カルデアに生き延びました。   作:ソン

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日常回。まぁ、こんな形ですが、不定期で更新していきます。
内容はギャグ方面だったり、シリアスだったり、ただ単純に書きたい場面だったり。

省きましたが、特異点の戦いもいつか書ければ……。


「訣別の時、来たれり」(2回目)の方ですが、ちょっと書き足してます。オリ主の心情だったりを追加してるので、見て頂ければ……。


外伝3 回想と剣

 

 

 カルデアの一室、広間で俺はランスロットと剣を打ち合っていた。

 オルレアン以降、マスターとして何とか護身程度の実力はつけておきたいから。無理言ってランスロットに頼んだのだ。

 ちなみに使用している剣はエミヤ作成である。

 

「――っっ!!」

 

 払われた衝撃で、肩ごと持っていかれそうになる。

 体を捻り、何とか受け流しつつ。明らかに手加減されているであろう斬撃をいなし続ける。

 防戦一方――それもランスロットはかなり手を抜いている。力を弱めているのではなく、一撃を挟む空隙がありすぎるというのに、そこを狙わないのだ。

 彼が狙うのは俺が持つ剣であり、それを壊さないよう力加減を調整しながら打ち込んできている。

 

「暫し休憩を。ここまで打たれながらも立てるのは確かに進歩ですマスター」

「あ、あぁ、あり、がとう。容赦ないな、ランスロット」

「我がマスターからの頼み事であれば尚更」

 

 俺が彼女から力を得ているとはいえ、俺自身の技量が低ければ意味がない。死の線が見えても、そこまで刃が届かなければ無意味。

 

「受け流しは上達しています。並の敵ならば、互角。後少しの差を詰めれば勝利を掴めるかと」

 

 水で喉を潤す。ランスロットが放つ重圧は抑えられてはいるが、それでも全身が委縮しそうになる。

 ――けれど、それに耐えて動ける事が出来れば。まぁ、何とかフランスの兵士達には及ばないけど。新米ぐらいの働きは出来るだろう。

 

「ふむ、何やら騒がしいと思えば、サーヴァントと鍛錬か。随分、懐かしい事をしているなキミは」

「アーチャー……」

「エミヤでいい。此度の聖杯戦争ではアーチャーは一種の分類に過ぎないからな」

 

 紅い外套を羽織った、皮肉屋のサーヴァント。

 遠近どちらの間合いにおいても一流の働きを見せ、さらにはカルデアの台所事情まで預かるほどの家事スキルの持ち主。

 とある少年の終着点でもある。

 

「差し入れだ。緑の弓兵から、まだ食堂にキミが来ていないとの報告があってね。わざわざ足を運んできた。

 特訓に精を出すのもいいが、他を疎かにしては意味がない。一日三食と睡眠はしっかりと取る事だ」

「……ありがとう」

 

 わざわざ料理をお盆に乗せてラップで包装している。そういえば、この間はマシュにおにぎりの作り方を教えていたっけ。

 そういえば、さくらの模様とかも教えてあげてたなぁ……。

 

「ランスロット卿も一つ如何かね」

「かたじけない、エミヤ殿」

 

 いつも気になる事がある。

 ――エミヤは、どんな聖杯戦争を歩んだ彼なのだろう。

 たまに聞きたくなるが、その都度内心、口をつぐんでいる。

 根掘り葉掘り詮索されるのは、きっと気持ちの良い事では無いから。

 

「……なぁ、エミヤ」

「何かね。キッチンならタマモキャットとブーディカに任せているから心配は無用だが」

「エミヤの剣ってさ、どうやって鍛えたんだ? 我流みたいだけど……」

「……あぁ。私は元々、弓が得意でね。生まれてこの方、狙い自体を外した事は一度も無い。

 だが距離を詰められれば、そうも言ってられない。アタランテ女史のように近距離でも一流の弓兵として戦えるサーヴァントはいるがね。私はそれほど器用じゃなかった。だから剣が必要だったのさ」

 

 それはどれだけ過酷だったのか。

 望まない事を強いられ続ける人生程、窮屈なモノは無い。けれど、彼は。優しすぎたから。そして折れる事を良しとしなかったから。

 あらゆる事を、受け入れて。そして、辿り着いたのかもしれない。

 

「アラン、現代を生きるキミがわざわざ剣を取って生きる必要はない。そんなものは一部の物好きにでもやらせておけばいい事だ。

 マスターの役割は後方支援に徹する事。カルデアのマスターであるキミ達はよくやれているよ。既に特異点を二つ修復しているという結果が、その評価を現している」

「同じく。マスターも立香殿も、良いお人柄だ。どちらの我が王も不満は無いでしょう」

 

 

 ――心が痛む。

 俺はまだ、それを。口にすることは出来ない。

 ランスロット、俺がこの先で起こす事に比べれば貴方の裏切りなんて細やかなモノだ。もう許されていい筈だ。

 だって貴方は、苦しむ人を見過ごせない人だから。

 本当に、英霊は報われない。彼らの最期を、夢で見る時がある。それが余りにも惨くて、辛くて。文字で見るだけでもキツいのに、それを実際に見てしまえば――。

 だから彼らには、幸せになってほしいと。何度、願った事か。

 

 

「……では、私はそろそ――」

 

 

「――ここにいたか、マスター」

 

 

 扉を開けて入ってきたのは、我らが黒王様。

 あぁ、アレは多分怒ってる時だ。それぐらいは分かるようになってきた。

 

「私へのジャンクの供給はどうし――いや、そんな事はどうでもいい。

 まぁ、それぐらいは目を瞑ろう。私も王の端くれだ。挨拶に来なかったことも水に流そう。――万歩譲って、あの突撃女を優先したとしても。私は許してやろう」

 

 鎧姿とかどう見ても臨戦態勢です。ありがとうございます。

 しかもバイザーついてるし。

 

「だが、私やあの放火女よりも、ランスロットとの時間を優先した事だけは許せん。

 ――あぁ、ランスロット。貴様は下がっていろ。利口な貴様の事だ、主の命令には逆らえないだろう。今の貴公に非は無い。故に黙って、霊体化していろ」

「……申し訳ありません、マスター」

 

 小声でつぶやき、ランスロットが霊体化する。いつの間にかエミヤもいない。

 ……まぁ、そうだよなぁ。今のアルトリア、人の話聞かなさそうだもんなぁ。

 

「喜ぶがいい、マスター。これから私が剣の師だ。お前が私の剣を真似る様になるまで、骨の髄まで仕込んでやる」

 

 聖剣が黒く輝く。

 あぁ、俺生きていられるかなぁ……。

 

 

 

 

「――!!」

 

 黒い極光が迸る。体を逸らし、回避――線が見えない事は無いが、アルトリアの剣技の速度に俺の斬撃は追い付けない。故に回避に徹する。

 だが距離を空けてはならない。間合いなど彼女は一瞬で無意味にしてくる。

 

「……っぁ」

 

 続けて迫る追撃。刀で払えば体ごと持っていかれる。

 いくらサーヴァント化したこの身とはいえ、無傷では済まない。

 吹き飛ばされないよう、地面を強く踏みしめて。さらなる追撃を警戒する。

 

「……ふむ、ここまでだ。やはりサーヴァント化しても変わらないな、貴方は。

 出会った頃のままだ――そしてやはり私の剣は、真似ないのですね」

「真似出来ないよ、貴方の剣は。俺には、遠すぎる」

 

 星の輝き、なんて。俺には重すぎる。

 だから、この一振りでいい。俺には、この夢の名残があれば。

 

「……ここまでで良いでしょう。これ以上は貴方も危うい」

「……強いなぁ、セイバー」

 

 鞘を納める。

 俺の一刀は未だに素人。英霊達から稽古をつけてもらっているが、まだまだ未熟。

 彼女のいる場所――雲耀には至らない。この霊基は彼女から全て借りたモノ。だからそれに相応しいモノを身につけなくてならない。

 いつか、届くんだろうか。あの一閃に。

 

「――マスター、バーガーを所望する。3ダースだ」

「了解。食堂行くか、アルトリア」

 

 バイザーが解除。彼女の素顔が露わになる。

 かつてブリテンを治めた王。そのもう一つの側面。

 けれどオルタになっても、きっとその根本は変わっていない。

 

「そうだ、アルトリア」

「何だ、マスター」

「改めて、これからもよろしく。まだ未熟な身だけど、精一杯お前の隣に立てるような相応しい奴になるから」

「――」

「……?」

「――えぇ、こちらこそ。

 この身、この剣はこれからも。ずっと、貴方の下にある」

 

 

 

 

「うーむ、やはりアラン殿はフラグ管理がお上手ですなぁ」

「……黒髭―?」

「いやいやいや、嫉妬ではありませんぞ? アラン殿が立てているフラグは現在三つ。アルトリア嬢、黒い方のジャンヌ嬢、キアラ嬢――どれも一歩間違えれば即道場行きですからなぁ」

「……あぁ、うん……」

『ねぇ、マスター。この物体、切り落としていいかしら?』

 

 やめてください式。キミの刀を汚したくない。

 

「で・す・が! 拙者の慧眼はしかと捉えております。

 アラン殿には、既に身も心も捧げた女性がいると!」

 

 今、凍った。食堂の空気が完全に凍った。

 やばい、ビーストの気配も感じたぞ今。

 

『ねぇマスター。この生物を消すのは少し早い気がするから。線を撫で斬りするぐらいで許してあげましょう?』

 

 それ死ぬよね。でも彼、こう見えて意外と強いから何とかなるか?

 ガッツ持ちだし。何気に回復役もこなせるし。

 

「さぁさぁ、YOU白状しちゃいなYOー。……ハッ、まさかもう身を固め――ゴハァッ!?」

 

 あっ、斬られて燃やされてゼパられた。

 

「マスター?」

「マスターちゃん?」

「アラン様?」

 

 遠目にランスロットを見る。あっ、親指立てられた。

 エミヤを見る。あっ、頷いた。

 

「――どうなるかなぁ」

 

 冷たい目でこちらを見つめる三人と、俺の傍で楽しそうに微笑む彼女。

 おかしいな、そんなつもりじゃなかったんだけど……。

 

“そりゃ、恋愛したいとは思ったけどさ”

 

 ――ロマンスは、苦手だ。

 

 

 

 





「アラン」
「何……? エミヤ」
「まぁ、アレだ。日々のスケジュールはしっかり管理しておきたまえ。
 うっかり予定が被るとアレだ。皆を幸せにしなくてはならなくなる」
「えっ」
「君の三人も理不尽の塊だからな。人生の先輩としての忠告だ」
「えっ」
「何かあればいつでも相談してくれ。――あぁ、何。キミも少年だと分かってる。安心したよ」
「えっ」

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