消す黄金の太陽、奪う白銀の月   作:DOS

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9月2日(水)ゴン達腕相撲→賞金首リスト入手!
      ヒノ、ネオンとお茶する→ヒノVSウボォー!→両者ダウン!
      クラピカ、待ちぼうけ!
9月3日(木)←今ここら辺


第52話『9月3日の行動方針』

 

 

 

 

 

(結局昨夜は奴は来なかった。奴の性格から考えて、途中でやめるなんてのはまず無いだろう。となると、急遽来れないだけの理由ができた、それは何か?団長の指示か、それとも不測の事態か。なんにしても、()からの情報次第か………………)

 

 一人、護衛対象であるネオンが滞在するホテルの屋上で風に当たり、クラピカは冷めた目をしながら思考に更けっていた。

 

 ネオンの父親、ノストラードファミリーの組頭であるライト=ノストラード氏が昨日到着し、今後の予定を話し合った。競売品は()()幻影旅団に盗まれて、地下競売(オークション)は中止。その為、今なお安全とは言い難いヨークシンから、ネオンを自宅へと返す。元々オークション参加を目標に来ていただけに、組長から告げられたこの事実に渋々と言った表情をしながらも、彼女は肯定の意を示した。

 予定では、クラピカと同期で護衛チームに加わったセンリツ、バショウの二人と共に帰る予定だが、これは組長がネオンを危険な場所であるオークションに参加させたくない為の方便。

 

 オークションは、9月3日の今日、予定の時刻、場所で再開される。

 

 面子を重要視するマフィア側からしてみれば、舐められたままじゃ終われない。9月1日、2日と2日分の競売品が強奪された為、それを取り返す為にも予定変更は無い。

 しかしながら、同じようにマフィア達を迎撃用にいくら用意した所で、相手が相手だけに焼け石に水。その為コミュニティ側は、殺しのプロでもある腕利きの殺し屋を数名雇ったと言う。その中には、伝説の暗殺一家の名も連なっているとか。

 

 クラピカは組長と共に、護衛チームリーダーとして同行する。

 理由は護衛もあるがもう一つ、殺し屋チームにクラピカを参加させる為。

 

 これはコミュニティにノストラードファミリーの名を売るチャンスでもあり、ほおって置いても暗殺者達が旅団を片付けてくれると予想しているが、その殺し屋チームに自分の組の人間を加えておけば、実際にクラピカが成果を上げようが上げまいが、それだけで宣伝になる。

 あわよくば、旅団の一人を捕らえたクラピカの実力を持って、誰か仕留めてくれれば尚良し、と言った所だろうか。

 

(果たして、そこらの暗殺者程度で旅団の連中が仕留められるか。それこそゾルディック級の者達で無いと、逆に返り討ちになる程の相手)

 

 思い出されるハンター試験におけるイルミ=ゾルディック。あのレベルの者達でないと、旅団には太刀打ちできない。それがウボォーギンとマフィアの戦闘を見ての、クラピカの感想だった。

 

 ピピピピ、ピッ!

 

 不意に、メールの受信を知らせる携帯の音を止めて、クラピカは画面を覗き込む。そこに記された文字の羅列を見て、少しだけ考え込む様なそぶりを見せた。

 

[特になし♠現在行方不明中♥]

 

 ワンポイントに記号の使われた簡素なメールの内容だが、それだけでクラピカに十分に理解した。

 

(ヒソカからの返信。旅団はあの男、ウボォーギンとやらに何も指示をしていない。それどころか、旅団内でも未だ行方不明………………少し面倒な事になったな)

 

 クラピカとヒソカは、協定を結んでいる。

 

 ヒソカは幻影旅団のメンバーであるが、メンバーではない。団員の証であるナンバー入りのクモの入れ墨を【薄っぺらな嘘(ドッキリテクスチャー)】で偽装し、ヒソカは旅団の誰にも悟られず、偽りの4番を演じている。

 

 その目的は、幻影旅団団長であるクロロと戦う事。戦闘狂のヒソカにとって、これ程までに心躍る相手はいないと常々願ってはいるが、そうはうまくいかない。クロロと戦おうとすれば、他の団員が黙ってはいない。ただでさえ比較的新参なヒソカはあまり信用されていない為、どうやってもクロロと二人きりになれる機会は皆無。

 

 そしてそれを成就させる為に、旅団を潰そうと画策するクラピカと協定を結んで情報交換をしていた。

 

 互いに相手を利用し、どんな手段を使っても己の欲する物を手に入れる。

 それがクラピカとヒソカが互いに同意した協定。

 

 そのヒソカに、クラピカは昨夜1つの質問をした。

 それは、ウボォーギンに帰還命令もしくは、昨夜別に命令が下ったか。結果として、ヒソカからは特になしと回答が届いた。

 

(未だウボォーギンは捜索中、マフィア、旅団互いに。奴は一体どこに向かったか。私が狙いであった以上、他に行き場は無いとすると…………全く違う第三者にやられた?いや……そんな偶然が起こるか………………)

 

 推測するが、決定打に欠ける。確かに幻影旅団はA級賞金首、つまりは元々お尋ね者。マフィアに限らず、偶然出会った賞金首(ブラックリスト)ハンターに討伐された、という可能性もあるが、そう都合の良い事が起こるのだろうか。

 第三者にやられた、という点においてはほぼそれが正解に近いのではあるが、クラピカがそれを知る術は現在無いのであった。

 

(奴は私の顔も名前も知っている。このまま旅団の下へと戻られる前に、手を打たねばならないなな………………)

 

「クラピカ、ここにいたのね」

 

 不意に聞こえた柔らかな声に、クラピカは表情には出さないが思考を頭の片隅に追いやった。

 ちらりと屋上への入り口を見てみれば、センリツがそこに立っていた。

 

「センリツか、ボスの付き添いはいいのか?」

「もうしばらく準備中。あなたこそ、今日のオークションに行くんでしょ?大丈夫かなって思って」

「問題無い。旅団が来るというのなら、私にとっては好都合だ」

 

 だから心配なんだけど。センリツはその言葉を飲み込む。母親が子を憂う様に、センリツはクラピカの先を心配する。

 超聴覚を有し、人の心音からその者の心情を読むセンリツにとって、クラピカは放っておけない存在だった。冷たく、怒り、憎しみ、唯一クラピカからクルタと幻影旅団の事情を聴いたセンリツは、旅団と口にするごとに凍えるような心音を打つクラピカを心配する。

 

 実力的には旅団と同等に戦える事は知っている。冷静な洞察力を有し、的確な判断力も持っている事は、護衛チームのリーダーを任されている事からも分かる。センリツもクラピカをリーダーに推薦した一人として思うが、その生き方はまるでその身を暗い奈落へと相手を引きずる様な生き方。

 

(今の心音を聞く限りじゃ、そう無謀な事はしないと思うけど………………)

 

 昨日の旅団の件もある。

 あれはウボォーがクラピカを探している事を理解して、あえてノストラード所有物件の一つであるホテルで待っていた為に起こった決闘の約束。クラピカ自身も勝算ありと判断しての事だが、それでもあまりこういう無茶なやり方はしないで欲しかった。

 

(できれば、クラピカにも背中を任せられる様な安心する仲間がいれば………………そういえば)

 

 ふと、思い出したのは昨日、ネオンと共にカフェに来た少女の事。

 

「クラピカ、そういえば昨日ボスと一緒にお茶してた女の子の事だけど、何か心当たりがあったの?」

「そうか………確かに君なら私の心音から察しただろうな。彼女の名前は聞いているか?」

「確か、ヒノさんって言ってたわ」

「………………やっぱりか」

 

 やれやれと肩を竦め、半ば予想通り、半ば嘆息する様な仕草で、クラピカは息を吐く。

 そのあまりにも普通に自然体な動作に、思わずセンリツは目を丸くして驚いてしまった。

 

 氷を研ぎ澄ましてさらに刃に加工した様に鋭く張りつめた空気を纏い続けるクラピカだが、こんな表情もするのかと素直に驚く。センリツはその少女の事に、元より別の意味でだが、興味が湧いた。

 

「どういう知り合いなの?」

「私と同期のハンターだ。他の仲間と共にヨークシンに来ている事は知っていたが、まさかボスと偶然会うとは思わなかったな。念使いの少女というのもそうそういないし」

 

 クラピカは念を修めた時、師匠である心源流の師範代から他の近況を聞いた時、イルミ、ヒソカと同様にヒノも既に念法を修めている猛者である事を聞いていた。当初普通に驚愕していたが、同時にどこか納得もしていたという。

 だからこそ、少女の念能力者で、後はヒノの容姿と同じパーツが電話口のスクワラの口から洩れてくれば、ほぼ確信に変わる。あまりにも偶然に偶然過ぎたので、名前を聞くまでは確定していなかったのではあるが。

 

「普通に考えて、ボスが街中でナンパした少女が自分の知り合いだとは思わない」

「ナンパって………あはは、それはまぁ確かに。ボスも中々引きが良いって言うのかしらね」

 

 ある意味護衛としては最強の部類かもしれない。まあクラピカは、ヒノの戦闘能力とか念に関しての実力はそこまで詳しく把握しているわけでは無いのだけど。

 

「その子って、どんな感じの子?」

 

 どこか探る様に、しかし表に出さないようにして、センリツは自然に尋ねた。

 

「そうだな、ちょっと変わっているが明るく、不思議な子………か」

「どういう事?」

「何か隠している様にも見えたし、何でも知っている様に見えた。しかし彼女自身明るく、裏表の無いタイプだと思ったよ。すごく、子供らしいとね」

 

 そう言うクラピカの脳裏には、ハンター試験、さらに通じてパドキアの出来事が思い出される。一緒にいた期間はゴンやレオリオ、キルアの方が長いかもしれないが、それでもの人とナリを知るには十分の様に感じられた。そう思うクラピカは、少しだけ微笑んでいた。

 しかし、途中で切ってちらりとセンリツを見る。

 

「どうにも、解せないという面持ちだな、センリツ。ヒノについて、何か気がかりでも?」

「ふふ、やっぱり隠し通せない?」

 

 目を見れば心情が分かる、とはクラピカの談だが、その洞察力観察力は確か。センリツの言葉や、僅かな挙動から何か気にしている、と感じたのだろう。くすりと笑いながら、センリツはゆっくりとした声音で話す。

 

「昨日ヒノさんとすれ違った時にね、不思議な音を聞いたの」

「音?」

「そう。心臓の音。けどあの子の身体の内側から聞こえてきたのは、凪の様な幅の無い、静寂の様な音。喜びも、悲しみも、怒りも、憎しみも、何も感じなかったわ。あんな音は、初めて聞いた」

「あのヒノが?信じられないな………」

 

 今更センリツの能力に疑問の余地は無い。だからこそ、クラピカはその言葉に驚く。

 天真爛漫に振りまき、楽しげに笑う少女の姿。とてもあれが演技だとは思えなかった。

 

「でもね、逆に不自然って事は、別の可能性もあるのよ。例えばだけど体の情報を遮断する能力。まあ念能力の可能性は挙げたらきりがないのだけれど。後は、誰かに操作されていた、みたいにね。最も、操作はされて無いと思うけど」

「どうしてそう思う?」

「あの子の【纏】がね、すごく綺麗だったの。あれこそまさに自然体、そう言ってもいいくらいにね。あのレベルになると、操作されできる物じゃないわ。同時に、あの子かなり強いって言うのも分かったけど」

 

 元々の心音を知っていたら、操作された時の心音の違いから操作能力を判別できるセンリツだが、今回はヒノの心音を初めて聞いたのでこの判断方法は使えない。しかし、あれを見て操作されている、とはとても思えなかった。だからこそ、センリツは不可解に悩ましている。寧ろ操作されていると確信できたら逆にすっきりするのだが。

 

「音の無い心臓の少女、といった所か。流石にこれ以上は、推測するだけになるな」

 

 後は彼女本人に直接聞く、くらいか。

 

「あ、そろそろボスの準備も終わるし、行くわね」

「ああ、済まなかったな、センリツ」

「ふふ、頑張ってね、クラピカ」

 

 ひらりと手を振って、センリツは屋上から出て行った。

 後の残ったクラピカは、久しぶりの旧友の話題で少し穏やかに過ごせた事に、僅かに笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

(………………さて、これからどうしようかな♣)

 

 ヒソカは瓦礫に座り、一人自前のトランプを弄んでいた。

 

 先程団長であるクロロ含めた団員全員(ウボォー除く)が一堂に会して今後の方針を話し合っていたが、その結果2人組に分かれての情報収集となった。無論アジトに残る人員は何人かいる、ヒソカもその一人だ。

 そもそも自分と2人組をしたいという団員がいないのでしょうがない。別段自分が団員達から不審がられている事は問題無いが、今の状況に関してヒソカはどうしようかと検討している。

 

(ウボォーギンは見つからない♣おそらくは死亡したか………それとも拉致られたか♠彼が始末してくれると思って情報もあげたのに、彼からのメールだとその前に消えてしまった、と♠一体どこにいるのか…マフィアに捕まった?いや、それは無い♥それにしては、動きが無さすぎる♠) 

 

 マフィアを面子を大事にする。もしもマフィア側がウボォーを捕まえたたのなら、マフィアを襲った愚かな賊の一人として、ネット上にいくらでも晒し首だろうが何だろうが分かりやすいアピールをしてくるはず。しかし今調べてみたが、それらしい者は一切ない。

 

 つまりは、マフィアとは全く関係無い誰かによってウボォーは()られたか、捕まった。

 

 強化系を極め驚異的な肉体を持つウボォーだが、例えば彼自身が操作されるとか、巻きつけたら動きを止める鎖を具現化するとかすれば、1対1の状況下で倒す事は難しくない。最も、そういう不得手の相手であっても、対処できるだけの頭と経験を持つからこそ旅団は驚異的ではあるが。

 しかしクロロの推測としては、やはり操作系、もしくは具現化系の鎖の能力者に倒された可能性が高い。

 

(ヨークシンでウボォーギンを倒せる人物はそうはいない♣後可能性としては、イルミは違うって言ってたし………ヒノ?いや、流石にこれは無いね♥そうだとしても、なんで?って話だし♦ま、何か知ってるかもしれないから聞くだけ聞いてみようかな)

 

 ちなみにヒソカはミヅキもシンリも全く知らず、面識が無い。たまたまなのかタイミングが悪かったのか、シンリはともかくとして、ミヅキに関してはヒソカがいない時に旅団の所にヒノと来たので仕方が無い。その後ヒノがヒソカがいるときにも旅団に来たが、その時には逆にミヅキがいなかった。だからヒソカの中で旅団級の者となると、もう少し限られてくるが、どれもすぐに切り捨てる。

 

 個人的にはウボォーをクラピカが倒し、順々に旅団の数を減らしてくれる事を期待したのだが、思ったよりも予定外の事が起こり始めている。このままでは自分の思い描くクロロとの対決が実現しない。逆にクラピカが旅団に見つかり倒されてしまえば、もはや旅団を減らしてくれる者がいなくなる。

 それはできるだけ避けたい。あくまでできるだけ、なので自分の身の状況に置いては斬り捨てる事もやむなしだが、それは相手も同じなのでお互い様である。

 

(………………出ないな♠ヒノが電話に出ないのも珍しい♣携帯忘れてるのかな?ま、出ないならしょうがないや♠)

 

 コール音だけを鳴らす携帯を切り、ヒソカはトランプをピッときる。

 髑髏に意匠を施した様なジョーカーのカード。

 

 底の無い暗い瞳が、まるでヒソカをじっと見つめている様だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 カーテンの隙間から翳した光が、僅かに彼女の髪を光らせる。

 太陽の光を溶かし込んだ様な黄金色の髪は、いつも身に着けている緋色のリボンから解かれて、白いシーツの上でゆったりと広がっている。

 

 まるで眠れる森に迷い込んだかのような、幻想的な風景。

 

 ベッドの上に横たわり、身じろぎ一つ動く事が出来ずにいた。皺一つ変わらず、彼女がずっとこの状態である事を理解させられる。いつも楽しく笑う口元は閉じられており、爛漫に目を輝かせる紅玉(ルビー)の様な瞳は伏せられて、彼女の時は動かない。

 

 快活に触れ回る小さな小動物の様に場の空気に色を付ける彼女の姿を、もう見る事は出来ない。いつも身に纏うエネルギーは微塵も感じられず、本当の意味で静かな時間が彼女を包み込んでいる。

 

 傍らに立つ少年は、その姿にすっと目を細める。灰色に近い白銀の髪を小刻みに揺らして、碧眼の瞳からはわずかに透明な雫が流れ落ち、頬を伝う。 

 

 兄として、できる事はあったのではないだろうか。そんな思いを考える事も無く、口元に手を当てて少年は、僅かに俯き少女の顔を視界から外した。

 

「ミヅキ………………」

 

 その様子に部屋の入口から声をかけるゴンだが、それを無言でキルアは手で制す。今の彼に掛けるべき言葉は、ゴンに見つける事は出来ない。キルアはそれを即座に判断し、何も言わずに場の空気を読み取った。

 

 キルアは歩き出し、俯くミヅキの肩に手を置いて、口を開く。

 

「いや、ただ寝てるだけだしお前今欠伸してただけだろ………」

 

 やや半眼でじとっとした目で見るキルアの視線に、ミヅキはわずかに眼尻に溜まった涙をぬぐい、再び欠伸を噛み殺した。

 

「仕方が無いだろ。昨日はまともに寝て無かったからな」

「それはご苦労と言っておくが、ヒノはいつまでこの状態なんだ?昨日からずっと【絶】の状態で眠り続けてるぜ?結局詳しい事は何も分からないしよ」

「それは僕も同じだ。と言ってもそのままじゃラチが明かないだろうし、命に別状は無いから起きるまで待つとしよう」

 

 ヒノが眠る部屋から出て、リビングダイニングに戻ったミヅキ、ゴン、キルアに、ソファに座って朝刊を呼んでいたレオリオが手を振った。

 

「よぅ、ヒノはどうだった?まだ寝てるのか?」

「まあね。昨夜も言ったけど一先ずこのままほっておいてもいいよ。それで3人共これからどうするの?」

「情報収集が先だな。旅団を捕まえて1人20億ってのは魅力的だが、奴らがどこにいるか分からないんじゃ話にならないしな。ま、それよりも先にサザンピースのオークションカタログを買うのが先か」

「あれ?でもあれって1200万するんだろ?3人共手持ちは昨日参加費の500万払ったから残り400万くらいしか無いんじゃ?」

「「………………」」

 

 ミヅキの言葉に、気まずい雰囲気で押し黙ったレオリオとキルア。しかしそれを見つめるゴンはきょとんとした様であり、一体何事かとミヅキは思う。

 

 昨夜、ミヅキは義父であるシンリの父親に出た後は、一人で先に帰ってしまった。

 その後、ゴン達がおこなった行動と言えば――――――――、

 

「は?質屋にゴンのハンター証入れて1億無利子無担保で借りた?」

 

 ミヅキにしては本当に珍しく、表情を変えて驚く。この話が本当なら、中々正気の沙汰じゃない作戦に出ている事になる。

 

「ほら、賞金首って探すのに広い情報網が必要でしょ?だから掲示板で集めようにも800万とか情報に報酬出す人もいるんだ。だから俺達は1500万出して提供してもらおうかと思って」

「…………それで、その報酬額捻りだすのにハンター証を質入れしたと……………アホか?」

「もっと言ってやってくれよミヅキ。一度流れたらもう手に入らないからやめとけって言ったけど、聞かないんだよコイツ」

 

 やれやれと肩を竦めるだが、今回は全面的にキルアの意見に同意する。

 ハンター証は売れば7代まで遊んで暮らせると言われる程の超希少なライセンス。本人の者じゃなくても、それだけで利用する方法なんかいくらでもある。だから欲しがる者も多いし、ハンターは自分を証明する者で再発行もしてくれないので決して紛失しない様にしなくてはならない。この事はハンター試験終了後の講義でも注意されている。

 

(それを、躊躇いなく質入れ。売らないだけまだマシだが、父親の手がかりの為とはいえ、少しゴンを見誤っていたな)

 

 質入れした品はその時の借り入れ金額を差し出せば普通に戻ってくる。この場合は1億質屋に渡せばゴンのライセンスは返してくれるが、その前に誰かが購入などしてしまえばもう手元に戻ってこない。確かに数日やそこらでハンター証が流れる確率は低いが、それでも普通はしない。

 それだけ本気と言うか、今やれる事を全力でやるというか、手段を択ばないと言うか。

 

「ま、ゴンが決めたならいいけど。しかし言えば1億くらい貸してやるのに。後で倍にして返してくれるなら期限とかも別にいいし」

「今さらっとすごい事言ったなコイツ。ていうか無期限で倍返すとか、いいのか悪いのか微妙だぜ」

「いや、でも無期限で知り合いから借りれるならミヅキに借りた方が良くねぇか?どうせハンター活動を今後も続けるなら、金が入る機会は多いだろうしよ」

 

 確かに、そんな事を思ったが、既にハンター証は質入れしておそらく既にゴンの通帳に1億振り込まれている。まあ今すぐに取り返す必要も無いが、最悪の場合はその手段を借りる事になると思う。ゴンとしてはできるだけ、ヒノやミヅキの力は借りない方向にしている。借りたらその瞬間色々と台無しというか、苦労なく全て片が付いてしまいそうだからではあるが。そりゃ金もグリードアイランドも全部持ってるし、何この兄妹怖い。

 

「じゃ、俺らは外出て来るな」

「ああ。行ってらっしゃい」

 

 ひらひらと手を振るミヅキを家に残して、ゴン達は外に出て行った。

 それを見送ったミヅキはわずかに溜息を吐いて、誰もいないリビングでぽつりとつぶやく。

 

「それで、どうするつもり………シンリ」

「どうするも何も、彼らがやる気になっているなら見守るしか無いだろう。ヒノがいつ目覚めるか、に関してはミヅキのおかげで明日には目覚めると思うし。元々オーラが枯渇しただけだしね」

 

 果たしていつからいたのだろうか。

 ダイニングのテーブルに座った人影は、掴み所の無い表情で楽し気に笑っていた。

 

 銀色の長い髪を後頭部で結い上げ、金色に薄く太陽光に反射する瞳は少し細められ、ミヅキを見ている。

 

「そうじゃなくて、ゴン達に説明しなくても良かったのか?ヒノと旅団の事は知りたがってたけど」

「説明するのは容易いけど、ヒノの意思もあるからね。全部正直に話して嫌われたく無いし」

 

 あっけらかんと話すが、割と真面目に嫌われるのは避けたいらしい。果てしない親バカだが、その瞳の奥は何を考えているのか分からない時が多々ある。本当に何も考えずに私情を優先しているのか、もしくは………。

 

 昨夜、ゴン達が家に帰ってきた時は、最初はヒノが倒れた、という事実に皆驚いた。

 

 無論心配もしたが、ミヅキが特に問題無い事を伝えて一先ずお開きとなる。特に問題無いのは、自分が来る前に義父がヒノを見つけて診てくれた、という様な説明で割と納得してもらえた。実際に本当の事でもある。もっとも、それだけしか語らなかったのではあるが。

 元々マンションはシンリの持ち物で、今はヨークシンのどこかにいるという事はゴン達にも説明してたので、その持ち主が娘を介抱しても何ら不自然では無い。

 

 ゴン達もヒノが眠っているだけという事にほっとして、一先ず夜も遅いので眠りに着き、先程の朝の光景に至る。そのままシンリはゴン達の前に姿を現さず、というか別の事をしていた様で先ほど入れ違いに入って来たらしいけど。

 

「しかし、友人の知り合いかもしれない相手を躊躇なく捕まえようとするとは。相手が賞金首とはいえ、中々肝が据わっているというか」

「ま、その辺りは色々と3人で話し合ったみたいだよ。最終的にはゴン主導で決めたらしいけど」

「そうかい。まあヒノが起きたら俺も戻ってくるか。あの子達に挨拶もしたいしね」

「それは良いけど、結局あいつはどうするつもり?シンリの知り合いだろ?」

 

 ミヅキの視線がシンリを射貫きながらも、シンリは表情を変えずに笑いを堪えているかの様に楽し気に微笑む。ミヅキの言いたい事も分かる。確かに自分は()()()をヒノよりも昔から知っているし、ヒノがいた件場に同じ様に倒れていたから状況は大体察している。例の人物、ウボォーギンの今後について。

 

「そうだな。ウボォーには悪いが、とりあえず――――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 ゴン、キルア、レオリオの3人は外の競売市を覘きがてら、散策をしていた。

 値札競売市と言われる、品物にかかっている値札に自分の名前と値段を書き、欲しい物がいたらその名を消して新たに自分の名前と上の値段を書いていく。それを繰り返し、指定された時間に一番高額を記入した者が購入できると言う、蚤の市と競売が合わさった、一般人でも気軽にご利用できる中々人気の市である。

 

 そんな露店と露店の間を歩きつつ、レオリオはゴンに尋ねる。

 

「なぁ、ゴン。昨日も聞いたけど、本当にいいのか?旅団の奴らとヒノが知り合いだけど、捕まえる事に関してはよぅ」

 

 幻影旅団は賞金首である、という事実を除けば、友人の友人を捕まえようとする行為である。ゴンとしてはそういうのは少し躊躇いがちかと思っただけに、レオリオもキルアも少し訝し気だったが、ゴンはまっすぐな瞳を二人に向ける。

 

「うん、どっちにしたって俺達が大金を稼げる手段が無いのは事実だし、それにヒノと旅団、どちらかに事情を聴こうにもヒノがあの状態なら、後は旅団を捕まえて直接聞こう。それなら、俺達も納得できるし、場合によっては1人捕まえた後に他の団員の居場所を吐かせて芋づる式に捕まえられる。全員で140億、一石二鳥だし!」

「お前ってやるとしたら結構過激な行動派だよな。まぁ確かに理にかなってはいると思うけどよ」

「けどやっぱヒノに聞いた方が早くねぇか?俺が言うのもなんだけど、いくら知り合いっつても相手は犯罪者なのは変わらないしさ。まあ捕まえるのは同意だけど、知ってる奴に聞く方が相手の居場所とか確実だし」

 

 キルアの言う事も最もである。ミヅキの見立て(実際はシンリの見立てだが)ではヒノは後一日あれば目覚めるという。ならば、その後に情報を聞いてからでも、オークションまでに後2日猶予がある。その間で敵を捕らえる事ができれば、期間内に7人分、1人頭20億の計140億と大金を持ってオークションに臨めるという物だ。

 しかし、キルアの言葉に対して、ゴンはまっすぐな瞳を向ける。

 

「ヒノに聞いたとしても、多分教えてくれないと思うんだ。もしもゾルディックの事とかキルアの事とか聞かれたらさ、俺だったら絶対に答えない。友達を売るなんて、できるわけないからね」

「ゴン……………」

「もしもヒノと旅団の関係も同じだったら、無暗に聞くのは間違ってると思う。だから………………俺達自身の手で直接確かめて、直接聞けばいい。実際はどうなのかって事を」

 

 自分も元殺し屋でありゾルディックに名を連ねているこそ、キルアはゴンの言いたい事が深く理解できた。いくら過去の経歴がどうであれ、ゴンにとっては自分はかけがえのない友人だと言ってくれる。

 

 実際は、案外ヒノの事だからポロっと教えてくれるかもしれないけど。

 

(けどゴン、幻影旅団は、現役の賞金首だぜ。敵として判断されれば、躊躇なく()られるかもしれないんだぜ?まあそれでも、お前なら直接確かめるって聞かないんだろうけど)

 

 自分も、過去何人も手に掛けてきた。仕事の暗殺もあれば、ただその場の気分で殺した数だって少なく無い。だからこそ、幻影旅団という者達が危険だと一番理解しているであろうキルアだが、そう言って止まるゴンじゃない事を友として知っている。

 

 ならば、とことんサポートすればいい。自分1人ならともかく、仲間がいれば困難に立ち向かえる。

 ちょっと前までの自分なら考えなかったであろう事に、キルアはわずかに微笑むのだった。

 

「ん?レオリオ、ゴンは?」

「ゴン?ああ、あそこの露店見てるぜ。何をって、ありゃナイフか。ゴンの趣味じゃなさそうだけど」

 

 見て見れば、フリーマーケットの様にシートの上に広げられた露店に置いてあるナイフを手に取って、興味深そうにまじまじ見つめるゴンの姿。その姿にキルアは何かピンと来たのか、レオリオに合図を送る。

 

「レオリオ、交渉得意だろ。あれ、今すぐに手に入らねーか?」

 

 お宝かもよ?

 

 その言葉をレオリオもすぐに理解して、ゴンの下へと歩み寄る。そこからは、レオリオと店主が二言三言と言葉を交わし、多少方便も織り交ぜたレオリオの交渉術に、あっさりと300ジェニーで落札して購入してしまった。

 

 少し離れた所で、購入したナイフをまじまじと見つめる。

 

「間違いない、ベンズナイフだ」

「ベンズナイフ?」

「ベンニー=ドロンっていう昔の殺人鬼のオリジナルブランドだけど、犯罪者の作品って事で正当な評価が去れない反面、熱狂的なコレクターは多いんだ。多分安くても500万」

「「ご!?」」

 

 刀鍛冶であるベンニーは、人を殺すごとに番号入りのナイフを作り計288本。そのどれもが一流の鍛冶師顔負けの作品であり、歪な形状のデザインもあり、芸術的評価もかなり高い。勿論正当な物ではな無く、裏の評価ではあるが。

 

「ゴン、よく知ってたな」

「ううん、全然知らなかったよ?でもなんか変な感じがしたから【凝】で見て見たんだ。そしてら幽かだけどオーラが纏ってあってさ」

「………………ほんとだ!」

 

 ゴンの言葉にキルアも【凝】をして見て見れば、確かに注視しないと見逃してしまいそうではあるが、ナイフ全体に薄いオーラが纏われている。

 

 優れた才能を持つ人物は、無意識の内に念を使う場合があり、その場合そう言った者達が残した作品の数々にオーラがわずかだが纏われている場合があるという。

 逆に言えば、【凝】で確認してオーラがわずかでも出ている物があれば、それはほぼ確実に優れた才能の者が生み出した作品。端的に言えば、高値で売れそうな物。

 

「そうか、こんな方法があったのか!この方法なら、物なんか知らなくても価値ある物が一発で分かる!」

「でしょ?名付けて『念でぼろもうけ大作戦』!」

 

 ゴンのネーミングはともかくとして、確かにいける。

 そう思った時、3人共自分達のそばに気配を感じた。

 

「お、そこの少年、いい眼をしているな」

 

 その言葉に振り向けば、そこにゆらりと立つ影。

 およそ10代後半から20歳前後の様に見える青年は、人の好さそうにも見える笑みを浮かべ、すっとゴンの手にあるベンズナイフを指している。

 色素の薄い黒髪が所々天然パーマの様に跳ねて、その佇まいは不思議と身構えさせられる様に感じる。

 

「その刃物、よかったら俺にも見せてもらっていいか?」

 

 そう言って青年はナイフを見て、一層楽しそうに笑った。

 

 

 

 

 

 


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