結果的にリメイクになったので結構省いた話と追加した話が多く、さらには内容も割とねじ曲がっていますけど………。特に『港町の事件編』とエリーちゃんはアットノベルス時代にいなかったし。
と言うわけでこれからも続けて書いていきたいと思います!
それは少し前の話。
ヨークシンシティのとあるビルの一室。
外からはわからないがここはマフィア、ヴィダルファミリーのアジトの一つ。元々地方に住むマフィアの一つではあるが、今回は所用という事で、ヨークシンに一つ持っている仮拠点に滞在している。
「殺し屋チーム?」
そう言ったのは部屋の中でソファに座っている巨漢の男、アドニス=ヴォンドだった。
部屋はかなり広く、豪華な内装をしている。といっても煌びやかというよりは落ち着いた高級感のある内装である。ここの主の趣味なのだろうか、第三者が入ってきた時の印象としては、あまり悪く無いタイプだった。
「ええ、十老頭が幻影旅団を仕留めるために有名な殺し屋たちを集めたみたいですよ。ですので、アドニスにはそこに参加してきてもらえないかと思いまして」
アドニスの言葉に答えたのは、対面に並ぶソファの側面に設置された社長机でゆったりと腰かける男。
黒いシャツに黒いネクタイという、マフィアの例に漏れない黒ずくめの服を着た、長めの黒髪を後ろでひと括りにしてメガネをかけた男。目を細め、あまりマフィアらしく無いと言われそうな優しそうな顔をして、穏やかな雰囲気を纏っていた。
実はこの男こそ、アドニスが所属するヴィダルファミリーのボス、ハルコート=ヴィダル。
基本過激なのが多いマフィアの中では穏健派を貫くファミリーのボス、部下達からハルさんと言われて慕われている人物だった。
「つーことは、そいつらに混ざれば旅団の連中と
「お前の頭はそっち方面しか無いのかよ、
シャッ、と鞘から取り出した短刀の刃をじっと品定めする様に見ながら、ジェイは最もな疑問をぶつけた。
マフィア連合とも称されるマフィアンコミュニティが複数の殺し屋を雇い、本日行われるセメタリービル地下競売襲撃予定の幻影旅団に備えた。餅は餅屋、所詮マフィアは殺しを専門としているわけでは無い。ならば、その道のプロに排除して貰おうという事。
しかしならば、やはりなぜ一マフィアであるヴィダルに参加要請が来たのか。
「ジェイは陰獣を知っていますか?」
「陰獣って、確かマフィア最強の戦闘集団でしたよね?前に旅団に潰された」
コミュニティを統括する十老頭が、それぞれの組最強の武闘派を募った集団、それが10人の念能力者集団である陰獣。が、つい最近、というか昨日幻影旅団に全滅させられてしまった。
陰獣の実力は決して低くは無い。旅団一の肉体を誇り、ライフルの弾だろうと傷一つ付かずバズーカ砲を片手で受け止めるウボォーギンの肉体を、髪で刺し貫き、歯で噛み千切るといった超技をやってのける手腕は、並みのプロハンターを超えるだろう。一対一ならともかく、実際に4人でやってきた陰獣は、ウボォーギンを仕留める寸前まで追い詰めた。
が、結果的にウボォーギンに差し向けられた陰獣はやられ、残りも旅団のメンバー達によってやられた。
つまりは、今マフィアの戦力的には非常に不安定。突出した戦力が少なく、数と武器による暴力しか残されていないという事実。
「その為、先日の旅団襲撃の一件により、戦闘能力をふまえてアドニスを参加できないかと打診が来ましてね。断ると後々厄介ですので、アドニスも乗り気なら是非行ってもらおうかと思いまして」
「ああ、そういえばオークションの生き残りでしたもんね、俺ら」
やれやれという風に肩を竦めるジェイだが、隣ではアドニスが楽しそうに手をバキバキと鳴らして臨戦態勢に入っている。ちなみに今すぐ戦うわけでは無いので、完全に無駄な臨戦態勢だが。
先日、オークションに参加していたジェイとアドニスの二人だが、旅団の襲撃によりオークション客は全滅。が、この二人は生き残り、その後気球でマフィア達を引き付け逃走した旅団を追いかけた。気球は岩山に着陸して、そこからは旅団とマフィアのドンパチが始まり、陰獣も出てきた例の戦いとなったわけだが、結局ジェイとアドニスはその場にいながら旅団討伐には関割らずに結局帰ってしまった。
「そういえば、旅団と陰獣との戦いにアドニスは参戦しなかったようですね」
「だってよぅ、組長。あの大男と戦いたかったけど、陰獣の
「相変わらずですね、アドニスは」
真正面から殴り合えないから旅団討伐に参加しなかった、という実に分かりやすい理由にハルコートは苦笑する。非難するつもりはさらさら無く、自分の側近がそういう人物という事をよく知っているから。
「俺はオークション参加できなかったからちっとがっくししたけど」
「ジェイは………お疲れ様です」
ハルコートから労われつつ、ジェイは苦笑してパチンと短刀を鞘に納める。元々欲しい物があってオークションに来ただけに、この中で旅団襲撃に一番ダメージを喰らっているのはジェイだった。一応裏も表も参加希望オークションはいくつかまだあるので、全て失敗に終わったわけじゃ無いのであしからず。
「よし!つーわけで、ジェイ!行くぞ!」
「あ、行ってらっしゃい」
「いえ、ジェイも行ってきてください」
「ちょ、ハルさん!?」
「実はコミュニティ側からもアドニスと一緒に貴方がいた事がバレてまして。是非一緒に、と言われちゃいましてね」
「えー」
確かに、使える者は何でもとは言うが、まさか自分も駆り出されるとは思わなかった。ジェイは嘆息したように溜息を吐くが、別にこの誘いは必ず行かなければいけないわけでは無い。そもそもジェイはヴィダルファミリーに所属しているわけでは無い、あくまで客だ。どちらかと言えばヴィダルの方がジェイの顧客でもあるが。
精々行かなかったらヴィダルファミリーが今後コミュニティからちょっとだけ白い目で見られるくらいで済む。………………やっぱりジェイ的にはそれは少し避けたい所だった。
「アドニス一人送るのも心配ですので、頼みますよ。別に必ず戦えというわけでは無く、一応参加の体を成してもらえればそれでいいので」
「はぁ、了解しました。まあ、アド一人ってのは俺も心配ですし」
「人を問題児みたいに言うんじゃねぇ」
どの口が言うか、という言葉を飲み込んで、ジェイは申し出を受け入れるのだった。
ヴィダルファミリーより、アドニス=ヴォンドと、客人ジェイ=アマハラ。殺し屋チームに参加。
***
マフィアンコミュニティが管理するとあるホテルの一室にて、異質な空間が形成されていた。
中にいるのは複数のマフィアの構成員と、裏世界で生き抜く名だたる数人の殺し屋。
その中には、伝説と謳われるおそらく世界で最も有名な殺し屋、ゾルディック家の名も存在した。現当主であるシルバ=ゾルディックと、先代当主にてシルバの父であるゼノ=ゾルディック。彼らもまた、十老頭より旅団暗殺の依頼を受けてこの場に来たのだった。
そして先ほどやってきたのは、他の殺し屋8人に加えてノストラードファミリーから殺し屋チームに参加したクラピカもいた。クラピカにしてみれば、旅団と戦える絶好の機会。
集めた人員が揃った事を確認し、マフィアの一人は説明に入る。
「これでやっと全員揃ったか」
「いや、あとヴィダルファミリーから2人程追加の予定です」
「またかよ!先に流れだけ説明しとくぞ!」
先程揃ったと思ったらクラピカ達が追加で来たばかりなので、まだ来ない人物に腹を立てて説明だけ先に進め始めた。
ぶっちゃけて説明すれば、競売品目当てでビルに旅団が来たら適当に始末して欲しいということ。
依頼を遂行してくれればマフィア側は殺し屋側に指示はしないので、好きなようにやってほしいそうだ。
殺し屋には殺し屋の流儀、やり方は個々で変わってくるため、無駄にマフィアのやり方に当てはめて戦力を無駄に使うなら、殺し屋の判断に任せて始末してもらった方がいいという事だろう。ここで別れるのが、互いに連携をして相手を仕留めようと言う者。そして己の力のみで、相手を殺さんとする者。
この場にいる者達は総じて殺し屋としてみればレベルは高い。が、それでも旅団に届く者と考えるならば、半分にも満たない。特に、シルバとゼノの名からゾルディックの事を知った他の殺し屋は、委縮し始めている。
(なるほど、彼らがキルアの家族か。確かに、他の物より威圧感が数段上だな。精々対抗できそうなのは、あと二人くらいか………)
静かに佇み、顔に入れ墨を持つ男。そしてその隣に座る、どこか狂気的な雰囲気を孕む壮年の男。クラピカから見て、他の殺し屋と比べれば一段上の者達。おそらくこの場で旅団に対抗できそうなのは、自分を含めればこの5人。
その時、閉まっていた扉が開いて新たな乱入者が来た。
「あー、ここか。ったくよ、場所くらい知っててくれよ」
「わりいな。確認したから今度こそ間違いねーはずだ」
入ってきたのは二人の男。
顎鬚を蓄え顔中に傷を持つサングラスをかけた大柄な男と、天然パーマのようなくせっ毛をした色素の薄い黒髪の青年。
もちろん入ってきたのは、アドニスとジェイ。
余談だが、来たのはいいが集合場所が知らなかったからいっかいハルコートに電話して場所を聞くハメになったので普通に到着が遅れた。
(この二人は確か………オークションで生き残ったヴィダルファミリーの2人)
実は岩山でのウボォーギンとの戦いを遠目で見ていたクラピカ達は、その時オークション会場から気球を追って先行していたジェイとアドニスの二人とは一度だけ顔合わせ程度に会っていた。故に、この二人もまた、殺し屋では無いが非凡な実力を有している事知っていた。
一先ず全員が揃った事で先にオークションの説明が終わり、後は自由に解散となった。
「なんだ、呼ばれたのはお前か」
「ん?よぉゼンジさんじゃねぇか。なんだよ、あんたもいたのか。直系組の頭は大変だな、はっはっは」
「笑いごとじゃねぇ。そもそもお前はそんなに戦える奴なのか?」
「十老頭御自慢の陰獣よりは役立つと思うぜ」
「けっ、減らず口を」
先程殺し屋に説明をしていた黒スーツにスキンヘッドの男は、親し気、という割には好戦的な会話をアドニスと繰り広げた。どちらも知り合いらしく、蚊帳の外のジェイは会話が止まった所でアドニスに尋ねる。
「アド、知り合い?」
「お前は知らなかったな。十老頭直系組の一つで組頭してるゼンジさんだよ。まあよくも悪くもマフィアらしい奴だし、別に覚えて無くてもいいぜ」
「てめぇ、次同じ口開いたら風穴開けるぞ?」
「こういう人だから程ほどで接しておけ。面倒だからな」
「いや、お前が程々で接してやれよ
たまたま昔ハルコートに依頼に来たことがある、という事でこの二人知り合ったらしい。
基本的に裏表で正直に話すアドニスだからか、簡単に敵も作るが割と仲良くするマフィア関係者は割といるらしい。実際に今の状況見れば、全員が全員仲が良いというわけでも無いらしいが、少なくとも素直に話しても急にナイフや銃を持ち出してこない程度には親しいらしい。これを果たして親しいと言うのかは疑問だが。
ふと、ジェイは部屋の中を見てみれば、知っている顔がいたので少しだけ表情が明るくなった。先程まではアドニスが喧嘩始めないか若干ハラハラしていたのは余談である。
「お!ゼノさんにシルバさんじゃないですか。久しぶり」
「ん?おお、ジェイ君じゃないか」
「久しぶりだな」
向こうも驚いた!と言う様に少し弾んだ声を上げる老人は、龍の様な髭を生やした白髪の老人。もう一人、体格のいい巨漢をした、獰猛な肉食獣を思わせる白髪をした男。
ゼノ=ゾルディックと、シルバ=ゾルディック。キルアの父と、祖父の二人だった。
「お二人も参加してたんですか。奇遇ですね」
「依頼が入ってな。そういうジェイ君はどうしてここに?」
「まあ成り行きと言うか………やっぱ成り行きですね。ちっとアドのお守みたいなもんですよ」
そう言って背後でゼンジと会話しているアドニスを親指で指しつつ説明する。ゼノは指されたアドニスを見ると、少しだけ面白いとでも言う様に笑いながら声を出す。
「成程、確かに面白い奴じゃの。中々鍛えられておる」
「お二人は?ゾルディックが参加する事は珍しくないですけど、二人が出張ってきたのは相手が旅団だからですか?」
「まあの。まだ孫達じゃ荷が重しのぅ。イルミ達には別に依頼が入っているというのも理由の一つじゃが」
流石に幻影旅団が相手となると、ゾルディックと言えどそうやすやすと手を出せる相手ではない。
シルバは過去に旅団の一人を仕事で殺した事があるが、その時は「割に合わない」と零していた。依頼料に対して、標的の実力が高すぎるという、標的に対する最大の賛辞。それ以降、子供達には旅団に手を出さない様に戒めたという。
「それでジェイ君、お主はオークションに参加しに来たのか?」
「ええ、実はクァード遺跡から発掘されたナイフが地下競売で出店されるそうで」
クァード遺跡とは、海に浮かぶ孤島に佇むとある古代王国の名残。
遺跡の一角にぽっかりと開く底が見えない真っ暗な穴は、大きさは直径5メートル程、しかしその震度は、星の裏側まで続ているのか疑う程に暗く、現在も最下層が発見されていないという不思議な遺跡だった。
嘗て滅んだ古代文明、クァードの王が己の財を隠すために設けた穴という説が最も有力で、クァードの王がその身が滅ぶとき、穴に飛び降りたという言い伝えがある。明らかに昔の技術力では不可能と思われるほど深すぎる穴。
「幾人もの探検家がまだ見ぬ王の財を求めてその穴に入って行ったが戻ってきた者はいないとされているため、冒険家の間では別名『人食い穴』と呼ばれているのじゃな」
「ゼノさん詳しいですね。今度一緒に行きましょうよ」
「行かんわい。わしはお主らみたいなナイフコレクターじゃ無いしの」
シルバとジェイは、共にベンズナイフのコレクター。
それゆえに、ジェイはたまにゾルディックの屋敷だったりどこか別の場所だったりで、シルバと情報物品交換をしたりしているという。まさかゾルディックの現当主が完璧私情で客人をこっそり招いているとは、子供達は思いもよらないだろう。
そこでふと、ジェイはシルバを見て「あっ」と声をあげた。
「そういえば、息子さんヨークシンで見かけましたよ。確か、キルアって言いましたね」
「なぬ?」
「……………キルが来てるのか」
割と寡黙を貫いていたシルバは、息子の名前にちらりとジェイを見る。
「ええ。本人に聞いたし間違い無いですよ」
思い出されるのが、たまたま今朝値札競売市にいき、3人組からベンズナイフを4000万で譲り受けた事。その一人が、今目の前にいるゼノの孫にしてシルバの息子であるキルアだった。
「そうか………お前から見てキルの仕上りはどうだった?」
「仕上りって……………そうですね、【凝】をそこそこ自然に熟せてたので、念の基礎を修めて後は反復練習してるって感じでしょうか。まだまだこれからというか」
「………そうか」
久しぶりらしい息子に対して他に無いのだろうか、と思ったが、よくよく見てみればシルバの口角が微妙に上がっているのをみるに、しっかりと鍛えている事を喜んでいるのだろう。誰もいない所だったのなら、「流石俺の子だ」とでも呟いて秘蔵の酒でも開けていたかもしれない程に。
「おーいジェイ!そろそろ行くぞ」
「おう!お二方、それじゃまた」
そう言ってジェイはひらひらと手を振ってその場を後に下。コミュニティの者が現場まで送ってくれるそうなので、お言葉に甘える。後は、各々の裁量次第。
次第に不穏な空気が街を包み始めていた。
地下競売と、幻影旅団。
***
セメタリービルから1キロ地点では警察によって検問が行われていた。
警察を自由に動かせるヨークシン市長は、マフィアンコミュニティの裏金によって市長になったので、マフィアの命令一つで市長経由で警察を自由に動かすことも可能。実質マフィアはヨークシンを掌握していると言っても過言でもない。故にマフィアの地下競売もヨークシンで行われる。この場で妙なことをしようなら即マフィアが現れて『THE END』となるので注意である。
そして今、マフィアによって検問を強制的に突破した暴走者は撃墜された。爆炎を上げながら煌々と燃え盛る車を囲うようにマフィアと警察が眺める。翌日の新聞には、単なる交通事故として一面を飾る事だろう。
ドンドンドンドンドンドン!!!
だが、爆炎の中から聞こえてくる大砲のような音。
炎の中から出てきたのは指の先の取れた大男。怪我をしたというわけでは無く、そうなるように改造された己の指先から、大量の念弾を放出し、周りのマフィアは巨大な銃弾でも受けたかのようにえぐれ、絶命した。
―――――彼らは集結しつつあった
別の場所でマフィアたちの前に立ちはだかる二人の男。
一人はマスクで口元を隠した背の低い男。
もう一人はジャージを着た、少々目つきの悪い男性
マフィアたちは二人の男に銃を向けつつ消えろと言う。
しかし気づいたとき、あるものは頭と胴体が離れ、あるものは首があらぬ方向へ曲がり、その場にいたものは全員絶命した。
―――――彼らは自分たちの目的のあるビルへ
一人のマフィアは発狂していた。
自分の意思とは無関係に動き、銃を乱射する男。めちゃくちゃに打たれるマシンガンは、自分と同じマフィアの命を奪う。その男の後ろには別の男が潜んでいた。見た目は害のなさそうな好青年。その手元には、人を操る端末が握られていた。
―――――彼らのリーダーの出した条件は一つ
空に浮かぶマフィアたち。暗がりの中、よくよく見れば糸のようなもので絡まれている。視認しにくい強靭な意糸を手繰り寄せ、近くの木の影から伸びた手が糸を引くと、一斉に空の上のマフィア達は銃を乱射する。下のマフィアを絶命さえ、空のマフィアも絶命して地に落ちる。
―――――「派手にやれ」
地下競売を狙って、幻影旅団は現れた。
迫るマフィアを蹂躙して。
マフィアと殺し屋達と旅団とその他のターン!