消す黄金の太陽、奪う白銀の月   作:DOS

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昨日の今日でお気に入りが500を超えた事に思わず目を疑ってしまいました。


第30話『銀月の少年』

 

 

「というわけで、私はサダソを倒す事ができましたと。やったね!」

「えっと………ヒノ?正直戦って勝ったくらいしか分からないんだけど。あ、おめでとう」

「そりゃ、念に関する情報を省いて説明すれば、わけもわからなくなるだろーぜ」

 

 そんな時は感覚とフィーリング、後は野生の勘と第六感!そこらへんを駆使すれば、ゴンならばきっと理解できるはず。考えるな、感じろ!ってね♪

 

 現在私とキルアはゴンの部屋に来て、先日行われたサダソ戦について、当事者である私から説明したよ。まあ、色々と諸事情により省いたんだけど、流石に分からないかな。

 

「いや、分かるわけねーだろ!?自分で言った説明思い返してみろよ!『サダソの攻撃を避けた。サダソに突撃した。サダソの攻撃防いだ。サダソの右腕を取って投げた!地面にぶつけてKO勝利!』って、言葉覚えたてのガキかよ!?こんなんで戦いを理解しろって言う方が無理に決まってるだろ!?」

 

 ううむ、流石に言葉足らず過ぎたかな?でもゴンは今、ウイングさんと念の修行をする事も、念に関して調べたり詮索する事も禁止されているし。念を調べる事に牴触するという事で、念能力者同士の試合も見れなかったし。とすれば可能な言葉を選んで伝えるしか無くない?

 

 黙っていればばれない、と言っても流石にそれで約束を破ったりするつもりは私に無いし、ゴンも断固として拒否する事だし。

 

「そういえば気になってたけど、ゴンの指に巻いてあるそれ何?あやとり?」

「あやとり?ううん。これウイングさんに巻いてもらったの。誓いの糸って言ってね、約束を破らないおまじないなんだって。これ見てると落ち着くんだぁ」

「ふーん」

 

 何の変哲も無い赤い糸。に見えるけど………これって、【神字】の書かれた糸?ウイングさんが巻いたって言ってたし、ウイングさんが書いたっぽいね。

 

 【神字】は、念能力をサポートするための特殊な文字。と言ってもただボールペンを使って書けばいいというわけでも無く、念を込めながら記していくという。それにより、様々な条件を宿し、様々な効力を発揮するけど、私もそんなに詳しいわけじゃない。

 

 だけど私義兄(あに)のジェイは、鍛冶をする時に念を使い、念能力を補助する役目を当初より付与する事に成功した特殊な刀、【神字刀(シンジトウ)】を作ることができるらしい。具体的にどういう使い方をするのか知らないけど、【神字】自体色々と便利な物だっていうのは聞いた事ある。

 

 けど、それをゴンに説明したら念について調べた事になる。

 

 おそらくウイングさんがこの糸に籠めたのは、『【纏】をすれば切れる』というのが一番簡単か?『念を使用する』というルールだと、人は何もしなくても常時念を垂れ流しているので、このルールに抵触して切れる恐れがあるから、多分【纏】をするかどうかを鍵にしたんだと思う。

 

 あ、でも熟練者ならゴンが念について詮索するだけでも切れるようにできるかも。実際にウイングさんがどの程度の使い手か分からないし。流石に初対面でその人の【神字】熟練度を計れと言われても無理だよね?

 

 まあ実際はどうであれ、念に関する事だから一応黙っていよう。

 

「それで、ヒノは今後どうするんだ?」

「どうするって?」

「俺とゴンはまだ念を教わる目的があるからここにいるけど、お前はそもそもなんで闘技場に来たんだ?俺達と同じで金でも困ってたのか?」

「まっさかぁ。ちょっと前にヒソカから10億くらいふんだくったばかりだからお金には困ってないって」

「「………………」」

 

 あれ?ちょっとした御茶目な感じで空気を和ませたかったんだけど、失敗した?

 

「ヒノってさ、もしかしてヒソカと知り合い………だったりする?」

 

 ここで選択肢が現れた。

 

 ①うん、そうだよ!

 ②ううん、違うよ!

 

 これはどちらを選択するべきか………。この二人にたいしてどっちが正解か!ヒソカと同類だと思われるのは困るけど、素直に違うと言って納得してくれるか?いや、信じるんだ!普段の自分の行いを!

 

「ていうかお前絶対知り合いだろ。ハンター試験の受験生で念使えるのヒソカとイルミ(兄貴)とお前だけだったし、これで全く知らないとか通らねーからな」

 

 普通にばれてたー!よく考えればそうだよね。念能力者なら相手が念能力者かどうか判別できる。ならば、ヒソカがヒノ、つまり私に注目しない訳は無い!以前からの知り合いじゃなくても、ハンター試験でそこそこの知り合いになっていてもおかしくないと。

 

「えっと………」

「ヒノ!本当にヒソカと知り合いだったの!」

「いや、あのさ………」

「さあ吐け!実はヒソカと知り合いなんだろ!どうなんだ!おとなしく吐いて楽になっちまいな!」

「だからさ………あれは………」

「ヒノオオォ!」

「………うん、そうだよ。携帯番号も知ってるよ。折角だから電話してここに呼――――」

「「それだけは勘弁してください!!」」

「あ、うん。わかった」

 

 超絶的に全力で否定されてしまった。当然と言えば当然。私も逆の立場だったら全力で断る。

 

「まあ冗談は置いておいて、知り合いって言ってもあれだよ?知ってる人の知ってる人がヒソカだったってだけで」

「それでも結構近い関係だと思うけどな」

「そういうキルアだって、キルアの兄のイルミさんの知り合いなんだよ、ヒソカって。そう考えたらキルアとヒソカの関係も私より近いと思うけど」

「うぐっ!」

「………確かに」

「ゴン!納得するな!」

 

 ちなみに知り合いというのは普通に旅団だよ。まあ私が旅団と知り合ったのは6歳とか7歳とかその辺りだったから、当時はヒソカいなかったんだけどね。途中で入って来たよあのピエロマン。

 

 あ、知り合いで思い出した。

 

「キルアキルア、ちょっとピースとかして」

「ん?こうか?」ピース

 

 カシャッ!

 

「………送信」カチカチ…ピロン♪

「ちょ、待て。お前今何をした………」

「え?折角だしイルミさんとカナリアにキルアの写真送ってあげたんだけど」

「はぁ!?てめ、何しやが「あ、返信来た。二人とも早いね」おい!」

 

 どれ、最初にカナリアからの返信はっと。

 

[キルア様に、お体に気を付ける様言っておいて。後奥様が「キル、新しい拷問器具が届いたから一度見に帰っていらっしゃい♥」って言ってたわ]

 

「だってさ」

「お袋の言う事は無視しとけって返信しといてくれ」

「(拷問器具?)ていうかヒノよくカナリアのアドレス知ってたね」

 

 ふふふ。実はキルアの家に行った時、番号とアドレス交換しておいたのさ!実はキルアの家を出てからもちょくちょくメールとかしていたり………。

 

「それで、兄貴の方はなんだって?」

「えっと………なんか10万ジェニー私の口座に振り込まれたんだけど」

「ヒノ、イルミ(そいつ)のアドレス受信拒否にしていいぜ」

 

 これはあれか、キルアの写真を送ってありがとうという事なのだろうか。それとも手切れ金か、もしくはこれでもっとキルアの写真、もしくは動画を送って来いと?ううむ、あの人基本表情が変わらないしメールの文面からだと読み取りにくい。

 

 でも一枚送って10万くれるのならこれはなかなか―――。

 

「ヒノ、次に兄貴に俺の写真送ったら絶交な」

「イルミさんのアドレス削除っと」

「切り替え早いね!?」

 

 当然!お金で友達も友情も変えないからね!ごめんねイルミさん。キキョウさんと同じようにカナリアに見せてもらってね。もしくはヒソカにお願いするべきだね。今ならキルア暫く天空闘技場にいるからチャンスだから。

 

「さってと、私はそろそろ出かけて来るね」

「どこ行くの?」

「ふふふ、ゴン、私がただこの闘技場に遊びに来ただけだと思ってる?」

「えっと、実は少し………」

「………そう」

 

 そう思われていたんだ。まあ確かに200階まで上がって戦う必要は皆無だったから、現状遊んでいると言えば遊んでいるけど。武者修行でも念の修行でも無く、ある意味茶番に付き合っている感!しかしこう、ゴンに言われると少ししゅんとする。

 

「あ、いや!別に遊びとかなんとなくでもいいと思うんだ、俺!俺達だって修行とかお金稼ぎとかで最初来たんだし、理由は人それぞれだよ!」

「うぅ………ゴン、ありがとね」

 

 この子本当にいい子だね。思わず念についてぽろっと零しそうになったけど、頑張って飲み込んだ私えらい!

 

「それで、結局何しに来たんだ?」

「ああ、それそれ。人探しだよ、人。というわけで、行ってくるね~」

 

 言うだけ言って、私はゴンの部屋から出ていくのであった。

 

 後に残ったゴンとキルアは、顔を見合わせ、首を傾げているだろうけど、それは私のあずかり知らぬところだった。さあ、情報収集だ!

 

 そして数日――――

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

「………えっと、確かこの階……だっけ?」

 

 キョロキョロと辺りを見渡しながら、私は通路を歩いている。今いるのは、天空闘技場の200階よりもはるか下の、70階に位置する階層。勝てば数十万は貰って上に上がり、負ければ10階ダウンの天空闘技場でもまだまだイージーなフロア。

 

 なんでこんな所に来ているかと言うと、見知った顔がこの階にいるかもしれないから。

 一人テレビで探し人をしていたら、この近辺で戦っている人物を見かけた。

 

 余談だけど天空闘技場のテレビは通常のテレビ放送に加え、天空闘技場で行わられている戦いの全てを見る事ができる。実際にヒソカの試合を見ていないゴンも、録画をして後から見る事ができるという、なんて便利なシステム!流石天空闘技場!

 

 あ、ちなみにゴンとキルアはの二人は、ゴンの2ヶ月念禁止令が解放されたことにより、今日はウイングさんの宿に行って念の修行をしているみたい。時間が経つのあっという間だね。今日はもう暗いから明日は様子見に行ってみようっと!

 

 一度来たことあるので、控室のある場所は一応頭の中に入っている。というわけで、前方に見えてきた控室の中を見てみると、今の200階ではあまり見慣れないけど天空闘技場ではよく見かける光景、つまりはいかつい男達の集まりである。

 

 これはこれで懐かしい。私はすごく浮いていたよ。多分ゴンやキルア、ズシもそうだったと思うけど!

 中に入ると、人の視線が一斉に突き刺さった。

 

「ん?またガキが来たぜ」

「待て!あいつ200階のヒノだぜ!!」

「マジかよ!!例の怪物少女か………」

「………本物は可愛いな」

「確かまだ200階で1勝しただけで負けてないはずだが………」

「一体何しにこんなところに?」

 

 70階の闘士達が口々に驚きと賛辞の声を上げる中、私は入口から周りを見渡しているけど、目的の人物は見当たらない。う~ん、当てが外れたかな?それとも死角にいるだけ?とりあえず手前にいた男性に聞いてみることにした。

 

「あの~、すいませ~ん」

「えっ、オレ!?な………なんだ?」

「ここにミヅキって人いる?」

「え!ミヅキ?ま……まあいるが。おーいミヅキ!客だぞー!!」

 

 これは意外と早くアタリを引いてしまった!短髪の男性が大声を出すと、並んだロッカーの向こうのスペースから、緩い声が聞こえてきた。

 

「ん………?ジゴー、声でかい。部屋の中なんだから聞こえるって………」

「なに寝てんだよ。ほら、可愛いお客さんだぜ」

 

 ジゴー、と呼ばれた短髪の男性に連れられてやってきたのは、私のよく知る、久しく会う少年だった。

 

 全体的に不思議な印象を纏い、キルアに比べると灰色に近い銀色の髪をした、私と同い年の蒼い瞳の少年。寝起きだったのか若干眠そうな顔をしているが、私の顔を見るとぱちくりと瞬いた。

 

「おはよっ、ミヅキ」

「んー………ん?あれ?ヒノ?………………………………くぅ」

「「「「「寝るなぁーーーーーーー!!」」」」」

 

 気づけば、私と控室の男達で、叫んでいた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「ああ、ヒノ。久しぶり。ごめんごめん。ちょっと眠かったからさ」

「寝ないでよ!せっかくここまできたのに!」

「そうだぜミヅキ。はるばる(?)200階から来てくれたのに無下にするんじゃねえよ」

 

 やれやれ、という風に肩を竦める70階の闘士ジゴーだが、特に意に返さず小さく欠伸を噛み殺した。本格的に寝ていたわけでは無く、ちょっと浅く眠っていたらしい。それでもミヅキ基本寝起きはぼーっとしてるから、少しだけ目を覚まさせるのに苦労しちゃったよ。

 

「全く!遠路はるばるジャポンから会いに来たんだから、しゃきっとしてよね」

「遠路はるばる来たわりに、なんで200階まで登ってるの?」

「うっ………………………まあそれは置いといて」

 

(((((ごまかした)))))

 

 いや、だってさぁ。ヒソカが、さ。ファイトマネーが出るとか言うし。別に登る気は無かったけど、闘うだけでお金貰えるって言うなら折角だし行くでしょ!?記念だし!?(普通は記念に200階まで登りません)

 

 あと一応言っておくと別に私お金貰えればなんでもするわけじゃないからね?今はオークションで遊びたいからちょっと稼ごうかな?って思ってるだけだから!

 

 ミヅキはあまり表情を変えていないけど、何となく呆れてる様子が伝わってくるよ。隣のジゴーさんは、少し会話に混ざろうと恐る恐るという感じでミヅキの肩を叩いた。

 

「なあミヅキ、この子お前の知り合いか?どういう関係?200階の闘士だぜ?彼女?」

「僕の妹」

「なんだ、妹か………………………………妹!!」

「「「「「なにいいぃ!?」」」」」

 

 ミヅキの妹発言に、固唾をのんで聞き耳を立てていた選手達の声で、控室は驚きに包まれた。というかわらわらと集まってきている。か、囲まれた!?みたいな?………少し暑苦しい。

 

「妹だと!?お前妹いたのか!?しかも200階のヒノ?」

「お前兄貴なのにこの階かよ!?情けねーやつだ「うるさい」ぐへらぁ!」

 

 多分手の届く所にいたというだけの理由で、野次馬の一人にミヅキの肘鉄がクリーンヒットした。無警戒だっただけに、あれは会心の一撃だね!

 

 で、この少年が私の実兄、ミヅキ=アマハラ、13歳。双子の兄にあたるよ。

 

 ジェイとは違い、ミヅキの場合は完全に血がつながっている兄妹らしい。あと顔立ちも結構似ているってよく言われる。実際はどうか分からないけど、自分じゃよく分からないかな。

 

 それにしても―――、

 

「なんで70階にいるの?私も行ったんだし、ミヅキだったら200階くらいすぐじゃないの?結構前からここにいるってシンリ言ってたよ?」

「まあそうなんだけど200階にいかないのには理由(わけ)がある」

「何?」

「ファイトマネー出ないから」

 

 断固として譲らない!というようなミヅキのセリフに………………思わず「しょうがないよね♪」と思ってしまった私は悪くないはず!でも、ミヅキいつから天空闘技場(ここ)にいるんだろ?

 

「………ミヅキっていつからここにいるの?」

「んー………………2、3ヶ月くらい前からかな?」

「よくそれで200階に行けないね」

「それは勝ったり負けたりして1階から190階を何往復かしてるからな」

 

 なんかこの子さらっととんでもない事を言っている気がするよ。これスタッフに聞かれたら色々とまずい気がするんだけど?どうなんだろう?

 

 隣にいたジゴーさんは、ミヅキの言葉に聞き捨てならない、という風に声を出した。

 

「おいミヅキ。それじゃお前がまるで200階並に強いって言ってるようなものじゃないかよ」

「そうだけど?」

「お前の戦い見てるとそうは見えねえぜ。いつも負けるときはボロボロにされてるじゃねえか」

「ボロボロって………まさかミヅキ。もしかして………」

「ん?もちろんだけど」

 

 う、ん。

 これはどうしたらいいかな。まあ確かにわざと負けている事はバレないとは思うけど、ていうかここってわざと負けてもいいのかな?ヒソカの不戦敗が認められるならここでわざと負けるのも案外許されるか。でもそれを何往復もしたら流石に天空闘技場的にアウトな気がするけど………。

 

『ミヅキ様、ゴーグ様。76階闘技場へお越し下さい』

 

 そうこうしていたら、控え室備え付けのスピーカーからアナウンスがかかった。

 

「呼ばれた。行ってくる」

「頑張ってね」

「とっとと勝ってこいよな」

「了解」

 

 後ろ手に、特に何か思う様には見えず、ひらひらと手を振ってミヅキは控室を出ていくのであった。

 さて、どうなるかな?

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 場所は変わって闘技場をぐるりと囲む観客席。私とジゴーさんとその他数人は、ここからミヅキの戦いを見ることにした。

 

「ねえ、ジゴーさんは戦わないの?」

「ああ、オレはもう戦ったからな。今日はおそらくもうねえはずだ」

「あ、なるほど」

 

 ここで何度か戦えば、その日におよそどれくらい戦いがあるのかもわかるらしい。私はとりあえず最速記録を塗り替えるようにして駆け上がったので、その辺り細かいことは全く知らない。というか知らなくても200階に行けば問題無かったし!

 

 そして時間になり、リングに二人の選手が上がってきた。一人は先ほど別れたミヅキ。もう一人はミヅキよりも明らかに大きい大人の男性。向かい合い、観客の声援と同時に解説の声が響く。

 

『さあやってきました。大人と子供の組み合わせ!しかしミヅキ選手はこれまで何度も190階まで到達して惜しくも敗北した実力者。対するゴーグ選手も170階では敗退し再びこの階まで上がってきた強者です。これはどちらが勝つのでしょうか』

 

 ホントに何回も上がったのか。ていうか私とは運悪く会わなかったね。それに話した様子だとゴンやキルア、ズシとも多分会ってない。ズシはまだ200階未満を移動中だから、会ってもよさそうだと思うけど。ちょっと二人が戦う所を見て見たいね。

 

 そういえば190階くらいまで行けば軽く億を超えるほどファイトマネーがもらえたけど、それを何回も繰り返したならどれくらいミヅキの財布に入ってるのだろうか?………………後で通帳も見せてもらおう。

 

『それでは、始め!!』

 

「うらぁ!」

 

 先制攻撃!

 開始と同時に、ゴーグさんはミヅキに近づき、丸太のような剛腕の拳を放つ。巨体通り、パワーはありそうだけどあまり早くない攻撃。だけど、ミヅキは腕をクロスさせるようにして防御するけど、相手のパワーに少し押されている。

 

「ガキだろうが、容赦はしないぜ!!」

「それはどう、も!」

 

 体を捻り、片足を軸にして回転して、ミヅキは回し蹴りをゴーグに叩き込んだ。

 

「甘いぜ!」

 

 けど、回し蹴りを防いだゴーグさんは、さっきのミヅキよりも押される。明らかに体重差のある相手に対して後退させるという事は、それ相応の力をミヅキが持っているという事。ゴーグさんはその事に一瞬驚いたが、大したダメージにはなっていないのか、歯を出してにやりと笑う。

 

『おおっと!ゴーグ選手の先制攻撃をかろうじて防いだミヅキ選手のカウンター!しかしその攻撃も、僅かに後退させるだけに留まり、ゴーグ選手に大したダメージは見られません!』

「中々重い一撃だな、ガキ!だがな!」

 

 カウンター気味に放った拳が、ミヅキの頬を打った。

 

 ゴスゥ!!

 

『クリーンヒット!』

「あ痛!今のはまともに入ったな。まあこれくらいじゃまだミヅキは倒れないと思うが」

「そうだね。私もそう思う」

 

 これくらいじゃまだ、ね。

 

 闘技場の上では、打たれた頬に痣ができたミヅキが、腕を曲げ、肘をゴーグさんに食らわした。攻撃したすぐ後だったからか、ゴーグさんの水月にもろに喰らった。これは流石に痛そう………。

 

『クリティカルヒット』

 

 これでゴーグさん1点に対して、ミヅキが2点。ポイント上では上回っているけど、果たしてこの試合は10ポイント取るまで続くか、その前に終わるか。

 

「ぐうぉ!………やりやがったなぁ!!」

 

 怒り気味に、連続で拳を振るいミヅキを狙う。肩や腕を巧みに動かして防御するが、防御しきれいていないのか、腕にも痣ができ、口元にはたらりと血が垂れる。それでも地に足を付けて立っているミヅキに、観客は惜しみない声援を送っている。その瞳は、まだ勝ちを諦めてはいない!

 

 ………………………。

 

「おらぁ!止めだあぁ!!」

「―――――」

 

 鋭く小さい呼気の音が、僅かに聞こえたような気がした。

 渾身の、大振りの一撃。相手が満身創痍だからこそ有効に、分かりやすい攻撃。しかしその攻撃を、腕を当てて逸らすようにして、ミヅキは掌底を、ゴーグの水月に当てた!

 

「ふぅ――――せいっ!」

「ぐおぉ………………」

 

 小さく呻く。

 瞳を見開いたまま、ゴーグはずるりと体を崩して、堅い闘技場の上に倒れた。それを見下ろすミヅキは、肩で息をしていたが徐々に落ち着き、大きく息を吐いたと同時に審判の声が響いた。

 

『それまでぇ!ゴーグ選手戦闘不能によるダウン!凄まじい激闘を制したた、ミヅキ選手のKO勝利!!」

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「ただいま」

 

 特に嬉しそうにしているわけでも悔しがるわけでも疲れているようにするわけでも無く、無表情のままでひらひらと手を振りながら、ミヅキは舞台から降りて廊下に出てきた。その全身はボロボロと崩れており、痣や血の痕が所々にあり、町中を歩いたら大人に担ぎ込まれて病院に連れていかれそうな格好をしている。

 まあ天空闘技場では割とよく見かける光景だね。ちょっと度合が多いくらいで。

 

「お疲れ様」

「よう、ミヅキ。今回は結構苦戦したな」

「そうでもないよ」

「ははは、強がんなよ。ボロボロじゃねえか」

 

 肩をバシバシと叩きながら、まるで兄貴分と言った感じで笑うジゴーさん。包帯やら絆創膏やらくっついているミヅキだが、特に肩を叩かれた事に関しては問題無いらしい。まあ、そりゃそうだよね。

 

「さてと、ミヅキ。今どこに泊まってるの?」

「ん?町にある宿屋かな」

「じゃあ私今200階に泊まってるからそこ行かない?広いから問題ないよ」

「200階かぁ、折角だし登ってみたかったんだ。よし行こう」

「じゃあなミヅキ。明日になったら80階で会おうぜ」

「またな、ジゴー」

「じゃあね」

 

 お互いファイトマネーをもらいつつ、ジゴーは自分の宿へ、ミヅキは私と一緒に200階へと向かうのであった。

 そう言えば普通に誘ったけど200闘士じゃない人が200階に泊ってもいいのかな?まあ同じ天空闘技場の闘士だし身内だし、問題無いよね。後はこんな言葉がある。バレなければいい!って。

 

 エレベーターに乗り、100を超えて増えていく階数表示のランプを眺めていた。

 

「………ねえミヅキ」

 

 私は、エレベーターの中で、自分にまかれている包帯をくるくると解いてるミヅキに話しかける。

 

「ん?どうした」

「正直面倒じゃないの?行ったり来たりするって。私は面倒だし普通に上がったけど」

 

 同じような事をしろと言われても、私はする気は無いしね。普通に疲れるし、なんだか逆に手間がかかるような気がするし。まあ普通の学生がバイトをするよりかはバカみたいな方法で稼いでると言えば稼いでいるけど。これも一つの才能を生かしたバイトみたいな物なんだろうか?

 

 私の言葉に少しだけ考える風に手が止まったが、再びミヅキは、頬に貼られたシップ、腕に巻かれた包帯や絆創膏を剥がしていく。そして呟くように、言葉を発する。

 

「そうだな。でも戦うのは割と楽しいし、何よりそれに合う報酬があるなら―――」

 

 手を動かし、自分の全身につけられた包帯や絆創膏などを全て剥がし終えたミヅキは、エレベーターに備え付けの全身鏡を見る。ふと見て見れば、鏡の中の自分がにやりと、楽し気に笑った。

 

「悪くない!」

 

 そこに映るミヅキの姿は、頬も腕も、怪我一つ無い、まるで最初から傷一つ無かったかのような、五体満足な姿が映っていたのだった。

 

 

 

 

 

 




ミヅキ「そういえば明日はどうする?」
ヒノ「楽しい修行見学♪」

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