思い付きで書くものじゃないですねホント。
オルタと「」を弄り過ぎて、原作の良さを殺している気がしてならない。
そして「」が好きすぎてオリ主に殺意が湧いてきた。
言峰教会――アイリスフィールさんから聞いた話では聖杯戦争参加者はここに赴き参加を表明しなくてはならないそうだ。監督役と言う人物にそれを伝えなくてはならないらしい。
日中ではあるものの聖杯戦争の最中であり、ましてや俺はイレギュラーでもある以上暗殺の可能性がある事を考慮する必要があった。傍らには私服に着替えたアルトリア・オルタ、背後には霊体化したランスロットと「」が控えている。
アルトリアが運転するバイクに跨り、教会へ向かう道中。昨夜まとめた情報を思い返す。
「……」
まずこの特異点にいるのは俺だけだ。他のマスターが弾かれる中、俺だけが吸い込まれるようにレイシフトされた。以後、存在証明こそかろうじて行えているものの、一切の通信も遮断されている。――つまりカルデアからの支援は絶望に等しい。
脱出はこの特異点を修復しなければ不可能。他のサーヴァントもそれは同義。つまり俺は彼らの命も預かっている事になる以上、それを踏まえて行動しなければならない。特に複数のサーヴァントを保有しているとなれば、真っ先に狙われる対象だ。相手側を刺激しすぎないよう、立ち回りには慎重を重ねる必要がある。味方に出来る可能性を、自ら潰していくのは悪手としか言えないだろう。つまり、自らサーヴァント撃破を狙っていくのは最低限に絞らなければならない。
カルデアからのサーヴァントは今三騎のみ。アルトリア・オルタ、「」、ランスロットだ。ただしランスロットは現地のサーヴァントと霊基グラフを同期しているためカルデアからの魔力支援が無く、俺の自前で賄う必要がある。この体が魔力タンクになった事にはただ感謝するばかりだ。
エミヤ・オルタ――俺がこの特異点で最初に出会った存在。目覚めた時には傍にいた事から、俺の事を全て知っていたと見ていい。信頼はまだ難しいが、信用は充分。
他のサーヴァント――昨夜で五騎は実際にこの目で見た。アサシンは「」の発言から考えるに百貌のハサンだろう。キャスターのみが不明。だが現在、冬木市を騒がせている児童集団失踪事件の発生がごく最近である事も考慮すると、恐らくキャスターであるジル・ド・レェの可能性が高い。
誰も彼もが一筋縄ではいかない。念には念を入れなければならない。倒すべき敵は慎重に。確実に一線を越えた者だけは、被害が拡大する前に倒す。
「ついたぞ、マスター」
「ありがとう、アルトリア」
バイクを降りる。ヘルメットを座席下のスペースに収納し、教会を見上げた。何というか、思ったより神聖らしさは感じない。
言峰教会の門を叩いて、中に入る。広がるのは想像していた通りの風景。
「失礼します」
「――神の扉はいつ如何なる時も開かれている。言葉は不要だ、少年」
奥に立っていた若い青年――無機質なその瞳に、心の奥まで見透かされているような錯覚を抱いてしまう。
空っぽだと思ってしまった。俺とこの人では、見えている光景の美しさまでもが違うような気がする。
「ようこそ、八人目のマスター。私は言峰綺礼。この戦いの行く末を見届ける者だ。本来の監督役である父は席を外している。要件ならば私が伺おう」
「アラン・アニムスフィアです。八人目のマスターであり、セイバーを召喚しました。
遅れましたが、第四次聖杯戦争への参加を受諾して頂きたい」
嘘は言っていない。「」とアルトリアはセイバーでもあるし、俺が召喚した。
その内面を既に見抜いているのか或いは生来のものか。男は微かに笑った。
「宜しい、八人目のマスターとして君を歓迎しよう。清廉なる戦いを所望する」
“マスター、気をつけろ。コイツは何か違うぞ”
アルトリアの念話に、自身の違和感を確信する。
人間と話している筈なのに、そういった感じが全く無いのだ。
「さて、早速だが伝えなくてはならないことがある。
昨夜、ランサー陣営の脱落を確認した」
「!?」
「昨夜、倉庫街での戦いの後に魔力計がサーヴァントの脱落を確認した。
全マスターに招集をかけたところ、キャスターとバーサーカー、ランサーの所だけ一切の返答が無かった。アサシンから得た情報をまとめ推察した所、ランサーの陣営のみマスターとサーヴァント共に確認できなかったため、我々はランサーが脱落したと判断した」
「――待て。貴様今、アサシンと言ったな。監督役がサーヴァントを有すると?」
「私のアサシンは斥候としては優秀だが、戦闘能力は魔術師にも劣る。到底、戦えたものではない。故に聖杯戦争の運営に回したのだ。
この私に聖杯へ叶える願いなど無いのでね。別段、敗退しようと今後に変わりない」
「……ほう、気配遮断の出来るサーヴァントが使えないと? 直にマスター殺しを狙えるクラスだろう?」
「私の手に余ると言った方がいいかね。或いは私を信用しないならそれで構わないとも。
――ではこちらも問おう。
少年、現在君と組んだサーヴァントは四騎確認した。拳銃を使うアーチャー、反転した騎士王、間桐を滅ぼしたバーサーカー、こちらのアサシンを容易く斬り捨てた着物の少女。本来、聖杯戦争は七騎。君個人に対し、半数以上のサーヴァントが所属するというのは、どのような手を使ったのかね」
「……それは」
言峰綺礼は口調も態度も一切変えない。アルトリアに睨まれようが、「」が微弱な殺意をぶつけようが、どこ吹く風と言った様子だ。
明らかに戦闘慣れしている。それも異能との戦いに。
「私個人としては別段どうでもいい事だが、他のマスターから苦情も出ているのだよ。何かしらのペナルティか或いは自害させるべきだとも」
「――先に断っておきますが、後者は何があっても受け入れるつもりはありません」
「……話は最後まで聞くべきだと教わらなかったのかね。私個人としてそれは容認している。既に父には話を通してある。
八人目のマスターに対し、ペナルティは不要であると」
事実として、今のサーヴァントでギルガメッシュ一人を簡単に倒せるかと問われれば、難しいと言うのが本音だ。
これに彼の慢心とそこを狙った戦術を重ねて――ようやく勝利の芽が見えてくると言ったレベルと呼んでもいい。
「」の存在がある以上、いつどこで彼が切り札を抜いてもおかしくないからだ。
俺だってサーヴァントを失うのは嫌だし、精神的にも応える。
だからこそ分からない。何故、目の前の男は俺の立場を庇う必要がある?
「……」
「聖杯戦争に正々堂々と規則通りに戦うマスターはいない。真っ当なサーヴァントと真っ当なマスターと言う組み合わせはたかが知れる。前哨戦など、事静かに終えてほしいものだ」
「……運営役の言葉とは思えませんね」
「何、こちらとしても恨み言の一つや二つは吐きたいという事でね。他のマスターは被害など考えずに暴れてくれるからな。
隠蔽処理にも限度がある。全く、事後処理が面倒でならん」
? 最後の言葉だけ、何だかやけに実感がこもっていたような……。
頭を横に振って、話に集中する。
「君の参加表明は受諾した。第四次聖杯戦争への正式な参加を認めよう。
決意を胸に、聖杯を目指しその願いを叶えるがいい」
「……ありがとうございます。行こう、セイバー」
教会を後にする。
後は街を散策して、地形の把握に努めなくては。
「実に清廉潔白な少年だ、成程。その癖、自分の在り方に疑問を感じ、自責の念に囚われている。自身に罰を向けられる事を望むか。
であるのならば――喜べ少年。君の望みは、ようやく叶う」
冬木住宅街。
一通りの把握も終えて、今後の活動に必要な物資を調達した帰りであった。間桐邸には資金がそのまま潤沢に残されていて。仕方なく拝借する事にしたのだ。
購入したのは、まぁサーヴァント達の私服だったり食事だったりと。後は地図だったり、サーヴァント達の娯楽品であったり。
戦いがどれほどの期間になるかは分からない。長期戦か或いは明日にでも決戦にもつれこむか。先を見越して、貯蓄は充分に買い込んでおいた。
「……平和だなぁ」
一見何の変哲もない家屋の中からは平穏な声が聞こえてくる。その懐かしさに、どこか寂しさを覚えてしまうのは何故だろうか。
でも今の俺にはカルデアがいる。だから、別段帰りたいと言う願望は無い。彼らとの日々は――
「おお! あん時の小僧ではないか!」
「んなっ……!」
「露出狂か、あの男は……」
民家の玄関で荷物を受け取っているライダーと目が合った。
――下半身は生まれたままの姿で。まぁ、その、ナニが見えているわけであって。
郵便配達の男性はそのまま逃げるようにライダーから立ち去って行った。
「ん? 何だその飯の数は? ……貴様ら、何か宴でもおっぱじめる気か?」
「まぁ、宴。と言うよりは簡単に食事でも作ろうかなって思いまして」
「ほほう……。なぁ小僧。その食事とやらここで済ませるつもりは無いか?」
ライダーの目は子供のように輝いていて。
まぁ、断ったら簡単に肩を落とすであろう事は予測できた。
なら俺が答えるべき回答は一つしか残されていない。
「それじゃあ、お言葉に甘えて。……手短に。後、下はせめて霊衣を……」
「マスター……。フン、甘い男だなお前は」
「話の早いヤツは嫌いではないぞ! さ、入った入った」
いや、そこ多分貴方のマスターの家ですよね……。
なんて言葉を言える筈もなく、仕方なくその民家にお邪魔する事にした。
「それにしても男の誘いばかりに身を委ねるとは……アイツ、まさか男好きか?」
「……英雄好きだものね、あの子」
「……ohhhh……」
衛宮切嗣はアインツベルン城にて状況の把握を急いでいた。
八人目のマスター――その参戦は想定外であり、さらにはサーヴァントを複数従えている事も範疇外である。
だが集めども集めども情報は一切出てこない。昨夜、遠坂時臣が召喚したであろうアーチャーとの会話にて手がかりとなる情報はいくつかあったが。決定的な内容が存在しなかった。
「……」
ウルク、星見、バビロニア――唯一、星見でカルデアと言う組織が該当こそしたが、そこはまだ星見の天文台であり、到底魔術師と言う括りが存在するとは考え難い。否、そこの職員の一覧を入手こそしたが、あの少年に該当する人物はいなかったのだ。
「酷く頭が痛むな……」
まさしく湧いて出た或いは迷い込んだと言った方がまだ納得はいく。並行世界からの漂流者――まさか第二魔法の使い手かもしくは宝石翁の弟子として修業に駆り出されたのだろうか。そんな馬鹿な話がある筈ない。宝石翁が弟子を取ったとなればそれだけで大きな話題になる。それは成功か破滅かの二択だけだ。
そして黒のセイバー――こちらのサーヴァントと同一人物を召喚したという点も最悪の一言だ。こちらのセイバーとは違い、膨大な魔力と無慈悲な攻撃で蹂躙する様はただの暴力にも等しい。事実、セイバーと互角に渡り合い手傷を負わせたランサーを終始圧倒していた。
クラスが同一である以上、宝具の性質も似ていると考えていいだろう。
やはりあのマスターを直接狙うしかない。ただ問題は彼の傍にいた着物の少女――謎のセイバー。彼女がいる以上、不要な暗殺は自殺にも等しい。
「……」
脳裏に思考を走らせる。如何に処理するかを、魔術師殺しは淡々と考える。
昨夜、セイバーの傷が癒えた。それはランサーの脱落を意味する。加えてケイネス・エルメロイ・アーチボルトとその許嫁の遺体も見つかった。
ケイネスは紛れも無い強敵である。ただし魔術師である限り、切嗣にとっては撃破可能な障害に過ぎない。魔術師殺しの異名も、彼が歴戦の魔術師をほぼ確実に仕留めてきたことからつけられた名前である。
――しかし、彼は別の陣営の手に掛かり死亡した。ホテルの従業員に暗示を掛け、彼の部屋を聞き出し向かってみれば、そこには二人の死体しか残されていなかった。死体を改めた所、二人にとって止めとなったのは額に撃ち込まれた銃弾だ。許嫁を守るようにして倒れていた事から、奇襲を受けたのだろう。
恐らく、八人目のマスターの所にいた二丁拳銃を扱うアーチャーだ。
こちらのセイバーを銃剣で牽制し、アイリスフィールを銃撃で狙おうと伺っていたに違いない。故にセイバーは動きを阻害されたのだろう。アーチャーの殺意が本気であると、そう直感で判断したが故に。
やはり例の少年は危険だ。ケイネスが最も危険であると踏まえ、彼を始末すると共にバーサーカーを何らかの手段で篭絡、再契約し戦力の増強を行った。そして彼は間桐家の邸宅に居を構えている事から、間桐臓硯をも出し抜いたと考えられる。であれば、あの間桐を出し抜く知略にも長けている。
その手腕に背筋が冷える。自分と同等の戦術眼と冷酷さを持っているに違いない。
“……爆弾でも使うか? いや、あのセイバーがいる以上、直感のスキルは持っていると考えるべきだ。設置した所で警戒されては意味がない。
――ダンプカーを使うか。間桐邸の近くに駐車させて、通り過ぎたところを……ダメだな、変わらない”
直感と言うスキルが極めて厄介だ。
罠を張ろうとも、それを本能で察知されては仕掛ける意味が無い。寧ろ、爆破する以上自身は必ず相手を視認出来る位置にいなくてはならない。それを逆に探知されればアウトだ。
「切嗣」
「……あぁ、ごめんアイリ。考え事をしてたんだ。それで、どうだった?」
「お爺様にも聞いてみたけど。貴方以外の魔術師は雇っていないって」
「……そうか、ありがとう」
「……」
「……」
アイリスフィールは衛宮切嗣の微細な変化に気づいていた。
苛立っているのだと。それは決して疲労や今後の方針に決めあぐねているからと言うのではなく。
事実、切嗣は苛立っていた。あの少年の瞳――それにかつての自分の面影を思い出してしまったからだ。
それは切り捨ててきた感情であり、唾棄した在り方であり。何より失った者を連想させるからだ。
“……落ち着け。この冬木で、僕は人類を救済する。
そうでなくては。そうしなくては――失われた命があまりにも”
満天の星空を思い出す。
静かに瞬く、星達の散り逝く空。届かない祈りが天と地を満たす。
ウェイバー・ベルベットに浮かんだ感情は苛立ちであった。
自身のサーヴァントであるライダーが勝手に八人目のマスターであるアランを民家に案内しただけではなく、楽し気に談笑しているのだ。しかもつまみを旨そうに食いながら。
しかも話の内容を彼は喜々としてメモしている。こうして語り合えるのがただ嬉しいと言わんばかりに。心なしか目も輝いて見える。
「お主分かっておるなぁ! 余のファンか、ファンだな!? これは丁重にもてなすとするか!」
「まさか、アレキサンダー大王。かのアレクサンドロス三世から直々にお話を聞けるなんて……。これだけでも嬉しい限りですよ!」
「よせよせ、照れるではないか! よし、では次は何を聞きたい!? うははは、つまみが進むわい!」
「じゃあ次は海中探検の事なんですけれど……」
「おうとも。そん時はな――」
一体何なんだこの馬鹿ども。
サーヴァントはマスターそっちのけであり、マスターはサーヴァントそっちのけである。いいのか、それで。
「……」
「悪く思うな、ライダーのマスター。こいつは根っからの英霊馬鹿でな。
偉人と呼ばれた連中と実際に話せるとなると、はしゃぐ性格だ」
「……苦労してるんだな、アンタ」
「……目の離せん存在ではあるな。全く、何故私が母親のような事を……。
コホン、あー、それとマスター。今は私の口も軽くてな、ブリテンの事なら簡単に口を開いてしまいそうだがー」
ちらちら、と擬音が付きそうな視線をマスターに向けるも、肝心のマスターは未だにライダーとの話に夢中である。
その不甲斐無さに思わず同情してしまい――思い切り睨まれた。
「……覚えておけよ、貴様」
「何でボクに!?」
お前のサーヴァントだろ何とかしろよ。
――向こうの二人も楽しそうに話していて何よりだ。
ウェイバーが冷や汗掻いているように見えるが気のせいだろう、多分、きっと。
征服王イスカンダル。別名アレクサンドロス三世。アレキサンダー大王と言えば、きっと誰もが名を聞いた事だろう。
その名に数々の英雄が心を躍らせたと言う。戦術家として名高いハンニバル・バルカやナポレオン・ボナパルトも彼を英雄として尊敬していたと言われる程。
聞きたい事は存分に聞けた。あぁ、スッキリした。カルデアに映像が届いていれば記録出来ていたと言うのに。
「では今度は余から尋ねるぞ。王からの問いだ、心して答えるがいい」
その瞳は真剣そのもの。
――先ほどまでの飄々とした人柄は薄れ、征服王としての側面が見えているようにすら思う。
「アラン、お主は何故この聖杯戦争に参加する?」
「……それは」
「言葉を交わせば、大方の連中の本質は見て取れる。お前さんもその一人だ。
だがな、どうにも分からんのだ。貴様には自身への欲が無い。だが余の逸話に目を輝かせる所を見ると、完全に無い訳でもない。
どうにもそこらが納得いかん。今一度余に聞かせてみよ」
「帰る、ためです」
「……何やら訳ありだな。話してみよ、余は自身の大望に関しては憚らんが、それ以外の事情に関しては口が堅いぞ」
思い返す。
初めて俺が目覚めた時の事を。気が付けば焼け野原のようなところにいて、自身がいる世界の事を理解して。
ただ走ってきた。最初は生きる為に。それが少しずつ変わって、誰かを生かすために。俺はどう足掻いても生き延びれない。そう知ってしまったから。
でも今はこうして、人理修復を為した後も生きている。
「――そこはちょっと遠い所にあって。帰るためにはどうしても聖杯を手にしなくちゃいけないんです」
「帰る、だと。何ともまぁ……。――例えそれが、余の道と相反するとしてもか?」
「…………はい。だって俺は、その場所に生き延びて。返しきれないモノを貰ったんです。それをまだ返しきれていない。俺に色彩をくれた人々に、まだ何も……。
だから、征服王。もし貴方がその道を塞ぐと言うのなら、俺は……怖いけど、立ち塞がります。
貴方の戦車が、俺の命を奪うその時まで」
その目はいつになく険しい。それが意味する事を知っている。数々の特異点で嫌と言う程見てきた。
敵対した、英霊達のように。けれど決して目を逸らさない。
「――良い」
「……はい?」
俺の言葉に征服王はニッと笑った。
「良いと言ったのだ。何だ、お主。ちゃんと言えば欲もあるではないか。いや、帰ると言うのは確かに小さいかもしれんが、余の覇道に真っ向からぶつかると豪語したのであれば、認めざるも得まい。
……問答で器を試すのもまた一興か。
――そちらもいいマスターを引き当てたなぁ、色気のない騎士王」
そうかなぁ。オルタも充分色気あると思うけど。食事中に目の前に座られてじっと見つめられると、思わず女として見てしまいそうになる。
自分のサーヴァントましてや王であった彼女にそんな無礼な事は到底言える筈もないが。
「叩き切るぞ貴様。
……私の目から言わせるとまだまだ物足りんがな。あの金ピカも言っていたが、コイツは愉しむ事が下手で仕方ない。以前は状況が悪かったから目を瞑っていたが、今は別だ。
全く、目も当てられん有様だ。それでも私のマスターかと泣きたくなる」
「……面目ない」
「大体何だ、貴様。あの冷血女や幽霊女ばかりにかまけるとは。少しは私の事も労え。
おかげで食が細くなってしまった」
「ご、ごめん」
食が細い?
ははっ、ご冗談を。
「あのさ、アラン」
「ん」
「お前って珍しい奴だよな。普通の魔術師はサーヴァントを使い魔の一人って見做してる奴も多い。
なのに、お前は対等どころかサーヴァントをさ、理解してその生き様に少しでも触れたがってるように見える。――家族みたいに、接するんだな」
「あぁ、まぁそれは。サーヴァントが好きだからさ」
サーヴァントは生前、偉業を為した英雄だ。それは俺や立香が一番よく分かっている。
俺達はレイシフトに赴くが、ただの人だ。決して英雄ではない。ただの人として星の行く末を見定める旅だった。
――要するに最初の俺の選択は間違っていたのだ。人としてではなく、英雄としてでもなく。ただどちらでもないにも関わらず、力を求めた。自分だけが生き延びると言う誤った未来のために。それを受け入れ承諾してくれた「」には感謝しかない。
でも立香は違う。彼は自分が何も出来ないと、散々思い知らされた筈だ。だがそれでも歩みを止めず、ただの人にも関わらず、出来る事を全うした。
だからこそ彼は、世界を救ったのだ。多くのサーヴァントが人理を救うと言う目的の下、彼を基点として集ったのだ。
いつしか、ロマンが言っていたことを思い出す。
『いいかい? サーヴァント達はあくまでグランドオーダーと言う目的のために力を貸してくれているだけだ。
その依り代としてどうしてもマスターが必要になる。だからキミ達を契約上の主と認める。
――驕ってはいけないよ、彼らは紛れも無い英雄であり、その多くは力を以て世界に認められた。我々カルデアや君達マスターの対応が一つでも間違ってしまえば、その矛先はこちらに向けられるだろう。元より英雄とはそういう連中さ。
いいかい、一線を見極めるんだ。絶対に超えてはいけない領域を。そこを超えれば、マスターと言う存在は彼らにとって敵に変わるからね』
だから俺はその一線を知るためにサーヴァントと言う存在、その歴史を徹底的に調べた。ただ死にたくなかったから。生き延びたかったから。
今やその目的が逆転し、歴史が面白い、歴史の不明な事実、偉人の言葉を知りたいと言うモノに成り代わったが。
「歴史の先駆者達だからね。彼らが築いてくれた過去の上に俺達が生きる今がある。それを忘れたくないんだ」
不謹慎かもしれないけど。グランドオーダーの旅は本当に楽しく、そして美しかった。
今でもその一つ一つを鮮明に思い返せるほどに。
「ではマスター、今度はブリテンの話をしてやろう。私が治めた――」
「おい、待て騎士王。まだ余の覇道を十分に語ってはおらんぞ!」
ぎゃあぎゃあと言い争う二人には、もうこちらの言葉も届かないだろう。
ウェイバーは呆れたように息をついた。
「……本当にお前どこから来たんだ? そんなにサーヴァントがいるなんて、一つの国家みたいなもんだぞ」
「国家、かぁ。どちらかと言うと連邦か連合って感じだけど」
その騒がしい空気が、まるでカルデアにいる時のようで。
思わず笑みを零した。
遠坂邸にて、遠坂時臣は今後の方針を思案する。八人目のマスター――イレギュラーは早急に排除するのがモットーだ。不確定要素は盤を狂わせる。
だがギルガメッシュの力を以てすれば全てのサーヴァントには十分対抗しうる。故に時臣は趨勢を見計らう事を選んだ。
しかし奇妙なのは、そのマスターとギルガメッシュの話していた内容だった。
古代バビロニア――生前のギルガメッシュを見てきたかのように。そしてそれに対する問いもまだ同様に。
“……まさか、時間旅行者? 蒼崎の関係者か?”
魔法使いが聖杯戦争に参加するとなれば、それこそ大騒ぎだ。だが、その場合他の魔法使いの話が無いのは余りにも不自然に他ならない。
キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグ、蒼崎青子――時計塔でも厄ネタで名高い二大巨塔である。無論、時臣はまだ接触した事すらない。
先代が宝石翁であるゼルレッチに縁があるぐらいだが。
「……どうかね、時臣君」
「いえ、やはりギルガメッシュ王は口を開かないようです言峰神父」
せめて関係を探ろうとしたが、無言の殺意によって沈黙せざるを得なかった。
何か一つ不敬とでも見なされれば即座に首を飛ばされていただろう。――あの王を前に啖呵を切れる度胸を、時臣は素直に称賛した。
『我とあ奴の関係はそう難しくは無い。だが、今の我が口にすべきコトでも無い。
それは当事者であった者だけが語る事を許されるコトだ。
如何に貴様の進言と言えど、それ以上は不敬と見做すぞ時臣?』
謎は多い。
アサシンの偵察により、例のマスターは間桐邸に居を構えた事が発覚。既にバーサーカーの陣営として参戦した筈の間桐雁夜は、遠坂の養子であった間桐桜と共に冬木市郊外の病院に入院したという。
さらに言えば、バーサーカーがギルガメッシュの宝具を簒奪し、それがどれも対象を確実に仕留めるモノばかり。
「……臓硯氏は殺されたと見るべきか」
「監督役に何の接触が無いのを見る限りそう考えていいでしょう」
「――さて、どう舵を取る……」
サーヴァントを複数保有している例のマスターを集中的に狙い、脱落させるか。
それとも不安定要素の高いキャスター陣営を仕留めるか。――ギルガメッシュの力を以てすればどちらも不可能ではない。
ふと扉を叩く音に意識を戻す。
「失礼します。父上、時臣師。先ほど、例のマスターが参加表明に訪れました」
「おお、すまんの綺礼。お前から見て、例のマスターはどのように見えた?」
「……私目にはそれ程際立ったようには見えませぬ。魔術師らしからぬ人物でしょう。
衆目に憚るような愚昧は犯さないと考えます」
「そうか……。なら考えるまでも無いな。先にキャスターを落とすとしよう。
言峰神父、夕方にマスター達へ招集を。キャスター討伐の任を命じよう」
「成程、そのように。
――ところで綺礼」
「どうされましたか、父上」
「大丈夫か、近頃のお前はどうにも達観しているように見える。やはり娘の事が気がかりか」
「――いえ、別に。妻の事も今は一つの出来事として受け止めています。娘は今どこにいるかも分かりませんが、妻の面影だけは似た、立派なシスターになるでしょう。
父上、時臣師。失礼します」
そういって言峰綺礼は出ていった。
まるで、内面だけ別の誰かのようにも見えるが、それでもあの口調はやはり彼だ。
「綺礼君は何か楽しみでも出来たのかな。以前よりも笑みが見受けられるが」
「好物を思い出したと言っておりましてな。毎日のようにそこへ通っているのです」
「……そうか。何せよ楽しみがあるのはいい事だ」
今回のまとめ
おや? 綺礼の様子が……?
自軍のサーヴァントに男色の気があると疑われる。尚、もしそう言われても否定はしない模様。
ライダー陣営と飲みニケーション開始
・海中探検はアレクサンドロス三世が樽或いはガラスの中に入って、海の中を見たと言う逸話から。
ケリィ、安定の勘違い開始。