「ただいま~」
そこは、4月某日のあるアパートの一室。一人の少女が学校からの帰路に着いていた。少女の名は
「はぁ、学校のみんなとは結局今日もうまく喋れなかったし、どうしよう。本当にうまくやっていけるのかなぁ?」
ただし、まだ都会の環境に慣れていないのか、高校に進学してから1週間が経過していたにも関わらず、新しい友人を作ることには至っていなかったのである。
「……もう、マイナスに考えちゃダメダメ。とりあえずお風呂にしよっと」
皐月は暗い方向へと向かっていた気持ちを切り替えようと、浴槽にお湯を入れて、制服のスカーフを外そうと首元に手をかける。
――――ピンポーン
しかし、インターホンが鳴り響いたことでその手は止まり、代わりに足を玄関の方に動かした。
「まったく、お風呂に入ろうとしてたのに。タイミングの良い人だな」
皮肉めいたことを口で言いつつも、皐月はドアを開け放つ。すると、そこに配達員の姿は――なかった。いったい何が起きたのか、わけがわからず、動きを止め同時に思考も停止させてしまうが、はたと何かに思い至った。
「あっ、東京だとドローンでの配達が普通なんだっけか。……アハハハ」
一人相撲だったことに虚しく笑いながらも、ポツンと地面に置いてあったダンボールを拾いあげて、部屋の中へとそそくさと戻っていった。
「え~とどれどれ、誰からだろう?」
まずはじめにいったい誰からの荷物か、宛先を確認しようとするが、何も書かれていない。
それならば、両親からの仕送りだろう。荷物の適度な重さからして、調味料かもしくは保存の効く乾物か何かだろうと予想を立てて、彼女は梱包をビリビリと破いていった。
ダンボールの中身を顕にすると、そこには彼女予想とは異なるものが入っていた。キレイめに梱包された箱が入っており、その箱には『BARBATOS』という文字と共に、漫画やアニメに出てくるような二次元の女の子がプリントされている。
「……?なんだろこれ。えっと、バル、バト、ス……って読むのかな?」
首を傾げて箱に書かれたアルファベットを読みながら、今度はその箱のフタを開けた。中には、箱にプリントされたものと同じ特徴を持った約15センチメートル程度の大きさの模型と、組み立て式プラモデルのパーツ――ランナーが複数枚入っていた。そして女の子の模型はよくよく見ると、両目ともに閉じており、それは眠っているようにも見えなくはない。
「スゴイ。よくできた模型だなぁ。それにこの子、なんだか可愛いし」
初めて見るその模型を持ち上げて、皐月はあちこちをまじまじ観察する。
「まさかこの荷物って、お兄ちゃんからかな。私の誕生日はまだ先だし、高校の入学祝いとかだったりして。けど、この子を部屋に飾るにしても……」
部屋には空いたスペースこそたくさんあるが、生活に最低限必要な家具家電以外の棚等のインテリアは無いのが今の実状だった。
――飾るのは今のところ諦めて、とりあえずのところ保管しておこう。
そう考えて、模型を元あった箱の中へと入れようとしたその時だった。突然、模型の瞼が開き、目に輝きが灯る。そして、なんと驚くべくことに口を開いた。
「バルバトス、起動」
「わぁっ!」
皐月は、模型が突然喋ったことに驚き思わず手放すしてしまうが、その模型は地面に到達するコンマ数秒の間に、空中で姿勢を制御してうまく着地させた。それから、突然落とされたことについて不満を抱いたのか、頰を膨らませて苦言を呈した。
「マスター、いきなり手を放すの、危ない。これからはしないこと。ダメ、これぜったい」
「えっ、……えぇっ!?あなたが喋ってる……んだよね?」
怒られたことよりも、模型が喋りだしたことについて、まだ理解が追い付けていない様子の皐月。そんな皐月のことは一切無視して、模型の彼女は再び喋りだす。
「私、バルバトス。フレームアームズ・ガールのバルバトス。これからよろしく、マスター」
「……バルバトス、ね。うん、とりあえず名前はわかったけど、まずフレームアームズ・ガールって、何なの?」
彼女?の名前が『バルバトス』であることは理解したが、肝心なフレームアームズ・ガールについての説明をまだ聞いていない皐月は、苦笑いをしながらバルバトスに訊ねる。
「私達、フレームアームズ・ガールは…………、
「なるほど。え~と、それはつまり人工知能みたいなものを持ってるロボットってことかな」
皐月は納得したようにポンと手を叩き、バルバトスに確認を求めるが、バルバトスは難しい顔をして首を傾げるのだった。
「……むぃ、人工知能と似てるけど少し違う。私にとって違い説明するの、とても難しい」
「そっか。それじゃしょうがないか。……あ、あと他にも色々訊きたいことあるんだけど、とりあえず一つだけ質問するね。……そのマスターって呼び方なんとかならないかな?なんだか堅苦しくて、なんだかむず痒いんだよね」
「……じゃあ、マスター以外、どう呼ぶ?」
フレームアームズ・ガールにとって、深く関わり合いを持つ人こそ主人であり、特に決まった呼び方がなければ、その主人のことをマスターと呼ぶようにプログラムされている。
「普通に名前で呼んでよ。私の名前は皐月っていうからさ」
とはいえ、あくまでそれは一つのプログラムであり、いわば初期設定のようなもの。ある程度の常識と知識を兼ね備えている彼女達にとって、主人の呼び方を変えることなど困難な話ではなかった。
「わかった、サツキ」
「うん、これでバッチリ」
特殊な呼び方を変えて、問題を一つ解決した皐月だったが、まだ他にも問題は山積みのままだ。
――要はこの子と一緒に生活しろってことなんだろうけど、具体的に私は他に何をすればいいんだろう?まぁ、小さな妹ができたと考えればいっか。
今後についての見通しはまだ不透明で、不安なこともまだ拭えていないものの、今は考えないことにした。悪く言ってしまえば彼女は、後回しにしたわけである。
そして呼び方の了解を得たバルバトスはというと、箱の中をゴソゴソと物色しており、大事だと思える話は終わった様子。皐月は、バルバトスの来訪によって中断していたことを改めて行動に移すことにした。
「じゃあ、私はお風呂入ってくるから、お話はそれからってことで」
「うぃ、わかった」
手を動かしながら返事をしたバルバトスのことに、好奇心旺盛な幼い子供の面影を重ねつつ、皐月は浴室の方へと足を運んでいくのだった。
――――――
「サツキ、装甲パーツ組み立てて欲しい」
お風呂上り、バルバトスに開口一番言われたのがそれだった。自分の身体よりも大きいランナーと取扱説明書を手にして迫ってきたのである。
さっきまで箱を漁っていた理由はそういうことだったのか、と先ほどの行動に納得する皐月だったが、あまり乗り気ではなかった。
「それって、今すぐじゃなきゃダメかな?」
「後回しはダメ。いますぐ作る」
「今すぐって言われてもなぁ。そもそもプラモデル作るのって、専用のニッパーが必要でしょ?その肝心なニッパーが無いんだよ」
乗り気ではない理由は、プラモデル作りにおける最も重要な工具、ニッパーがここに存在しないことにあった。ニッパーが無くとも、ランナーからパーツを切り離すこと自体は可能であるが、そのようなことは論外。仕上がりが汚くなることはもちろんのこと、パーツ同士を合わせる際に切残しがあれば、組み立てることすらできなくなる。
それを聞き、バルバトスは諦めがついたようで、手にしていたものをいそいそと元あった場所へ収納する。しかしながら、すぐに装甲ができなかったことが残念だったのか、寂しい声でしょんぼりとしていた。
「むぅ。それでは、仕方がない」
「……すぐに作れなくてゴメンね。今日はもうお店閉まってて無理だけど、明日ニッパー買ってくるから。それから作ろう?」
「わかった。じゃあ明日作る、約束!」
ただ、明日皐月が一緒に作ろうと提案したそれだけで、バルバトスの声は再び元気になった。
こうして、一人の少女と一機のフレームアームズ・ガールによる、少し変わった新たな日常が始まるのだった。
今のところは鉄血シリーズのガンダムだけを出していく予定です。