「ハァァッ!」
バルバトスは握っていた武器を太刀からメイスに持ち替えて、重く鋭い攻撃をバエルに加えていく。
しかし、これもまたバエルへの有効打になることはなく全て受け流され、代わりにバエルの軽やかな斬撃によって、バルバトスの耐久値は少しずつ削られていった。
グシオンは二人の密着した攻防が繰り広げられている間に、バエルの死角へ回り込むと、4丁のライフルによる一斉射撃を放っていった。
「バルバトスに夢中になりすぎて、私のこと忘れてたんじゃないですか?」
グシオンの奇襲を躱しきることは不可能だったようで、バエルにもようやくダメージが入った。
「……忘れてなどいないさグシオン。キミは賢い子だからね、常に狙っているものだと思っていたよ」
それでもいくらか弾丸を叩き落として、バエルは最小限の損傷で済ませていた。
「クッ、相変わらず、デタラメな反応速度ですねっ!」
「フフン、それは褒め言葉として受け取っておこう。そしてこれは、そのお返しだ!」
グシオンの姿をハッキリと捉えたバエルは、両翼の先をバエルへ向け、レールガンを2発撃ち放つ。放たれた2発の弾丸は、グシオンの両肩部にそれぞれ直撃し、軽い爆発が生じた。
「きゃあっ!」
「グシオン、大丈夫か?」
「これくらい、どうということはありません。私の装甲はそう簡単に抜かれませんから。それよりも、あなたは目の前のバエルに集中してください!」
バルバトスの注意が僅かに逸れていた間に、今度はバエルの方からバルバトスへ接近し、連続攻撃を仕掛けてくる。バルバトスは、再び武器をスイッチさせて、なんとかバエルの素早い動きに対応させようと太刀を構えると、斬撃をスレスレで受けていった。
「……ッ!」
「やるね、私の動きにこうもうまく対応できるか。……けれど、それはいつまで続くかな?」
しかし、ギリギリの攻防はそう長くも続くはずもなく、バエルの動きに段々と追いついて来れなくなり、とうとう少しずつ攻撃がバルバトスの装甲に掠り始めた。
グシオンはその状況が芳しくないと判断して、ライフルを連射しながら背後から近付こうとするが、バエルはそれを振り向くことなく背中のレールガンで迎撃。
「……クッ、このっ!」
回避することはかなわずに数発被弾するが、グシオンの足が止まることはなかった。それに構うことなく進行し、そのままライフルを撃ち続けた。
すると、いままでほぼ無傷の状態だったバエルにクリーンヒットして、ライフゲージがついに目に見えるレベルで減っていき、バエルも驚いたような声を出した。
「……ッ!まさかノーガードで突っ込んで来るとは」
「いつまでも守りに徹してたら負けますからね!多少のリスクは覚悟の上ですっ!」
そしてグシオンの攻撃がまともに入ったことで、バエルの攻めの手がほんの一瞬止まり、体勢は崩れる。バルバトスにも攻撃のチャンスが訪れた。
「バルバトス、今です!」
「うぃ!」
バルバトスは太刀を大きく振りかぶり、斜め下に向けて斬り下ろしていく。バエルは悪い体勢でありながらも、片方の剣でなんとか受け止めようと腕を動かした。しかし、得物の質量差や体勢の良し悪し、二人の位置関係など、今この瞬間の状況においてのみ鑑みれば、どれを取ってもバルバトスが有利なことに変わりは無かった。
「ラァァ!」
バルバトスの太刀は一瞬だけバエルの剣に止められたが、それはほんの僅かな間だけ。バルバトスはその剣ごと力任せに押し切ると、ニ撃目も間を置くことなく叩き込んで、バエルに大きな痛手を負わせることに成功した。
「……油断したつもりは無かったのだが、判断を誤ってしまったか。だが、私の方こそキミ達に負けるつもりなど毛頭ないさ!」
大きく後ろへ吹き飛ばされたバエルであったが、すぐさま復帰する。そして、勢いよく両翼からジェットを噴出させながら、上空へ飛び上がったかと思えば、そこからすぐに急降下。
「いいえ、勝つのは私達です!」
「絶対、負けない!」
グシオンはまたしてもライフルを空へ向けて撃ち放っていき、バルバトスはそれに合わせるようにして滑腔砲の引き金を引いた。
対してバエルは、降下するスピードを緩めるとこなく、むしろ加速させながら二人の弾幕を回避する。そして、その速度を保ったまま間合いに入るとバルバトスへ剣先を向け、突撃していくのだった。
「……むァッ!」
バエルの突きをまともに食らったバルバトスは、大きく後ろへ飛ばされた。それと同時に、いままで蓄積していたダメージ重なったことで、バルバトスの耐久値がついに危険域へ達してしまった。
「こうなったら作戦変更です。あなたは一旦下がってください。今度は私が前衛を引き受けます」
「……りょうかい、だ」
前衛と後衛をスイッチさせると、グシオンは1本のハルバードと2つの拳を振り回して牽制。バルバトスと代わり今度はグシオンがバエルと正面から相対する形となった。
「今度は、私が相手です!」
「近接戦闘が不得手なキミが、か。それは判断ミスだと思うが、仲間を思いやる気持ちは悪くないかな」
「……いつまでも舐めないでください。昔の私とは違いますから!」
戦闘の展開が瞬く内に変わっていく中、観戦している二人はというと、少し渋い表情をしながら三人のFAガールを見つめていた。
「……ハァ、これは良くない展開だな」
「……たしかに、これは二人のピンチだよね。ねぇフラウロス、一発逆転できそうな作戦とかってないかな?」
「おいおい。それはいくらなんでもムチャ振りすぎるだろ。どっちか片方が沈めば、ほぼ負け確な状況で、近接戦闘が得意なバルバトスのライフゲージがレッドゾーンに達しちまった。これだとバルバトスの戦闘能力が半減したに等しい上に、あの滑腔砲じゃあ、戦況をひっくり返すのに火力が足りないな」
フラウロスは二人のことを皐月と同様に、贔屓目で観戦していた。ただ、その贔屓目で観ても、戦況はバエルの方へと傾いているように写っており、居ても立ってもいられない、そんな心境の二人だった。そんな中、皐月はふとあることを思い出して、曇っていた表情を明るくさせた。
「あ、そうだ!それなら、私が作ったこれでなんとかなるかな?」
あまりにも唐突すぎる皐月の提案にフラウロスは、一瞬フリーズしてから反発的な意見を返した。
「……は?嘘だろ?バルバトス本人が試しても無い武器をぶっつけ本番で使わせるってのかよ!?」
「え〜?けど、フラウロス達だって私が作った武器を使って、特に問題は無かったんでしょ?」
「たしかに……それは、そうなんだが」
「うん、じゃあ大丈夫。それにただ見てるだけじゃ、どうにもならないなら、試してみる方がよっぽどマシだよ」
皐月はそう言うと、すぐに行動へ移した。バルバトスのウエポンラックにレールガンをセット。それから、スマホのアプリ上で新しく表示された武器をバルバトスの方へとスワイプさせた。
「バルバトス。新しい武器、今そっちに送ったから受け取って」
「……皐月が作ったあの武器か、わかった!」
レールガンはバルバトスのほぼ真上に姿を現すと、そのまま直下へ落下し、バルバトスはそれを見事にキャッチした。
そのレールガンの使い方は、バルバトスが持っている滑腔砲と同様、単純にトリガーを引けばいいだけなのだが、少し変わった運用方法もある。それはフラウロスもよく使う手法――電力をチャージして、出力を高めることができるということだ。
「完璧な仕上がり、流石サツキだ。これならフルチャージすれば、バエルにも当てられる……はずだ」
「バルバトス、そのチャージにはどれくらい掛かりそうですか?」
「あと30秒あれば、撃てる」
「30秒ですね?了解です!」
バルバトスは銃口をバエルに向けると、すぐに電力のチャージに取り掛かり、グシオンは発射までの時間を確認する。
「あの兵器は……そう簡単に撃たせるものか!」
「させるものですか。絶対に、ここは通しません!」
バエルはレールガンの威力を知っているゆえ、バルバトスを優先して落とそうとするが、グシオンは前に立ち塞がり、その行く手を阻んだ。
「……ほう、ならば」
バルバトスに接近することが困難となったバエルは、すぐに思考を切り替えてニ門のレールガンを真下に向けて砲撃。それからグシオンのことを斬り払って牽制し、ある程度の距離を取ると、上へ大きく飛び上がる。
「……まだです!」
しかし、バエルの砲門が火を噴くことはなかった。グシオンが持っていたハルバード投げ飛ばして、体勢を崩したからである。
砲撃を阻止したグシオンはバエルに近付くと、両サブアームでバエルの両翼を捕縛し、そのまま握る力を強めていく。
「今の内に、チャージを、早く!」
「……クッ!なら、先にグシオンを」
拘束されたバエルはやむなく剣をその場で振り抜いて、攻撃を加えていく。ただ、グシオンもやられっぱなしというわけではない。空いた両拳にナックルガードを装着すると、ほぼノーガードで殴り始めた。
「チャージ完了。グシオン、避けろ!」
そして、二人が斬り合い殴り合いをしている内に、バルバトスのレールガンの発射準備が整った。グシオンは真下へ急降下して、すかさずバルバトスはトリガーを引く。
「……ハハッ、見事なコンビネーションだ。私の完敗だな」
超高速で放たれた弾丸は、バエルに回避の暇を与えずに身体を確実に捉えて直撃。ライフゲージを一気にゼロまで削っていくのだった。
『Winner、バルバトス、グシオン』
「グシオン。そっちは大丈夫、か?」
先程まで激しい接近戦を繰り広げていたグシオンの方へバルバトスは歩み寄り、手を差し伸べる。するとグシオンは、ボロボロな状態の体を起こして、差し出された手を掴んだ。
「これくらい大丈夫です、と言いたいところですが、かなりギリギリでしたね。まぁ、それはあなただって同じだと思いますけど」
「たしかに。すごく疲れた、な」
二人は全力で戦い満身創痍となりながらも、バエルから勝ち星を上げられたのであった。