カルデアに生き延びました。   作:ソン

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私用で更新が難しくなるで候。

明日分書き上げて投稿したら、一旦ストップになりそうです。


いつも誤字指摘報告して頂ける方、本当に感謝しております。
こんな作者ですが、よろしくお願いします。


After3 二日目/狂気失墜

 

 夕方――教会からの招集を受け、俺はアルトリアの運転するバイクに跨って冬木教会へ向かった。

 ヘルメットをシートに直し、まさか同日に二度も訪れるとは思っていなかった教会を見上げる。

 

「マスター、既に使い魔の気配がある。無様を晒すなよ」

「分かった……」

 

 扉を開ける。

 中には高齢の神父――恐らく言峰綺礼の父親だろう。その周囲には他のマスターの使い魔であろう小動物が見受けられる。

 自身の姿が晒される事を恐れたためだ。

 

「お初にお目にかかります。この聖杯戦争で監督役を務めている言峰瑠正と申します。

 昼間は急なようで息子に任せてしまい、申し訳ない」

「いえ、そこは別に」

「ふむ。使い魔は出されないのですかな」

「えぇ、まあ。まだ魔術師としては三流ですし、それにやっぱり直接顔を合わせた方がいいかなって」

「それはそれは、ご謙遜を。見た目によらずしっかりしておられる。

 マスターらしい、正々堂々とした戦いを期待しましょう」

「フン、さっさと要件を話せ神父。我らはこれから戦いに赴く」

 

 ありがとうアルトリア。どうにもこういった形で話されると切り返し方が分からないから。

 

「さて、揃ったようなので始めよう諸君。

 キャスター陣営について少しばかり説明しようと思う。現在冬木を騒がせている児童連続失踪事件だが、スタッフ達の尽力によりそこに魔術の痕跡が関わっている事を突き止めた」

 

 新聞とニュースで頻繁に目にした。

 児童の集団失踪と連続殺人が、連日冬木市で起きていると。その被害者の数も甚大だが、犯人は警察の捜査をかいくぐるようにしているのか、未だに手がかり一つ掴めていない。

 

「マスターの名は雨生龍之介。キャスターの真名は青髭ことジル・ド・レェ。そのどちらも倫理観には大きく欠けていると言っても良い。既にキャスターが召喚されてからその被害は跳ね上がる一方だ。

 これを放置すれば、今後の聖杯戦争に大きく支障をきたす可能性が高いと判断し、聖堂教会はキャスター陣営に対し総力を挙げて討伐する事を決定した」

 

 オルレアンを思い出す。

 彼はジャンヌ・ダルクの救済を求めた。その救済こそ歪んではいたが、一人の将軍でもあった彼を俺は知っている。

 でも、だからこそ。その願いを果たさせる訳にはいかない。

 

「討伐に貢献した暁には、令呪を贈呈しよう。尚、同盟を結び功績を果たした者には双方に令呪を与える事にする」

 

 ……あぁ、そっか。令呪って確か貴重なモノだったな。

 カルデアのタイプは一日に一画復活するから、その重要性を呑み込むのにどうしても時間がかかってしまう。

 立香的には一日に一回使わないと勿体ない気がしてくるとか……。

 

「要件は以上だ。健闘を祈る」

「行くぞ、マスター。狩りの時だ」

「あぁ、行こう」

 

 扉を開けてバイクへ近づく。

 ジル・ド・レェに対して現状の戦力でどのように戦うかを思案する。無論、速攻だ。

 時間を掛ければそれだけ海魔を生み出す時間を与えてしまう。最大戦力を以て短期決戦で潰しにかかる。

 

「やはりここか。ロクに使い魔も扱えんとは……。それでよく世界を救えたものだと感心するよ」

 

 エミヤ・オルタが立っていた。

 どうやら俺達を迎えに来てくれたらしい。

 

「魔術は修行中だし……。何でアーチャーはここに?」

「キャスターの居場所を特定した。今ならキャスターだけだ。どっちもいるとマスターの捕縛が面倒だからな」

「……助かるよ。オルタ、飛ばせる? アーチャー、場所の案内を」

「了解した、着いてこれるかセイバー?」

「ぬかせアーチャー。掴まっていろよマスター!」

 

 

 

 

 冬木地下下水道。

 武装強化したバイクで海魔を容赦なく引いていくアルトリアの頼もしい事。

 瞬く間に水路を駆け抜け、辿り着いたのは空洞の一室。暗がりでどうもよく見えない。

 

「待っててアルトリア。今視界を」

「……待て、マスター。覚悟を決めておけ、これはお前には堪えるぞ」

「っ……。分かった、ありがとう」

 

 小さく息を吐いて、視界を確保するための特殊な発煙筒を投擲。

 煙が明かりを放ち、暗がりが消失する。

 

「――っっ」

 

 見えたのは、作品だった。作りかけと言えばいいのだろうか。これを作ろうと思いついた者も、それに手を貸す者も皆気が狂っているとしか思えない程。

 児童連続失踪事件――その被害者は皆、ここに集っていた。

 自身の体の一片に至るまでを作品として現す、アートとして。これは自然の摂理にあってよいモノでは無い。人が許される行いでは無い。

 嘔気を感じるも、それを寸前で飲み込む。

 

「マスター」

「……!」

 

 「」が俺の手をそっと握りしめる。

 その温もりが、僅かに心を落ち着かせてくれた。

 

「……ありがとう。エミヤ・オルタ、ジル元帥はどこ――」

「――ジル・ド・レェならここにおりますとも。では、さようなら背信者の皆様」

 

 声に振り返る――見えたのは海魔の口。

 回避――間に合わない。

 

「arrrr!!!」

 

 ランスロットが合間に割って、海魔を容赦なく叩き潰した。

 後から飛び掛かって来たモノを、アルトリアと「」が斬り捨てて。エミヤ・オルタが撃ち落としていく。

 もし単騎で乗り込もうものなら、物量で制圧されていただろう。

 

「ふむ、数だけ揃えるとは……。それなりに戦の心得があると見ました。やはり無策で侵入を試みた訳ではないようですね……。

おのれェ、小癪な真似をォ! 我が願望を邪魔立てするか匹夫めがァァァ!!」

「マスター、指示を寄越せ! 閉所空間だ、一気に決めるぞ!」

 

 アルトリアの言葉に、魔術回路を回す。

 ここで、彼を倒さなくてはならない。

 彼はもう一線を越えた。ここで召喚されたジル・ド・レェは例えどうあろうとも、敵として処理しなくてはならなくなった。

 

「――そこの少年は生贄として実に良い! 貴方の体を捧げれば、我が聖女は正気を取り戻すッ!!」

 

 貴方を狂わせたのは、一人の少女の幸せを願う純粋な愛情。

 それがただ苦しいとしか思えない。

 だから、ここで彼を解放する。

 

 

 

 

 アルトリアのおかげで戦いはこちらの優勢だった。彼女の攻撃のおかげでエミヤ・オルタが視界を確保できたのが大きかったのだろう。

 彼の放った銃弾が、ジル・ド・レェの霊核を貫いた。

 

「馬鹿、な。そんな、私は、ジャンヌ……。あな、たに、人並みの幸せを――」

 

 青髭は消滅した。これで俺は二度、ジル元帥を下した。

 オルレアンで、俺は貴方の真意を知った。ただ一人、救われぬ最期を遂げた彼女を救いたいと言う願い。外道に落ちる程に身を焦がしたフランスと言う国への憎悪。

 でもね、ジル元帥。

 俺は本当の貴方を知っている。フランスでジャンヌと共に戦い、救国を成し遂げた貴方を知っている。フランスを愛し、民を愛し、子を愛し、まさしく一人の騎士として旗を振るう貴方の姿を。

 知ってしまったからこそ、これ以上貴方が落ちていくのを止めたかったんだ。

 ――ふとオルレアンで、消え行く彼に手を差し出した彼女の姿を思い出す。

 このジル元帥が、彼と同じところに行けたかは分からないけれど。その手を放さない事を祈るばかりだ。

 

「……きついな」

「マスター、お前はサーヴァントに対して甘すぎる。もう少し厳しさも持つことだ」

「同感だな、そんな事では体がいくつあっても足りないぞ。

 だが、まぁこの光景に折れずによく立った。世界を救ったマスター、と言うのは伊達じゃないな。――この先が少しばかり面倒になりそうだ」

 

 エミヤ・オルタが身を翻す。

 もう用は無いと言わんばかりに。

 

「エミヤ?」

「一日一騎なら目もつけられないだろう。アンタ達は目立ちすぎてる。

 まぁ、機が熟するのを待て、と言う事だよ。じゃあな、カルデアのマスター。また明日の夜に合流する」

「待って、一体何を……」

 

 そういって彼は霊体化した。気配もほとんど追えない。

 

「……戦車の音だ、あのバカだな」

「征服王……」

「ん、何だもう終わったようだな。さすがに仕事が早い」

「あぁ、畜生一番乗りだと思ったのに……!」

「――して、小僧。お前さん、何か余に言いたそうな目をしておるな。申してみよ」

 

 あぁ、何て浅ましい。

 本来、彼らにこんな事を頼む等許されない事なのに。

 

「……楽に、してあげてください。まだ生きてるみたいです。

 貴方の戦車なら、苦痛も無いと思います。俺じゃあ、どうしても一度に楽にさせてあげる方法が見つからなくて」

「そうか、余の戦車を葬送のために使うとな?」

「……」

「――無論、のった。景気よくひとっ走りしたい所であったわ。それにこんな光景をそのままにしておくのも胸糞悪い。

 介錯を見届けるのも王の務めよ。後始末は任せておけ」

「……ありがとうございます」

「礼などいらぬ。その代わり、今度ばかりは余に貸しがあるからな。楽しみにするがいい」

 

 この光景を前に、陰鬱な空気を吹き飛ばしてくれる豪快な笑い声が何とも心強い。

 

「マスター、乗れ」

「うん」

 

 道中に海魔はいない。

 あの光景が瞼に焼き付いて、嫌という程脳裏に蘇ってくる。彼らの目は救いを求めていた。終わらせてほしいと。

 だから、これで良かったはずだ。これしか無かった。

 今の俺に救える力なんて無い。それが現実であり、真実である。

 

「……少し眠れ、マスター。心配は無用だ、私のテクニックを信じろ。振り落とされる事は無い」

「……」

「耐える事になれるな、吐き出せ。ダヴィンチも言っていただろう。

 お前は一人で抱え込む面倒なタイプだからな。私の臣下なら、隠そうとするな」

「……臣下、か。大袈裟だな……。でも、ありがとう。少し楽になったよ」

 

 バイクの振動が心地よい。

 目を瞑る。犠牲になった人々の顔が思い浮かぶ。

 もっと、生きたかった筈なのに。

 何で俺は本来死ぬはずだったのに、生きてしまったのだろうかと。時折問い詰めてしまう。

 もう割り切った筈の、答えなのに。

 

 

 

 

 雨生龍之介にとって、それは間違いなく不幸であった。そして同時に他者にとっては救いでもあっただろう。

 市民の警戒もあり、アートのための材料調達に失敗。仕方なく工房に戻ろうとした最中の事。――暗がりに一人の男がいる。

 黒いコートを身にまとった白髪の男。見るからに黒人のようにも見える。

 

「よう、お兄さん。ナニしてんのこんなトコで?」

「……」

 

 男は答えない。

 ただの迷い込んだ市民であると龍之介は判断した。男であり、アートには無粋だが材料の調達に苦心している以上我儘は言えないだろう。

 

「俺も迷っちゃってさー。一緒に出口でも探さない? いや、ほら。迷うでしょココ。

 それともアレかい、お兄さん撮影か何かに来てんの?」

 

 ナイフを忍ばせる。狙うは首筋。動脈を一気に切断し、即死を狙う。

 軽快な歩る方は夜遊びにふける青年としか見えないだろう。事実、男にとってもそう見えた。

 彼は殺しにおいては間違いなく、一流の領域に到達していると言っても良い。

 音も無く、動作もごく最小。近づく速度はまさしく瞬時。ナイフを振りぬけば確実に殺す。

――故に、男にとって最も容易い相手であった。

 

「……あれ」

「手馴れているが素人だな。その才、磨いていればオレに届いただろうさ」

 

 その言葉が届く前に、既に彼は絶命していた。ナイフは空を描くだけ。

 男はナイフの一撃を回避すると共に銃剣で彼の延髄を貫いていたのだ。生命維持に必要な部位を、その刃は正確に貫き破壊していた。

 ――即ち、雨生龍之介は真実に到達する事も、答えを知る事も、喜びに震える間もなく。ただ死亡した。

 

「人生終了、お疲れ様」

 

 その体勢のままで、男は銃を発砲し――彼の頭部は木っ端微塵に粉砕された。

 死に芸術を見出し、作品とアートの過程で生の理由を求め続けてきた男にとっては余りにも呆気ない最期だった。

 

 

 

 

 

 

 

「何用だ、雑種」

「野暮用さ、お前がこの戦いに参加するかどうかの確認でね。もしやる気ならここで始末しようと思っただけさ。

 が……まさかマスターとの契約を強制的に断ち切るとは。規格外な男だ」

「フン――此度の我は裁定者よ。全てを見通す眼を以て、この終わりを見届ける者。力を振るい嵐を放つのではなく、理の外から見下ろす者。

 雑種、貴様のように腐り果てた妄信者には計り知れぬだろうがな。

茶番に足を踏み入れるつもりは無いわ。番犬は番犬らしく、主の下に戻るがいい。それとも、英霊の残骸でも使ってみるか?」

「まさか――そいつは安心したよ。

 お前がやる気なら、オレもバックアップを本気で使う必要があった。使えば間違いなく、警戒されるからな。

 ではな、英雄王。本来の役割に徹していてくれ」

 

 

 




今回のまとめ

オリ主、黒王とバイク二人乗り(許さない)

オリ主、「」に手を握られる(許さない)

オリ主、海魔にてR-18案件回避(許さない)

ギルガメッシュ、まさかの仕事放棄。今回は見届ける側の模様。

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