執事→羊→ゴート→ゴトー?
あ、
ハンター試験を終えて、ゴン、クラピカ、レオリオの三人は、ヒノと別れてパドキア共和国へと向かった。
キルアの実家でもある、伝説の暗殺一家ゾルディック家は、パドキア共和国にあるククルーマウンテンという山の頂上にアジトを持つ。そしてその山自体もゾルディックの敷地であり、通常そこへ行くにはいくつもの関門がある。
一つ目は、『試しの門』と呼ばれる、全長数十メートルはあろうかという正門。
扉の片方重さ2トンあるという常軌を逸した門であり、鍵は一切掛かっていない。故に力ある者であるなら、どんな人物であろうとゾルディック家の敷地へと入る事ができる。
重さ2トンというのは、1の扉の重さであり、押し込む力に呼応して2の門、3の門と扉は一緒に開き、門が一つ上がる事に重さは倍になるという。1の門は片方2トンの合計4トン、2の門は8トン、3の門は16トンという。
ちなみに、鍵の掛かった普通の扉も存在するが、そこから入ったら命令された猟犬に、骨にされて出てくるという地獄への扉だ。この命令は、正門から入れば適用されないので、死なないように入るにはやはり正門から力押しで入る他、方法は存在しない。
しかしながら、そんな門は普通の人間には開けられない。それはゴン達も例外ではなく、開けようとしてもびくともしなかった。その為、この家に雇われた門の守衛、もとい掃除夫であるゼブロは、友達として会いに来てくれたゴン達を気に入って、修行をする事を提案した。
尚、一度執事室へと連絡してキルアに会えないか確認したところ、あっけなく門前払いを喰らったという。
常日頃より数十キロ単位の重しを体に備え、自由自在に動けるようになるという単純だが密度の濃い筋力トレーニングを重ねた結果、ゴン達は無事、一人で試しの門を開ける程にまでなったという。中でもレオリオはその倍の2の門も開けるようになったとか。やったね!
さて、そこで第二の関門が、『執事室』の執事達。
基本的にゾルディックは家は暗殺一家の為、当然敵も多い。その為、普通にやってきた客を通すことも無く、たとえ連絡が入ってもまずは執事室を通して問題無しと判断された場合のみ、敷地内に入る事を許可されるという。最も、その前例により許可された事は、一度も無いらしいが。
尚この執事達はゾルディックの専門機関で訓練を積んでいる為、下手なプロハンターよりよっぽど強い。
そしてゴン達の前に立ちはだかったのは、執事見習いの少女、カナリア。
彼女が受けた命は、何人も敷地(この場合は正門から入り、少し進んだところにある柵の向こう側を指す)に入れないようにする事。
故に、彼女は近づくゴンを、排除するべく攻撃をした。
戦う、という選択肢もゴン達にはあった。3人で掛かれば、勝て無い事は無いかもしれない。しかし、ゴンにとって重要な彼女と戦う事ではなく、ただただ友達であるキルアに会い来ただけという事。
だからこそ、ゴンは反撃もせずに殴られ続けた。
クラピカもレオリオも、ゴンの心情を察して手は出さず、じっと待つ。後に残るは、カナリアがゴンを殴り飛ばす鈍い音だけ。
この少年は、なんでここまでする?なんでただ殴られ続ける?なんで何度でも立ち向かってくる?ボロボロに腫らした顔を見た時、カナリアは自分の手が動かなくなるのを感じた。
「どんなに感情を隠そうとしたって、君にはちゃんと心がある。キルアの名前を出した時、一瞬だけ目が優しくなった」
ゴンには分かってる。カナリアが急にゴンを殴らなくなったのは、彼女が本当は優しいから。無抵抗な人間を、それも子供を傷つける事に、感情が制御をかけてしまう。
自分の主の為に、友達だと言ってくれている目の前の少年に、何年も前の、嘗ての自分とキルアの会話が思い出された。
―――お前、新顔だな。
―――カナリアと申します、キルア様
―――様とか付けんなよ。キルアでいいよ。
―――そうはいきません。私は使用人、キルア様は雇い主ですから。
―――なんだよー、いいからさー、俺と友達になってよ。
―――………申し訳ございません、キルア様。
殺し屋には友達はいらない。それがこの家の教育方針。しかしキルアの心情は、本当は友達と遊びたい。それこそ、普通の子供の様に。そう願った幼少期のキルアと、今目の前に、キルアの友達として体を張る少年がいる。
ただ命令を遂行する人形のように、冷酷に徹しきれなかったカナリアからは、一筋の涙が流れた。
「お願い………キルア様を、助けてあげて」
パアァン!パシィ!
一瞬、何が起こったのか、目の前にいたゴンやカナリアはおろか、クラピカやレオリオも分からなかった。
奥を見れば、貴婦人のようなドレスを纏う顔面に包帯と機械を備えて顔を隠したおそらく女性と、その場で佇む黒髪と黒い和服を纏う闇夜に溶け込む子供。いつの間にそこにいたのか、幽鬼のように唐突に表れた異質な組み合わせの二人組。だが、気になる所はそこじゃない。
ゴン達もよく知っている顔がいた。
太陽の光と溶かし込んだような黄金色の髪を揺らし、燃え上がる炎を閉じ込めたルビーのような紅色の瞳。
カナリアの前で、拳を握った右手を前に出した少女、ヒノ=アマハラが、そこに立っていた。
***
「「「ヒノ!」」」
私のすぐ目の前にいる、三人の声が重なった。その表情は全員揃って驚きに染め、まるでハトが豆鉄砲を食らったかのようである。まあ気持ちはわかるよ?目の前で銃弾掴んでる少女がいきなり現れた、そりゃ何事だ!?ってなるのが普通だと思うし。
しかも、多分だけど執事服の女の子はゴン達を通せんぼしてたっぽいし、にも拘らずゾルディックの敷地側から私が来たらそらびっくり。別行動してたのに何してんだこいつ?って感じだよね。
「あらまぁ、流石の身のこなしですね。右手に負傷や火傷などは大丈夫ですか?」
「えっと、一応平気ですけど………」
自分で銃を撃った割にずいぶん丁寧に聞いてくるねこの人。いや、別に私に撃ったわけじゃないから当然か?うん、そう信じよう。一応私の立ち位置ってゼノさんの客人っぽい感じだったし。
手の方は、初速を出す為に足に少し、ついでに手で受けるつもりだったから右手だけに念を分散して込めたから、大したダメージにならなかったよ。若干ピリッときたくらいかな。実際銃弾止めるとか初めてやったから、正直出来てよかったね!避けるだけなら簡単だよ。旅団のみんなも普通にできる!(これは普通とは言いません)
「あ、久しぶり。ゴンとクラピカとレオリオ。こちらキキョウさんって言ってキルアのお母さん。そっちはカルト。キルアの兄弟らしいよ」
「いやちげーよ!?なんでお前そっち側なんだよ!俺らと同じ不法侵入サイドじゃねーかよ」
「レオリオ。私達は不法侵入じゃない。ちゃんと試しの門から堂々と入った」
おお、この細かい所に拘る感じ、まさにクラピカだね!後レオリオも相変わらずレオリオだね!
そしてゴンも………まあ相変わらずだね。なんか怪我してる所ばっか見てるね。まあ無知無茶無謀みたいな子だし。言い方帰れば純真無垢、猪突猛進って感じ?あ、猪突猛進はなんか違うか。
その時、キュィンという機械音がしたと思ったら、キキョウさんのバイザーの赤い瞳が、なんとなくゴンをターゲティングしたような気がした。
で、実際あってたっぽい。
「あなたがゴンね。イルミから話は聞いてます。数日前からあなた方が庭内にいる事もキルに伝えてあります。キルからの伝言をそのままお伝えしましょう」
―――来てくれてありがとう。すげーうれしい。でも、今は会えない。ごめんな。
「以上です」
「なんかキルア今自分が刺した兄さんにお叱り受けてるんだってさ。ゼノさん、キルアのじいちゃんが言ってたよ。あ、イルミさんはさっき仕事に行ったから今はいないから安心して」
「………色々と突っ込みたい所ではあるが、ヒノ………すまないが少し空気を読んでくれ」
クラピカになんか言われちゃった………。
***
あの後、キキョウさんのバイザーになんか連絡なのか監視カメラの映像でもみたのか、とりあえず屋敷の方から情報が送られた後、若干発狂したような気がしたけど、平静な装いでそそくさと去っていった。カルトは一瞬こっちを見たけど、それでもすいっと無視して、キキョウさんについて行ってしまい、すぐに見えなくなった。
で、残されたのは私とゴンとクラピカとレオリオ、それに執事らしい女の子の5人だけ。
「さて、詳しい話を聞こうか、ヒノ。今までどこで、何をしていたのかを」
ゴンやレオリオじゃ色々思ったことを叫ぶので埒が明かないのか、代表してクラピカが私の前に立つ。笑ってはいるが、妙に威圧感を感じるよ!これで非念能力者だと………ばかな!
「何をしていたのかと言われても、ハンター試験を終わったら
「「「密度濃っ!?」」」
「一体ここ数日で何度事件に巻き込まれてんだよおめーは!ハンターになって数日でどんな仕事三昧だよ!プロハンターもびっくりの内容だぞ!?」
「それに後から来て我々より先にゾルディック本邸に招待されるとは!しかも一日に何人のキルアの家族とあっているのだ!?しかもあのイルミと談笑を交わしていたとか信じられん!」
「ヒノってお兄さんいたんだね」
私の流れるような説明に、三人とも我先にとばかりに爆発したように言葉を浴びせてくる。レオリオはともかく、クラピカも結構まくし立ててくる。気持ちはわかるけどね。頑張って修行してたのに、それ全部スルーするとか無いわーって………自分で言っててなんか悲しくなってきたなぁ。
後、ゴンだけなんか感想ズレてるよ?
「それで、ゴン達は何してたの?」
「実は「それが聞いて」我々が「あのねキル」「くれよ!」ここに来る「アの家に行こうと」までにもいく「わざわざ会いに」つもの試「したらさ」「来たのによぉ!」」
「何言ってるか全然分からないよ!?」
要約すると、修行終わって柵を超えようとしたら殴られちゃった、てへ☆、みたいな感じだね。
「ヒノ、気のせいかと思うが我々の説明が君の中で曲解されてないか?」
「大丈夫、本筋は理解してるつもりだから」
「曲がってる事は否定しないのかよ!?」
空気が壊れた後だから、若干面白おかしく考えながら聞いてもいいと思うんだよ。あ、ちゃんと時と場所と状況は考えるよ?ホントだよ!
「それで、これからどうするの?キルア今お叱り中みたいだし」
「そうだな。このままキルアの家無理やり行くか?」
「それはお勧めしないなぁ。機嫌損ねたら多分殺されるし」
さらっと私が言った言葉に対して、ゴン達はさっと顔を青ざめる。今更ながらに、ここが暗殺一家のアジトのど真ん中ににいるという事を(敷地内ってだけだけど)、思い知ったのだろう。(どちらかと言えばヒノがそれを笑顔でさらっと言った事に対して若干恐怖した)
「でも話が通じない訳じゃないしね」
「ヒノ、お前キルアの他の家族に会ったんだろ?なんでそのままキルアにも会いに行かなかったんだよ」
「え?だってゴン達が正面から来てるのに、私が先にキルアに会うのもなんか違うでしょ?」
「そこらへん律儀なんだな。それ以外の事は色々やらかしてる気がするが………」
それは言いっこ無しだよ、レオリオ。
その時、私たちの会話を一歩引いて固唾をのんでいた少女、執事見習いらしいカナリアが、おずおずと手を挙げた。
「あの……この近くに執事室があるから、そこから屋敷直接電話してみるっていうのは………どうかな?」
うん………それナイスアイディア!
そんな感じで、私達はやっと動き出し、暗い夜道を歩いて執事室とやらへと歩いて行くのであった。
「カナリアってさ、今何歳?」
「13歳よ」
「じゃあ私と同じだね!」
「そう。それにしても、ゾルディックに使えて、初めて客人を見たわね」
「そういえば執事室が入庭許可した前例無いって言ってなかった?」
「そのはずだけど………」
ゴンの言葉が正しいとすると、私は例外なのか?そんな簡単に例外なんてでていいものなのか。
もしくは………、
「執事室スルーして直接ゾルディック一族が許可した人とか結構入ってるんじゃないの?」
「なるほど。執事室は許可した前例は無いが、雇用主が許可した前例はあると。中々とんちが聞いているな」
クラピカが妙な所に関心しているけど、それって警備体制微妙にガバガバなんじゃないかな?
そんなこんなしてたら、明かりのついた………本当に執事室?世間一般では豪邸に分類されるような家が見えてきたんだけど。
そして、その前に綺麗に並び立つ5人の執事達。
まるで、歓迎されているかのような雰囲気だった。
実際、歓迎されてた。
何を言ってるかよくわからないって?
執事の人たちに執事室の中に案内されて、客間みたいなところでソファーにかけた私達。で、そのまま電話でもしたいところだったんだけど、リーダーっぽい人が言うには、今キルアがこっちに向かってるみたいらしい。
ああ、さっきのキキョウさんの弱発狂感は、やっぱりキルア関連だったか。でもまあキルアがこっち来てくれるなら願ったり叶ったり!しかもキキョウさんから正式に客人として全員迎えてもいいんだって。やったね!
「よかったねゴン!殴られ損しなくて」
「あはは………」
「お前って案外ひでー事言うんだな」
「ふふ………さて、ただ待つのも退屈で長く感じる物。ゲームでもして時間を潰しませんか?」
「ゲーム」
執事のリーダー、ゴトーさんって言うらしいんだけど、懐から取り出したのは、一枚の金色に輝くコイン。親指の上に乗せたコインをピンと弾き、落ちてくると同時に、両手を動かし、コインを掴み取った。
「コインはどちらの手に?」
今の速度だったら、だいたいの人でもわかる。最初だからゲーム説明も兼ねてのデモンストレーションっぽく、私を含めたゴン達は即答した。
「「「「左手」」」」
「ご名答。では、次はもっと早くいきますよ?」
ゴトーさんの実力的には、全然本気を出していない。けど、二回目はさっきよりも、少し早くなった。若干引っ掛かりやすい感じもしたけど、これに対してもゴンは即答した。
「また左手」
その言葉に、ゴトーさんは左手を開くと、金色に輝くコインが現れ、ゴトーさんはにっこりと笑った。そしてふと思い出したかのように、私の方を向く。
「ああそうだ、ヒノさんでしたね。奥様から伝言を預かっておりました。少々お一人で別室によろしいでしょうか?」
「あ、大丈夫ですよ。ちょっと行ってくるね」
「おう」
ゴトーさんが合図すると、後ろに控えていた別の執事の人が先導してくれる。ゴン達の方は、第三ゲームが始まったっぽい。ゴトーさんちょっと本気出してたね。あー、私もやりたかった!
で、執事さんに連れられてきた場所は………………電話だね、うん。
「おや、ヒノ様、髪を結われているそのリボン、少しほつれてますね?」
「え?あー、最近なんか物騒なことばっかり巻き込まれてたからかな」
具体的にはハンター試験とか密猟団とかハイジャックとか爆弾処理とか………濃い一か月だなぁ。
「良ければこちらで直しましょう。時間はあまり取らせませんので」
「あ、じゃあお願いします」
「かしこまりました。そちら今通話となっておりますので、どうぞ受話器を取ってお話ください」
そう言って恭しく、私のリボンを受け取って執事の一人は別室に行ってしまった。流石執事、裁縫スキルも完備とは、一応ゾルディックとはいえ、戦闘能力だけで人を決めてるわけじゃないのか。ちょっと意外だったよ。
さて、とりあえず電話を取り、そのまま耳に当ててみる。
「もしもし?ヒノですけど………」
『もしもし?すみませんねぇ、時間を取らせてしまいまして』
「それは良いんですけど、キキョウさんどうしたんですか?」
『いえね、少しヒノさんにお願いがありまして』
「お願い?」
キキョウさんがわざわざ私にお願いって、一体なんだろう?十中八九キルア関連な気はするけど、とりあえず聞いてみよう。
『たまにでいいんです。キルアの様子を教えてもらえたらと』
「………やっぱキルアの事心配ですか?」
『そりゃもう!心配ですとも!今が大事な時期ですからね!できる事なら家にいて欲しいです!でも、パパもキルも決めた事。なら、ここは見送ってあげるのも一つの手だと思いまして』
なんか普通にお母さんしてる感じだね。私はお母さんいた事無いけど、いたらこんな感じなのかな?ちょっと歪んだ感じに過保護過ぎる気がするけど。
「分かりました。ちょいちょい写真とか送りますよ。知ってるゾルディックの人に送っておけばいいですかね?」
『やりやすいようにしてもらえれば構いませんわ。後はキルに危険が無いように、くれぐれも注意してくださいね!後はお菓子の食べ過ぎに注意するように!それからあまり夜更かしはしないように!後は………』
「もう本当にただのお母さんですね!?大丈夫ですって。キルア(多分)しっかりしてますから!」
『そうでしたね。あそこまで冷たい目ができるなんて、将来が楽しみですわ!それではヒノさん、ごきげんよう』
そう言ってプツリと切れた後で、私は少しだけ、嵐のような人だなぁ、と思ってしまった。一応お母さんしてるんだ。まあお母さんだし。あれに加えて暗殺とは何か、みたいな教育がフルセットで付いてくると………キルア大変だね。
そして電話の終わったタイミングで、先ほどの執事の人がリボンを持ってきてくれた。
「お待たせしました。どうぞ、確かめてください」
そう言って見てみると………………すごい!完璧な仕上がり!そしてまるでクリーニングにだしたかのようで、まるで新品みたいな仕上がり。これをこの短時間に、ゾルディックの執事ぱねぇ。
お礼を言って部屋に戻ると、なんだか拍手喝さいの場所になってた。何事?
「あ、ヒノ!?無事だったんだね?」
「どうしたの?」
「いやさ、ゴトーさんがお前を人質にしたって言うからさ。お前のリボン見た時はそらびっくりしたもんだ」
「あー、そういうリボンの使い方してたんだ。ちょっとほつれてたから直してもらったんだ、いいでしょ」
「………お前は能天気だな」
なんかゲームを盛り上げる為に、人質と、負けたら徐々に退場ルール。全員負けたらあの世行き、みたいなやり取りしてたらしいよ。どうもゴンが最終的にコインゲームに勝って、実は演技でしたてへぺろ、みたいな種明かししてたみたい。
うん、実際は結構真剣だったのに軽く言ってなんかごめんね。
「ゴン!ヒノ!それにクラピカと………リオレオ!」
「レオリオ!」
久方ぶりに声を聴いたのは、ひねくれた銀髪少年、キルア。ゴンに負けず劣らずのボロボロフェイスだけど、なんか表情はすっきりした感じっぽい。
久方ぶりと言えば、ゴン達と最後に会話したのもキルアとそう変わらなかったね、そういえば。
「それじゃどうする?もう出かけるの?」
「ああ、ここじゃお袋がうるせーからな。ゴトー、お袋が何か言ってもぜってーついてくるなよ!」
「承知しました、いってらっしゃいませ」
恭しく、主に下げる頭はなんか少し違うって感じするね。
執事室を出ようとしたとき、ゴトーさんはゴンに声をかけた。そして、コインを弾いて両手で掴む。あ、今左手で掴んだ。
「さぁ、どっちでしょう」
「?左手でしょ」
ゴンのその言葉にすっと開くと、そこには何もなく、右手にコインが握られていた。ゴンの動体視力は野生動物も真っ青。私も見てたから間違えるなんてありえない。という事はつまり………
「そう、トリックです。世の中正しい事ばかりではありません。キルア様を、どうかよろしくお願い致します」
そう言って頭を下げるゴトーさんは、キルアの事が大切だと分かる、暖かい感情に包まれているように、私には見えた。
***
「うわぁ、おっきな………………門」
「ん?ヒノこっから来たんじゃねーのか?」
キルアがそう言うが、私は正門からは入っていない。裏門をゼノさんに開けて普通に入った。だから、ここは初めて見たよ!裏門の5倍くらいの大きさはあるんじゃないかなこれ!?
「私ゼノさんに裏門から入れてもらった。あと、イルミさんとキキョウさんとカルトに道案内も」
「お前俺んちでなんでそんな交友関係広げてんの!?当事者なのにびっくりだぜ!?」
「そりゃそうだろ。俺達もびっくりだからな」
うう、そんなに言わなくても。私だって最初は知っててこの家来たわけじゃないし。イルミさんに会ってからここキルアの家って知ったくらいだし。私が無知すぎるって事!?
「それより早く出ようよ。誰が開ける?」
「そっか。お前らここ突破………………ヒノ、裏門ってお前が開けたのか?」
「?違うよ。ゼノさんが開けてくれた」
「………(にやり)ヒノ、ここちょっと開けてくれよ。それで俺達通るまで持っててくれ」
「え!キルア、それはちょっと無理なんじゃ………」
それは別に構わないけど、なんでキルアそんなににやにやしてるの?この顔、なんか思い出すね。トンパさんから毒入りジュース貰ってそれを私に飲まないかと催促してた時の表情に。………結論、ちょっとガオーって感じだね。
「ま、いいけど。じゃ、開けるねー」
これでなんかキルアの目論見通りとかだったら尺なので、私は念を込めた腕を巨大な扉に押し当てて、一気に開いた。
ギィイゴオオオン!!
「「「い!?」」」
私が押し出すと同時に、念と筋力から生み出された力が伝播し、1の扉が開き、2の扉が開きそして………………3の扉が開いた。
そしてそのまま固定………っと!よし、じゃあ後は三人とも入れば………あれ?
「ちょっとぉ、三人とも入らないの?早くしないと閉めちゃうよ」
「あ………うん」
「ヒノ、お前って一体何者?」
「そのなりで俺と同じ扉開けるかよ普通」
「うーん、もうどう突っ込めばいいのかわからない」
三者三様ならぬ四者四様の表情で、ゴン達は扉をくぐって、外へと出るのであった。それに続き私も扉を離して外へと出る。
久しぶり、という程でも無いけど、5人全員で外へ出る事が出来た事に、一先ず私は、心の中でほっと、一息つくのだった。
腕力対決勝負!
一位:ヒノ
念を使用してるから所詮ズル。念が無ければキルアより低い。でも世間一般からしたら普通に怪力少女だった。
二位:キルア
試しの門は3まで開けられるぜ!握力16トン。自称溶接された鉄箱もねじ切るアイアンクラッシャーキルア。
三位:レオリオ
試しの門は2まで開けられる!腕力8トン!今ならゴンやクラピカよりも強いかもしれない!でもすぐに抜かされる事を、この時レオリオはまだ知らなかった。
四位:ゴン、クラピカ
現時点同着!どっちも試しの門1までいけるぜ!腕力4トン!
ここまでくれば後は押すだけで人間なんか簡単に吹っ飛ぶぜ!