カルデアに生き延びました。   作:ソン

41 / 69
会話文多め。自分の語彙力の無さがただただ恨めしいばかり。


外伝 終節 未来Ⅱ

 

『やぁ、お帰り。まだ心の整理はついていないかもしれないけど、今は休んでくれ。

 話はそれからでも充分間に合う』

 

 その出会いを覚えている。

 特異点Fを修復した後、初めてその人を見た。

 子供のような明るい笑顔に、優しい空気でどこか憎めない雰囲気を漂わせている。

 死に怯えていた頃の俺に、よく声を掛けてくれていて。その言葉と黄金の日々があったからこそ、俺はここまで戦えた。

 そして、未来を視たのだ。

 

 

『それじゃあ、改めて名乗らせてもらおうか』

 

 

 彼が消える未来を。

 それが嫌で、受け入れたくなくて。

 貴方に少しでも、生きててほしかったから。

 俺は、ここまで走ってこれたのだ。その未来を、否定するために。

 

 

『完膚なきまでに完全な勝利を』

 

 

 でも、俺は。貴方達が傍にいない世界なんて、見たくなかったんだ。

 例えそれが運命だとしても、生きててほしかったから。

 どうせ勝つのなら、皆で。一緒に。

 

 

 

 

 サーヴァントとラフムが争う中、立香の前に彼が立っている。

 いつものように、変わらない穏やかな笑みを浮かべて。

 

「ドクター……何で」

「……正直言うよ。僕はずっと迷っていた。彼の代わりに僕が生きている事にずっと疑問を覚えていた。

 例えサーヴァントになっても。帰ってきてくれて嬉しかったんだよ」

 

 懐かしむような表情で、ビーストⅦを見上げる。

 吠えていた筈の獣は、ただじっとロマニ・アーキマンを見つめていた。

 

「彼との思い出を。彼が僕に繋いでくれた未来を、笑って生きようって。

 ただ、楽しかった。カルデアで彼と過ごした新しい日々は。

 だからね、決めたんだよ」

 

 手袋が外される。

 そこに指輪が一つ、嵌められていた。

 

「この先、例えどんな事があったとしても。立香君を、そしてアラン君も。カルデアの皆を守るって。

 それが、年長者の責任ってヤツだからね。

 さてと、それじゃあ名乗らせて貰おうかな、ビーストⅦ。お前と対峙するのに、この格好じゃ示しが付かない」

 

 その姿が、淡く光り出す。

 見慣れていた白衣は、かつてのロンドン、そして時間神殿で見たモノと酷似していた。

 けれど、一つ違うのはその表情だった。

 

「我が名は、ソロモン。

 ビーストⅠを生み出した元凶でもあり、訣別を告げるモノだ」

 

 

 

 

 

「――そうか、覚悟を決めたねソロモン」

「あぁ、極点に戻ってきたとも。空から見ているだけじゃ、地上の愉しみなんて分からないし」

 

 ソロモン王の隣にマーリンが立つ。

 いつものように涼し気な表情で。目を細めながら。ただ微笑んで。

 

「――その心、見事」

「あぁ、自分の仕事はして見せるさ。ハサン。元々これは、私が招いてしまった事だから」

「露払いは承ろう。あの程度の残滓、この剣の前では塵にすぎぬ」

 

 ビーストⅦが吠える。

 けどそれは、以前の咆哮ではなくて。

 ――まるで、悲鳴のようだった。

 

「――ビーストⅦ。その中に残るのは、ビーストⅠとビーストⅡのみ。

 なら、私のやるべき事は分かっている」

 

 ソロモン王の周囲に魔力が溢れていく。

 それはかつての王の奇跡を再現する宝具。

 

「誕生の時、きたれり。其は全てを修める者」

 

 

『……さよならは言わないよロマニ。私から言えるのはそれだけだ』

「それで充分だよ、レオナルド」

『――』

「おや、何も言わないのかいホームズ。何か期待していたんだけどな」

『――やはり友人が増えるのはよくないな。仕事柄、こういう事には慣れているんだが』

『ドクター……』

「マシュ、済まないね。でも、今のマシュなら大丈夫。

 本の世界じゃない、キミは実際に世界を見た。人々に触れた。なら、もう僕の教える事なんて無い。

 もうキミは、立派な一人の女の子だ」

 

 

「戴冠の時、きたれり。其は全てを始める者」

 

 

「……ドクター」

「立香君、前を向くんだ。だって君は世界を救った、最高のマスターなんだから」

「そんな……。だって、俺は。皆に、カルデアの人達に支えられてただけで……」

「それでいいんだよ。人は誰かの荷物を背負って生きる事は出来ない。

 でもね、崩れそうになる体を少しくらいは支えて、一緒に歩く事くらいは出来る。それをキミ達は証明した。

 だから、信じているよ。この先の未来も、ずっと。人類は続いていくと」

 

 

「そして――」

 

 

『やぁ、お帰りアラン君。レイシフト、お疲れ様』

『……あ』

『うん、どうかした?』

『いや、その……。帰ってこれたんだなって、思ってですね』

 

 

「訣別の時、きたれり。其は全てを手放す者」

 

 

『ちょっとドクター、夢見過ぎじゃないですかね。いい年して割と子供っぽいというか……』

『うーん……でも、浪漫を見るのは人の特権だろう。せっかくの人生だし、自由に楽しんでもいいと思うよ僕は。

 それにね、何て言うか響きもいいし。ロマンって』

 

『ほら、アラン君も』

『ドクターは?』

『セルフタイマーがなくてね。誰か一人、あの輪から離れなきゃいけないんだ』

 

『ほら、アラン君。写真を取りに行こう』

『……あ、いや。俺は』

『何だ、またシャッター係かい? それなら引き受けてくれるサーヴァントがいるんだし。好意に甘えとこようよ。彼からカメラを奪おうとしても、僕の時のようにはいかないからね』

『そーそー。それにキミは優勝したんだ。なら当然写る権利がある。だってキミはカルデア(こっち)じゃないか』

 

『僕らは意味の為に生きるんじゃない。生きた事に意味を見出すために生きているんだ』

『意味を、見出すために』

『そう。だからアラン君。君は生きたいように生きていいんだよ。

 人はね、思ったより自由だから』

 

 

「アラン君。キミと過ごした時間は、ただ楽しくて、美しい記憶だった。僕の数少ない宝物だ。キミと出会えて、一緒に生きる事が出来て、幸せだった。

 ――僕の未来を繋ぎとめてくれて、ありがとう」

「■■■――――!!!!!」

 

 獣が悲鳴を上げた。その言葉の先を、塗りつぶすように。否定するように。

 ただ、聞きたくないと。

 

 

「――――アルス・ノヴァ」

 

 

 ただ光が、弾けていく。

 黄金の輝きが薄れていく。ただただ消えていく。

 光が収まった後、そこにはロマニ・アーキマンの姿があった。――もうその体は透けていて、輪郭がよく見えない。

 

「これで、ビーストⅠの力は消滅した。後はビーストⅡだけだ。

 幸い、ここにはハサンもいる。後はキミ達の未来を取り戻すだけだ。最早、ビーストⅡしか残っていない。

 その獣は、撃破可能な障害に過ぎない」

「……っ!」

「さぁ、行っておいで立香君。この戦いを以てして、人理修復の旅は終わりを迎える。

 その旅路をずっと、見守っているよ」

「……あり、がとうございました! ドクター!」

 

 

 その言葉に、彼は微笑んで。

 

 

 そうして――光の残滓となって、消滅した。

 

 

『ロマニ・アーキマンの消滅、確認、しました……』

 

「■■■■■―――!」

 

 ビーストⅦが吠える。一層けたたましく、悲壮な声音を上げて。

 ただ天に吠えていく。

 その翼から、無数のラフムが放出されていく。

 

『っ! その数、一万っ! 宝具を!』

『ダメだ、サーヴァントとの距離が離れすぎている! 間に合わない!』

 

 無数のラフムと目線が合う。

 それはかつてバビロニアで感じた殺意。

 けど、臆することなく、ただ拳を握りしめて。睨み返した。

 

 

「――例え絶望にあろうとも、目を背けず空を睨む。

 それでこそ、カルデアのマスターだ」

 

 

 ラフム達が燃えて、凍って、刻まれて、潰されて――ありとあらゆる手段で消えていく。

 まるで、この世界に存在する全てをここに体現したかのように。

 瞬く間に、殲滅されていく。一万の軍勢が、僅か数秒で消失した。

 

『何だ、一体、何が……!』

 

 立香が見たのは、一つの影だった。シャドウサーヴァントのようにも見える。

 フードを被っているのか、口元しか朧気に見えない。

 その手には刀が握られていて、それだけは紫電を輝かせて。ビーストⅦの姿を映し出していた。

 

「訳あって、顔を出せなくてね。こんなカタチで申し訳ない」

『認識阻害だ。かなり高度の……マーリンが使っていたモノに匹敵する』

『サーヴァントです! ただ……どのパターンにも照合しません! 一切が不明……!』

「……カルデアの人々か。オレの事はセイバーと呼んでくれ。

 事情は把握しているよ。今この場においては貴方達の味方だ。悲劇を終わらせよう」

 

 声にも認識阻害が掛けられているのか、青年の声であるとはわかるがそれ以上が分からない。

 ――ただ、どこか。聞き覚えのあるような気がする。

 

 

「成程、溶け込んで一つになっている。自分のカタチを失って……あぁ、だからオレが呼ばれたのか。

 ――指揮を頼む、マスター」

 

 

 既に、ビーストⅢとビーストⅠの能力は消滅した。残るはビーストⅡのみ。

 

 夜明けは、近い。

 

 

 

 

 

 

 





 オレを生み出した男の願いに、応えよう。

 それがきっと、オレの生まれた意味だ。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。