といっても数話で次章に行くと思います。だから数話はジャポン編やってます!
第21話『天原日乃の帰郷』
周りから聞こえる波と波のぶつかる音。時折聞こえる樹の揺れる音。添え物のように鳥の声も聞こえる。心地よい自然の音に囲まれながら、私の乗った帆船は海を渡っていた。蒼海に囲まれて、辺り一面快晴の空から太陽の光が暖かく降り注ぐ。気温がまだ肌寒い季節だから、太陽の光はすごくちょうどいい。
これからの事を考えると、なんだかすごく嬉しくなっちゃう。
「ふふふふ~ん♪も~うす~ぐつっくかな~♪」
「お!嬢ちゃん楽しそうだな。一人でこれから観光かい?」
「ううん、家に帰るところ!だから、すっごく楽しみ!」
「そうかい、そういつは良かったな!」
そう言ってガハハと笑い、船員のおじさんは作業に戻る。私は甲板に立ち、青い海を眺めていた。
パドキア共和国から飛行船で2日、そして到着したミンボ共和国から、船を乗ってさらに3日。まあこの後また電車とか乗るけど………それでもハンター試験を受ける前に家を出たし、そのまま終わってもジェイの用事手伝ったりキルアの家に行ったりしたから、かれこれ1ヶ月以上は帰ってない。
なんか帰ってない、て言い方すると家出した子みたいに聞こえるけど、家出とかしてないからね?
「まもなく上陸だぁ!野郎ども!用意しろぉ!」
『おおぉお!!』
「賑やかだね~」
屈強な船員が乗る帆船。ちなみに乗ろうと思えばエンジン付きの普通の船もあったんだけど、なぜこのような若干時代遅れ感のある船に乗っているか?理由はもちろん………乗ってみたかったから!まあその分、通常の船なら2日の所が3日かかったわけだけど、それも旅の醍醐味だよ!
うっすらと見えた陸地がだんだんと鮮明に視界に現れ、私はようやく到着した。
私の故郷(仮)の、ジャポンに!!
***
で、特に今回は事件事もなかったから、普通に上陸して電車乗って歩いて走って、そして戻って来たよ!
山と森の近くの町中。でも一応駅とかもあるから田舎ってわけじゃないよ?こう山の前にある感じ。私の
駅を降りて商店街を歩くと、ふと懐かしい感覚。音とか匂いとか、よく通ったなぁ。
「やあ、日乃ちゃんじゃないか!久しぶりだねぇ」
「やっほー、魚屋の竹山さん。みてみて!これがハンター証!」
「へー、これが噂の。すげぇじゃないか。さすが九太刀のじいさんところで鍛えてるだけある」
「でしょー!」
「あら、日乃ちゃんじゃないの!おかえり。ほらこれ持っていって」
「あっ肉屋の雅さん!ただいま。メンチカツだ!!ありがと!」
ずっとジャポンのこの町で一番長く暮らしてたから、商店街の人達とは立派に顔なじみなのだ。
ちなみに〝日乃〟というのは私の名前。ここではヒノ=アマハラがジャポンなので天原日乃ってなってるの。これもシンリがつけてくれた和名なんだよ。
ざっと知り合いに挨拶をして、商店街を抜けたら少し山寄りに町から外れた所へ向かう。ちょっと坂を上っていけば、そこにあったのは、平屋の邸宅。シンリの趣味で建てたらしい、純和風建築の絵。一部以外ほぼ木で出てきてる中々に広い家だよ。瓦の屋根とか障子に襖と、今時珍しいタイプだよね、こういうの。もちろんだけど瓦とかは木じゃないからね?
ガラガラガラ。
「ただいまー!!」
引き戸の玄関を開けて私がそう言うと、廊下の奥からパタパタとした軽く小走りするような足音が聞こえる。木の床に対してスリッパで歩く音だねこれは。
そして廊下の奥から現れた人は、先ほどまで家事をしていたのか、色鮮やかなミントグリーンのエプロンを身に着けて、柔らかい笑みの少女。
「あら日乃、おかえりなさい」
「ただいま!!
久方ぶりに顔を見たけど、相変わらず翡翠姉さん綺麗だね。
腰程まである、長く艶やかな黒髪は、ジャポンで言うならまさに大和撫子って感じだね!今は作業中だからか、一つにまとめて肩から前に流してるけど。今は普通に洋服とエプロンだけど、これで和服でも着てみれば完璧としか言いようが無い気がするよ。
本名、
この家を管理しているシンリの友人の孫娘にあたり、私は昔からここに住んでいたのでもう姉も同然、というか姉だね!現在高校に通う17歳なんだよ。でもこの家私達がいないと基本二人暮らしだから、家事はほぼ翡翠姉さんがやってるんだけどね。多分今は夕飯作ってる途中だ!味噌汁の匂いもするし!
「久しぶりね。連絡くれたら迎えに行ったのに。ヒノって昔から何か巻き込まれやすいし」
「大丈夫だって。港までそこそこ距離あるし、そうそう変な事に巻き込まれないよ」
さりげなく、ほんの一週間前に密猟団との闘い、そしてハイジャックに巻き込まれたことを頭の片隅に追いやる。あれは巻き込まれたわけじゃない、ジェイの仕事の手伝いで起きた事件に当たるから仕事だよ仕事!ハンターのね。ハイジャックに関しては………まあこんな日もあるって事で。
「そういえばほんの一週間くらい前に事件に巻き込まれたらしいわね。確か洞窟で密猟者の人達に囲まれたとか」
「なんで知ってるの!」
「普通にジェイから連絡貰ったのよ」
そう言って携帯のメール画面を見せてくれる。そこにはわりとやり取りされたジェイのメールがあった。
ちなみに内容はと言えば、
[ちょっとヒノ連れて鉱石取りに行ってくる]
[密猟団遭遇!こいつはまいったぜ★]
[ようやく洞窟の外だ!おっと、密猟団に囲まれた!これは大ピンチ!]
[無事解決した]
「行動情報を全部把握している!ジェイ一体何やってるの!?ていうかいつの間にメール打ってたの!?」
「ヒノと会ったって連絡貰ったから、様子を逐一メールして貰ったけど………やっぱり何か巻き込まれてたのね」
ふぅ、と短くため息を吐く翡翠姉さんだけど、いやいや。あれ全部ジェイのせいだから。今回は私全く関係ないから!そして一瞬俯いたと思ったら、次の瞬間翡翠姉さんは、パンと両手を合わせて顔を上げた。
「まあ無事に戻って来たし良しとしましょ」
「軽い!?さっきまでの雰囲気が一瞬で消えたよ!」
「なんじゃ、騒がしいと思ったら、帰っておったのか、日乃」
一瞬、空気から声がしたと思ったら、隣の部屋の襖が開き、第三者がいつの間にかいた。気配を完全に絶ったのはデフォルトだけど、私は割と慣れているから別段吃驚はしなかったね。
着流しに、長い白髪を流す老人は、実年齢が70を超えているとは思えない程に真っすぐに立ち、そこにいるだけで不思議と刺すような威圧感を一瞬感じた。この感じも………すごく懐かしい。
「
「お帰り。長旅じゃったな」
翡翠姉さんの祖父、
「日乃、久方ぶりじゃ。どれ、こっち来て話を聞かせてくれ。饅頭もあるぞ。ついでにハンター証とやらも見せてくれ」
にかっと笑い、居間に入りチョイチョイと手招きをする。ハンター証って、まだ合格も言ってないのに、じいちゃんたら。それだけ、実力的に信頼してくれてたって事かな。
「おじいちゃん、話は後よ。日乃は長旅だったんだから、先にお風呂に入っちゃいなさい。後洗濯物とかあったら出しといてね」
「はーい」
ちなみにこの家の風呂は割と広めの檜風呂。やっぱり風呂は広い方が気持ちいいよね。ハンター試験中はよくてシャワーだけしか浴びれなかったし。飛行船の中とかね。私はジャポン暮らしが長いから、ホテルの個室みたいな風呂よりかはのびのびした大浴場派。できれば源泉かけ流しの温泉とかだったら最高だね!
というわけで、お風呂に行ってきます!
***
ふぅ、さっぱりした~。やっぱり広いお風呂はいいね、最高!あと檜の匂いがすごくいい!
風呂から上がったら、ちょうど翡翠姉さんが夕食を作り終えていた。今日の献立は、白米に、焼き魚、そして味噌汁に冷奴、後ひじき。おお、まさに和食って感じだね。というか和食だ!
う~ん、やっぱり翡翠姉さんの料理はおいしい。流石師匠。あ、私の料理技術はほぼ翡翠姉さん直伝なんだよ?翡翠姉さんは
「ほぉ、ハンター試験とはそんな感じか。そいつは、なかなか面倒そうじゃったな」
「じいちゃんはハンター試験とか受けた事無いの?」
「あるわけないじゃろ。別段、無くても生活に困るわけじゃないしな」
まあそれもそうだね。必要な人は必要だけど、無くても問題無い。だからプロハンターの他にハンター証を持たない自称ハンター、アマチュアハンターとかたくさんいるんだし。でもあったらあったで便利だけどね。
「さて、日乃。お主明日からどうするのじゃ?」
「ずずず………ぷはぁ(お茶をすすってます)。そうだね~。久しぶりに帰ってきたし。何しようかな」
「ふむ、久々に帰ってきたことじゃし、明日はわしと稽古でもどうじゃ?」
「いいよー!!ふふふ、ハンター試験その他で経験値稼いできたから、見せてあげるよ!」
「いい度胸じゃの」
「じゃあ今日はもう寝ましょうか、二人共」
「うむ」
「はーい」
ふかふかなベットも好きだけど、布団には布団の良さがあるよね。干したての太陽の香りのする布団に包まれて、私は長旅の疲れをいやすのであった。明日の予定は、とりあえず稽古!
***
翌朝、現在私は九太刀邸(実際はシンリの家だけど、もはや九太刀家所有だね)に隣接する道場の中で立っていた。正面には緑陽じいちゃん。道着を着て、稽古として組手をするところだ。
「かかってきなさい」
「それじゃあ………行くよ!」
木の床を踏みしめて、ダッシュで近づき、じいちゃんの顔に右ストレート!けどじいちゃんはあっさりと躱し、そのまま私の右手を掴み、一本背負いの要領で投げ飛ばされた。気づいたら投げられたかのように柔らかく、動作がスムーズ過ぎるじいちゃんの柔術。そのまま投げ飛ばされた私の眼前に、道場の壁が迫った。
「なんのっ!」
くるりと空中で反転し、猫のように壁に足をついて、そのまま蹴りだし再びじいちゃんの方へと向かう。そして薙ぎ払うような横蹴りを入れるけど、じいちゃんはしゃがみ込んで普通に避ける。
「ここ!」
割と器用に、蹴った態勢から遠心力でくるりとそのまま体をひねり、かかと落としをするようにしゃがみ込んだじいちゃんに向かって足を振り下ろす。
「なんの、甘い!」
ガシイ!!
すぐさま反応し、じいちゃんは両手をクロスさせ頭の上で受け止めた。
「まだまだじゃ!」
さらにそこから、じいちゃんは私の足を掴み、力と遠心力を利用してぐるりと振り回したと同時に、手を放して再び壁に向かって投げ飛ばした。けど、そのまま激突なんてしない。くるくると回り、威力を減衰させて床に着地する。が、その瞬間目の前にじいちゃんが来ていた。
「威力を殺すのは良いが、今のやり方じゃ視界が狭まるので注意じゃな」
掌底を作り出し、じいちゃんの攻撃は私に向かうが、私は体をのけぞらせ、さらに床を蹴り、バク転の要領でじいちゃんの掌底を躱し、一度床に手をついて再び床の上に立った。滑るように移動してきたじいちゃんは、気を抜いたら動きが読めなくなる。
一撃を躱されたけど、じいちゃんは少し驚き楽しそうににやりと笑った。
「ふむ。前よりは成長しておるのう。だがまだまだじゃよ」
「そう簡単にやられないからね!」
互いに攻撃をし、躱し、じいちゃんに投げられ、そしてさらに攻撃を行う。今の状態は、互いに【絶】の状態を維持しての組手。互いに同じ状態であるならば、念による差異は関係なく、巣の身体能力の戦い。武術において、鍛えるべきは念でなく、個人の持つ身体能力。健全なる精神は、健全なる肉体に宿る。じいちゃんが良く言ってる、九太刀流の教えの一つだ。といっても、九太刀流の柔術はおまけみたいな物なんだけど。
そしてしばらく組手をしていると、道場の扉が開いて、翡翠姉さんが顔を見せた。
「二人とも~。朝食ができたわよ~」
「うん。わかった!」
「了解じゃ」
とりあえず朝ご飯なので、朝の稽古はここまで!お風呂に入って汗を流してこよっと。
で、朝食の席で、私は朝ご飯の納豆を箸でかき混ぜていた。納豆美味しいよね。ジャポン以外の人だと割と苦手な人もいるらしいけど、私は美味しいと思うよ。あ、言っておくけど朝食は納豆オンリーじゃないからね?ちゃんと白米とか目玉焼きとかあるからね。
美味しく頂いて一服。ずずず………ふー。うまい!
「じゃあいってきまーす」
「いってらっしゃい」
「気をつけてのう」
翡翠姉さんは現在高校生だから朝は普通に高校に通っているの。ちなみに私は13歳だけど中学には通ってないよ。シンリは通っても通わなくてもどっちでもいいって言ってたけど、実際行ったほうがいいのかな?ハンター証があればいろいろ問題ないと思うけど。いや、ハンター証も別に子供に対してそこまで万能じゃないのかな?
ちなみに勉強は今までいろんな人に教わったからそこそこ大丈夫だ!!試した事無いから分からないけど、多分大丈夫!頭は悪く無いと思う。
「さて、翡翠姉さんも夕方に帰ってくるし、私はどうしてよっかな」
「ずずず(お茶を飲んでる)。そうじゃのう………出稽古にでも行くか。日乃、お前も来るか?」
「出稽古か?よし!行こう。午前中は出稽古だ!で、どこに稽古しに行くの?」
「うむ、近場にある知り合いの道場………心源流道場じゃ」
私は聞いた事無いけど、じいちゃんの知り合いって事は結構強い人がいるところかな?
そんなわけで、私は出稽古の準備をして、じいちゃんと一緒に家を出るのであった。とりあえず、翡翠姉さんが帰ってくる前には戻ってこよう!
ちなみに現在、朝の午前8時頃なり。
ヒノ=アマハラ → 天原 日乃
ヒノ「和名になったらもちろん漢字が付くよ。だとしたらキルアだったら『斬亜』とかかな。ゴンだったら………『言』?名前としてはなんか変だね。あ、ゴンの名前じゃなくて漢字一字の方がね」
ゴン「じゃあクラピカだったら『
ヒノ「なんかすごい不良みたいだね。ていうか漢字がすごい」
キルア「じゃあレオリオだったら『
レオリオ「なんだと!?」
クラピカ「そもそも現実的に漢字4文字を使った当て字のような名前などそうそう無い」
ヒノ「だよね~」