実はこのカズマという男、転生した直後に転生特典が無いことは分かっていたが、そこまで悩んではいなかった。
アニメや小説で転生した主人公は嫌という程見てきたし、その中には特典も異能も持っていない主人公も沢山いた。それに最悪同郷の冒険者に助けてもらえば良いや、と軽め流していた。
「よし、とりあえずは冒険者ギルドに行ったら最下級冒険者の証的な……まぁ銅のプレートか何か貰えるだろ」
他の世界線では、魔王軍幹部の目の前で平然と漫才かましたりする男。見るものが見れば絶望的な状況でも、割と堂々としている。
その後は登録料の不足などのトラブルがあったものの、持ち前のコミュ力でその辺の優しそうなお爺さんにお金を借りて無事に冒険者登録を済ませたカズマ。
そして、事件は起こる。
「な、なんですかこのステータス!」
ステータスの把握も出来るらしい冒険者カードを見た受付嬢が、驚きの声を上げた。
なんでも、あらゆるステータスがべらぼうに高いらしい。知力はそこそこ、運はそれなりらしいのだが。
「コレならどんな上級職でもなれますよ!大人気のアークウィザードやソードマスターだってすぐにでも!」
ステータスだけで見れば史上類を見ない程の逸材だの、人類の即戦力だの、早くもこの街のエースだのと囃し立てられ、速攻で調子に乗るカズマ。
「フッ。では、アークウィザードで頼むよチミ」
異世界に来たからには魔法を使って見たい、と適当な理由でアークウィザードを選択することに。
「はい!アークウィザードですね………?あれ?えっと……」
「おいおい(笑)、焦らすなって。そんな事しなくても、当分はこの街で暮らすことになるんだからな。逃げやしないさ」
「いや、その……職業選択ができないんですけど……それと、コレ。なんですか?」
「なになに……『女神アクアの加護(特大)』?」
「クソが!」
それが先週の話。加護のせいでアークプリーストになったのも先週の話。ついでに女神アクアを信仰するアクシズ教が、教徒全員がトチ狂ってるアクシツ宗教である事を知ったのも先週の話である。
そんなこんなで現在、高いステータスと貴重な僧侶系上級職にも関わらず昼間っから悪態をついている。
「ちくしょう……せめて攻撃魔法があれば……スキルポイントがないのが痛すぎる……」
ぐちぐちと文句を言うカズマの周りには、負のオーラが漂ってるような気がする。
一応ステータスが高いので攻撃もできる。無料で貸し出されているボロい木のハンマーで殴れば大抵のモンスターは倒せる。
例えば『セイクリッド・クリエイトウォーター』を使えばモンスターの目くらましに使えるほか、ゾンビなどのアンデッドモンスター相手ならほぼ即死の浄化効果を持つ。
さらに、スキル『不運』はくじ運が下がったり確率で成功するスキルの成功率が下がったりするが、モンスターのヘイトを集めることができるようなので
この様に、なんやかんやで金を稼ぐ手段はある。加護の効果なのか、謎の暗視能力があるので、本来であればダンジョン攻略には引っ張りだこの筈だ。
だが、『アクシズ教徒』と言う称号は余りにも大きかった。
あからさまに距離がある冒険者たち。思い描いていた様な活躍、僧侶職に求められるであろう立ち回りが全くできない自分。
金は稼げても、それまでだ。募集の張り紙を貼ろうとも考えたが、自分の様な幼児に近づいただけで守衛さんを呼ばれる男と固定パーティなんか組んだ暁には、メンバーはどんな目を向けられるか。
アクアの様に明るく、人当たりも良ければまだなんとかなっただろう。アクシズ教徒であると言うことで陰口を叩かれて避けられようと全くもって気にしないメンタルがあれば、一月もすれば仲間は見つかっただろう。
ついでに美少女であれば1週間とかかるまい。
だが、カズマはそこまで図太く生きられなかったし、一度繋がりを拒否されると臆病になる、唯の少年でしかなかった。
幸い、ダンジョンに潜っていれば少量ではあるが金は稼げるし、仲間など居なくても生きてはいける。
そんな事を考えていたカズマは、どんどん心が荒んでいった。
そして、一月ほどが経ったある日。
カズマは、コツコツ貯めた金で小旅行に行こうと考えていた。
上質な温泉が湧き出る観光地。
美しい水の都。
そして、魔王軍が恐れて近付かないとさえ言われる魔境。
「えー、こちらアルカンレティア行きー、こちらアルカンレティア行きでございまーす。お乗りの方はこちらまでー」
「……行くか」
自分がこんな扱いを受ける羽目になった元凶たちの総本山、アルカンレティアへ。
運動が出来るらしい、と噂で聞いた程度の友達ではないクラスメイトの親が危ない新興宗教の名誉会員らしい。先生も殆ど断言していた。
そんな状況でそいつと仲良くなれそうな者のみアクセル住民に石を投げなさい。