カルデアに生き延びました。   作:ソン

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外伝の設定が纏まらねぇ……。外伝は二部と並行して進めると言いましたが、ちょっときつそうです。二部の展開次第かなぁ……。


後、異伝3にワンシーン追加しました。壁が殴りたくなったくらい、書いてて悲しくなったので時間がある方は見てくだされば。


外伝6 過ぎる影

 今、カルデアは未曾有の危機である。

 室内の気温は42℃。その影響が職員に及んでいる事は言うまでも無く、サーヴァントにまでその余波が来ている事は想定外だった。

 ドクター曰く、これは熱病であるとの事だった。しかしその原因がどこから来ているのからが分からない以上、手の打ちようがない。サーヴァントですらダウンしている以上、彼らに動いてもらう事も適わない。

 最早カルデアの本来の機能はマヒしており、ここは一種の野戦病院と化している。

 立香が一部のサーヴァント達の助力にて、現在冥界にレイシフト中であった。そこにこの熱病の原因があると言う。

 ただしそこに何の縁も無い俺は同行する事が出来ず。カルデアに留守番である。しかし、ただ待っているだけと言うのも何であるから、苦しんでいる彼らの手助けをするべく、看病を行っていた。

 

「……にしてもこれは大変だなぁ」

 

 一人一人の部屋を訪問し下膳していく。

 食器の詰まったワゴンは最早一種のタワーである。

 何故か、今回の事態に対しては俺と立香だけは無影響であった。と言うか朝起きたら隣にキアラいたし。布団かけて、速攻で逃げた。

 幸い、食事自体は栄養食品があるため、まだギリギリ保てている。でもまぁ、メニューは相当ディストピアじみているけれど。

 食堂に戻り、ごみを捨てて、背骨を伸ばす。また一人一人の部屋を回って、氷嚢を変えてあげないと。

 

「そうだ、氷氷……確か冷蔵庫に」

 

 冷蔵庫を開けた瞬間、何かが滑り落ちてきた。

 ――その顔はカルデアの準黒幕ともいえる存在。

 

「ぱ、パラケルスス!? 何で、冷蔵庫に!?」

「――」

「ふ、婦長おおおおっ!!!」

 

 立香はまだ帰ってこない。

 

 

 

 

 パラケルススはバベッジ卿の部屋に置いてきた。あそこなら多分大丈夫だろう。

 一人で歩くには、カルデアは広すぎる。いつもなら百名を超えるサーヴァントや、カルデア職員が行き交う通路には俺一人だ。

 

「……それにしても、どうしたんだか」

 

 最近、式の声が聞こえない。存在は感じ取れるのだが、俺が何を呼び掛けても一切返事が無いのだ。最初は何か怒っていたと思っていたが、それにしては長すぎる。

 せっかくのクリスマスも一人では寂しい。

 

「次は、アルトリアか。入るぞ」

 

 ノックをして部屋に入ると、アイスを咥えたままダウンしているアルトリア。

 よく見ると水着になっている。確かイシュタル杯の後、また皆で海に行ったんだっけ。

 どうも近頃、懐かしい記憶ばかりがよぎってくる。

 

「……あぁ、もう。熱が出てるなら、着こんでおかないと」

「マスターか。面倒をかける」

「面倒なら俺も昔かけたから大丈夫。それよりも着込まないと」

「……」

 

 服の裾を何やら引っかかっている。

 振り返ると、彼女が指先でつまんでいた。

 

「マスター」

「どうかしたか」

「お前は、私のマスターだな」

「うん、そうだ。俺が貴方を召喚した事実は変わらない。

 例えどんな事があっても、俺は貴方のマスターで在り続けるよ」

「……そうか」

 

 彼女の手が、俺の頬に触れた。

 その顔がいつになく紅潮している。

 

「マスター、今度は、どこにも。行かないで、ください」

 

 そういって、アルトリアは目を閉じた。

 頬に触れていた手を布団の中に。一枚かけて電気毛布を。さらにもう一枚上から重ねておく。

 これできっと大丈夫。まずは汗を出してあげないと。

 

「……どこにも、か」

 

 時折、自分が自分じゃないような気がするのは確かだ。

 せっかく、カルデアに戻ってきたのにあまりスッキリしない。

 部屋を出る。――見覚えのある人影。

 

「やぁ、奇遇だね」

「マーリン……。貴方は影響を受けないのか?」

「はは、こう見えても、最高峰の魔術師の一人だからね。感覚を遮断するなんて、造作もない事さ」

「なら、手伝ってくれてもいいだろうに」

「いやぁ、キミならともかく。僕から受ける看病なんて信用出来るかい?」

「あー……人によるんじゃないか」

「賞賛と受け取っておくよ。自他ともに認めるロクデナシの一人だからね」

 

 確かにキャスターを名乗るのに、聖剣で殴りに行く事を良しとしているし。結構発言も自由だし。そこはあまり信用されていないだろう。

 だが彼のサポートが一級品なのは確かだ。俺も何回か世話になった。

 

「そうそう、一つ話が合ってね。そろそろマスターが帰還する。直にこの病も治まるだろう。

 これで晴れて元通り。カルデアもその機能を取り戻す」

「そうか。なら良かった。皆が回復するには」

「うーん、不摂生な生活をしていると長引くと思うよ? 医療班の彼らは明日にでも全快するんじゃないかな」

「……よく見ているんだな、貴方は」

「そりゃそうだとも。僕にとって、人間は一冊の本だ。見た目は同じでも内容は全く違うんだからね。

 心惹かれる物語もあれば、後味の悪い結末だってある」

 

 それを、変えたいと思わないのだろうかと思ってしまう。

 でも口にするのは無粋だ。

 一人が救える人間の数は限られている。いくらマーリンが世界の終わりまで生きていて、時折自由に抜け出せると言っても、それを押し付ける義務は無い。

 救うとはそういう事だ。救ったモノの人生を、背負う事だ。

 彼は人間には興味がない。作品が大好きなだけであって、作者自身に意味を求めていないのだ。

 

「何が言いたいかは分かるさ。だから、全部見ているよ。そして覚えている。

 僕には余る程時間があるからね。数多の路傍の石の最期を覚えておくなんて、容易いものさ」

「……」

「……ごめん、暗い話になったね。ここで一つ、気分でも紛らわすために、少しだけ王の話をするとしよう」

 

 そういって、マーリンが語ったのは一組の少年少女の話だった。

 途中、部屋の背後で何か物音がしたような気がする。

 ……そういえば、ここアルトリア・オルタの部屋の前……。

 

「王は言いました。

かわいい。すぐ大きくして――ぐっはぁっ!」

 

 ドアをぶち破って、黒い聖剣が飛来しマーリンへと直撃する。

 あ、今クリティカルいったなコレ。

 

「退散退散、後は任せるよ……」

 

 ――何の魔術を使ったのか、粒子となって消滅した。

 あれ、これやられた時のあれじゃ……。

 

「マスター」

「アルトリア。寝てないと……」

「忘れなさい、今の話を。今すぐに」

「……はい」

 

 あの時のアルトリアの眼が真剣だったことだけは語っておこう。

 

 

 

 

「ジャンヌー、入るぞ」

「……好きにすれば」

 

 部屋に入ると、やはり彼女もダウンしている。

 炎を操ると言っても、熱には勝てないらしい。

 

「ほら、氷嚢。変えに来た」

「……どうも」

「食事取れてるか」

「……多少は」

「そうか。立香が原因を解決したらしい。明日には収束し始めるから、頑張ろう」

「……そう」

「……」

「……」

 

 まずい、会話が続かない。

 だがこのまま立ち去るのも如何なものか。だが女性の部屋に不必要にいるというのもアレだし。

 

「……マスター」

「どうした」

「最近、夢を見るわ。それもとびっきり最悪な夢」

「……」

「アンタがいなくなる夢。この世界のどこを探しても、アンタがいない。その癖、私がそこに残っている」

「……」

「ねぇ。今度こそ、いなくならないわよね」

「……あぁ、約束する。どんな事になったって、必ずカルデアに戻るよ」

「……そう。なら、良かった」

 

 そういって、彼女はまた眠り始めた。

 どうにも最近良くない方向に考え始めているのかもしれない。

 部屋を出て、小さく息を吐いた。

 

「……待て」

 

 ふと何かが引っかかる。

 ……そもそも俺はどのタイミングでここに召喚された?

 終局の悪に至る者として、あの場所に捕らえられた。けど、ここに確かにサーヴァントとして召喚された。

 

「……」

 

 でも、もし。

 

 まだ、俺が。終局の悪に至る途中(・・・・・・・・・)の存在だとしたら?

 

 カルデアは、またとんでもない爆弾を抱える事になる。

 

「……」

 

 だけど、俺が途中で自害してもそれは変わらない。あの場所にまた戻るか、或いは本来のビーストⅦだった者達に譲渡されるだけだ。

 

 これは俺が選んだことで、俺が決めた事。

 

「……大丈夫」

 

 きっと、何とか。上手く耐えていける筈。

 

 

 

 

「……ふむ、さすがにこれは残酷だね。だがどうしようもない」

 

「器の内、既に四つが満ちている。それも恐らく彼女を取り込んだんだろうね。

 ――それでまだ、自我を保てているなんて、奇跡に近い」

 

 カルデアの片隅で、とある魔術師は静かに呟いた。

 

「――夢見の魔術師か」

「おや、キング君。君も無事だったんだね」

「我が体に病など無用。既にこの身が死に至る病であれば。

 ……やはり、満ちていたか」

「うん、それもね。中で増幅を続けている。本来なら、順に満たされていく器が一気に満たされた。

 恐らく、そう遠くない未来で、彼は目覚めるだろう。魔術師としてそれだけは断言する」

「――醜悪極まる」

「全く、その通りだ。しかも最悪な事に、正規な目覚め方じゃない。グランドとしては振舞えない。骨を折るハメになりそうだね」

「問題ない。我が剣に冠位など不要。暗殺術に微塵の衰えも無し」

「これは頼もしい。それじゃあ、後僅かな平穏を楽しむとしよう」

 

 

 

 

 

「いやぁ、助かったよアラン君。医者なのに倒れるなんて……」

「ロマニは鍛えてないからねー。免疫と耐性は別の話だよ?」

「そういうダヴィンチちゃんも倒れてたくせに」

「あれは徹夜してただけですー」

 

 カルデアの食堂。そこでは特に変わりのない日常がある。

 生きててほしい人がいて、あってほしい未来があって。それで俺には充分すぎるのに。それを近くで感じられる事に、幸福すら覚えてしまう。

 

“……生きてて、欲しかったし”

 

 例えば、その想いが刹那の時でしかなくても。

 例えば、その願いが片時の夢でしかなくても。

 それでも、俺はここに在る。

 いつか、この記憶も。この感情も。オレ自身であった筈の何もかもが、塗りつぶされてしまうのだとしても。

 確かに、ここに生きていた。

 いつか、俺が俺じゃなくなってしまっても。ただの獣に成り果てて、全て零れ落ちてしまっても。

 

「マスター、種火の時間だ。以前は熱で無様を見せてしまったが、問題ない」

「行くわよ、マスターちゃん」

「マスター、参りましょう。このランスロット、先陣として切り込みましょう」

「よし、行こうか」

 

 

 ここで生きた時間を、忘れたくない。

 

 

 




「ふむ、いい出来だ」
「エミヤ殿、申し訳ないが少しお時間よろしいでしょうか?」
「どうかしたかね、ガウェイン卿。……いや、待て。何故円卓の面々がそろっている?」
「いえ、ただ一つ聞きたい事がありまして。マーリン、あの一言を」
「『かわいい、すぐ大きくしてあげないと』」
「――――ッッッ!!!」
「逃げたぞ、追えっーーー!!」
「テメッ、父上に何しやがったなぁぁぁっ!!!」

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