ダンジョンに胸に七つの傷を持つ男がいるのは間違っているだろうか   作:ホールデンマン

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必殺残悔拳!! 不毛のファミリアに明日をみた!!3

「そ、その魔石だけは勘弁してくれえっ」

 

血まみれになった老冒険者の叫びが、ダンジョン内部にこだました。

 

 

「ん、勘弁できねえなあ」

 

「頼む、後生じゃ……ッ、その魔石がないとわしの友人の病が治らんのじゃ……ッ」

 

 

「なるほどなあ……だったら、その魔石が益々欲しくなってきたぜェッ、ヒャヒャヒャッ」

 

甲高い笑い声を発しながら、スペードは老冒険者の身体に槍を突き立てた。

 

 

「へ、モンスターを狩って魔石を取るなんざ、馬鹿らしくてやってらんねえぜ。それよりもこうやって奪ったほうが格段に楽だわな。なんと俺の頭の良いことよ」

 

「ひひ、全くだぜ」

 

 

トゲの突き出た肩パットを装備した金髪モヒカンの男が、スペードの言葉に同意する。

 

 

「それにしてもジードの奴が殺られちまうなんてな、クソっ、ほとぼりが冷めるまで十八階暮らしだぜ……」

 

「だけどよ、そうなりゃ、次のソーマ・ファミリアの団長はあんただぜ、スペード。正直、団長はジードよりアンタのほうが相応しいぜ」

 

「ひひ、まあな。わかってるじゃねえか。ジードの奴は力は強いがオツムが弱かったからな。その点、俺様は頭も切れる、ひひっ」

 

 

その時、紫色のモヒカンをした男がスペードに向かって叫んだ。

 

「新しい獲物が来たぜっ、新鮮な冒険者だっ」

 

スペードが舌なめずりをしながら新しい獲物に近づいていく。

 

「それじゃあ、もう一丁狩るか、ひひひっ」

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

十八階層にある<サザンクロスタウン>は無法者の街として知られている。

 

そして、この街では力こそが全てであり、弱い者はモンスターだろうが、冒険者だろうが、たちまち命を落としてしまう。

 

「ヒャッハーっ、金と魔石とアイテムだっ!!」

 

 

ビートルバイクを唸らせながら、モヒカンどもが獲物を追い立てていく。

 

 

ビートルバギーに乗って逃げ惑う冒険者に向かってモヒカンどもが、次々に矢を放った。

 

冒険者の背中に突き刺さっていく矢、操縦者を失ったバギーが半回転すると岩にぶち当たった。

 

 

「ヒャハハッ、今日も稼げたなッ」

 

強奪した魔石を弄びながら、哄笑するモヒカンども。

 

辺り一帯は犠牲者達の血の海に染まっていた。

 

その時だ。

 

土煙の向こう側から、胸に七つの傷を持つ死神が現れたのは。

 

 

 

「……キサマら外道どもに明日を生きる資格はねえっ」

死神はモヒカンどもに突進した。

 

「アタタタタタッッ」

 

その日からサザンクロスタウンは、モヒカンどもの降らせる血の雨に染まり続けた。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

「また、死神が出たんだってよ……」

 

「俺たちばかり狙いやがって……」

 

ここはサザンクロスタウンの一角にある酒場だ。

 

酒場に広がるざわめきの声。

 

 

 

消毒用アルコールの味がする蒸留酒を飲みながら、不満を口にするモヒカンども。

 

「これじゃあ、まともに稼げねえぜ……ちまちまモンスターなんぞ狩ってられっかよ……」

 

「その死神なんだがよ、なんでも賞金がついたらしいぜ。死神を倒せば、この街の幹部の席と五百万ヴァリスの賞金が手に入るって話だ」

 

「へえ、そいつはすげえな。でもよ、命あっての物種だぜ」

 

 

「まあな。俺達が束になっても勝てるかどうかわからねえしよ」

 

テーブル席を陣取っていたスペード一味が、そんなモヒカン達に対し冷笑を浴びせる。

 

「へ、どいつもこいつも臆病なチキン野郎ばっかりだぜ。なあ、スペード」

 

酒杯の中身を傾けながら、ソーマ・ファミリアのモヒカンが言う。

 

 

「あんな奴らは放っておけ。それよりも死神狩りといこうや。五百万ヴァリスと幹部の席はこの俺様が頂くぜェっ、ヒャヒャヒャッ」

 

 

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それからスペードは死神をおびき寄せるべく、罪もない冒険者達を人質に取って回った。

 

そして挑発するように触れ回り、自分の陣地へと死神を招き入れたのだった。

 

 

荒野の中心で互いに相対するスペード一味と死神──ケンシロウ。

 

「そうか、テメエがジードを殺った野郎だな……丁度いい、ジードの仇、取らせてもらうぜ」

 

 

「おい、貴様、何の関係もない冒険者を解放しろ。そうすれば、命だけは助けてやらんでもない」

 

 

 

「テメエは馬鹿かっ、人質を解放しろと言われて解放する間抜けがどこにいるってんだよオっ」

 

ケンシロウに罵倒を浴びせるスペード、その両眼はソーマの酒毒で黄色く濁っていた。

 

 

 

盾の如く並ばせた人質達──その中にいた冒険者の首を見せしめとばかりにカットラスで跳ね、血刀をぶら下げたモヒカンの一人がケンシロウに近づいていく。

 

「おい、どうした。人質のせいで手も足も出せねえだろう」

 

挑発するかのように血糊のついたカットラスで、モヒカンがケンシロウの頬をペタペタと叩いた。

 

そして自分の顔を近づけ、ケンシロウの顔面につばを吐く。

 

 

「……汚ねえツラを近づけるな」

 

モヒカンの顔面にめり込むケンシロウの拳。

 

その衝撃にモヒカンの眼窩から二つの眼球が飛び出した。

 

顔面を陥没させ、モヒカンが後方へと吹き飛んでいく。

 

 

「くそっ、テメエら、ヤッちまえっ」

 

スペードの言葉を合図にケンシロウ目掛けて無数の弓矢が降り注いだ。

 

「汚物は消毒だあっ」

 

モヒカンの放ったファイアの呪文が、間髪入れずに襲いかかる。

 

上からは矢、正面からは炎の魔法がケンシロウへと飛来していく。

 

 

「いくら死神でもこいつを喰らえば、タダでは済むまい、ヒヒヒっ」

 

だが、ケンシロウへ向かって放たれた矢は、次々に跳ね返されてモヒカン達へと突き刺さっていった。

 

 

 

魔法も同じであり、ファイアの呪文で攻撃してきたモヒカンも自らの炎で丸焼けになった。

 

これぞ北斗神拳二指真空把(ホクトシンケンニシシンクウハ)である。

 

 

 

 

「……もう終わりか?」

 

「なっ、なんだとっ!」

 

思わず目を見張るスペード、矢や魔法による攻撃が全く効かないとは。

 

途端にスペードの額から脂汗が滲みでた。

 

「ひ、ひいっ」

 

その場から逃げ出そうとするスペードに向かって、ケンシロウが声をかける。

 

「どこへ行くんだ」

 

「ち、近づくんじゃねえっ、この化物がっ」

 

「化物?違う、俺は死神だ」

 

 

「そ、それよりもあいつを見やがれっ」

 

スペードが震える指で人質達を指す。

 

そこにはダイナマイトを拘束された腕に差し込まれ、導火線に火をつけられていく人質達の姿があった。

 

 

「あの連中の命を救いたいなら俺達に構ってる暇はねえぜっ、さっさと導火線を消しに行ったらどうだっ」

 

「……この外道が」

 

導火線についた火を消しに行くケンシロウ、その隙を突いてスペード一味は逃げ出していった。

 

 

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「ここまで逃げれば奴も追ってはこれまいっ」

 

ビートルバギーから飛び降り、岩に腰を下ろしたスペードが、革袋に詰まった蒸留酒を口に含む。

 

途端に安堵感が広がっていった。

 

 

「ふう……それにしてもあいつ、正真正銘の化物じゃねえか……っ」

 

「もう奴と関わるのはよそうぜ。スペード、命がいくつあっても足りねえや」

 

「ああ、あいつは正真正銘の死神だぜ」

 

自分に言い聞かせるようにスペードが何度も頷いてみせる。

 

 

その時、突然周りに居たファミリア達の頭部が炸裂した。

 

「な、何なんだっ」

 

「死神からは逃れられんぞ、スペードよ」

 

 

そこには、陽炎に揺らめくケンシロウの姿が見えた。

 

「ひ……ひゃあああああっ」

 

悲鳴を発するスペードのこめかみに親指を突き立てるケンシロウ。

 

北斗残悔拳(ホクトザンカイケン)。この親指を抜いて三秒後に貴様は死ぬ」

 

「い、嫌だあっ」

 

「ダメだ」

 

ケンシロウが、こめかみからゆっくりと親指を引き抜く。

 

途端にスペードが走り出しながら叫んだ。

 

「い、嫌だっ、俺はまだ死にたくないっ……あばらっ」

 

内部から破裂したスペードの頭部──ケンシロウは無言のまま、スペードの亡骸に背を向けて立ち去っていった。

 

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