きっと、私があの子に出会うことはないと思っていた。
二度と触れ合うことは出来ないと。
あの顔を見ることも、あの声を聴くことも、もう私には届くはずのない夢となった。
そう、思っていたのに……運命は私とあの子を惹き会わせた。
同じ時間と、同じ世界で育ったあの子ではないけれども、
間違いなくあれは私の……私達の想い出の結晶だ。
遠い記憶の果て、尚も忘れることはない。
冷たくて、凍えるような心を溶かしてくれた。
寒くて寂しい私達を、彼女の笑顔が暖めてくれた。
その声が、私達に未来をくれたのだ。
それは、今も変わらない。
あの子が―――別の世界の存在であっても―――生きていてくれるだけで、
それだけで私は満足だった。
満足していた―――遠くから見守ることが出来る、それだけで本当に良かった。
あの子は、何もわからないだろうから……これで良かったの。
良かった、こことは違う世界でも、あの子が幸せそうで。
本当に良かった、元気でいてくれて。本当に、本当に。
「―――……あのぉ、もしもし?何してるんですか。ストーカーですかね?」
ここでの暮らしは平気だろうか?
あんなに元気で転んだりしたら大変。
不自由な思いはしてないだろうか?
聞きたいことは沢山あるけれど、私の声を届けるわけにはいかない。
こうして居られるだけで―――
「無視はいけませんよー?無視は。
イリヤさんに何か御用でしたら、このルビーちゃんを通していただかなければね!」
―――何?さっきから頭の傍をブンブンと、ハエ?
なんか喋っているような、気のせいかしら?
「だんまり、ですかぁ?……仕方がないですね、これは実力行使も」
「ちょっと!誰なの、さっきから……うるさいと見つかっちゃうわ」
「聞こえてるじゃないですかー!だったら、ちゃんと反応してくれないと……ん?」
「聞こえてる、聞こえてるから!静かに―――」
ステッキが喋っている。
流石はカルデアと呼ばれるここ。
私が言えることではないけれど、よくよく不思議なことに縁があるものね。
「―――あれ、貴女……イリヤさんのお母様では?」
「え?」
変な形のステッキが、私のことを知っている?
「おかしいですねー?何故ここに」
「私を、知っているの?あの子を―――イリヤのことも」
「それはもう!なんたってイリヤさんはマス―――」
気を取られている隙に、私は足音が近づいてくるのを聞き逃してしまった。
気が付いた時には遅い、遅すぎた。何もかも、今までも。
「―――ルビー!声が聞こえたと思ったら、こんな所で何してるの!!」
「あ―――」
あの子の声が、すぐそこで聞こえる。
このまま何も言わずに消えることも出来た。
でも、私はその声に……その姿に、その顔に、その全てに気を取られていた。
どうしようもなかった。どうすることも出来なかった。
―――だって、すぐそこに居るんですもの。
もう出会うことはないと、二度と触れ合うことは出来ないと、
運命を受け入れたはずなのに、私の願望が……すぐ、そこに。
「ち、違うんですよイリヤさん!見て下さいこの方を!!」
「また誰かに迷惑かけたんじゃ……かけたんじゃ―――え?」
「あ……ああ……イリヤ……」
「え、えっ……嘘、ママ……?」
彼女が、私に語りかける。
―――お母様!
記憶の欠片が、私の心に語りかける。
ここにいるあの子と、私に残った記録の中にいるあの子が。
その日―――私は運命に出会った。