消す黄金の太陽、奪う白銀の月   作:DOS

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ジャポン編もそろそろ佳境、あと少しで次の章に行こうかと思います。


第25話『ヒノと旧友と忍の軍団・後編』

 

 

 

「ふっ」

 

 短い息を吐くと同時に、闇夜に溶け込む様な衣装、黒い忍び装束に身を包んだ男は音も無く足元の瓦を踏みしめ、屋根の上を疾走した。念で強化された足捌き。まっすぐに、同じく瓦の上に立つジェイの腕や肩めがけて刃が振り下ろされる。

 

 ギイィイン!ギィン!

 

(某の刃に反応するとは、やはりできる!しかも、瓦で受けるとは………)

 

 相手の獲物に対しては、その場にあった物を使用したのだから何も言えない。今言える事は、急ごしらえの、武器でも何でもない重さもある持ちにくい瓦を使って、迫る刃を的確に防いでいるという事実。生半可な攻撃では、一太刀入れる事すらままならない。

 

「ならば、某も本気で行くまで!」

 

 すらりと、腰から2本目の刀を抜き、両方とも逆手に構える。さらには、淀み無く念を刀に纏わせる。この動きを、幾度となく修練した証拠。応用技術の【周】。だが、応用技術に必要な念と集中力は凄まじい。故に、黒装束の忍びは、ぶつかる瞬間のみに絞る。

 

「へぇ、綺麗な【周】だ。流石に、(これ)じゃきついか?」

「参る!」

 

 走り出し、疾走!月明りに煌く2本の刃が、まるで流星の如くジェイに攻まる。

 

 ギギィン!!

 

「なっ!」

「簡単な話だ。同じくこっちも、【周】をすればいい話だ」

 

 笑うジェイの手に握られている瓦。忍びは念を瞳に宿し【凝】をしてみれば、瓦には先ほどまで纏われていなかった念が、【周】が施されていた。それにより、攻撃を完璧に受け切った。

 ………だが、

 

 ピシィ!バキン!

 

「うぉっと、流石に無理があったか………」

 

 手の中で罅が入り、音を立てながら割れた瓦の残骸を手にしながら、ジェイは頬をぽりぽりとかく。今は【周】をしたとはいえ、先ほどまでただの瓦で相手の刃を全て受けていた。むしろ今までよく普通に受けていたと感心する程。驚くべきジェイの技量と、驚くべき瓦の耐久度!

 

 だが、今ジェイの手から武器が無くなった。その好機を、忍びは見逃さなかった。

 

(相手の実力は某より上、しかしこの勝機、もらった!)

 

 元々相手の実力を測るだけの力はあった。だからこそ、ジェイと対峙した瞬間、忍びは己の役割を足止めに徹する事を決めた。今の今まで攻撃と逃走の繰り返しであるヒットアンドアウェイの戦法にしたのも、その為。屋根の上で罠を張るのも難しいというのもあったが。

 

「喰らえ!月光双斬(げっこうそうざん)!!」

 

 両手に構える白刃、ジェイに迫る。

 

 ギイィイイン!!

 

 屋根の上という、遮るものが無い月光の下、二人の人間が交差した。忍びの振るう刃は、念を纏わせて大木すら一刀の元に切り捨てる事ができる。人の首すら、容易に飛ぶだろう。

 それは、相手が普通の人間に限る、のだけれど。

 

「………ばかな、某の刃が………」

 

 驚き瞳を見開く忍びの目の前には、己の手に握られる刀。しかしその刀身が、中からキレイに折れている………いや、()()()()()()()。ありえない切り口。一体どんな獲物と、どんな技術があれば可能な芸当なのだろうか。

 

 驚くその一瞬を、ジェイも当然ながら見逃さなかった。

 

 ドッ!

 

 背後から、ジェイの手刀が首を打った。本気を出せば首を落とすことすら可能なジェイの一撃は、相手の意識を沈める事で留めた。ぐらりと揺れた忍び、屋根から落ちないように受け止めた。

 

「悪いな、俺に刃を通した奴は、3人しか知らない………意外といるって?はは、勘弁してくれよ」

 

 誰に言うとも無く、ジェイの言葉は夜風に溶け込む。

 

 ジェイの念は、念を刃の性質に変化させる変化系念能力、不可思議な刃物(ジャックナイフ)。その念を全身に纏えば、それは全身を刃で武装したのと同義。ジェイと刃には、強い結びつきがある。念は己との関係性、より強い執着がその力を高める事がある。

 

 ジェイの纏う念の刃は、忍びの刃をいともたやすく切り裂いてしまった。

 刃を向ける相手が、悪かったとしか言いようが無いだろう。

 

「さてと………あいつら無事かなっと」

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 ドドドドドドド!

 

「ヒノ!何かいい案ねぇのかよ!?」

「そうだね、【練】無理やりで突っ込んで直接殴る力技戦法とかならあるけど」

「よし!それで行こう!やってくれ!」

「断固拒否する!ハンゾー【練】ができないから私が一人で特攻する事になるじゃない!」

「じゃあどうしろってんだ!」

「おしゃべりとは、余裕だな」

 

 ヒュンヒュンヒュン!

 

 水の弾丸の雨を避けるように、私達の進行方向に迫る高速の物体を、ハンゾーは右腕の刃を振るって撃ち落とした。それは手裏剣。しかも黒く塗りつぶし、夜に溶け込みやすいようにされている確実に暗殺用。うわぁ、おっかない。

 

「忍者って本当に手裏剣とか使うんだね。ちょっと感動した」

「んな事言ってる場合かよ!―――と」

 

 キイィン!

 

 目の前に現れた2人目の忍びは、ハンゾー同様に右腕に仕込まれた刃を振るい、それをハンゾーは受け止める。その瞬間に2度3度と打ち合うが、互いに仕留めきれないと悟ったのか、相手の忍びは振りかぶった一撃を、ハンゾーに強打した。

 

「―――っ!?」

 

 その瞬間、ハンゾーは自分から、まるで弾かれるようにして鍔迫り合いを放棄して、後ろへと下がる。が、そこを勝機と、先ほどから水の弾丸を乱打していた一人の目の忍びが、ハンゾーめがけて横っ面に殴りつけるような雨の弾丸を放った。

 

「しまっ―――」

「甘い!」

 

 が、弾丸は目の前に現れたヒノに防がれた。具体的には、ヒノの持つ〝畳〟によって。

 

「畳!?どっから、ああ、家から持ってきたのか」

「とりあえず【周】もしてあるし鉄板並みに頑丈だよ♪でもあんまり長持ちしないから対策しないと。相手の方はどうだった?」

「ああ。あの野郎の刃、()()()()()()

「熱か………操作系か、変化系、もしくは具現化系かな?」

 

 刃に熱を持たせる念能力。【凝】をしてみていた限り【隠】をしていた様子も無いし、可能性としては3つ。

 

 1つ目は、自分の念を熱に変化させる変化系能力。

 2つ目は、温度を変化させられる特殊な刃を具現化させる具現化系能力。

 3つ目は、己の体温を操作する、操作系能力。

 

 可能性を考えたらキリが無いけど、安直に分かりやすい能力ならこんな所かな?

 でも個人的に現実的なのは、3つ目の操作系かな。一番なさそうだけどありそう。

 

 ていうか消去法なんだけど。

 変化系能力として作るなら、それなりに熱に対する耐性を付ける訓練から始めなくてはならない。まあ忍びだったら無くは無いだろうけど、念を覚える前提の話で訓練するのは少し難しい気がするし。

 

 具現化系だったら、愚策としか言いようが無い。もう少し利便性のある武器ならまだしも刃、それも仕込み刀っていうタイプで具現化は無いんじゃないかな。作るなら柄と鍔のある普通のタイプの刀がベスト。その方が両手に持ち帰る事も可能だし、具現化系のメリットであるどこからでも出し入れが生きる。あと単純にあの状態で刃だけ熱かったら絶対仕込んでいる腕の方にダメージがいってるはず。

 

 というわけで可能性としては操作系が一番安全なような気がしてきた。別に確定じゃないけど。

 例えば体のどこからでも出せる刃を具現化した、とか言ったら話は変わるけどね。

 

「と思ったんだけど、どう思う?」

「とりあえず今それを語るだけの余裕があるなら一人くらい仕留めてきて欲しいとだけ言っておこう」

「それじゃあやっぱり一人一撃で行こう。ハンゾー水の忍者さんやって、私熱の忍者さんの方にするから」

「え、マジか?」

 

 ざっと見た限り、身体能力的には水の忍者よりハンゾーの方が高い。熱の方は念が使える分ややスピードで勝ってる感じがする。それでも多分、一対一なら【纏】しか覚えていないけど、ハンゾーが勝てると思う。ただこの二人っていう組み合わせが意外と厄介。

 

 熱と水、本来相容れないけど、()()()()()タッグを組めば相性がいい。

 

 熱の忍者さんは、おそらく自身の体温の底上げ、もしくは熱に変化させた念を纏う。どちらにしろ熱を扱うという点では同じなので、そこらへんは正直どうでもよかった。けどそれゆえに背後から援護に撃たれる水の弾丸を、気にする必要が無くなる。

 

 基本避けるように撃たれているけど、水の弾丸が熱の忍者さんに触れた瞬間小さく煙を上げて蒸発した。つまり、あの人に水の攻撃は効かない。しかし私とハンゾーにはダメージを与えられる。

 つまるところ、味方への被弾(フレンドリーファイア)を気にせずに互いに攻撃する事ができると。

 

 戦法は、二人同時による攻撃。しかし攻撃は最大の防御。確かに無暗に近づけない。というわけで、ハンゾーに水の忍者さんを倒してもらって、その間に私が熱の忍者さんを足止め、そしてハンゾーが空いたら手伝ってもらおう。可能なら倒すと。………ずいぶん消極的な作戦だね。

 

「せいっ!」

 

 その瞬間、ハンゾーは煙幕を張った。濛々と立ち込める煙が、私とハンゾーを含め、敵もろとも視界を閉ざす。

 真っ白な煙に覆われながら、私はすぐさま【円】を張った。

 

 ………ハンゾーは水の忍者さんの元に、熱の忍者さんは一旦止めている。二人とも現状だと【円】は使えないみたい。けど池にいる水の忍者さんはともかく、熱の忍者さんは塀に背中を預け、自身の死角を減らしている辺りこういう状況に慣れているみたい。

 なので、私はそのまま正面から突っ込んだ。

 

「――っ!ふん!」

 

 流石に煙幕に紛れようとも、まっすぐに突っ込んだ私に向かって、熱の忍者さんは刃を振り下ろす。研がれた白刃の刃は、熱でわずかに赤く変色していた。確か焼けた刃物で切られたら、具体的に知らないけどなんかすごくまずいって聞いた事あるので、細心の注意を払って避けよう!

 

「―――」

 

 トッ!

 

 素手で触れるのはまずい。念の防御は基本肉体を強化するものであって、厳密に念自体が鎧の役割をしているわけではない。というわけで熱い物に触れても大丈夫なように、私は体を捻り、迫ってきた刃を足の裏でけり上げた。無論靴を履いているので、ノープロブレム!これが靴も溶かすくらいの高熱だったら困ったけど!

 

 ジェイみたいに触れても大丈夫な性質変化か、ゼノさんみたいに圧縮するとかすれば念でもガードできそうだけど、私はそういう感じじゃないし。

 

「ふ、甘いな」

 

 そう呟いた、熱の忍びさん。

 

 虚勢でも何でもなく、確固たる自信。瞬間、私はジュッという音と共に、熱の忍者のそばから新たな煙が現れたのを見た。いや、煙じゃなくて………水蒸気!

 上を見れば、数は数個だが、水でできた少し大ぶりの手裏剣が空から降り注いできた。

 

 なるほど、煙幕で狙いが定まらないなら、全方位に上から攻撃すればいいって事、ね。どっちにしろ水の攻撃は熱の忍者さんには効かないし、それで敵だけ仕留められると。

 

「でも例外、ていうかその戦法、水の攻撃が相手に防がれたら、意味ないよね!」

 

 降り注ぐ水の大手裏剣を躱しつつ、右手のみ僅かに念を集めて圧縮、【消える太陽の光(バニッシュアウト)】による、念を消し去る消滅の念を作り出して、水の大手裏剣を一つ、受け止めた。

 

「何!?」

 

 素手で受け止めるという行為は予想外だったのか、熱の忍者さんは驚いたけど、私には関係ない!念を消し去った、といより止めた瞬間から形は崩れて、後は重力に従って下へと落ちる水の塊に変貌する。けど、落ちるよりも早く、私は水を掴んでいる腕を振り回し、念と遠心力で手の中に留めたまま、驚いている熱の忍者さんの水月に掌底を叩きこんだ。

 

「すぅ、せいっ!」

「ぐぬぅ!?(小さな少女の一撃とは思えない程に………重い!)」

 

 水を纏ったままの攻撃なので水蒸気を噴き出しながらも、もう一度高熱の相手の体に障るのは勘弁なので、このまま決める!

 

 緑陽じいちゃんに教わった九太刀流の柔術において、小さな力をかき集め、一撃で放つ、というような技が存在する。通常の掌底であれば、掌、指先、関節、衝撃を与える箇所は無数に存在し、その数だけ広く分散して相手に伝える。その衝撃を、たった一点だけに集中し、わずかな力で最大の威力を相手に与える。

 

「これぞ、九太刀流・水穿(すいせん)………って、気絶しちゃった」

 

 ずるりと態勢を崩し、塀に体を預けて地面に座り込んでしまった。

 

 とりあえず火傷とかしなくてよかった。

 

「さて、煙幕も晴れてきたし、ハンゾーの方は………」

「おーい、ヒノ!終わったかー!」

 

 探そうと思ったら、向こうから来た。ずるずると、水の忍者を引きずりながら手を振ってくる。おお、無傷で制圧できたみたい。流石ハンゾー。どうやったんだろ?

 

「お疲れ。よく倒せたね」

「なぁに、相手は煙幕の中でも念の攻撃をしてきたからな、それも池から出ずに。気配は見つけやすかったし、こっちは【絶】をして近づけば楽勝だったぜ。やっぱお前の言う通り、水場からじゃないと攻撃できなかったポイしな」

 

 わずかな狭い範囲の中で、気配を絶ったハンゾーに、気配むき出したの忍者が逃げられるだろうか。そもそもの身体技能がハンゾーの方が高かったから、当然と言えば当然。でも敵の攻撃は空から結構ランダムに降ってきていたのに、その中を【絶】をして避けながら相手の元に向かうとか、ハンゾー中々チャレンジャーだね。

 もうちょっと安全に気を配るタイプかと思っていたけど、ハンゾー強化系かな?いや、意外とマイペースだから操作系という可能性も………でも忍って神経質っぽいから具現化?

 う~ん、ハンゾーが【練】を使えれば系統診断できるのに………残念!

 

「お!お前らも終わったか。無事でよかったな」

「あ、ジェイ。て、その肩に背負ってるの、もしかしなくても忍者?」

「まだいたのか」

「そうなんだか、ちっと問題があってな。あと1人この屋敷に忍びがいるらしいんだ」

「あと1人?」

 

 私とハンゾーが仕留めた2人。あ、仕留めたと言っても気絶させただけだからね?

 ジェイが仕留めた1人。もう1人来ているはず………まさか!

 

グルルウゥウアアアアア!!

ギャアアァアアァァ!!

 

 瞬間屋敷に響いたのは、低く唸る獣のような声と、それに重なる人の叫び声。場所は風呂場!でも音が低いから、翡翠姉さんじゃない。後半の叫んだ人の声は………男?

 

 その声を聴いた瞬間、私とハンゾーとジェイは一足で飛び出して、風呂場のある方角へと走りだした。

 廊下から入れば曲がってすぐの所。赴くのある『ゆ』と書かれた暖簾を潜って、3人とも中へと突撃した。

 

「翡翠姉さん!」

「翡翠さん!」

「ヒスイ!」

「あ、ヒノ!ジェイ!それにハンゾーさん!」

 

 銭湯のように割と広い脱衣所。木や竹でできた空間なので結構落ち着くけど、その中央程には、意識を失っている黒装束の、うんきっと忍び。それも私達が仕留めた人と同じ格好をした忍び。

 

 で、そのそばでおろおろとしていたのは、翡翠姉さんだった。あー、翡翠姉さん狙おうとするからだよ。罰があたったんだね、きっと。

 

「ヒノ、後任せた」

「あれ!?ジェイ!?」

 

 突撃したと同時にすぐにジェイはくるりと体を反転させて、暖簾を潜って外へと出てしまった。

 一体何事か、と思いきや、理由を察した。

 

「この人どうしましょ!もしかしてハンゾーさん達の知り合いだったりするのかしら!えっと!」

「あ、翡翠姉さん大丈夫。それ敵、ほぼ100%敵だよ」

 

 思わずやっちまった、みたいな感じでおろおろとする翡翠姉さんは珍しい。というか可愛い。ここらへんは問題無いが、問題あるのは恰好!

 

 湯上りなのか、沁み一つ無い雪のような肌は火照り、上気で頬もほんのりと赤らめている姿は実に色っぽい。そして黒く長い髪がお湯上がりという事もあって濡れ、まさに鴉の濡れ羽色というのが実にぴったりと合っている。 これ程純粋なジャポン魂を受け継いだ大和撫子は他にいようか!いやいまい!(どこら辺がジャポン魂か甚だ疑問だけど、私には関係ない)

 で、上の説明からわかる通り………翡翠姉さんまじ可愛い!あ、間違えた。やはり首筋から垂れて鎖骨を通過して胸元に伸びる水滴とかまさに………て、そうじゃなくて!バスタオル!そう、翡翠姉さんの姿バスタオル一枚体に巻いただけ!オンリーバスタオル!

 

 ていうか………、

 

「いつまでそこにいるのさ、ハンゾー!」

「ぐへらぁ!ちょ、これ理不尽じゃ―――」

「問答無用!」

 

 ギャアァ!

 

 と、本日二度目になる男の叫び声を聞きながら、事態は収縮していくのであった。

 理不尽じゃない。女子の入浴中着替え中に脱衣所に入る方が悪い。入ってもすぐに出るべき!

 

 あと久しぶりに見たけど、翡翠姉さんマジスタイル抜群。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「ぬはっは!そうか、全員やられたとは、中々やりおるの、お前達」

「うむ、拙者らの攻撃を掻い潜り仕留めるとは天晴。ハンゾー殿も、戦闘中の【纏】と【絶】は素晴らしかったぞ、報告しておこう」

「つーか!熊元さん知ってたんですか!?あの襲撃してきた忍者!ていうかハガクシさんかよ!」

 

 昨日の事は省略し、翌朝!え、事態が早く進みすぎ?まあ特に問題無い。しいていうのなら、昨日はあの後襲撃した張本人がお詫びに来てくれた。

 

 豪快に笑う熊元さんの隣には、全身を白い忍び装束に身を包んだ忍び、さらには額には『隠』、そして口元を隠したマスクには『葉』の文字が記された念の使い手の忍者。この人が、昨日襲撃して来た張本人、ハガクシさん。

 

「改めて、拙者の名はハガクシ。葉隠れ流の忍びです。昨日も申しましたが、客人のお三方にはいきなりの非礼、お許しください」

「おお、こういう礼儀正しい感じも忍びっぽいよね!」

「ヒノって妙な所で感心するのね」

 

 だってそれっぽいじゃない。全部が全部とは言わないけどさ。

 で、簡潔に説明すれば、どうやら全部仕組まれた事だったみたい。

 

 ハンゾーが念の師匠である上司から、伝言を持って熊元さんの家を訪ねる。で、熊元さんは事前に尋ねてくることを聞いており、稽古をつけてくれと頼まれていた。あ、ハンゾーの部下達はただの次いで、メインは念を覚えたてのハンゾーの修行の一環みたい。

 

 そして、ハンゾーの師匠と友人であるハガクシさんは、熊元さんに許可を取り、屋敷を襲撃して、念の戦闘及び夜襲の訓練をいきなり始めたと。どうりで一番強そうな熊元さんが誰とも戦っていない、ていうか結構不自然なタイミングで酒なんか飲みに行ったわけだ。

 

「なるほど、全部ハンゾーのお師匠さんに仕組まれてたって事なんだ」

「いかにも。元々雲隠れと葉隠れの忍びは友好同盟を結んでいる。そもそも拙者の友人の頼み、是非とも二つ返事で受けたまで」

「でもハガクシさんの他の忍びはどうしたの?あと4人。ていうか昨日ハガクシさんは襲撃してこなかったね」

「それは拙者の忍術である『口寄せの術』の力で呼んでいたまで。もうこの場にはいない」

「え、何それもっと聞きたい」

 

 色々と秘密があるから詳しくはダメだったけど、簡単に言えば自分の知り合いを呼び出せる術っぽい。正確に言えば違うらしいけど、遠くの誰かが呼べるって結構すごいよね?

 

「まあ他人任せの力。拙者に加担してくれた者達がいてこその能力ですよ」

 

 なんかいいよね。自分だけの能力じゃなくて、自分以外の誰かが必要不可欠の能力って。

 

「まあ何はともあれ、ハンゾー殿は合格!これであ奴も、次のステップに修行段階を上げられると喜びそうですな」

「あー、それは嬉しいけど、師匠の扱き大変だからちょっと複雑だ………」

「ま、頑張れハンゾー♪」

 

 ぽんと肩を叩き、ハンゾーを労う。

 あ、ちなみにハンゾーの部下は熊元さんに眠らされていたらしい。元々部下はハンゾーをただの任務と騙す為についでにつかせただけで(無論部下も今回の件は知らない)、元々念も使えないから戦闘に参加させるつもりはなかったみたい。

 

 とりあえずまぁ、一件落着?

 

「じゃ、そろそろ帰るとするか。ヒノ、ヒスイ、準備はいいか?」

「ばっちぐー!」

「ええ、大丈夫よ」

 

 オバケイチゴを入れてきた葛籠は、そのまま熊元さんにあげた。元々そういう予定で、帰りはすごく楽!何も手に持ってないし!ていうか本来あれも持つ必要なかったんだけどね。ただすぐに見せやすいように持ってただけだし。

 

「今回の訓練では拙者らも勉強させてもらいました。あの者らにもよく言っておきます。何かあれば、連絡をください。力になりましょう」

 

 そう言って、ハガクシさんは名刺をくれた。忍び的にはやっぱり名刺って普通なのかな?

 けどこうやって礼儀正しくもらうと、なんだか普通の事に思えるよ!ていうか忍者というより人として普通かこれは!ありがとう、ハガクシさん!

 

 こうして私達は、初めてというわけじゃないけどお使いを無事に終えました。

 

 途中でハンゾー達と別れて、私、ジェイ、翡翠姉さんは、緑陽じいちゃんの待つ家に向かって帰路についたのであった。

 

 めでたしめでたし!

 

 

 

 

 

 

 




 
ヒノ「今日のオリジナル念能力のコーナー!」


【特質系念能力:忍法・口寄せの術】

自分に同意した人間と同一の存在を具現化し、同意者に具現化した人物を操らせる。
媒体は具現化した巻物を使用する。

【制約】
①具現化した巻物に、同意者の血液で名前と手形を書き記してもらう。
②ルール①の前に、同意者にこの能力の概要を全て説明する。
③同意者の持つ能力を全て理解する。

【誓約】
①能力発動中、同意者、使用者は一切動く事が出来ない。(あくまで本体のみで、具現化された同意者のみ活動が可能)
②能力発動中、使用状況によって常時念は消費される。
③具現化した同意者の活動範囲は、使用者の半径600メートル以内に限る。
④能力が解除される条件は次の内どれかが満たされた時。
・使用者が能力を解除した時(全体解除)
・具現化した同意者が死亡した時(同意者の単体解除)
・同意者、又は使用者が死亡した時(同意者の場合は単体、使用者の場合は全体解除)
⑤具現化した同意者が死亡した場合、同意者の本体は7日間【絶】の状態となる。

ヒノ「今回のハガクシさんは、自分の同意者である念能力を使える部下4人を具現化召喚したみたいだね」
ジェイ「いやぁ、面白い能力だな。能力の性質上、互いの信頼関係が成り立たないと成立しない能力だな」
ヒノ「あとこの能力って『象転の術』と『口寄せの術』を元にしてるよ」
ジェイ「マジ?」

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