消す黄金の太陽、奪う白銀の月   作:DOS

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天空闘技場もおそらく後少しで終わりそう。


第32話『バターナイフの脅迫状』

 

 

 

『さあぁ、やってきました世紀の決戦!天空闘技場を駆け上がる少年闘士の一人、キルア選手VS先日ヒノ選手に敗北し5勝2敗、まずまずの成績を残す、サダソ選手!』

 

 若干解説に悪意があるような、そして解説は色々誇張し過ぎるような気がしたが、特に気にしない。キルはいつも通りのベストコンディション、いや、いつもよりもやや、楽しそうだった。

 

「ふふふ、今日は()()()()()()()ね、キルアちゃん♪」

「ああ、()()()()()()ぜ」

 

 

 サダソは思っている。これは勝ち戦だ、と。

 

 勝者の決定している、いわゆる八百長試合だと。だが、そんな事など関係ない。どんな手段を使っても、どんな方法を使っても、確実に勝つ。先日ヒノに負けた事により、後1敗でもすればもう後が無い状態。この戦いでキルアに勝ち、ゴンに勝ち、そしてヒノにもリベンジする。無論、確実に勝てるように策を巡らせて。

 

 そうさ、これは知の闘い。正々堂々、まっすぐ正面から戦い勝とうなんて、愚か者のする事だ。

 三日月のように口元に笑みを浮かべ、サダソはオーラを纏う。臨戦態勢、だがそれは、百獣の王が小さな兎を刈り取るような、圧倒的油断と慢心に満ちた戦いの構え。

 

 

 

 

 

 そしてキルアも考えていた。

 

 

 やる事はただ一つ………………………サダソ(やろう)を問答無用でぶちのめす!

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 「――――――」

 

 一度だけ深く息を吸い、小さく吐きつつ止める。開いていた目を徐々に細め、その中の瞳は闇を映し出すかのような色に染まっていく。カチリと、僅かにスイッチが切り替わったような気がした。と言ってもこの場は大衆の場、最悪の事態は………起こらない。

 

 瞬間、キルアはサダソの背後を取った。サダソから見れば、神速、とでも形容するような移動スピード。人の意識の死角に滑り込み、無音の歩行で移動したキルアは、容易に取ったサダソの背中に腕を振り下ろし―――

 

 ――――――その心臓を抉り抜いた。

 

「―――――――――!!?」

 

 前へと飛び出して背後を振り返ったサダソは、瞳を見開き目の前の光景を再確認する。 さっきまで自分がいた場所の背後、今は眼前にいるのはキルア。ちょうど、試合開始時と位置が入れ替わった形になる。

 

 しかしサダソは全身に冷や汗を浮かべ、呼吸は荒くなる。

 恐る恐る、右手で己の左胸に触れると、体の中で早鐘のように打つ鼓動を感じた。己の心臓は、確かにここにある。それを再確認したと同時に、先程の光景がフラッシュバックする。

 

 あの一瞬、確かに自分は背後から心臓を抉り取られた。そう錯覚するほどに、自分にのみ絞って、濃密な殺気が突き刺さった。一般人には出せない、闇に生きる世界の住人の気配。

 

「そう怯えるなよ。今のはただの挨拶みたいなもんだ。だけどな………」

 

 目の前にいるのは、本当に子供なのか?その疑問が頭の中を敷き詰めるも、答えは生まれない。否、言語として認識する事など無く、全身が震えあがり、凶悪な刃を首筋に突き立てられているかのように錯覚する。それだけで回答など十分だった。その事に、観客も解説も審判も気づかない。

 当然だ、今の時点でキルアは何もしていない。ただ見つめているだけ。

 

 ただこの後、サダソは自分がどうなるかを予想できていた。

 

「てめぇが天空闘技場(ここ)からおさらばしたくなるまで、脅して(あそんで)やるよ」

 

 何が200階闘士だ、何がフロアマスターだ、何がバトルオリンピアだ、何が名誉だ!そんな物に、なんの意味も無いことを今更ながらに知った。

 

「ま――――――」

「いったなんて、情けねー事言うなよ。そうなれば、俺はお前を追いかける。どこまで逃げても、必ずな。そうしたくなければ、闘いな。俺の気が済むまで、付き合ってもらうぜ!」

 

 振り絞って小さく漏れるような言葉も、先んじて制される。

 虚偽などでは無く、本気の目。

 

 例え【見えない左腕】を使用したとしても、容易に潜り抜けて、心臓を掴みだすだろう。例え縦横無尽に動き出そうとしても、この狭い舞台の上に逃げ道など無い。

 

 ヒノとの戦いなど、まだかわいい方だったと今なら言えるだろう。。それは実力云々の話では無く、戦いに臨む姿勢。彼女のそれは本気で子供が遊ぶ、その程度の認識だっただろう。だが目の前の少年は、確実に仕留める気でいる、そう感じた。180度対極に、凍てつく吹雪のような冷たい視線。

 

(俺は、喧嘩を売ってはいけない相手に売ってしまった………)

 

 絶望の淵に立たされたサダソに、抗う術は残されていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

「これで、サダソはこの試合が終われば、天空闘技場(ここ)を去るでしょう。彼はどす黒い名誉などよりも、己の命を優先した。もう大丈夫ですよ、ゴン君」

「はい!」

 

 観客席で戦い、というよりも一方的な試合ではあったが、見守っていたウイングの言葉に、ゴンは喜びを表現して笑う。

 

 実際に戦えば、キルアとサダソの闘いがただの闘いではない事はウイングにはすぐにわかるだろうと、ゴンもキルアも思った。だからあえてウイングを観客席に誘い、話を打ち明けた。ズシが一度人質に取られた事、それにより、サダソ達と試合を組まされた事を。

 

「ごめんなさい、ウイングさん。でも俺達………」

「いえ、今回の事はズシが世話になりましたし、弟子の責任は師匠である私の責任。それにゴン君もキルア君も、私の出した課題である【凝】の会得をクリアしました。どの日で試合をしようとも、それは君達の自由。でもやはり、私から君達に一言言わせてもらえれば………本当に、ありがとう」

 

 己の弟子の為に、子供たちの可能性を汚させる所だった。

 それでもなお、姑息な手段に屈しようとも、体を張って己じゃない誰かを守ってくれた。そこに感謝の念があれど、咎めるなど筋違いだ。

 

 ウイングの言葉に、ゴンは肩の荷が降りたように、ほっとしたのだった。

 

「ズシには黙っていてください。もっと成長したら、その時は話してあげるとしましょう。今のあの子に必要なのは、集中して修行をする事。知らないのであればその方がいい、ですね?」

「うん!」

「それにしても、彼女達は大丈夫ですかね」

 

 ふとそう呟いたが、笑うその言葉に含まれた真意に、心配など微塵も感じられない。それは薄情な事は一切無く、その者の実力を、深く評価しているから。

 ウイングの言葉に同意を示し、ゴンも笑顔を、今この場にいない二人に向けた。

 

(後は頼んだよ、ヒノ、ミヅキ!)

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

「どういう事だ!この試合、キルアはわざと負ける手はずじゃなかったのか!?」

「む………むぅ、確かに………」

 

 200階闘士が利用する一室で、キルアとサダソの試合を映す映像を見ながら、車椅子に載った200階闘士、リールベルトは、そばにいる同じ200階闘士ギドに声を荒げる。しかしそれに対するギドの答えも、曖昧。当然だが、彼らにもこの事態の原因が全く分かっていないから。

 

 彼らの脅迫を反故にして、キルアは己の勝利を取った。ならば、こちらとしては、さらなる強硬手段にでるしか道は残されていない。

 

「このままじゃゴン戦もどうなるかわかったもんじゃない。こうなったら、もう一度あのズシってガキを攫うしか無いな。約束を守らなかった、奴らが悪い」

「それはおかしいね。先に約束を破ったのはそっちだって、キルア言ってたけど」

「「!?」」

 

 突然の声に身構えたが、既に時遅かった。ギドとリールベルト、二人の首筋に当てられた、銀色のナイフ。200階闘士が泊っている部屋では完備されている、どこにでもある食器。だが今突き出されたそれは、どんな鋭利な刀よりも、はるかに危険に感じた。

 

 しかし気になったのはそこだけではなく、先ほど聞こえた少女の声が、入り口から聞こえた事。視線だけ動かせば、入り口の扉に持たれるようにして、一人の少女がひらひらと手を振っていた。

 ギドもリールベルトも、見覚えがある、自分達の仲間であるサダソが、彼女のデビュー戦で敗退した、無双の怪物少女。

 

「お、お前は!ヒノ!なんでこんな所!?」

「動くな」

 

 冷水を背中から浴びせられたような、冷ややかな声。己の背後でナイフを突きつけた少年は、蒼い瞳に何も移さず、ただ淡々としていた。

 ヒノと似た顔立ちをした、銀色の髪の少年。

 

 その少年に、ギドは見覚えがあった。

 

「お前は…確か190階以下を往復してると言う………そう、ミヅキ!いや、バカな!お前念が使えるな!?なぜ―――」

「下の階層にいるか、か?ただの一時的な金稼ぎだし。でもさっき200階に来たから、今は同じ階の闘士だ。まあ、宜しくな、〝先輩〟」

「――――――!!」

 

 漏れ出すオーラ。間違いなく、背後からナイフを突きつけている少年は、自分達の高みにいる。念にわずかに触れただけで、肩が小刻みに震えだした。今この状況だからというものあるが、その目が自分達を見ているようで、全く別の何かを見ているように感じた。

 

「さてと、リールベルトさんとギドさんの二人の疑問を解消しに来たよ。まあキルアとサダソさんの試合見てたなら分かるけど、脅しはもう効かないって事。残念だったね」

「何、一体どういう事だ!?」

「逆に聞くけど、どうするつもりだったの?もしもこの試合が終わったら。もしかしまたズシ狙いに行くの?今ならゴンも私もミヅキもいるっていうのに、勇者だね」

 

 脅しの手段は、脅す交渉材料となる人質がいて初めて成立する。しかし一度その人質を手放した時点で、彼らの計画は破綻していた。かと言って約束が破られたからと言って、彼らにできる事は何もない。せいぜいもう一度人質を取る、という事くらいだが、そんな事警戒している相手がさせてくれるわけが無い。

 

 3人チームのこの作戦も、相手が同様の人数、もしくはこの3人を上回る使い手が1人でもいたのなら、全く意味をなさない。その条件で言えば、どちらも相手は満たしており、既に積んでいた。

 まさに、勝ち戦。ゴン達にとっての。

 

「ま、私達は実際に脅されたわけじゃないし、別に今すぐ何か危害を加えるつもりは無いよ。キルアも言ってたみたいだけど、こっちの都合で戦うなら喜んで戦うって、さ。だからギドさんもリールベルトさんも、キルアとゴンと普通に戦いなよ。あ、ていうかミヅキいつまでそうしてるの?ていうかなんで脅す態勢?」

 

 実際動きを封じる必要性は無い。唯一の出入り口にはヒノが立っており、ここは地上から数百メートル上の部屋。逃げ出そうとしても、果てしなく無駄なあがき。車椅子と義足という、洗礼の影響のある二人にとっては、尚の事。なら、なぜミヅキはこんな真似をしたのか?

 

「いや、こういう状況ならこうするのが正しいかと」

「いやいや、これじゃこっちが悪人みたいじゃない。ギドさん達も、別に動いてもいいよ。だってそれバターナイフだよ。全く切れないよー」

 

 そう言われてちらりと後ろを見て見れば、バターナイフをつまんでぷらぷらと振るミヅキの姿。本当に何もする気は無かったらしい。無感情に見えたのは、ただ単に暇を潰していたにすぎなかったという事なのだろうか。

 

 ふっと、さっきまで張りつめていた空気が緩んだ気がした。

 

(いや、この子らは最初から何も圧をかけてない。張りつめていたのは、俺達の方。緊張が解けたのか………)

 

 一方的な試合の映像、突如部屋に侵入した二人の子供。無意識のうちに、自分達だけが張りつめていた事を、今更ながらにギドもリールベルトも気づいたのだった。

 そして緩んだ空気の中で、リールベルトはにやりと笑う。

 

「ふ、いいぜ。手っ取り早く上に上がる為の脅しの手段だが、俺らが伊達に200階闘士をしてないって思い知らせてやる!」

「できれば最初からそのセリフ言って欲しかったんだけどね」

「ああ、ちょうどいい。だったら先にどっちか二人戦ってよ」

 

 その言葉は、バターナイフを律儀に片づけて戻って来たミヅキからだった。

 

「デビュー戦って事で明日戦いたいから、どっちか戦って。どうせゴンとキルアの試合まだなんだし、いいだろ?」

 

「「………………」」

 

 ここで、ギドとリールベルトの思考は果てしなく同じ事を考えただろう。正しい選択。選び抜けば、自分達は勝ち上れるはず!ではその正しい選択とは何か?

 

「「戦うならこいつにしろ!」」

 

 互いにミヅキの相手を擦り付ける事だった。

 

「おま、勘弁しろよ!リールベルト(おまえ)俺の試合の後の予定なんだから先に試合が入ってもいいだろ!?」

「そんな事いって、面倒な相手を押し付けるなじぇねぇ!自分が負けそうだからって卑怯だぞ!ギド!」

「何を!」

「なんだと!」

 

 ああ、なんと人間は醜い生き物なのだろうか。窓の外に鳥が飛んでいたのなら、そんな事を思いながら、悩みなどない広大な大空を飛んでいようと言うのに。

 

「それで、ミヅキどっちと戦うの?」

「じゃあリールベルト」

「よっしゃ!」

「え!?なんで!?俺!?」

「そういえばゴンはギドとリベンジマッチがしたいって言ってたし、先の戦うのは違うかと思って」

 

 これで決まった。

 明日の対戦カードは、リールベルトVSミヅキ。

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局、大したダメージは受けていないけど、キルアに精神的にガンガン削らされたサダソさんは、試合が終わると同時にすぐに荷物をまとめて、ギドさんとリールベルトさんに一言連絡を入れて、天空闘技場を去ったのであった。願わくば、このまま争いの無い長閑な生活を送るように、私は祈る事にしよう。

 

「どうしたのヒノ?手を組んで、お祈り?」

「うん。平和な世界を願ってるんだ」

「………」

「ゴン、ほっとけ。こういう輩には関わらない方がいい。きっと後で変な宗教とかに勧誘されるぞ」

 

 確かに言動が一瞬おかしかったのは否定しないけど、そんな事はしないよ!

 

「それにしてもミヅキがもう200階に来てたとはな」

「キルアの試合まで数日あったからストレートで対戦者屠って上がってきたらしいよ」

「そりゃ………相手がちょっと可哀そうだね」

 

 あははとゴンが笑うが、私もそう思う。

 問答無用の最短距離で倒したので、多分ミヅキはもう200階以下の出入りは出来ないな。あ、でも200階で4回負ければ普通に1階からスタートなんだっけ。

 

 と、そんな事を観客席で考えていたら、ミヅキがやってきた。

 

 舞台の上、ミヅキとリールベルトさん。

 

『さあ始まります!本日のメインイベント!ミヅキVSリールベルト!!つい先日200階に上がってきた、4人目の子供の闘士ミヅキ選手!大して相手はこの200階で5勝2敗の勝ち星を挙げるリールベルト選手!一体、どんな戦いを見せてくれるかぁ!!!』

 

 もしかして解説って同じ人がやってるのかな?同じ文句を聞いた覚えが………まあいいかな!

 

「けど実際どうやって戦うんだろ。車椅子って明らかに不利じゃない?これでエンジン積んでるとか車椅子からガトリング砲とか出てくるなら話は分かるけど」

「いや、それもう車椅子ってレベルじゃねぇだろ。戦車だよ戦車」

「確かに気になるよねぇ」

 

 独楽(コマ)のような一本足の義足をつけたギドさんなら、自身をくるくると高速回転して、その衝撃で相手を倒したりって方法があった。実際にゴンもそうやって一度やられたらしいし。でもリールベルトさんは車椅子だよ、車椅子。ううむ、気になる。

 

『それでは、はじめぇ!!』

 

 開始の合図と同時に、どちらも動かなかった。

 相手の様子を伺っている、と言えばそうだけど、警戒しているかと言えばそうじゃない。いや、リールベルトさんはめっちゃ警戒してるっぽいけど、ミヅキは多分違う。相手が何をしてくるか、見てる。

 

「ねえ、ミヅキって強いの?ヒノより強い?」

「まあ、こう見えて私の方が強いかな♪」

「へぇ!そうなんだ!」

「………えっと、ゴン、ごめんね?今のはちょっとした冗談と言うかノリというか、実際どっちが強いとかはよくわからないかな。全力で戦ったりした事ないし………」

「あ、そうなんだ」

 

 そう言われるとミヅキと戦った事って意外と少ないような?いや、小さい頃なら喧嘩くらいするけど、今になってくるとそうでも無い。というかミヅキの方が考え方が大人っぽいというか、小さい頃の時点で性格が結構固まってたしね。あれ?喧嘩とかした事あったけ?………思い出せない。

 

「どうしたのヒノ?」

「いや、意外と私の脳年齢低いのかなぁ、なんて」

「?」

「あ、今の忘れて。ほら、試合少し動いたみたいだよ」

 

 見て見ると、リールベルトさんが背中に手を伸ばすと、本来なら持ち手があるであろう箇所が開き、そこから何かを引き抜く。そして取り出したのは、両手に一本ずつ持った、2本の鞭だった。

 

「鞭か。確かにあれじゃ近接格闘なんて無理だし、鞭とか銃とか、遠距離武器の方が便利だろーぜ」

 

 キルアの言う通り、足が動かないなら、手だけで相手を打倒できる何か。車椅子という条件下だと、近づかれただけでアウトなので、やっぱりああいう武器になるでしょ。流石にギドさんの独楽とかヒソカのトランプみたいな色物はそうそうないはず。

 

 しかし、ミヅキ楽しそうだね。表情はあんまり変わってないから傍目には分かりにくいけど。

 

 あれで戦うの好きな所あるし。むしろ天空闘技場に来た目的の半分くらいはそうなんじゃないかな?あ、でも実力下の所にいたからお金8割戦い2割くらいの目的かな。

 

「お、仕掛けてきたぜ」

 

 リールベルトさんは両手の鞭を、流石に手慣れたように高速で動かし、自分を取り囲むように全方位に鞭を振るう。さながら、鞭の防御陣形。

 

『でたぁ!!リールベルト選手の必殺〝双頭の蛇による二重唱(ソング オブ ディフェンス)〟!まるで蛇のようにうねる2本の鞭は、自身を守りつつ相手を迎撃する矛にも盾にもなる!さあミヅキ選手どうする!?』

 

「あ、あの人の車椅子、後ろからオーラを放出して手を使わないでも前に進めるみたい」

「ホントだ!一応念は使う前提の戦法だったんだ」

「でもあの鞭自体はただの鞭だぜ?念の戦法って言えるのか?」

 

 一応【纏】はできているのと、オーラを推進力に車椅子を動かす。多分やろうと思えば猛ダッシュとかもできると思う。あの人放出系かな?しかしそう考えると、両手で鞭を動かしてオーラで前へと進む。一応ちゃんと考えられているね。そうじゃなきゃ勝ち星も手に入らないけど。

 

「まあ鞭自体の動きはあんま大した事無いな。あれなら普通に掴んで止められるぜ」

「うん!」

 

 一応リールベルトさんの名誉の為に言っておくけど、これはこの二人がおかしいだけで普通は鞭2つなんて止められないと思うよ(人の事は言えません)

 

 さて、ミヅキの動きは――――――

 

『おおぉっと!ここでミヅキ選手、動いた!それも、正面から真っ向勝負だ!!』

 

 相手の表情を見る限り、リールベルトさんも若干不可解そうだけど、どっちかと言うと「はっ、バカめ!」って感じの事考えているっぽいね。

 確かに普通なら自殺行為、だけど………

 

 足先に力を込めたミヅキは、僅かにべキリと石の地面を砕きながら、前へと進む。爆発的な加速力で迫るミヅキに対して、リールベルトさんは手元の鞭を巧みに動かして、迎撃態勢を敷く。近づけば鞭の餌食。ただし離れたとしても舞台の上、逃げ場は無い。

 

 だが、ここで観客も解説側から見ても、驚くべき事が起こった。

 

 まるで本当は何も無い、そう錯覚するかのように滑り込み、ミヅキは鞭の中を駆け抜けた。

 

「な!」

「すごい!」

 

 無謀のように見えたその技巧に、ゴンもキルアも素直に驚く。

 縦横無尽に迫る鞭を、躱し、避け、回避する。足先でステップを踏み、ふらふらと風に揺れる木の葉のように動き、ミヅキは鞭の中一ミリも掠る事もなく潜り抜け、リールベルトさんの背後を抜けた。

 

 一瞬の交差。

 走り出したミヅキは、リールベルトさんの鞭を潜り抜け、反対側に降り立つ。

 

 その光景はとても簡単に終わったけど、見ていた人達にはどれだけ異様な事か、まあこの場で一番驚いているのは、リールベルトさんだろうけど。

 

(バカな!?俺の鞭の嵐をいともたやすく通り抜けた!?だが、攻撃は喰らって無い………なぜ!?)

 

 鞭を未だに動かしながらも、リールベルトさんはちらりと背後を見るが、その時驚愕に目を丸くする。

 

「これ、なーんだ」

 

 言葉だけなら悪戯小僧のようだけど、そんな優しい物じゃない。ていうかミヅキかなり棒読み。

 しかし気になるのはそこじゃなく、その両手に握られて見せつけているのは、()()()()()()()

 

 それに気づいた瞬間、リールベルトさんは、ガコン!、という音と共に、重力に従って落ち、椅子だけになった車椅子と共に、闘技場の上に投げ出された。それに伴い、鞭などもはや無用の長物。仰向けに寝転がったリールベルトさんは、今だ自体が飲み込めてなかった。

 

『おおぉっと!?ミヅキ選手の手に握られているのは、まさか!?まさかの、リールベルト選手の座っている車椅子のタイヤだぁ!先程の交差の時に()()とったというのかぁ!?なんたる早業!』

 

 解説も、観客も全く気付かず、気づいたら奪われていた。鞭で車椅子本体が見にくかったのと言うのを差し引いても、異常な早業。けどここで見えた人、ゴンとキルアにとっては、そう簡単な言葉じゃないらしい。

 

「すごい………あの一瞬であんな事できるんだ!」

「ただ早いだけじゃない。鞭を潜り抜けて、その上で精確にタイヤだけを取り外す。言うのは簡単だけど、実際にやろうと思ったら相当だぜ………」

 

 俺ならできるか?なんて、キルアなら考えてそうだね。ゴンも同じ事考えてそうだけど、二人じゃ全く意味合いは違ってくるね。

 

 キルアのはミヅキの戦力分析。ゴンのは自身の技術向上。

 相手の事を考えるか、自分の事を考えるか。ここらへん、性格が出て来るよね。

 

「さてと、車椅子も無くなったし、これで終わり。案外あっさりと………お?」

 

 ミヅキはそう言って、リールベルトさんに近づき、そばに落ちていた鞭を拾う。先端が一瞬リールベルトさんをぺチンと叩いてお腹の上にぽすりと乗ったけど、特に気にせずしげしげと眺めた。

 

 が、しかし!その様子を見ていたリールベルトさんの表情が、なぜか青ざめている。

 

「ん?なんだこのスイッチは」

「ちょ、待て!それに障ったら―――」

「えい」クイッ

「あばばばばばばばば!!」

 

 ミヅキが拾った鞭の柄についてたスイッチを上げると、突如鞭から電流が走り、触れていたリールベルトさんは奇声を上げながら感電した。すぐにミヅキはスイッチを戻すと、声は止んでどさりとその場に再び寝転がる。

 どこからどう見ても、完璧にKOだった。

 

『リールベルト失神KO!勝者、ミヅキィ!!』

 

「まさかあの鞭に電気入ってたとはな」

「あはは、なんか少し最後だけ可哀そうだったね」

「ていうかあの人今度のキルアとゴンの試合とか出られるのかな?」

 

 案の定、ミヅキによる車椅子崩壊と感電ダメージの為、リールベルトさんはゴンとキルアの試合には出てこられませんでした。

 

 後でお見舞いにフルーツとか部屋に送っておいてあげよう。

 

 

 

 

 

 

 

 




次回、お待ちかねの【発】の修行!

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