がっつり読みたい人には物足りなくなってしまってます。
申し訳ねぇ。
物語にも息抜きは必要なんです。
「やぁ、女将さん。一杯いいかい?」
「ああ、霊魔さん!どうぞー!」
黒髪に赤い目が特徴の青年。霊魔はいつものように、空を歩いて来た。
何故、毎回空を歩くか。単純にミスティア・ローレライの屋台を見つけるために上空に上がるだけである。
彼は完全にオフのようであり、外の世界のようなラフな洋服を着ていた。
「今日はどうしたんだい?」
「無理に女将さんぶらなくてもいいぞ、女将さん。……まぁ、霊夢がご機嫌ナナメなもんで逃げてきた。しばらく居座らせてくれ」
霊魔がここへ来る時は大体同じ理由である。
それは、自分のした事の罪悪感や自己嫌悪。
それらを払拭するために来る。
と、言っても、懺悔の内容は大小様々で。
以前は『虫を殺してしまった事を急に思い出して、申し訳なく感じ始めた』などと言って来た事もある。
ここに来た時の彼は、きっと他で見るどの彼よりも可愛い。そう思いながら微笑み、料理を提供するミスティアであった。
「そんでそんで?何をしたらあの博麗の巫女を怒らせられるのさ!」
「あんた楽しんでるな?いつも言ってるが、笑い事じゃあないんだぞ」
「笑い事だよ。悲しい事の一つや二つ、ここじゃあ酒の肴にしかならないからね。いつもの酒でいい?」
「ああ、ヤツメウナギも一皿頼むよ」
「かしこまりました〜」
ここの酒は名前こそ知らないものの、霊魔は『普通の酒』という認識だっあだ。そこらにある普通の酒という意味ではなく、霊魔が普通に飲みやすいと感じる酒、という意味であり、酒器を支える手がより傾く。
早々にコップ一杯の酒を軽く飲み干した霊魔は、なめらかに口を滑らせた。
「関係、というのはイマイチ分からん」
「へぇ。そのココロは?」
「以前に俺と霊夢は……所謂、恋仲?……に、なったんだが……。距離感、というものがおかしいらしい」
「おかしい、か。何が?」
「『結局、いつもと変わらない』ということらしい」
「…………あー」
「あー、って何」
「理解した、って意味合いになるかなー?」
「ああ、ユアリーカとかいうやつか」
「え?ユア……?なにそれ?」
「確か、ほぼ全裸で街中を走った学者の名言だ」
「ふーん。バカなことする人もいるんだね……じゃなくて!今は霊魔の話!他に何か言ってなかった!?」
「理解した、と言ってるのにまだ引き出すのか」
「情報は多い方がアドバイスしやすいの!ほら、早く、ハリー!!」
「後、他の奴らと二人きりでいるのが気に食わないみたいだ」
「なるほどねぇ。ちなみに、最近一緒に居たのは誰?」
「咲夜だ」
「へぇ、あのメイドの。二人で何してたの」
「女性用下着の店で下着を選んでた」
「そりゃだめだよ」
「くっ、やはりセンスとやらが俺にはないからか……!」
「違うっ!!なんでそんなところに二人きりで行くのさ!?そりゃ霊夢もカンカンになるよ!!」
「じゃあ、そんなに行きたいなら、霊夢も誘って三人で行けば問題ないのではないか?」
『アッハッハー……』
『ウフフー……(憤怒)』
『フフフ……(真顔)』
『……チッ(鬼の形相)』
『……フン(夜叉の貌)』
『?』
「いや、あんた死にたいのか!?修羅場待った無しじゃん!!」
「どうすればいいんだ!!」
「行かなきゃいいだろンなモン!!」
「まったく、毎度の事とは言え飽きさせないねぇ……ふふふ……!」
「後は……あれだ。単純に一緒に過ごす機会が少ない、って言ってたな」
「それは君の腕の見せどころじゃない?男らしく、自分からデートしに行かないと」
「男ってのはそういうもんか」
「……まぁ、この幻想郷には男少ないからねぇ。前に見た男達はそんな感じだったよ。なんていうか『俺についてこい!』みたいな?」
「なんとなく、わかるかも知れん」
「それ、ホントに分かってるの?」
「知らん」
焼けたばかりのヤツメウナギの蒲焼きを一切れ摘む。噛むと同時に魚の脂が口の中に広がる。皮もパリパリを音を立て小気味よい。
コップに残っている酒を喉に流し込む。
「もう一杯飲んで今日は帰る」そう言って、霊魔は最後の話を持ち出した。
「実は、な。咲夜を殺しかけた」
「そうなの」
あっけらかんとミスティアは返す。出来るだけ軽くしてあげたい立場としてミスティアは、ここで雰囲気を重くする訳にはいかない。
今日は重い懺悔だったかぁ……と少し眉を傾けながらミスティアは続きを促す。
「自分でも分かっていたことなんだが、霊夢を脅し文句に使われただけで発狂寸前だったんだ。ただ、度が過ぎてた。向こうに実際にはその気が無くても、かなりヤバイところまで来てた」
「……そう」
「殺したくは、ないよなぁ……」
「そうだね……少々、君は過保護なんじゃないかな?」
「え?」
「君の彼女は、君がいない時から幻想郷を異変から守ってるあの博麗の巫女だよ?ただのメイドや吸血鬼に遅れはとらないと思うよ」
「でも、少女だ」
「彼女は少女なんだよ。人間で、まだ若いんだ。そんな娘を心配するなという方がどうかしている!!」
「……」
「……悪い、怒鳴る程じゃあなかった」
「……あなたねぇ」
「あなたも博麗の巫女と同じぐらいでしょう。あっても一歳や二歳程度違うだけで大人ぶってはダメ」
「な……」
「彼女から見たら、あなたも危なっかしくて見てられないよ?分かってるの?」
「……」
「少し、歌ってくるね。あなたなら信用してるからいいけど、ツケでもいいわ。飲んだら帰りなさい」
そう言ってミスティアは側を離れた。
「……」
「……」
「そうか。……そうだよな。考えれば分かることだった。俺が霊夢を守ると同時に、霊夢もまた俺を守ろうとするんだよな」
それは、当たり前過ぎる感情で。
「厄介な感情だな。恋ってヤツは」
霊魔には、その本質が分からない。
自分のやりたいことの為に、咲夜への頼み事が増えたかな。
しばらく居座った後、銭を一纏めに置いて霊魔は椅子から立ち上がった。
「ごちそうさん」
微かに夜雀の唄が聴こえる。
それを朧げに口ずさみ、歩きながら森の風に当たる。
霊夢と今度一緒に来よう。
俺一人じゃ、寂し過ぎる。
湧き出てきた小さな負の感情を拭うように。
霊魔は一人、星空の下を駆け上がる。
不意に、空に光が流れた。
「あ」
「あわよくば、俺の望む結末が迎えますように……ってね」
……祈るなんて俺らしくもねぇ。
そう言って博麗神社に戻っていった。
決して、彼は狂ってる訳ではない。
少し、大事なものが欠落しているだけ。
それでも、ここは受け入れてしまった。
もし、彼に何かを望めるなら。
「●●を●してあげて––––。」