第27話『ノーメイクのドレスコード』
ジャポンから飛行船でおよそ3日。
今回は特になんとかジャックとか問題も無く、普通に通って普通に着いた!
こうしてやってきて下から見上げてみたけど、高いなぁ。
天空闘技場は高さ991メートルの、世界第4位の高さを誇る建物らしいけど、それ以外は知らない!!だって来た事ないし、今まで縁もゆかりもなかったし。第4位云々もシンリに聞いて初めて知ったしね。
それに闘技場って付くくらいだし、皆でバトルロイヤルとかしてるような戦ってる場所だと思うよ。多分!
早速入ろうかと思った矢先、見覚えのある姿が見えた。
後頭部でまとめ結った髪の毛に、ジャポン特有の和服っぽい出で立ちをした女性。見る人が見れば、歩いているだけでも状況対応できる動き方、それに流れる念に淀みは一切ない。年中通して狙われる危険性に見舞われながら、それを全く意に返さず往来を闊歩する姿は、流石!の一言だね!
「おーい!マチー!」
声を出して駆け寄ると、マチの方も振り向き驚いた様に瞳を丸くしたあと、笑って手を振ってくれた。
「ヒノ!?久しぶりだね」
「久しぶり~!」
会うのはハンター試験を受ける前以来かな。
A級賞金首、幻影旅団のメンバーの一人、マチ!まあ仕事では色々やっているらしいけど、私オフの時しか知らないし特に気にしない!小さい頃から色々世話になったよ!
「ところでマチこんな所で何してるの?どっちかと言えばウヴォーとかノブナガとか、あとヒソカとか好きそうな場所なのに」
「鋭いねヒノ………ちょっとクロロに伝言頼まれてね。それを言いに来たんだよ」
「クロロに?こんな所に?誰に?」
「………ヒソカ」
「………お疲れ」
まさか本当にヒソカがここに居るとは………まさか私のセリフの時にフラグが建った!?マチごめんね!?
「でもヒソカって確か携帯持ってたし、普通にメールで済ませるって方法もあったと思うんだけど?」
「それはできないよ。携帯を持ってヒソカの連絡先を登録している旅団のメンバーがいないからね。メールが送れない」
「………………えぇ」
それは旅団がヒソカを信用していないのか、ただ単にヒソカが嫌われているだけなのかどっちかな。ていうかクロロすら知らないって………これはマジだね。
「それで、ヒソカはここにいるんだ」
「まあね」
天空闘技場。
簡潔に行ってしまえば、一対一で戦い勝てばどんどん階層が上がって行くというバトルタワー。最初は1階からスタートして、一勝すれば10階単位で上がっていくという。単純計算、1階からスタートして20勝すれば200階に到達できるらしい。そうまでして戦いたいのかねぇ~。あ、ちなみに上の説明はマチに教えてもらったよ。
で、ヒソカはこの闘技場の200階にいるらしい。マチもわざわざ大変だねぇ。
とりあえず道は全く知らないし、マチついて行こうっと。
「でもヒソカがどこにいるのか知ってるの?」
「ああ、実は私は昨日来て、不本意だけどもうヒソカと会ってるんだ。まあその時伝言し忘れたのもあったけど、
「マチに依頼って事は、ヒソカ怪我する予定でもあるのかな?」
「さあね、あいつの考える事は分からないから。とりあえず金さえ払えば文句ないし」
マチの念能力である【念糸】は、簡単に言えば念を使用した接合・縫合手術。つまり千切れた腕や足などの部位を念の糸でくっつける事ができる。他にも色々応用があるらしいし、マチの技術力あっての技だけどね。
けどああ見えてヒソカは戦闘能力だけなら高いのに、どうやったら腕とか吹き飛ぶような事態になるんだろうか。そんなにこの天空闘技場の200階ってレベル高いのかな?
そして試合の観戦客なら、本来チケットが必要なんだけど、マチはヒソカの控室側に直接行くので、特にチケットとか無くてもいいみたい。私も普通についていく。ある意味これはタダで特等席から見れる裏技なのでは?しかしその為には選手と知り合いになる必要があるけど。
エレベーターに乗って割と高く上がり、あちこち歩いてようやく到着!通路の向こうからは、観客の熱気と歓声が良く聞こえる。ここは選手が通り舞台に上がる通路。というわけで、観客よりも近くに舞台が見えた。
「あ、ヒソカ。それに戦ってるね。どっちも念使って」
「ここの200階の闘士は全員念が使えるらしいよ。もっとも、あたし達から見れば大した奴らじゃないけどな。たまに多少マシなのが混じってるくらいで」
なる程。という事は今ヒソカが戦っている選手も、マチ曰く〝多少マシ〟な選手の一人か。
で、肝心の戦いだけど、もう佳境に入っているみたい。ヒソカは………左腕の肘から先が無いし。本当に腕ぶった切って戦ってるよ。で、対戦相手のカストロさん(審判の解説で知った)の、顎に向かって千切れたヒソカの左腕がヒットした。
「うわぁ、私自分の体切り離して戦う人とか初めて見たよ。何あの腕」
「大方【
「確かに」
実際他にも自分の腕を飛ばして戦う人がいるというなら見て見たいよ!
で、ヒソカも満身創痍っぽいけど、既に下準備は終わった後。カストロさんの顎にクリーンヒットを当てたら、カストロさんはもうふらふらでまともに戦える状態じゃない。脳を揺らされたからね。ヒソカを挟んで対面にいたもう一人のカストロさんも消えたし………もう一人?
「マチ、見て見て!あれって分身の術とかだよね!聞いた事あるよ」
「まああながち間違ってはいないだろうけど、多分自分を具現化しているだけだと思うよ?」
コルトピもやろうと思えば人間を具現化(ただし動かない人形として)できるけど、戦闘に使うならカストロさんの方が有利そうだね。コルトピの能力は戦闘じゃなくてもっと別の利便性がありそうだし。まあどっちにしろ、使い方次第だけどね。
「そろそろ、終わるよ」
そうマチが宣言したと同時に、カストロさんはヒソカのトランプの猛攻を受け、全身を串刺しにしながら倒れた。あの状態じゃ、よほど強力な治癒系の能力者がいないと助からない。そんな人ほとんど見た事無いし、ほとんど即死に近いし。
そしてカストロさんを下したヒソカは悠々と、脇に自分の左腕を挟みながら、私とマチのいる通路までやってきた。
「お疲れ。さ、さっさと腕見せて」
***
「いやー、マチだけじゃなくて、ヒノも来てくれるなんてね♥僕はついてるな♥」
「いいから左手2千万、右手5千万払いな」
「マチ、右手と左手逆につけたら良かったんじゃない?」
「ヒノ、君って割とひどいよね♦」
マチの【念糸縫合】によって、カストロ戦で千切れたヒソカの両手をくっつけたんど………ヒソカ左手だけじゃなくて右手も千切れてたんだ。それを【
え、普通ならそれでも傷口が見えるって?実はヒソカにはもう一つ能力がある。
「種も仕掛けも無いハンカチを♥【
あっという間の出来事。奇術師という言葉が似あう通り、戦闘中にこれをやられたら、いきなり傷が治ったと錯覚するようなスピードの早業。
ヒソカのもう一つの念能力である【
使い所は微妙で、綺麗なカラーコピーみたいな物だから触ればわかるけど、だからこそヒソカは実に楽しんで、騙し甲斐があると思ってるらしい。実にヒソカらしいと言えばヒソカらしい能力だ。
「それにしても、あれね。前から思ってたけど、あんたってバカでしょ。わざわざこんな無茶な戦い方して、パフォーマンスのつもり?」
「意外とヒソカって自分の通り名とかあだ名って大事にするタイプだったの?正直以外」
「くくく♠ボロクソ言ってくれるねぇ、二人とも♦ま、別に否定はしないけどさ♥」
くっついたばかりの両手を握ったり開いたりして感触を確かめながら、ヒソカは実に楽しそうに頬を歪めて笑う。先ほどまで死闘をしていたとは思えない程。いや、逆に死闘をしていたからここまで楽しそうに余韻に浸っているんだね。
「あ、そうだ、伝令の変更よ。8月31日正午までに「暇な奴」改め「全団員必ず」ヨークシンシティに集合」
ああ、当初の予定は旅団の中でも「暇な奴」限定だったんだ。………ヒソカの策略でクラピカはヨークシンに必ず向かうはず。そのタイミングで旅団が全員集合………何も無い………なんてことは無いか。
それじゃ、何が起きるのか………。
「ヨークシンで何するの?」
「そうだね。団長って本が好きだから本でも盗むんじゃないの?」
「あ、まだ知らないんだ。クロロも随分行き当たりばったりで作戦変更とかするよねぇ。9月に予定入れてたらキャンセルしないといけないのにさ」
「あいつああいう所あるからね」
「ヒノもマチも、
大丈夫!ヒソカ程じゃないから!
「それじゃあ私もヨークシン行く予定だし、向こうで会えるね」
「そう、それは楽しみだね。それじゃ、あたしは用も済んだし、そろそろ帰るよ」
「そうだ♠マチ、今夜一緒に食事でも―――」
バタン。
ヒソカがマチを食事に誘うよりも早く、マチはひらひらと手を振ってヒソカの部屋から出て行ってしまった。後に残ったのは、笑顔を受けべて片手を差し出したまま固まったヒソカと、隣で見ていた私のみ。
ここで私がヒソカにかけるべき言葉は一つだけだね!
「やーい、ヒソカ振られた!」
「………しょうがないな♠ヒノ、一緒に食事でもどうだい?」
「全部ヒソカが好きなだけ奢ってくれるなら別にいいよ?」
「くっくっく♣しょうがないな♠」
***
そしてとあるレストランに一緒に来たんだけど。
「………誰?」
「ひどいなぁ♠さっきまでずっと一緒にいたのに♣」
「いやぁ、普段メイクしている人とか仮面の人とかがすっぴんになると誰この人って、感じ。いやまあほんとにそんな感じ」
今私の対面に座っているヒソカの姿は、先ほど闘技場で戦っていた、普段のオールバックと頬にピエロ風のペイント、それにその服なっているの?と思わんばかりに球と四角を組み合わせてトランプの柄をちりばめた謎の服装。だったにもかかわらず、今のヒソカは正直に言って誰だか分からない。
いつもオールバックにしている髪は降ろし、顔のペイントも無い。そして黒いスーツを着用したその姿は、レストランに入る時も、女性定員が頬を赤らめる程に意外と似合っている、ただのイケメンが出来上がった。このままにっこりと笑っていれば、俳優だったり若手実業家、とか触れ込んでも騙せそうな感じ。
間違ってもこの天空闘技場で虐殺ショーを繰り広げる、イカレタ変態奇術師ヒソカと同一人物だとは誰も思わないと思う。
うん、本当に誰?
「せっかくヒノと二人での食事だし、少しはおしゃれをしようと思ってね♥僕としては、ヒノのドレス姿とかが見たかったんだけど………♠」
「いやいや、このレストラン別にドレスコードとか無いし、私ドレス持ってきてないし」
「言ってくれれば僕が見立ててあげたのに♥」
流石にそこまではいいや。そう言うのはシンリに用意してもらおう。
ヒソカが事前に注文していたらしいコース料理が
「ああ、そういえばヒノがここに来たって事は、ゴンやキルアに用でもあったのかい?」
「ホント!?ゴンとキルア来てるの?」
「………知らなかったんだ♣ちょっと前にここに来てね♦今は僕と同じ200階の闘士だよ♠」
「あれ?でも200階って全員念が使えるってマチ言ってたけど」
「そ♥最低限の【纏】だけは誰かに教えてもらって来たらしいけど、まだまだ修行中だよ♦今のままじゃあ、僕と戦うには物足りないしね♠」
てことは、前に会ったハンゾーと同じく四大行の基礎中って所かな?まああれから時間も経っているし、今ならハンゾーも【練】を覚えて【凝】の修行とかしてるかもしれないね。まさか武者修行をすると言っていたのにこんなところにいるとは。まあヒソカもいたし一石二鳥だけど。
「あの二人が念ねぇ。なんかハンター試験終わったのにあっという間って感じだね」
「くくく♣どちらにしろ、この天空闘技場で戦えば必ず200階で念の能力者と当たる♠洗礼を受ける前に誰かに教えてもらったらしいから、彼らは運が良かったね♥」
この闘技場は1階から190階までは非念能力者による戦いの場であり、そこから順当に勝ち上がって200階に行った者は、念が使えないにも関わらず戦い、念能力者の攻撃を生身で受ける結果になる。結果として、念の攻撃により自分も念に目覚める事になるという。
洗礼とは、その非念能力者が、念能力者の攻撃を受ける事を指すらしい。これは運がいい場合で、運が悪ければ体の一部が欠損したり、最悪再起不能か死亡の場合だって多分にありえる。
そう考えると、確かに運がいい。念能力者と戦う前に念を覚えれたから。最も、実際はヒソカが念を覚えてくるまで200階を通さないように邪魔したらしいけど、それを知るのはまた後なのであった。
「すいませーん、この一番高いっぽい大トロ二十貫くださーい!」
「君は遠慮って言葉は知らないのかい?」
「もぐもぐ、ん?何か行った?」
「………なんでもないよ♦」
大トロって柔らかいんだね。本場じゃないにも関わらずこのクオリティ、中々やりおる。
ヒソカもワインを嗜みつつ、ふと思いついた、という風に口を開く。
「そういえば、ヒノは闘技場で戦わないのかい?」
「えー、疲れるじゃん。別に私ヒソカみたいに戦闘狂でも、ゴンみたいに武者修行しに来たわけでもないしさ。それとも何か特典とかあるの?」
「んー、特典っていえば、分かりやすい所でファイトマネーかな♣」
「ファイトマネー?戦ったらお金もらえるの?」
「そうだよ♦10階から200階まではかなりの大金がもらえるからそれ目当てで来る連中だっているんだよ♦」
一流のプロの格闘家の試合では、勝利するたびにファイトマネーと言う金がもらえると聞く。天空闘技場もそんな感じで、とりあえず相手を倒せばお金がもらえると。それは美味しい話だね………。
「勝てばお小遣いが手に入るんだ。いくらくらいもらえるの?」
「そうだね、100階だったら100万くらいかな♦」
「そうなの!是非とも出ようじゃないか。そんなわけでヒソカご馳走様!またね!」
戦って勝つだけで100万とは、確かに戦わない手は無い!聞けば200階からは念の使い手が出て来るらしいけど、それ未満の階層はそうではない。一般人が戦うらしいし、うまくいけば結構稼げるんじゃ!
別に守銭奴という程でも無いけど、折角オークションに行くつもりなんだからここらへんでお金稼ぎたいよね!
「あ。そういえばお金といえばヒソカ。10億ジェニー頂戴」
「……忘れていたのかい♠ハンター試験終わった後に振り込んであるから、もう入ってるよ♦口座は定期的に確認しといた方がいいよ♦」
「ありがと!それじゃあね!」
そう言って、私はレストランを飛び出していくのであった。
後に残されたヒソカは、私がいなくなった後で口角を上げ、楽し気に笑った。
「クックック♠これで闘技場が賑わうなぁ♥」
あわよくば、自分と戦う機会が出てくるかもしれない。
そう考え、ヒソカはより一層楽し気に笑ったのだった。
***
「天空闘技場へようこそ。こちらに必要事項をお書きください」
受付カウンターで、必要事項を紙に書いて提出。中に入ると、石でできたであろうそこそこ広い、多分一辺10メートルくらいありそうな正方形のリングが、等間隔に8個8個、計16個並んでいた。その上では、闘っている人が今まさに何人もいる。
いわゆる試験、ここでの戦いの結果に応じて、次に上がる階数を決めるみたい。
「1000番・1037番、Hのリングへ」
呼ばれた!ちなみ私の番号1000番。覚えやすくていいよね!
そして対戦相手の1037番の人は、巨漢の大男。でっかいなー。
「なんだ。オレの相手はガキかよ。嬢ちゃん、怪我する前に大人しく帰りな」
気持ちはわかるけど、この場に立つ人物は少なからず戦うために来ているのだから、侮るのは良くない。というわけで世間の厳しさと言う物を教えてあげようかと思います!
「ここ1階のリングでは入場者のレベルを判断します。制限時間3分以内に自らの力を発揮してください。それでは、始め!!」
「悪く思うなよ!!はあぁ!」
巨漢の大男はどすどすと地面を踏みしめ突進し、そのまま丸太のような剛腕の拳を繰り出してきたけど、猪突猛進過ぎ油断し過ぎ………甘い!
拳を躱しつつ体を回転させ、腕を肩に乗せながら両手で掴み、そのまま投げる!相手の突進力をそのまま使ってるので、特に私はあんまり力を籠める必要も無い!これぞ緑陽じいちゃんに教わった柔術の一旦。余計な力を使わずに相手の力を利用して投げる
普通ならこのまま地面に叩きつける所だけど、私は途中で手を放して、相手をリングの外へと吹き飛ばし、場外の壁にぶつけてダウンさせた。
「おいおい!なんだあの子供!」
「マジかよ………」
「少し前にもとんでもない子供がいたけど、またかよ」
「………1000番。君は50階へ行きなさい」
「はーい」
こうして、私も天空闘技場デビューをしたのであった。
………………そういえば別の用事があったんだっけ。
ヒノ「10億ジェニーの約束に関しては、第3話『10億ジェニーのロイヤルアタック』を参照してね♪」