ダンジョンに胸に七つの傷を持つ男がいるのは間違っているだろうか   作:ホールデンマン

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神か悪魔か!?オラリオに現れた最強の男3

東と南東のメインストリートに挟まれた『ダイダロス通り』は典型的な貧民街だ。

入り込んだその地形は水はけが悪く、空気が澱んでいて少々黴臭い。

 

 

雨が降れば『ダイダロス通り』には至る所に泥濘が出来る。

 

 

通りには古い安普請の粗末な家が軒を連ね、それでも貧しい人びとは力を合わせながら、身を寄せ合ってこの区域で生きている。

 

 

 

ダンジョンに潜らないときは、ケンシロウは金を取らずにこうして、貧しい人達の治療に当たっていた。

ケンシロウの使う北斗神拳は、他者の命を奪うと同時に傷や病を癒す活殺自在の拳でもあるのだ。

 

 

「よし、これでもう大丈夫だ」

 

そう言うと、ケンシロウが所々綻んだ粗織のマントを羽織った男の肩を叩く。

 

「ほ、本当だ……もう痛みもねえし、腕もちゃんと動くっ」

 

確認するように男は、何度も自分の右腕を振り回しながら嬉しそうに叫んだ。

 

「とりあえずは治ったが、急激な無理は禁物だぞ」

 

 

 

「は、はいっ、本当にありがとうござんすっ」

「うむ、では次の治療希望者は誰だ?」

 

 

「あの、この子の治療をお願いします……」

ケンシロウの前に進み出る幼子を抱えた女の姿。

 

 

 

母親に抱えられた子供は苦しそうに唸っていた。

 

 

「どうやら、熱があるようだな。まかせておけ」

 

赤ん坊の額に手を当て、ケンシロウが言う。

 

 

昼頃になると治療を一旦切り上げて休憩を挟む。

空では太陽が、黄金の陽射しを分け隔てなく人々に降り注いでいた。

 

 

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「みんなっ、お茶とお菓子を用意したから休憩しようよっ」

ヘスティアが、教会の壊れた壁や屋根を修理している男たちに声をかけた。

 

この男達は、特に雇われて教会の修復をしているのではない。

 

 

ケンシロウから受けた治療のせめてもの恩返しとして、こうやって集まって、教会を直す為の手伝いをしているのだ。

 

 

見違えるように生まれ変わった教会を見上げるケンシロウとヘスティア。

「この教会も以前と比べて、随分と立派になったな」

 

「うん、そうだね、これもみんなのおかげだよ」

 

「へへ、おらっちはこれでも元は腕の良い左官だったんだぜ、ケンシロウの旦那っ、屋根から滑って腰打ってからまともに働けなかったがよっ」

 

「それなら俺も元は大工だったんだが、右腕を痛めちまって商売上がったりだったぜっ、でもケンの旦那のおかげで、こうやってまた働けるよっ」

 

朗らかな笑顔を浮かべ、額から吹き出す汗を拭いながら男達が、口々にケンシロウに礼を述べていく。

 

「いや、礼を言うのはこの俺達の方だ。みんな、ありがとう」

「僕からもお礼を言うよ、本当にありがとうねっ」

 

 

それからケンシロウとヘスティアは、男達に混ざって茶を飲みながら、しばしの雑談を楽しんだ。

 

 

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蒸留酒の瓶を呷っていたベートは、ムカムカする気分とともに地面に唾を吐いた。

この怒りの原因はよくわかっている。

 

 

あのケンシロウとか言う男のせいだ。

ベートは負けた。

 

それどころか、あの場にいたメンバーの全員が、ケンシロウの手玉に取られた。

完敗だ。

 

 

 

 

おまけに相手は無名の駆け出し冒険者と来ている。

その癖、あの化物じみた強さは、まだまだ底が知れなかった。

 

 

 

酒臭い息を吐き散らしながら、ベートは新しい酒瓶を購うべく、近くに酒屋はないかと頭を振った。

 

 

 

すると、ベートの視界にある男の姿が飛び込んできた。

 

男──それは、行商人から野菜と果物を買い求めるケンシロウだった。

 

「では、これとこれをくれないか」

 

「はいっ、ありがとうございますっ」

 

行商人から笊一杯に盛られた野菜と果物を受け取り、代金を払うケンシロウ。

そこへ酔っ払ったベートが割り込む。

 

「テメエっ、こんな所にいやがったのかっ」

 

 

 

「……お前は確かベートといったな。俺に何か用か?」

 

「……ふんっ、あの時は油断してたから負けたんだっ、本気だったらお前なんかにあそこまであしらわれなかったぜっ」

 

「お前、酔っているな。酒に飲まれるのは拳士の名折れだ」

 

鼻息を荒げるベートを見ながら、ケンシロウが諭すような口調で言う。

 

「うるせいやっ、もう一度俺と勝負しやがれっ」

 

 

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「何度やっても同じことだ」

地面に仰向けに横たわったベートに告げるケンシロウ。

 

「はは……笑っちまうぜ、何度やってもかすり傷一つ負わせられねえなんてよ……」

 

「お前の技は怒りによって鈍っていた。怒りに飲み込まれてはいかん」

 

「……なあ、あんた、一体何者なんだ?」

 

「俺はケンシロウ・クラネル、北斗神拳の伝承者だ」

 

「北斗神拳?」

 

「うむ、北斗神拳とは二千年の歴史を誇る究極の暗殺拳だ」

 

「……何だかよくわからねえが、凄そうだって事だけはわかったぜ」

 

「それよりもお前の足技、磨けば今よりも格段に強くなるぞ。ベートよ、俺はお前と戦っていて、我が友だったシュウを思い出した」

 

 

「シュウ、そいつは誰なんだ?」

 

「シュウは『南斗白鷺拳(ナントハクロケン)の伝承者にして、仁星の宿命を背負った男だった」

 

「ふーん、生きてるのかい?」

 

「シュウは、俺の心の中で生きている」

 

「そうか……悪いことを聞いちまったな……」

 

「いや、構わん。それよりも立てるか?」

 

そう言うと、ケンシロウが肩を貸してベートを立たせてやる。

「すまん……」

 

「……強くなりたいか、ベート」

「……当たり前のことを聞くな」

 

「何故強くなりたい」

 

「……俺のかつての部族は『平原の主』によって皆殺しにされた。親父も親友もな……だから俺は強くなってやるって決めたんだ。大切な仲間をもう二度と奪われねえ為にもよ……ッ」

「なるほど……ならば、ベートよ。我が友、シュウの遺した南斗白鷺拳の奥義、受け継ぐ気はないかッ」

 

ベートの横顔をケンシロウの視線が真っ直ぐに射抜いた。

 

 

ケンシロウの視線に射抜かれ、ベートはケンシロウを見つめ返すと無言で頷いた。

 

こうして今ここに、熱き男達の新たなる友情が結ばれたのである。

 

 

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今日はダンジョンに潜っての魔石回収だ。

ケンシロウはいつものように淡々とモンスターを狩っていった。

 

突撃してくるブラックライノスの頭を一瞬で叩き割ると、その角をもぎ取る。

 

それからさらに進んでいくと、次はタイタン・アルムに出くわした。

 

タイタン・アルムの花弁を蹴り上げ、ケンシロウが一撃で破壊する。

 

 

皮袋が魔石とドロップアイテムで一杯になると、ケンシロウはいつものようにダンジョンから引き上げていった。

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