カルデアに生き延びました。   作:ソン

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4月1日になる前に。


最後は、問答無用のハッピーエンドを。


カルデアに生き延びました。

 

 俺こと、アランは時間神殿からカルデアに帰還した。

 無事再開を果たし、中へ連れ込まれ、眼前にあるのはただ一つの光景である。

 

「……なにこれ」

 

 カルデアの一室、正座させられている俺の前に広がるのは、数多のサーヴァント達とカルデア職員の姿だった。

 背後の扉はロックされており、どこぞのアサシンが召喚しやがった女看守が警護している。即ち逃亡不可能。

 

「ではこれより、お説教を始めます」

「……え?」

 

 ルーラーことジャンヌ・ダルクの言葉に、俺以外の誰もが頷いた。

 立香とマシュ、ドクターだけが微笑ましく笑ってくれていた。

 うん、助けてくれると嬉しいカナー。えっ、無理。そうですか。

 

 

「まず、アラン君。無事に帰ってきてくれた事は正直ほっとしています。

 貴方がいなくなってから、カルデアは少しだけ広くなってしまいましたから」

 

 多分、ジャンヌさんが仕切ってるのはルーラーだからだろうなぁ。他のルーラーは……。

 マルタ――多分言葉より、肉体言語で会話してくるんだろうなぁ。

 ホームズ――ロクでなしに言われると何か腹が立つ。というか名探偵だからその手はお手の物だろう。多分、俺が何かを言ったときにそれを論破してくるに違いない。

 ……ジャンヌさんでよかったわ。

 

「ただ! あの第四特異点は話が別です!」

「……あー」

 

 確かに。第四特異点はあまりいい思い出じゃない。

 アレは俺が魔術王から記憶の干渉を受けなければ、まず思い出さなかった。

 

「まずカルデアの職員の方からの証言を。ダ・ヴィンチさん、お願いします」

「オッケー。任せたまえ」

「え、貴方サーヴァントじゃ」

「レオナルドパーンチ!」

「理不尽!」

 

 鉄拳制裁とはこの事か。

 痛みと衝撃で変な角度に曲がった首をもとに戻す。

 

「……と、まぁ。これで大概はすっきりしたとして」

 

 ダ・ヴィンチちゃんは近づいてくると、俺の頭にそっと手を置いた。まるで子供の頭を撫でるかのように。

 

「私からの証言なんて実はないさ。さっきのがしたかっただけだからね。

 アラン君、正直言うとね。私はあの第四特異点で全滅する事すら覚悟していたんだ。何せ、相手はグランドだからね。あの場に乗り込んで、戦ってやろうかとすら思った」

「……」

「――そこに一石を投じたのはキミだ。どういう理論か、なんて全く分からないけど。キミはあの時、英霊化した。凡庸な体で冠位に挑み、命を燃やして時間を稼ぎ続けた。そのおかげで、私達は立香君を助ける事が出来て。今、こうして人類の未来は続いている」

 

 俺と目線を合わせて、ダ・ヴィンチちゃんは微笑んだ。

 

「紛れも無いキミのおかげだよ。カルデアが続いているのは。

 ――最初も(・・・)その次(・・・)もね」

「……え」

 

 今、なんて――。

 

「繰り返したんだろう? ビーストになって私達を裏切ろうとした最初と、私達のために魔術王と戦った事。

 私達はサーヴァントだ。ありえたかもしれないもう一つの未来なんて、きっかけがあれば思い出せるのさ」

「……」

「――もう、意外とバカなんだねぇキミは。

 何もかも一人で抱え込んで、そうして先に突っ走っては消えてしまうんだから」

「……でも、そうしなきゃ……」

「そういう時こそ、大人に頼ってくれなきゃ。キミはまだ子供なんだから」

「……」

 

 そういえば、時間神殿で俺は聖杯に願った。カルデアの人々の幸せを。

 ――それが、きっと奇跡をなしたのだろう。

 俺という個人が辿った無数の末路。人理修復の際に散らばった破片(けつまつ)を拾い集めて、一つの未来(いま)を作り上げたのだ。

 つまり今、俺がいる現在はきっと。あらゆる過去と可能性が有り得たという事になる。

 まるで、魔法のようだと思ってしまう。

 

「でもまぁ、それはそれとして」

「……え?」

 

 俺の頭を撫でる手が止まる。

 そうして俺の頬に触れて、少しずつその肉を抓っていく。

 

「面倒ごとを押し付けられたんだから、これぐらいはしてもいいかなー? いいよねー?」

「いや、あの、謝りますから。その義手で抓るのはやめてください」

「うーん、最近助手がほしくてねー。こー、何でも聞いてくれるようなねー」

 

 ギリギリと力が強くなってくる。

 痛い、痛いです。ダ・ヴィンチちゃん。

 

「わかりました。なんでもしますから、許してください」

「……ほう。言質はとったよ? アラン君。万能の天才の“何でも”は重いからね?」

 

 あ、死んだわこれ。

 

「とまぁ、私から言いたい事はこれぐらいさ。それじゃああとは任せたよ、ルーラー」

 

 槌を叩く音。

 また次の人物へと移るようだ。まだ、続くのかコレ。

 

「――マスター、お気持ちは分かりますが、どうか穏やかに。

 皆、嬉しいのですよ。無事に帰ってきてくれた事が」

「……キミは」

 

 俺にそう語りかけるのは銀髪の少女。

 ……あれ、待って。俺は、彼女を召喚した記憶は――。

 

 

“キミにまだ、伝えていない事があるんだ”

 

 

“三画の令呪を以て、三度の祈りを此処に遺す”

 

 

 ――あぁ、いや。そうか、そうだったな。

 

 

 全ての可能性が、この未来に集まっただけなんだから。

 

 

「――そうだな、インフェルノ。

 あと……ただいま」

「……はい、お帰りなさい。マスター」

 

 彼女の後ろに佇む白髪の青年。彼は何も言わず、ただ目線を合わせてうなずくだけだった。黄金の鎧が微かに煌めく。

 

「という事で、次の証言はインフェルノさんからですが……」

「いえ、全てだ・ゔぃんち殿が語ってくれましたから。

 それに、マスターは帰ってきてくれた。私にはそれで充分です」

 

 そういって、彼女は微笑んだ。

 その笑顔にどこか既視感と安堵を覚えて。

 

「……わかりました。後は、キアラさんですが……」

「いえ、私も結構。後で個人的に伺いますから」

 

 それ、一番危ないですよね。

 えっ、セラピストだからセーフ?

 

「……」

 

 ちらりとアンデルセンを見る。頭を横に振った。

 アイツのタイプライターのキーボード配置、こっそり入れ変えてやる。

 そんな決意を小さく掲げた。

 

「……残りの証人はいませんね。お疲れさまでした。ごめんなさい、帰ってきてそうそう、こんな事をしてしまって。

 どうしても確認したい事があったからです」

「確認したい事?」

「はい、アラン君が第四特異点で霊基を借りたサーヴァント。その名前を知りたいのです」

 

 思考が停滞する。

 それを語るか語るまいか。俺はずっと悩んでいたからだ。

 彼女の事を、ずっと。

 

「ここからは私たちが引き継ごう」

 

 前に出たのは、人類最高の頭脳を持つであろうホームズと、新宿のアーチャーだった。

 

「こちらとしても、それだけははっきりさせておきたくてね。キミに霊基を譲り渡したサーヴァントに興味がある。

 あの戦いでは、ありとあらゆる全ての魔術が使用されたといってもいい。だから、まずキャスターが候補に浮かんだ。

 だが、キャスター諸君から話を聞いたところアレは全て借り物だ。自身で編み出したものではない。よって、キャスターは除外」

 

 あ、これマズい。

 何か、犯人探しされてるみたいな感じだ。

 

「ランサー、アーチャー、アサシン、ライダー、バーサーカーもこの中では除外した。限りなく可能性は低い。エクストラクラスも考慮したが、それではキリがないからね。

 残ったのは、セイバーだけだ。

 刀を使うセイバー――いない事はない。昔の極東は魔境ともいえる。

 ただ、それだと矛盾が出る。なぜ、彼らが現代を生きる魔術師達の魔術を使えるのか。

 シンクロニシティ、というわけでもあるまい」

「……」

「私としても、ホームズが解けない謎があるのは少しシャクなのさ、ボーイ。

 あの戦いの証言と映像を何度も見たが、ハッキリしないのだよ。アレはどこの英霊なのだネ?」

 

 違う、彼女は英霊なんかじゃない。

 寂しい事が苦手な、ただの女の子だ。

 それだけははっきり言える。

 

「……」

 

 けど、慎重に。言葉を選べ。

 あの二人だ。仕草、表情、目線。これだけで真意をくみ取られてもおかしくない。

 

「英霊って言うよりも……」

「ふむ、彼は英霊じゃないのかネ?」

「いや、彼女は――あっ」

 

 失態に気づいても、もう遅い。

 どこからか駆け付けてきたオルタ二人が、俺の元まで詰め寄ってくる。

 ……そういえば、言ってなかったなぁ。

 

「女、女か。いえ、どこの馬の骨だ貴様」

「は、じゃあ、何。私らはずっと、のろけを見せられてたってコト?」

「あ、いや……」

 

 後ろで爆笑している名探偵と犯罪教授。あぁ、そうだよなぁ。こういう光景、見るのが好きそうだもんなぁ。

 

「むっ! 新しいセイバーの気配! ここですか!」

 

 と、ヒロインXまで乱入してきた。

 あぁ、何か騒がしい空気になってきた。

 

“えぇ、そうね。だから起きてしまったわ”

 

 そんな声が脳裏によぎる。

 瞬間、ヒロインXが即座に頭を下げ――その首があったところを無拍子の一閃が煌めいた。

 

「ジェットォー!」

「あら、残念。斬りおとしてあげたかったのに」

 

 あっ、顕現した。

 それも何で俺の隣に立つんでしょうか。

 突然の乱入に、場の雰囲気が一気に冷たくなった。

 

「初めまして、カルデアの方々。私は……そうね。彼に最初に呼ばれたサーヴァント。

 名乗ってしまうと、あの子の迷惑になるでしょうから内緒にさせてもらえるかしら」

 

 オルタ二人、そんなに睨まないの。

 ダヴィンチちゃんが前に出た。そういえば、彼女のことを少しだけぼかして伝えていたっけ。

 

「どうもこれは丁寧に。外見の通り、礼節を弁えていると見た。

 私はレオナルド・ダ・ヴィンチ。貴方の事は彼からそれなりに聞いていたよ」

「マスターったら、他人に女性の事を教えるなんて酷い人ね」

 

 いや、貴方もその時傍にいたと思うんですが……。

 

「確かに。ロンドンでの彼と一致している所が見受けられるね。その羽織に刀に、瞳の色。

 でもそれだと魔術は――あぁ、そういうコトか。合点がいったよ」

 

 ダ・ヴィンチちゃんが頷く。

 魔術王の発言をくみ取れば、彼女が根源への可能性を秘めている事に気づくだろう。

 だが、それを口に出せば厄介なことになると分かったのか。ただ口を噤んでくれた。

 

「……うん、カルデアとしては姿がわかっただけでも良しとしよう」

「あら、中身を知ろうとは思わないのね」

「何、アラン君が全幅の信頼を置いたサーヴァントだ。なら疑う訳が無いとも」

 

 その言葉に、彼女は小さく微笑んだ。

 あ、痛いから。そんなに足踏まないでオルタ。

 

「――ん、終わったかい。皆」

「ドクター……」

 

 そんな空気を破るように、ひょっこりとまた姿を現した。

 白い箱を乗せたワゴンを押している。

 

「ほら、辛気臭い顔しちゃダメだよアラン君。もう面倒ごとは終わったんだ」

「……」

 

 ドクターは手袋をしておらず。その手に指輪は無かった。

 もう役目を終えたのだと。そう言わんばかりに。

 

「前に行っただろ? ケーキでお祝いをしようって。

 さぁ、新たなカルデアの幕開け記念だ。そうだね……カルデア・アニバーサリーっていった所かな」

 

 白い箱が開けられて、ケーキが見える。

 多分、厨房で他のサーヴァント達が作ってくれてるのだろう。

 

「――俺」

「ん?」

「色々あって迷惑かけてしまったけど。

 カルデアに、皆に出会えて。本当に、良かったです」

 

 声が震えそうになる。

 カルデアの人々と生きるこの時間が、本当に幸せだから。

 また何気なく、この日々を過ごせる事が、未だに一夜の夢のように思えてしまうから。

 

「何を今更。キミは、既にカルデアの一員だよ。それは変わる事のない事実だ。

 ――あぁ、いや。そんな言葉はもういらないね。だって、当たり前の事なんだから。

 お帰り、アラン君。こんなボクだけど、何かあればまたサポートするから。よろしくね」

「……はい、よろしくお願いしますドクター」

 

 

 




「と、いい風に終わらせようとしてもそうはいかんぞ、マスター」
「えぇ、そうよ。マスターちゃんには一つハッキリさせなきゃいけない事があるでしょ?」
「……あれ」

 まだ続くの、コレ?

「そうね、私も気になるわマスター。――せっかくの機会だもの。貴方の口からききたいわ」
「……」
「――何やら気になるお話をされているご様子。私に気になりますわ。せっかく、貴方のサーヴァントになれたのですから。
 夢の続きを望むのは、ごく当然の事でありましょう?」
「……えっ」

 えーと、アルトリア、ジャンヌ、「」、キアラ。
 この中から、一番を選べと?
 オルタ、ビースト、人類悪からとな?

「むっ、何やら争いの気配。いけませんよ、皆様方。節度、節度です」

 インフェルノ……。

「ですが、気にはなりませんか? 貴方もサーヴァントであるのなら、自身が選ばれたいと思うのではなくて?」
「言った筈です。私はマスターが帰ってきてくれた。ただそれだけで充分なのです」

 インフェルノォ……。

「でも、マスターは人たらしよ? 私だけじゃなくて、多様なご婦人に声をかけてるみたいだから」
「むっ」
「声をかける割には、自分ではっきりと答えを言わないもの。二人きりの時だけしか告げてくれないから」
「むむっ」
「サーヴァントなら、マスターの性格を整えるのも役目じゃなくて?」
「むむむっ……。マスター、少しばかりお灸をすえる必要がありそうですね」

 インフェルノォォォォッ!!

「令呪を以て命ずる――。共倒れになってくれ、ランスロット!」
「なっ、それは殺生ですマスター!」
「頼むぞ、円卓最強っ!」

 大丈夫、大丈夫。
 相手はアルトリアとジャンヌと「」とキアラとインフェルノだ。
 ――アレ、無理ゲーじゃねコレ。
 いや、まだだ! まだ一人、望みがある!
 最強の一角がここに!

「カルナ、頼む……!」
「ふむ、確かに。それは必要な事と見える。望みとあらば、手を貸そう」
「カルナ……」
「マスター、その性根は一度叩き直した方がよさそうだ。いい薬になるだろう」
「カルナァァァァッ!」




 あぁ、楽しい。ただこうして、当たり前に騒げる日々が、何よりも。


 もうこの道は途切れる事は無いだろう。


 だから、ただ。心の底から笑おう。心の底から喜ぼう。


 俺は、カルデアに生きているのだと。


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