カルデアに生き延びました。   作:ソン

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筆が乗りました。書いた切っ掛けはとある課金観戦動画から。

本編はギャグ回。あとがきは軽くシリアス回。


外伝4 女の話をしよう。

 

 

 

 

 果たしてここは、俺の知るカルデアなのだろうか。

 齟齬が酷い。ボタンを掛け間違えたとかのレベルじゃない。コーラを頼んだらコーヒーが来たとかじゃない。

 もっとこう、根幹の話だ。

 

「あぁ!? だから胸が最高だって言ってるんだろうがぁ!」

「馬鹿野郎、尻を追っかけてこその男だろうが! あのラインの良さが分からないのか!?」

「テメェら、いい加減にしろよ! どっちも追いかけてこそ意味がある! どちらかを捨てるなんて俺には出来ない!」

「きあらさま」

 

 会議室で白熱する、議論。声を荒げるスタッフ達。

 第四特異点以降、何があったカルデア。

 

 

“何でこうなったかなぁ……”

 

 

 

 事の発端は、ムニエルに誘われた事からだろう。

 何でもシークレットで行われる月間の会議があるのだという。

 サーヴァントではあるけれど、まぁちょっとお邪魔させてもらった。

 会議室に入ると部屋の奥には黒いフードを被った男とカルデアの職員達が並んで座っていた。

 

「ほう、飛び入り参加とは。しかもアラン氏なら歓迎でおじゃる」

 

 お前絶対隠す気ないだろ。

 そんな事を考えた矢先――バンとホワイトボードに出現したのは『どのサーヴァントが至高か』と言う議題であった。

 うん、それは確かに。荒れるのは分かる。

 だって皆それぞれに良さがあるもん。

 

「と言う訳でまずは各々のトップスリーを見ていこうと思う。ハリー。まずはお前からだ」

「任せろ。

 俺は元々癒されるのが好きでな。カルデアに来る前は双眼鏡で園児を眺めて過ごしていた。距離が近いと怖がらせてしまうからな。そんなのは愛じゃない」

 

 ハリー茜沢。立香をスカウトしたという、偉業を成し遂げた男。

 彼が手に持ったフリップには三人のサーヴァントの名前が乗っている。

 

『アサシン・パライソ

 静謐のハサン

ジャック・ザ・リッパー』

 

 ――あぁ、分かる。

 多分、あの基準は……。

 

「俺は、幸薄な少女を、幸せにしたいんだ……っ!」

「ハリー……っ!」

「茜沢……っ!」

「アンダーソン……っ!」

 

 呼び方統一してあげて。

 

「……だがハリー氏。本音はもう一つあるでござるな?」

「――! あぁ、勿論。

 少女は、ロリは、刹那の美しさは――尊い」

「! ハリー、お前……年下趣味だったのか」

「そういえば日本だと高校生以下にしか声を掛けていなかったって」

 

 ……あー。まぁ、スカウトするだったら素質ありそうな若いタイプ選ぶもんな。

 園児眺めてた件と言い、よく捕まらずに済んだなぁ。良かった。

 

「俺はリリィの可能性に全てを賭ける」

「待てハリー。じゃあお前はブーディカさんやドレイク船長のリリィにも期待を」

「馬鹿ぬかすんじゃねぇ! ブーディカさんとBBAはあの姿だからいいんだよ!」

「リリィはレア度が落ち着くから呼びやすくなる! 適度な強さと癒しを持つ同志を、俺は増やしていきたいっ!」

「テメェ、メドゥーサやメディア嬢に喧嘩売ってんのか」

「落ち着け。まずは全員の意見を聞いてからだ」

「きあらさま」

 

 後でアルトリア・リリィとクッキーでも作ろう。癒されるぞきっと。

 

「じゃあムニエル氏は……もう知ってるからいいとして。

 スタッフA殿。頼むでござる」

「何故スタッフAと?」

「この会議は匿名希望も受け入れますからなぁ」

「小生の押しは……この三人だ!」

 

『アルトリア・オルタ

 ジャンヌ・オルタ

 ランサーアルトリア・オルタ』

 

「――っっっ!!!!」

「考えても見ろ。あのアルトリアさんやジャンヌさんが、優しい女神のような二人が。

 冷たい目で、罵声を呟くんだぞ? ――たまらん!」

「スタッフA……! まさかここで爆弾を投下するとは……!」

 

 やめて、ウチのサーヴァントをやらしい目で見ないで。

 どういう表情したらいいか分からないから。

 

「ところで、あの二人。最近私服気合入れてない?」

「分かる。太腿が至高。一度挟まれたい」

「後でメドゥーサさんに投げ技お願いしようぜ。冷たい目しながら投げてくれたゾ」

「成仏してくれ」

「アラン氏、何か意見は? 彼女たちのマスターでござろう?」

 

 ランサーアルトリア・オルタとは正直に言えば召喚した訳じゃないけど。いろいろと気にかけてくれるし、凄い世話を焼いてくれる。

 最初、オルタなのかって凄い疑問だったし。

 

「……とりあえず、ランサーの方のオルタは冷たい視線あんまりしないぞ? 罵声も無いし」

「何、だと……」

「馬鹿な、オルタの定義は!?」

「今すぐ調べなおせ! 我々の定義が崩れる!」

「きあらさま」

 

 これ、言うべきか悩んだけどもう言おうかな。

 うん、彼女を。誤解されたくないし。

 

「二人きりの時は敬語で呼んでくれるし。主って呼んでくれるから親しみやすいよ」

 

 

「……ごっはぁっ!!!」

 

 

 あ、何人か吐血した。

 

 

「ば、馬鹿な……主、呼びだと? そんな事、マイルームで一度も……」

「敬語、敬語? 上から見下ろしながら、主呼びと敬語……たまらん」

 

 ……まぁ、確かに。バレンタインの時とか。通信が無い時だけだもんなぁ。

 マイルームに忍び込むサーヴァントも増えてるし。

 

「あ、アラン氏。一度でいい、その音声を録音して……」

「俺がロンゴミニられるからパスで」

 

 霊基はセイバーだけど、あのクリティカル本当に痛いから。

 しかも宝具防御無視だし……。

 

「まー、後はカルデアのツンデレ代表二人か。定評はあるが、これ以上言葉で語るのは無粋だ。

 次に行こう。スタッフB」

「待てよ、ジル・ド・レェの旦那のセンスには無反応かよ!? オルタちゃんの父親だぞ!」

「旦那GJ!」

「超COOOOOL!!」

「きあらさま」

「うむ、盛り上がってきたところですなぁ! そのテンションで次のスタッフB、頼みますぞ!」

「――俺の押しはたった一人だ。許されるのであれば、俺は横から手を差し入れたい。

 行くぜ、俺の本音(ステラ)!」

 

『アーチャー・インフェルノ』

 

 超 分 か る。

 

「……スタッフB、そうか。お前は彼女しか選べなかったんだな」

「彼女とゲームをしたいだけの人生だった」

「待て、まだだ。まだ俺達カルデアには使命がある。

 彼女に、アーチャー・インフェルノに、生前の笑顔を取り戻してもらうことだ」

「!!」

「お前……! 自分が幸せにしてやろうとは、考えないのか」

「ハッ、一度は考えたとも。だがな、だからこそ。彼女に、またもう一度、強く。笑ってほしいんだよ」

「つまり、引き寄せるのか。彼を」

「あぁ、やるしかねぇだろ。それで彼女が強く笑ってくれるなら、俺達はやってやる。

 聖杯なんかじゃねぇ。俺達で、その願い叶えてやろうぜ」

「カードの準備をしておけ。口座はステラしてもいい」

「へっ、そうだな。欲しいモンは何としてでも手に入れるのが俺達だ。

 それが女の子の笑顔なら、尚更だぜ。パイマケC94までに手に入れてやる」

「あぁ、そうだ。インフェルノちゃんだけじゃない!

 生前夫婦だった英霊達は引き合わせてあげたい!」

「ブーディカさんもか!?」

「馬鹿野郎! ブーディカさんは家族まとめて会わせてあげるんだよ!」

 

 おっ、なんかいい雰囲気になってきた。

 彼らの言う事には大方同意だ。だって俺は男だし。女の子の笑顔が見たいのは、まぁ当然だろう。

 

「待て。生前、仲が悪かった夫婦はどうなる?」

 

 空気が凍り付いた。

 そうだ、一人代表格がいる。

 

「あぁ!? だったらメディア嬢はいつまで立っても幸せになれねぇってことじゃねぇか! 旦那見ろよ! イアソンだぞ、権力だけは持ってるクズだぞ!」

「うるせぇ! だったら、イアソンと真逆の男見つければいいだけだろうが!」

「――」

「――」

「――」

 

 

「「そ れ だ!」」

 

 

「イアソンと真逆と言うと……」

「物静かで、どんな時も冷静で、一番前で戦って――無駄口を開かない堅物キャラ」

「……いるのか、そんな人間」

「いるとも。きっと、日本のどこかの地方の学校に」

 

 具体的ですね……。

 

 

 

 

「――大方、推し鯖も出揃ったところで、本題に入るでおじゃる。

 ぶっちゃけ、鯖のどこに魅力を感じる?」

「項!」

「胸!」

「腰!」

「尻!」

「足!」

「きあらさま」

 

 あっ、戦争の予感。

 

「ハッ、胸だけとは浅はかだな。腰から尻にかけての黄金比に気づかないのかよ」

「ならテメェはふかふかのおっぱいに抱き着きたいと思わねぇのか!」

「きあらさま」

「――最高に決まってんだろ! けどな、それでも俺はその光景を、忘れた事はねぇんだよ!」

「なぁ、アラン! オルタちゃん達でも、キアラ様でもいい! 胸の感触はどうだった!?」

「……俺はサーヴァントに欲情しないよう、誓っています。だから手を出した事も手を出すつもりもありません」

「!!!!」

「お前……何て、勿体ない」

「いや、違う……。分かったぞ、アラン。

 お前、手を出されるのを待っているな!?」

 

 ど う し て そ う な っ た。

 いや、頼む。マジで刺激しないで。

 俺の後ろで式が笑ってるから。ビースト化しそうだから。

 

「――待て、そういえばアラン。お前の推しを聞いてなかった」

 

 やめて。本当にやめて。

 助けて。

 

「……え、えっと……。雪のような少女で。」

「雪……?」

「少女?」

「まさか……」

 

 

「「「イリヤたん!?」」」

 

 

 コイツら、マジで黙らせて。

 誰か、一掃してくれ。

 

 

「――天上解脱なさいませ?」

 

 

 そんな声が響くと共に、集まっていた職員達が吸い込まれていく。

 グッバイフォーエバー。

 今度帰ってくるときは真人間になれよ。

 

「……助かったよ、キアラ」

「いえ。欲深い声が聞こえたものですから」

 

 キアラの服装はフードを降ろした尼装束。

 うん、良く似合ってる。

 

「……それで、アラン様?」

「ん?」

「貴方様は、女性のどこに、気を惹かれるのですか?」

「そりゃ……。あんまり考えないかな」

「……はい?」

「人を好きになるっていうのはさ、その人の事全部纏めて好きになるって事だろ。

 だから、惹かれるっていうよりは。好きなものは好きって感じ」

「あ、あら、あらあら。私とした事が……。少し失礼します」

 

 去っていくキアラ。

 最後に散らかった会議室を見る。

 

 

「……ひょっとしてあのまま会議続いてたら、セラフィックスみたいになってたのか?」

 

 

 案外、滅びなんて些細な事から始まるのかもしれない。

 まぁでも。何とか。性癖とかバレなくてよかった。 

 

 






「おい」
「アンデルセン?」
「何でもあのメロン峠に恋を教えたそうだな。また面倒ごとに首を突っ込みたがる馬鹿がいたものだ」
「あー……悪い。貴方の役目を奪って」
「フン、構わんさ。同じことは二度言わんから。丁度手間が省けた。
 ――それとだ、一つ忠告させろ」
「……?」
「お前がキアラに恋を教えた事など、どうでもいい。だが、もしもだ。もし仮にお前が俺を気遣ってアイツと距離を置くのならそれは全くの見当違い。全く勘違いも甚だしいと言っておこう」
「……」
「俺が愛したのは、化け物だ。名も無き少年少女の恋に破れた、色欲魔だ。あの月の裏側で、その化け物は死に。そして俺の愛は終わった。
 あのキアラはその化け物とは別物だ。アレは恋を知り、誰かへの愛を覚えた、ただの少女だ。俺は人間を愛さない。ましてやそれが、少女なら猶更だ。祝ってやる気も、さらさらおきん。あの晩の出来事はもうごめんだ」
「あの晩……?」
「聞いたぞ、お前はサーヴァントに欲情しないと決めたらしいな? ハッ、馬鹿を言う。
 ならば愛とは何だ? 体を貪り合う事か、交わる事か、委ねる事か? ――違う。だがわざわざ語る必要はない。
何故ならお前は既に愛を知っているからだ。それが恋ではなくとも、真摯な愛であるのなら。俺が口を挟む事ではない」
「……?」

 去っていく彼を見送る。あぁ、全く。彼の喋る量が多すぎる。
 でもまぁ、キアラの事だし。仕方ないか。



「せいぜい悩め、若き少年よ。あぁ、全く。これだから物語とは面白い。
 恋を知る少女にハッピーエンドを送れるのは、愛を知る者だけだからな」

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