ネタ切れ感満載の回。今回は本編と一切関係ないです。ただの運命の悪戯です。
彼がカルデアに帰還する事。
それは座から消失した英霊を呼び寄せる事に等しい。
いつもの暗闇。四肢は枷に繋がれ、体は鎖で絡めとられている。
そんな中でふと呼ばれていると感じた。
「……あれ、は」
光が見える。
暗闇の中で淡く輝く眩しさ。
それがどこか懐かしい。
「この、光、は」
知っている。
その輝きを知っている。その温もりも、全て。
枷が、鎖が、全てほどけていく。
そうして彼は、光に向けて歩き出す。
それをしようと思ったのは本当に、気まぐれだった。
英霊召喚――まだまだカルデアの戦いは続く。故に戦力の増強は無駄では無いのだ。
ダヴィンチちゃんからたまたま、気まぐれで貰った呼符。
それを使用した時――カルデアの魔力測定器が異常な反応を示した。
背後で見守っていたダヴィンチが、即座に救援を要請する。もし、マスターに剣を突き立てるようなサーヴァントであれば、悪いが消えて貰わなければならない。
あの戦い以降、何故かデミサーヴァント化出来なくなったマシュも駆けつけてくれていた。
アルトリア、ジャンヌ、沖田――他にも一級のサーヴァントが皆、召喚室に飛び込んで来る。
「……雪?」
室内なのに、小さな雪が降っている。
いつの間にやら横にいたマーリンが頷いた。
「あぁ、そうか。やっぱり帰って来たんだね。
そうだとも。それがきっと、一番だよ。
死に別れなんて、未練しかないからね。彼も人だったと言う事さ」
「マーリン。何を……」
「私は帰るよ。大丈夫、彼なら心配いらないからね。
マスターを守る、と言う事にかけては全人類の中で最も信頼出来る。それじゃあ!
僕はマギ・マリの更新があるから!」
そう言って、マーリンはそそくさと帰っていく。
光がさらに一際大きく輝いた。
――現れたセイントグラフは黒色。そしてセイバーの絵柄。
「……黒?」
姿を現したのは、一人の青年。
見覚えのある顔に、蒼い瞳。黒い着流しに白い羽織りを重ね、首には赤いマフラーを巻いている。
彼、は――
「セイバー、召喚に応じ参じょ――あっ」
「……」
「……」
「……」
「座に帰らせていただきます」
「重要参考人だ! 取り押さえろぉっ!」
逃げきれませんでした。
ハハッ、宝具ラッシュとかワロス。孔明先生とアステリオスのコンボマジ迷宮。
そんな訳で、早速連れていかれたのはカルデアの管制室。
もう見る事は無いと思っていただけに、色々と込み上げてくる物がある。
「アラン君……」
「ドクター……まぁ、サーヴァントとして、戻ってきました。
すいません、色々と隠し事してて」
「君はっ! 本当にっ!
ロンドンの後、どれだけ大変だったのか分かるかいっ!?
立香君は昏睡したままだったしっ! サーヴァントは内部分裂寸前だったしっ! スタッフだってそうだったしっ!
あの一週間、マギ・マリを見る暇も無かったんだぞっ!」
頭が上がらない。
こればかりはドクター達に分がある。けど、話せなかったのも事実だ。
「……すみません」
「本当にっ! 本当にっ……! 本当に……っ」
そのままドクターは俯いて、肩を震わせた。
「気づいてあげられなくて、ごめん」
――違う。
これは俺がずっと隠してた事だから。誰にも言ってない事だから。
気づく事なんか出来る筈がなかったんだ。
「気にして、ないですよ。
ただ、その。心配かけて、すみません」
僅かな沈黙の後、俺とドクターの二人に誰かが腕を回してきた。
いい香りが、鼻腔をくすぐる。
「まぁ、いいじゃないかロマニ。
アラン君もこうして戻って来た事だし!」
「レオナルド……。確かに、そうだけど」
「ほら、アラン君。今のカルデアを見ておいで。
君に会いたがっているサーヴァントもいるからね」
「はい……」
そういって、俺は管制室を出ていこうとして、何人かに肩を掴まれた。
「ほー、久しぶりだなアラン」
「本当、久しぶりですねー、アランさん」
「えぇ、無事カルデアに戻ってこられたようでなによりです」
「■■■――」
スカサハ、沖田、アルトリア、ヘラクレス。
――おかしい、何か殺意を感じるぞ。
「え、えっと。何で、そんなに怒ってるんですか」
「怒っているだと? そんな訳あるか」
なら額の四つ角は何なんですか。
……ちょっと待て。この四人の面子、どこかで見覚えがあるぞ。
アレは、確か、ロンドンで……。あっ。
「えぇ、そうですよー。ロンドンで瞬殺された事なんてこれっぽちも気にしてませんからー」
「そうさな。
あぁ、そうだアラン。丁度、シミュレーションがあいたそうだ。
付き合ってくれるな?」
「え、あの、ちょっとこれからあいさつ回りに」
「付 き 合 っ て く れ る な?」
アカン。
「無明、三段突きィッ!」
「うおおおおっ!」(宝具発動)
「決着を付けましょう。――私以外のセイバー死ね」
「え、貴方ヒロインエッ――ぬがああああっ!」(宝具発動)
「刺し穿ち、突き穿つ――!」
「あっ、ちょっ」(スタン)
「■■■――!」
「ぐわあああッ!」(直撃)
「酷い目にあった……」
どんだけキレてるんだ、あいつら。
いや、確かに悪かったけども。俺に非はあるけれども。
あの宝具ラッシュは酷くないですかね。10チェインぐらいしてたぞ。
あの後、回復させてくれたジャンヌマジ聖女。マスターの頃の事は、水に流します。
後、スタンしなくなったんですね。えっ、ギフトガウェインとタイマンで殴り合った? ハハッ、ご冗談を。
「……どっちだったっけ」
自室で一息つきたいのも山々だけど、まずはあの三人に会わなければ。
「あら……新しく召喚されたサーヴァントの方ですか?」
「ん、はい」
紫色のボディスーツに身を包んだ長髪の女性。
その表情はほがらかで、慈愛に満ちているようにも見える。
“そういえば、彼女は……”
「お名前をお伺いしても?」
確か――源頼光。
全体宝具を持つ、優秀なサーヴァントの一人で。
「アランです。よろし――」
「――」
途端、横の壁がぶち抜かれた。
彼女のひじ関節の辺りまで、めり込んでいる。
「ほう、そうでしたか。貴方がアランでしたか」
怒ってる。これは絶対ブチ切れてる。
何かしたっけ……!?
いや、してない。まだ初対面だし……!
「我が子にナイフを突き立てたと。それも背後から?」
し て ま し た。
「――ちょっと、お話でもどうでしょう?
しみゅれーしょんるーむ、とやらでた っ ぷ り と」
「え、あの、ちょっと待たせてる人が……」
「それじゃあ仕方ないですわ……。
――夜道には気を付けて」
「行きましょう! 時間ありますから!」
「来たれい、四天王……!」
「ふがぁぁぁぁっ!」(宝具発動)
「これより逃げた大嘘付きを退治します」
「うおおおおおっ! ――誰だ今の」(宝具発動)
「熱く熱く、蕩けるように」
「あっ、ちょっ」(宝具封印)
「塵芥となるがいい!」
「ぐわあああッ!」
「……まさか、一日で二回も死にかけるとは思わなかったぜ」
タイガースタンプが溜まったぜ、へへ。
何だろう、あの三人に会いに行くだけなのに、どっと疲れたような気がする。
――と、どこからか視線を感じた。
廊下の柱の影から、黒いカソックがはみ出している。……いや、カソックっていうんだっけ。でもそんなの着てるサーヴァントいないような。
ふと、いい匂いがした。淑やかな女性が身に付けるような、そんな香りだ。
「……キアラ?」
「っ!」
肩が大きく跳ねて、はみ出していた体が完全に隠れる。
僅かな沈黙の後、恐る恐ると言った様子で彼女が顔を出した。
被っている
――あれ、角が無い。
「……」
「……」
「初対面、じゃないよな」
「……その、セラフィックス、で」
声が徐々にしぼんでいく。
……あれ、俺の知ってるキアラじゃないぞ。
セラフィックス? そういえば、あの時、俺手を握りながら言ってたよな……。
『きっと誰かが、本当の貴方を待っている』
「あっ……」
待って、こっちも恥ずかしくなって来た。
いい年した大人が二人、顔を赤くして互いを直視できないとはどういうことか。
「……」
「……」
「……その、お怪我は」
「ん、あぁ、大丈夫。すぐ治る。言っただろ、死にぞこないだって」
「……」
柱の影から、キアラが姿を現した。
それは魔性菩薩でもなく、堕ちた天の杯でも無く。
――ごく普通の、一人の少女だった。
「……私が、心配します。
もう少し、体を労わってください」
マジで誰だ。
「……はぁ」
ようやくたどり着いたのはまず一人目。
二人目のセイバー――ランスロットの部屋だ。
「入るぞ、ランスロット」
「……お待ちしておりました、マスター」
サポートをすれば、あらゆる戦闘に適応する円卓の騎士。
ロンドン以降も、俺の名誉を守るために身を粉にして尽力してくれたと言う。
本当に頭が上がらない。
「……悪かった。貴方達に何も言わなくて」
「いえ、お気になさらず。裏切りの騎士、と呼ばれた私に貴方を咎める事など烏滸がましい」
「……ありがとな。あの後も、藤丸達を守ってくれたんだろ。俺に召喚されたってだけで、白い目を向けられて。他のサーヴァントからも疑われて。
それでも――」
「良いのです。私は騎士。主のために尽くせるのなら、それこそ本望。
それに、気づけたのです。貴方に仕えた我らが王は、そして貴方の剣を選んだ私は――間違っていなかったと」
そう言った彼の瞳は、湖面のように穏やかだった。
次に来たのはセイバーオルタ。
……どうするか。いや、マジでどうしよう。
だって暴君でしょ。……でも確か原作ではそんなに殺意はなかったような気がする。
「あー、セイバー。入るぞ」
ノックをして、部屋に足を踏み入れる。
――途端、黒い聖剣が飛んできた。
「うおっ!」
顔を逸らしてかろうじて躱す。
剣はそのまま扉を貫通して、何やら背後からとある槍兵の悲鳴が聞こえて来たが耳を閉じよう。
飛来した剣が配線を破壊したせいか、部屋の照明が消える。
セイバーを見ようと振り向いて、俺は襟首を掴まれて押し倒された。
「セイバー?」
「……」
「……泣いてるのか」
「……何故です」
「……」
「私は貴方の剣になると誓ったはず。
なのに、何故。私に一つも言ってくれなかった。
貴方にとって私は、その程度の存在ですか」
「……そうじゃない。貴方には何度も助けられた。
返せないぐらいの、思い出を貰った」
「……」
「――いや、正直に言うよ。全部、俺の一人よがりだった。
さっき、ランスロットの所でさ。教えて貰ったんだ。ロンドンの後、貴方達が冷たい目で見られてたって事。
そんな事まで、頭が回ってなかった。とにかく必死だった。
……ごめん」
「……なら、今度こそ。今度こそ誓わせてください。
私は貴方の剣となる。このカルデアで何よりも、誰よりも強い剣となる。
――そして、必ず。貴方を守ろう」
「……ありがとう、アルトリア。
それと……そろそろ降りてくれないか?」
「却下だ。私の気が済むまで、こうさせろ」
「……あー」
最後に残ったのはジャンヌ・オルタ。
セイバーは剣が飛んできた。ならジャンヌは……あぁ、燃やされるだろうなぁ。
ノックして扉を開ける。
「……むすっ」
腕組みをして、如何にも私怒ってますをアピールする彼女の姿。
時間神殿の時は必死で見て無かったけど、髪が長くなってる。
「……怒ってる?」
「怒ってません。怒ってませんとも。
えぇ、そうよ。ずっと、ずっと待ってたのに。他のサーヴァントにうつつ抜かして、忘れ去られたなんて、ちっとも思ってませんから」
最初の二回は不可抗力なんで、許していただきたいのですが……。
「……悪かった。その、色々と。隠し事とかしてて」
「……あーだこーだ言わないわよ。貴方にも貴方の理由があったんでしょ。
それを見抜けなかった自分がイヤでたまらないだけ。
――本当に、馬鹿ね。貴方も、私も」
そうだ、彼女はとことん自己評価が低い。
だからこそ、一番先に行ってやるべきところだったと言うのに。
「……」
「……」
「……あー、もう! これで終わり!
貴方が謝罪に来たのなら、私はそれを受け入れます! だからもう、……もう。
それ以上、自分を責めないでよ」
「……」
「ビーストにまでなって。誰かの為に、そこまで生きて。
貴方が一番幸せになりたかったはずなのに……! 一つも、報われていないじゃない……!
私も、あの突撃女も、いけ好かないロクでなしも! そこにムカついてたのよ!」
「そんな事は――」
「分かるわよ! サーヴァントなんだから!」
まいったな、と頭を掻いた。
あの選択は、願いは、間違っていない筈だった。
けど、三人と話してみて。
こんな人生を、求めてくれる人がいたから。
こんな命にも、意味があったのだと気づいてしまった。
それを知っていたのなら、違う未来もあった。
――けど、その未来で、俺は本当に後悔なんて無いのだろうか。
「……あー、もう! アラン!」
「は、はい!?」
バン、と音を立てて彼女がテーブルにおいたのは契約書。
初めて彼女を召喚した時に書かされた一枚だった。
読みやすい文字に、何かが小さく書き足されている。
『二度と、約束を破らない事』
「……」
まぁ、そうだよな。
契約書に、名前を書く。
「またよろしく、ジャンヌ」
「――えぇ。サポート頼むわよ、マスターちゃん」
自室のベッドに座り込んだ。
余りの懐かしさに、思わず息を吐く。
『また、来てしまったわね』
「あぁ、何の因果か。こうして帰って来た。
……もう、ただいまを言うつもりは無かったんだけどなぁ」
『そうね。でも――良かった』
「……? 何が」
『貴方がとても楽しそうで。
悔しいけれど、私一人じゃ貴方の寂しさは紛らわせなかったわ』
「……そんな事無いよ。
貴方がいてくれて、凄く、心強い」
『――ありがとう、マスター。私を呼んでくれて。
一時の夢でしか無かった私に、確かな時間を与えてくれて』
「……こっちこそ、ありがとう。
最初に呼んだサーヴァントが貴方で、本当に良かった」
また帰って来た日常。
ここからまたもう一度、色を付けよう。
もう二度と色褪せる事のない、鮮やかな色を。
「アイスがあったけど、食べるか」
『……そうね、いつもは苦手だったから避けてたけど。
貴方がいるから、食べてみようかしら』
そういえば、楽しそうだったわね。あんな綺麗な子達に囲まれて。
えっ
特にあのキアラと言う子、貴方に口説かれてたもの。
あの、ちょっと?
ねぇ、貴方。今の私、執着が出てきてしまってるから、自分でも何してしまうか分からないの。
あっ、はい。
だから、私。適当にあしらわれたりしたら、獣になっちゃうかもしれないわ。
それとも――貴方が望むなら、本当に な っ て あ げ ま し ょ う か?
やめてください、お願いします。