消す黄金の太陽、奪う白銀の月   作:DOS

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いつの間にか週間ランキングの5位になっていた事に驚きました!
そしてお気に入りが800件を超えました、ありがとうございます!

そして本編の方がこれで50話です!
妙な点や疑問があれば可能な限りお答えしようと思います!お気軽に尋ねてください。


第50話『静寂の予言書』

 

 

 

 

 前回までのあらすじ!

 ヨークシンの街中でばったりとぶつかった少し年上の女の子に誘われて、カフェに連れてきてもらった。これで相手が普通か不思議な少年だったらもう少し週刊誌のラブコメ展開とかあったかもしれないけど。となると私は誰かに追われている謎のヒロイン的な?………………いや、無いな。

 

「あ、このチーズケーキ美味し」

「ん!このザッハトルテも最高!次苺食べよ!エリザ―」

「はいお嬢様、苺のショートケーキです」

 

 エリザさんが着物姿にも関わらず、すかさずネオンの欲するケーキをテーブルの上に乗せる。無駄の無い動き流石!やや表現的には失礼だけど、さながら老齢の執事の様にめっちゃ素早い!エリザさんの身体能力的な問題じゃなくて、ネオンの次の思考を経験から読み取ったって感じ。あえてもう一度言おう、流石!

 

「ネオンってさ、どっかのお偉いさんだったりするの?」

「パパがねー、なんか偉いんだって。マフィアのボス的な」

「………………」

「お嬢様、そういう事を言うと一般的には引かれますので気を付けてください。ヒノさんも固まってますよ」ヒソヒソ

「そういう物なの?」ヒソヒソ

「あ、別に大丈夫ですよ~」

 

 マフィアよりもっとすごい人知り合いにいるし。

 天下のハンター協会会長その人とか、A級賞金首の世界を股に掛けた盗賊団とか、伝説の暗殺一家の家族の皆様とか。………………マフィアが可愛く見えてきた。

 

 9月に入ったけど、まだまだ夏の日差しと暖かい風が吹く日中、ここのカフェは気持ちいい。ルラータホテルの屋上に設置されている、期間限定で女性オンリーのレディースフェアをやってる。ちなみに今日はケーキバイキング。男子禁制らしいよ。あくまでホテルの屋上だけだから、普通に宿泊客はいるけどね。

 

 新しく取ってもらったモンブランを一口食べると………………美味しい!なんか栗がまろやか!どこの栗使ってるのかな?結構世界中の材料って言っても知らないの多いしね。今度誰か美食ハンターの人にちょっと聞いてみようかな。メンチさんかアリッサさん。

 

 ふと、視線を感じて前を見てみれば、対面に座るネオンが身を乗り出し、フォークに刺したケーキを咀嚼しつつ、くっつきそうな距離で私の顔をじっと見ていた。顔にケーキでもついてる?

 

「やっぱ、ヒノって可愛いよね。綺麗な造り。それに金糸の様な髪に血の様な紅玉(ルビー)の瞳。まるで、御伽噺に出てくる、吸血鬼みたい♪部屋に飾りたいなぁ~」

 

 なんか猟奇的匂いのする言葉が後半聞こえた気がしたけど、気のせいだよね?まさか剥製にして持ち帰りたいとか言い出さないよね?このバイキングの正体がその為の餌だったりしたら流石に驚くよ。

 

「ねぇねぇヒノ!バイトしない?私の部屋でガラスケースの中に入ってじっとしてるバイト!どう?」

「なんか怖いよネオン!それって完全に頭がおかしい人のバイトだよ!それ喜んでやる人絶対にいないからね!?」

 

 いるとしたらネオンの盲目的で熱狂的なファンかただの変態くらい………あ、同義語かな。

 

「お嬢様、流石にヒノさんに失礼ですよ。怖がられますよ?」

「あはは、冗談だってば。流石に生きてる子勝手に拉致したり手に入れようとか考えて無いから」

「なんか言葉の端々が怖いこの子!?」

 

 それって生きて無かったらどんな手段でも手に入れるって事!?流石マフィアの娘!誉めて無いけど!このままだとなし崩し的にお持ち帰り(恐)とかなるかもしれない!とりあえず話題をそらそう。

 

「えっと、ネオンはヨークシンに何しに来たの?やっぱりオークション?」

「あ、そうなの!地下競売ですっごいお宝がたくさん出るんだ!コルコ王女の全身ミイラとか、緋の目とか!」

 

 あれ?チョイス間違えた?どっちにしろ話が猟奇的な話(そっち方面)にスライドするんだけど。

 ていうか、ちょっと聞き覚えのあるお宝の名前聞いたね。

 

「緋の目が競売に出るの?」

「あ、興味ある!明日のオークションの競りに出るんだって!絶対行って競り落とすんだ!パパったらいつも私のけものにして自分だけで行くからさ。私は自分で競りたいのに」

「なんか行っちゃまずい事でもしたの?」

「そんな事しないよ。ただ私の占いがちょっと当たるから、危険があるからってあんまり外に出したく無いみたい」

「占い?」

 

 話を横に横にスライドしたら、妙なワードがまた出てきた。どうにも占いって感じでも無いけど、このくらいの年だと占いの話題とか普通にするから、やっぱり普通かな?私の場合は………………お正月に近所の神社で引くおみくじとか好きかな。はい、参考になりませんね。

 

「あ、そうだ!良かったら占ってあげるよ、ヒノ!私の占い100%当たるんだってお墨付きもらってるから。まあお墨付きって言ってもパパのだけどね」

「占うのってネオンだよね?それでお墨付きもらうってなんかおかしくない?」

「自動書記って言って、勝手に書いちゃうの。ヒノ、この紙に名前と生年月日、後血液型書いて」

 

 ピラッと、いつも常備しているのかA4サイズの紙を一枚取り出して、ペンと一緒に机の上においた。100%当たる占いって言うのはなんか気になるし、折角だしやってもらおうかなっと。

 

 とりあえず……………よしできた。1月1日生まれのAB型ヒノ=アマハラっと。

 

「はいこれ」

「ありがと。それじゃ、始めるね。【天使の自動書記(ラブリーゴーストライター)】」

 

 ペンを指先でくるりと回した瞬間、ネオンの全身がオーラに包まれ、右腕に現れたのは、不思議な生き物。念獣にも見えるけど、例えるならば、『歪んだ天使の幽霊』って感じ?ネオンの目を見れば、光が伴っていない。一種のトランス状態と言う奴か、確かに今のネオンの状態は、全く意識が無い。にも関わらず、何も躊躇う事無く私の情報が書かれた紙の空白をジャカジャカとペンを動かして埋め続ける。

 

 確実に念能力、それも無意識に使っているタイプ。ネオン自身は全く念法に関する心得は無いみたいだけど、何かのきっかけか才能か、兎も角理屈は全く理解していないけど、予知、多分特質系であろう能力を発言している。

 念の力は未知数、特質系なら尚の事。確かに、これは100%の信憑性が持てる。

 

 わずか数秒の間に描き終えたネオンは、最後の一文字を書き込むと同時に腕を振るい、私の方へと紙を飛ばした。ひらりと飛んだ紙をきゃっちして、ネオンの視界から今書いた内容が見えなくなった瞬間、瞳に光が戻った。

 

「あ、終わった?ヒノ、ちゃんと書けてる?」

「一応書いてあるけど、これってどう見たらいいの?」

「変わってるでしょ?4つか5つの4行詩で成り立っててね、それがそれぞれその月の週事の予言を表してるらしいよ。だから一つ目の予言は、もしかしたらもう終わってるかもしれないね。まだかもしれないけど」

「成程ね」

「ちなみに予言の数が少なかったら、例えば4行詩2つだけとかだったら、その2週目の間に死んじゃうらしいから」

「さらっと怖い事を言ったねこの子」

 

 予言が無い、つまり未来が無いって事なんだ。死相も占えるとなると、中々すごい。しかもそれに際して警告文も現れて、死を回避できるらしい。

 まあぱっと見た感じ、4行詩が5つで構成されてるから私に今月亡くなる予定は無いと。

 

「なるほど、予言………ね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 光と闇の照らす街の中 太陽に向かう月と出会う

 月が沈むも登るも貴方次第 悲嘆の紅炎がその身を焦がす

 

 皆既日食が無音の鼓動を鳴らし 灰の御山で心を燃やす

 掟を破った星々は 浅い眠りをその身に刻む

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 ホテル内にあるお手洗いから出て、ネオン達のいる所へ向かうべくカーペットの敷かれた廊下を歩く。その道中、先程の予言を思い出す。

 

 ネオンの言葉によれば、週事に4行詩が記されている。9月は5週まであるから、4行詩が5つ。その中で、私がヨークシンに滞在しているであろう9月10日までの2週間分の8行詩。気にするならそこ。

 しかしながら、毎回そうらしいのだが、予言はやはり詩であるので、抽象的な暗喩や寓意を使って内容が書かれているのが基本。つまり、どういった意図によってその言葉が使われているかは、誰にも分からない。予言は、解釈次第では何通りも答えが出てくる。

 

 他の人の予言があればもう少し参考になるけど、都合よく占える人物、尚且つ非日常を生きて予言結果の内容が一般とは異なりそうな人が、いればいいけど。一般的な予言も気になるけど、私の場合これが一般の予言と比べれば、多分違うと思うから。

 

 ネオンに他の人の占いを聞くか?………あ、でも自動書記だからネオン自身は占いの内容は分からないんだっけ。ていうかそもそも個人情報だし。未来の情報を個人情報扱いするかどうか微妙だけど。それにネオンは自分の占いの結果を極力知らない様にしているらしい。その方が当たりそうな気がするっていう、占い師の拘りって奴かな。なんだか分かる気がするけど。

 

 どっちにしろ100%当たるらしい予言。予言に逆らえば変わるらしいけど。

 一応、抽象的な文だけど何通りかの解釈は思いつく。

 

「そう考えると、今週のあの内容は………………ん?」

 

 ガタン!

 

 たまたま通りかかった、隣の扉の奥に一瞬気配を感じたと思ったら、中から何やら音がした。

 プレートを見て見れば、倉庫と書かれている基本あまり人が通らないであろう場所。

 

 ガタン!ガサガサ………………ガツガツ!

 

 あ、また音がした。というよりこの音は………何か食べている?

 ホテル内の使用人なら、倉庫で何か食べる、なんて事は普通にしないと思う。宿泊客なら尚の事、ていうか普通はいない。て事は、この中にいるのは………………。

 

「とりあえず、お邪魔しま~うっ!これって…………」

 

 入った瞬間、少し顔を顰めつつ手で鼻と口を少し抑える。

 異臭、では無くこれって……………アルコールの匂い?というよりかは、ホップと微かな麦芽の香り。この匂いは確か、ビール?なぜにビールの香りが?

 

 中はそこそこ広いけど、薄暗く小さな窓から細々とした明かりが漏れている。棚がいくつも並んでおり、そこには段ボールに詰まった食材の数々。どちらかと言えば菓子類や保存食みたいな食料が結構多いね。確かにここなら缶の飲料もあると思うけど、中の匂いが漏れてたら大問題じゃないかな。

 さて、音の発生源は………………あった。

 

「これは、開いた段ボール。そして中のパンが減っている。で、さらには足元にはビールの缶。それも空って………………なにしてるの?ウボォー」

 

 少し呆れた様に足元を転がる空のビール缶を見ながら声を掛ければ、天井に張り付いてた影が音も無く私の前に降り立った。

 

 降り立った大柄な巨体は、片手でビール缶の中身を飲み干し、めきゃりと潰しながら、もう片方の手を挙げてにかりと笑った。

 

「よ!ヒノじゃねぇか!こんな所で何してんだ?」

「それはこっちのセリフ………………て、腹拵えしてたの?」

「ああ。ここは食い物がたくさんあるかな!」

 

 そう言って破ったパンの袋から取り出した菓子パンを食べつつ、新たな缶ビールを開けて豪快に飲み干す。ウボォーは基本的にお金を持たないから何か食べる時は適当にどっかからかっぱらってくるって聞いた事あったけど、本当にしてたよ。よりによってホテルの食糧庫、まあどっちかと言うと保存食の保管庫だから確かに人があまり来ない方を選んでるっぽいけど。

 

「そういえばウボォーなんか人探してるとかクロロに聞いたよ?ていうか一回捕まって助けて貰ったんだって?笑ってもいい?」

「お前って意外とひどいよな」

「それはいいとして、誰探してるの?マフィア?」

「まあな。俺を捕らえやがったあの鎖野郎をぶっ潰しに行くんだよ!シャルにそいつの所属するノストラードってマフィアの所有物件リスト貰ったからな。今日中には潰し終わるし、明日にはアジトには戻るぜ」

 

 どや顔でバッと、羅列された物件名のほとんどにバツ印が施された紙を見せる。いや、それ用意したのってシャルだよね?シャルの事だからハンターサイト情報だと思うけど、流石。ゴンとキルアもハンターサイト使った事あるらしいけど、金額次第でかなり深い所の情報も手に入るらしい。ジャンルは様々、ちなみに旅団の情報も載ってるらしいけど、それこそ最低億単位の金額が入用になるみたい。

 

 ちなみにバツ印は既に見て回った物件らしい。後数件だから、2、3時間以内には見つかりそう。

 

 ん?ウボォー………ウボォーか。だったらちょうどいいかな。

 

「ね、ウボォー。ちょっとお願いあるけどいい?」

「ん?なんだ?」

「この紙に自分の名前と血液型と生年月日書いてくれない?」

 

 ぴらっとネオンが持っていた予備の紙とペンを取り出して、ウボォーに見せる。一瞬きょとんとした様な表情をしていたけど、手元に持っていたパンをすぐに平らげた。

 

「別にいいぜ。ちょっと貸しなっと………………ほらよ」

 

 そう言って自分の名前と以下情報の掛かれた紙を渡しに差し出した。ネオンの占いには占い対象である本人直筆の情報が必要らしいから、普通にありがたい。特に怪しむ様子無くすぐに書いてくれたのは流石竹を割った様な性格のウボォー。それだけ、信用してくれてるってのもあるのかな。

 まあ別にこれを公開したり悪用したりするつもりはもちろん無い。というかそんな事してもほとんど無意味だし、基本的に旅団の皆はなまじ実力が飛びぬけて高い故に、結構な自分達の情報露呈はあまり気にしないみたい。まあそこらへんは少し人に寄るかもしれないけど。あまり大っぴらに顔が世間に露呈すれば、それそれで色々と面倒な事もあるしね。

 

「んじゃ、俺はこのまま次行くからな。また団長達に会ったら宜しく伝えといてくれ」

「見つけるのは良いけど、あんまり街中で派手に暴れる様な事はしないでよ?他のオークションとかそれで中止になっても困るし」

「しゃーねぇな。ちゃんと相手に場所くらいは選ばせてやるつもりだって。言わなかったらとりあえず人のいない所だな」

「それならいいけど、まあ頑張ってね」

「おう!」

 

 そう言って、ウボォーは倉庫の窓を開き、そこから外へと飛び出していった。すぐに壁を蹴り、ビルとビルの間を跳びまわりながら、すぐにその姿は見えなくなった。

 

 後には、散乱したビールの空き缶とパンのゴミだけ。

 

「ていうか、なんでこんな早くからあんなにビールばっか飲んでたんだろ?」

 

 割とどうでもいい事を考えながら、私はネオン達の元へと戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

「あ、ヒノ戻って来た!おかえりー。ドリンク来たけど飲む?とりあえずソーダのフロート!」

「アイス入りの奴だ。結構好きなんだよね」

 

 笑いながらネオンが私に澄んだ水色のソーダ水にアイスを浮かべたグラスを渡してくれる。一口のむと、すごく冷たくて甘い。さっきまでビールの匂いが籠る倉庫の中にいたからか、なんだか癒された様な気がするよ。ちなみにネオンの方はレモン味だった。

 

 割とケーキも食べ終わり、食後のジュースを飲んでいる私達。

 

「あ、ネオンお願いが一つ。さっき知り合いに会って個人情報貰ったから、それでもう一回占いしてもらってもいい?」

「自分で言うのもなんだけど、ヒノも相当だよね。知り合いの個人情報普通に使うって。うん、別にいいよ!」

 

 ウボォーが書いた紙を渡すと、ネオンはあっさりとオーケーを出して再びペンを取って構えた瞬間、ぴたりと止まった。

 

「あ、そういえば顔写真とかある?」

「携帯の画像でもいい?」

「いいよー。なんか野性的な人だね。レスラーか何か?」

 

 携帯に映ったウボォーの画像を見せると、ネオンはくるくるペンを回しながら感想を述べる。まあガチ強化系のマッチョだしね。ちなみに携帯画像はさっきこっそりと撮りました。勿論ちゃんと後で消しとくよ?

 

「それじゃ、本日に2回目の、【天使の自動書記(ラブリーゴーストライター)】!」

 

 再び、文字通りネオンの意識がペン先に持っていかれ、不思議な天使がネオンの腕を使ってさらさらと紙に予言を記していく。淀み無い動作は中々見惚れる様な不思議な雰囲気を放つ。神秘的って、表現した方が割としっくりくるかな、流石占い師。

 

「はいできた!」

 

 再び、自然な動作で今しがた書いた内容を見ない様に私に紙を渡し、私はそれを受け取た。

 さてと、とりあえずウボォーの今月の予言はっと。

 

「―――――――――!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 クラピカに頼まれて、センリツはホテルのエレベーターに乗って上がり、目的地のカフェに向かっていた。ボスであるネオンの護衛を付けてはいたが、生憎どちらも男性。そしてネオンがいる場所は期間限定で、女性のみ立ち入る事の出来る屋上のカフェ。

 

 自由奔放なボスに少し嘆息しつつも、同年代の少女と一緒にお茶をしている事を知り、センリツは穏やかに微笑むのだった。

 

 この仕事に着いた新参ではあるが、それでもネオンという少女がマフィアの組長の娘であり、マフィア上層部にも顧客が多数いる凄腕の占い師である事も知った。だからこそ、組長は娘を大事に優しく接するが、同時に大事に閉じ込める。無論、娘の機嫌を損ない占いをしない、なんて事になったら大損害なので、決してそうならないようにほとんどのわがままは聞くのだが。

 

(まあ、ボスも今の生活にあんまり不満はなさそうだし。それでも同い年くらいの友達ができるのは、いい傾向だと思うわ)

 

 閉鎖されてマフィアの世界。それでも、彼女自身は年相応に無邪気な性格をしている。少々人体収集という、やや歪な感性をしている事は否定できないが。

 危険な襲撃の可能性もあるオークションに行きたいと駄々を捏ねて自分達を含めた護衛陣を困らせるよりかは、友達と遊ぶことを優先してくれる方がありがたい、という少々思惑もセンリツ的には少々あったりが。

 

(ん?ボスの声と、別の女の子の声……………それに足音。もう帰るのかしら?)

 

 ミュージックハンターであるセンリツは放出系の念能力者であり、その能力の一環として、超人的な聴覚を有している。

 

 100メートル以上離れた人間の微かな足音すら聞き取る驚異的な聴覚。人体の構造上完全に音を殺すことができない人間は、この聴覚から逃れられない。

 

 今もまだエレベーターの中だと言うのに、屋上にいるはずの少女達の微かな声を聞き取るという神業を行っている。最も、流石に密閉するエレベーターの中だからか、誰が会話しているかは分かるが、細かい内容までは聞き取りづらいそうだ。それでも誰がどこに立ち、どういう移動をしているかは足音で把握できるらしい。

 

 エレベーターを降りて、屋上カフェに続く扉を開けた瞬間、向こうから滑り込む様に黄金が彼女の横を通り過ぎた。

 

 緋色のリボンで後頭部を結った金色の髪が揺れて、その下の紅玉(ルビー)の様な瞳が一度センリツに視線を向ける。動きながらのこの反応を叩き出す反射速度と動体視力にセンリツは感心しつつも、横をすり抜けた少女はそのまま声をかけて走り去って行く。

 

「あ、ごめんなさい!」

 

 慌ただしくそれだけ言って廊下を走って行った少女の姿を視界に納めながら、センリツはカフェでお茶をしているネオン達に視線を向けた。すぐに、侍女達もセンリツに気づいた様だった。

 

「あ、センリツさん。先程の方がヒノさんです。急用を思い出したらしく帰られましたので、我々もそろそろ戻ろうかと」

「分かりました。クラピカ(リーダー)には私から連絡しておきます。それで、あの子はどんな感じの子でした?」

「そうですね、お嬢様とも楽しくお話されてましたし、素直ないい子でしたよ?」

「そう………ですか………」

 

 恭しく頭を垂れる侍女達と、ケーキと少女を堪能して満足したのか上機嫌な様子のネオン。

 

 しかし、センリツは顔には出さなかったが、その心臓は恐ろしい程に、まるで背後から冷水を浴びせられたかの如く、早鐘の様に鳴り響いていた。

 

(今の子が、ボスと知り合ったヒノさん………………)

 

 先程すれ違い様に丁寧に謝ってきた少女の事を思い出す。一見すれば普通の少女。確かに容姿的に整っており、パーツの色合いが珍しいネオンが気に入りそうというのは分かったが、それ以外は普通に見えた。

 そう、あくまで視覚的には、そう見えた。

 

(けど………………あれは、一体何!?あの子の心臓の音………………()()()()()()()()!?)

 

 センリツの聴覚はただ耳がいいだけでは無く、人の心臓の音からその者の心理状態すら読み取る。

 ボスであるネオンが侍女達と楽しくトランプに興じる時は、心底楽し気に年相応無邪気な心臓の音を鳴らし、同僚であるクラピカが己の能力である鎖によって仇の旅団を捕まえようとした時は、恐ろしい程の怒りの音を心臓が鳴らしていた。

 喜怒哀楽、それにその者が嘘をついているかどうかすら分かるという。

 

 故に、彼女は今自分が感じた事に対して疑問符を浮かべつつも、ぞくりと何かが這う様な悪寒を感じる。

 

(今の心音、まるでメトロノームの様な一定のリズム………いや、リズムなんて物じゃない。怒りも、悲しみも、喜びも、楽しさも、あの子の心音からは何も感じなかった!………あの子は一体………………)

 

 まるで、ただ音を一定に鳴らし続ける機械の心臓が胸に入っている様な、そう錯覚する程の、()()()()()()()()()()

 

(クラピカはあの子の容姿を聞いて、何か思う所があったみたいだし、少し聞いてみましょうか。危険は………多分無いと思うのだけど………………)

 

 無邪気に笑うネオン(ボス)の姿を見ながら、センリツは今の心情を胸にしまう。結果的に彼女達は楽しそうであり、何も問題は起きなかった。

 それだけが、センリツにわずかな安堵を齎すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヒノは一人、ビルとビルの間を跳びまわっていた。

 

 ネオンからウボォーの予言を貰い、その瞬間彼女は急用ができたと言って跳び出した。

 

 すぐにホテルの窓から出て、ほぼ最上階にも関わらず隣のビルに降り立ち、さらに時間を惜しむ様に走り出す。

 

 間も無く夕刻に入り、空が赤らむ時間帯。

 

 

 そんな中を、一人走り続ける。

 その手には、握られた2枚の紙。

 

(ネオンの能力は、死をも予言する。4行詩の予言が3つしか無ければ4週目が来ない、つまり3週目に必ず死ぬ未来が待っている。2つしか無ければ2週目に死ぬ未来。今日は9月2日の水曜日。つまり――――――)

 

 紙に書かれた、ウボォーの予言を見た。

 

 

 

 

 

 赤い時間に貴方の前には分岐点 赤い太陽の道と黒い月の道

 太陽の下では貴方の翼を灼き尽くし 月の下では貴方に眠りを差し出すだろう

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()1()()()()()()()4()()()()()()()

 

(このまま何もしなければ、遅くとも9月5日の土曜、早ければ今日にでも――――――)

 

 ウボォーは必ず死ぬ。

 

 その言葉を飲み込んで、ヒノは夕日が沈みつつある空の下、ビルの屋上から屋上を飛び越えて、走り出した。

 

 

 

 

 

 

 


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