カルデアに生き延びました。   作:ソン

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 あぁ、懐かしい。
 貴方達と過ごした日々の欠片が、こんなにも。


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「お月見ぃ?」

「そうそう。ここ最近、レイシフトばかりで気が滅入ってるだろう?

 丁度、今はお月見の季節だし、気分転換に団子でもどうかなって」

 

 どうかな、とロマンは俺に問いかけて来た。

 特異点の修復も順調。

 サーヴァントも徐々に増えてきており、今の所順風満帆といったところ。

 その最中の出来事だった。

 

「……まぁ、確かに。気分転換も大事ですもんね。

 それで、お団子ってどこから?」

「サーヴァント達がレイシフトで集めてくれてね。

 大丈夫、サーヴァント達も食べれるくらいの量はあるよ」

「ウチにアルトリアとジャンヌが二人ずついる事忘れてません?」

「――」

 

 ピシリと固まるドクター。

 あぁ、考えてなかったなコレはと。まぁでも、それが彼らしい。

 何でも完璧超人ではない。だが自分の責任はしっかり果たそうとする。そんなドクター・ロマンがカルデアの職員から信頼を寄せられるのは、当然かもしれない。

 適わないな、と息を吐いた。

 

「黒い方は俺が何とかやりくりしますよ。任せてください」

「うぅ、ごめん。浮かれてたばかりに……」

「それで、どうするんです?

 レイシフトするって訳でもないでしょう」

「あぁ。お酒やカルデアの食糧庫をちょっと放出してね。

 月の映像を眺めながら、皆で楽しもうって訳さ」

「……なるほど」

 

 確かにそれなら、レイシフト適正を持たない職員でも参加できる。

 

「それで、いつから?」

「あぁ、二日後を予定してる。幸いと言うか不幸と言うべきか、まだ新しい特異点も見つかってないからね。

 焦らず、ゆっくりとだ」

「……分かりました」

 

 

 

 

 ――が、お月見が出来る訳でも無かった。

 食糧庫が謎の盗難。そして何者かが侵入した気配。

 それを追うべくレイシフトが行われた。

 立香と俺、二つに分けて、それぞれ犯人を追う。ちなみに立香の指示はロマン。俺に対してはダヴィンチちゃんが担当していた。

 

「っと」

『うん、到着したね。そこから北に進むんだ。サーヴァントの気配がある』

「――ふむ、マスター。カリバーをぶちかましてもいいか」

「止めてくれ。団子が取られた気持ちは分かるけど」

「全く、品がないわね騎士王様。食い物の恨みは恐ろしいとはよくいったわ」

「ふむ。月見をわざわざカレンダーまで書き込んで、楽しみにしていた女が何を」

「ちょっ、アンタ焼き殺すわよ!」

「はーい、どうどう」

 

 ランスロットが先導し、背後をオルタ達が守ってくれる形で前に進む。

 

『! 近いぞ! ちょっと気配を隠せるかい?』

 

 魔術礼装を発動。サーヴァント達も含め、気配を遮断させる。サーヴァントのスキルには及ぶべくもないが、ないよりマシだ。

 

「アレは……」

 

 二人の少女のサーヴァント。

 一人は女部族のような衣装に身を包んだ白髪。もう一人は緑色の髪をした獣耳。

 二人ともどこか疲れたような顔をしている。何と言うか上司の無茶ぶりに付き合わされた部下の様な顔つきであった。

 

「……おい」

「……何だ」

「アレが本当に、我らが女神なのか。信じたくはな――いや、信じたいが」

「……」

 

 獣耳の少女はぽん、と肩を叩いた。

 その目は何かを悟り切っている――。あぁ、アレだ。目線だけで何を言っているのかが分かった。

 多分、アレは同情だ。分かるよ、みたいな感じ。

 

「マスター、あれが盗人だな。天誅(カリバー)かましてもいいか? いや、かます。そして泣かす」

「待ちなさい、団子も犠牲になる」

『スキャン終了。一人はバーサーカーでもう一人はアーチャーだ。真名特定はちょっと難しいね』

 

 ――女神って言ってたよな。なら、あの二人はそれに仕えているサーヴァント。

 弓、獣、女神……だとすれば、多分アルテミスかアタランテ辺りか。だがアルテミスは女神。寧ろ信仰される立場にある。ならば、アタランテと考えよう。

 もう一人は……分からない。アルテミスを崇拝している女性……。オトレーレーか。いや、にしても若すぎる。だとしたらそれを望んで現界しているとして……。成長した姿にトラウマを持っている? 

 反則技(ご都合主義)使えば、真名が見えない事も無いが……。どこぞの名探偵でもあるまいし、やめておいた方がいいかもしれない。最悪、脳が焼き切れる。

 

「もうダメ、疲れた」

 

 宝具で殲滅しよ。

 

「と言う事で、ジャンヌ、ランスロット。頼む。セイバーは隙を見て、魔力放出で団子を奪還してくれ」

 

 ランスロットが兜を着用する。――素顔が分からないと言う事はそれだけでアドバンテージになるのである。

 鎧の色が変わる事については目を瞑っておこう。

 

「! 何者だ」

「……戦士か、我らの前に立ったと言うのは、そういう事だな」

「あら、盗人猛々しいとは良く言ったもんだわ。

 ――返してもらうわよ、そいつ集めるために何回周回したか分かってんの!?」

「Dangoooooo!!!」

 

 

 

 

 

 ランスロットとジャンヌが奮戦してくれているが、中々アルトリアは踏み出せずにいた。

 ――それだけ隙が無いのだろう。

 

「……特にあの筋肉女だ。倒しきれん事も無いが、団子の無事が保証できない以上踏み込めない。そう囁いているのだ、私の直感が」

「……それだけ、警戒してるって事か」

 

 あの白髪の少女を、何とかすればいいのだろう。

 ――確信は無いが、思い当たる節から試せばいい。

 まずは軽い挑発から。

 

「ランスロット! その少女、ぶっちゃけどう思う!」

「beautiful!!!!!」

 

 瞬間、空気が凍り付いた。

 いや、と言うか白髪の少女の雰囲気がヤバい。何かスイッチが入った。

 

「貴様、今私を美しいと言ったな……?」

「い、いかん! 落ち着け汝!」

 

 少女がランスロットに突貫する。

 

「天誅だ! モルガーンッッッ!」

 

 あ。

 

 

『隙だらけだったので、今なら抹殺出来ると思った。

反省も後悔もしていない。魔力使ったからハンバーガー寄越せ』

 

 以上が、容疑者の供述である。

 

 

 

 

「ふふ、やはり団子ではなく林檎の方がやる気が違っていたな……」

 

 エクスカリバーの直撃にかろうじて耐えていたが、既にその霊基は消失しつつあった。

 耐えきれなかった白髪の少女が持っていたであろう団子を拾う。まだ何とか食えるな。

 林檎って事はやっぱり、彼女は――。

 

「カルデアに林檎ならあるぞ」

「……ほう、それはいいな」

「金とか銀とか。後、銅も。たまに配られるし」

「何、待て今の、ちょっと詳しく――」

 

 そうして彼女も消失した。また残されたのは団子のみ。

 ランスロットの回避で令呪を一画消費したくらいか。まだ二画残ってる。

 後は礼装でアルトリアの宝具使用の補助。再使用には時間を要する状態。

 何とか連戦なら持ちこたえられそうだ。

 

「で立香の方はどうです?」

『うーん、目標には近づいているって感じみたいだね。

 ……おや、その先にまたサーヴァント反応がある。行けるかい?』

「勿論です」

 

 

 

 

 ぐだぐだ、お月見!

 

 今宵の魔王は血に飢えている

 

 

 

「何だ、今の」

 

 何やら、変な映像が目に飛び込んできた気もするが目を瞑る。

 他の三人には何も感じなかったらしいし。

 

「あれは……陣所?」

 

 一見すると、戦国の時のモノに見える。

 あ、ヤバい。何か血が騒いできた。

 こう、前世の憧れ的な何かが。

 

『うん、その中にサーヴァント反応多数。

 でもシャドウサーヴァントではなさそうだ』

 

 ただ不思議な事に、警備は見当たらない。それどころかエネミー一匹。

 周囲には戦闘の痕があるから、殲滅されたようにも見える。

 

「面倒ね、焼き払いましょうか」

「ちょい待ち。まず中を覗いてみる」

 

 そろーっと、慎重に。幕に小さくナイフで穴を開けてのぞき穴を作る。

 見えたのは四人のサーヴァント。

 囲んで団子を食べているようだ。多分、それカルデアのだろうけど。

 

『スキャン完了! バーサーカーが二人にセイバーが一人、そしてアーチャーが一人だね』

「へー……じゃあ。とりあえず、奇襲かけ――」

「――むっ、間諜の気配!」

「うおっ!」

 

 咄嗟に頭を屈める。

 発砲音と共に頭上が何を掠めていく。

 

「ほー、まさか奇襲を狙ってくる者がおったとは……。

 桶狭間を思い出したわ」

「あぁ、あの集団不意打ちですね。雨の日に馬に乗って奇襲とは。さすがノッブ汚い」

「おまいう」

 

 え……ノッブ?

 待って。戦国でノッブって。あの人しかいなくね。

 

「お、女ァッ!? あの、織田信長が!?」

「むっ、なんじゃー。まーたその反応か」

『はは、アラン君。男か女かなんてのは、サーヴァントの前では意味が無いからね。

 ほら、私がいい例だろ?』

「……信じたくなかった」

「おき太ー。何か凄い絶望されとるんじゃがー」

「……沖田?」

 

 沖田ってもう、あの人しかいないだろ。

 見れば金髪に桜色の和服。

 

「いや、どう見てもアル――」

「それ以上はいけない」

 

 マジかー。

 沖田総司も女性だったかー。織田信長、沖田総司――日本人なら誰しも一度は聞いた事がある名前。

 騎士王といい、皇帝といい、船長といい、男だと思ってた偉人が女性って……。

 

「趣味か、趣味なのか。最近の聖杯の流行りなのか……!?」

「まっ、是非もないよネ!」

「知りたくなかったそんな事実……!

 じゃあ、何だ。近藤勇も女性なのか!?」

「――何、冗談抜かしてやがる。近藤さんは男だ」

 

 と、刀と銃を腰に差した男性が沢庵を齧りながらそう吐き捨てた。

 ……近藤さん?

 そんなに親しく呼ぶのは、つまり最も関係が近いと言う訳で。しかも刀を持ってて。

 

『あ、アラン君? 何をそんなに泣いているんだい?』

「だって……! だって……!

 あの新撰組のあの副長を生で見たんだぞ!

 俺だって、男子だし! 新撰組とか憧れだったんだよ!」

「ほう、入隊希望者か」

「いや、何でその流れになるんですか土方さん」

「うーんぐだぐだしてきた。伯母上、どうするー? 一発ファイヤーしとく?」

「せっかくの客人だしのう。ここは一つ、ワシの新しい姿をお披露目するか!」

 

 あっ、ノッブが再臨した。

 

『……違う! 霊基反応が変わった!

 アーチャーからバーサーカーにクラスが変わっている!』

「……はぁ!?」

「今が旬の、この姿。良いじゃろー良いじゃろー?

 今なら高性能の敦盛ビートもあるぞ! 燃え尽きる程本能寺、とな! 王の話ではなく、ワシのビートをきけぇい!」

『でも体力は大きく落ちてるねー。ジャンヌ君が三回殴れば終わるよ?』

「星4でバーサーカーだしね! 是非もないよネ!」

 

 いや、でもこれ結構マズいぞ。

 バーサーカーが三人にセイバーが一人。しかもその内のセイバーは沖田総司。

 攪乱されて、バーサーカーに突っ込まれたら終わる……。

 そもそもサーヴァントの人数自体でも負けているし……。

 

『この反応は……。アラン君気を付けて。何かが来るぞ!』

「おやー、また変な所に出ちゃったなー」

「……あの、どちら様で?」

 

 突然現れた空間の裂け目。

 そこから姿を見せたのは一人の女性。腰に刀を差した銀髪の女剣士。

 

「あー、仕合の最中だったかなー」

 

 丁度いい。こっちに取り込めば、人数でも対等だ。

 

「ヘルプです! こっちについてください!」

「むむっ……!」

「付くならこっちじゃー。団子もあるぞー」

「ぐぬぬっ……!」

 

 さすが戦国武将。

 なら、こっちは事実を突きつけてやる。

 

「その団子は俺達のモノで盗られたんです! 助けてくれたらおすそ分けします!」

「――なんですって。

 あぁ! そうか、そう言う事か! ならお姉さんに任せなさい!

 二天一流の真髄、たっぷりと見せてあげる!」

 

 え、二天一流?

 ちょっと待って。つまり彼女は――。

 

「令呪を以て命ずるセイバー」

「……何だ、マスター」

「……ちょっと待って、何で拗ねてるの」

「拗ねてなどいない。あぁ、そうだ。最近構ってもらえてないからなどと言う理由で拗ねてなどいない」

「じゃあ後でゆっくり団子食べよう。

 宝具で薙ぎ払え」

 

 

 頼むから、直球ストレートなサーヴァントをください。

 

 

 この後、滅茶苦茶宝具で殲滅した。

 女剣士さんは団子を堪能して、どこかへ去っていった。

 

 

 

 

 

「――え」

 

 レイシフト先から戻ったと思ったら、今度は夜の平原。

 周囲には俺のサーヴァントも誰もいない。

 ただ不気味な程、静まり返っている。

 未だにカルデア側からの通信が来ていないと言うのは、つまりそういう事だ。

小さい息を吐き、心身を調整しつつ刀を抜き放つ。

 まだ不完全だが、それでも並のサーヴァントなら何とかなる。

 

『来るわ』

 

「――へー、ほほー、うーん。

 普通の人間ね、アナタ」

 

 現れたのは白髪の美女。

 おっとりした雰囲気が特徴的な弓を持つ女性だった。

 

「……あの、失礼ですがどちら様で」

 

 刃先を向けず、だらりとぶらさげるようにし構える。

 あの雰囲気は、普通のサーヴァントでは無い。神祖ロムルスにも匹敵する霊基の持ち主。

 冷や汗が額を伝う。震える体を、押し留めた。

 大丈夫、彼女がいる。

 

「あ、ごめんねー。面白そうな人がいたから、つい気になっちゃって。

 こうして呼び出しちゃったのー」

「……それは俺自身が、ですか。それとも、俺の魂が、ですか?」

「――勿論、魂の方。だって私、人間自身に興味ないもの」

 

 つまり俺をサンプルケースとしか見ていないのだ。

 殺せる、生きているならきっと殺せる。

 目に力を込め――

 

『駄目。今の貴方で彼女を視ようとすれば、頭が焼き切れる』

 

 だが、現状ではどうしようもない。

 最悪、このまま殺される事もあり得る。

 

「……むー。珍しいわね、貴方」

「……何が、ですか」

「だって貴方、笑ってるんですもの。死に向かって生きているのに。

 不思議。私に捧げられた人なんて誰一人笑っていなかったから」

 

 何だ、そんな事か。

 

「……そりゃ、まぁ。怖いですけど。

 一度死んでますし。だったらこの苦しみは当たり前のものだから」

「ふーん。――そっか。まぁ、貴方が納得しちゃってるなら仕方ないかなー。

 月の女神の加護はいらないようね」

 

 それ狂ったりしませんよね。

 

「じゃー、またいつか会いましょう。旅人さん。

 果てのない海で!」

 

 

 その言葉と共に、その世界は消滅した。

 

 

『神様って我が儘ね』

 

「……そうだなぁ」

 

 

 

 

 取り返した団子で、もう一度月見をした。

 

 映像で月を眺めながら、カルデアの善き人々と語り合った。

 

 この記憶が、いつか。美しいモノになりますように――。

 

 

 

 





 そんな事もあったな、と小さく笑う。

 暗い闇の底に彼はいた。
 四肢を枷で繋がれ、体には鎖が巻きついている。両方の掌は彼を戒めるかの如く杭が打ち込まれていて、まるで磔のようにも見えた。
 彼は眠り続けている。自身が呼ばれるその時まで。ずっと、曖昧な意識の中で瞼の裏を見ている。
 きっとこれは悠久だ。彼がここから解き放たれる事は無いだろう。でも、きっとそれでいい。
 守りたい人達を守れた。その誇りがあれば、これからも大丈夫。一つの小さな炎に光が集うように。その灯があれば、暗闇でも少し踏み出す事くらいは出来る。

“どうか、健やかに。貴方達が幸福でありますように”

 例え世界が貴方達の戦いを覚えていなくとも。人々の記憶から貴方達の苦しみが忘れられても。
 ――ここで貴方達の強さを知っている。

 瞼の裏に見えるのは輝かしかった頃の記憶。今でも鮮明に思い出せる、あの日々。

 こうして、時折思いを馳せる。それが、一番楽しかった。
 


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