第一話「八百八町」
ここは大大陸の東端に隣接する島国「ジャポン」。
国土面積こそ少ないが、島国特有の独特な文化を持つ、れっきとした独立国家だ。
人口は約6500万人。
東西に細長い国土はほぼ山林に覆われ、その合間を縫い伝い、海へ流れ込む河川の河口付近に市街は主に発達していた。
気候は多少の寒暖があるものの、年間を通して全土比較的過ごしやすく、1年を春夏秋冬という4期間に区分した季節、という概念がある。
ジャポンの首都であるオエドは国土のほぼ真ん中程に位置する。
100余年の長期統治体制を敷き続ける、時の政権「トクガワ」のお膝元城下町として、500万人もの市民が栄華安穏の日々を謳歌する大都市であった。
その800以上の整備された区画から構成される美しい町並みは、この国で豊富に採れる木材を分断に使った風靡な建築物からなり、遠方から訪れる来訪者達からも多く賞賛を受けている。
800以上もある区画の中には、国家政治の中枢機関が集中するオエド城がある、昼夜問わず光と喧騒に包まれた市の中心地から離れ、居住区として特化された静かな一画もあった。
時刻は深夜2時。
草木も眠る丑三つ時。
灯りも疎らなシンとした通りを、暗闇に似付かない女子(おなご)二人組が足早に歩いている。
しかし二人とも女子らしい格好と言うよりも、颯爽とした男っぽい服装であった。
上半身は、この町の一般的な男が羽織る、袖がゆったりし尻辺り迄ある、ストライプ柄のアウターを腰辺りで帯で縛っている。
その中に身体にフィットする様な首半ば迄ある長袖の黒いインナーを着用している。
下半身はこれも動きやすそうな細みの半股から、膝迄上半身と同じ素材の黒いインナーが伸びている。
足元はフットワークが良さそうな素足にフィットする物を履いている。
二人組の一方は細身で背が高く、肩ほど迄の髪をきつくひっつめ、後ろ髪を馬の尾の様に垂らしている。
キリとした眉に多少釣り目気味だが落ちついた眼差しで、女子にしては随分と精悍な顔立ちと言える。
一方は小じんまりとした背格好で、片方の男前とは対照的に顔も目もクリっと真ん丸。
髪は無造作にオデコと肩迄垂らし、世間一般で言う、座敷童のイメージに近いかもしれない。
揃って足音を立てない様ヒタヒタと歩いている様子は、盛り場で女友達と遊んだ帰り道、人目を忍んでの帰宅、という事では無さそうだ。
ふと、座敷童の方が立ち止まり、鼻を押さえて何やら蠢いた。
「フェ、フェ、、フェーックショーい!!」
ただのくしゃみの様だ。
ところが、「この夜半に静かになさいな」等とは言わずに男前女は神妙な顔で言う。
「・・・おハチ。ここいらかい?」
音程の低めな落ち着いた声だ。
緊迫感を纏った鋭い眼差しがススと暗い周囲を滑る。
座敷童の名はおハチと言うらしい。
「親ビ~ン、、なにせこう寒ぃんでよくわからねえっす~(--;)。」
こちらは見た目相応の幼い声色だが、言葉使いが妙に男臭い。男前女の緊迫を他所に、どうやら空気は読めない質の様だ。
「しっかりしろい(^_^;)。こう暗くっちゃあオメエさんの鼻が頼りなんだぜ?」
親ビンと呼ばれた男前女も、おハチの間の抜け様には慣れたものだ。
長い付き合いらしい。良くわかりあった者同士の会話だ。
「ほれ、これで鼻咬み。」
懐から小粋な柄の几帳面に折り畳まれた小さな手拭いを渡しつつも、周囲への警戒は怠らない。
「あ~、すいやせん。ではお言葉に甘えやして。」
(ふわ~( ´∀`)なんかいい匂いするっす~)
「はい、せーの、ズビズバズビーー(>_<)!あざーす!お返ししやす!」
「・・それお前さんにやるよ(^_^;)。」
「え~、いいんすか〜?・・クンクン・・ん!?」
丸い目をクリクリさせ、しきりに鼻を動かす。
「親ビン!匂う!近いっす!」
うってかわって真剣な表情だ。
「やはりおシズの読みが当たっていたな。」
「頼むぞ・・・縄!」
なんと不思議な光景だろう。
親ビンの一言に呼び掛けられた様に、直径5cm程の太めの白縄がスルスルと大きく開いた袖下から垂れ下がってきたではないか。
縄は先端を、意志を持つ蛇頭の様にもたげ、二人の周囲を囲む様に大きく螺旋状に広がり、宙空に漂い始めたのだ!
念能力「縄」。
賢明なる貴方がお察しの通り、親ビンは念能力者である!
オエド北町奉行所所属の目明かし(岡っ引きとも呼ばれる民間出身の刑事。)を生業としている。
本名はヘイジ=ゼニガタ。400人はいるであろうオエド目明かしの中で、女だてらに年間検挙数、常にトップを走る、オエド市民知る人ぞ知る敏腕目明かしである。
しかし、飽くまでそれは表の顔···。
ヘイジは裏の顔を持っている。
真の肩書とは、中枢政権トクガワ直属、
念罪人捕り方改め機関「百舌(もず)」所属
罪人ハンター、ヘイジ=ゼニガタである!
その任務とは、華やかなオエドの裏で暗躍する、念能力を有する罪人を人知れずにハントする事であった。
ヘイジが今、念能力を発動し警戒している相手は無論、念能力を有する罪人である。
そして、追っている罪人の気配(オーラ)を嗅覚で探知し得ていると目される、おハチ、ことハチ=ゴロウも、念能力者である。
視点をヘイジ達に戻そう。
「おハチ、どっちだ?少し急ぐぞ。」
「縄」は操作系なのだろうか。ヘイジの警戒心に呼応する様に、蛇頭を360°巡らせ構えている様に見える。
「へい!あっちです親ビン!」
鼻を引くつかせ、大きな屋敷が二軒続く先に、細い路地に入る曲がり角がある。
そこを指差すと、ハチは意外な加速力で突進して行った。足にオーラが急速に集中している。
ハチは強化系能力者だ。
敵探知のカラクリは、嗅覚を念で増加させているのだろう。強化された脚力も小柄からは想像出来ない相当なものだ。
しかしヘイジも平然と同じ速度で周囲に縄を漂わせたまま、おハチの後に影の様に付いていく。
「あすこを曲がると居やす!」
「合点だ」
と、その瞬間!!
ガッ!
シュバッ!
スタン!
おハチが石につまづき前のめりに転倒。
ヘイジの視界から消える→ガッ!
縄が瞬時に反応。おハチの身体に巻き付く→シュバッ!
そのまま空中で身体を一回転させ着地→スタン!
そして何事も無かった様に走るおハチ。
「ふへ~~(~Q~;)い、いつもすいやせん(--;)。」
「毎度の事よ(^_^;)。気にすんねい。それより集中!」
「へい(^_^;)!」
操作系念能力特有の付与効果なのか「縄」の高い危機回避能力が伺える。
しかし、おハチの転倒は毎度の事らしい(^_^;)。
転倒?の5秒後、二人の耳に同時に声が聞こえた。
「姉御、ハチさん、毎度遅くてすいやせん。相手念能力判明。イメージ画像送りやす。」
暗闇を猛スピードで走り抜ける二人に話し掛ける主は一体誰であろうか。
「おシズ。こっちはビンゴだ。いつもの事さ、お前さんのせいじゃねえ。頼む。」
「合点」
声の主はヘイジが言及していた「おシズ」だ。本名シズ=ミョウジンシタ。性別は男。
性格は到ってクール。線は細いが正確無比な仕事をする男だ。
ヘイジ、おハチと三人揃って北町奉行所が誇る、念能力三人衆だ。但し、罪人ハンターの称号、逮捕権は飽くまでヘイジしか持っていない。
おシズの念能力「遠距離念話」!
自分が直接顔を見て話した事のある相手の意識内に、直接、自分の脳内の言葉やイメージを送る事が出来る、放出系念能力である。
屋敷の角を曲がり路地へ入ったヘイジとおハチの脳内に画像が浮かんだ瞬間
突如、
「縄」が二人を一纏めに縛り上げる!→シュバッ!
二人を空中に放り投げる→ブワッ!
二人の足元から硬い地面を割り、人間の両手が突如出現
→ボコッ!
0.3秒前にそこにあった筈のヘイジの両足を握り潰す仕草を見せ空振り。その後音も無くまた土中へ消えた。
ヘイジはおシズが遠距離念話で送ってきた脳内の画像・・地面内や壁内を泳ぐ様に自在に進み、頭のみを出し不敵に笑う不気味な顔・・
と「縄」の初動から瞬時に状況判断している様だ。
地上10メートル程の中空を飛びながらも、微塵も姿勢、表情に揺らぎを見せない。
「やれやれ。夜中にモグラ退治ってか。乙じゃねえか。なあ、おシズ。」
「姉御、ご無事で?」
「応。画像と今の攻撃からの判断だと強化系かい?」
「確定ではありやせん。百舌本部によると強化系75%変化系 25%。」
「か!当たってわかれってか。いつも通りで涙が出らあな。」
「罪人ランク2ですが油断は足元掬いやす。御用心を。」
「洒落こむね。縄は後何分だい?」
「15分と45秒」
「昨晩も出張ったからなあ。土中で粘られるとマズい。」
危機に対し鋭い防衛を見せる「縄」には発動時間制限がある。
三人しか知らぬ、ヘイジの能力の秘密の1つだ。
突如の襲来にも淡々と語る二人の横で、おハチの目はナルト巻きの様になっている。
地上10メートル、頭は下に脚は上。
「はわわわ~(~Q~;)」
五感を全て数百倍強化するハチの念能力
「敏・感・小・町」
どうやら弱点は環境の急激な変化の衝撃も数百倍な事らしい(笑)。
「しかし姉御、あっしの考察ですが。百舌からの能力情報だけでは、そ奴が近日不法侵入した場所で浸入不可能な場所がありやす。」
「おシズ結論から。後3秒で地面だ。」
「縄」が豆の木の様に巻き付き、二人の落下速度を軽減している。
「土中を単純に掘り進む能力ではありやせん。」
「上出来上等。ハチ!いつ迄目ぇ回してんでい!
仕事しろい!!」
縄の先端がハチの丸いホッペをペシリとハタいた。
「ふぁ!ふぇい」
スタリ、と7秒振りに地面に降り立った二人の周囲を好奇と悪意を孕んだ静けさが包んでいる。(おハチ感覚)
ヘイジが予測していた着地狙いの二の手は読みを外した。
即座に主導権を模索するヘイジ。
「おう、そこのクソモグラ!女二人に隠れん坊かい?遊びが上手過ぎて惚れちまうね!なあおハチ!」
「へ、ヘイ。キモいっす!」
ヘイジはクールな顔立ちの割りに口が相当悪い。狙いがあるとは言え、どうも素の様だ。
おハチは酔いで噛み合わない。
と、くぐもった声がどこからか響く。
「は。因りによってご高名なヘイジ親分のお出ましかい。割りに合わんわ。・・・そんでもって、こっちゃ好きで潜ってんじゃねんだよ。」
ヘイジ即座にオハチへ耳打ち。
(易いぜ。音源方向!)
(合点!「悪魔耳(でびるいやー)」!クワッ(°Д°)!)
オハチは能力のネーミングセンスが意外と良い。
(あ?あり?(--;)。音源が、ひい、ふう、みい、、一杯っす!!)
(ち!25%の方かい。)
「連れのレーダーバカがいるのに阿呆な事する訳ねーだろ。あばよ!」
どうやらモグラは情弱では無い様だ。
「あ~ら~。一杯の気配が散らばって消えていきやすー(-_-;)。」
「·····のがさねえ····(# ゚Д゚)」
どこのスイッチが入ったのか?
突如ヘイジのオーラがマグマの様に燃え上がる。
ゴッ!!!!
「姉御。オーバーワーク。」
おシズがすかさず宥めるも、時既に遅し。
「ハチ!!最後に残った気配を指差せ!!」
「へ、へい!」
「頼む!!銭!!」
【第一話 終了】
モグラの正体と目的は?!
ヘイジは果たして逃さず捕獲できるのか?!
続く!!!!!
ヘイジ「次回も読まねえと、しょっ引くぜ。」