消す黄金の太陽、奪う白銀の月   作:DOS

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タグが少ないので何か付けてみようかと思い、あまりいいのが思いつかなかったです。
そしてお気に入りが1100件超えました、ありがとうございます!


第56話『他人と仲間と無知と知と』

 

 

 

 ヒノ=アマハラという少女は、ゴン達に取っては不思議な少女だった。

 

 明るく天真爛漫に、誰にでもフレンドリーに話す、普通の少女。しかし自分達と同年代にも関わらずに、その力は未知数だった。

 

 ただの少女かと思えば、余裕綽々にハンター試験を突破してくるし、ふと気が付けばうっかりとした失敗をする事もある。深く思考して考える癖に、いざ動くとなると突拍子も無い行動に出る事もよくある。それで最終的には勝手に解決するからタチが悪い。

 悪戯心を持って度々驚かしてくるという、茶目っ気な一面も覗かせる。その悪戯心の為に超一級品の気配を消す技術を惜しみなく使う様子も、また不思議だった。後にそれが練度の高い【絶】だったと知る。

 

 ハンター試験最終日では意外な戦闘能力の高さを垣間見て、天空闘技場では熟達した念の扱いを披露する。そこまで来て、自分達と共に行動したあの少女が、自分達の想像を超えた能力を既に有していたと知った。

 それでも、普通に友達と遊ぶのとは何ら変わりなく、楽しく過ごした。彼女もまた、本心から楽しんでいるというのが雰囲気だけでも良く分かった。

 

 けど今にして思えば、ヒノがキルアの素性を知っても全く気にしないで行動を共にしたのも、元々幻影旅団と知り合いだったというのもあるだろう。いや、ヒノ自身無駄にフレンドリーで度胸がある、というのも確かにあるが。プロハンターでも苦戦レベルのA級賞金首と比べれば、念も使えない殺し屋の子供なんて可愛い部類なのだろう。

 

 そしてヒノがキルアと普通に接する様に、幻影旅団にも普通に接している。順序的には旅団の方が先になるわけだけど。ヒソカは若干の苦手要素あるみたいだが、それでも基本的に普通に辛辣に、気安い間柄。ヒソカと会話したりご飯食べに行ったりとかはゴン達も知らない所でだが。

 

 これだけ言えば、ヒノの異様な交友関係の広さが際立つ。

 誰かの味方につきながら、誰かの敵とも親し気に、その敵とも味方とも親しい少女。

 

 悪魔と天使と一緒にカフェでお茶してそうな少女、それがヒノ。

 

 最近予知する天使とお茶してたし。

 そんな彼女が、一体幻影旅団とどういう関係なのか。仲の良い知り合いというのはなんとなくわかるが、ヒノ自身はどう思っているのか、旅団自身どう思っているのか。

 

「一つだけ教えて欲しい。旅団とヒノは、どういう関係なのか」

 

 ゴンの真摯な問に、質問を受けたノブナガはじっと佇む。

 その瞳に映るのは、虚空。果たしてこの質問に、今何を考えているのか。

 

(………………ヒノと旅団(おれら)って、どういう関係なんだ!?)

 

 もしかしたら、何も考えていないのかもしれない。

 いや、ただ予想外の質問が飛んできた為、咄嗟に答えが思い浮かばなかったのかもしれない。

 

 ノブナガは一番近い所にいたマチに視線を投げかけるが、マチは視線を鋭くして刃の様にノブナガに無言の圧力をかける。

 

(おい、お前代わりに答えてくれよ)

(あんたが約束したんだから自分で答えなよ)

(いい感じの返しが浮かばん!どういう関係だ!?)

(ほぼ身内みたいな物じゃない?友達以上恋人未満、あ、これじゃ違うか)

(後半ぜってぇ適当に言っただけだろ!)

(そうだね、いざ言われると確かにちょっと困るな)

 

 果たして友達、で説明を終わらしても良い物か。いや、わざわざ子供の質問に無駄に頭を悩ませる必要性は無い、と言ってしまえばそれまでだが、必然にしろ偶然にしろ、ゴンはノブナガとの賭けに勝った。ならここで答えなくては、ノブナガ自身のプライドが許さない。

 ならば、なんて答えるか。

 

(家族!?いやそもそも旅団(おれら)は家族なんてそんなチャチなくくりじゃねぇ!仲間なのは確かだが、ヒノもそうか!?メンバーという意味合いの仲間なら確かに違うが、単なるギブアンドテイクの関係と言うわけでもねぇし!そもそもどちらも損得なし、ただいたりいなかったり遊んだり遊ばなかったり!けどこっちの仕事にヒノが別についてくるわけでもねぇし、この場合は何て言えばいいんだ!ああ、マチやシャルならまだ妹分とかで通せそうだけど俺じゃ無理だ!年齢が離れすぎてる!20歳以上離れた兄貴とか、んなわけねぇだろ!かといって協力関係でも子分でもねぇとなるとこいつはどうすれば、ああもう!)

 

 この時、ノブナガの思考速度は人生で最も加速したかもしれない。大宇宙が脳裏を目まぐるしく駆け巡り、ビックバンに集約された思考が爆発寸前となる。その思考の全てが、まともな内容とは言い難いが。

 様々な単語がぐるぐると賭け混ざり、全く関係の無い事実無根な言葉がノブナガの口から洩れた。

 

「…………………義娘?」

 

 考えて突拍子も無い発想が出てしまった。年齢的には確かに親子で通じるかもしれないが、如何せん似て無さすぎる。というかそういう問題じゃない。絶対ノブナガ自身考えて出てきた言葉ではない。何を言えばいいのかパニックになって絞り出された訳の分からない単語だ。

 この間思考速度0.1秒、表情には出ないが、その内心を仲間達は機敏に感じ取った。

 

「ぷくっ!………くく、くくあはははぁ!義娘とか!ノブナガマジ!?ぷっ!あははははお腹痛い!」

「がはははは!ねーわ!流石にそれはねーわ!」

「シャル!フィンクス!てめぇーら笑い過ぎだ!」

「いや、流石にそれは無いと思うわ」

 

 大爆笑するシャルナークとフィンクスが転げ回る中、ひどく温度差のある声と共にパクノダが氷の様に冷めた表情でノブナガを見る。こっちはクリティカルにアウトだったのだろう。隣のマチと、瓦礫に座っているフランクリン、シズク、フェイタン辺りも呆れた様な表情をしていた。

 ちなみにヒソカはにたりと薄く笑い、ボノレノフとコルトピは包帯と髪で表情が見えない。

 

 そしてノブナガの頭のおかしい発言に対して、ゴンの反応はと言えば………………

 

「………………ノブナガってヒノのお父さんだったの?」

「んなわけねぇだろ!」

 

 キルアのまともな突っ込みが冴える。ナイスキルア。

 しかし次の瞬間、キルアは背筋に冷たい物を感じた。背後を恐る恐る首だけで振り返ってみれば、光を伴わない能面の様な表情をした、ミヅキがいた。

 

「それで、実際はどうなのさ。()()()()()()?」

 

 不気味な低い声を出しながら、ミヅキは首を傾げる様にノブナガを見る。その雰囲気は怒っているわけでは無いが、先程のパクノダすら暖かく見えるほどに極寒の吹雪のど真ん中に立つ様な凍てつく波動を放っている。

 特に「おとーさーん」の声の部分が一番怖い。旅団メンバーも思わず黙ってしまう程怖い。

 

「あー、よくつるんで遊ぶ間柄、か?」

「ま、そんな所だろうね。なんていえばいいんだろうね。どう思うパク?」

「友達より親しい間柄の年下の女の子。………………たまに家に来る親戚の娘?」

「「それだ!」」

 

 なんかしっくりきたという事で、思わず二人でハモってしまうノブナガとマチ。実際この中に親戚がいる者はいないが、ニュアンスとしてはそんな感じが妥当だろうか。

 

「ヒノって、旅団のメンバーとは違うの?」

「ちげぇな。そもそもあいつが俺らの活動についてきた事なんて、今まで一度もねぇな。少なくとも俺が参加してた活動の中じゃ」

 

 半ば予想していた事とはいえ、実際に旅団の一人からその言葉を聞くと、ゴンとキルアは内心でほっとした様な気がした。少なくとも、ヒノは目に見える旅団の悪事には、直接的に関わってはいないという事。そう考えると、少し前のミヅキとのやり取りを鑑みるに、本当に仲の良い間柄という印象だった。

 

 旅団が関わる者達には、大きく分けて二種類ある。

 

 〝殺す事を厭わない他人〟と〝大切な仲間〟

 

 分かりやすく他人と仲間という点で一般人に近いように見えるが、〝死〟という概念が前提の枠組みである事が、旅団たる所以。

 

 この極端な世界との関係性が、幻影旅団という歪な集団。ただし時と場合によっては、大切な仲間すら前提に〝殺す事を厭わない〟が、付くのだが。無論旅団メンバーによってこれは多少変わり、極端な例を挙げれば、ヒソカにとって自分以外は基本殺す事を躊躇わない相手である。

 

 細かい区分もあるが、大まかには上記の2つ、他人と仲間。

 

 ノブナガから見てゴンは〝殺すことを厭わない好意的な他人〟となり、ヒノは〝大切な仲間〟に入る。

 

 そこは時間をかけた信頼関係。ヒノが旅団達と出会ってから、実に8年近くの月日が経っている。昨日今日あっただけの者達とは、重ねた時間が違う。旅団とヒノが信頼し、仲が良いというのも頷ける時間だった。

 

 ただ旅団の仲間達の間柄と比べれば、血生臭い事実がかなり少ないので、本当に第三者から見てもただの友達や親せきとか言われても信じるレベルの関係性だった。

 

「たまにあいつが俺達の所に遊びに来ては、ゲームでもしたり飯食ったり、まあそんな感じだな。来るのは大抵あいつの方から唐突に来る方が多いが」

「でも旅団っていつもバラバラに世界中いるんだろ?」

「シンリに聞いたらしいぜ、あいつがなんで俺達の居場所知ってるかは知らん。そういう奴だからな」

「あはは」

 

 聞いておきながら心の中で納得するミヅキ。普段から何をしているのか分からないシンリなら、旅団の場所を知っていても不思議じゃない。寧ろ知らない事があるのか?という感じだった。自分の義父(ちち)()()()()人物だと知っていたけど、いざ言われると旅団にも少し同情する様に、珍しくミヅキは曖昧に苦笑するのだった。

 

「んで、これで納得かよ」

「あ……うん。ありがとう」

 

 根は素直な性格だからか、相手が旅団とは言え質問に答えてくれた事に、咄嗟にゴンはお礼を言ってしまう。その事を本人は気にして無いが、ゴンを知っているキルアは苦笑し、ヒソカも関係性をばれない程度にこっそりと笑う。

 

「それじゃ、話は終わった事だし、二人共帰るよ」

 

 今度こそ、という様なニュアンスを暗に言葉に籠めつつ、ミヅキが歩き出すと、ゴンとキルアもそれに続く。

 

 ちらっと周りの旅団達の様子を伺う感じに見たが、周りの旅団は特に異論は無い様に素通りさせる。最も食って掛かったノブナガすら何も言わずにじっと見ているだけという様は、少しだけ不気味な雰囲気にも感じたが。

 

「あ、ミヅキちょっと待って。これ持ってって」

 

 とすると、今までマイペースに本を読んでいたシズクが、どこからか持ってきたビニール袋をミヅキに差し出した。中身は一体何かと見て見れば………

 

「リンゴ?」

「うん、ヒノ果物好きだし」

 

 確かに好きだ。基本ヒノは果物は大体好きだ。けど気になるのがなんでシズクがあらかじめ用意していた様にリンゴを持っていたか、という事だった。まあ少し気にかかった程度で、別にそこまで知りたいわけでは無いので、ミヅキはそのままシズクにお礼を言って、旅団のアジトを後にするのだった。

 

「えらくあっさり返したね。あんたの事だからもっとごねるかと思ってた」

「どういう意味だ。まあゴン(あいつ)は正直入団推薦したいが、どうせヒノが起きれば友達みてーだしいくらでも会う手段なんてあるんだ。ここで引き留めとく事もねぇだろ」

 

 ノブナガが割とまっとうな事を言っている!と内心思ったが、マチは表に出さない様に無表情を貫く。絶対に突っかかってくるのが目に見えていたからだし、マチ自身納得したから。

 

(それにしても、ヒノが寝込んでるねぇ)

 

 本来ならこの場にいたであろう少女の事を考えつつ、外を見れば夕焼けが沈んでいく。

 

 これからは仕事の時間。

 

 それから少しして、幾人かの旅団のメンバーはアジトを離れるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 旅団のアジトである廃墟が見えなくなった所で、帰路に着いていたミヅキはゴンとキルアをちらりと見ながら話しかけた。

 

「いいのか?迎えに来ておいてなんだけど、あっさりと帰って」

「勿論あいつらすごくぶっ飛ばしたい!」

 

 ミヅキの言葉に間髪入れずに素直に心情をまくし立てるゴンはいっそ清々しい。しかしその言葉は何も作戦を考えていない、感情の勢いに任せた言葉にすぎなかった。

 こういう場合は、冷静にキルアがストッパーとして止めに入る。身をひるがえそうとしたゴンの首根っこを掴み、「ぐえっ!」という音を無視して無理やり前を向かせた。

 

「返り討ちにあって終わりだっつーの!ミヅキが来てくれなきゃ、俺達あのままどうなってたかわからねーぜ。少し落ち着けよ、ゴン」

「あ、うん。ごめん」

 

 再び歩き始める。

 

「それで、このまま旅団捕まえるのは続けるのか?勝ち目がある様に見えないけど」

 

 ミヅキの言葉に、押し黙るしかない。純然たる事実だった。

 今無策で突っ込めば、間違いなく殺される事は目に見えている。しかし、実力差を理解し、幼少より勝てぬ敵にぶつかるな、という洗脳教育を施されたキルアは兎も角、猪突猛進気味のゴンは、それだけでは諦める理由とはなりえない。往生際が悪いと言えるが、逆に勇猛果敢とも取れる。

 

「ああ、あとヒノと旅団についてはどうするんだ?まだ気にかかるか?」

「ううん。ヒノと旅団の関係は、とりあえずいいかな」

「おっ」

 

 どこか少し晴れた様な表情をするゴンの言葉に、ミヅキは少しだけ驚いた風だった。

 

「とりあえず旅団がヒノを利用してるとか、そういう感じじゃなくて普通に仲がいい関係なら、少し安心かなって」

 

 キルアの場合思考がややブラック寄りというか、最悪の事態を想定する場合が多いので、ヒノと旅団の関係性によっては一気に自分達が窮地に立たされる場面を何度か想像していた。作戦を練る上では考える必要のある事だが、ゴンにとって気になったのは、ヒノは旅団と知り合い故に、ひどい目にあわされていないか、という点のみだった。

 

 眩しくて見ていられない、そう言う様に、キルアは笑いながらも少しだけ俯く。闇の道を歩いて来た自分にとっては、ゴンという少年は眩しすぎた。その生き方も含めて。

 

「それじゃ、キルア!どうやって旅団捕らえるか考えよっか!」

 

 そしてその無垢な笑顔を自分に向けてくれる事に、キルアは笑いながら、旅団達の情報を元にした推測をゴンに話し始めた。

 

「んじゃ、まずは必須なのは念の向上。つーわけでクラピカに連絡してみようぜ。あいつらが言ってた鎖野郎って、クラピカの事だからさ」

「そうだったの?」

「やっぱり気が付いて無かったのか」

「僕はクラピカって人知らないけど」

「ああ、それは分かってた」

 

 最近ノストラードファミリーに雇われた、旅団に恨みを持つ人物。これだけの情報があれば、キルアがクラピカの事を連想するのはそう難しく無かった。いくら何でもたまたま同じマフィアに、同じように旅団に恨みがある者がいるとは考えにくい。

 

 そして重要なのが、クラピカが念を覚えた時期は、ゴンやキルアと大して変わらないという事。身体能力だけなら寧ろキルアの方が高いが、その差を念が埋めた。つまりは、念にはまだ知らない潜在能力があるという事。

 

「俺達の資質にあった能力。クラピカに聞けば、俺達だけでも旅団と渡り合うだけの力が手に入るかもしれない」

「そう簡単に行くの、ミヅキ?」

「まあ確かに可能か不可能かで言えば、可能だな」

 

 念の扱いにおいてベテランのミヅキの言葉の心意は、できない事は無い、しかしできるかどうかは別。やや矛盾を含んだ解答だが、念には多々そういう事がある。それが念における誓約と制約。

 

「けど、経験値を念能力だけで全て埋めようと思うと大変だぞ。まあ能力次第だけど」

「どういう事?」

「単純に念の使えない子供と大人が戦えば、どっちが勝つと思うと」

「俺なら勝つぜ」

「いや、そういう事を言ってるんじゃなくて」

 

 確かに普通の大人ならゴンとキルアは楽勝で勝つだろう。実際天空闘技場で連戦連勝一撃ノックアウトを200階まで繰り返してたわけだし。

 が、今はそういう話ではない。話を戻そう。

 

「普通の子供と大人なら、当然大人が勝つ。ここまではいいな?というか今はそういう事だ、いいか?」

「「はーい」」

「よろしい。で、だ。互いに銃を持てば、どっちが勝つと思う?」

「それは…………」

 

 即答しにくい。力は対等とすれば、後はそれを扱う練度だろうか。

 

「互いに銃があれば、強い銃を持っている方が勝つ。大砲と拳銃じゃ破壊力だけなら話にならないだろ?念能力も同じだ。念自体の練度が相手より劣っても、能力次第で格上も倒せるのは事実だな。ついでに言えば練度が高ければ能力が必ず強くなるわけじゃ無い」

 

 細かい事を言えば早撃ちの技術とか、命中率とか色々と突っ込みたい所だが、キルアはそれだとさっきの二の舞なので、ここはスルーして話を進めるのだった。学習する男、それがキルア。話を戻そう。

 

 極端な話、触れた相手の心臓を止める念能力があれば触るだけで一瞬で勝てる。例が極端すぎるが、念能力とはそういう物だ。実際にその能力を取得できるかどうかは別として。

 

「いや、もしかしたら可能かもしれないな。操作系に属すれば触れる事を制約にした身体操作の能力。医療系の念能力者は確かにいるのだから、もう少し制約を詰めればできない事も………」

「ミヅキ、話が脱線してるぞ」

「ああ、すまん。そのクラピカがキルア達と念の練度が変わらないのに旅団級の相手を倒したとなると、重い制約と誓約を付けた鎖の能力を作ったのかもしれないな。それこそ、一歩間違えれば自分が死ぬレベルの」

「「!!」」

 

 その話が本当なら、クラピカはまさに生死の淵に立ちながら、旅団と戦っていると言っても過言ではない。事実クラピカは、己の命を対価とした強力な能力を有している。この場の3人には、今それを知る術は無いが。

 もう一つ言ってしまえば、実際にクラピカは旅団を倒していないが、ミヅキはその辺りはまだヒノが寝ている為にぼかし、旅団やゴン達に便乗して話を進めていた。前提条件として、旅団の一人であるウボォーギンはクラピカという鎖野郎に倒された、という事にして。

 

「ま、実際にどういう手段を使って能力の底上げをしたのかは、やはり本人に聞いた方が早いだろ。僕の能力は()()参考にならないし」

 

 念能力は千差万別とはいえ、ミヅキの能力は特殊過ぎる。特質系だという事もあるが、それ以前の問題でもある。ここらへんは流石双子、ヒノの例にもれずミヅキもどこかおかしかった。

 

(ま、誓約と制約の内容次第じゃ教えてもらえないかもしれないけど)

 

 その言葉は今は言う必要が無いと判断して、ミヅキは会話を一旦切るのだった。

 

「んじゃ、ちょっくらクラピカに連絡してみるか」

 

 そう言ってキルアは、携帯でクラピカの番号をコールするのだった。既に夕焼けは沈み、暗い夜が幕を開ける。

 ぽっかりと浮かぶ満月が、空に輝いているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

「ワォン!」

「んお?なんだこの犬………て、これ俺の財布か。お前が拾ってくれたのか?マジか」

 

 青年は財布を加えて自分の元までやって来た少し大きめの犬に少々驚きつつ、優しく撫でてやる。白い毛に黒い斑点をちりばめた様なダルメシアンは財布を青年に渡し、心なしか誇らしげな表情をしている気がした。

 

「犬と言えば肉か。屋台で買った焼き鳥食うか?」

「ワゥ!ハグハグ!」

 

 香ばしい肉の匂いを放つ焼き鳥を差し出せば、ダルメシアンは実にうまそうに食べる。そこでふと、首元を見て見れば首輪がついているので、誰かペットと理解した。その割に、飼い主がそばにいないようではあるが。

 

「おーい………お、こんなところにいたか」

 

 そう言いながら、飼い主らしい男がやってくる。大量の犬を引き連れて、おそらく愛犬家なのだろうと青年は推測した。実際に犬達自身も、楽し気に散歩している様子。声に反応し、ダルメシアンも男の元へと戻っていった。そこで向こうも、青年の方に気が付いた。

 

「お?あんたは………?」

「ああ、その子に財布を拾ってもらってな。助かったよ」

「そうだったのか。お、良く見たら焼き鳥食ってやがる、悪いな」

「いいって。助かったのはこっちだしな」

「そうか、サンキューな」

 

 バウバウと他の犬も「焼き鳥食べたい!」とでも言う様にじゃれついていたので、青年は残りの焼き鳥もあげると犬達は喜び、男は礼を言って飼い犬たちと去って行った。一人残った青年は、最後の一本となった焼き鳥を食べつつ、くるりと体を反転させて歩き始める。

 

「いい事あったな。流石に財布の中身と焼き鳥じゃ釣り合わんか。今度見かけたらドックフードでもあげるか……」

「おいジェイ、どこ言ってたんだよ!早く先行こーぜ、ん?どーした?」

 

 やってきた大柄な男はサングラスの奥から青年、ジェイを見据えながら、一体何事かと訝し気る。ジェイは先ほど戻って来た自分の財布をひらひらと見せながら、楽し気に笑う。

 

「よぅアド。犬に財布拾ってもらったんだ。中々珍しい体験だろ」

「珍しいのはいいけど、早く行こうぜ。予定の時間に間に合わねぇぞ」

「それもそうだな」

 

 ジェイとアドニスが目指すのは、とあるホテルの一室。

 建物の前まで来て、楽し気に笑うアドニスとは対照的に、少々呆れた様に溜息を吐くジェイ。しかし、それでも少しだけ口角を上げ、笑う顔を見せた。

 

「さてと、他の殺し屋とやらは全員集まってるか。………………ああ、やっぱ面倒だ」

 

 やや、嘆息しながらだけど。

 

 

 

 

 

 




次回!旅団襲撃セメタリービルの攻防!
ゴンとキルアが救出されたので、ノブナガも襲撃参加します。………………活躍するかは別として。

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