば、空の青色が濃くなっていた。

 そろそろ帰らないとな、と霊魔は考えた。

 

 

「貴方は、霊夢をどう思ってるの?」

 

 不意に、咲夜がそう尋ねた。

 

「……好きだよ。ただ、それ以上の思いが彼女にはある。その為に生きてるようなもんだ。今は、それで手一杯」

 

「口を滑らせていいのかしら?」

 

「お前なら、もういい。まだ他の奴には言えんが」

 

 そう言って、距離を置いて立ちはだかる。

 

「さっき礼をすると言ったな。俺としては聞いて欲しい事もあるが、先にやるべき事がある。……立って構えろ」

 

「霊魔……」

 

「真髄を見せる、と言っている。生半可に立ち向かうのもいいが、全力で来ないと本質を理解する事は出来んぞ」

 

 無言で構える咲夜。

 

 それに満足するように、微笑む。

 

「一度しか見せられん。だが、お前なら問題はないだろうッ!」

 

 それを皮切りに、咲夜に向けて走り出した。

 既に音速を越えようとする霊魔に、咲夜は全身全霊をもって応える。

 

 

咲夜の世界(ザ・ワールド)ッッ!!』

 

 

 

 

 時間が、停止した。

 

 

 

 

 

 

「ありがとうございました、ってね。……じゃ、帰るな。治療はしたから静養しておけよ。おやすみ」

 

 そう言って霊魔は立ち去った。

 戦闘開始して二秒、咲夜が時間を止めて後、一秒経った後の言葉である。

 

 傷だらけになりながらも門にもたれかかる咲夜は、ただ「はい」とだけ答えた。

 

 咲夜はしばらくして立ち上がった後、珍しく家事を何もする事なく就寝したと言う。

 

 後日、レミリアや美鈴から霊魔の能力の詳細を問われたが、咲夜から話す事はなかった。

 

 

 

 夜。いつもの縁側につまみと酒を用意する。

 今回は趣向を変えて、普段は手に取らないものに手を出してみた。

 

 ワインだ。

 

 グラスに注いで匂いを嗅ぐ。

 

 咳き込んだ。

 

 仕切り直して、グラスを揺らす。

 ワインレッド、と言うのだろうか。この鮮やかに輝く赤にまるで吸い込まれるようだ。

 

 チーズをひと齧りし、一口煽る。

 

 咳き込んだ。

 

 渋い。ダメだ、合わん。

 情緒もへったくれもなく飲み干し、床に向かう。

 

 否、向かおうとした。

 

「良いもの持ってるわね。付き合ってくれない?」

 

「霊夢。良いが、俺にはこれは合わない。注ぐだけで良いか?」

 

「付き合ってくれない?」

 

「れ、霊夢……?」

 

「付き合ってくれない?」

 

「………………はい」

 

 たまには、と自分を無理やり納得させ、空いたグラスともう一つのグラスにもワインを入れる。

 

 ワイン越しに見る月は紅かった。

 

 

 今日は長い夜になりそうだ。

 そう、心の中で呟いた。




能力が分かると言ったな。
うそは言ってない(全部教えるとは言ってない)。


咲夜は一体何見たんでしょうかね?(すっとぼけ)

次回から、もう少しほんわか出来たらいいなぁ……。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。