つい先日、バルバトスやグシオンと激しい戦闘を行ったバエルだったが、彼女もまたグシオンやフラウロスと同じように、皐月の部屋にしばらく滞在することにしていた。そして今、彼女は何をしているかというと……
「なぁ姐さん、もう少し手加減してくれよ!」
「それはできない相談だ。私がラボに居た時よりも、フラウロスは大分強くなっているみたいだからね。そんなことをすれば、こちらがやられてしまうよ」
「……こっちからすれば、姐さんは相も変わらず化物じみてるってのに」
フラウロスとバトルを行っていた。
「グシオン、バエルはなぜあんなに強いんだ?」
そしてバルバトスはバルバトスで、バエルの強さに疑問を抱き、グシオンに訊ねるが、彼女は肩を竦める仕草をしながら返答するだけだった。
「なぜと言われましても、私にもその謎はよくわかりません。……ですが、『初号機は強いと相場で決まっている』とか、バエル自身が以前そのようなことを言っていた気がします」
「む、そういうものなのか。しかし、ものしりのグシオンでもわからないとは、残念」
『Winner、バエル』
「チクショウ、また負けた!」
「これで対戦戦績は18勝2敗。うん、今回も良い勝負だったよ、フラウロス」
そして、外野の二人がそうこう話している内に決着は着いたようで、ピンクの機体と白色の機体がセッションベース上と戻ってきた。
――――ピンポーン
さらに、この部屋の状況を見ていたのかと言わんばかりの絶妙なタイミングで、最近では聞き慣れたインターホンがこの部屋に鳴り響く。
「また新しいFAガール、か?」
バルバトスがここへ来て、この展開は3度目のこと。「二度あることは三度ある」ということわざを知っているわけではないのだろうが、ここを訪ねる者はFAガールだろう、と。バルバトスの頭の中では、既にそのようにインプットされているのだろう。
「そう勝手に決めつけんなって。皐月にもダチはいるだろうし……ってまだ学校にいるわけだから、んなことはないか。まぁ、他の荷物かもしれねぇだろ」
「そうですよ、フラウロスの言うことももっともです。とりあえず、カメラを覗いてみましょうか」
すると、フラウロスは珍しく冷静に反論して、グシオンはその言葉に頷きながらインターホンの画面に目を移した。ところが、その画面に写っている人や物は無く、背後に広がっている青空と遠くに見える高層ビルが写り込んでいるだけ。
「あれ、おかしいですね?たしかにインターホンが鳴ったはずですけど……」
「それじゃあ、あれか。悪ガキのいたずらとか?」
そのようないたずらをする子供が今時いるのか?という疑問が湧いてくるが、そもそも夏休みでもないこの時期の午前中。子供が出歩くこと自体あり得ない話だ。
「ま、この家の主である皐月がいないわけだ。変に応対する必要もないのでは?」
「たしかに、それもそうか。帰ってきてからサツキに報告しよう」
「えぇ、そうするのが一番ですね。……それではバエル。今度は私とバトルをしましょう。別に構いませんよね?」
「フフ、いいだろう。私でよろしければ、相手になろうじゃないか」
バエルの言うことも尤もだったため、4機のFAガールは特に気にすることなく、それぞれのしたいように行動するのだった。
皐月がいつもとほぼ同じ時刻に学校から帰路についていると、玄関の前に見知らぬ小さい何かが置いてある。その小さい何かをゆっくり近づきながら覗き込むと、装備している装甲が左右非対称といった容姿の初めて見るFAガールだった。しかもそのFAガールは正座で完全に静止した状態でいたのだ。皐月はその様子に戸惑いながらも、微動だにしない彼女に声を掛ける。
「……え〜と、あなたはバルバトスのお客さんってことでいいのかな?」
声を掛けられたFAガールは振り向いて数秒間考えてから、ハッとした顔になり口を開いた。
「……なるほど。バルバトスの主どのは、いままで外出していたのですか。どおりで、インターホンを鳴らしても出ないわけです」
「あ~そっか、そういうことだったのね。うんわかった、とりあえず入ってきていいよ」
「これはこれは丁寧に。それでは、お言葉に甘えてお邪魔します」
今のやりとりだけでなんとなく状況を理解した皐月は、部屋の前にいた彼女を自分の左手に乗せて、中へ入っていった。
リビングに行くと、早速バルバトス達――FAガール4機の視線は皐月の左手に集中する。それぞれが多種多様な反応を示していると、視線を気にしてなのか、左右非対称のFAガールは、皐月の左手から飛び降りてフローリングの上にきれいに着地。それからバルバトス達の方を向いて喋り出した。
「すみません紹介がまだでしたね。私はアスタロト。本日はバルバトスとの一対一での試合を所望するために、訪ねた次第です」
アスタロトと名乗ったFAガールは彼女たちに綺麗なお辞儀をして、今度は皐月の方に体を向けた。
「どうでしょうか?バルバトスの主どの」
「ん~、バルバトスがやりたいなら、私は別にいいよ。私着替えてくるから、その間に準備しといて」
そう言い残して、皐月はリビングを出ていった。残されたバルバトスは、表情を特に変えないままアスタロトの方へ顔を向けて頷く。
「アスタロト。その勝負、受けて立つ」
「やる気十分で何よりです。でしたら、早速試合といきましょうか!」
「それで、どうするか……って準備するの早すぎでしょ!」
皐月が部屋着に着替えて、リビングに戻るとスタンバイが既に完了していた。
「いつでも始められるぞ、サツキ」
「……はいはい、そう焦らなくても大丈夫だって」
急かすバルバトスを宥めながら、皐月は慣れた手つきでスマホを操作していく。
「皐月さんが操作する手も早くなってきましたね」
「ん~そうかな?まぁ、こんな短期間に立て続けにやってればね、そりゃあ早くもなるって。……よし、準備できたよ、二人とも」
その言葉にセッションベース上の2機は頷き、それから前を見据える。
「バルバトス」
「アスタロト」
「「フレームアームズ・ガール、セッション!」」
「いくよ」
「いざ、参ります」
転送された空間は、前回バエルと戦った場所と同じくらいの広さしかない、闘技場を模したようなフィールド。2機のFAガールはほぼ同じタイミングで着地した。
「ねぇ、ところで3人はあの子のこと知ってるの?」
「えぇ、バエルはもちろん知っているでしょうし、私とフラウロスもあまり話したことはありませんが、何回か戦っていますからね、当然知っています」
「バルバトス以外みんな顔見知りなんだ。じゃあ、どんな子なの?」
「彼女はバエルやバルバトスと同じで、近接戦に特化したガンダム・フレームです。まぁ、どちらかといえば、スピードよりも力で押していく戦闘スタイルに近いので、二人とは多少異なっていますが。……しかし、前に会った時よりも装備が増えてますし、姿も若干変わっていますね。私達のデータをあてにしない方がよさそうです」
「ん~そっか、バルバトスに似たタイプか」
グシオンが説明したように、彼女の背中には形状の異なる巨大な剣が2本マウントされていて、それらが主兵装であることは容易に推測できた。その特徴的な大型武装の他にも、右腰に専用ライフル、左腰に2本のナイフを提げ、左腕には青いシールドのようなサブナックルを装備している。
「尋常に勝負です、バルバトス!」
アスタロトは大剣を1本背中から取り出して両手で握ると、バルバトスとの距離を縮めていった。
「望むところ、だ」
対するバルバトスは太刀を構えて、アスタロトと同じように脚部のスラスターを吹かしていく。双方同じように距離を無くしていき、先制したのは左右非対称の機体――アスタロトだった。彼女の持つ剣――デモリッションナイフは折り畳み式の大剣であり、それを攻撃する寸前で急に伸ばしたのだ。
「……武器が、伸びた!」
意表を突かれたバルバトスだったが、アスタロトの斬撃を直撃する寸前でなんとか受け止め、一旦攻撃の届かないところまで下がる。
「私の初手を初見で防ぐとは、なかなかやりますね。これは良い試合になりそうです!」
ファーストアタックを躱されたアスタロトだったが、嬉々とした声を発し笑みを浮かべる。一方のバルバトスはさてどうするかと思考を巡らせて作戦を画策しようとするが、経験が豊富な他の3機のように的確な具体策は浮かばない。
「……むぃ、やっぱりわかんないな。けど、守っていたらどうにもならないし、攻めるしかない、か!」
とりあえず、考えるよりも動くことにしたバルバトス。策は特に無かったものの、アスタロトとの距離を一定に保ちつつ滑腔砲による砲撃を浴びせていった。
「意外と堅実ですね。で、あれば私も!」
アスタロトはその砲弾を左腕のサブナックルでやりすごしながら、右手でライフルをとり、反撃を与えていく。しかし、それらの遠距離装備では、互いに決定打を欠き、戦況は膠着した状態になろうとしていた。
「やはりこのままだとどうにもなりませんね。……こうなれば、新しい武器を試してみましょう」
アスタロトは背中にあるもう一本の大剣――バスタードチョッパーを左手で取る。
「二刀流……?」
バルバトスは首を傾げるような仕草をするが、アスタロトは「フフン」と得意げな笑いを見せた。
「そういう使い方もありますが、こう使うのです!」
バスタードチョッパーとデモリッションナイフを背中合わせにして連結。二本の大剣をより巨大で重量のある一本の武器とすると、目をギラリと光らせて再びバルバトスの方へと立ち向かっていくのだった。
FAガール バエル
ガンダム・フレームシリーズ初号機。つまるところプロトタイプであるため、武装もバエルソードが2本に背中のレールガン2丁と、他のガンダム・フレームより少なく、非常にコンパクトにまとまった機体。……にも関わらず、戦績はどのFAガールよりも良いという噂がある。
妹同然である他のガンダム・フレームのことを常に気にかけ、よくおせっかいも焼きたがる。また、その行為によって一部の機体からは苦手意識を持たれることもしばしば(グシオンもその一人)。
ボディスーツの色は青で、髪色はホワイト。髪型はストレートのロングヘア。