ダンジョンに胸に七つの傷を持つ男がいるのは間違っているだろうか 作:ホールデンマン
「アチョオオオォっ」
ケンシロウの発した怪鳥の如き雄叫びが、路地裏に木霊し、男達の鼓膜を震わせた。
「アタタタタタッ!!」
ケンシロウの放つ裏拳が、次々に男達の横面に降り注ぐ。
そして少女はヒビ割れた壁に背を張り付かせ、黙ってその光景を見つめ続けた。
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「ジード、戻ってきた仲間の様子がおかしいんだっ」
ファミリアのメンバーに呼ばれ、ドアからジードがその巨体を露にする。
「一体どうしたってんだ」
「ジード、こいつら、様子が変なんだよっ、目の焦点が合ってねえしっ」
戻ってきたメンバーの一人の肩を揺さぶり、ジードが問いかけた。
「おい、一体どうしたっていうんだ、何があったんだ?」
だが、いくら問いただしても相手は呻くだけだ。
そして「ほ、ほくと……」とうわ言を漏らすと、その刹那、帰着したメンバーの頭部が隆起し、
ボコボコと無数の瘤状になった瞬間、風船のように破裂した。
噴出する鮮血、吹き飛ぶ脳漿、その場に居合わせたソーマ・ファミリアのメンバー達は唖然とした表情を浮かべ、立ち尽くす。
「コイツは何なんだ……何が起こってるんだ……<ほくと>とは一体……」
ジードが<ソーマ─666>と己の側頭に刻まれたタトゥーを撫でながら言う。
「ジード、とにかくこうしちゃいられねえっ、ソーマ・ファミリアのメンバーを殺りやがった野郎を探さねえとっ」
「いいだろうっ、ソーマ・ファミリアを舐めたこと後悔させてやるぜっ、ビートルバイクを出せっ」
「あいよっ」
ソーマ・ファミリアのメンバー達が、次々にビートルバイクとビートルバギーに乗り込む。
ビートルはバベルの一五階に辺りに生息するモンスターだが、調教すればこのような乗り物にもなるのだ。
「ソーマ・ファミリアのメンバーを殺った野郎、必ず息の根を止めてやるぜッ、このジードを舐めた事を後悔させてやるゥッッ!」
「ヒャハハハっ!!」
「いいか、何でもいいから<ほくと>とは何かを探せッ!」
爆音を轟かせながら、ソーマ・ファミリアのメンバー達がオラリオの街へと繰り出していく。
今まさにこのオラリオで、悲しき血の雨が降ろうとしていた。
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「助けて頂いてありがとうございます……」
「別にかまわん。それよりも怪我はないか」
「大丈夫です、怪我はありません」
そう言うとリリが頭を下げる。
「おーいっ、無事だったか、リリッ」
叫び声を上げながら、ゴーグルをつけた少年がケンシロウ達に向かって走り寄ってきた。
「あ、バットさんっ、そっちこそ大丈夫でしたか!?」
「こっちは何とか巻いたぜっ、いやあ、連中、しつこいったらなかったぜっ」
「そっちの少年とは知り合いなのか?」
ケンシロウがリリに質問を投げる。
「はい、こっちはバットさんといって、リリと一緒にサポーターをやっていました」
「へへ、まあ、他にもモンスター狩りの手伝いなんかもしてるけどな。あ、俺はバット、俺の友達助けてくれてありがとなっ」
鼻先を指でこすりながら、バットと呼ばれた少年がケンシロウに礼を言った。
「俺はケンシロウ・クラネル、ヘスティア・ファミリアの冒険者だ」
「俺はバット、リリと一緒にソーマ・ファミリアに所属してんだ。もっとも、今は二人で別のファミリアを探してるんだけどな……」
リリとバットが悲しそうに視線を落とす。その表情は暗い。
「なるほど。それならウチのファミリアに来るか。小さなファミリアだが、雨風くらいは凌げるぞ」
「いや……それじゃあ、あんたに迷惑が掛かる。なんせ、ソーマ・ファミリアの連中は蛇のように執念深いからな……」
ケンシロウの申し出にバットが首を振って断る。
「別にかまわん。降りかかる火の粉は払えばいいだけだ。ウチのファミリアに所属するかどうかは後で決めればいい。
それに少なくとも今のお前たちには身を隠す場所が必要だろう。どうせ、乗りかかった船だ。俺について来い」
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バベルのダンジョンとは、言うなれば無秩序と自由と略奪、そして殺戮の象徴だ。
そしてこのジードという男は、ダンジョンに潜り込むために生まれてきたような男だった。
ジードはダンジョン内にいる存在は、モンスターだろうが他の冒険者だろうが、手当たり次第に襲いかかった。
この男を突き動かすのは、殺戮と破壊衝動だけだ。
それがジードという冒険者だ。
そして持って生まれたその巨躯と凶暴性を遺憾無く発揮し、この男はたちまちの内にソーマ・ファミリアの団長の地位に収まったのだ。
ソーマ・ファミリアのメンバーが、通行人を手当たり次第に路地裏に引きずり込んでは、<ほくと>とは何かを聞き出そうとする。
暴行を加え、脅しつけながら。
もっとも<ほくと>が何かを正確に答えられる者達はいなかった。
それでも断片的にだが、徐々に情報を集めることはできた。
曰く廃教会に住まうケンシロウという名の男が奇妙な技を使う。
曰くその技が北斗という名前らしい。
曰くダイダロス通りにいけば、見つかるかもしれない。
通行人達から情報を集め終えると、ジードはファミリアのメンバーに呼びかけた。
「まずはケンシロウって奴を探しだせェッ、見つけ次第血祭りだァっ!」
「うおおおおォォっ」
手にした斧や鉄球を振り上げ、ソーマ・ファミリアはダイダロス通りへと向かった。
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「奴は一体どこにいるんだ?」
ソーマ・ファミリアの連中が、暗闇に閉ざされた路地を進んでいく。
「なあ、お前らはどう思……え?」
先頭に立っていたメンバーが、他のメンバー達に訪ねようと後ろを振り返った。
そして、言葉を失った。
連れてきた十人余りのメンバー全員が、地面に伏していたからだ。
「な、なんだ……何が起こってるんだ!?」
怯みながらもひとりだけ残された男は、周囲を警戒しつつ、闇に向かって叫んだ。
「おーいっ、誰かっ、誰かいねえかっ」
「いるぞ、ここにひとりな」
不意に後ろから声を掛けられ、男が振り返る。
だが、誰もいない。
「おい、ここだ」
男が前を向くと、人影が見えた。
「お前達はソーマ・ファミリアだろう。仲間の仇でも取りに来たか」
「ば、化物……」
後ずさる男に人影が静かにに近づいていく。
「面倒だ。貴様らのファミリアを全員ここに呼んで来い。貴様にはメッセンジャーになってもらうぞ」
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ケンシロウを取り囲むソーマ・ファミリアのメンバー達。
「舐めやがってっ、たった一人でこの人数を相手に出来るかよっ」
「ぶっ殺してやるっ」
次々に喚き立てるソーマ・ファミリアの冒険者達。
その両眼は血に飢えた獣の如く真紅に染まっていた。
「へへへっ、死にやがれっ」
数人のモヒカンがケンシロウに飛びかかると、同時に凶器を振り下ろした。
だが、凶器が相手に届く前にモヒカン達はケンシロウの拳を喰らい、吹き飛んだ。
「あヴぇっ」
「ほう、中々やるようだな」
遠巻きにするジードがケンシロウの前に進み出る。
「だが、このジードのソーマ酔拳の敵じゃねえっ」
瓢箪に詰めたソーマ酒を飲み干すジード、その巨体が更に膨張した。
「どりゃああァァッッ!」
その巨体からは想像もつかぬような俊敏さを発揮し、ジードがケンシロウ目掛けて槍を振り回す。
「……まるであくびが出るな」
ジードが繰り出す槍の追撃をことごとく躱すと、ケンシロウは拳の乱打を叩き込んだ。
「
その衝撃に地響きを立てながら倒れるジード、だが、直ぐに起き上がった。
「はっ、テメエの拳なんざ、蚊ほどにも効かねえぜっ」
「お前はもう死んでいる……」
ジードに背を向け、その場を立ち去るケンシロウ。
「はあ、何を言って、あ、あべしッッ!」
途端にジードの肉体が爆発した。