消す黄金の太陽、奪う白銀の月   作:DOS

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第58話『拳と刃のバトルロイヤル』

 

 

 

 

 オークションが始まるセメタリービル内部に既に単独潜入をしているクロロからの指示により、団員達は邪魔するマフィアを蹴散らし続けていた。クロロからの連絡があるまで、派手にマフィア相手に暴れる。それが団長から出された指示であり、余裕綽々と腕を振るっていた。

 

 そしてビルの近場にて、近づくマフィアの首を刎ねたり折ったりしている旅団でも過激組、フェイタンとフィンクスのコンビは、あまりに手ごたえの無いマフィア達にやや辟易していた。

 

「ちまちま雑魚潰し。その間に団長はメインディッシュとか、ずりぃよな。どうせなら陰獣くらいの奴らでも出てくりゃ、歯ごたえもあるのによ」

「陰獣……あまり大した事無かたよ。がかりね」

 

 先の陰獣戦にフィンクスは参加してない故に、マフィア最強集団というフレーズに少し期待していたみたいだが、実際に戦ったフェイタン的には残念でがっかりな感想だった。実際には陰獣10人勢揃いVSフェイタン一人だけなら流石のフェイタンも倒されていたかもしれないが、それは今となっては分からない。

 能力上フェイタンなら一発逆転も普通にあるかもしれないが、やはり今となっては分からない。

 

「ん?………フェイタン喜べ、手ごたえのありそうなの来たぜ」

「?」

 

 にやりと、元から目つきの悪い悪人面だったが、それに輪をかけて悪そうな笑みを浮かべたフィンクスに続き、フェイタンは視線の先を追う。そして珍しく、細い目を心なしか少しだけ見開き、驚きを表現した。

 

「てめぇらが、幻影旅団だな。確認されなくても、見ればすぐわかったぜ」

「ん?あの小さい方は、前の襲撃に襲ってきた奴じゃね?なぁアド」

 

 どっちが悪党か分からない様なゆっくりとした登場シーンだが、一応こっちが正義の味方ポジション………いや、マフィアサイドな時点でどっちもどっちか。マフィアと盗賊、果たしてどっちが真の悪党となりえるか。

 

 閑話休題。

 

 アドニスとジェイは、セメタリービルに残る様な事はせずに、直接打って出てきた。ジェイは引っ張られてきただけだが、アドニス曰く、騒ぎの火中に行けば必ず強い奴がいる!との事らしい。まあ実際にその通りで、こうして幻影旅団の二人と相対する事になったので結果オーライだが。

 

「フィン、この二人私もらうよ。()り残し制裁するね」

「ちょっと待った!相手は二人いるんだぜ?俺にも一人寄越せって」

「……………サングラスの方あげるよ。天パの方私に傷いれたね」

「へぇ、あっちがお前に傷入れた方か。俺もそっちがいいが、今回は譲ってやる」

 

 ゴキリと腕を鳴らしながら笑うフィンクスと、細い目をさらに細め、冷たい殺気を纏うフェイタンの二人。

 そして相対するジェイとアドニスも、同様に臨戦態勢に入った。

 

「なぁ、なんだか俺すげー不名誉な呼び方された気がするんだが、どう思う?」

「これから戦うのに些細な事だ。ほっとけ」

「だよな」

 

 野性味を奮い立たせ、逆立つ様な狂暴なオーラを発するアドニスと、鋭く研ぎ澄まし、鍛えられた鋼の様な澄んだオーラを纏うジェイ。対象的ともいえる二人のオーラだが、共通して旅団の二人が感じる事は、強い、ただそれに尽きる。

 

 パアァン!

 

 どこかで再びマフィアの銃声が聞こえた。

 その発砲音を合図にし、ジェイとアドニス、フェイタンとフィンクスは互いに逆方向へと跳び出し、己の相手に向かって行った。

 

「おらぁ!」

「くたばれぇ!」

 

 互いに、捻りを絡める様な事など無く、純粋なる拳と拳の応酬。

 相手の躱すタイミングを読み、地の果てまで吹き飛ばす様にして、拳を振るった。

 

 ドゴオオォ!

 

「「ぐほぁ!」」

 

 アドニスとフィンクス、二人は互いに拳を振るってクロスカウンターを放ち、互いに相手を吹き飛ばして、互いに吹き飛ばされた。

 が、すぐに態勢を立て直し、相手よりも早く地面を踏みしめ、再び向かい、拳を打ち合わせる。

 

 アドニスとフィンクスは、互いに強化系の能力者。

 さる心源流の師範代曰く「【纏】と【練】を極めれば、それ自体が必殺技と成程すごい威力となる」と言われる程に攻守共にバランスの取れた系統。主に自身の肉体などを強化するタイプが多いこの系統だが、実際にその手の能力者同士が戦うとしたら、当然の如くガチンコの殴り合い。

 

 強化系によっては天空闘技場の200階闘士である一本足の義足のギドの様に、独楽など媒介にし自分以外の物体を強化するタイプと、ウボォーギンの様に己を強化して身一つで立ちまわるタイプがいる。この二人に限って言えば完全後者、単純に己を強化し、それ相応の念能力を身に着けた純粋な強化系。

 故に小細工など一差不必要。相手に近づき、殴る、蹴る、肉弾戦等。それを繰り返していた。

 

 わずかに距離を取り、相手を攪乱する様に走り出し、近づき様に殴るもしくは蹴りかかり、再び距離を取る。

 

 格下の相手であれば問答無用で近づいて力業に持ち込めば決着など一瞬だが、相手が自分と同等の念能力者とやる場合には、少々慎重にならざるを得ない。基本相手の能力に関しては未知。相手が操作系であるならば、油断一つで操られておしまい何て事も多々ある。

 しかし今回は、アドニスもフィンクスも自身が強化系だから、相手の系統もなんとなく察した。明確な理由を説明しろと言われたら少々困るが、ほぼ直感的に自分と同類と感じ取った二人の行動は早く、なるべく相手の攻撃を受けない様に、近づいて攻撃する。それに尽きる。

 

 フィンクスの振るう拳は正確にアドニスの顔面へと伸びたが、左腕を割り込ませてうまく受け止める。一般人なら顔面が吹き飛ぶ様な威力も、同じ強化系で互いに練度の高い者同士であるならば、決定打になりえない。反対にアドニスは足を薙ぎ払う様に蹴り込むが、咄嗟に距離を取るフィンクスに追撃を加え、相手はそれを躱して一度距離を取る。

 

 不毛な消耗戦にするつもりは毛頭ないが、何か決定打を浴びせないとキリが無い。かといっていきなり【硬】をするには、リスクが大きすぎる。一撃の威力破壊力は念の応用随一だが、その分の防御能力に不安がある。

 

 つまりは、念能力による強化、これで相手を上回る。

 

「とりあえずは………7って、ところか?」

「あ?一体何を―――」

 

 瞬間、【凝】によってやや強めに強化した拳を、フィンクスは自身の横に立っていた街路樹に向かって突き出した。

 

 バギィ!

 

 一撃で幹をくり抜き貫通した木は、バキバキと音を立てながらアドニスに向かって倒れ込む。いきなり戦法が変わった事に一瞬面食らったアドニスだったが、別段超加速するわけでも無い倒れる木に押しつぶされる様な軟な鍛え方はしていない。軽いバックステップだけで避けると、先程までいたところにズンッ!と低い音を出しながら倒れ込んだ。

 

(姿を消した?いや、【絶】をしてねぇし気配もそのままだ。何考えてやがる………)

 

 枝と葉でアドニスの視界から隠れる事に成功したフィンクスだが、別にそのまま気配を消して近づき奇襲をするという腹でも無さそうな事に、アドニスは訝しげる。倒れた木の向こう側には、確かに敵がいる。それは間違いない。ならば、なぜこんなやり方をしたのか。

 

「らぁ!」

 

 飛び越えて降りかかる声に空を見上げれば、拳を振り下ろすフィンクスの姿。まっすぐに向かう拳には何も仕掛けが無いように見える………が、それは拳だけを見ればの話。

 その拳に纏うオーラは、明らかに先程よりも強い。

 

「そんだけオーラを籠めりゃ、他が紙だぜ!」

 

 フィンクスが拳を振り下ろすよりも早く、反対側の脇腹を蹴りで抉る。オーラの攻防力は、両極端。単純に一部を強化すれすれば、他が脆くなる。当然ながら拳にオーラを集中させたフィンクスが、脇腹へと攻撃を喰らえば致命傷も必須。

 

 そのはずだった。

 

「………はっ!あめぇ!」

 

 だが実際はどうか、全く意に返す様子無く、そのまま拳を振り下ろしてアドニスを殴り飛ばした。

 

「ぐっ!?」

 

 咄嗟に【堅】による防御をするも、踏ん張りきかず吹き飛ばされてしまう。吹き飛ばされた先のビルに壁かに、コンクリートを砕きながら弾丸の様に突っ込んだ。

 

「……………つぅ、効くぜ。にしても、どういう絡繰りだぁ?」

 

 ガラガラと崩れた瓦礫を踏みつけながら、まだ動く分には問題無いと体の調子を確かめる。しかしながら、先程の光景を思い出し、警戒しながらも歩き始める。多大な念を纏う拳に反して、他の場所も通常通りの防御力を披露した。とすれば、思いつくのは己の拳を強化する類の念能力。

 

「どちらにしろ、俺の視界から消えた間に何か細工したってこった。なら、次はこっちの番だなぁ」

 

 ギ……ギギ………ガキン!

 

 金属と金属が触れ合い、軋む様な音がした。

 ぞわりと逆立つような感覚と共に、アドニスは自身の力の変動を感じ取る。その腕、足、背中には、細かい歯車の様な物体が張り付き、左腕に張り付く歯車が、細かに歪な音をたてていた。

 

 ドグオォオ!

 

 警戒はしていたが、その隙をつく様にして、壁を抉りとった拳がそのままアドニスへと向かう。単純明快な話、壁事相手を殴り飛ばす、それを実行したに過ぎないフィンクスの作戦と呼べるか怪しい作戦。だが相手の意表を突くと言う点で言えば、理にかなった作戦だろう。

 

 ビルの壁をものともしない程、先程同様に爆発的なオーラを纏うフィンクスの拳は、吸い込まれるようにしてアドニスに向かった。

 

 ガッ!

 

 しかし、相手が相手だけに、そう簡単当たらなかった。

 いや、正確には当たったが、伸ばしたアドニスの左手一本に受け止められた。

 

 今度は、フィンクスが驚愕する番。

 

「!?」

「【強者の歯車(セレクタブルギア)】!」

「うぉっ!」

 

 さながら暴れる巨人の様な、アドニスは()()()受け止めたフィンクスの拳事振り回し、先程吹き飛ばされた意趣返しとばかりに、ビルの壁に向かって投げ飛ばした。当然の如く、コンクリートを砕きながら飛ばされたフィンクスは、外に出た段階で態勢を立て直し、地面を削りながら倒れるのは防いだ。

 だが、その表情は憎々し気に、苛立たしげに歯をギリッと鳴らした。

 

「くそっ!どんな腕力してるんだ………て、んなわけねぇか。何かの能力か?まさか10回転が受け止められるとはな」

 

 バキバキと振るった手の指を鳴らし、穴の開いたビルから出てくる男を鋭い瞳で見据える。

 

 フィンクスの念能力【廻転(リッパーサイクロトロン)】は、腕を回せば回すだけパンチ力が増大するという、シンプルかつ強力な強化系念能力。コンマを競う戦闘の中では少々条件的に難しいかもしれないが、少しの隙を意図的に作り出せれば、ほぼノーリスクで拳を強化する事ができる。

 

 能力開示を避ける為に、あえて相手の視界から自身を隠してその間に回転数を上げ、強化後に戦闘に入った。しかし、相手も同様に強化できる能力だと、少し考えざるを得ない。

 

(回転数を上げれば威力は上がるが、時間と隙の問題だな。相手の能力もまだ不明だし、さてどうするか)

 

 強化系は単純一図、とはヒソカの戯言と切り捨てるにはかなり信憑性のある性格診断だが、世間からの反応と比べたら、意外と実力者はよく考えて戦闘を行う。いや、割と野性的ともいえる戦闘勘だけで戦う者もいると言えばいるが、今は置いておく。流石に経験を踏まえていけば、冷静な思考力を有するのは通常だろう。

 単純=頭が悪い、というわけでは無い。

 

 目まぐるしい戦闘予測をしながら、フィンクスもアドニスも相対する相手を睨みつける。

 そして痺れを切らした様に跳び出したのは、アドニスが先だった。

 

「――――――!」

 

 獰猛な笑みを浮かべながら、この戦闘が楽しいと表現しながら拳を振るう。

 が、突然前へと向かう体に無理やり急制動を掛けて、背後に飛び出した。

 

「は?」

 

 ズバシシュアァァ!!

 

 唐突に次ぐ唐突に、フィンクスは思わず間の抜けた声を出した。

 視線をずらして地面を見てみれば、自分の目の前のコンクリートの道路に一文字、鮮やかに裂かれた切り傷ができていた。

 

「んな!こいつはぁっと!」

 

 二度目の斬撃が、フィンクスのいた場所を掠る様にして道路を横断し、街路樹を両断する。後一歩遅れたら、自分の胴体が真っ二つになっていたかもしれないと想像する、ぞっとする。フィンクスは斬撃の出所を探ろうとした瞬間、眼前の割れた道路の真ん中で、煌々と弾ける火花が目に入った。

 

 ギャイン!

 

 一瞬でアドニスとフィンクス、距離を取った二人の中央に現れた二つの黒い影は、その手に持った獲物を振り回す。鋭く突き刺すような火花をまき散らすその光景は、攻撃の余波が今にも二人を両断しそうな鋭さを孕んでいた。

 

 具体的には危うく二人の首が切断されるところだった。

 

「なかなかしぶといね」

「あ、アド。わりっ」

 

 手に、刃渡り30センチ程の短刀を握るジェイと、傘の柄の付いた細身の剣を携えているフェイタンの二人。すかさず両者の刃を打ち合っては離れ、再び打ち合っては繰り返している。

 

「【不可思議な刃物(ジャックナイフ)一輪正刀(いちりんせいとう)】」

 

 オーラを載せた短刀。四大行の応用でもある、物体にオーラを纏わせる【周】という技術。刀にオーラを纏わせれば、強度、斬撃を共に高め、木や岩ですらバターの様に切り裂く事が可能になる程。その分応用技はオーラの消耗が激しいので、乱発すればすぐに枯渇するので注意が必要。

 

 ジェイが己の変化系能力を短刀に載せて構えた瞬間、フェイタンは数メートルの距離が空いているにも関わらずぞわりとした嫌な感覚を味わった。直感的に、何かが来ると言う事、そしてこの場にいてはまずい、研ぎ澄まされたフェイタンの感覚が、そう告げていた。

 

 手元にある剣で受け止める事も考えたが、一瞬でその思考を捨て去り、一気に上空へと飛び上がる。アドニスもフェイタン同様に、「やべっ」というふうな顔になって地面にしゃがみこみ、フィンクスは頭上に「?」を浮かべている。しかし、二人の奇行の理由は、すぐにわかった。

 

 ザン!!

 

 その理由に対して、フィンクスは海老反るように咄嗟に避けた。

 そしてその頭上を通過した射程距離を無視した様なそれは、()()()()()()()()()

 

 二階建ての大きめの一軒家が、真ん中から横に真っ二つになる様を見てみると、思わず冷や汗が出てしまう。フェイタンとアドニスよりかは避けるのが若干遅れたため、一応間に合って無傷だったがフィンクスノ内心(あっぶねええぇ!!)と思っていたのは余談である。

 

「とたね!」

 

 大技を出した隙なのか、それともフェイタンの速度が早かったのか、いや両方あるのだろう。元々速度主体のフェイタンが己のスピードを駆使し、そしてオーラにより強化された細い剣は正確に、技を出して一瞬硬直したジェイの首元へと伸びる。

 

 僅かな一瞬も、実力者の間にとっては致命的なミス。

 旅団内でも随一の速度を持つフェイタンは、すれ違いざまにジェイの首を剣で切り込んだ。

 

 ギャイィン!

 

 だが、明らかに重い手ごたえ。錆付いた鋸て鉄を切る様な不協和音と火花を一瞬まき散らしながら、フェイタンは通り過ぎたジェイの方へと視線を向けると驚愕する。

 わずかに残る火花。オーラの纏われたジェイの首から、チリチリと明るい火花が舞っていた。

 

 通常念能力者の肉体、少々顕著だがウボォーギンを例に挙げるならば、強化系を極めた彼の肉体は拳銃を無防備で耐え、ライフルの弾すら「ちょっと痛い」程度の打撲で済むと言う規格外。その事から〝鋼の肉体〟とも称されるが、これはあくまでそう言われるだけで実際に鋼になっているわけでは無い。

 

 普通は剣で切り裂いたからと言っても、人の肉体と剣で火花が出るなんて事はありえない。あれは金属と金属のぶつかり合いで生まれる化学反応に過ぎない。

 

(いや、私の剣あいつの首触れて無い。()()()()()()()()()()()()()

 

 不可解な手ごたえに眉を潜ませつつも、フェイタンは地面を蹴りだし一旦距離を取る。

 

 ジェイの念能力【不可思議な刃物(ジャックナイフ)】は、オーラを刃の性質へと変化させる変化系の能力。ヒソカの【伸縮自在の愛(バンジーガム)】もそうだが、オーラを別の性質に変化させる変化系能力は、能力によっては通常纏うだけでは触れる事の出来ないオーラに物理的に触れられ、オーラだけで防御する事が可能となる。

 

 ジェイはフェイタンの攻撃に際して、自身の首と、狙われているであろう首の右側に近い顔の右半分と右肩鎖骨辺りを作り出した刃の念で覆い、うまく防御した。この時散った火花はフェイタンの剣と、ジェイの纏う刃の性質を持ったオーラがぶつかる事によって生じた物だった。

 

「あっぶね。ちょっと()()()の割合気を付けないとな」

 

 そう言ってやや楽し気に、ジェイは笑いながら再びオーラを籠め始める。

 その瞬間、後ろから蹴り飛ばされた。

 

「何すんだよアド」

「何すんだよ、じゃねぇ!俺まで首ちょんぱする気か!見境ねぇんだよ!」

「いや、ちゃんと選んでる選んでる」

 

 短刀を持つ手をひらひらと悪びれなく振るうジェイの姿に、アドニスは嘆息するがその表情は楽しそうだ。

 

 滾る血潮、揺れ動く互いのオーラ。千切れそうなか細い糸の上で立つ様な戦いの緊張感。戦闘狂(アドニス)は目の前の獲物に対して、獰猛に凶悪に笑い、バキバキと腕を鳴らし続けている。

 目の前にはフィンクスとフェイタン。距離を取ってアドニスとジェイ。

 

 そして狙う様にして、ノブナガの刃が煌いた。

 

「「!!」」

 

 一瞬で近づいたノブナガは、即座に抜刀。

 

 同時にギイィインという鋼を打ち合う音が響いた。アドニスはいきなり現れたノブナガの姿と腰に差す刀を確認すると同時に、さりげなくジェイを盾にする様にしてノブナガの間合いから()()()

 予測通りに、自身と相手の刃の間に滑り込ませた短刀で、居合を弾く。ジェイの卓越した技量も流石だが、相手も同様に抜刀術を修めた達人。鋭い刃と刃のぶつかり合いは一瞬。

 二人の交錯は一瞬で終了し、ノブナガは地面を滑るようにして距離を取った。

 

「はっ!まさか、俺の刀が防がれるとは思わなかったな」

 

 パチンと、刀を鞘に納めて再び居合の構えを取るノブナガ。

 その表情は自身の一撃を防がれた事に対して憎々し気、というわけでは無く、寧ろ楽しそうに笑っている。

 

「フィンクス、随分面白そうな連中と遊んでるじゃねぇか。俺も混ぜろよ」

「ああ?俺の獲物だ、すっこんでろよ」

「そうね、こいつら私達の物。横取り許さないね」

「いいだろうが!ただのマフィア潰しも飽きてきたんんだよ!」

「はいはい、そろそろ時間も時間だし、皆で確実に仕留めよう。フィンクスとフェイタンが一対一で苦戦するって、相当だしね」

 

 爽やかに余裕綽々とした新たな乱入者の声に、口論を始めようかというノブナガ達の声が一時ぴたりと止まる。そこにいたのは優男と評される様な風体をした青年、シャルナーク。一時的にクロロより現場指揮官に任命された情報通。

 この場にいる3人と比べたら、冷静に思考し、旅団の事を考え行動する事ができる一応常識的な部類に入るタイプだった。簡単に言えば話が通じそうな奴。最もこの場に置いて、話合いという選択肢は皆無に等しいのは、互いに分かりきっている。その事は先のシャルナークの仕留めるという言葉で十分に理解していた。

 

 シャルナークはアドニスとジェイの姿を確認すると同時に、自身の愛用の携帯を取り出した。

 

 細身の剣を持つフェイタンに、手を鳴らし構えるフィンクス。

 居合の態勢のノブナガと、携帯片手に持ったシャルナーク。

 

 1人でも厄介な幻影旅団が4人。しかし悠長なことは言ってられず、おそらくもうしばらくすれば別の場所でマフィアの殲滅をしている別の仲間も来る可能性もある。

 

「旅団が4人か。アドニス、どうする?」

「上等だ」

 

 答えになっていない答えにジェイは再び嘆息して、どうしたものかと考えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

「………何してるの?」

「お!ゴンにキルアにミヅキじゃねーか!戻って来たか!ん?げっ!もう夜か!」

 

 ゴンとキルアとミヅキの3人は目の前で酒盛りをしているレオリオと、もう一人見慣れない男の二人をじっとりとした目で睨む。今気づいた、という風に窓から見える真っ暗な夜に驚いているという事は、まだ日が高い内から今の今まで酒を飲んで談笑していたという事だろう。

 

 こんなダメな大人にはなりたくない、そんな事を考える3人だが、一応言っておくとレオリオはまだ成人前の10代である。これでも。

 

 そしてアマハラ邸のマンションのリビングでレオリオと酒盛りをしていたのは、ゼパイルという男。

 今朝ゴン達が値札競売市で購入したオーラの宿る作品を売りに行った時に知り合った目利き、要は鑑定士らしく、その後互いに意気投合してゴン達の専属目利きとして金策を手伝ってくれる事になったらしい。

 実際にこのゼパイルのおかげにより、危うく3億相当の物品を二束三文で売りさばく所を止めてもらった事から目利きとしても人としても信頼できるとゴン達は判断したのだった。

 

 で、その後ゴン達が捕まっている間にレオリオと合流したらしく、そのまま宴会モードに入って今に至ると。

 

「人の家なのに遠慮ねぇな。つーか、レオリオまだ未成年だろ。酒飲んでいーのかよ」

「俺の国じゃ16歳から飲酒オッケーだ」

「ああ、確かにそういう国もあるしね」

 

 お国柄、ジャポンだと20歳未満の飲酒は法律上禁止だが、それ以外の国だと割と18歳や16歳からでも飲酒可能な国は多いらしい。逆に21歳から出ないと飲酒不可の国もあるが、レオリオは現在19歳なので確かに問題無い。まあレオリオ本人の談によると12歳から飲酒していたらしいが。ダメな大人の見本である。まだ未成年だが。

 

 一応初対面のミヅキとゼパイルを互いに紹介した後、ゴンは旅団を尾行してから今の今までの経緯を話すのだった。

 

 結果、レオリオ達は酔いが覚めた。内容が内容だけにしょうがない、一歩間違えればどこかで死んでいたかもしれないというハードコース。

 

「お前ら良く生きてたな………」

「ミヅキ来てくれて助かったよ。あのままじゃ一体何されるかわかったもんじゃ無いしね」

「それで、結局旅団とヒノとの関係性はどうだったんだ?やっぱヒノは裏で暗躍する重要人物的な?」

「なんかたまに遊びに来る親戚の娘みたいなポジションだったよ」

「なんだそれ」

 

 訝し気に呆れた様なレオリオだが、ゴン達の言いたい事はなんとなく察した。要するにヒノ自身旅団の仕事というか活動には加担しているわけでは無く、プライベートな知り合いと言った所らしい。

 

 自分達もヒソカやイルミと言った危険人物と一応知り合いだと言う事を考えると、あながちヒノだけに何か言うのもどうかという気がしてきた。別にヒソカ達と友達とは言わないが。

 

「結局の所、後はヒノが起きるのを待つのみか。お前の予想だと明日には起きるんだろ?ミヅキ」

「ま、予想は予想。多分だけど、ね」

「それで、これからお前らはどうするんだ?旅団の捕獲は続行か?」

 

 レオリオの言葉に、ゴンもキルアもぴくりと反応する。幻影旅団の力は、捕まった事でよくわかった。今の二人では、逆立ちしたって太刀打ちできない。比喩的にも物理的にも文字通り大人と子供程の差がある。他に金策の宛てが現在ゼパイルと組んでの売買しか無いが、掘り出し物を探し出して購入し、それをオークションにかけて売る必要がある為、手元にまとまった金額が入るのに時間がかかる。

 ならば、念能力戦闘能力を向上させ、旅団を捕らえて一人20億手に入れるのがやはり現実的。しかし現実はやはり厳しい。

 

「てことで、一回クラピカに連絡したんだ。そしたら今は仕事中だから、後でかけなおすって」

「クラピカって……あいつも念を覚えたのは俺達と同じくらいだろ?それならミヅキに聞いた方がまだいいんじゃねぇのか?実際ミヅキがどれくらいかは知らないが、少なくともゴンやキルアよりは念の扱い上手いんだろうし」

「なんか能力の関係上参考にならないって」

 

 そもそもが特質系のミヅキの能力は、覚えようと思って覚えられる類の物ではない。もう一つの能力に関しても、戦闘に特化した物でも無いので旅団を渡り合う事を条件と考えると覚えるだけ意味が無い。そうなると、誓約と制約により強力な能力を会得したであろうクラピカに聞くのが、手っ取り早いと考えた。

 

「つーわけでクラピカ待ちだな。それまでは、俺達もゆっくりしてようぜ。どっちにしろ、今日は色々あって疲れたしな。少なくとも、クラピカの用事が終われば今日中にでも一言連絡くらいしてくれるだろ」

「用事って言うと、十中八九地下競売か。んじゃ、もうしばらくかかりそうだな。よし!ゼパイル、飲みなおすか!」

「よっしゃぁ!」

 

 じっとしているしかない。と分かればレオリオは再び酒を開け始める。連絡待ちという状況で今日はもう夜遅い、何かしようにも家の中で過ごすのが一番安全だろう。別段レオリオの判断自体は悪くないが、行動自体にゴン達は呆れるしかないのであった。

 

(さて、実際にそのクラピカって言うのが旅団を倒せるかどうかは、明日次第か。ウボォーギンの所在は、今しばらく黙っておこう。後は、ヒノが起きてきてからだな)

 

 心の中で一人呟きながら、ミヅキはやれやれと思いつつも、ゴン達一緒に酒盛りに付き合うのだった。

 

 無論まだ子供達は酒は飲ま無いが。

 

 

 

 

 

 

 





ゴン「そういえばレオリオ達そのお酒とかお菓子どうしたの?」

キルア「ひょっとしてこの家にあったのか?」

ゴン「まさか!いくら好きに使ってって言われても………それは人として流石にどうかと思うよ」

レオリオ「いやいや、普通に自腹で買ってきたから!流石人の物で勝手に酒盛りする程図太くねぇよ!」

ミヅキ「じゃあ僕が普通に飲んでもいいよって言ったら?」

レオリオ「よしゃ!家主(の家族)の許可取ったぜ!どんどんもってこい!」

ゴン・キルア「「………………」」


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