消す黄金の太陽、奪う白銀の月   作:DOS

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ヒノVSヒソカ、勃発


第3話『10億ジェニーのロイヤルアタック』

 

 

 

「すいませーん、ステーキ定食ください」

「あいよ、焼き方は?」

「弱火でじっくり」

「お客様、奥の部屋へどうぞ!」

 

 そう言われて、私達は案内された奥の部屋へと入る。中は何の変哲もないプレートの乗った机にステーキが焼かれている個室。が、店員が操作すると、扉が閉まると同時に下降する感覚を味わった。

 

 現在、私と暫定殺し屋(未確認)のキルアは、キリコに教えてもらった定食屋に入り、例の暗号によってハンター試験会場まで、エレベーター用に改造された個室に入って下降し続けていた。ちなみに、その間はプレートの上でぱちぱちと肉汁が弾けるステーキを美味しく頂いていたよ。どうやらタダみたいだし。

 

「しっかし、まさこんな所に試験会場があるとはな。てっきりヒノが腹減ったかと思ったぜ。さっきデパートで食料買い込んだばっかなのにさ」

「人を食いしん坊みたいに言わないでよ。そもそも買ったのだって保存食だし」

 

 まあ同性同年代と比べれば、食べる方なのかもしれないけど。

 ほら、念の消費量とか……やっぱそうでも無いかな?まあそれはそれとして、このステーキ美味しい。さすが(たぶん)ハンター協会系列のお店。肉が違うのかな。

 

「そういえば、キルアってなんでハンター試験受けに来たの?ハンターになりたいようには見えないけど」

「人の事言えるかよ。難関だって言うから、ちょっとおもしろそうだと思って来てみたんだよ。そういうヒノは何しに来たんだよ」

「私?ちょっと行きたい所があって。それにハンター証ってあると色々と使い道あるらしいしね」

「例えば?」

「確か、立ち入り禁止区域に入ったりできるんだって」

「それって使えるのかよ。立ち入り禁止区域とか、使わない奴は使わないだろ」

「……まあ色々使えるんだよ。分かったかね?」

「何偉そうにしてんだよ」

 

 本当にハンターについて何も知らないみたい。そもそも動機が面白そうって理由というのは、全世界数百万もいるハンター試験受験者を鼻で笑うような余裕な発言。まあハンター試験が実際どの程度難関かは分から無いけど、キルアは見た感じ戦闘能力っていう所は結構高そうだし。そこらへんの使い手じゃすぐにやられそう。まあ試験内容が頭を使う筆記試験とかそう言うのなら話は別だろうけど。

 

 そうこう雑談を交わしていると、チンと軽い音と共に扉が開き、試験会場に着いた事を知らせた。

 

 既に食べ終わったので、開いた扉を潜り抜けると、そこは細々とした明かりに照らされた暗い洞窟のような空間。洞窟、と言っても床も壁もコンクリートで舗装されているので不衛生というわけではないけど、まるで横半分に切った巨大なパイプの中にいるみたい。奥が暗くて向こうがわが見えないよ。

 

 そんな中に、およそ100人くらいの人が密集している。場所が広いから今は大丈夫そうだけど、受験者がこれ以上増えたら人口密度で暑苦しそうだね。

 

「番号札をどうぞ」

「あ、ありがとうございます」

 

 おそらくハンター協会の人(?)だと思われる緑色の人から、丸いバッジになっている番号札をもらう。キルアは先に受け取っていたらしく自身の服につけ、私も見てみると、『100』と、書かれていた。

 

「あ、くそっ。どうせなら順番逆だったらよかったのにな」

「キルア99番じゃない。私はゾロ目もいいと思うけど」

「じゃあ変えてくれよ」

「え?やだ」

「やっぱ気に入ってんじゃねーか!」

 

 普通に100番気に入ってるし。もちろんゾロ目もかっこいいと思うけど、交換したいという程でも無いかな?まあこれも日頃の行いとか、そんな感じのせいだよ、多分。

 

「やあ、君達新人だろ?」

 

 そうしてると、私とキルアは声をかけられた。声のした方向を向くと、四角っぽい顔をした小柄な男性の人。多分20代……は無さそうだから30代~40代くらいの人から。人の好さそうな笑みをしているけど、なんか胡散臭いと思ってしまう私は人の心に過敏なのか心が暗いのかな?

 キルアは当然、訝し気に尋ねる。

 

「おっさん誰?」

「ああ、俺はトンパ。この試験を君らくらいの頃から35回受けてる、いわばハンター試験のベテランさ。分からない事があったら気軽に聞いてくれ」

「はーい、質問」

「お、さっそくだね。なんだい嬢ちゃん」

「なんで35回も受けてるのに合格しないの?」

「「……」」

 

 隣でキルアが若干表情を引きつらせているけど、私そんなに変な事言ったかな?

 35回も受けているって事は、多分前半(最初の数回)はともかく後半はいい線まで言ってると思うし、この会場まで来れるって事は頭は悪く無いはず。現にトンパさんの番号札は16番と、かなり早い段階でここに来れてる。試験内容が毎年変わるにしても、35回も受ければそれなりの傾向とか対策も練れると思うし、逆になんで受からないのか不思議でならない。

 

 これが超絶に弱いなら最初の1回とか数回で即脱落して重傷を負ったり、もう試験を受けようとしないけど、何度も受ける精神力とかそこそこの身体能力とかあるみたいだから逆に不思議に思って質問したけど、何でキルアはそんなドン引きみたいな表情してるの?

 

「お前なぁ。そんなの普通思っても質問しねーよ。おっさんの事考えてやれよ。頑張って受けても受けても受けても受からない万年2位みたいな奴だっているんだから、察してやれよ」

「そう言うキルアも結構言うね。ほら、トンパさん引きつってるじゃない」

「最初のお前の発言からああだよ!」

「あ、あはは。俺は別に気にしないから大丈夫だよ。……ほんと、気にしてないから」

 

 先ほどと同じ笑みのトンパさんだが、やはり妙に引きつっている気がする。が、次の瞬間気持ちを切り替えたのか、表情を変えて自分の鞄をごそごそと探った。

 そして取り出したのが、フルーツの絵柄の描かれた缶ジュースだった。

 

「ほら、気を取り直して。お近づきの印だ、飲んでくれ」

 

 そう言って2本のジュースを私とキルアにくれ、自分も同じ柄のジュースを取り出して飲み始める。

 

「お、サンキュー」

 

 キルアは素直にそう言うと、さっそくカシュっとプルタプを開く。その瞬間、開いた口からわずかに広がった香りが、鼻腔を擽った。そして、脳内の中でそれを照合する。

 

(この匂い……毒掃丸?)

 

 キルアは開いたジュースを躊躇いなく飲み始める。それをトンパさんは満足そうに確認すると、じゃっ、と言って人ごみに紛れていった。そして私はというと……キルアに向かってジュースの缶を放り投げる。

 

 少し驚いたようなキルアだが、ジュースを片手で飲んだまま、見事に空いてる片手でキャッチした。

 

「キルア、そのジュース飲んでいいよ」

「ぷはぁ、いいのか?貴重な水分だぜ。飲んだ方がいいんじゃねーのか?」

 

 そう言うキルアの表情は、にやにやと人を小ばかにしたような笑みを浮かべている。そんなキルアをじっとりとした視線で見ながら、少し溜息混じりにひらひらと手を振る。

 

「いいの。好き好んで毒なんて飲みたくないし」

「何だ、知ってたのかよ。……ちっ」

 

 今舌打ち聞こえたんだけど?

 全く、人に毒を飲ませようとするなんて、ひどい事する(人の事言えません)ちなみに毒掃丸って今風に言えば下剤の事だよ。キルアは何が入ってるかは分からなかったみたいだけど、異物が入っているのは知ってたみたい。訓練してるらしいけど、下剤が利かないって事は普通の薬とかも効かないのかな?病気の時はどうするんだろ……まあ今は医学も優秀だし、なんとかなるでしょ。

 

 ちなみに私は匂いで分かったよ。料理とかするからかな。成分を嗅ぎ分けるってのは、割と得意なの(注意:常人には出来ません。しかもトンパ曰く無味無臭らしいです)

 

 まあさすがに匂いで追跡とかそんな警察犬みたいな事は出来ないけどね。

 そうこうしていると、また人が増えた気がする。わずか数分でも、数十人と増えた気がする。

 

「キルア、ちょっと暇だしそこらへん見てくるよ」

「(ごくごく)ん?ああ」

 

 一旦キルアと別れて、特に何の変哲もない地下道を歩く。と言っても、そんなに面白い物があるわけでもなく、受験者が周りにいるだけ。しいて言うなら歩くたびに様々な視線を向けられているくらいかな。男性がほとんど、女性はいるけどやはり少ない。その中でも子供(この場合は10代前半かそれ以下を指す)はもっと少ない。まあ当然と言えば当然。

 

 しかしこの暗い空間で何もしないでしばらく待つのはある意味拷問なのではないだろうか。まあ結構広いし今のところそんなに人口密度高くないから待つくらい私的にはいいんだけどね。

 

 

「やあ、ヒノじゃないか♥こんな所で奇遇だねぇ♦」

 

 

 前言撤回。やっぱり一刻も早くここから出たい!

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「そこにいたのは、旅団内変質者ランキング堂々1位を飾る変態|道化師≪ピエロ≫こと、ヒソカだった。妙な所で妙な奴に会ってしまったぜ全く。まあ思っても口には出さないけどね」

 

「声に出てるよ、ヒノ♠」

「えっ、ほんと?まあ、ヒソカだしいいよね」

「ひどいね♣」

 

 オールバックにして後頭部が跳ね上がったような髪型に、細い目の下にトランプマークのペイントを施した奇抜な格好の男は、奇術師ヒソカ。幻影旅団の4番にして、旅団内では最も快楽的で戦闘狂いな殺人鬼。当然念も修め、戦闘能力は圧倒的に高いが、それに伴い性格など様々な面が残念な男。おそらく旅団でヒソカと仲良しはいないであろうくらい。……多分いないんじゃない?

 

「ヒノ、また失礼な事考えているんじゃないのかい♦」

「え、そんな事無いけど。そういえばヒソカこんな所で何してるの?」

「それは僕のセリフだけど、ここにいるという事は君と同じ理由だと思うけどね♥」

 

 という事は、やっぱりハンター試験受けに来たってことかぁ。ヒソカがハンター……まあ人を狙うという意味ではハンターと言えばハンターだけど、なんか似合わないね。

 

 若干疲れたような表情をする私と正反対に、ヒソカは実に楽しそうに笑う。いつもぐにゃりと曲がったような笑みを浮かべているが、今日はいつにもまして輝いている気がする。

 

「まさか、こんな所で君に出会えるとは思わなかったよ♦前回の試験で落ちたかいがあったね♠」

「あれ、ヒソカ去年のハンター試験も受けたの?しかも落ちたの?どうせなんか失格になるような事わざわざしたんでしょ?」

「さらりとひどい事言うけど、まあそうだね♣ちょっと試験官を半殺しにしちゃってね♦」

 

 うん、そりゃ失格になるよ。むしろそれで続行させるようなら試験官の正気を疑うよ。 あ、その試験官を半殺しにしちゃったのか。

 どうせならまた余計な事して即退場とかにならないかな。あ、でも試験が中止になるような事だけはしないで欲しいな。あと私狙って攻撃したりしてくるのも。

 

「ねぇヒノ、実は今すごく暇しててね♠ちょっと、僕と遊ばないかい♥」

 

 非念能力者が多勢いる為、念の放出はしてこない。けど、その独特の雰囲気と威圧感は、それだけで周りの人間の視線を自分から強制的に逸らさせる。が、私は割と慣れているのでそんなことはない。あとどうでもいいけどヒソカがにぃっと笑うとなんだか顔に手抜き感がある気がする。

 

「やらないよ!そんなに遊びたかったら周りの人捕まえてよ」

 

 その瞬間私の周りから、「このガキ何言ってんだああぁ!?」みたいな視線を一斉に向けられたけど、あえて無視する!でも周りの人が可哀そうだから譲歩案を提示しようと思う。

 

「あ、じゃあポーカー1回やってヒソカが勝ったら少し付き合ってあげるよ」

「本当かい♦」

「うん。ちなみに負けたらやらないしヒソカ10億払ってね」

 

 マチのお株を奪う法外請求攻撃。幻影旅団のマチは他人の千切れた腕や足を、念糸を使って一瞬で治療する事が出来、そのたびにブ〇ックジャック級の数千万単位の法外な値段を請求するけど、さすがにここまで法外な料金は提示した事ないだろう。まあそれくらいの重傷を見たことが無いだけかもしれないけど。

 値段の事は少し冗談半分だったけど、目に見えてヒソカのテンションが上がっているのが分かった。

 

「くくく、楽しみだ♥カードは僕のを使うといいよ♦」

 

 そう言って、まさに奇術師の如くパラパラと手元に一組のトランプを出現させる。素の身体能力が高いので、手品か力業が微妙な所。まあそれでも普通に5枚ずつカードを配る。

 

 

「それじゃあ、始めようか、ヒノ♥」

「じゃ、交換一回勝負一回ね」

 

 

 こうして、私とヒソカのトランプ一本勝負は幕を開けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 そして私は勝ちました。当然の如く勝った!ロイヤルなカードで完封してやった。

 

 そして負けたヒソカは、口元は笑っているが雰囲気だけ残念そうにしている。

 

「そういえば今思い出したけど、ヒノが旅団員(かれら)とトランプ勝負をして負けてるのは見た事無いんだけど♠」

「そういえばそうだね。皆って意外と運悪いのかな?」

(そういう問題じゃないと思うけど♣)

 

 ヒソカはわずかに、毎回ヒノに勝ち星を捧げる旅団(特によく突っかかり負けるウヴォーやカードに弱いシャル)を珍しく同情するのだった。

 

「じゃあこれ口座だから入金しといてね。期限は次に会うまででいいよー」

「ちゃっかりしてるねぇ♥」

 

 そう言って、ヒソカのトランプの一枚に口座番号を書き記し渡す。ちょどメモ帳が無かったししょうがないよね?ヒソカトランプで攻撃するから何組も持ってるし。10組は堅いはず!

 

「じゃ、私はこれで。あんまり迷惑かけないでよ」

「君には基本何もしないさ♥他の受験者も、なんかつまらなそうなのばっかりだし♣ああでも、君が連れていた子は中々に美味しそうだったねぇ♥」

 

 べったりと粘り気が糸を引くような雰囲気を放出するヒソカ。知らない間にキルアがヒソカの脳内お気に入りフォルダに登録されたのだった。ちなみにこのお気に入りフォルダは別名、殺戮(たたかいたい)フォルダでもある。旅団の名前も当然入ってる。あと私も。

 

 まあ美味しそうって事は、まだ何かする気は無いみたいだけど。念も覚えていない相手はヒソカの相手としては論外。それが例え闇で生きる闇の住人だろうとも。だからキルアが成長するのを待ってから、闘いたいらしい。

 

 瞬間、私……ではなく、ヒソカに向かって一瞬、まるで蚊が鳴くようなか細い殺気が突き抜けた。あまりにも一瞬で、あまりにも素早い為に誰も気づく事は無かったけど、私が感じたのはとても濃密で濃い殺気。その方向をちらりと見れば……怖い!なんか全身顔面含めて針を突き刺してカタカタとくるみ割り人形みたいに口元を動かす人(?)がいる!何あのビジュアル!本当に人間?まだ誰かの武器とか言った方が説得力あるよ!

 

 あ、でもやっぱ人間だった。なんか念纏ってるから結構強そう。

 

 しかしなんでヒソカに向けて殺気を飛ばしたのか?何かまずい事言ったのかな?さっき話してたのはキルアの話題だし……て事はあの人(?)はキルアの関係者?……ま、そんな都合よく無いよね。というかあの顔でキルアの身内とか勘弁。

 

 とっくに殺気も消えてヒソカも針人間も、どちらも平然としているに問題はなさそう。 ここでドンパチ念能力者同士の戦いが始まるなら急いで避難しないといけないところだったよ。じゃないとこの場所、一瞬で血の海になる。まあ杞憂だったけど。

 

「じゃ、私行くから。ヒソカも暴れるのは程程にしなよ」

「くっくっく、まあ一応覚えておくよ♥」

 

 守るかどうかは別として、だよね?

 くるりと体を反転させて、私はヒソカから離れて人ごみに紛れるのだった。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「キルア、ただいま」

「あ、ヒ――てどうした!?なんかさっきより明らかに疲れてるぞ!?」

「……うん、ちょっとね。キルア、私少し休憩してくるよ」

「ああ……うん。しっかり休めよ」

 

 粘っこいヒソカの視線に晒されて妙に疲れた私に同情したのか、キルアはすんなりとした気遣いの言葉を見せてくれる。普段からこうだったらいいのにねぇ。まあお言葉に甘えて、私は人ごみに一旦紛れると同時に、壁を蹴って天井を通るパイプの一つに足をつける。

 

 人目を縫って音を消したから、おそらく誰にも気づかれていないはず。まあヒソカとか針の人くらいなら気づいたかもしれないけど、関係ないね。手で触れ、特にパイプがあまり汚れていない事を確認すると、壁に背を預けるようにして座り込んだ。

 

「ふぅ、少し落ち着く。じゃあ、少しだけおやすみなさい」

 

 おそらくもう少し増えるであろう眼下の受験者達を見ながら、ゆっくりと瞳を閉じて息を吐く。

 

 気づいたら、私は深い眠りについていた。

 

 

 ……そして盛大に寝過ごした。

 え、ほんと?マジで下に誰もいない!?キルアァー!

 

 

 

 

 

 

 ヒノ、1時間程遅れてスタート。先頭との差は、およそ10キロメートル。

 

 

 

 

 

 

 

 




ヒソカは10億ジェニーを失った。
冗談半分でヒノは10億ジェニーを手に入れた。

10億ジェニーのポーカー勝負って響きがすごいね。

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