消す黄金の太陽、奪う白銀の月   作:DOS

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早く続きを、と思っていたら前回の更新から3ヵ月以上もたってしまいました。
………………色々頑張ろうと思いました。

それはそうと最近のジャンプのハンターハンターは旅団のターンみたいな感じですね。
ノブナガの能力とかそろそろ出てこないですかね。



第59話『スクラップ』

 

 

 

「ケホッ!流石にあんなの盗めねーわ、マジで。十老頭も面倒なの用意してくれたけど、作戦がうまくいって助かった。あ~くたびれたくたびれた」

 

 たった今まで戦場だった瓦礫の上で寝転がり、会社勤めを果たして疲れたサラリーマンの様にぐっと伸びをしながらも、どこか悪戯に失敗した少年の様に一人愚痴る影が1つ。

 

 幻影旅団の団長クロロは、この場所でほんの少し前まで2人の暗殺者、シルバとゼノの2人のゾルディックと死闘を繰り広げていた。

 

 互いに一瞬の気を抜くことを許されない攻防。マフィアの頂点に君臨する十老頭の依頼により、ゾルディックとしては確実にクロロを仕留めにかかり、クロロも迎撃する。本来ならば異次元の実力者が1対2で戦えば、確実に1人の方が死亡する事は必須だろう。

 

 そうならなかったのは一重にクロロの技量が2人の予想を上回り高かった事と、クロロの手回しが効いた事による。

 

 基本ゾルディック家は暗殺を家業として生業にしているが、別に本人たちが人を殺害することを趣味として楽しんでやっているわけでは無い。個人個人でそれぞれ思う所は多少あるだろうが。しかし依頼はきっちりこなし、確実な死を標的にプレゼントする。故に伝説とされる。

 が、例え権力者からの依頼であっても、途中で依頼を中断して標的の殺害をやめる場合が2つある。

 

 標的が殺す前に先に死亡してしまったか、依頼者が死亡してしまったか。

 

 クロロの練った作戦は後者。

 十老頭を()()()()()()()()()()()、十老頭からの依頼、つまり『幻影旅団の抹殺』を中断させたのだ。

 しかも、クロロがその依頼をしたのがゾルディック家の長兄イルミだと言う。

 

 つまりは、十老頭は幻影旅団(クロロ)を抹殺する様にゾルディックに依頼する。

 そして幻影旅団(クロロ)もまた十老頭を抹殺する様にゾルディックに依頼する。

 

 敵対者がどちらもゾルディックに依頼するという、互いに尾を噛みあうウロボロスの様な依頼図だが、この場合ゾルディックの方針としては単純明快。

 

 先に殺った者勝ち。

 先に標的を抹殺すれば依頼料が貰える。逆に先に依頼者が抹殺されたら依頼が中断し無駄な時間を過ごしたという事だ。

 

 ゼノ曰く「タダ働きはごめん」だそうだ。

 

 結果、クロロはイルミが十老頭を殺害する間の時間を稼ぐだけでよかった。

 基本ゼノとシルバから逃げに徹する事を前提にして戦い、あわよくば2人の能力を己の力で盗む事ができれば上々。しかしいくら並みのハンターすら凌駕するクロロと言えど、ゾルディック2人の大して「別に倒してしまってもいいのだろ?」とは流石に言えないので、どうにか時間稼ぎを頑張り成功したのだった。

 

 イルミが先に十老頭を殲滅し、それにより依頼者を失ったゼノとシルバは旅団抹殺を中断してそのまま帰ってしまったという。流石にクロロも疲弊し、瓦礫の上だがごろんと寝転がりビルの眼下で頑張る団員達を尻目に悠々と休息を取っていたのだった。

 

「さて、そろそろ潮時だな。全員を呼び戻すか。それにしても………」

 

 ふと、クロロは思いだす。このセメタリービルに来る時に出会った少女、ネオン=ノストラード。出会った、というのは少々語弊があり、元々クロロはネオンと接触するつもりで作戦を練り、実際に偶然を装い接触を果たし、このビルまでやってきた。

 

 その目的は、ネオンの持つ予知能力を己の物にする為。

 特質系であるクロロの念能力は相手の能力を盗むという規格外の【盗賊の極意(スキルハンター)】。その特異性と強力な能力故に果たすべき厳しい条件も存在するが、非戦闘員であるネオンに対してならやり方を考えればあっさりと解決できる問題だった。

 

 そうしてクロロは予知の能力を手に入れた。

 その過程で、クロロはネオンに己を占ってもらった。確率100%の未来予知。

 

 その結果を思い出し、僅かに笑みを浮かべる。

 

 既に9割9分程諦めていた結果。冷徹な判断の名の元に、既に過ぎ去った話に過ぎないと思っていた。

 しかしそれは覆された。自分の考えが覆されたが、クロロは寧ろそれを望んでいた。

 

 ウボォーは、生きている。

 

 

 (あなたは今どこにいるのですか、ウボォーさん)

 

 

 

 

 

 大切な暦が一部攫われて 残された月達は盛大に唄うだろう

 喜劇の楽団が赤い旋律を 戦いの追想曲を奏でる

 

 灰の墓所に臥せる緋の目の墓守に 涸れた寒菊は摘み取られる

 それでも貴方の優位は揺るがない 残る手足が半分になろうとも

 

 幕間劇に興じよう 新たに仲間を探すもいいだろう

 向かうなら東がいい きっと待ち人に会えるから

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

「うぉ!」

 

 ギイィン!ギャィン!

 

 激しい火花を散らし、金属音と共に3つの影が交錯する。

 手元に引き寄せた短刀で前方の刃を受け流し、後方の斬撃を、肩のオーラを変質させた念の刃で受け止める。短刀を振るいながら刃を生身で受け止める異様とも呼べる戦い方に、刃を振るう方も思わず後退してしまった。

 

「全身のオーラを硬質化って所か?多分変化系だろうが、面倒なタイプだなこりゃ」

「でも、全身防御とは少し違うみたいよ。私達の攻撃得物で受けるのその証拠。必ず隙あるね」

 

 見定める様に視線を向けて会話をしていたフェイタンとノブナガの二人は、互いに剣を鳴らしつつ、追い詰める様にしてジェイに追撃を加えていく。元来個人の我が強い旅団達の戦いは、メンバーにもよるが連携と呼べるほど熟達した物でも無く、ただただ自身の動きやすい位置取りで相手を追い詰めていくスタイル。隙あらば互いに相手を仕留めるべく翻弄する。

 それでもジェイが今の所も無傷で生きながらえているのは、一重に能力上相手の攻撃に対して優位だったとしか言い様が無いだろう。

 

 体を纏うオーラを刃の性質に変化する能力は、ある種全身に鎧を纏う様な物だが、それも万能というわけではない。

 

 ザシュゥ!

 

 前方より円を描く様に刀を振るうノブナガの攻撃を、短刀で受け止めたジェイは背後からのフェイタンの奇襲に咄嗟に体を曲げた。体勢が不十分の状態でよくやったと言いたい所だが、それでも無傷とは叶わず、浅い切り傷が服を切り裂き、僅かに皮膚を抉って鮮血を散らす。

 

 咄嗟にオーラを纏い止血をするが、怪我を見る暇も無くジェイは再び動き出す。

 オーラの纏う短刀を振るってノブナガを弾き、振り向きざまに足刀でフェイタンを刃事吹き飛ばし一旦距離を取り、その場を離れる。

 

「ちぃ!あじな真似を!」

 

 再び追撃を加えるべく動き出すノブナガに向かって、ジェイは短刀を振るった。10メートル近く両者の距離が空いていたにも関わらず、ノブナガの足元の道路に、真一文字に切り傷が走った。まるでこの先へ進めば命は無い、そう言いたげに主張する様に現れた切り傷に、ノブナガは追撃しようとした足を止める。

 

「ノブナガ、あいつの刃視るね」

 

 フェイタンの言葉で【凝】をしてみれば、確かにそこに視えた。短刀に纏われたオーラが薄い刃上に変化し、10メートル近い刀の様にジェイの手元に顕現している瞬間を。瞬時に霧散したが、先程までの遠距離での斬撃の正体がわかった。

 

(なるほど、オーラを変化させて武器の射程を延長できるってわけか。俺の足元を切ったから限界は10メートル近くか?いや、決めるのは早いな。まだ隠しているかもしれねぇ。やっぱ……面倒くせぇ)

 

 面倒くさいと思いつつも、内に秘めた高揚感は先ほどまで迫りくるマフィア達を一方的に蹂躙していた時の比ではない。戦闘狂という程では無いにしろ、誰しも実力をつけてその道を極めた達人ともなれば、己の力がどこまで通用するのか試してみたいと思うのが道理。

 彼らの場合は、それが生死を分つ戦場。どちらかが生き残り、どちらかが死ぬ。

 

 常在戦場の心構えを基本とした、旅団ならではの殺伐とした死生観。

 それを試せる絶好の相手を、逃しはしない。

 

 そんな雰囲気を交えた刃から察したジェイは、やや嘆息しつつ今後のプランを脳内で練り直す。

 

(そう簡単に見逃してくれないか。さて、流石に2対1だと厳しいし、アドニスとも打ち合わせは終わってるから、後は………)

 

 懐を探れば、今の手持ちは全長30センチ程の短刀が1本。たまたま市場で購入したバタフライナイフが3本。流石に心元無い武器だ。特に短刀は自らの手で研ぎ治したので切れ味十分だが、バタフライナイフ自体はどこにでもありそうな普通のナイフ。しかも大して長く無く刃渡り10センチ程度。ジェイならそれでも念を使えば十分と言えるが。

 

(…………とりあえずは)

 

 わざわざ仕留めるつもりなど無く、戦い続ける意味も無い。殺し屋チームとして派遣されてきたのは事実だが、ジェイにはマフィアンコミュニティ事態に恩義があるわけでも無い。ただ友人であるヴィダルファミリーの付き添いで来たに過ぎない。しかも元々戦いに参加するつもりも無かったし、相手が2対1なので戦闘不能にするのも少々厳しいときた。

 故に、逃げに徹する。

 

「あ、てめぇ!待ちやがれ!」

 

 いきなり背中をくるりと向けてダッシュした事に、一瞬ノブナガは呆けた様子だったが、すぐに相手が逃げたと理解して追いかけ始めた。

 

 しかし、出遅れたノブナガと違って、ジェイの一挙手一投足を見逃さない様に暗殺者の様に(似た様な物だが)狙っていたフェイタンは、背後から追随して刃を振るう。

 

 ギイィン!

 

 が、再び弾かれる。鉄でも斬り付けた様な火花を散らし、ジェイの首に振るった刃が再び弾かれた。が、それも織り込み済みだったのか、【周】によって強化された刃の切っ先を振るい、足元を狙った。

 

「う―――おぉっと!」

 

 念の防御を突き破り、跳び上がって躱したジェイの脹脛を浅く裂く。確実な致命傷として首を切断しようとするフェイタンの狙いはわかりやすく、ピンポイントで首元を防御したジェイは流石だが、上半身にオーラを集めた事で下半身の足元のオーラ防御が疎かになった。

 互いに相手を読み合い、今回はフェイタンが勝った。

 それでも機動力を削ぐ程では無いので、ジェイは足元にオーラを籠めて跳び上がる。

 

 跳び上がった先は、人気の無い4階建ての建設中の廃ビルの2階。

 後を追い、フェイタンとノブナガもビルへと入っていった。

 

「ささとくたばると―――!」

 

 パキイィン!

 

 乾いた音が響くと同時に、フェイタンは瞳を見開いて目の前の事象に一瞬固まった

 

 ビルの中に入ったと言っても、フェイタンは追いかけながら常に視界の一部に捉えていた。その為文字通りジェイの背中を追いかけて、ビルの中に入る事で距離を詰めて、頭上から真っ二つにするつもりで剣を振り下ろした。その為、振り下ろすと同時に反転し、反撃に転じて来るのは少し予想外だった。

 尚且つ、()()()()()()()()()()という事態も。

 

 しかし、フェイタンは突き刺すような殺気を発しながらも、ジェイの背後にキッ!と若干の苛立たしさを混じらせながら意識を向けた。

 

(――――――仕留めるね、ノブナガ)

 

 ジェイの背後に幽鬼の様に迫る、抜刀体勢のノブナガの姿。片膝を着き、左腰に構えた刀に手を掛けて、視界に映るジェイを仕留めんと、爆発的な殺気を刀に籠める。 

 

 殺った。そう思った瞬間、フェイタンとノブナガはスローモーションの様に感じる刹那の間に、ジェイの腕が動いたのを見た。

 

 フェイタンの剣の切っ先を切断したのは、ジェイの手元に握られていた、なんの変哲も無いバタフライナイフ。

 ただし、刃とすこぶる相性の良いジェイの念能力である【不可思議な刃物(ジャックナイフ)】による刃の性質を秘めたオーラが纏われ、通常の【周】を超える切断性を身に着けた凶悪な逸品だ。しかも、今回は()()()を先程までより、より強化して。

 

 剣を切断したまま、ジェイは自身の肩越しにバタフライナイフを、背後のノブナガに向かって投げつけた。

 

(!ただのナイフだが、フェイタンの剣をあっさり切断する程なら、このまま受けるのは少し危ねぇな!)

 

 互い念を使えるといえ、相手は切断性や刃に関連し特化したオーラの籠められたナイフ。抜刀して迎撃して刀が逆に切られたらまずい。そう咄嗟に判断し、海老反る様に体勢を後ろに倒すと、目の前をオーラの纏われたバタフライナイフが通り過ぎた。

 

 壁際の柱に柄頭まで突き刺さった事を音だけで察し、ノブナガは再び鯉口を切り開く。

 旅団内でも随一の抜刀術。最も抜刀するのはノブナガだけなので随一というより唯一だが、そこには触れずに刀が抜かれる。

 

 空中で身を捻るようなジェイの今の体勢なら、この状態での回避行動はまず不可能だろう。

 だとすれば、問題は身に纏うオーラによる防御力。果たして、ノブナガの刃によって一撃で切り捨てる事が可能か。しかし、可能かどうかなど頭の中で議論しても、始まらない。

 思考を捨て去り、ただ目の前に外敵を切り裂く事にノブナガは意識を割き、一心に振り抜いた。

 

 ドゴオオォォオオオオ!!

 

「「!?」」

 

 瞬間、むき出しのコンクリートの地面に罅が入り、階下で爆薬でも使われたかのような衝撃が、打ち上げられた瓦礫と共に3人を包み込んだ。

 

「「だらああぁ!」」

 

 厳つい風体をした2人組の死闘風景。街中で見れば関わり合いを避けたい部類のヤクザの喧嘩だが、拳一つでコンクリートを破壊していく様は鬼か何かかと見間違う程。

 自分達の戦闘の最中で別の戦闘に巻き込まれ、思わず下から上がってきた男、フィンクスは硬直してしまう。

 

 その隙とばかりに、アドニスの拳がめり込んだ。

 

「ぐぉ!」

「おらあぁぁ!!」

 

 今まさに抜刀直前だったノブナガを巻き込み吹き飛ばされたフィンクスだったが、2人共直ぐに空中で回転しまだ砕けていない床の上に着地する。 

 

「おい!フィンクス!てめぇ邪魔するんじゃねぇよ!」

「うるせぇ!それはこっちのセリフだ!とっとと――――――」

 

 互いに悪態をつきかけて、目の前に迫った2本のナイフに2人共咄嗟に顔だけ傾けて最小限の動きで躱した。背後に飛んで行ったナイフが先程と同じようにコンクリートの柱に埋まる程に鋭い切れ味を見せると同時に、フィンクスとノブナガの2人が互いに頭を傾けぶつけた事に再度喧嘩が始まろうとしたら、崩れる床を蹴って天井付近に躍り出る。

 

 下を見れば窓枠に立つアドニスと、()()()()()()()()()()()()()ジェイの2人。

 

 フェイタンは1度オークション会場で、フランクリンの念弾を回避して天井に立つという離れ業をしたジェイを見た事があるが、今ならその絡繰りが分かる。

 ジェイは足の裏からオーラの刃を作り出し、壁や天井に突き刺して重力を無視した立ち位置を体現していた。

 

「フィン―!大丈夫かぁー!」

 

 そんな時、階下から声を張り上げながら瓦礫を蹴って登ってきたのは、自前の携帯と操作用の針を手に持ったシャルナークの姿。

 が、その姿を見たと同時にアドニスが飛び出す。

 

 弱い物から先に潰すという戦略の基本に沿っての行動。シャルナークは一般人やそこらのハンターと比べれば逸脱した高い戦闘力を有しているが、同じ旅団の前衛達や一流のハンター達と比べたら、操作系という能力もあり自ら格闘戦をするタイプでは無い。

 その為、シャルナークは床を蹴り、天井付近へと逃げる様に跳び、追随するアドニスだっが、咄嗟に爆発的な殺気と共に、先の折れた剣が真下からアドニスの顔に向かって伸びた。

 

 ガッ!!

 

「!!」

「うそ!?」

 

 一度階下フェイタンが落ちてきた事は知っていた。その為シャルナークは囮として上に逃げて相手の視線を下から逸らし、その隙に奇襲をかけるという作戦だったのだが、ある意味一番予想外の方法で乗り切られてしまった。

 

 フェイタンの剣は、アドニスの額にぶつかり受け止められた。

 切っ先が折れているとはいえ、一撃をまともに受けるなど、明らかに常軌を逸している。オーラによる防御や単純な耐久力だけでなく、アドニスの能力による恩恵である。

 

「おらぁあ!」

 

 が、そこに留めとばかりに天井を蹴ってきたフィンクスの蹴りがアドニスの背中に突き刺さり、そのまま階下へと一緒に飛んで行った。無論、真下にいたフェイタンも巻き込んで。

 

 わざとなのか、ただアドニスの陰で見えなかっただけなのかは不明だが、容赦ないフィンクスにややドン引きしつつ、シャルナークはいざと前を向いた時、ジェイの腕がぶれたのを見た。

 

「うぉっと!容赦無いね!」

 

 顔に迫る物体を躱してちらりと見てみれば、10センチ程度の銀色の物体。それはオーラが纏われ、背後の柱にびしりと埋まる様な威力を発揮していた。

 

(あれは………フェイタンの剣の切っ先?)

 

 先ほどジェイが折った剣の先を使い、先のナイフと同様にしてシャルナークに向かって投擲した。

 フェイタンの獲物が切断されたという事実に驚いたが、どうにも相手の顔面を狙うようなジェイの攻撃にもシャルナークはやや違和感を覚える。確かに絶妙なタイミングで飛んできたが、彼らにとっては避けられない事は無い。

 寧ろ、()()()()()()()()()()()()()()()かの様な攻撃。

 

(そしてそれを想定していたとしたら………)

 

 途端にシャルナークはバッと、そこそこの広さのあるビルの中をぐるりと見渡すと、何かに気が付いた様に残っている床に降り立ち、開いた窓際に向かって走り出す。

 

「ノブナガ!すぐにここから出るぞ!」

「あ!?いきなり何を―――」

 

 急に話しかけられ、天井に刀を刺して攻撃の機会を伺っていたノブナガが訝し気に首を傾げると同時に、ジェイは手元で短刀を翻す。己の力と念を込めて打ち出したる渾身の一振り。鋭く触れるだけで切れる様なオーラを纏い、ジェイは自身の背後の壁に突き立てた。

 

 ザン!――――――ビシイイィ!!

 

 深々と突き刺さった短刀は、コンクリートに蜘蛛の巣状の罅を作り出す。

 さらに、それに連動する様に各所に存在する抉られた様な傷、ジェイが投擲して柄まで埋め込んだナイフの傷から罅が広がり、ビル全体に細かい罅大きいな罅が走った。今にも、倒壊寸前の様に。

 

「それじゃ、旅団の皆さん。俺達はこれで」

「「なっ!!」」

 

 ノブナガとシャルナークが次の言葉を発するより早く、留めとばかりに短刀を深く押し込んだ。

 

 瞬間、地震と錯覚するような振動と共に――――――ビルは崩壊した。

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

「――――――で、この状態に至ると」

 

 瓦礫に座りながら報告を聞き終えたクロロは、目の前に集まった仲間達を一瞥して、愉快そうに苦笑する。

 

 マフィアの雇った暗殺者達を全員殺害するにしろ追い返すにしろ片づけたのを機に、クロロはビルの周囲でマフィアの構成員を屠っていた仲間達に連絡し、自分が死闘を繰り広げたビルの中に、この後の計画の為に周りのマフィア達に気づかれ無い様に集めた。

 そして来てみれば、当然の如く全員無傷……………と思っていたが、意外にも旅団内で武闘派なフィンクスとフェイタンの2人がそこそこの傷を負っていた事に正直驚いた。

 

 重症、という程では無いが、フェイタンには切り傷、フィンクスは外傷は無いものの、やや口元にわずかに血を拭った痕が見えるから、内部に多少のダメージを喰らった様子だという事がすぐわかった。

 

(驚いたな………ゾルディック以外に俺達を害する存在がマフィアにいるとはな。もしや、例の鎖野郎か?いやそれにしては、反応が違うか………となると、例のヴィダルか)

 

 無論マフィアの全構成員を全て把握しているというわけでは無かったが、クロロの知っているマフィアの中では、おそらくという事だがアドニスが該当し、実際にドンピシャで正解だったりする。

 

 そんなことは梅雨知らずに悪態をつくフィンクスとフェイタンを一先ず置いておいて、今後の方針を語る。

 

「それじゃあ、例の作戦通りオークション後は離脱な。コルトピ頼む」

「うん」

 

 コルトピはクロロの肩に手を置き、もう片方の手を虚空に向けてオーラを高める。

 瞬間、虚空に向けたコルトピの手の前に、もう1人のクロロが現れた。

 

 【神の左手悪魔の右手(ギャラリーフェイク)】と呼ばれる、コルトピの有する具現化系念能力。

 左手で触れた物と全く同質の複製を右手に作り出すという能力であり、模造(コピー)というよりかは、念により全く同じものを造り出している為、基本的に判別は不可能。

 

 この能力は再現能力を極限まで高める代わりに、複製してから24時間の間は常時具現化状態で、24時間経過すれば強制的に消滅する。生物を複製したら動かない人形となる。といった制約と誓約により、メリットもあればデメリットも存在するレベルの高い能力に仕上がっているのだった。

 

 外装だけでなく内部構造に至るまで、念による具現化で再現している為、今この場に存在するのは、確かにもう一人のクロロ。心臓も存在するし、内臓もあるし血もある。違いがあるとすれば、そのどれもが機能していなく、鼓動も脈も無く目には光を宿してはいない。いうなればクロロの死体を造り出した事になる。

 

「おー、流石によくできてんな。さて、これをどうするか」

 

 クロロの建てた作戦は単純明快。

 コルトピの能力により自分達の死体を造り出し、それを囮に逃げる。

 目的としてはいくつかあるが、自分達を始末したとマフィアに誤認させ、オークションを続行させるのも狙いの一つとなる。他にも()()()自分たちの情報を残す為、というのもあるが。

 

 その為、この死体を今から、見た目で死んでると判断できるように少々手を加える。

 

「さて団長の死体はどうするね。やはり首とるか?」

「最低でも心臓か頭のどっちかは潰さないとダメだよ」

「でもマフィア達って顔晒しにしたいんだろ?だったら首は残して腕や足を千切った方が良くないか?」

 

 この場所に集合するまでに、同じようにマフィアの賞金首のリストに載ったマチ、シャルナーク、フェイタン、ノブナガ、シズクの死体を同様に偽装を施してきたため、同じようにクロロの死体について話し合う。

 ただ頭を潰す、と言うような人相が分からない様な偽装をしてしまうと、本物かどうかの疑いがあるのでそれを避けつつ互いに案を出していく。

 

「だったらよぉ、体にズバッと一文字に切り傷とかどうだ!中々インパクトあるだろ」

「いやそれよりノブナガ、俺の念弾で頭意外吹き飛ばした方が早いだろ」

「よし、俺に任せろ。拳一発で心臓貫いてやる」

「……………お前達なんか楽しんでないか?」

 

 和気あいあい(?)とした旅団達の作戦会議は時間も無いのですぐに終わり、適当に殺られた様に見える様に複製死体に手を加えて放置し、その場を後にするのだった。

 

 

 後に、懸賞金を賭けられた旅団の死体が見つかった事により、クロロの狙い通りにマフィアは勝ち星を掲げて保留中だった地下競売を続行した。

 ゾルディックの2人は仕事が中断したので、特にクロロが生きている報告をマフィアにしないままなのも幸いした。寧ろそれすらクロロの狙い通りだったのだろう。元々イルミと知り合いの様だったので、事前にこういう状況でシルバ達がどういう行動をするかは家族の方が熟知しているだろうし。

 

 その後、マフィアに賞金を賭けられていない(顔写真を撮られていない)メンバーが主に、地下競売の司会進行などの裏方を乗っ取りコルトピの能力で商品をコピーし、コピーした方の商品を客に捌き、本物は競売後シズクの掃除機に入れてあっさりと持ち帰る。

 外で派手に暴れまわっていたのが嘘の様な鮮やかな手際の良さに、結果として観客は誰1人異常な状況に気づく事なく、意気揚々とコピーされた商品を持ち帰り、地下競売は表向きマフィアの勝利を称える様に盛り上がり、終了したのだった。

 

 旅団はひっそりとアジトに帰り、夜は更ける。

 

 ちなみに、ジェイとアドニスに関しては、撤退した後アドニスがフィンクスと痛み分けの様に負傷したのもあり、競売は代役に任せて先に2人共オークションには参加せずに帰ったそうだ。

 2人がそのままオークションに参加していれば、目の前で商品を梱包するフィンクスやパクノダ達に気づく事ができたのだろうが、今となってはもはや遅い。

 

 

 幻影旅団とマフィア、片や圧倒的な勝利を、片や虚像の勝利を掴み取り、夜の闇に溶けていく。

 

 

 これにて、9月3日の戦いは終了。

 

 

 マフィアに盗賊。

 闇の住人達は、それぞれのアジトに向けて歩を進めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――暑い。

 

 

 炎の海を揺蕩う様な、不思議な感覚がする。

 ふと気を抜けば、煉獄に沈むように錯覚すると同時に手を伸ばせば、誰かの手が触れた。炎の様な熱さではなく、温もりを感じる感触が右手をを掴んだ。

 

 

「――――――っ!」

 

 

 ガバッ!

 

 荒く息を吐き、空っぽの肺が新鮮な空気を取り込もうと体の中で稼働する。

 汗で額に張り付いた髪を気にする余裕も無いままに、左手を握るようにして、自分が今この瞬間まで眠っていた場所を確かめた。

 

「………………ここ、どこだっけ?」

 

 彼女が眠りに着いてからおよそ33時間。

 窓の外はまだ暗く、闇に閉ざされた部屋の中で、黄金の髪を揺らし少女は目を覚ました。

 

 

 

 

 

 




9/2(水) ゴン達腕相撲→賞金首リスト入手!
   ヒノ、ネオンとお茶する→ヒノVSウボォー→両者ダウン!
   クラピカ待ちぼうけ

9/3(木) ゴン、キルア、旅団のアジトで腕相撲。→ミヅキと一緒に帰る。
   地下競売スタート。
   マフィアVS幻影旅団

9/4(金) ――――――

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