消す黄金の太陽、奪う白銀の月   作:DOS

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何やら前回の更新からわずか2日でお気に入りが900件を超えました。
とても驚きましたが、実に、ありがとうございます!




第51話『悲嘆の紅炎がその身を焦がす』

 

 

 

 

 

 幻影旅団ナンバー11、ウボォーギンは、己の肉体に絶対の自信を持つ強化系能力者。

 マフィアとの戦いにおいて、マフィア側の最大戦力と言われ陰獣と呼ばれる部隊の先遣隊として派遣されてきた4人を跡形も無く殲滅した。しかし、その後ノストラードファミリーに雇われた護衛の一人である鎖を扱う念能力者によって、捕縛されてしまった。

 

 それ自体は直ぐに旅団のメンバーによって救出されたが、ウボォーにとっては己を捕らえた鎖使いに雪辱を果たさなくては先へは進めない。

 

 プロハンターですら手を余らせるA級賞金首幻影旅団と言えど、手足を封じられてしまえばいくらでも殺す手段は存在する。しかし、ウボォーが殺されなかったのは一重に捕まえたマフィアが、大元の上層部であるマフィアンコミュニティに引き渡す為にウボォーを生かした。

 

 故に、捕まった事は紛れも無いウボォーの敗北となる。陰獣戦で麻痺毒を盛られて動く事が出来なかった為でもあるが、それを抜きにして万全の大勢でもおそらく苦戦するであろう鎖使いの一矢は確かに敗北を感じさせた。それを拭う方法は、捕まえた相手を、己の力を持って真正面から叩き潰す。それがウボォーの考えだった。

 

 その為、情報取集に定評のあるシャルナークに調べてもらい、ヨークシンに滞在するノストラードファミリーがいそうな場所をリストアップして、虱潰しに当たる作戦を実行した。虱潰しと言っても、さほど多いというわけでは無いので、後は足で探す。

 

 

 そしてウボォーは、ついに見つけた。

 

 同様に、相手もウボォーを待っていた。

 

 

 ホテルの一室の扉を開き、ウボォーが中へ入ると、来ると分かっていたのか、向こうも部屋の中央で静かにたたずんでいた。

 

 どこかの民族衣装を思わせる模様が施された服に、中性的な容姿。金色の髪を揺らし、冷たい目をして、入ってきたウボォーギンをじっと見つめる。その様子に、ウボォーは持っていたビールの缶を握りつぶし、静かに睨みつける様にして口を開いた。

 

「一人か………感心だな。どこで死ぬ?好きな所で殺してやるよ」

「人に迷惑が掛からない荒野がいいな。お前の断末魔はうるさそうだ」

 

 互いに譲らぬ冷たく攻撃的な殺気と言葉のラリー。ヨークシン外れの岩肌に囲まれた荒野を指定して、ウボォーが鎖野郎と称する青年、クラピカはホテルの駐車場へと向かい車を出した。ウボォーは窓から飛び出して、ビルとビルの間を跳びかい、荒野へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 同日、ウボォーとクラピカが出会っている頃、ヨークシンの街中では。

 

「あ、ゴンとキルアにレオリオ。腕相撲は終わったのか?」

 

 街中を歩く三人に声を掛けてきたのは、ミヅキ。

 ヒノの兄であり、灰に近い銀の紙と碧眼の少年。背中には愛剣を入れた包みを背負い、何を考えているのか分かりにくい無表情でひらひらと手を振っていた。いち早く気づいたゴンも、満面の笑顔で同じ様に手を振った。

 

「ミヅキ、やっほー!今なんか地下の怪しい所に向かってるんだ!」

「いや、間違っては無いが、ちっと説明不足だぜゴン」

 

 無邪気なゴンの言葉に若干呆れ気味なレオリオ。捕捉する様に横でもやれやれ、と肩を竦めているキルア。

 

「ああ、腕相撲をやって荒稼ぎした結果、どっかで実力者を集めて何かしようとしている地下の連中の目に留まってそこに招待されて向かう所だったりするのか」

「「「驚異的な洞察力!?」」」

 

 ほとんど正解をぴたりと当てられたことに三人共驚愕。

 実際昨日の夜から初めて今日の朝までやっていた腕相撲(無論普通に睡眠時間は取っている)により、チャレンジャーがそろそろ居なくなりそうとなった時、大柄な体格の、明らかにカタギではないタイプが挑戦に来た。しかしカタギじゃないと言っても、念の使えない一般人ではゴン達の相手にならない。

 結果、一瞬で決着が着いてしまった。それにより、付き添いにいたもう一人の男から、招待状を貰った。午後の5時までに、腕に覚えがあるならここに来いと。

 

 まともな方法では億単位の金額なんて稼げない。その為レオリオが最初から狙っていたのは、この誘い。念能力者のアドバンテージを生かして、裏の世界で荒稼ぎするという事だった。

 

「ミヅキも行く?ヒノとは今日別行動だし」

「おー、行く行く。なんだかおもしろそうだし。それより軍資金はどれくらい集まったんだ?」

「う~ん、だいたい900万くらいかな?」

 

 グリードアイランドの最低落札価格まであとおよそ100倍と考えると、中々気が遠くなりそうな話である。

 

 元々の残高500万と、それに加えて400万くらい腕相撲で稼いだという。1回につき1万ジェニーが参加料として計算すると、実に400戦以上した計算になる。途中10分間参加費3倍のボーナスステージ(ヒノ戦)でも結構稼いだのだが、それでも日給としては相当だ。この時点で色々とおかしいが、既にゴンの金銭感覚は天空闘技場で麻痺しているので別段気にする事は無いのだった。

 

 5時少し前。

 レオリオは指定された場所へと赴き、招待状でもある名刺を渡すと、裏の世界の住人でもある黒服達が通路をどき、奥のエレベーターで下まで降りる様に指示した。着いた場所は明らかにカタギの人間の来るような場所でなく、中央にはリング、そしてそれを取り囲むように設置された観客席。既に多くの席が人で埋まっていた。

 

「おーおー、殺気立ってるね」

「これ全部似たような方法で招待された客か。普通に厳ついな」

「確かに………」

 

 ミヅキの感想も最も。どれも腕に覚えがある、と自己主張せんばかりの厳つい容姿をした者達が多い。自分達も確かに腕自慢で呼ばれた様なものだがら、ここの客達にどうこういえる立場では無いのだが。

 

 時刻は5時!

 薄暗い中、リングにライトが当たりその中にいる男がマイクを手にした。

 

『さて皆様、ようこそいらっしゃいましたー!!それでは早速条件競売を始めさせていただきます!!今回の競売条件は、かくれんぼ!!でございます!!』

「かくれんぼ?」

 

 司会の男が叫んだ瞬間、スタッフらしき黒服達が観客席に複数現れて、客達に何か紙を配り始めた。ゴン達の所にも現れて紙を渡すと、ゴン達は一様に驚いた。その紙に載っていた、ある写真の人物に。

 

『それでは皆様、お手元の写真をご覧下さい!!!そこに映った7名の男女が今回の標的でございます!!落札条件は標的を捕獲し我々に引き渡すこと!!!そうすれば標的一名につき20億ジェニーの小切手と交換させていただきます!!!!』

 

 写真に写る男女の姿に、ミヅキは心の中でやや面倒そうに嘆息しつつ、表情には出ていないがこの後の展開を考えていた。

 

(この7人、幻影旅団のメンバー。確か………ウボォーギン、シズク、シャルナーク、フェイタン、ノブナガ、フランクリン、マチ………………面倒な事になったな)

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 その後、参加費500万ジェニーを支払って、会場を後にしたゴン達。

 4人で歩いていたが、不意にキルアが立ち止り、後ろを歩いていたミヅキをじっと睨んだ。

 

「さて、ミヅキ。説明してもらうか」

「おいおい、いきなりどうしたってんだよキルア。確かに言いたい事は分かるけどさ」

「あ、そうだね。この黒髪の男女って、確か俺とヒノが腕相撲で対戦した人だよね」

 

 そう言ってゴンは記憶を探るようにして二人の写真、シズクとフェイタンの写真を指し示す。思い出されるのは昨夜、ゴンはシズクと、ヒノはフェイタンとそれぞれ対戦し、互いに勝利したという事。しかしここで重要なのは、この二人がヒノの知り合いだったという事。

 

 しかし、ゴンとレオリオと違って、キルアは今回の競売の異常な事態と状況から、さらに深い所までを把握しているが故に、ミヅキをやや睨む様に訪ねていた。

 

「さっきのさ、条件競売って言いながらまるっきし賞金首探しだろ?マフィアが自分らの力で捕まえきれてないって認めてるようなもんだよ」

 

 キルアの予想では、中央のリングで気楽に地下闘技場でも行う予定だったであろう会場側。しかし、そうできない事態。急遽切り上げてでも早急にしなくてはならない事案が発生した。

 

「500万ジェニーの参加料をとって競売の体裁を取り繕ってたけどさ、競売品が品物じゃなくて小切手って時点でもうおかしいと思わね?」

「まさか………地下競売の品がこいつらに盗まれた……?そこでしかたなく競売を装って盗人の首に賞金をかけたのか!」

「そ、マフィアのお宝盗むなんてこいつら頭イカレてるだろ。でもオレ達はそんな連中に心当たりがある」

 

 今ヨークシンにいるという犯罪者の中でも、最も世間を震撼させて、さらには世界のマフィアを相手取って尚早大に立ちまわる事の出来る集団………………幻影旅団。

 

 そのことに気づいた時、ゴンもレオリオも少し驚きに思わず口を閉じてしまう。

 しかし、ここからが本番とばかりにキルアはミヅキを再びじっと見る。

 

「けど、その旅団の連中は、ヒノの知り合いだった。これはどういう事なんだ、ミヅキ。ヒノは最初から旅団の事を知ってたって事か?もしくは………………あいつ自身が旅団の一員なのか」

「「!?」」

 

 キルアの推測からも、その可能性は失念していたであろう。ゴンもレオリオも息を飲む。

 無い、とは言い切れない。しかし、キルア的にはその可能性は低いとも思っていた。

 

 昨夜旅団のメンバーを外で見た限り、同日地下競売が襲撃されたと考える方が妥当だろう。しかし、その時ゴン達と一緒にヒノも普通にいた。これは強力なアリバイとなるが、旅団全員が襲撃に参加していない可能性がある。そうなるとアリバイなどあって無いような物。

 しかし、そんな推測の話をしていてもやはり埒が明かない。

 だからこそ、確信を着く。この4人の中で、最もヒノと近いし者に。

 

 その問いに、ミヅキは一瞬の思考の内にふむと考え込む。

 この場合、果たしてどう答えるのが正解なのか、と。

 

 ミヅキは幻影旅団との関りはほとんど無く、一昨日邂逅したばかりで別段重厚な信頼関係を築いた仲、というわけでも無い。元々ゴン達は旅団を捕まえにヨークシンに来たわけじゃ無いので、ミヅキを責める筋合いは全く無いのだが、ヒノに至っては違う。責めるというのも少し違うが、ヒノが最初から旅団と知り合いだったのは事実。

 それもミヅキが知る限り、今よりさらに幼いころから数年定期的に遊ぶ中だと言う。これを果たしてこのまま伝えても良い物なのか。人と人との信頼関係は、些細な事で崩れる場合もある。

 

 兄として、適当な推論を並べて妹が友人とギクシャクとした関係に無理やりするつもりは無い。その為ミヅキが取れる行動は、ある程度正直に話、確信はヒノ自身の口から語ってもらう。

 

「ヒノは旅団のメンバーじゃ無いと思うよ。確かにヒノと旅団は知り合いらしいけどね。と言っても、僕もそれを知ったのはほんの2日前だし。詳しい事は知らないよ」

「そうなの?」

「確かに僕ら兄妹だけど、互いに全ての交友関係を把握してるわけじゃ無いしね。一般家庭と違って、僕らは別行動で色んな所に行ったりしてるし」

 

 幼児期幼少期は兎も角、10歳前後になってくると、主にヒノは義父であるシンリと共に、ミヅキは緑陽と一緒にいる事が比較的多い傾向はある。あくまで比較的というだけであり、二人揃ってシンリについて行く期間だって普通に多いし、一家団欒する時だってかなりある。シンリがそういう家族的イベント事が好きなのもあるが。

 

 その為、ミヅキの知らないところでヒノがシンリの知り合いと友好を結ぶ場合だってあるし、ヒノの知らないところでミヅキが緑陽やジェイなどの友人と友好を結ぶ場合だって無論ある。実際にハンター試験前から天空闘技場に来る4か月程ヒノとミヅキは会っていない期間がある事をゴン達は知っているので、信憑性の持てる話だ。

 

「だから、聞くなら直接聞いた方がいいよ。例え真実がどんな結果になろうとも。そうで無いと、皆納得できないだろ?」

 

 それが真実かどうかはまだ分からない。

 もしかしたら曲解された虚構の言葉を吐かれるかもしれない。それでも、真実が知りたかった。他でもない、ヒノ本人の口から、直接。

 

「………俺、ヒノに電話して、直接聞いてみるよ!」

 

 やはりこういう時、一番最初に行動するであろうゴンは、携帯を取り出して掛け始める。

 その行動に、キルアもレオリオもミヅキも、誰も止めはしない。固唾を飲んで黙って見守る。

 

 ゴンの携帯が、登録されたヒノの番号に掛け始め、コールした時――――――

 

 ♪~♪~

 

「あ、そういえば今ヒノの携帯僕が持ってたんだ。すまん」

 

 着信を告げるヒノの携帯を取り出すミヅキに、思わずゴン達はズッコケてしまった。

 

「てめぇ!ここまで張りつめたシリアスな雰囲気台無しにしやがって!」

「そう言うのは事前に言っておくべきだろうーが!つーか直接聞けって言ったのミヅキじゃねーか!」

「あれ?ヒノの携帯をミヅキが持ってるならヒノは今どうしてるの?」

「ああ、僕の、携帯代わりに、持ってる、はずだよ」

 

 キルアに胸倉を掴まれてがくがくと揺すられながら、今朝方の出来事を思い出しつつ答えるミヅキ。

 ヒノよりも早く家を出るミヅキは、自身の携帯の電池残量が無くなっていた事もあり、代わりにヒノの携帯を借りて出かけた。そしてヒノは、ミヅキよりも後から出る為、充電が終わった頃合いにミヅキの携帯を持って行ったという。

 

「それじゃあ、今度こそ。ミヅキの携帯に掛けてみるね」

 

 そう言って、再び登録された番号をコールするゴン。

 今ミヅキの携帯を持っているのは、ヒノ。この電話に出た時に、第一声で何を言うか。ゴンは鈍く音を発する心臓を沈めながら、相手の受信を待った。

 

 しかし、一向に電話に出ない。

 

 流石に15回目のコールが過ぎた辺りから、眉を潜めて自分の携帯の画面を見る。確かにミヅキの携帯に掛けているし、番号も間違っていない。にも関わらず、一向に出ない。

 

「ミヅキ、ヒノ出ないよ?」

「何?」

 

 ゴンの言葉に、今度はミヅキが眉を潜める。ヒノは割と携帯にはすぐに反応するタチだという事をミヅキは知っている。にもかかわらずに出ない、という事は考えられる要素は2つ。

 

「携帯を持っていない、つまり家に忘れてきた。もしくは………………出られる状況じゃ無いって事だと思う」

 

 出られない状況と言っても、必ずしも危機的状況というわけでは無い。

 例えば公共施設でも病院内とか映画館という場合もある。しかし誰かと戦っている、もしくは重傷を負って意識不明、という場合もあるが、その可能性はまず排除する。このヨークシン内で、ヒノを害する事ができる存在がどれ程いようか。

 それこそ、件の話に出てきた旅団しか思いつかない。

 

(ヒノと旅団の奴らの様子を見た限り、本当に親しい友って感じだったし、互いに意識不明になる程戦うなんて状況にはならないはず。だとしたら、ヒノは今一体どこに………………)

 

 そうミヅキが考えた瞬間、ミヅキの持つヒノの携帯から着信を告げる音が鳴った。

 

「ヒノ!?」

「いや………違う。これは………………シンリ?」

 

 何かを告げようとするディスプレイに映る己の義父(ちち)の名前。

 この状況であの義父(ちち)が掛けてくるなら、おそらく無関係じゃない。そう直感的に感じながら、ミヅキは電話を取った。

 

「もしもし――――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 時刻は少し遡る。

 世界が真っ赤に染まる夕日が沈み始める時間帯に、私は屋上から屋上へと跳んでいた。

 

 ウボォーの事だから、正規の電車やタクシーなんてまず使わないだろうし、一般歩行者と一緒に街中を普通に歩くなんてことはまずしない。やるとしたら、今の私と同じく人の目の届かない場所で、動き続ける。このビルが立ち並ぶヨークシンなら、建物と建物の間を跳びながらの方が、断然早い。

 

「こうなったらクロロ達に連絡を―――――て、そういえばミヅキの携帯だった!クロロ達の番号登録して無いし!」

 

 早くしないと、ウボォーが件の鎖野郎を見つけてしまう。

 一度ウボォーを捕獲した事と、予言の事を考えると、その人物に殺される可能性が高い。まだ3日今週はあるけど、今日死ぬとしたら、多分それが原因。ウボォーも今日中には見つかるって言ってたし、その前に見つけてウボォーを捕まえ無いと。

 

 この時私は少し焦っていた事は否めない。

 もう少し考えたら、まだやりようは色々とあったかもしれないけど、その時間すら惜しんで、ウボォーを探していた。

 

 

 

 

 赤い時間に貴方の前には分岐点 赤い太陽の道と黒い月の道

 太陽の下では貴方の翼を灼き尽くし 月の下では貴方に眠りを差し出すだろう

 

 

 

 

 これが、ウボォーの予言。

 ネオンの予言は基本1週分の出来事を4行詩に記して、それが週の数だけある。その数が少なければ、次の週が来る前に死ぬ。それがネオンの予言の素晴らしくもあり、恐ろしい所。

 

 ウボォーの予言は、上記の4行説たった1つ。つまり、今週中に必ず死ぬ。それを防ぐには、その予言を回避しなくてはならない。

 ネオンの予言のさらにすごい所は、死の予言が回避可能という点。基本的に回避する為の忠告文みたいなのもでるんだけど、今回は少しわかりづらい。

 

「要約するとしたら、分岐点の片方にいけば死んで、片方に行けば死なない。その代わり怪我するって事なのかな?」

 

 怪我してすむか、死ぬか。

 ある意味究極の2択だけど、私としては迷わず怪我の方にして欲しい所。それが例え重症だとしても。ウボォーだったら、場合によっては死を選ぶかもしれないけど。

 

 もしもウボォーが、私の知らない所で誰かに殺されたりしたら、それはしょうがないと思う。悲しいけど、それだけの事をウボォー達はしている。具体的に把握しているわけじゃ無いけど、彼らは皆自分達の所業を悪だと理解して行動を起こしている。常に死と隣り合わせ、死すらも彼らの生活の一部。それが幻影旅団。

 

 自業自得、と言ってしまえばそれだけ。それは私も同意だし、もしもウボォー達が誰かに倒されたとしても、倒した相手に復讐しようとかは考えない。まあ旅団メンバー達は違うと思うけどね。ウボォーの場合だと仲のいいノブナガとか、普通に復讐計画しそうだし。

 

 だけど、自分の目の前でそれが起こるなら話は変わる。

 例え死すらも受け入れてウボォーが先へと行こうとするのなら、その時は――――――

 

 もうすぐ日が暮れて夜が来てしまう。できれば、その前に………………?

 

(日が暮れる?夕方………………赤い時間!)

 

 そう思うと同時に、私は少し高いビルの屋上、黄色いラインで描かれたヘリポートの上に着地する。そのまま歩き屋上の端に寄り、下の世界を見渡した。

 そこに広がるのは、真っ赤に広がるヨークシンの街。

 

「赤い時間って言うのは、夕刻の事?だとしたら、タイムリミットは少ない………………」

 

 赤い時間に出現する分岐点。

 しかし、もしも夜が来たのなら、その分岐点は終わってしまう。予言通りなら、それでウボォーが分岐点の片道、〝黒い月の道〝つまり、死への道を進んでしまう。

 

「ウボォー、一体どこに――――――」

「よぅ、ヒノまた会ったな!何してんだ?」

 

 不意に背後から聞こえた声にバッと振り返れば、そこに立つのは今まさに探して止まない人物。

 グレーの髪を逆立たせ、野性味を溢れさせると同時に、己の肉体から絶対的な自身と強者の誇りを漂わす巨漢の男、ウボォーギン。後ろを振り向いて呆然としている私の前に現れ、私が黙ってるので少しきょとんとした様子で私の頭をポンポンと叩く。

 

「ん?ヒノ?おーい、どうしたどうした。せっかくお前がここに上るの見かけたから来てみれば、らしくねーな、お前が黙ってるなんてよォ」

「………………………………………ウボォー!!」

「うぉっと!いきなりどうした?」

 

 思わずウボォーの腰にしがみ付いてしまったけど、ウボォーは難なく受け止めてくれた。

 友達が、もうすぐ死ぬかもしれないと分かっている友達が現れると、やっぱりすごく安心する。生きててよかった、本当に。

 

 感傷に浸っている暇じゃないと思い、ウボォーにしがみ付く腕を解いて真正面から見据える。

 

「ウボォー!今からアジトに戻って!それで3日くらいじっとしてて欲しい!」

「どうした、唐突だな。つーかわりぃな。今から一個ケリつける用事があるから、話はそれからでいいか?」

「………………用事って?」

「ああ、言ったろ?俺を捕まえた鎖野郎ぶっ潰しに行くんだよ。もうアポは取ったからな、ヨークシンの外れの荒野で1対1(タイマン)張る予定だ。向こうの了承も得てるぜ、どうだ?ちゃんと街中で戦わない様に配慮しておいたぜ」

 

 得意げに語るウボォー。私の言った事ちゃんと守ってくれたんだ。

 でも、それを聞くと余計に行かせられない。今は夕刻、それに場所がヨークシンの外れの荒野なら、そこに着く頃には既に夜になっている。黒い月の道………………多分、夜の事を示唆してると思う。

 

「ウボォー、さっき予言を貰ったの。そうしたらウボォーはこの戦いで多分だけど必ず死ぬ!だから、行くとまずい!」

 

 直球に言う。ウボォーには回りくどい言い方よりも、この方が確実に伝わる。あまり見ない私の様子にウボォーも流石に冗談を言っているわけじゃ無いって事は分かったみたいだけど、その表情を見れば………多分返事は―――

 

「安心しろ、ヒノ。俺は負けねぇよ。借りを返さねぇと、前へは進めねぇしな。もしもそれで俺が敗れる事があるとしたしたら、俺がそれまでだったって事だ。例えそれが、予言だとしてもな」

 

 そっと、私の頭を柔らかく撫でてくれる。確かに死地に行く顔じゃない、自信を感じさせ包容力を見せつけるような巨大な力を感じる。

 

「それに、予言は必ず外れる当たるわけじゃねぇだろ。そもそも俺が予言を知ったんだから、変わる可能性だってある」

 

 観測者効果の事を言ってるのかな。ウボォーは意外と鋭く洞察力もある。

 観測者効果とは、簡単に言えば予言の内容を当事者本人が理解しながら予言に沿えば、本来の予言とは違う結果が出る可能性があるという事。例えば極端な例を出せば、必ず外で転ぶという予言を貰った者が、その日一日部屋から出ない生活を送り予言を回避するって事。

 少なからず、その予言を知っている事により考え方が、予言を知る前の本人の考え方とズレが生じ、そのズレが予言を変える事になる。

 

 確かにその可能性はあるけれど、確証は無い。それは言ってしまえばネオンの予言も確証があるわけじゃ無いけど、ネオンの予言はマフィア上層部もお抱えの予言らしい。

 

「それじゃ、俺は行くぜ。安心しろ、ちゃんと明日には戻って来てやるしな」

 

 そう言ってウボォは丸太の様な手を振ってビルを降りようとする。

 既に夕日は沈みかけ、この赤い世界とも見納め。そこに飛び込もうとするウボォーは、まるで血の池に飛び込む様にも思えて、私はぞくりと直感的な何かを感じた。

 おそらく………………ウボォーは死ぬ。

 

「もしも、それでも私が無理やり止めるって言ったら、どうする?」

「おー、その時はかかって来いよ。お前とは初めて会った以来まともにぶつかってねぇしな。あんときもワンパンダウンで終わったし」

 

 その表情は暖かく、私にはすごく安心感を与える表情に見える。私には未来を見る能力なんて持っていない。それでも、今はその表情が脆く、ガラス細工の様に砕け散る未来が、なぜか見える気がした。

 

 そう思った時、私は無意識のうちに声にだして呟いていた。

 

「――――――ごめんね、ウボォー」

 

 ウボォーが私の横を通り過ぎようとした瞬間、私は体を跳ね上げさせ、回転して威力を高めた蹴りをウボォーに向かって振り回した。

 咄嗟の奇襲に、ウボォーは思わずオーラで強化した腕を掲げてガード態勢に入ったが、その瞬間はっとした表情で己の失態を悟った。

 

(しまった!ヒノの攻撃は、()()()()()()()!!)

 

 

 ドオォ!!

 

 

 強化系を極めたウボォーの防御をあっさりと突き破り、ヒノの蹴りがウボォーを屋上ヘリポートの真ん中程まで一足で吹き飛ばした。

 

 ジンジンと痛む腕を見ながら、ウボォーは受け身を取りつつ選択を誤った事を理解する。

 いくら強化系を極めようとも、それはあくまで念を使ったオーラの技術による物。オーラの防御に関しては、ヒノ相手には全く役に立たない。それが彼女の能力【消える太陽の光(バニッシュアウト)】。ウボォーが反射的な防御をするよりも早く、呼び動作なしで一瞬で足に消滅の念を作り出して蹴り飛ばした。

 

 ヒノは具現化した念は基本消す事が出来ないけど、そうではないオーラを纏う攻防が戦術の基本であるウボォーの様なタイプには、多大なアドバンテージが存在する。いや、アドバンテージなんて生ぬるい話ではない。彼女には、主にオーラを直接使う強化、変化、放出の3系統は、ほぼ天敵である。それ以外にも操作系の念の消滅も行い、能力によっては全く効かない。彼女は、念能力の大半にとって悪魔か死神にも等しい。

 

 加えるなら、身体的な能力や対捌きも常人を遥かに超えている。ヒノと比べたら、ウボォーは明らかに速度でも負けている。結果として、ヒノの攻撃を躱すことができず、ウボォーは成す術なく攻撃を喰らった。

 

 

(ウボォー、もしかしたら旅団の団員達だったらウボォーの意思を酌みとって、送り出したかもしれない)

 

 

 背後に周るヒノの攻撃を今度は回避するが、その瞬間流れる様にしゃがみこみ、ウボォーの足を回転しながら払う。巨体をぶわりと宙に浮かし、宙故に回避不可のヒノの掌底がウボォーの水月に突き刺さる。

 

 

(この行為はウボォーを侮辱するかもしれない。ウボォーを信頼して無いと言われるかもしれない。でも―――)

 

 

 吹き飛ばされたウボォーに追いついたヒノに対して、ウボォーは掴もうと腕を振るうが、その腕を柔らかく逆に掴み取り、ヒノはウボォーの巨体を物ともしないで、屋上に背中から叩きつけた。

 

 

(私の目の前で、今まさに死にに行くのを、黙って見過ごせるわけが無い!)

 

 

 オーラを消し去り打撃を与える一撃必殺の拳が、ウボォーの身体に突き刺さる。硬い屋上を砕き、蜘蛛の巣の様にヒビをまき散らし、ウボォーは沈んだ。その表情に意識は無く、完全に沈んだ事を物語っている。いくら念による防御をしようとも、ヒノの一撃はそれを容易に突き破り、生身に打撃を与える。いくら耐久力のあるウボォーでも、生身で受け止めきれるわけが無い。

 そばに立つヒノは、ウボォーを見下ろしながら、右手を掲げる。

 

「ウボォーなら寝ればすぐに回復する傷。だから、このヨークシンでは何もでき無い様に、()()()()()()()()()()()()()()。ごめんね、ウボォー」

 

 瞬間、体内から練り上げた念が、ヒノの周りを纏う。極大な、まるで台風の様に渦巻く念を右手に一つにまとめ上げる。荒れ狂う暴風の様な念を纏める技術は、明らかに常軌を逸している。顕在オーラ量だけでウボォーの数倍は優にありそうなオーラは丸くまとまり、ヒノの右手の上で、さながら小さな太陽の様な輝きを放った様に錯覚した。

 

「後で恨んでいいよ、ウボォー。……………【罪日の太陽核(サンカルディア)】!」

 

 屋上の中央で、光が弾けた。そう錯覚した様な念の奔流がウボォーの心臓を打つ。

 痛みは一切無い、だがその念の塊は、ウボォーの肉体を極限まで削り続けた。体内を通り、手足を抜け、全身をくまなく蹂躙する。ドクン!と、一際大きな心臓の音がウボォーを呼び起こしたと思ったら、次第にゆっくりと瞼を閉じていく。

 ウボォーに纏われいた念は、徐々に消え去って、【絶】の状態に等しい姿で横たわった。

 

 意識の無いウボォーを見下ろすヒノは、その瞬間膝から崩れ落ちて、同じようにウボォーの隣に倒れた。

 

 瞬間、ヒノのポケットから携帯が着信を告げる。

 

(あ、ミヅキからの電話かな?早く……とらないと。でも………腕に力が入らないや………)

 

 徐々に自分の意識が闇に染まっていく事を理解していく。手足は投げ出され、耳に聞こえていた携帯の音すらも、もう聞こえない。

 

 そのままヒノは、意識を手放した。

 後に残ったのは、無情に音を告げる、電子音だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 光と闇の照らす街の中 太陽に向かう月と出会う

 月が沈むも登るも貴方次第 悲嘆の紅炎がその身を焦がす

 

 月は沈んだ。彼女の悲しみは心を燃やし、その身を焦がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

「………………………………………………来ないな」

 

 クラピカは一人そう呟き、黒く染まる夜空に浮かぶ月明りの下、ヨークシン外れの荒野で待つ。結果クラピカがアジトに戻ったのは、日付が変わる頃だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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