ダンジョンに胸に七つの傷を持つ男がいるのは間違っているだろうか 作:ホールデンマン
石畳に響くのは、ケンシロウの足音だ。
メインストリートから離れた路地裏には、さほどのひとけも感じられなかった。
軒を連ねる古い民家を横切り、北のメインストリートへと向かう。
大通りは商店街が立ち並ぶだけあって、活気づいていた。
人々の雑踏を掻き分け、商家の店先や露店に置かれた商品を眺めるケンシロウ。
立ち込める人々の汗の臭気が、ケンシロウの鼻腔に触れた。
「ポーションだよっ、今日はポーションが安いよっ」
行き交う通行人に呼びかける店の売り子達の威勢良い掛け声。
ケンシロウは売り子の一人に声をかけた。
「一本貰おうか」
「はい、まいどありっ」
買い求めたポーションを懐に収めると、ケンシロウが街の中央にあるバベルへと足を運んでいく。
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次々にライガーファングを仕留めていく。
ドロップアイテムである毛皮をその場で縫い付け、袋状にすると、ケンシロウは魔石や牙をその中へと放り込んでいった。
ライガーファングは、十七階層に出る虎タイプのモンスターであり、ただの上級冒険者では強敵ともいえる存在だが、
ケンシロウにはゴブリンも同然の相手だった。
「次はゴライアスだ」
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「アタタタタタッ」
ケンシロウの激しい拳打が、ゴライアスに襲いかかった。
瞬時にして五体を打ち砕かれるゴライアス──ドロップした魔石を皮袋に押し込み、ケンシロウは上層へと戻った。
その途中で、ケンシロウは必死に逃げ惑うミノタウロスを発見した。
何かに追われている様子だ。その表情は怯えきっていた。
ケンシロウは、それならばいっその事、楽にしてやろうと言わんばかりに逃げるミノタウロスの秘孔を突いた。
「
途端に涎を垂らしながら恍惚とした表情を浮かべ、爆散するミノタウロス。
だが、タイミングの悪いことにミノタウロスの飛び散った鮮血と臓物が、駆けつけた剣士と思しき金髪金眼の少女の頭上に降り注いだ。
ミノタウロスの血で全身を真っ赤に染め上げる少女のその姿は、しかし、無残でありながらもどこか扇情的ですらあった。
「む、大丈夫か」
少女に声をかけるケンシロウ。
「……あ、いや、大丈夫です……」
「良ければ、これで体を拭くといい」
返り血だらけの少女にケンシロウが、ライガーファングの毛皮を差し出す。
「あ、ありがとうございます……」
少女が受け取った毛皮で、身体にベッタリと付着した血糊を拭っていく。
その時だった。
「テメエッ、ウチのアイズに何しやがるっ」
「あ、ベートっ」
憤怒の形相を浮かべ、ケンシロウに突然殴りかかる銀髪の男──ベート。
ケンシロウ目掛けて繰り出されるベートの拳、キレのある鋭いストレートパンチだ。
だが、ケンシロウはベートの拳を指先一つで止めていた。
「なっ、俺の拳を受け止めただとっ」
「お前は誰だ。この娘のツレか?」
表情を変えることなく、ケンシロウがベートに問いただす。
「あ、ああ、そうだ……」
拳を収めたベートが気まずそうにソッポを向く。
ケンシロウに自らの攻撃を軽く受け止められたことに動揺しているのだ。
向こう側から駆けつけてくるロキ・ファミリアのメンバー達、そのただならぬ気配にケンシロウを警戒している様子だ。
メンバーの一人が剣柄に手をかける。
そんなメンバーに対し、ケンシロウが忠告する。
「やめておけ。命が惜しければな。お前達では俺には勝てん」
「なっ、何だと、テメエっ」
「止めてください、ベートさんっ」
ケンシロウの言葉に色めき立つベート、慌てて止めに入るアイズ、無言でケンシロウを睨むメンバー達。
まさに一触即発の状況だ。
ロキ・ファミリアからすれば、喧嘩を売られているようなものだからだ。
「物凄い自信だね、君」
ひとりの少年がケンシロウの前に出た。
「なるほど。この中では、あんたが一番強そうだな」
少年を見下ろしながらケンシロウが呟く。
「そういう君も相当な実力者とお見受けしたよ。ああ、僕はフィン・ディムナ、これでもロキ・ファミリアの団長をやってる」
「そうか。俺はケンシロウ・クラネル、ヘスティア・ファミリアに所属する冒険者だ」
「ケンシロウにヘスティア・ファミリア……悪いけど聞いたことがないな」
「それは当たり前だ。俺がこの街に来たのは数日前だし、ファミリアのメンバーは今のところ、俺一人だからだ」
「何だ、駆け出し冒険者に駆け出しファミリアかよ、笑わせんじゃねえぜ」
軽口を叩くベートを睨み、フィンが窘めた。
「そんな事を言うもんじゃない、ベート。それに彼、ケンシロウの実力は間違いなく本物だ。それは突きを止められたベート自身もわかっているだろう」
「ちっ、確かにこいつは強いだろうよ。でもよ、流石にこのメンバー全員より強いってのは、余りにもウチのファミリアを舐めすぎだぜっ」
そのベートの言葉に他のメンバー達も賛同の声を上げた。
「なんなら証明して見せてもいい。何、殺しはせん」
指の関節をポキポキと鳴らし、ケンシロウが構えを取る。
「そこまで言われたら僕達もちょっと引き下がれないな。でも一人を多数で囲むのも趣味じゃない。だからここは一対一でやらないか」
「俺はどっちでも構わん」
「それだったら最初は俺がやるぜ。何、殺しはしねえから心配すんな」
ケンシロウの前に進み出るベート、その双眸には怒りがにじみ出ている。
「おりゃあっ」
体を半身にし、ベートが跳躍する。
そこから繰り出されるのは激しい蹴り技だ。
ベートのフロスヴィルトは、一見すればミスリル製のブーツだが、これこそがこの男の武器なのである。
だが、激しい蹴りの嵐を難なくかわし、ケンシロウはベートへと詰め寄った。
そして首筋に手刀を叩き込み、そのままベートを昏倒させる。
その光景に全員が目を見張った。
「次は誰だ」
「あの、次は私が」
次にケンシロウの前に進み出たのは、アイズだった。
力を求めるこの少女は、ケンシロウの強さに興味を持ったのである。
「では始めるか」
「はいっ」
アイズがデスペレートの剣先をケンシロウの左目につける。
青眼の構えだ。
「たあっ」
裂帛の気合とともにアイズがデスペレートの突きを雨あられのごとく降らせる。
アイズの猛攻に晒されるケンシロウ、だが──。
「
二つの指先でデスペレートの切っ先を掴むと、ケンシロウがベートと同様にアイズの首筋に手刀を叩き混んで昏倒させてしまう。
「次は誰だ」
北斗神拳伝承者の伝説が、今まさにオラリオで始まろうとしていた。
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「ジャガ丸くんはやっぱりおいしいねっ、ケンシロウっ」
「ああ、そうだな」
ケンシロウが土産に買ってきたジャガ丸くんを頬張るヘスティア、揚げたてだからまだ温かい。
二人分のコーヒーを沸かし、夜空を見ながら女神と一緒に食事をする。
ケンシロウが飲むオラリオのコーヒーは苦い。
夜空では、北斗七星がそんな二人を見下ろしていた。