カルデアに生き延びました。   作:ソン

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前回の投稿以後、お気に入りが急上昇して焦っております。
ネタ切れ感満載の回。今回は本編と一切関係ないです。ただの運命の悪戯です。






 彼がカルデアに帰還する事。
 それは座から消失した英霊を呼び寄せる事に等しい。


外伝1 あり得ない夢の話

 

 

 いつもの暗闇。四肢は枷に繋がれ、体は鎖で絡めとられている。

 そんな中でふと呼ばれていると感じた。

 

「……あれ、は」

 

 光が見える。

 暗闇の中で淡く輝く眩しさ。

 それがどこか懐かしい。

 

「この、光、は」

 

 知っている。

 その輝きを知っている。その温もりも、全て。

 枷が、鎖が、全てほどけていく。

 

 

 そうして彼は、光に向けて歩き出す。

 

 

 

 

 それをしようと思ったのは本当に、気まぐれだった。

 英霊召喚――まだまだカルデアの戦いは続く。故に戦力の増強は無駄では無いのだ。

 ダヴィンチちゃんからたまたま、気まぐれで貰った呼符。

 それを使用した時――カルデアの魔力測定器が異常な反応を示した。

 背後で見守っていたダヴィンチが、即座に救援を要請する。もし、マスターに剣を突き立てるようなサーヴァントであれば、悪いが消えて貰わなければならない。

 あの戦い以降、何故かデミサーヴァント化出来なくなったマシュも駆けつけてくれていた。

 アルトリア、ジャンヌ、沖田――他にも一級のサーヴァントが皆、召喚室に飛び込んで来る。

 

「……雪?」

 

 室内なのに、小さな雪が降っている。

 いつの間にやら横にいたマーリンが頷いた。

 

「あぁ、そうか。やっぱり帰って来たんだね。

 そうだとも。それがきっと、一番だよ。

 死に別れなんて、未練しかないからね。彼も人だったと言う事さ」

「マーリン。何を……」

「私は帰るよ。大丈夫、彼なら心配いらないからね。

 マスターを守る、と言う事にかけては全人類の中で最も信頼出来る。それじゃあ!

 僕はマギ・マリの更新があるから!」

 

 そう言って、マーリンはそそくさと帰っていく。

 光がさらに一際大きく輝いた。

 ――現れたセイントグラフは黒色。そしてセイバーの絵柄。

 

「……黒?」

 

 姿を現したのは、一人の青年。

 見覚えのある顔に、蒼い瞳。黒い着流しに白い羽織りを重ね、首には赤いマフラーを巻いている。

 彼、は――

 

「セイバー、召喚に応じ参じょ――あっ」

「……」

「……」

「……」

 

 

「座に帰らせていただきます」

 

「重要参考人だ! 取り押さえろぉっ!」

 

 

 

 

 逃げきれませんでした。

 ハハッ、宝具ラッシュとかワロス。孔明先生とアステリオスのコンボマジ迷宮。

 そんな訳で、早速連れていかれたのはカルデアの管制室。

 もう見る事は無いと思っていただけに、色々と込み上げてくる物がある。

 

「アラン君……」

「ドクター……まぁ、サーヴァントとして、戻ってきました。

 すいません、色々と隠し事してて」

「君はっ! 本当にっ!

 ロンドンの後、どれだけ大変だったのか分かるかいっ!?

 立香君は昏睡したままだったしっ! サーヴァントは内部分裂寸前だったしっ! スタッフだってそうだったしっ!

 あの一週間、マギ・マリを見る暇も無かったんだぞっ!」

 

 頭が上がらない。

 こればかりはドクター達に分がある。けど、話せなかったのも事実だ。

 

「……すみません」

「本当にっ! 本当にっ……! 本当に……っ」

 

 そのままドクターは俯いて、肩を震わせた。

 

 

「気づいてあげられなくて、ごめん」

 

 

 ――違う。

 これは俺がずっと隠してた事だから。誰にも言ってない事だから。

 気づく事なんか出来る筈がなかったんだ。

 

「気にして、ないですよ。

 ただ、その。心配かけて、すみません」

 

 僅かな沈黙の後、俺とドクターの二人に誰かが腕を回してきた。

 いい香りが、鼻腔をくすぐる。

 

「まぁ、いいじゃないかロマニ。

 アラン君もこうして戻って来た事だし!」

「レオナルド……。確かに、そうだけど」

「ほら、アラン君。今のカルデアを見ておいで。

 君に会いたがっているサーヴァントもいるからね」

「はい……」

 

 そういって、俺は管制室を出ていこうとして、何人かに肩を掴まれた。

 

「ほー、久しぶりだなアラン」

「本当、久しぶりですねー、アランさん」

「えぇ、無事カルデアに戻ってこられたようでなによりです」

「■■■――」

 

 スカサハ、沖田、アルトリア、ヘラクレス。

 ――おかしい、何か殺意を感じるぞ。

 

「え、えっと。何で、そんなに怒ってるんですか」

「怒っているだと? そんな訳あるか」

 

 なら額の四つ角は何なんですか。

 ……ちょっと待て。この四人の面子、どこかで見覚えがあるぞ。

 アレは、確か、ロンドンで……。あっ。

 

「えぇ、そうですよー。ロンドンで瞬殺された事なんてこれっぽちも気にしてませんからー」

「そうさな。

 あぁ、そうだアラン。丁度、シミュレーションがあいたそうだ。

 付き合ってくれるな?」

「え、あの、ちょっとこれからあいさつ回りに」

 

「付 き 合 っ て く れ る な?」

 

 アカン。

 

 

「無明、三段突きィッ!」

 

「うおおおおっ!」(宝具発動)

 

「決着を付けましょう。――私以外のセイバー死ね」

 

「え、貴方ヒロインエッ――ぬがああああっ!」(宝具発動)

 

「刺し穿ち、突き穿つ――!」

 

「あっ、ちょっ」(スタン)

 

「■■■――!」

 

「ぐわあああッ!」(直撃)

 

 

 

 

「酷い目にあった……」

 

 どんだけキレてるんだ、あいつら。

 いや、確かに悪かったけども。俺に非はあるけれども。

 あの宝具ラッシュは酷くないですかね。10チェインぐらいしてたぞ。

 あの後、回復させてくれたジャンヌマジ聖女。マスターの頃の事は、水に流します。

 後、スタンしなくなったんですね。えっ、ギフトガウェインとタイマンで殴り合った? ハハッ、ご冗談を。

 

「……どっちだったっけ」

 

 自室で一息つきたいのも山々だけど、まずはあの三人に会わなければ。

 

「あら……新しく召喚されたサーヴァントの方ですか?」

「ん、はい」

 

 紫色のボディスーツに身を包んだ長髪の女性。

 その表情はほがらかで、慈愛に満ちているようにも見える。

 

“そういえば、彼女は……”

「お名前をお伺いしても?」

 

 確か――源頼光。

 全体宝具を持つ、優秀なサーヴァントの一人で。

 

「アランです。よろし――」

「――」

 

 途端、横の壁がぶち抜かれた。

 彼女のひじ関節の辺りまで、めり込んでいる。

 

「ほう、そうでしたか。貴方がアランでしたか」

 

 怒ってる。これは絶対ブチ切れてる。

 何かしたっけ……!?

 いや、してない。まだ初対面だし……!

 

 

「我が子にナイフを突き立てたと。それも背後から?」

 

 

  し て ま し た。

 

 

「――ちょっと、お話でもどうでしょう?

 しみゅれーしょんるーむ、とやらでた っ ぷ り と」

「え、あの、ちょっと待たせてる人が……」

「それじゃあ仕方ないですわ……。

 ――夜道には気を付けて」

「行きましょう! 時間ありますから!」

 

 

 

 

「来たれい、四天王……!」

 

「ふがぁぁぁぁっ!」(宝具発動)

 

「これより逃げた大嘘付きを退治します」

 

「うおおおおおっ! ――誰だ今の」(宝具発動)

 

「熱く熱く、蕩けるように」

 

「あっ、ちょっ」(宝具封印)

 

「塵芥となるがいい!」

 

「ぐわあああッ!」

 

 

 

 

「……まさか、一日で二回も死にかけるとは思わなかったぜ」

 

 タイガースタンプが溜まったぜ、へへ。

 何だろう、あの三人に会いに行くだけなのに、どっと疲れたような気がする。

 ――と、どこからか視線を感じた。

 廊下の柱の影から、黒いカソックがはみ出している。……いや、カソックっていうんだっけ。でもそんなの着てるサーヴァントいないような。

 ふと、いい匂いがした。淑やかな女性が身に付けるような、そんな香りだ。

 

「……キアラ?」

「っ!」

 

 肩が大きく跳ねて、はみ出していた体が完全に隠れる。

 僅かな沈黙の後、恐る恐ると言った様子で彼女が顔を出した。

 被っている帽子(もうし)を外していて、彼女の長髪が露わになっている。

 ――あれ、角が無い。

 

「……」

「……」

「初対面、じゃないよな」

「……その、セラフィックス、で」

 

 声が徐々にしぼんでいく。

 ……あれ、俺の知ってるキアラじゃないぞ。

 セラフィックス? そういえば、あの時、俺手を握りながら言ってたよな……。

 

『きっと誰かが、本当の貴方を待っている』

 

「あっ……」

 

 待って、こっちも恥ずかしくなって来た。

 いい年した大人が二人、顔を赤くして互いを直視できないとはどういうことか。

 

「……」

「……」

「……その、お怪我は」

「ん、あぁ、大丈夫。すぐ治る。言っただろ、死にぞこないだって」

「……」

 

 柱の影から、キアラが姿を現した。

 それは魔性菩薩でもなく、堕ちた天の杯でも無く。

 ――ごく普通の、一人の少女だった。

 

「……私が、心配します。

 もう少し、体を労わってください」

 

 

 マジで誰だ。

 

 

 

「……はぁ」

 

 ようやくたどり着いたのはまず一人目。

 二人目のセイバー――ランスロットの部屋だ。

 

「入るぞ、ランスロット」

「……お待ちしておりました、マスター」

 

 サポートをすれば、あらゆる戦闘に適応する円卓の騎士。

 ロンドン以降も、俺の名誉を守るために身を粉にして尽力してくれたと言う。

 本当に頭が上がらない。

 

「……悪かった。貴方達に何も言わなくて」

「いえ、お気になさらず。裏切りの騎士、と呼ばれた私に貴方を咎める事など烏滸がましい」

「……ありがとな。あの後も、藤丸達を守ってくれたんだろ。俺に召喚されたってだけで、白い目を向けられて。他のサーヴァントからも疑われて。

 それでも――」

「良いのです。私は騎士。主のために尽くせるのなら、それこそ本望。

 それに、気づけたのです。貴方に仕えた我らが王は、そして貴方の剣を選んだ私は――間違っていなかったと」

 

 そう言った彼の瞳は、湖面のように穏やかだった。

 

 

 

 

 次に来たのはセイバーオルタ。

 ……どうするか。いや、マジでどうしよう。

 だって暴君でしょ。……でも確か原作ではそんなに殺意はなかったような気がする。

 

「あー、セイバー。入るぞ」

 

 ノックをして、部屋に足を踏み入れる。

 ――途端、黒い聖剣が飛んできた。

 

「うおっ!」

 

 顔を逸らしてかろうじて躱す。

 剣はそのまま扉を貫通して、何やら背後からとある槍兵の悲鳴が聞こえて来たが耳を閉じよう。

 飛来した剣が配線を破壊したせいか、部屋の照明が消える。

 セイバーを見ようと振り向いて、俺は襟首を掴まれて押し倒された。

 

「セイバー?」

「……」

「……泣いてるのか」

「……何故です」

「……」

「私は貴方の剣になると誓ったはず。

 なのに、何故。私に一つも言ってくれなかった。

 貴方にとって私は、その程度の存在ですか」

「……そうじゃない。貴方には何度も助けられた。

 返せないぐらいの、思い出を貰った」

「……」

「――いや、正直に言うよ。全部、俺の一人よがりだった。

 さっき、ランスロットの所でさ。教えて貰ったんだ。ロンドンの後、貴方達が冷たい目で見られてたって事。

 そんな事まで、頭が回ってなかった。とにかく必死だった。

 ……ごめん」

「……なら、今度こそ。今度こそ誓わせてください。

 私は貴方の剣となる。このカルデアで何よりも、誰よりも強い剣となる。

 ――そして、必ず。貴方を守ろう」

「……ありがとう、アルトリア。

 それと……そろそろ降りてくれないか?」

「却下だ。私の気が済むまで、こうさせろ」

 

 

 

 

「……あー」

 

 最後に残ったのはジャンヌ・オルタ。

 セイバーは剣が飛んできた。ならジャンヌは……あぁ、燃やされるだろうなぁ。

 ノックして扉を開ける。

 

「……むすっ」

 

 腕組みをして、如何にも私怒ってますをアピールする彼女の姿。

 時間神殿の時は必死で見て無かったけど、髪が長くなってる。

 

「……怒ってる?」

「怒ってません。怒ってませんとも。

 えぇ、そうよ。ずっと、ずっと待ってたのに。他のサーヴァントにうつつ抜かして、忘れ去られたなんて、ちっとも思ってませんから」

 

 最初の二回は不可抗力なんで、許していただきたいのですが……。

 

「……悪かった。その、色々と。隠し事とかしてて」

「……あーだこーだ言わないわよ。貴方にも貴方の理由があったんでしょ。

 それを見抜けなかった自分がイヤでたまらないだけ。

 ――本当に、馬鹿ね。貴方も、私も」

 

 そうだ、彼女はとことん自己評価が低い。

 だからこそ、一番先に行ってやるべきところだったと言うのに。

 

「……」

「……」

「……あー、もう! これで終わり!

 貴方が謝罪に来たのなら、私はそれを受け入れます! だからもう、……もう。

 それ以上、自分を責めないでよ」

「……」

「ビーストにまでなって。誰かの為に、そこまで生きて。

 貴方が一番幸せになりたかったはずなのに……! 一つも、報われていないじゃない……!

 私も、あの突撃女も、いけ好かないロクでなしも! そこにムカついてたのよ!」

「そんな事は――」

「分かるわよ! サーヴァントなんだから!」

 

 まいったな、と頭を掻いた。

 あの選択は、願いは、間違っていない筈だった。

 けど、三人と話してみて。

 こんな人生を、求めてくれる人がいたから。

 こんな命にも、意味があったのだと気づいてしまった。

 それを知っていたのなら、違う未来もあった。

 

 ――けど、その未来で、俺は本当に後悔なんて無いのだろうか。

 

「……あー、もう! アラン!」

「は、はい!?」

 

 バン、と音を立てて彼女がテーブルにおいたのは契約書。

 初めて彼女を召喚した時に書かされた一枚だった。

 読みやすい文字に、何かが小さく書き足されている。

 

『二度と、約束を破らない事』

 

「……」

 

 まぁ、そうだよな。

 契約書に、名前を書く。

 

「またよろしく、ジャンヌ」

「――えぇ。サポート頼むわよ、マスターちゃん」

 

 

 

 

 自室のベッドに座り込んだ。

 余りの懐かしさに、思わず息を吐く。

 

『また、来てしまったわね』

「あぁ、何の因果か。こうして帰って来た。

 ……もう、ただいまを言うつもりは無かったんだけどなぁ」

『そうね。でも――良かった』

「……? 何が」

『貴方がとても楽しそうで。

 悔しいけれど、私一人じゃ貴方の寂しさは紛らわせなかったわ』

「……そんな事無いよ。

 貴方がいてくれて、凄く、心強い」

『――ありがとう、マスター。私を呼んでくれて。

 一時の夢でしか無かった私に、確かな時間を与えてくれて』

「……こっちこそ、ありがとう。

 最初に呼んだサーヴァントが貴方で、本当に良かった」

 

 また帰って来た日常。

 ここからまたもう一度、色を付けよう。

 もう二度と色褪せる事のない、鮮やかな色を。

 

 

 

「アイスがあったけど、食べるか」

『……そうね、いつもは苦手だったから避けてたけど。

 貴方がいるから、食べてみようかしら』

 

 

 






 そういえば、楽しそうだったわね。あんな綺麗な子達に囲まれて。

 えっ

 特にあのキアラと言う子、貴方に口説かれてたもの。

 あの、ちょっと?

 ねぇ、貴方。今の私、執着が出てきてしまってるから、自分でも何してしまうか分からないの。

 あっ、はい。

 だから、私。適当にあしらわれたりしたら、獣になっちゃうかもしれないわ。
 それとも――貴方が望むなら、本当に な っ て あ げ ま し ょ う か?

 やめてください、お願いします。

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