ガンダム・フレームアームズ・ガール   作:不動ユーゴ

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今作のアスタロトのイメージは、現段階ではシールドアームを装備していないアスタロトリナシメントです。


アスタロト推参 その2

 皐月とグシオン、フラウロス、バエルは大きな戦況の動きが無かったせいか、ここまで言葉をあまり発することなくバトルを観戦していたが、

 

「うわ、これで弱点らしい弱点が無くなったじゃねえかよ……」

 

 合体させた大剣を目の当たりにして、フラウロスは忌々しそうに呟いた。

 

「え、今までのアスタロトには何か弱点ってあったの?」

 

「まぁ弱点というよりは、ただ単純にバルバトスが戦いやすくなるってだけの話なんだが」

 

「……ん~?どういうこと?」

 

「皐月さん、あの折り畳み式の大剣のことをフラウロスは言っているんだと思います」

 

 さっぱりわからない、とでも言いたげな皐月に、グシオンはすかさずフォローを入れる。

 

「あの大剣――デモリッションナイフは使いたい時だけリーチを伸ばせるので、さきほど仕掛けたような奇襲に使うこともできますが、その反面、継ぎ目だけはどうしても他の部位に比べて構造上脆く、弱くなってしまうのです」

 

「はぁ、なるほどね。けど、今はその継ぎ目をカバーするように合体しているから、バルバトスとアスタロトのリーチの差はどうあっても覆らないと、…………ってそれバルバトス大ピンチじゃん!」

 

 グシオンの解説を首を縦に振りながら聞き流していた皐月だったが、状況を把握した途端みるみるうちに顔を青くさせてハラハラと焦りの色を見せだした。

 

「あぁ、そうなるね。フィールドがもう少し広ければ、私と戦った時のようにレールガンを使えただろうが、この状況ではチャージ時間を稼ぐことも至難の業。バルバトスの地力が試される正に正念場だな」

 

「正念場、か。……けど私は勝つことを信じてるから。だから絶対諦めないで、バルバトス!」

 

 三人のFAガールから不安を煽る言葉を投げかけられたが、皐月はまだ信じて疑わなかった。バルバトスならきっと勝てると。

 

 

 

 

 

 

「では、再び参りますよ!」

 

 バルバトスは太刀よりも重量のあるメイスに持ち替え、応戦する構えを取るが、得物の質量差はそれでもなお圧倒的なものだった。アスタロトの大剣は、行く手を阻むメイスをバルバトスの身体ごと豪快に跳ね飛ばしていき、そのまま前進していく。

 

 バルバトスはデモリッションナイフの継ぎ目が弱点であるということを推測していたため、重点的に叩きつけるのだが、ビクともしない。

 

「重い!捌ききれない!」

 

 そして、アスタロトはそのまま攻勢を強めていき、バルバトスのことをフィールドの壁面へと叩きつけた。ついにアスタロトの方が先にチェックをかけた。

 

「……うぅっ!」

 

「斬り捨て、御免ッ!」

 

 全身を打ちつけられ、まだ怯んでいるバルバトスに対し、アスタロトは大剣を頭上に持っていくと、そのまま質量に身を任せて斬りかかっていく。

 

「まだ、まだ!」

 

 逃げ場がなくなったバルバトスだったが、頭を振る素振りを見せてから、彼女はそこで一か八の賭けに出る。メイスをアスタロト目掛けて突き出し、パイルバンカーを射出させたのだ。

 

「ラァァァッ」

 

「なんと!」

 

 逃げるでも守るでもなく、攻めに転じたバルバトスのその行動は、アスタロトを驚かせるには十分なものだった。バルバトスの起死回生の一手は、アスタロトの中心から僅かに逸れたものの右手に食らいつく。アスタロトの渾身の一打は、バルバトスの攻撃によって僅かに狙いが逸れ、クリティカルヒットとはいかなかった。

 

「……本当に大したものです。あの状況で打ってくるとは思ってもみませんでした」

 

「……むぃ、危なかった。……けど、これは、大分マズイ、な」

 

 とはいえ、ダメージのレベルで言えば、バルバトスが圧倒的不利であることに変わりは無い。目の色もやや混濁しているようにも見え、どんなに軽い攻撃であろうと食らえば戦闘不能となるリスクが高いのもまた事実。

 

「ですが、私が優勢であることには何ら変わりありません。このまま押し切らせていただきます!」

 

「……ぬぅ」

 

 フラフラとおぼついた足取りで、立っているのもやっととも見てとれるバルバトスに、アスタロトはここが勝負分かれ目であると言わんばかりに攻撃の体勢に入った。

 

「ねぇ!しっかりして!バルバトスってば!」

 

 皐月はスマホに向かって、バルバトスへ叫ぶように声をかける。すると、バルバトスの消えかけていた闘志が息を吹き返し、力強い眼光が再び灯った。

 

 アスタロトの大剣をバルバトスは、メイスで受け止めようと上へ持ち上げるが、それは意味の無いものとなった。――なぜなら、アスタロトの大剣が持ち上がることは無く、攻撃が不発に終わったからだ。

 

「右腕が動かない!……まさか、さっきの攻撃でやられた?」

 

 まさかの緊急事態に狼狽えるアスタロト。来るはずの攻撃が来なかったことで、首を傾げながらもすかさず距離を取るバルバトス。

 

 

 

 

 

 そして、その様子を見ていた皐月もいったい何が起こったのかと、疑問符を浮かべた。

 

「……え?どういうこと?」

 

「これは憶測にすぎないが、先程のバルバトスが捨て身で放ったあの一撃、アスタロトの右腕に深刻なダメージを与えたのだろう。それによってあの大剣を持ち上げることことが不可能となり、あのような結果を生んだ」

 

「ハッ、つまりあそこでのバルバトスの判断は間違っていなかったってことだ。やるじゃねえか」

 

「そっか、つまり今がチャンスってことだね。バルバトス、頑張れ!」

 

 

 

 

 

「クッ、こうなってしまった以上、やむをえませんね」

 

 アスタロトは武器の使用が困難となったことを悟り、デモリッションナイフとバスタードチョッパーの結合を解除させて、バスタードチョッパーだけを地面に捨て去る。そして再び、デモリッションナイフ一本のみを手に取り構える。ただし、今のアスタロトの右腕には支える力など無く、ただ添えているだけに等しい。先程までのような重い攻撃は打てない状態となったことで、バルバトスにも僅かに勝機が見え始めた。

 

「絶対、負けない!サツキが諦めないなら、私も諦めない!」

 

 バルバトスはパイルバンカーが突き出た状態のメイスを、槍投げの要領で豪快に投げ飛ばした。バルバトスの手元から離れたメイスは、ジャイロ回転をしながらぐんぐんと飛距離を伸ばしていく。

 

 ――今の右腕の状態では、いつものパワーが出ない。なら!

 

 叩き落とす、という選択肢が既に失われていたアスタロトは一旦デモリッションナイフを折りたたませて受け止める姿勢に入った。投擲されたメイスは、そのままデモリッションナイフと激しい金属音をたててぶつかり合い、圧していきながらも、勢いを徐々に減衰させて地に落ちていった。

 

「これで終わり……では無いのでしょう?」

 

 しかし、バルバトスの攻撃がそれだけのはずなどない。アスタロトが身を固めて防御していた隙に、バルバトスは背中にマウントしていた太刀を抜き、一足飛びで最接近。自身の間合い一歩手前まで接近していた。――ただ、あくまでも一歩手前までであるため、勝負がどちらに転ぶかはまだわからない。

 

「ですが、一歩足りませんでしたね!」

 

 アスタロトはデモリッションナイフを再び展開させると、おもいっきり薙ぎ払う。

 

「ハァァァッ!」

 

 バルバトスは太刀を両手で強く握りしめ、それを縦一直線に振り下ろす。

 

 二人の攻撃はほぼ同時に放たれて交錯した。それから互いに振り返ることなく、背を向けたまま静止する。

 

「……ッ。どっちが、勝ったの?」

 

「俺には、アスタロトのが先に届いたように見えたけどよ」

 

「……いえ、バルバトスの方が早かったかと」

 

「……さて、勝負の女神はどちらに微笑むか」

 

 静観していた皐月たちは、固唾を飲んで勝敗のアナウンスが流れるのをじっと待つ。そして、2,3秒のラグの後、いつものように勝敗を知らせるアナウンスが流れてきた。

 

『Winner、バルバトス』

 

 そのアナウンスが鳴った直後、いままでの緊張の糸が切れたのか、いままで戦っていた二人は、ほぼ同時に後ろへ倒れ込んだ。それから、アスタロトは称賛の言葉を対戦相手に送った。

 

「バルバトス、あなたの最後の一閃、お見事です。感服しました」

 

「アスタロト、とても強かった。…………だから、とても疲れた。眠い」

 

 バルバトスもアスタロトのそれに同じニュアンスで返すのだが、瞼を閉じてすぐさま寝る態勢に入ろうとしていた。

 

「えっ、ちょっ。寝るのなら充電くんの上で寝てください」

 

「……ZZZ」

 

「まったく、オンオフの差が激しいですね、バルバトスは。ついさっきまでとは別人のようです」

 

 しかし、その言葉が耳に入る前にバルバトスは夢の中へと旅立ってしまったようで、呆れるしかないアスタロトだった。




FAガール アスタロト

 ガンダム・フレームシリーズの一機でグシオン、フラウロスよりも前に開発された。バエルほどではないものの古参の機体である。左右非対称のアーマーが特徴のひとつだが、元からの仕様というわけではなく、とある事情があるようだ。装備はデモリッションナイフ、バスタードチョッパー、サブナックル、ライフル、コンバットナイフ×2と近接に特化した内容。

 基本的には丁寧口調なのだが、よく武士っぽい言葉を発する。アスタロト自身が大河ドラマを好んで鑑賞するようで、それに感化されたのだろうと周囲の人間は考察している。

 ボディスーツの色は白に近いグレーで、髪色も同じくグレー。髪型はポニーテールを左サイドにまとめ、赤のメッシュを右側に入れている。

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