ギター好きは死んでもまたギターが弾きたい。(仮題)   作:Ruminq

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遅れました。

あとがきに報告書いておきます。
目を通してくれると助かります。

それではどうぞ。


第四話 魔力円環陣。

―――――――あれから僕は家に帰っていない。

 

いや、誰が悪いわけでもない。ただ、爺さんが死んだあの日の出来事を思い出すのが嫌だからずっと我儘を貫き通して帰っていないだけだ。実年齢25歳で精神的に大人の僕が駄々をこねる様は傍から見れば滑稽極まりないだろう。

 

――――――――――――。

 

あの夜の出来事から一週間が経った。

あの雨の日の号哭から、爺さんの死を悼んでも涙が出なくなった。

理由は分からない。ただ、泣くほど辛くなっても、涙だけが出てくれないのだ。

 

雨の日の号哭の後、僕はセリカさんの自宅に転がり込んで事情を説明した。

 

しかし、家族にはここにくることを伝えておらず、そのまま来てしまったことは黙っていた。

そして両親には許可をもらって、ここで生活しても大丈夫だと嘘を吐いた。

不思議と罪悪感は湧かなかった。

 

ただそれを聞いたセリカさんは

 

「…………そうか、辛かったな」

 

と言いながら慰めるような優しい笑顔でまずは風呂に入ってこいと言って裏に引っ込んでしまった。

僕はその言葉に甘えてお風呂を貨してもらった。

バスタブやシャワーもあったが、浴槽に浸かる気にはなれなかった。

なんとなくその日は風呂に入ってリラックスできる気分ではなかったのだ。

セリカさんには

 

「ありがとうございます。良い湯でした」

 

とまた嘘を吐いた。

またセリカさんに嘘をついてしまったことに罪悪感を覚える。

そして僕はそのあとセリカさんに空室の寝室を借りてもうその日は寝てしまった。

 

もう、その日はなにも考えたくなかった。その日は爺さんが死んだことに気持ちが追い付いてなかったのだろうと思う。

 

その日以降の6日間はセリカさんから

 

「まだお前は気持ちが整理できていないだろう。魔術というものは術者の精神状態にも大きく左右されるものだ…だからしばらくは魔術の講義はお預けだ」

 

という言葉を頂いた。

それから僕は勉強を一切せずにただひたすらに、本を読んだり、窓の外を眺めたり

とりあえず、時間を潰し続けた。

 

……これではダメだと理解している自分がいる。でも頭では解っていてもどうすればいいのかわからないのだ。

 

―――――――――――――――――。

 

前世では僕は誰の死も見てこなかった。

死に関連した出来事があったのは自分だけだ。

僕があっちで死んだ時、母さんもこんな風になったのだろうか?

そうだったら正直、嬉しいような悲しいような申し訳ないような複雑な思いが頭を過ぎる。

 

……いや、やめよう。前世の事はもう振り返らないと決めたんだった。

 

ただ、あっちの世界で多少なりとも死を見ていれば今の結果が変わったのだろうか、とかifを考えてしまう。

 

こんな感じでずーっと一週間を無駄に過ごした。

多分なにかきっかけでもなければ一生こんな感じなんだろうな。

僕自身、そう思っていた――――。

 

「……ねぇ、ねぇってば」

 

「……うるさいな、僕は誰とも話したくないんだ、あとにしてくれない」

 

「でも君が来てからもう一週間も経ってるのに僕の自己紹介すらできてないんだけど……」

 

僕が鬱陶しげに突き放してもなんでもないかのように会話を続ける彼こそが――

 

グレン=レーダスだった。

 

―――――――――――――――――

――――――――――――――

―――――――――――

 

時は一週間前にまで遡る。

あのとき、僕はセリカに基本三属の物理作用力(マテリアル・フォース)の変換効率について教えてもらっていた。

 

基本三属とは――。

 

攻性呪文の基本となる属性、炎熱:冷気:電撃の三属性のことだ。

なぜこの三属性なのかと言うと、魔力を物理作用力に変換する際に最も効率がいいのがこの三属性なのである。

 

ちなみに変換率はツァイザーという者によってすでに導き出されており

 

魔力量を10とすると炎熱:冷気:電撃の順で8.5:7.9:8.2という極大値となる。

つまり攻性呪文の中で最も魔力効率がいいのは炎属性ということになる。

ただ、基本的に炎熱は軍用呪文しか無いので魔術学院では教えられないそうだが。

 

「…今日の予習はこの辺りで良いだろう。よし、次は復習だ。グレン、魔術について口頭でまとめろ」

 

「うん!…えっと、魔術とは昔々に“原初の魂”が最初に発した“原初の音”に最も近いとされる暗示に特化した専用言語の“ルーン語”を用いて自身の深層心理を変革して世界の法則に介入する技術のこと…かな?」

 

「正解だ、流石だなグレン」

 

僕はセリカに頭を撫でられながら褒められて、気恥ずかしいけどやっぱり嬉しかった。

 

「へへ……」

 

「お、嬉しいのか、可愛いやつだな。ほれほれ、もっと撫でてやる!」

 

そう言ってセリカは僕の髪をくしゃくしゃにしながらさらに撫でる。

 

「や、やめて! くすぐったい!」

 

「ほれほれ~…うん?」

 

セリカがさらに悪乗りして激しくしようとした時玄関からドアを叩く音が3回鳴った。

それを聞いてセリカは撫でていた手を止め

 

「こんな時間に客人か?…中々に礼儀のなっていない奴のようだな。私とグレンの時間を邪魔するとは…身の程を弁えさせてやる…」

 

「ほ、程々にね……」

 

少し顔を険しくさせたセリカが玄関へと向かっていた。

その後ろ姿を見送った僕はまた机に向かって先ほどやった魔術の予習を簡潔にノートにまとめ出した。

 

それから数分後、セリカが戻ってきた。

 

「あ、客人誰だった?」

 

「……あぁ、今日お前の後輩になる弟子を探していたのだがな、商店通りにある道具屋で中々の逸材を見つけたから、声を掛けたんだが……」

 

「え!? セリカまた弟子取ったの!? もう僕以外に取らないって言ってたんじゃ…」

 

「…さてな。お前といると余りにも楽しいから存外もう一人欲しくなったのかもしれんぞ?」

 

「……はぐらかされた」

 

うまい具合に追及をはぐらかされた僕は少し眉をひそめてからセリカからそっぽを向く。

 

「…それで僕の後輩になる人がどうかしたの?」

 

「いや、そいつはお前の同じくらいの年なんだがな…だから両親に報告をしに行くと言って家に帰って行ったらしいんだが…どうやら先方でゴタゴタがあったらしくてな。そのまま来たらしい…許可は取ってきたと言い張っているが、タイミング的に怪しいものだな」

 

セリカは先ほどに比べて少し暗くした顔と声で僕の質問に答える。

後輩の人になにかあったのかな?

 

「……そっか」

 

「…まぁ、悪いやつではないんだ。私が直々に見極めてきたんだから当然だがな。グレン、お前と年が近いし先輩だししっかり面倒を見てやってくれ」

 

「…わかった」

 

よし、っと頷いたセリカは僕の目線までしゃがんで来て

 

「今あいつに風呂を貸しているからな、それまでに夕食の準備を済ませてしまおう。グレン、手伝ってくれ」

 

「分かった!」

 

先ほど暗くなった雰囲気を吹き飛ばすように明るくなったセリカに僕は同じく明るく笑顔で答えるのだった。

 

――――――――――――――。

 

夕食の準備があらかた終わり、あとは今日からここに住む後輩君を待つだけとなり僕は手持無沙汰だったので頭の中で先ほどこなしていた魔術の勉強の内容を思い出して復習していた。

 

そんな思考も廊下とリビングを繋ぐドアが開いた音によって断ち切られた。

その音に釣られてそちらを見やるが僕は絶句した。

 

――なっ…っ!?

 

僕が見たのはお風呂に入ったにも関わらず少しハネている癖っ毛気味の銀糸のような銀髪のショートヘアの男の子。確かにパッと見は僕と同年齢くらいだろう。

 

…だけど、驚いたのはそこじゃない。

 

若干俯き気味だがそれでも見える。

明るい日の下で見れば息を呑んでしまうような綺麗な翡翠色の瞳――

だったであろうそれは曇りきってしまい、もはやドブ川のようになにも映さない虚無の瞳だった。

 

一体、なにがあればこんなに眼が曇りきってしまうのか見当もつかない。

 

……いや、心当たりならある。

 

“僕もそうだったから”。

 

きっと大切な人を失くしたんだなと思った。

それと同時にこいつは僕が助けるべきだと思った。

きっと同じような思いをしているであろう僕が。

 

そうして僕と後輩君の激闘が始まったんだ。

 

――――――――――――――

――――――――――――――

――――――――――――――

 

それから僕が助けると決めた日から一週間。

 

毎日の様に話しかけた。

もちろん、魔術の勉強も並行してやった。

…ただ最初はとりあえず声をかけまくった。

それを三日間繰り返して、ふと思った。

 

――反応してくれたら次はどうしたらいいのか。

 

と。これには大分頭を悩ませた。

それを横で見ていたセリカは僕の苦悩も露知らずに優しげな微笑をこちらに向けて眺めるのみだった。

 

――ちょっとは手助けしてくれてもいいのに…っ!?

 

そう内心で毒づきながら僕はその日半日以上頭を悩ませた。

それはもう大好きな魔術の勉強が滞るぐらいにはね。

――せっかく、できた弟弟子なんだ、少しは兄弟子らしくフォローしてあげないと!

とか最初は思ってたけど、もう後半はただひたすらに意地だったと思う。

 

ここから話は長くなるから結果だけ話すね。

ずっと頭を悩ませていた時、ふと僕は思った。

僕が好きな魔術を使ってなんとかできないかなと。

それが閃いた後は早かった。

 

セリカに研究室を貸してもらえるように頼んで、道具屋にまで僕の計画に必要なモノを買いに行ったりして準備したりでもう後輩君と出会ってから一週間が経過していた。

 

そして7日目。

 

僕は計画を実行に移すためにまずはこの問題児をどうにか研究室に連れて行くためにいつもより何倍もしつこく話しかけ続けたのだ。

 

――――――――――――――――――

――――――――――――

―――――――――

 

「……ねぇ、ねぇってば!」

 

「……うるさいな、僕は誰とも話したくないんだ、あとにしてくれないか」

 

僕にしつこく話しかけてくる誰かの声にそう苛立ち気に返す。

この1週間近く口を食事以外に開かなかったからか少し声が掠れてる気がする。

そのせいで思った通りの声が出なくてさらに苛立ちが増す。

負のスパイラルである。

だがそんな苛立ちを見せている僕をなんとも無いかの如く普通に話しかけてくる彼は

こう言った。

 

「でも君が来てからもう一週間も経ってるのに僕の自己紹介すらできてないんだけど……」

 

そう苦笑交じりに。

そして彼はそれでね――。と話を繋げた。

 

「ちょっと見せたいものがあるんだ! ついてきてくれない!?」

 

そう子供らしい満面の笑みを浮かべながら僕に鼻息荒くグイっと顔を近づけた。

…それが妹のメルガリウスの話を爺さんにせびる姿に似ていて少し胸が苦しくなった。

 

――こうなったら、大体頷かないとしつこいんだよなぁ……。

 

と思いつつ、その胸の奥の小さな苦しい疼きを無視しながら僕は仕方なく彼のお願いに頷いたのだった。

 

――――――――――――――――――

――――――――――――――――――

――――――――――――――――――

 

そうして案内されたのはどうやら研究室。

もちろん、彼のではない。恐らく家主のセリカさんからだろう。

自身の身長より若干高めの机の上には色んな魔術触媒などが整頓されて置かれている。

それらを見渡していると彼がどんどん奥に進んでいく。

僕はそれに倣って彼に着いていく。そうすると彼が研究室の少し開けた空間に出たところで立ち止まる。

 

「さ、ついたよ!」

 

そうして僕に見えるように大股で一歩右に退く。

そしてその奥にあったものは――。

 

「……魔法陣?」

 

僕は未だに掠れた声で呟いた。

そう、魔法陣だ。書物では知っていたが実物を見るのは初めてだ。

僕の家には研究室はあったが考古学の研究が主だったので魔法陣なんて作るスペースなんてなかった。

 

僕が初めて見るそれをじっと見つめていると

 

「どう、すごいでしょ! これ僕一人で書いたんだぞ!」

 

「これを……君が?」

 

そう言いながら彼は誇らしげに胸を張る。

僕は少し目を見開いて彼に問う。

 

「そうだよ!……見ててね!」

 

そう言って彼は円陣の少し外に立ち、手を円陣に向ける。

 

「≪廻れ・廻れ・原初の命よ・理の円環にて・路を為せ≫」

 

彼が詠唱を紡ぎ終わった瞬間、僕の視界は白一色に染め上げられた。

それも数瞬の内で、その光も収まる。

そこに広がっていたのは――。

 

「………あぁ」

 

鈴の様な心地良い音を奏で、魔力を通されたことで七色の光が円陣の線の上を縦横無尽に走っていた。

 

――絶景だ。

 

「な! 綺麗だろ!? すげぇだろ、魔術って!?」

 

彼の声が聞こえる。

だがそんな声は僕の耳には入っていなかった。

今の僕はある日の爺さんの出来事を思い出していた。

それは僕がセリカさんから誘われるほんの少し前。

 

――――――――――――――――――――

――――――――――――――――

―――――――――――

 

 

『のぉ、ヴァイスよ――お前さんは魔力円環陣の実物を見たことあったかの?』

 

唐突に僕を見てそんなことを言い出した爺さん。

 

『なんだよ、藪から棒に。見たことあるわけないじゃないか。この家の研究室爺さんの部屋しかないし、爺さんの部屋狭いから円陣書けないじゃん』

 

ペンを置いて爺さんの方に向き合った僕は見たことがないと一蹴して、さらにこの部屋に対する不満を漏らす。

 

『ほっほ、確かにそうじゃのう。……ヴァイスや、ワシはな、最初魔術が嫌いだった』

 

そんな僕を笑いながら見据えて大きな手で僕の頭を撫でながらそう言い放つ爺さん。

僕はその言葉に少し興味を持った。

 

『え、それは意外も意外だ。あのメルガリウスの城の謎に一生を注ぐ情熱を持った爺さんが魔術を嫌いだった想像もつかないな』

 

『そりゃ、誰にも話したことなかったからの。お前さんが初めてだよ。…だがな、ワシは魔術学院で初めに習う魔力円環陣に魔力を通した時な…心が躍ったわ。魔術とはこんなチンケな円陣でこれほど美しいのかとな』

 

『…………』

 

いつの間にか僕は爺さんの話に引き込まれていた。

 

『そしてワシはな当時世界最高難度の問題であったメルガリウスの天空城の話を聞いたのだ。そして思ったのだヴァイス。…チンケな近代魔術の円陣でこれほど美しいなら超魔法文明の中の最大の謎であるメルガリウスの天空城に中にある魔術とはどれだけ美しいのだろう…とな』

 

『そんなに綺麗なんだ、魔力円環陣って。爺さんにそう思わせるくらいならいつか見てみたいな』

 

素直に自身の気持ちを漏らす僕。

 

『見れるさ。……お前ならきっと、な。いいやさらにもっと、もっと遠くに…それこそワシを超えて――この世界の謎にすら辿り着ける。そう信じておるぞ』

 

いつになく真剣な眼で僕を見据えて僕の手の上に自身の手を重ねた爺さん。

そして気恥ずかしくなってなんとなく腹が立った僕は爺さんの腕を振り払いながら

 

『……そーですか』

 

そう言いながらそっぽを向いてまた勉強を始めたのだった。

腕を振り払ったしまった時の爺さんの顔は、僕がそっぽを向いていたため、見えなかった。

きっと、悲しそうな顔を浮かべていたんだろうか。

 

―――――――

――――――――――

―――――――――――――

 

「…………ッ!」

 

また胸が張り裂けそうになる。

でも今度は抑えきれない。こんなの思い出すなんて……っ!

僕は前屈みになって必死にこの苦しさをどうにかしようとするが、どうにもできない。

 

――あぁ…………っ!!!

 

「あれが、爺さん、の…最期のっ!…言葉だったのか……っ!」

 

そう僕は嗚咽交じりに呟く。

 

「あぁ…爺さん……綺麗だよっ!」

 

――あなたの言った通り、最高に綺麗な光景だ…っ!

 

今度は――涙が出てくれた。

あれから一週間。塞き止められていた涙腺が一気に解放される。

 

「僕は……あなたの自慢の孫になりたかった! だから、セリカさんから、弟子にならないかっ……てっ! うぐっ、誘われた時、あなたに一番に自慢したかったのにっ!!!」

 

とめどなく溢れる涙で目の前が歪む。

 

歪んだ視界の中に映し出されるのは

 

――魔術の公式を初めて覚えた時、笑いながら頭に乗せた爺さんの温かい手の感触と爺さんの顔。

――爺さんがメルガリウスの天空城の謎を解き明かしたいと話してしわくちゃになった顔に浮かぶ野望に満ち溢れた顔。

 

――僕と妹が喧嘩したときに見せる苦笑しながらこちらを見つめる爺さんの優しげな顔。

 

そして…

 

――先日初めて見た悔しげに顔を歪めて逝った爺さんの顔。

 

「ごめん、ごめんなさい…っ! 貴方の最期のコトバを聞くべきだったのにっ!」

 

あの人は僕に何を言いたかったんだろうか?

もう、聞くことはできない。

今更になって焦燥感と哀しみが込み上げてくる。

 

 

僕はこの日、前世と今世合わせて、初めて人の前で泣いた――。

 

 

 

 

 

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。

報告についてですが、母が脳梗塞で倒れたので少しバタバタしていますので投稿が遅れるかもしれません。
可能な限り投稿ペースを開けないように善処しますがそれだけご了承ください。

改めて自分の周りでそういうことが起こると動揺するものですね…。
あ、もう少し描写が欲しいところがある場合は感想にお願いします。
少しあわてて書いたので描写が足りていない部分あるかもしれません。

追記:ショタグレンの性格が違ったようなので修正しました。そのため、ストーリー大幅に変更入ってます。。
感情的になる描写は初めてなのでおかしければご指摘お願いします。
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