この聖女、長期戦に強すぎワロエナイ。
後半はまだ未執筆。続くか分からない。
九月は剣豪来るかなぁ……。武蔵欲しいです。
ちなみに今回の後書きは本話と関係ないです。
「ちょっとアンタ、どういう事よ!」
「あちぃっ!」
お前こそ、いきなり部屋に乗り込んでバスタークリティカルぶちかますとはどういう事か。
生存特化のスキルが無ければ瀕死だったぞ。
口に加えていたアイスが溶けてしまった。
「……アンタ、あの冷血女に情熱的な言葉送ったようね」
「……はぁ?」
「……は?」
話が飲み込めない。
消えたと思ったら、カルデアに呼ばれ、シミュレーションルームで素材集めの日々。
こんな日々も悪くないな、と思った矢先の事であった。
「待って、まさかコレ知らないの?」
「何々……。イシュタル杯?」
うわぁ、と声が漏れる。
間違いなくロクな事にならない。あの女神、最後には自爆するタイプだ。
「……でー、これにアルトリア・オルタが出ると?」
「『我がマスターの頼みだからな。サーヴァントとして主を立てるいい機会だ。
……何、貴様は声を掛けられていないのか? あー、それは悪い事をしたな。
生憎、私はマシンの調整で忙しい。貴様は指をくわえてみているがいい』
――むかつく! むかつくぅ! むかつくぅぅぅっ!」
「煽るなー」
ジャンヌにアイスを渡して、とりあえずクールダウンさせる。
まぁ、彼女としてはアルトリアに一泡吹かせたいのだろう。
うん、それは分かる。
で、何でそれを俺の所に持ち込んだか、であるが。
「チラシの要項を見なさい。そこ」
「えーと、二人一組が最低条件、か。
……ん、アルトリアは誰と出るんだ? まさか円卓じゃないだろ」
「あの赤皇帝らしいわ」
「……おいおい。どう考えてもソリが合わな……。いや、合うのか?
そうか、皇帝特権持ちだったな彼女。
……で、他のサーヴァントは誰が出るんだ」
「ま、知ってる限りはこんな所」
見せて貰った用紙を見て、うわぁと声を挙げた。
何だ、このイロモノ揃い。
「しかも教授とか発明家まで出るのかよ……」
で、発案はイシュタルと。
……嫌な予感しかしないなー。
『いいじゃない、面白そうね。
静かな夜の雪もいいけれど、情熱的な日差しも捨てがたいわ』
とうとう彼女までやる気になりました。
……ま、ならやらない理由はないな。
「……ん、待った。とっくにエントリー期間終わってるぞ」
「――よく気づいたわね。そこが肝よ。
突如現れた第三勢力が、優勝をかっさらう! それならあの女の面目も丸つぶれでしょう?」
まぁ、レースだし。不確定要素の投入は確かに場を盛り上げる要因の一つにはなる。
彼女もやりたがっているし、ここは一つ腰を上げよう。
「そういえば、肝心のマシンは?」
「――」
おい、目を合わせてくれ。
と言う事はアレか。きっと彼女、ノープランで来たのだ。
「分かった、マシンはこっちで何とかする。
具体的なプランニングは任せた」
「――さすがマスターちゃん。特別に私と運転席に乗る事を許してあげる」
「光栄だ。じゃあちょっと準備するからまた後で」
一気に上機嫌で去っていく彼女を見送る。
溜息を吐きたい気持ちを抑えながら、ベッドに寝転がった。
「ちょっと、力借りるよ。マシン作るのに、カルデアの素材を使うなんて目も当てれないし。今から集めてたら間に合わない」
『任せて。そのように書きかえればいいのね?』
「あぁ。……ちなみに大丈夫か? さすがに何もない記憶からは」
『大丈夫、ちょっとあの子の記憶を垣間見るだけ。そこから貴方の記憶を借りて、色々手を加えるだけだから』
「……ありがとう、頼もしいよ」
イシュタル企画によるイシュタル杯。
特異点修復を目的とした、娯楽イベント――イシュタルはそう言っていた。
まぁ、でもあの女神の事だ。きっと何か裏があるに違いない。こう、賭け事してるとか、イカサマとか、巻き上げとか。
まぁでも運営側には飛び込みで参加する事は伝えてある。
他のサーヴァントよりも遅れてのスタートになるが問題は無いだろう。
「うっし、準備はいいかジャンヌ。運転は俺がするから、吹き飛ばされないようにな。
しっかりシートベルトするんだぞ。いいか、しっかりするんだぞ」
「二度も言わなくていいわよ! 保護者か、アンタは!」
俺は防御特化。そしてジャンヌ攻撃特化。ならマシンに求めるのは純粋な速度で良い。
で作り出したのが、このバイク。速度に関してならば完全なるモンスターだ。
とある聖杯戦争で使用されたモノ。そして人形師の愛用品のスペックを融合させた完全なオリジナル。――はっきり言って、乗るのがサーヴァントでなければ耐えきれないオーパーツである。
ちなみにタンデムも完備だ。と言うかそうしとかないと、ジャンヌが常に俺の背中に密着する事になるから心臓に悪い。
小さく息を吐いた。まさかサーヴァントになってからバイクを運転するなんて思わなかった。カルデアに生きると言うのもいいのかもしれない。小さな楽しみを見つける幸福がきっとある。
夢の様な日々。人であった頃、ずっと自身の答えを求めていた。けど、それは最初から目の前にあったのだ。運命の被害者になりたいがために、ずっと目を背け続けていた。
当たり前の幸福は、ずっと目の前にあったのだ。
サーヴァントとして呼び出された俺は、新たな人生のスタートラインに立ったばかりだから。
「……」
風が止んだ。
既に合図は鳴った後だから、他のサーヴァント達とは大きく差がついている。
さぁ、本気で走らなくちゃ。
「よし、『レッド・スプリンター』行くぞ!」
ギアを最大。バイクのアクセルを全開にした瞬間――世界を滑り抜けていくかのような風景に飲み込まれた。
速度計などとっくに振り切っている。
体感速度だが、恐らく400km/hはオーバーしているに違いない。
「――いいわ、いいわ! さいっっこううっ!!」
『楽しいわ、楽しいわ! もっと風のようになれるのかしら!』
耳にははしゃぐ女の声が二つ。
あぁ、悪くないな。
『おぉーっと、ここでまさかのレース乱入っ!
カルデア最高の攻撃と防御が手を組んだ、イレギュラー! その名もレッド・スプリンター!』
事前に伝えた時イシュタルもはしゃいでいたように見える。
うん、そう。オッズだとか、配当とかは聞こえなかった。違いない。
「なっ……! マスターっ!?」
「あはははは! 無様ね、冷血女! 私とコイツのコンビが最優って教えて上げるわ!」
気が付けば、アルトリア・オルタとネロ。二人の横にピタリとついていた。
このモンスターマシンは圧巻の走りを見せてくれている。
「ど、どういう事です!? 私だけを応援――。あぁ、そういう事か。そういう事だな、あの女神――。レースが終わったら叩き込む」
「叩き込むとは、プールにか? 余もいい所を知っているぞ」
「いや、エクスカリバーをだ。その後はロンゴミニアドと最果てをぶち込む」
フォーエバー、イシュタル。強く生きろ。
「ふむ、まさかキミ達までいるとはネ」
「おっ、教授。貴方までいたんですか。何か嫌な予感しかしないんですが」
「何、大丈夫。今の私は謎のプロフェッサーであり、新米パパ。愛娘の希望を裏切るような事はしないとも!」
「……パパ?」
「……どう考えても逮捕よ、逮捕。って言うか、コイツ自体がそういう存在だったわね。犯罪紳士を名乗るだけはあるわ」
「ちょっと酷くないかネ!?」
「そうだぞ、ジャンヌ。M教授って呼んであげなさい」
「その性癖のような呼び方はやめてくれると嬉しいかナー」
「あっ、先輩。アランさん達も乱入したようです」
「えぇ、乱入歓迎よ。ひっかきまわしてくれるマシンが多ければ多い程、盛り上がるから。
――ふっふっふっ、これは終わった後が楽しみね」
「そういえば、地雷原だけど大丈夫なんでしょうね」
「あぁ、ジャンヌお前啓示持ってただろ。指示してくれ」
「私、アヴェンジャーだからないんですけど?」
「え?」
「え?」
何か踏んだような音が鳴る。
背後が大きく爆発した。
「……」
「……」
「ちょっとっ!? どうすんのよ!?」
「――あー、焼き払え。地雷ごと」
「――いいわね、最高。コース上の地面焼き払えばいいのね。任せなさい、全部焼き尽くしてあげる」
「あぁ、任せた」
「何、き、貴様ら正気か!? や、やめっ、ヤメロォ!」
そんな女狩人の悲鳴が聞こえたが目を瞑ろう。
どうか彼女には強く生きて欲しい。
「汝の道は、既に途絶えた!」
平原が、蹂躙される――。
人理が修復されてから数日。
カルデアは魔術協会から来る査察に対し、多忙の日々を送っていた。
――が、人理修復の立役者こと藤丸立香はマシュと何人かの護衛のサーヴァントを連れて、帰省中であった。
七つもの特異点を超えて戦い続けた彼と彼女には少しでも休みを上げたいと。――カルデアからその意見に反対する声は一つも無かった。
サーヴァント達は座に還る――事は無い。英霊達の直感は、戦いがまだまだ続く事を予感していた。カルデアの戦いはまだ終わらないのだと。
だが、今は魔術協会からの視察を切り抜ける事が最優先であり、故にサーヴァント達は人と変わらぬ営みをカルデアで送っている。
カルデアの一室で、ダヴィンチは小さく溜息を吐いた。
「――と、まぁ。これが今の未来だよ、アラン君」
カルデアで行われた大掃除。ただアランの一室だけは、誰一人も手を加えることは無かった。
そこだけが時を止めたかの様である。
その一室で、ダヴィンチは持ち込んだ椅子に腰かけて。何もない殺風景な風景を眺めていた。
「……さて、君はこれを私に託した。人理が修復されるまで見ないでくださいと。
理由を聞いてみたら、恥ずかしいからと。笑うしか無かったねー」
まぁ、何とも人間らしい。
そう彼女は笑って、手紙を取り出した。
何でも、彼がカルデアにいる間、気持ちを整理するためにずっと綴っていたらしい。ロンドンの前に処分しようとしたが、中々捨てきれず。こうしてダヴィンチに預けていた訳だ。
手紙には勿論、封はされていない。ただ折り止められているだけ。
懐かしいあの時を思い出しながら、その言葉に目を通した。
『●日目。まだ感覚ははっきりしない。気持ち悪い日々が続いている』
これは特異点Fの時だろうか。
アラン、カルデア、グランドオーダー、サーヴァント――固有名詞が多く目に映る。
まるで今を整理しているかのようだ。
『人理焼却が為された世界は、あらゆるイフがある。なら、死んだはずの俺が生き続けているのは、それが理由なのか。
俺はどうするべきか、まだ分からない』
書かれている内容はフランス以降の彼の気持ちだろうか。
迷っていると分かった。
まるで救いを求めているかのような言葉が、残骸のように散らばっている。
何故気づいてあげられなかったのか、と小さく溜息を溢した。
『分かった事がある。多分これは誰しもが抱えてきた悩みなんだろう。
そして最期には誰しもが必ず向き合わなきゃいけないもの。俺はただそれに気づかなかっただけ』
セプテム以降か。ローマでの人々の暮らし。そしてローマを称えるような内容が記されていた。
心なしか、文字が緩やかに書かれているようにも見える。フランスでの筆記と比べれば、ほんの些細な変化であったが。
きっと、人々との出会いが何かをもたらしたのだろう。
残った手紙も二通。片方の封を開けると、そこには短い文章が書かれている。
『ようやく、自分が何をしたのか分かったよ』
手紙の残りから見て恐らくオケアノスか。
せっかくだし、もうちょっと心の中を綴ってくれよと呟きながら、もう片方の手紙に手を伸ばす。
「……おや?」
手紙の中に写真が一枚。
――カルデアの面々が映った写真だ。ロンドン出撃前夜に撮った物。
真ん中に立香、そして左右にマシュとロマニ。その後ろにダヴィンチとサーヴァント達。
そしてサーヴァント達に囲まれ、やや緊張した様子のカルデア職員達。だがムニエルに至ってはアストルフォとデオンに囲まれ、有頂天の表情になっている。
そういえば彼とアランは妙に仲が良かったっけ。
その写真を見て思わず微笑み――そして彼がいない事に気づいた。
「……そうか。だから君はわざわざシャッターを」
一番写りたかったのは、君だっただろうに。
「今のカルデアも広くなったからね。それにセルフタイマーだってきちんとある。
今度は一緒に映って貰うぜ、アラン君」
そんな軽口を叩きながら、最後の手紙を開いた。
今までに比べて文章が多い。
『答えは得た。この思いと記憶があれば、大丈夫。俺は悪にだってなれる。
ようやくたどり着いた、俺のたった一つの答え。英雄達と共に歩んだ末に見た、俺の――。
全て間違いでもいい。信じたモノを守れたなら』
『でも、時々夢に見てしまう。
彼らと共に歩む人生を。自分の足で未来を踏みしめる事が出来るかもしれない夢を。
そんなのは、きっとただの幻だ。俺は死人でしかない。
多くの人が死んで来た。獣か、或いはそれすら区分出来ない化け物に。彼らだって生きたかった未来があった筈。燃え尽きた人々だってそうだ。
なのに、今こうして俺だけがかろうじて人のまま生き延びている。本当の死を迎えた癖に』
これは彼のサーヴァントには見せられないな、と。
そんな言葉が漏れた。
君は死人じゃない。カルデアで生きた、確かな人だ。
私達と一緒に、君は今を生きていたじゃないか。
『もうすぐ、ロンドンに行かなくちゃいけない。そこで俺はカルデアを裏切る。でもそれがきっと、魔術王から彼らの運命を繋ぐ切っ掛けになる筈。
思えば俺は臆病だった。最初のオルレアンでは死に慣れず、サーヴァントの足を引っ張った。セプテムでもオケアノスでもそうだ。
結局最後の最後まで死を克服する事なんて俺には出来なかった。だから正直今でも怖い。逃げだしたくてたまらない。でもそんな俺がここまで来れたのは、貴方達がいてくれたから。俺が、独りじゃなかったから』
手に力が篭る。
そんな大きすぎるモノじゃない。彼との日々は何気ない事だった。
朝普通に起きて挨拶し、雑談しながら食事し、たまに訓練する。そんな何の他愛も無い、当たり前の日常だった。どこにでもあるような光景でしか無かったと言うのに。
『失くせない物を失くした弱さ。何も信じられなくなる脆さ。
それを全て受け入れる事が出来たのは。そして前に進む事が出来たのは、カルデアの人々がいてくれたから。貴方達の勇気の光が、俺を照らしてくれた
ここまで来た。後少し。ほんの少しだ。
皆、今までありがとう。こんな臆病な俺に、少しだけ力を貸してくれ』
手紙はそれで終わりだった。
カルデアに生きた彼の物語はここで終わり。次は獣に堕ちたある青年の話になる。
いや、堕ちたのではない。
――選んだ、と言った方がいいのだろう。
彼が選んだ
「……」
全ての手紙を折りたたんだ。
テーブルに重ねて並べる。簡易的な魔術でそれに火を付けた。もう誰の目にも止まる事は無い。
今のカルデアに、彼の言葉は重すぎる。特に彼と契約したサーヴァントは後悔に捕らわれるだろう。
これを渡した後、出来たら誰の目にも止まらないように隠滅してほしいと彼は頼んできた。
「全く、天才へのお願いが証拠隠滅とは。まぁ、何とも……。
――いや、だからこそ私に頼んだんだね、キミは。天才であるこの私だから決して間違える筈は無いと」
卑屈過ぎだよ、と届かない声を挙げた。
思えば彼の自己評価はとことん低かった。魔術師らしからぬ人物だった。
今の彼がどこにいるのかは分からない。
だがカルデアが一つだけ確かに決めている事がある。
「悲しい別れなんて、私達は大嫌いだ。そんな事、誰であっても許すもんか。
何があっても、絶対キミを連れ戻して見せるからね、アラン君。
だからもう少しだけ耐えていてくれ」