消す黄金の太陽、奪う白銀の月   作:DOS

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第29話『柔術少女ノーリザーブ』

夜!既に人気も少なくなり、月夜が全てを隠す街並み。それでも近くにそびえる天空闘技場は光輝き、この町に住む人間達の目印となっていることだろう。

 

 しかし光もあれば影もある。厳かな光に包まれる天空闘技場の眼下、暗い街並みの中では、通りを過ぎる人影を狙う怪しげな瞳も多数存在していた。

 

「へっへっへっへっ!ガキどもがこんな所で夜遊びかい?危ないねぇ~。おっ!隣の嬢ちゃんは中々の上玉「るせぇ!邪魔だ!」ぶへらべぎぐあぁ!」

 

 今何か聞こえた気がしたけど、先頭のキルアが拳を振り上げたと同時に空へと昇って行ったのでよく見えなかった。一体何だったのだろうか?

 

「キルア、今何かいなかった?」

「気のせいだろ」

 

 そんなこんなで割とすぐにやってきた宿屋さん。中に入ると、部屋は二人の人間がいた。

 

 一人は椅子に座り本を読み、寝ぐせを付けて眼鏡をかけた青年。一見知的な印象。でも最近人の印象は見た目に惑わされちゃいけないって学んだばかり!ノーメイクのヒソカから!案外この人もめちゃくちゃアグレッシブなアウトドアタイプだったり!………するわけは無いか。

 

 あ、この人念の使い手だ、それもやり手の。

 それでもう一人は少年。私やキルアよりも年下で真面目そうな、道着を着た………………ズシじゃん。

 

「やっほう、ズシ」

「あれ?キルアさんに……ヒノさんじゃないっすか!どうしてヒノさんがここに?」

「ん?お前ズシと知り合いだったのか?」

「前に90階で戦った事があるんすよ。残念ながら自分は負けてしまいましたが」

 

 勝てば100階に行ける対決で、一本背負ってKOさせて頂きました!

 

「あ、ていうかこの前ごめんね。大丈夫だった?」

「はい!あの後すぐ目を覚ましましたし、もう全然平気っす!」

「そう、よかったぁ」

 

 一応大丈夫なように気絶させたつもりだったから大事は無いとは思っていたけど、何もなくて良かった。体は大丈夫でも心に傷とかできたらどうしようかと思ったけど………大丈夫で本当に良かった!

 

「へー、お前ズシに勝ったのか?」

「まあね」

「ズシ、この子はもしかして?」

「あ、師範代。この人はヒノさんって言って前に自分が90階で負けた相手っす」

「ああ、やっぱり。この前はズシが世話になったね。師匠をしているウイングと言います。ヒノさん宜しく」

「よろしく、ウイングさん!」

 

 穏やかな笑みを浮かべた、いい人そう。おお、なんだか先生っぽい人だね。師匠って事は、武術と念のって事かな?どちらにしても、教えるって事はそれ相応に修練を積んでいる証!

 

「あ、そうだ!ウイングさん!こいつ今日200階に来て登録したんだ。明日戦うらしいから連れてきたんだけど、なんとかしてやってくれよ」

「200階っすか!?自分より後から来たのに、あっという間に抜かれたっす。ちょっとショックっす………」

「あはは………」

 

 いや、そこは落ち込まなくてもいいと思うよ。私みたいなタイプは少数だと思うし。むしろいても困る。

 キルアの言葉にウイングさんは一度じっと私を見たと思ったら、ふっと笑い、キルアに話しかける。

 

「そうですか。キルアくん、心配ないですよ。彼女はもう念を使えますよ。それも、かなりの使い手です」

「えっ?」

「ん?キルア、なんで念の話?」

 

 念と師匠と200階闘士、それにヒソカの言葉。ゴン達は洗礼を受ける前に念を覚えた、という事は誰か教えてくれた人がいる………ああ、そういう事。

 

 このウイングさん、ズシだけじゃなくて、ゴンとキルアの念の師匠でもあるんだ。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 結論!私の予想大当たりしました!

 ヒソカがゴン達を念で邪魔した為、ウイングさんはゴン達がそのまま200階に行けば大怪我、最悪命の危険もあり念を教える事にしたらしい。

 

 そして成り行きだけど時間も無かったので、ウイングさんによって強制的に念に目覚めさせてもらったと。やり方としては、熟練者の念を当てて非念能力者の念を呼び起こす。一歩間違えれば死に至る可能性もある裏ワザだけど、熟練者のウイングさんは二人の体を傷つけずに念に目覚めさせる事に成功したと。

 

 最も、例え目覚めてもその後しっかり扱えるようになるかは二人次第だったけど、ゴンとキルアの二人はそんな常識を覆し、一瞬で【纏】を取得したらしい。練度はまだまだだけど、僅か一日以内で念を目覚めて【纏】をするって、中々に驚異的。

 

 私は念を覚えた、という実感が元から無いから何とも言え無いけど、それでも二人のやった事が十分異常過ぎるレベルの成長速度だって言うのはよくわかるよ。

 

 それで何とかヒソカの念の妨害を潜り抜けて200階登録を成功した。で、次にゴンが200階闘士と戦って大怪我をしたと。………………でも部屋にいたゴン怪我なんかしてなかったような。

 

「ねぇキルア。ゴ―――」

「………」ジロリ

「――マダンゴの美味しい店あったから今度食べに行こうか」

「ああ、そうだな」

 

 今のキルアの視線、確実にゴンの怪我に関して何も言うな、という無言のプレッシャーだったよ。あれは完全にやる気の目立ったね!しゃべろうと思ったら問答無用で口を塞ぐ気だったよ!ナイス機転だ私!

 

 で、結局ゴンは無茶な戦いをして大怪我。しかもウイングさんに、念を覚えたばかりだから戦うのは2か月待てと言われたのにそれを破った。その為怪我が治るまで念の修行詮索を禁止したと。ああ、だからゴンだけ部屋に置いてきたのか。医者は全治二ヶ月(実際はキルアがゴンが早く修行始められるよう嘘ついたから四ヶ月だったらしい)と言ったけどそれをゴンはわずか一ヶ月で直したと。

 

 ………うんおかしくね?念が使えるならまだわかるけど、素でそれってどうなんだろうか。

 もしもゴンが念を覚えてたら一ヶ月とは言わず10日で治ったんじゃないかな?あ、そういえば一回ハンター試験の時にハンゾーに折られた腕10日も掛からず治ったらしいね。………うん、考えるのはよそう!

 

「マジかよ!お前念使えたのかよ!?」

「そうだけど、まさかキルアとゴンが念を覚えるとはね。時が経つのは早い早い」

「ちぇっ、これじゃ連れてこなくてもよかったじゃねえか。でもホントに強いのか?」

「まあまあ、戦闘日は明日だから見に来てよ」

「………はぁ。はいよ、じゃあ俺先に帰るからな」

 

 そう言ってキルアは扉を開けてウイングさんの宿をあとにするのであった。

 残った私に、ズシは心底驚き感心したように声をかけてくれる。

 

「それにしても、ヒノさんが念を使えるとは驚きっす」

「私はズシが念使えるって知っていたよ。【纏】をしている間もちゃんと相手に集中しないとね」

「そうですね。ヒノさんは常に自然体で【纏】をしているので、ズシなら分かるはずですよ」

「お、押忍!」

 

 まだ自然に淀み無く、という風にはいかないのか、若干【纏】をする事に集中しすぎる感じがする。多分【練】をする時も一拍置くようにして時間を挟まなきゃできないから、まだまだ修行中って事だね。ファイト!

 

「そういえばヒノさんとズシの試合は私も見させてもらいました。素晴らしい戦いでした。ズシが手も足も出ませんでしたしね」

「ありがと。でもあれは何かする前に先手を取って気絶させただけだし、不意打ちみたいなものですよ?」

「ふふ、謙遜しなくてもいいですよ。今のズシにはあの動きに対応できる術はありませんでした。良い技です。ヒノさんの動きは何か武術を習っていますね。流派などありますか?それとも、ゴン君達のように我流だったりしますか?個人的見解としては半々といった所だと思うんですが」

 

 このウイングさん中々鋭い。流石師範代と言うだけだる!何のかは知らないけど!

 私の戦い方の元になったのは2つ。シンリに教えてもらった型の無い我流と、緑陽じいちゃんに教えてもらった柔術が基本を占める。後は色んな修行らしい事を重ね、我流寄り時々柔術、という感じかな?

 

「しいていうなら投げ技は九太刀流とか………かな」

「九太刀!もしかしてそれは、九太刀緑陽さんの流派のことですか?」

「緑陽じいちゃん知ってるの?」

「よく出稽古にこられていたからね。ちなみに私は心源流の師範代なのですよ。心源流はご存じで?」

「心源流………あ、そうか!ズシの構えってどっかで見たことあると思ったら、ジャポンの心源流道場の門下生がしてた構えと同じだ」

 

 思い出されるじいちゃんに無理難題と押し付けられた強制耐久組手。そして乱入したネテロ会長との一騎打ち!

 まああれはあれでいい思い出だからいいんだけど。ネテロ会長と賭けして勝ったし。

 

「おや?あそこに行ったのですか」

「うん!面白かった!ネテロ会長とも戦ったし」

「ごふっ!!げほげほ!!か、会長!?ネテロ会長ですか!?」

「あ、うん。こう、なんか巨大な手みたいなの叩きつけられた」

「(間違いなく会長!一体何をしているんですか!?)………よ、よく無事でしたね」

「思考の勝利だよ!」

 

 軽くピースサイン!確かにあれは純粋な戦闘力じゃなくて、考察と思考と予測でほぼ勝利を掴んだから、私が会長より強いというわけじゃない。言うなれば、一度きりの相手の攻撃方法の〝ヤマ〟が当たった、というだけ。そもそも相手の攻撃を一度防げば勝ちっていう、戦闘ともいえない戦いだったし。

 実際にまともに戦えば………どうなるんだろうねぇ。

 

とりあえずそんなこんなで軽く雑談を交わして、暫くしたら私は宿をあとにするのであった。

 

 さて、明日は200階初めての試合だし、頑張ろう!

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

『さあやってきました注目の一戦。彗星の如く駆け巡り、今この舞台に舞い降りた少女ヒノ選手対、200階の闘士、戦績5勝1敗と勝ち星も分岐点!隻腕の闘士、サダソ選手!!一体この二人は、どんな戦いを見せてくれるのかあぁ!!』

 

 巨大な歓声に包まれる中、その歓声に混じって舞台を見つめる人間が3人。

 念の修行が禁止されているゴンを除き、キルア、ウイング、ズシも観戦していた。

 

「くっそ、ヒノの対戦チケット30万もしたぜ。ヒソカ戦の倍とかどうなってんだよ!チョコロボ君が2000個は買えるぜ!」

「キルアさん………お菓子換算って、金銭感覚がおかしいっすよ………」

「あはは。まあこの200階に、というより天空闘技場に女の子が上がって来たのは、途轍もなく珍しい事ですからね。観客も舞い上がっているのでしょう。噂ではファンクラブもあるとか」

「この観客(ロリコン)共………」

「珍しいって事は、前にもこういう事はあったんですか?」

「あはは、どうだろうね。もしかしたら何十年も前ならあったかもしれないけど………」

 

 微妙にウイングの表情が苦笑気味だが、ズシは疑問符を浮かべるにとどめるのだった。

 そして今回最も気になる質問を、キルアはウイングに尋ねる。

 

 つまりは、ヒノがどれくらい強いかという事。

 

「なあ、ウイングさん。ヒノ、あいつに勝てると思うか?」

「ふむ、念能力者同士の戦いは、何が起こるか分からないのが常。しかし、今までヒノさんは投げ技で相手を仕留めてきただけに、今回のサダソとは相性が悪いかもしれないですね」

「あいつの〝見えない左腕〟ってやつか?」

「ええ。それに対する対策を、ヒノさんがどうするのかが見ものですね」

 

 サダソは200階でも通算6度の戦いをして、ある程度の戦闘スタイルは知れ渡っている。その最もたるのが、サダソの念能力である〝見えない左腕〟と呼ばれる力。掴まれればおしまいと呼ばれるこの力。

 

 最も、ヒノは昨日200階に来たばかり。サダソに関しては、全く欠片も情報を知らないのだが。

 

「昨日は情報ありがとね。おかげで助かった」

「くくく。どういたしまして。今日は、よろしくね」

「よろしく!投げ仕留めてあげる!」

「そうかい(そりゃ、好都合!)」

 

 左腕の無い能面の闘士、サダソさん。ゴンの部屋番号という情報をくれたいい人だけど、まあ新人専門で潰しまわっているという事なので、例えどうなっても文句は言えないよね!流石に右手も落とすとかはしないけど!

 

『それでは両者、始め!!』

 

 開始と同時に、私はその場から後ろへと下がる。さらに一歩二歩と前へ横へ後ろへと跳び、サダソさんから少し距離を取った。観客から見れば、開始と同時に私は妙な動きをしながら距離を取った、としか見えないでしょ。ていうかそれで変な子とか思われたらどしよう………。

 

 ま、観客の反応より目の前の相手。さて、どうしよっかな。

 

 【凝】をして注視すれば、サダソさんの無いはずの左腕の袖からは、オーラでできた腕がうねうねと、私をとらえようと動いていた。念を知らない人から見れば、袖だけが風も無いのに揺れている。まさに見えない左腕!

 風も無いのに袖揺れる、とかどっかで似たようなのを聞いた事あるような………。

 

 風も無いのに袖が揺れ、光も無いのに影………みたいな?

 

「ウイングさん。あれどうなってるの?」

「あれは自分のオーラを圧縮し手の形に変化させているのですね。それが見えない左腕の正体。自由自在に動くあの腕は少々厄介ですね。捕まるのはお勧めしませんね」

「師範代にはあれが見えるっすか?」

 

 ウイングも、【凝】を使い観戦していた。念と念の戦いは、【凝】をしつつ相手の念の動きを捉える事を最善として戦う。見えない攻撃であるからこそ脅威となりえるが、それが見える攻撃となってしまえば、脅威は半減する。

 

「二人にも、修行すればすぐにできるようになりますよ」

 

 さてと、腕の形をしてるけど本物じゃないから関節やリーチ、大きさはあまり関係なさそう。知ってる能力で例えるならゼノさんの【龍頭戯画(ドラゴンヘッド)】が近いかな?圧縮した念によって物理的攻撃力を持たせる、という点においては。

 

「どうしたんだい?防戦一方だね!」

 

 でも射程距離、それに空を飛べるだけの力を有する事を考えれば、ゼノさんに比べるまでも無い。いやこの場合は比べる相手がおかしいだけ。サダソさん!めげないで!

 

「避けるだけじゃ、勝てないよ!」

 

 確かに自由自在に追いかけてくる手っていうのは厄介だと思うけど、そこまで脅威らしくない。【隠】をして気配とかは隠してあるけど、それも相手が【凝】をそこそこ使えれば見えるレベル。確かに【纏】だけだと見えないかもしれないけど。それでもあと4本腕くらいに増やしたらもう少し考える所だね。

 

「ウイングさん!どうなってんだよ!正直サダソの念が見えねーから試合内容が分からん!」

「そうっすよ!ヒノさんが見えない何かを躱している事しか分からないっす!」

「せいぜいサダソの服の左裾の動き具合とヒノの避け方でどういう軌道の攻撃しているか予測するくらいしかできねーよ!」

「すいませんキルアさん!自分そこまで分からないっす!」

 

 流石と言うべきか、元暗殺者の超短期念取得者のキルア。見えない攻撃だろうとも、相手の動きと対戦者の動きから予測する技術は驚嘆すべきである。隣で観戦しているウイングも、素直に感心する程だった。

 

(ふむ、サダソの戦いは初めて見ましたが、オーラの操作技術は近距離はともかく、手の届く範囲をオーバーしたらとたんに大雑把になる。今まで新人潰しだけでしたので、その辺りの技術の修練が足りないのでしょう。あれなら、ヒノさんが全力を出さなくても十分避けられる)

 

「サダソさーん、そろそろ疲れた?」

「ふふ………この……程度じゃ………まだまだ………だ!」

 

 うん。すごく疲れてる気がする。そりゃ息も切らさず私を捉えようと開始から腕を動かし続けてるし。私は普通に避けてるだけで念は一切使ってないから、全然疲れて無いよ!そしてサダソさんあんまり激しい動きも出来なさそう。というわけで、正面突破で行こうと思います。

 

 いざ!!

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

(来た!)

 

 このセリフが誰のものか分からないが、誰もがヒノが前身した事に少なからず反応した。それは観客席にいた者達もそうだが、対戦者であるサダソもそうだった。

 

(痺れを切らせてようやく来たか!残念だが、俺のスタミナはまだまだ。詰め寄って投げ飛ばそうと右腕を掴む瞬間、確実にこの【見えない左腕】で仕留める!)

 

 動きは素早く、念の腕では本物とまた感覚が違うので、捉えきれない。ヒノの身体能力は確実にサダソよりも早い。それは念の有無に関わらず、だ。ならばどうするか?攻めてきた相手に、自由自在に動き、尚且つ近距離が最も動かしやすい【見えない左腕】で持って、捉える。一度捉えてしまえば、抗う術は無い。そうやって、サダソは勝ち星の全てをこの左腕で掴んで来た。

 

(今までの5勝と同じく、この勝負も、いただく!)

 

 圧倒的な速さで自分の懐に潜り込んで来た少女を、サダソは捉えた。今までこの少女は投げ技を多用している、故に最も警戒すべき態勢は分かっている。まだ打撃による攻撃の可能性もあったが、今目の前の姿を見る限り、その可能性は消えた。

 

 サダソ自身が回避するよりも早く、右足を軸に回転し、ヒノの手がサダソの右腕に伸びた。

 

(来た!ここだ!)

 

 予想通り!そうにやりと笑い、人体の制限など関係無いサダソの左腕は、確実にヒノを捕らえた。

 

「捕らえた、けどこれは予想外だよね?」

 

 刹那の瞬間にそう聞いた気がした。サダソは右腕を掴まれ、地面から体ごと浮かされ、空を漂っていた。

 

(………!?投げられている?なぜ?確かに捕まえた。ヒノは避けなかった。それなのに、捕えてない。それどころか、投げられている?俺の左腕は………………無い!?)

 

 なぜ?

 そう疑問符が占める中、確かにヒノの体を包み込んだ左腕に視線を向けてみれば、そこには何もない、ただばたばたと揺れるだけの、己の衣服の左袖があるのみだった………。

 

 それを知った瞬間、背中から地面に叩きつけられ、鋭い衝撃が全身を伝った。左腕に念を使っていた代償、動揺した代償、サダソは衝撃を防ぐ事も出来ず、その意識を手放すのだった。

 

「宣言通り、投げ仕留められたね♪」

『そこまでぇ!サダソ選手気絶によるKO!ヒノ選手の勝利いぃ!!』

 

 審判の叫ぶ勝利宣言と共に、莫大な歓声が舞台を包むのだった。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 一体、何が起こった?

 そう疑問に思うも当然の事だろう。目の前の現象を理解しようとすれば、到底常人の発想をでは答えにたどり着か無い。あらゆる可能性と、それを飛躍する発想が重要となってくる。

 

「すごいっす!結局ヒノさんは、相手を一撃で仕留めたっす!」

「けど………あっさりとやられすぎな気がするぜ。相手のサダソ、まるで最後の瞬間だけ()()()使()()()()()()ようにも見えた」

(流石、聡い子だ………)

 

 そうウイングが思うのも仕方の無い事だろう。キルアは今の時点で【凝】が使えない。にも拘わらず、この戦いの7割程を、その観察力と洞察力、そして直感と経験によって把握している。それを驚異的と言わずになんと言うべき事だろうか。事実、キルアの言葉は正しかった。

 

(正確に言えば、使わなかったでは無く、使えなかった。サダソの左腕は、ヒノさんに触れる瞬間に、まるで()()()()()()()ように見えましたけど………)

 

 今一つ確信が持てない。それがウイングの正直な感想だった。

 

 極少のオーラを、膨大なオーラで消し飛ばす、という例ならある。さながら津波が小さな波を飲み込み消し去るように。だが、サダソの左腕のオーラは決して小さなものではない。己の代名詞ともいえる念能力、物理的攻撃力を付与するだけでも、あの左腕に籠められた念は決して低くない。

 

 それに、ウイングから見てヒノは、ただ普通に【纏】をしているようにしか見えなかった。その状態からサダソの右腕を取り、ただ投げる。その一連の動作に無駄は無く、流麗な動きは、心源流の師範代であるウイングも感心する程だった。

 故に、あの動作の中でサダソに別の攻撃を加える要素は欠片も見えなかった。

 ウイングの観察力は高い。なのに、〝無駄の無い動きの投げ技〟という結論を出しながら、サダソの念をどうにかして〝同じタイミングで防いだ〟事に疑問を抱く。

 

(考えられるとしたら、サダソに突撃する前に既に準備は完了していた。その為あの投げの〝初動〟から〝決め〟に入る間は、無駄な動きをする必要が無かった。では、その準備とは何か?)

 

 サダソの左腕を、消し去る、破壊する、吹き飛ばす、言葉は違えど、ほぼ同義の意味合い。その準備。

 

(こればっかりは、ヒノさんに直接聞かなくては分からないですね。念能力は、時として人の常識を簡単に覆してしまう。このまま考え続けても、正しい答えは出ないでしょう)

 

 そう結論付けたウイングは、ふと笑い、弟子達を伴って、観客席を後にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 勝利宣言の後、舞台から降りて廊下を歩いていると、粘っこい声を掛けられた。

 

「やあヒノ、お疲れ♥」

「ヒソカ?最近見ないと思ったら、どうしたの?」

 

 言っておいてあれだけど、最近私は1階から200階の間をスピード出世で駆け上がっていた為、会わなくて当然と言えば当然。その間ヒソカは良い感じにゴン達が育つのを待って、200階で待っていたんだと思う。今月カストロさんと戦ったから、あと最高90日は戦う必要が無いみたいだし。

 悠々自適だねぇ。………あ、今勝ったから私もそうか。

 

「くくく♣相変わらずヒノのその能力、ちょっと反則じゃないかい?」

「念能力なんて、普通の人から見たら全部反則だと思うよ。それに比べたら私は良心的だと思う。だって普通の人には大して意味無いし」

「ふむ♠言われてみればそうかもしれないね♦」

 

 私の念は、他者の念を消す。消滅の念を作り出し、それを纏い戦える。

 

 サダソさんとの闘いでは、最後の突撃の刹那、全身に薄く【纏】の容量で纏い、念でできた左腕の攻撃を全身で受けとめ、そのまま消して、邪魔なく投げ飛ばせた。

 流石に自分の念が消えるなんて事を欠片も思っていなかったサダソさんは、結構動揺してあっさり投げられてくれたし、まあある意味ラッキーかな?

 

 しかしだよ?念を消すという事は、念を使わない一般時に対しては、別に使っても使わなくても、結果として大した変化は訪れない。そう考えると、他の能力と比べたらこの能力、一般人には優しいんじゃないのかな!?

 

「ま、十分それもおかしな部類だとは思うけどね♠」

 

「ヒソカがそれ言う?」

 

「僕の能力は、十分に応用も効く良い能力だと思っているさ♥でもヒノの念能力ってさぁ、まるで―――――――〝念能力者を殺す為に作った能力〟みたいじゃないかい?」

 

「………」

 

 その言葉を、ヒノは否定も肯定もしなかった。

 

 確かに、より有利に念能力者を打倒できるのは確実だろう。それでも身体能力や経験、能力の内容によっては簡単に勝率は覆る。だがそれでも大部分の念能力者、もしくは念使いに大して絶対的な優位性を持つ。

 否、優位性などでは無く、念能力者にとってこの少女は〝天敵〟だ。

 

「君は、何を考えてその能力を作ったのか、知りたいなぁ♥ヒノ、君の根底は、もしかしたら僕と同じなのかもしれないよ♠どうだい?」

「さぁ、どうだろうね」

「くく♥もしかて、怒ったかい?」

「別に怒っては無いよ。あ、そうだヒソカ」

「なんだい?」

「ちょっと顔思いっきり殴ってもいい?」

「………やっぱり怒ってるんじゃない?」

「怒ってはいないんだけど………………ん~、分からないんだよね」

「?」

 

 分からない?何が?

 その疑問をヒソカが口にするよりも早く、ヒノは続きの言葉を紡いだ。

 

「私の能力、覚えたんじゃなくて、最初から使えたからさ。物心ついた時から」

「――――」

 

 それは、一体何を意味するだろうか。

 

 それは可能なのか?一体どういう意味なのか?特質系?念を消し去るなんて可能なのか?でも実際に見たことも消されたこともあるし?物心、何歳から?黄金色の髪?最初から?出自は?そもそもこの少女は何者だ?紅い瞳?13歳?謎の交友?変な知り合い?

 

(特質系は類を見ない特別なオーラ♠個人主義の異端者が開花するケース♣それに血筋など一族でその系統を受け継ぐというケースとかも聞いた事あるけど、ヒノももしかしてその手のタイプ?)

 

「ヒノ、君は―――」

「さぁーてと!試合も終わったし、そろそろ部屋に帰ろうかな!ヒソカもまたね!」

「………ヒノ、天空闘技場(ここ)の闘い、次は僕と闘り合わないかい?」

「パス!キャンセル!それ却下ぁ!」

 

 明るく笑い、少女は即答三連続で誘いを断った。ヒソカにしては珍しく、殺伐とした〝殺り合い(ころしあい)〟ではなく純粋な〝闘り合い(たたかい)〟を提案したのだが、少女はそれに気づいてか気づかなくてか、結果的には断った。

 若干面食らいつつも、その言葉に少々物足りないような顔をしたヒソカは、その理由を聞いてみた。

 

「だって、ヒソカの顔面を殴る役目は、ゴンの方が先約だしね♪」

 

 そこにいるのは、心底楽しそうに友の活躍を楽しみにして笑う、ただの少女だった。

 

 

 

 

 

 

 


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