「―――えぇ……えぇええええええ!ママぁ!?な、なんで」
「あの、イリヤ、違うの……私は」
「前からなぁーんかママに似た声が聞こえるような気がしてたけど、
やっぱり居たんだ……ママ、ママだよね?」
「あのね、イリヤ……私は―――」
「イリヤさん、良かったですねぇ!まさかーこんな所で親子感動のご対面とは!!
流石はカルデア、何でもありとは恐れ入りました」
「……もうっ!あなたは黙ってて!!
あなたがうるさくするからイリヤに見つかったのよ?そこで反省しなさい!!」
「あっはい……」
こんな形でイリヤに見つかってしまうとは。
どうしましょう、どうしたら良いだろう。
どうしたら、“彼女をなるべく悲しませないように”出来るだろうか。
「イリヤ……いえ、イリヤスフィール・フォン・アインツベルン」
「え……は、はい……?」
「私は……私は……」
私は……あなたの……!
「私はあなたの母親では、ありません」
「え?」
「私はアイリスフィール……アイリスフィール・フォン・アインツベルン」
「???……あの、ママ……だよね……名前も声も、顔も同じなんですけど……」
「そうね、きっとそうなのでしょうね。でも、違うの。
わからない?私は、このカルデアに召喚されたサーヴァント。
聖杯の力で、聖杯の端末として、繋がらない世界から呼び出された仮初めの器。
あなたの知らない世界の理。あなたの知る必要のない、失われた奇跡の魔法。
天の衣を纏いし者、それが今の私なの」
「わ、わからないんですけど……」
「だからね、姿や形が同じだとしても、まったく別の存在ということ。
あなたのママは、あなたの世界のママ。
私は、この世界では消えてしまったアイリスフィール、ということよ」
「消えた……?」
「私は英霊ではないのだけれど。
……そうね、もうアイリスフィールとしての私は死んでしまっているの。
本当なら、どこにもいないはずの存在なのよ」
「どこにも……ここにいるのに?」
「そう、だからこれは一時の夢のようなもの。
……あなたが見ている私は、あなたの母親の形をしているだけの、ただの残滓よ」
「ざ、ざんし……?(って何かなルビー)」
「(残り物、みたいな意味ですよイリヤさん……)」
「じゃ、じゃあ……えっと、ママ……じゃなくて……?
アイリ、さん……は―――わたしのことを、知らないの?」
「それは……」
―――そんなわけ、あるはずがない。
どんな姿になったって、片時も忘れることはない。
あなたと過ごした僅かな日々を、全てが輝いていたあの景色を、
私が人として生きた証を、その想い出をくれた感謝を、イリヤと、イリヤと。
「えっと……わたし、イリヤって言います。
小学五年生で、メイドのセラとリズ、それとお兄ちゃんと暮らしてます。
後、最近うるさい妹も出来て……パパとママは仕事でよく出かけててあんまり家にいません。
それからそれから……」
「イリヤさん、イリヤさん」
「一応……魔法少女、的な?そんな感じの……はい、あれです……」
「イリヤさん、もっと胸を張って言って下さいよ!
もっとあざとく!もっと可愛く!もっとアピールして!!」
「なんで!?……うぅ、恥ずかしいよ……ママの前でとか……違う人でも」
「いや、いいですよー。その恥らう姿が丁度良いんですよー。
こんな特殊な事象で動いてる世界ですからね。ここだけで出来ることもしていかないと!」
「ルビーはちょっとくらい自重して!みんな真面目に戦ってるんだよ!?
わたしたちだって、少しくらい気を引き締めてないと、マスターさんに怒られちゃうよ」
そう、私達はこの世界のために戦っている。
戦うために呼ばれた力、マスターと契約したサーヴァント。
この子が呼ばれたということは、戦う運命からは逃れられないことを意味している。
「イリヤ……」
「あっ!ごめんなさい、それでですねー……えっと、うんと……あのそのわたしは……」
「……イリヤ……戦うことは、怖くない?痛い思いは、していない?」
「え?……あの……」
「あなたが望むのなら……私は……」
「だ、大丈夫です!……本当は少しだけ、怖いなーとか思ったこともあるけれど!
マスターさんは優しいし、マシュさんとも仲良くなれたし、ここにはクロもいるから。
わたし、怖くないよ。痛いことからは、ルビーが守ってくれるしね!」
「ええ、ええ!そうですとも、我が可愛いくぁいいマスターに傷を付ける輩など!
例え超常のサーヴァントと言えど、このルビーちゃんが許しませんよー!!」
「ちょっとうるさいのが玉にきずだけど、
どんな攻撃も変身しちゃえばへっちゃらなんだから!」
「イリヤさん、ここに来てから冷たくありません?
そんな扱いばかりしてると、うっかり魔力を滑らせてしまうかもしれませんよ?」
「魔力を滑らすって何!?滑るものなの、魔力って……」
「こんな状況ですしね。少しくらいピンチになって、泣き顔を拝むのも良いかと!
なぁに、今のイリヤさんは腐ってもサーヴァント!
大抵のことなら乗り切れますし、試してみるのも一興かと……」
「やめて、絶対やめて!
うぅ、美遊とサファイアが居ればルビーの暴走も止められるのにぃ……」
イリヤが、ピンチに……?
「ルビーさん……と言ったかしら」
「はい?」
「絶対に、やめなさい。聖杯に誓って、イリヤを守り抜きなさい。
さもないと……」
「じょ、じょじょ冗談ですよ、あはははは!
こちらの世界のお母様は冗談が通じないでいらっしゃるようで。
あ、なんかこわいですごめんなさいすみませんでした……」
私は、イリヤが戦う所を見たくはない。
イリヤが傷つく姿も、怖がる思いも、涙を流すようなことは許せない。
これは、イリヤの傍に居られなかった私の後悔なのかもしれない。
人として、ホムンクルスとして、あの人の為に生き抜いた私の……最後の心残り。
もしもまた、あの子に会えることが出来たのなら、今度はめいっぱい抱きしめよう。
一緒に居られなかった時間の数だけ、想い出を残していこう。
あの人と私と……イリヤ、私の大切な娘。
……愛していたのに、最後の時まで一緒に居られなかった……私の後悔。
母親として、普通の家族として、あなたと向き合いたかった。
それが出来たらどんなに幸せだったろうと……夢に見ていたの。
「―――それで、そんな感じ……です!これから、よろしくお願いします!
まだ、なんだかよくわかんないけど、仲良くしてくれると嬉しいです!」
私は、無意識に彼女の頬に手を伸ばす。
彼女のやわらかい肌と、指先に感じる温かな感触に想いを馳せる。
どうか、彼女の笑顔が絶えないようにと。
それが、鏡に映った虚像のイリヤだとしても、曇りのない純粋な心は変わらないのだから。
万華鏡みたいな運命が導く戦いの中で―――
―――星の輝きが、あなたを照らしていますように。