消す黄金の太陽、奪う白銀の月   作:DOS

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前編と後編に分けようと思ったら思ったより増えちゃいました。
なので中編を、投稿させていただきました。
次回で忍者の話も本当に終わります。


第24話『ヒノと旧友と忍の軍団・中編』

 

 

 

「ぬっはっは!そうか!緑陽のじじいはまだ生きてるかぁ!相変わらずしぶといのー!」

 

 豪快に笑う熊元さんの笑い声が響き、夜の山の中に明かりが灯る。いつも一人で食べている食卓が、今日は9人と大所帯で、がいがいわやわやと、楽し気に食事風景を作り出していた。

 

「あ、ハンゾー、これも並べて―」

「あいよ」

「次はこちらの料理もお願いしますね、ハンゾーさん」

「分っかりました!」

 

 ハンゾー、私と翡翠姉さんで態度違くない?まあ別にいいんだけどー。

 今日はせっかく来た事もあり、私と翡翠姉さんが料理を担当した。このメンバーの中の料理の腕だと断トツだからね!全く男衆ときたら。いや、別に皆が料理待ったく出来ないってわけじゃないけどね。ハンゾー達と熊元さんは分からないけど、ジェイの料理は割と美味しいし。

 

「ぬっはっは!今宵は賑やかじゃ!やはり猪なら鍋じゃの!」

「せっかく熊元さんが猪を採ってきてくれたのだから、ここは牡丹鍋かと思いましてね」

 

 う~ん、流石翡翠姉さん。完璧な調理だ!

 と、食事風景はとりあえず終了!私達は一先ず、囲炉裏をぐるりと囲んで、お茶と茶菓子代わりに、持ってきたオバケイチゴを切り分けて食べていた。

 

「ぬ?流石はオバケイチゴ。こりゃぁ、うまい!」

 

 大きさが大きさだから、切り分けてもスイカに見える不思議苺。けど熊元さんの言う通り、マジでうまい!この甘さ!酸味!確かに苺だけど、普通の苺とはまた違った味わいがいいよね。あと齧り付ける程ってのがすごい。苺を齧り付くって普通はできないしね。

 

「ずずず(お茶をすすってる)さてと、それで半蔵。お主ら何かわしに用かのう?」

「ずずず(お茶をすすってる)ふー。実は熊元さん、カクレブドウの収穫時期が来たのでお誘いしようかと」

「ぬぬ!そろそろそんな時期か。あれはうまいんじゃよ」

「なんだ、ハンゾーの用事も私たち変わらないじゃないの」

「何言ってんだお前は。カクレブドウってのはそう簡単に取れるもんじゃないんだぞ」

 

 ハンゾー曰く、私達が持ってきたオバケイチゴを含め、カクレブドウ、ボウハツヨウナシの三種類は、ジャポンでも一部の人間の間でしか知られていない隠れ珍味。この場合の珍しいとは、物として珍しい果物という事で、味はすごく美味しいらしい。場所は良く知らないけど、じいちゃん曰く《あの森》に生えているらしい。

 

「ー――ということだ。わかったか!!」

「なるほど。じいちゃんもその《あの森》でオバケイチゴを手に入れたのか。で、そのカクレブドウってどんな葡萄なの?」

「結構やっかいな奴でな。あいつらのトラップは中々手ごわいからな。忍の本部も本腰入れなきゃ足元すくわれかねないやつらだ」

「………葡萄の話だよね?」

「ああ。カクレブドウってのはその名の通り隠れるぶどう。実は《あの森》から種をとってきて忍の本部の一部で栽培していてな。環境のせいなのか中々成長しなくて。それで二年前にも収穫期が来てな。オレ達は楽しみに収穫に勤しんだ。しかし、ここで問題が起こった」

「問題?」

「そう、カクレブドウは自分で動いて隠れたり罠を張ったりする。あの時は大変だったなぁ………」

 

 ハンゾーが遠い目をしながら語る。実際大変だったみたいでいつもよりハンゾーの口数が少ない。まさか果物がそんなことになるとは、さすが珍味。確かに珍しいっちゃ珍しい。

 

「じゃがあれはうまいんじゃよ。オバケイチゴよろしく、普通の葡萄と比べ物にならんほどうまいんじゃ」

「あ、そういえば熊元さん。おじいちゃんに渡されたオバケイチゴは20個程台所に置いてありますので」

「お、すまんのー」

「ええ!?翡翠さんそれどうやって持って来たんですか!?」

 

 ハンゾーとその部下達は驚いているけど、まあ私とジェイはそんなに驚く事でも無いかな。それより他の珍味、そのうちじいちゃんに頼んで採ってきてもらおうかな。もしくは例の《あの森》とやらの場所を教えてもらうか。どちらかと言えば葡萄より梨の方が私は好きだけど。

 

「さてと、もう暗い。お主ら全員泊まっていくといい。部屋なら空いてるしの」

「そりゃ助かります!」

「そっちの娘二人は奥の部屋を使うといい。風呂も沸かしたから好きに入ってくれ」

「ありがとうございます」

 

 太陽は沈み、夕暮れが森を染め、満月が昇りつつ、夜の帳が世界を包み込んでいく。

 夜は更けて行くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 一人、黒い影が駆け抜けた。

 

 

 完璧に気配を絶ち、夜の闇に溶け込む様は一般の常識から逸脱し、己の存在その物を消し去ったかのような対捌き。草木がわずかに生えた庭を駆けるも、静寂だけがその場を包み、一片の揺らぎも無い。

 

 

(目的地は――――この先!)

 

 

 黒い影、陰から陰へと進み、決して誰にも悟られず、決して騒がれず、任務を遂行する。

 

 

 これは己が幼少より鍛えし技術の賜物。

 

 

 地獄のような訓練を潜り抜け、同世代においてもトップクラスの実力を有する男の自信から生まれてくる、絶対的な力。

 

 

 わずかな月明りにも触れず、空気を突き抜け先へと進む。

 

 その先に、己が欲する物が―――、

 

 

「そんな所で、なーにしてるの?ハンゾー」

「げっ!ヒノ!?」

 

 黒い影、ハンゾーが驚いた表情で、屋根の上に座ってる私の登場にびくりと体を硬直させた。

 

「庭で何してるの?あ、この先曲がって真っすぐ行けばお風呂か。ハンゾー、まさかと思うけど………」

「ななななな何を言ってるんだ!?俺は別に風呂を覗こうとか欠片も思ってねぇぞ!ただちーっと修行しに来ただけだ!ホントだぜ!?」

「語るに落ちてるね~」

 

 まあ翡翠姉さん今頃風呂から出てると思うけど。

 

 ちなみにハンゾーの部下4人はあてがわれた部屋でUNOしてた。

 

 屋根の上から下を見てみると、ハンゾーが顔に冷や汗を垂らしながらわざとらしく「いっち、に、いっち、に」と屈伸運動を始めてる。わざとらしぃ~。

 

「修行?まことに結構じゃ!!なら、わしが見て進ぜよう!ぬっはー!!」

 

 ドスゥン!!

 

 屋根の上に座っていた私の、さらに背後の屋根の高い所に、満月をバックに無駄にカッコいい登場シーンと共に跳び上がり、ハンゾーのすぐそばの地面に降りった人影は、強烈な威圧感を振りまいて立ちはだかった。

 

「げっ、熊元さん!」

「半蔵、温い、実に温すぎる!その程度の修行で一人前の忍びになれるものか!」

「いやぁ、これはその………」

 

 まあ元々修行するつもりなかったみたいだしね。ていうか熊元さん強烈。本当に熊がいるみたいに見える。めっさでかい。ちょっと肩の上とか乗ってみたいな。

 

「それより半蔵!【纏】がまだ甘いの。ほれ、自然体でもやってみせぬか」

「ぬぇ!熊元さんなぜそれを………」

「あほか。念を覚えて何十年たっていると思っている。そもそもお前の上司から少し稽古をつけてくれと言われておるしの」

「げげっ!マジ!?」

「ハンゾー、いつの間に念覚えてたんだ」

 

 屋根から飛び降りて、ハンゾーと熊元さんのそばに降り立つ。そして見てみれば、確かに少し乱れ気味だけど、ハンゾーは自分から漏れ出す念を肉体に留め、【纏】を行っていた。

 ハンター試験が終了しておよそ1月少々しか経ってないけど、もう念を覚えたんだ。といっても、覚え始め、見たいだけど。

 

「ほれみてみ、こっちは綺麗な【纏】を常にしておる。まだ意識しないと保てないとは、まだまだじゃな」

「ヒノ!?お前念をもう使えるのか!?まだハンター試験終わってそんな時間たってないぜ!?」

「いや、私ハンター試験の時から使えてたし」

「何ぃ?うっ、無駄に綺麗な【纏】しやがって」

「無駄とか言われた………熊元さーん、私ちょっと半蔵で組手とかしたいでーす。特に【流】とか使った感じの」

「うむ、許可しよう」

「ちょっ!待て!専門用語を使うな!それ絶対俺が不利だろ!」

 

 なるほど、まだハンゾーは四大行を覚えている途中と。

 

「ふぅー………【纏】!」

 

 ハンゾーは深く息を吸って吐き出し、慌てた精神を一気に統一した。両手を組んで〝印〟をするのは忍びらしいね。そのままで瞳を閉じ、体を纏う念のをゆっくりと留め、半蔵は【纏】をこなした。流石、ハンター協会の審査でもハンターの素質抜群と言われただけはある。覚えて一ヶ月とは思えないねぇ。

 

「ふむ、上出来じゃ」

「おぉ、ハンゾーもやるもんだー。あと何ができるの?【練】とか【絶】とかは?」

「【練】はまだ練習中、だが【絶】は完璧だぜっ!」ドヤッ

 

 今この場で言われすごくも何ともないよ。その【絶】で何するつもりだったのかなぁ?

 しらっとした私の視線に気づいたのか、ハンゾーは再び瞳を伏せて【纏】の修行を始める。そんな様子を見ていた私だけど、隣の熊元さんが動いた。

 

「熊元さん、どこ行くの?」

「ん?酒でも飲もうかと思っての。残念じゃがこの場に酒を酌み交わせる者がおらんでの」

 

 ジャポンの飲酒年齢は20歳以上。確かにこの場に20歳以上の人間はいない。ハンゾーの部下達もハンゾーと同年代らしいし。となると熊元さん除けば一番年上は19歳のジェイかな。

 

「というわけで、ちと半蔵を見ててくれ」

「はーい」

 

 そう言って熊元さんはひらひらと手を振り、ずんずん足音を響かせて歩いて行った。

 

 後に残ったのは、私とハンゾーのみ。

 

「はーい、じゃあとりあえず【纏】、【絶】、【纏】、【絶】、【纏】、【絶】そこからのぉ………はい【練】!」

「いや出来ねぇよ!?あとテンポが速い!そんなに言うなら手本みせてみろ!」

 

 しょうがない。まずは【纏】………はいつも普通にやっているから、切り替えるというよりかは常時やっている【纏】に【絶】を挟んでいく感じで、【纏】【絶】【纏】【絶】【纏】【絶】【纏】と、とりあえずリズムよくやって、その後【絶】をして念を絶った後、体内から練り上げるようにして全身の精孔を開き、念を放出!【練】

 それを一分程持続して、普通の【纏】に戻す、と。

 

「よし、終了………って、どうしたのハンゾー?なんか呆けてるよ?」

「………いや、素直に感心してるんだけど、マジかお前?」

 

 それ程驚く事かな?まあハンゾーは念を覚えて日が浅いから当然と言えば当然なのか。でも修行したらハンゾーもすぐにできるようになると思うよ?普通は【纏】するのだってすごい時間かかるって、聞いた事あるし。

 

(正直舐めてた。3次試験で俺から逃げ切っただけの事はある。いや、念が十全に使えていたなら、やろうと思えばその時だって、俺を仕留めてナンバープレートだって奪う事ができたはずだ………)

 

 そう考えた時、ハンゾーはわずかに冷や汗をかいた。まだ念を覚えて間もないが、念を覚えたからこそわかる。目の前にいる人物の力が、そんじょそこらの雑兵など比べる程でも無い力を有している事を。

 

「どうしたのハンゾー?」

「いや………そういやお前の他に、ハンター試験で念を使えた奴とかいるのか?例えばキルアとかヒソカとか」

「おお、中々鋭いね。キルアは違うけどヒソカ、後イルミさんも使えたよ。それ以外だと受験者じゃないけど試験官のハンターも使えるし」

「うぉ、マジか。くー、世の中強い奴が多いんだよなぁ」

 

 ハンゾーに聞いたところ、所属している雲隠れの忍び本部にも、念の使い手が複数いるらしい。確かに、富裕層や権力者などは自分が使えなくても念の存在を知っており、その使い手をボディーガードにしたり雇ったりとしている。ハンターでは無くても念が使える者は意外と多い。それでも、世界の人口と比べたら数パーセント程だろうけど。

 

 そこそこの組織があれば、構成員のほとんどが念の存在を知らないかもしれないが、上層部の実力者になってくると念の使い手が増える、というパターンも割とあるらしい。

 

「いやぁ、今まで先輩達が炎出したり水出したりしてたけど、あれ全部念能力使ってたんだなぁ!なんか夢が湧いてくる感じだよな!これで俺も自分の忍術っつーのができるわけだ」

「ねぇねぇ、その先輩で巨大なカエル出す人とかいないの?」

「ああ、そういえばそう言う人もいたな。あれも念の力なのか?いや、さすがにそれは」

「それ多分念だよ。念獣って言う念能力の一種だと思うよ」

「マジか!」

 

 念獣は文字通り、念で作り出された獣。この場合獣とは限らないけど、念能力によって生み出された生物って事で念獣だね。まさか、夢にまで見た蝦蟇使いの忍者が実在するとは!是非会ってみたい!絶対に名前は自〇也だよね!

 

「あ、ハンゾー【纏】が崩れてる」

「何!?………ふぅ」

 

 再び深呼吸をし、ハンゾーは自身の周りを取り巻く念に集中する。そして両手を静かに組、いわゆる〝印〟を結んだ状態に持っていく。それしなきゃダメなのかな?いや、やりやすいなら何でもいいんだけど。結果的にいい感じだし。

 この調子なら、そう遠くないうちに臨戦態勢に入りながら自然に【纏】もできそうだね。後【練】も。

 

 さて、それじゃ私はどうしようか。もうちょっとしたら熊元さんも戻ってくると思うけどそれまで………。

 

 なんとなく、なんとなくだけど、私は近くにあった池に視線が吸い寄せられた。何もない。ちょっと大きく真ん中に弧を描くような橋が架かっている、まあ取り立てて特筆すべきことは無い池。平坦な波が夜風に僅かに揺れている、ただそれだけ。

 

 ………………その波が()()()()()()時、私はハンゾーの前に動いていた。

 

「てぃ!」

 

 念を纏う手刀を振るった時、何かを弾いた。何か、と表現したのは、感触が金属でもプラスチックでも無い妙な感触だったから。しいて言うなら、スーパーボールっぽかったかな?

 

「ヒノ!?」

「ハンゾー、【纏】のままで戦える?ていうか動ける?」

「ん、ああ。一応多少なら。それより………敵か?」

 

 すっと目を細めて、ハンゾーの瞳に映っていた色が冷徹に染まっていく。流石本職の忍びなだけある。一瞬で状況を判断し、頭の中を冷静に思考させたみたい。基本的に普段はおしゃべりで軽いけど、ここら辺は仕事人って感じがするよね、ハンゾーって。

 

「あの池、誰かいるよ。ていうかもう出てくるっぽい」

 

 ザパアァ!

 

 出てくる!と思った瞬間、池の水が持ち上がり、何かが出てきた。ぽたぽたと水滴を滴らせながら現れたのは、全身黒ずくめ、ハンゾー達もそうだけど、目以外を隠した黒い装束にあちこち防具で身を包んだ、多分男。口元にはシュノーケルのような機械、ていうか多分あれガスマスクかシュノーケルっぽい、を備えた、言うならば別の里の忍び、って感じかな?

 

 てことは、これってハンゾー関連のトラブル?もしくは熊元さん関連のどっちか。ていうか忍び関連。………ジェイ関連とは思いたくないね。

 

 私?いやいや、私と翡翠姉さんに関しては多分無いよ。忍びとの関りだって、ハンゾーが初めてなんだし。

 

「忍び!?ヒノ、気を付けろ」

「気を付けるのはハンゾーだよ。だってあの人、念の使い手だよ」

 

 それも、現時点のハンゾーよりも上の。最低でも四大行を修め、【発】の段階に入ってるくらいの。

 

「ああ、それくらい分かってる。だから先手を………もらう!」

 

 最後の言葉を残して、ハンゾーはその場を消え、一瞬で相手の忍びの背後へと回った。 その目は冷徹に、右手の袖口に仕込んだ仕込み刃を出させ、振りかぶる。

 

「何!?早い!」

 

 ハンゾーのスピードに相手も驚いたのか、しかしそのままやられずに、その場でしゃがみ込み、両手両足を水の中に浸けながらも、首を狙って放たれた刃の一撃をうまく躱した。相手の忍びも、そう簡単にはやられてくれないらしい。

 

 けどあそこは水の中。あそこから動こうと思えば、ハンゾーの方が有利。

 

 の、はずだった。

 

「!!ハンゾー!下がって!」

「何!?」

 

 私の呼び声に咄嗟に、頭で判断するよりも前に、ハンゾーはチャンスと思った攻撃を中断して、その場から背後へと飛び出した。瞬間、爆発するように忍びの下の池から、幾重にも水の弾が空へと向かって跳びだしていった。

 

 あのままハンゾーがあそこにいれば、今の攻撃をもろに喰らっていた。

 

 背後へと飛び出したハンゾーはすぐさま反転して動き出し、すぐに私の隣に戻って来た。

 

「今のも念能力の一種か。よく分かったな」

「【練】ができれば【凝】をして相手の念の動きが見えるけど、ハンゾーはまだできないんだったよね。じゃ、相手の能力少し考察した分だけでも教えるよ」

 

 相手の忍びは、四つん這いのまま獣の様に水に手足を入れて立ち、警戒してこちらを見ていた。

 

「相手はおそらく放出系。簡単に言えば念を弾丸みたいに飛ばしたりするのが得意なタイプ。あれは、多分水を念と一緒に飛ばして攻撃する感じだと思うよ。だから水場から攻撃しかしてないんだと思うし」

「なるほど、つまり池から引きずり出せば攻撃手段が無くなるわけだ」

「そうとも限らない。あくまで推察だし、触れた物なら何でもいいかもしれないし」

 

 多分私が最初に落としたのは、水で作った手裏剣。それっぽい形してたし。水に形を与えて念を纏わせ、それで攻撃、って感じかな?放出系なら、念を直接変化させるのが苦手な人が多いから、何か皮、というか形になる物を使う人もいるしね。

 

 とりあえず、相手が水場からしか攻撃できないってルールは決めつけ無い方がいいかもしれない。念での戦いは、何が起こるか分からないのが常だから。まあ分かりやすい能力使ってたらその限りでも無いけど。単純強化の強化系とか。

 これであの忍びの人がまた池から動かないで攻撃してきたらアタリかな?

 

 相手の忍びは態勢をかがめたまま、両手をパンと合わせて組み合わせた。いわゆる〝印〟を結んだ状態という奴らしいけど、忍びってあの態勢の方が念を使いやすいのかな?さらにいくつも複雑な印を結んだと同時に、両手を池に浸けた。

 

「水遁・泡漣波(あぶくれんぱ)!!」

 

 もしかして忍び特有のあの〝印〟を結ぶのって、念能力の制約の一種だったりするのかな?だとしたら………忍びぱねぇ~。

 

 池から大量に飛び出した水の球が、文字通り弾丸の如く私とハンゾーを襲った。

 すぐさまその場を動くと、塀に当たった水がガンガンと砕けていく。一発一発は拳銃より少し弱い程度、だけど数が多い。後多分だけど念が切れるまであれ大量に発射できるような能力だと思う。無論水が無くなってもだめだと思うけど、池の水はそう簡単には無くならない。

 

「ハンゾー、あの人知り合い?なんで攻撃してくるのさ」

「知らん!多分知らない!でも敵かもしれない!正直分からん!」

「えー………すいませーん、どちら様ですかー、もしくは誰狙いですかー」

「なあヒノ、それで俺狙いだったら喜んで差し出したりしないよな?」

「ん~、どうしよっかな」

「考えるなよ!?」

 

 その時、先ほどまで塀を砕いていた水の球が止んだ。池の方を見てみれば、池にそのまま一人、そして橋の上に、もう一人いつの間にか現れていた。同じ装束に身を包んだ、多分仲間。それに、こっちも念が使える。

 

「手こずりそうか?」

「ああ、少々な」

「ふむ、そうか」

 

 そう言って、橋の上に新たに表れた忍びは構えて私とハンゾーに視線を固定する。

 問答無用、ていうか私ももう攻撃対象に入っていると、なるほど。

 

「それじゃあハンゾー、一人一撃で行こうか」

「一撃?」

「一人撃退!の略」

「ちょっと前、あいつ等どっちも念使いなんだろ!?」

「ま、大丈夫。念の練度が高い物が、絶対に勝てるわけじゃないしさ」

 

 実際極端な話、念は使えるひ弱な人間が、念の使えない屈強な肉体を持つ人間に負ける、なんてこともある。これは本当に極端に、非念能力者が念能力者に勝つ例。まあその能力の内容にもよるけど。

 

 それに相手が念でガードしてようとも、練度によっては攻撃を当てる事はそう難しくない。ウヴォーみたいな純粋強化系の熟練度ハイレベルクラスだと刀すらも弾くけど、そじゃないのなら、普通に刃だって刺さる。ダメージだって受ける。

 

 それに、一応ハンゾーだって【纏】は使えるし、素の身体能力はキルアに負けるとも劣らない。

 

「てことで、行こうかハンゾー」

「しゃーねぇ。相手の念能力に関しては、サポート頼むぜ」

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 ギイイィイン!

 

 暗い中で、一瞬の火花が散った。立て続けに、2度3度と再び火花が散る。

 4度目の火花が散ったと同時に、ぶつかり合った影は互いに飛びのき、距離を取った。

 

「某の刃をそんな物で受けるとは、やはり只者では無いな」

「ま、ちょっとコツがあってな」

 

 月光をギラリと載せる刀を構えた影、ハンゾーの部下達とは別の黒装束の忍びは、逆手に持った刃を再び相手に向ける。

 

 相対した相手は飄々とした笑みを浮かべ、手に持った〝瓦〟を弄ぶようにぽんぽんと手の上で転がす。

 

 ここは屋根の上、ヒノ達がいる庭側とは反対側の屋根。

 先程の攻防は、忍びの刃をジェイが、足元にあった瓦を引き抜き、それで防御したという。扱いずらい、というか武器でも何でもない瓦を使っての防御。

 

 相手の忍びも、目の前の人物が只者で無いことをすぐに感じ取った。

 互いに、念を身に纏い次の一手を模索する。

 

「こんなところで忍びの一行とは、偶然にしては出来過ぎる。ここで仕留めて話を聞かせてもらおうか」

 

 相も変わらず、刀でも無いのに瓦を構えるジェイの姿は、妙に様になっている。この人物が例えどんなものを持とうとも、それだけで弱体化する程に柔い相手じゃない事を、忍びも感じていた。

 故に、僅かに笑みを浮かべて情報を漏らした。

 

「今現状、この屋敷には某を含めて4人の手練れが来ている。おそらく貴様一番の使い手とみた!ならば、この場で貴様を足止めさえしておけば、後はお釣りがくる」

「何?」

 

 その言葉が正しければ、あと3人屋敷に入り込んでいる。それも念を使える忍びが。

 

(さて、どうするかな………熊元さんはともかく、ヒノとハンゾー、それにヒスイが心配だな………あとハンゾーの部下)

 

 若干忘れていた部下達の存在を思い出しつつ、他の面々を頭の中に浮かべる。しかし、目の前の相手は、背を向ければ全力で向かってくるだろう。

 

 ゆっくりと息を吐きながらも、ジェイは再び構え、月明りに照らされた、黒く染まった忍びを見つめ、僅かに目を細めるのだった。

 

 

 

 

 




いくつか印をする事を制約にした念能力ってあったら面白いと思いました。
それこそずばり忍術!

あとハンゾーが念を覚えた時期はざっくりしか分からないので捏造しました。
師匠はおそらく上司の忍者の誰かです。

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