ハンター試験、第一次試験内容『マラソン』
試験官は、大富豪の後ろで控えてティーセットを持っているのが似合いそうな黒いスーツ姿の紳士。くるりと丸まった髭をした男性、サトツだった。
ハンター協会から派遣されたサトツは、受験者404名、受付時間が終了した時点でチャイムを鳴らし、試験をスタートした。ただ移動し続けるだけ、サトツについて行き二次試験会場まで行くのが試験。
まるで滑るように移動する彼の速度は今のところ通常のマラソン程度ではあるが、その行先も到着時間も一切の情報が開示されていない。それは先が黒く塗りつぶされた試験。
ただ単純に走るという持久力、つまりは体力身体能力もそうだが、いつまで走れば良いかという不安にも押しつぶされない精神性も試される試験。
最も、試験官のサトツはただついて来い、と言っただけなので、極端な話バイクに乗って試験会場に来ていればそれに乗る事も普通に認められる。現に銀髪の少年キルアは、自身がたまたま持ってきていたスケボーに乗って悠々と走っている。
(さて、そろそろ2時間程走り続けていますが、当然ながらこの程度で脱落する事はありませんね。最も、あと何時間もすれば分かりませんが)
ハンター試験に合格するという事は、それ相応の技量が求められる。その為、それに挑もうとする受験者の技量も、並みの実力者を軽く凌駕する怪物揃い。各自様々な分野、生まれ故郷や街で天才、神童などと囁かれていた者達だろう。
だがそれも、ハンターという過酷な壁の前でほとんどが挫く。次の領域へと上がる権利を持つ者を選定するのが、ハンター試験試験官、現役のハンター達の役目。だがしかし、ハンターと言っても基本的に感情を持ち合わせている人間。
一つ、サトツには小さな気がかりがあった。
(そういえば、試験開始時点で眠っていたあのお嬢さん、どうしたでしょうか)
受付時間終了と同時に、壁に這ったパイプの一部を足場に降り立ったサトツだが、その隣、受験者から見て死角の位置で一人、こっくりこっくりと少女が船を漕いでいるのを見かけた。
受験者の前なのであからさまに視線を向けないが、実に気になる存在だった。
太陽の光を溶かし込んだような金色の髪色を、リボンを使い後頭部で結った少女。どこか幻想的に、まるで不思議の国から抜け出てきたような少女の姿は、暗く灰色の地下では一際輝いているように錯覚した。
試験開始を告げたにもかかわらず、結局少女はサトツの見ている前で起きる事は無かった。
もちろんサトツは、親切に起こすような事はしない。試験官の側から受験者に手を貸す事はあってはならないからだ。ハンター試験を受けるにあたり、篩いにかけられた者達の安否は基本確認しない。それは受験者全てが、試験会場に来た時点で最悪の事態を考慮して来たと同義だから。全てが自己責任。にも拘わらず、微睡の中にいる少女。
だが、サトツはその少女の特異性に気が付いていた。他の受験者にも1人か2人程いたが、それと比べても見劣りしない、輝きの正体を。
(あの少女……眠りながらでも、美しい【纏】をしていました。既に使える、こちら側の人間)
幼い身でありながら、既にその身体に蓄積された経験値は膨大な少女、ヒノ。歴戦のハンターサトツの目から見ても、実力が知りたくてうずうずとしていた。
しかし、試験官である以上贔屓にする事は許されない。もしもあのままであれば確実に不合格。しかしそうでないとしたら、あの少女は試験を確実に突破してくる。まだハンターの資質としては未知だが、サトツはどこか直感として感じていた。
(果たして1次試験
気を取り直して、サトツは思考の中でも淀み無く動かしていた手足に意識を戻し、暗い道のりを歩み続ける。背後には、ぞろぞろと同じ速度でついてくる、いまだ脱落の意思を見せない強靭な受験者達。
無論、あの少女の姿は、いまだここからじゃ見えなかった。
***
で、その少女ヒノは、現在スタート地点からおよそ10キロ地点を歩いていた。
「ん~、やっぱりここにも足跡があるし、結構新しい。方角は間違いないし、この歩幅だとそんなに早く走ってないみたいだね。普通のマラソンくらい。だとしたら、今いるのはここからもう10キロくらい先かな」
あまり汚れたく無いので、膝をつけないようにしゃがみ込み、地面に残った足跡に虫眼鏡のつもりか、親指で人差し指で丸を創って目に当てて、ふむふむと芝居がかった口調で頷く。受験者達の足跡は、ちらほら残っている。下がコンクリートであるので残りにくいのではと思うが、意外と靴の底にこびりついた泥の汚れなどもあり、他にも濡れた足の跡。このハンター試験会場に来るまでに、受験者達は様々な試練に見舞われてきたことだろう。故に、全くの無傷であろうとも、その靴の裏には何かしらの痕跡が残る。
山の中を駆け巡ればそこの土が付き、川を渡れば水に濡れ、たまにガムの痕なんかも残っている。
そしてもう一つ、泥の足跡の上をさらに通過するように、直線状の細い跡。まるで、車輪を上で転がしたかのようなこの跡は、おそらくキルアのスケボー。つまり、行先は間違いない。
そして足跡は人に寄って足の長さが違うので歩幅もまた変わるが、この距離だと歩いていたら確実に合流できているだろう距離。その為、歩いてはおらず、走って移動していると考えるのが自然。だとしら、試験の内容が案外マラソンとかかもしれないと考える。
とまあ、ここまで長々と思考を載せてみたけど、結局の所行先はほぼ直感的に間違いなさそうだから後は試験が終わる前に追いつけばいいだけなんだけどね。
それに普通に走っている分には、追いつくことは差ほど難しくない。ここら辺が非能力者と念能力に間にある絶対的なアドバンテージでしょう。まあそれ以前に身体能力的にも難しくないけど、念があればなおの事。
私は腰を深く落として足を前後に開き、両手の指を地面についてクラウチングスタートの体制をとって、体内の念を練り始める。自分に纏われた【纏】を強制解除して精孔を閉じ、足に練り上げた極大の念を纏った。今この足は、ロケットブースターも目じゃない程のエネルギーに満ち溢れている。
べきリと、足先をコンクリートに凹ませて次の瞬間、私は弾丸のように破裂音を出しながら暗い通路を駆け抜けた。踏みしめた一足で十数メートルを通過し、さらに踏みしめた二足で数十メートルを優に超える。
爆発的な加速、しかし音を最小限に抑えるように、コンクリートに凹ませた痕を点々と残しながら、私は暗い闇の中を、一直線に突っ切っていくのだった。
***
細々とした明かりに囲まれて、暗い中を疾走して行くけど、こんな空間に一人というのもなんかあれだからさっさと最後尾でも列に合流しようっと。ほら、別に寂しいとかじゃなくて、なんか人がいた方が安心するじゃない。
もちろんキルアにばれないよう。だってばれたら絶対笑われるし。
会った時のこと根に持ってるっぽいからね。
そしてしばらく走っていると、ようやく人が見えてきたのでスピードを緩める。ざわめき声と息遣い、それにたくさんの靴音が聞こえてくるとなんだかほっとするね。
今のところ最後尾(から2番目)の人は黒髪にスーツをきてトランクを持っている割と身長の高そうな人だ。
げっ!!あそこにいるのはキルア………と、黒髪が逆立った少年。多分キルアとか私とそう変わらないくらいの子供だ。まさか他にも子供がいるとは。というか、キルアが最後尾らへんにいるとはまさかの誤算。キルアの身体能力的に結構前の方を走っても余裕だと思ってたんだけど、こんな所でなにやってんのかな?
とりあえず向こうからはこっちが見えないほど暗いのがせめてもの救いだね。
あのスーツの人は黒髪少年が気に掛けてるから知り合いのようだね。
おっ?スーツの人のスピードが落ちた。ここで脱落となるのかな?いや、どうにも希薄というか、あの人はまだあきらめてないみたい。
「絶対ハンターになったるんじゃぁー!!くそったらー!!!」
瞬間、そう叫び出してスーツの人は再び全力疾走。
まだあきらめなければきっと希望はあるよ、スーツの人。あ、でも全力で走る時にトランクを地面に放り出し、スーツとシャツを脱いで上半身裸になったからスーツの人じゃないや。かろうじてネクタイが残っていたからネクタイの人だ。けど裸にネクタイとかどっかのゲームの類人猿みたい。
そう思ってると黒髪少年が自前で持っていた釣竿でトランクを吊り上げた。おお、意外と器用に引き上げて普通にすごいね。あのトランクそんなに軽いのか?それとも黒髪少年がすごいのか?どっちかな?
あっ、黒髪少年がこっちに気づいた………どうしよう。
「ねえねえキルア!!あそこに誰かいるよ!!」
「はぁ?ここ最後尾だぜ。人なんかいるわけ………ってヒノ!なんでここにいんだよ」
「あはは……。やっほー、キルア久しぶり」
「開始のときいねーからてっきり前のほうにいるのかと思ってたよ」
心底「何してんだこいつ?」といった感じで驚いた表情のキルアと、隣で疑問符を浮かべる黒髪少年。まあ確かにそう思うよね。最後尾にいなければ普通前にいると思うよね?
仕方ないので簡単に説明した。すると案の定、
「ははははははーー!!だっせー!!出遅れるとかはははははー!!くくく。腹イテー」
「そんなに笑わなくても………。ちょっと準備に手間取っただけだよ」
「それにしたって………ぷくくくく、くはっ!はははははー!!」
くっ!予想通りの反応しやがって。話すべきじゃなかったなぁ。
すると釣竿をふった黒髪少年がこちらを興味深そうに見ている。
「ねえキルア。この子キルアの知り合い?」
「くっくっく。ああ、ここに来るとき少し一緒だったんだ」
「へぇー。オレはゴン」
「私はヒノ、よろしくねゴン」
「うん、よろしくヒノ」
「ぷぷぷ。ゴンお前も笑っていいんだぜ。自業自得だよ」
「キルア………あんまり笑っちゃだめだよ」
ゴン。お前って奴はいい子だよ。この誠実さを皆に分けてやりたいよ。とりあえず目の前にキルアとかキルアとかキルアとかに。
「そういえばさっきのスーツの人は知り合いなの?そのトランクの持ち主」
そう言いながらゴンの釣竿にかかっているトランクを見てみる。
人の荷物を持って走るなんて子供だけどこのゴンもキルアと同様に普通の子供よりもかなり体力があるらしく、会話しながら走ってもまだまだ余裕だそうだよ。
「うん。レオリオっていうの。悪い人じゃないよ」
「結構疲れてたっぽいけど大丈夫かな」
「大丈夫だよ!レオリオ結構ガッツあるし!」
それを根拠にするって、ゴンってなんかほんとにすごいね。こう見るとキルアとゴンってなんだか性格結構違う気がするけど、だから相性いいのかな?
「私もあの人、大丈夫だと思うな。この試験くらい突破できるんじゃない?」
「お前レオリオと話したこともねーだろ。なんでそう思うんだ?」
「勘かな」
「勘って………お前」
あ、呆れてる?いやいや、勘だって捨てた物じゃないでしょ!
一瞬静寂が訪れたが、フォローしたのか特に気にしてないのか、ゴンの言葉で再び会話が戻った。
「えっと、あとクラピカっているんだけど、今前の方走ってると思うから、後で紹介するよ」
「無理無理。ゴン、こいつがついてこれるわけねーだろ。最後尾走ってたんだしくっくっく」
「まだ引きづるのかこのひねくれ小僧が。それに走るだけなんだから大丈夫だよ」
「んだと!誰がひねくれてるって!!」
「髪とか」
「ぷっ」
「あっ!ゴン!!てめー今笑っただろ!!」
「あはは、ごめんごめん。まあそろそろちゃんと走ろうよ」
「はーい」
「ヒノ、てめー後で覚えてろよ!」
***
3人で一緒に、しばらく走り続けて早数時間、平坦な道の前に突如現れたのは、階段。紛れもなく階段、マラソンコースの中においての鬼門。まさに心臓破りのなんとやら。ここで割と脱落しそうだなぁ~。
前を走るゴンとキルアの後ろから二人の背中を見ながらついて行ったら、気づいたら目の前にいたのは試験官のサトツさん。それにしても子供が3人っていうのも目立つね………。
後続の人達なんか信じられないものを見る目でみてるよ………。
「いつのまにか一番前にきちゃったね」
「うん、だってペース遅いんだもん」
ゴンは少し汗かいてるね。さすがに疲れが少しずつにじみ出てきたか。
キルアはまだまだ余裕そうだ。さすがはプロの暗殺者だけある。
「だいたいヒノがついてこれるんだからハンター試験なんか楽勝だね」
「ちょっとぉ、キルア。それってどういう意味?」
「お前がついてこれる試験だから簡単だってことだよ」
「よし、挑戦状なら私はウェルカムだよ。さあ来い!」
「おぅ、上等だ!」
「いやいや、ヒノ落ち着いてよ!キルアも煽らないの!」
「見ろ!出口だ」
いつの間にか仲裁役に収まっていたゴンの言葉のすぐ後に聞こえた他の受験者の声で前を見てみると、光が見えた。やっと、暗くて若干不衛生な空間から、出る事が出来たよ!
誰かがそういったのと同時私は殺気を消してみるとついに私たちは暗い洞窟から外に出た。
やったー。やっとこの暗くて汚い空間から出られた!!
と思ったのもつかの間。
「ヌメーレ湿原。通称、”詐欺師の塒”。二次試験会場にはここを通っていかねばなりません。十分注意してついてきてください。だまされると死にますよ」
目の前に広がる広大なじめじめした湿原。
ここをわざわざ抜けるように試験を作るなんて。このサトツさんって紳士的に見えて実はかなりの曲者?女の子にはここは衛生的にきつくない?
げんなりしてるとヒソカがトランプに念をこめて投げてた。何してるんだろヒソカ?念で強化されてるため、下手な刃物よりも鋭くなったトランプ。
見てみると二匹のサルにトランプが刺さり死んでいた。
そしてサトツさんは手に数枚のトランプを持っていた。
今の状況を見てみるに、どうやらヒソカの投げたトランプを受け止めたようだ。さすがハンター協会のハンターだ。ちなみにさりげなく私の所に一枚飛んできたので受け止めたよ。
そして嫌がらせにびりびりに破いてすれ違い様にヒソカのポケットに入れておいたよ!
あっ。走り出すみたいだ。ここは霧が濃いから見失わないようにしなくちゃ。
「ゴン、ヒノ。もっと前に行こうぜ」
「うん。試験官見失うとまずいもんね」
「そんなことよりヒソカから離れたほうがいい」
「キルアに賛成」
さすが、ヒソカのことが分かるね。まあ殺気も出てきてるし近づかないのが正解だね。多分霧に紛れてサクッと………とりあえず試験官の近くにいよっと。
「レオリオー!!クラピカー!!キルアが前に来たほうが言いってさー!!」
ゴンが霧で見えない後方に向けて叫ぶと、遠くからレオリオの声と思う「ドアホー」とか「いけるならとっくにいっとるわい」とか聞こえてきた。こんな状況で大声会話とかなかなか面白い人達だ。
「うわっ!!!」
「ひぃいいーーー!!」
霧に紛れて、人の悲鳴が周りから聞こえてくる。この試験官のサトツさん曰く、この湿原には様々な人を騙す猛獣がいる。声で誘ったり光で誘ったり、一応円を使えばわからない事も無いけど、なんか野性的な動物には気づかれそうだから、とりあえず前見て走ろう。
数十キロ単位を走りきる体力はあっても。流石に素人には食物連鎖の世界はまだ厳しかったみたいだし、生き残ったらまた来年頑張ってください!
「てぇーーー!!」
微かにその声が聞こえた瞬間ゴンが反対方向へ全速力で走り出した。
「レオリオ!!」
「ゴン!!」
キルアの呼び声も聞かず、ゴンは声の下方向、つまり背後へとくるりと向きを変えて走り出し、すぐに霧にまみれて私とキルアの視界から消えてしまった。
隣を見てみれば、少し残念そうに顔を俯かせるキルアの様子を見ると、やっぱりここでできた友達らしい友達のゴンが消えてしまったから。例えキルアでも、ヒソカの方へと向かえば命は無い。それを分かっているからこそ、キルアはもうゴンは戻ってこないと思っている。
やっぱり年が近くても、女の私より男の子同士の方が意気投合して仲良かった感じだったしね~。
ま、キルアの事が保留って言ってたから、多分ヒソカの事だしゴンの事もこの場でどうこうするつもりは無いと思うし、何とかなるでしょ。
「キルア。ゴンならきっと大丈夫だよ」
「んなこといったって。この霧でもう無理だぜ。あいつは帰ってこねーよ」
「私は大丈夫だと思うな」
「………何でそんなこと思うんだよ」
若干不機嫌だし、根拠無く言ってる私に怒ってんのかな?
まあ理由としては2つ。さっきも言ったけど、ヒソカ事を知ってるからおおよその検討がついているって事。そしてもう一つは―――
「ん~、女の勘かな」
ヒソカの性格とゴンの可能性と私の勘を考慮してだけど。
キルアはぽかんとした表情をしたが、肩を震わせてすぐに笑い出した。
「女の勘って。くくくはははは。馬鹿だろお前、ははは!!」
「ちょ、ここ笑う所じゃないでしょ!私の言うことはきっとあたるよ」
「はははそうだな。まあ、ゴンに期待してみるよ」
よかった、少し元気になったみたい。
機嫌も良くなったみたいだし、ゴンが帰ってきたら思いっきりからかってやろうっと♪
ヒノから見た現在の印象
キルア………ひねくれてる
ゴン………いい子
ヒソカ………変態
サトツ………くせ者?
レオリオ………ド〇キーコング