カルデアに生き延びました。   作:ソン

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我が王へ、全レースのガソリンをつぎ込んだ祝いに。

今日だけで二話投稿していくスタイル。
明日投稿で、ちょっと遅れるかなぁ……。

後、私はホモではありません。
これだけははっきりと真実を伝えたかった。


After3 三日目/聖杯問答

 

 

 次の夜、どの陣営に向かうかを考えていた所突然ライダーの戦車が下りてきた。

 何でも今から酒盛りをするとの事で、アインツベルン城に乗り込むらしい。

 そんなワケで、俺はライダーの戦車に乗せてもらっているのだ。ヤバい、楽しいコレ。

 

「何せ英傑達が集うのだぞ? ならばその腹を割らなくて何とする!」

「王様だったら、ギルガメッシュ王は?」

「あー、アイツなんだが見当たらなくてな。結構探し回ったんだが」

「見当たらない……」

 

 あの一度見たら忘れられない姿が?

 ――まさか落とされた? いや、でもあのギルガメッシュを単騎で落とせるなどそれこそ絞られる。

 例えばオジマンディアス王だが……あ、ダメだ。多分冬木が滅ぶ。

 

「――」

 

 ふとまだ合流していないエミヤ・オルタを思い出す。

 ギルガメッシュに単騎で対抗できると言えばエミヤぐらいだ。だが、彼もサーヴァントである以上ギルガメッシュが慢心を捨てなくとも手を抜くはずはない。

 第一エミヤ・オルタの能力で対抗出来るかも不明なのだ。

 それに以前、エミヤも言っていた。自身はギルガメッシュに有利だが、それだけで勝負が決まるのであれば、苦労しないと。

 

「……」

 

 何か、嫌な予感がする。

 そんな事を考えている間に、気が付けばアインツベルン城へと戦車が突撃していた。

 

 

 

 

 聖杯問答――何でもライダーがしたかったのはそれらしい。せっかく生前に王であった者が集っているのだから、それぞれの王道を聞き、どれが聖杯の願いに相応しいかを競いたいらしい。――まぁ、要するに王の器を測りたいのだろう。

 ギルガメッシュがいない事に酷く落胆していたが、気を取り直しているのはさすがと言わんばかりか。

 俺の陣営からはアルトリア・オルタがその問答に参加していた。

 まずはライダー征服王イスカンダルの願い。それは受肉――もう一度この世界を駆けると言う願い。この地に一つの命として根を下ろしたいのだと。肉体を持った体で、世界を駆け征服を成し遂げたい。

 そしてアルトリアは、ブリテンの滅びを変えると言った。選定の儀をやり直し、ブリテンを滅びの未来から救って見せると。

 無論、それは滅びを良しとしたイスカンダルからしてみれば、真っ向から対立する意見だろう。彼は兵が苦しんでいるのであれば水を差しだすのではなく、兵と共に苦しむ事を選ぶ人間だから。逆にアルトリアは自分の分すら兵に渡し、自身が苦しみ兵が助かる方を選ぶだろう。

 単純にどっちが優れているか、などと言う簡単な話じゃない。そもそも王として成立した時代背景も国も何もかもが違うのだ。

 故にイスカンダルは落胆したのだろう。異国の王だからこそ、その道を知りたかった。自身を湧き躍らせる英雄譚を。

 だがアルトリアはそうでない。いわば国を救うために差し出された一人の生贄にも等しい。それでいて尚もブリテンを、その民を救おうとしている。その有様を彼は哀れんだのだ。欲の一つも言えない生前だからこそ、王として生きるのではなく一人の娘として生きるべきだと。

 ――確かに呪いだ。そして彼女はそれを呪いではなく、自分の責務だと思っている。

 それが痛々しくて。けど、俺の言葉では彼女を救えない事は分かっているから。ただ歯痒い。

 いずれ彼女が救われると分かっていても。苦しんでいる姿は、見たくない。

 

「それで、貴様はどうだ。機嫌の悪そうな騎士王」

「フン、聖杯。聖杯か。そうだな、ならばそこの征服王と同じとでも言っておこう。私には過去は終わった事だ」

「なっ……!? 貴方も私であるのなら、ブリテンの存続を望む筈だ!」

「私は王として求められ、求めたモノは全て与えた。それで滅んだのなら、ブリテンは誰が統治しようが勝手に滅ぶ。

 滅びを延命させてみろ、残るのは死に怯える時間だけだ。――例え貴様がどれだけ手を尽くしたとしても、ブリテンの民草はそれで満足しないだろう。何しろ、無条件で尽くしてくれる者がいるのだ。そしてそれを当然と思い続けている。であれば、それが行きつく先は見えているだろう?

 ――ならば例え王と成る者が私だろうと私でなかろうと、ブリテンは必ず滅ぶ。故に私の王の役目は終わった」

 

 成長を忘れた民に未来は無い。であれば国も同じこと。

 アルトリア・オルタはそういった。

 その顔に揺らぎはない。ただ不敵に笑う表情だけがそこにある。

 

「……っ」

「そりゃそうと、何故受肉を望むのだ。余のように、どこかを征服したくてたまらんワケでもなかろう」

 

 そしてアルトリア・オルタは小さく息を吐いた。

 彼女の言葉を一言一句聞き逃さぬよう耳を尖らせる。カルデアで出来る限り、彼女の望みを果たしてあげたいから。

 

「簡単な事だ。受肉すれば、我がマスターと共に歩める」

「――」

「――」

 

 ――はい? 今、何と?

 

「なっ、なっなななっ……!」

「あー、そのな、不機嫌そうな騎士王。余の耳が狂っていなけりゃ、そいつは――マスターと人生を共にするという事か?」

「あぁ、そうだ。強いて言えばな、私は聖杯よりマスターの全てが欲しいだけだ。

 コイツはまだまだ一人前には程遠い。私が面倒を見てやらなくてはならん」

「はー、こいつはまた大胆な……」

「――ブリテンに……悔いは無いのですか」

「――無い。言った筈だ、私は王として出来る事をした。そうして滅んだのなら、それで私のすべき事は終わりだ。だから未練など無い。

 だが、このマスターは別だ。コイツを私は――二度も救えなかった。この男が育つ様を傍で見届けた癖に、その苦悩を知らず。挙句の果てに止める事すら出来なかった」

 

 その言葉に、目を伏せる。

 

「私はこの剣にかけ、マスターを守ると誓った。だがな、それは何の役にも立たなかった。

 ――ブリテンには望み通りの平和と治世をくれてやった。だから滅んでも思う事は無い。

 だが、コイツは別だ。サーヴァントとしての務めすら、満足に果たせなかった」

 

 そんな事は無い、アルトリア。

 貴方には何度も助けられた。貴方の剣があったから、俺はロンドンまで来れた。その認識は変わらない。ランスロットだけでは、間違いなく手が足りず誰かが犠牲になっていたに違いない。

貴方が力を容赦なく振るうからこそ、彼は俺達の支援に専念出来たんだ。

 

「……成程な、だから聖杯があれば受肉をすると。そうして寄り遂げるか。

 にしても、そこまで思い入れのあるマスターなのだな」

「長い付き合いになったからな、なぁマスター」

「あぁ、うん。確か……三年は経つな」

 

 俺の言葉に、周囲のマスター達は驚愕していた。

 あぁ、やっぱりカルデアにいると色々と感覚がおかしくなる。

 

「――あぁ、それとアルトリア。アルトリア・ペンドラゴン」

「……何でしょう。最早私と貴方は相容れない存在の筈。これ以上言葉を紡ごうとも交わる事は無いと思うのですが」

「私のマスターから貴様に伝える事があるようだ。王の端くれなら民草一人の言葉は聞いてやれ」

 

 そういって、アルトリア・オルタは笑んだ。

 俺に気持ちを吐き出せと。問答を聞いて、胸にたまった蟠りをここで出せと言う事だ。

 セイバーの瞳は酷く揺れている。もう一人の自分の側面にすら裏切りも同然の事を言われ、征服王とは王道の在り方がそもそも違った。いわば彼女は孤高だ。それは、かつての円卓での自身の在り方を重ねているに違いない。

 俺がもし王として仕える人物を選ぶのならば――何度でもアーサー王を選ぶ。苦しむ者達にとってその輝きは、自分の祈りを託せるたった一つの標なのだから。

 

「セイバー、俺は。貴方は貴方のすべきことを果たした」

「……」

「貴方は一人の王としてブリテンを救った。確かに滅びの結末は避けられないけれど。生きている以上消え去るのは、自然の摂理だ。

 人生に出会いと別れがあるように。国にも寿命はある。例え万能の王であろうと、それは変わらない。神の血を交えた半神半人の賢王であっても、自身が治めていた国の滅びを変える事は出来なかった」

 

 俺はレイシフトで様々な国や人々を見てきた。

 目の前に終わりがある事を突きつけられながら、それでも人として生きようと走り続けた彼らを。

 

「確かに貴方以外の人が王になる選択もあったかもしれない。ちょっとだけ滅びまでの時間が長くなる王がいたかもしれない。

 でも、円卓の騎士は貴方を本気で支えたいと思った。国や民のために苦悩し、誰かの未来のために戦い続ける貴方の姿は、紛れも無い一人の王だ。それは誰にも否定出来ない筈。

 だって貴方を探すために、ずっと永い旅をしてきた人を知ってるから」

 

 忠節の騎士にそれ程の情熱を捧げられる人が、王の器を持たない訳が無い。

 彼らは本気でアルトリアを支えようとした。仲互いする事はあったけれど、それでも数多くの騎士達がアルトリアの下に集い、共に戦った。――それだけで彼女に王の器がある事は疑いようもない。

 

「イスカンダル王と貴方では、王の形が違うんだ。だからどうしても意見はぶつかってしまう。

 ――貴方は自分を認めていい。紛れも無いブリテンの王だ、責務を果たし民を導き、次の世代へブリテンの土地を引き継いだ」

 

 今尚も、語り継がれるアーサー王伝説。

 その物語は時代を超えて今も人々の心を夢中にする。そして彼らは理想の王を夢に見る。

 貴方はもう、既に立派な王なんだ。だからそれ以上、手を伸ばす必要もない。

 

「……なぁ、小僧。話の腰を折って悪いが、王の形ってのはつまりどういう事だ?」

「征服王、貴方が人であるのなら。彼女は星なんだ。暗い世界を照らす、輝ける星。

 俺にはそう見える」

「……ははあ。なるほどなぁ。星の聖剣を手にするとはそういう事か。でありゃ、余の掲げる王の姿と別物なのも当然だな」

 

 征服王は齢三十程で、熱病にてこの世を去ったと言われている。であれば、彼はまだ。精神的成熟の途中であったのだろう。

 何より彼にとって王道とは、自身の人生そのもの。

 けれどアルトリアは違う。彼女にとって王道とは、ブリテンの救いに他ならない。弱きを救う騎士の道そのものだ。

 終わりゆく者達へ伸ばされたその手に、どれだけの祈りが込められていたかなんて語るまでも無い。

 

「私、は……」

 

 彼女は唇をかんだ。自分の罪を抱え込むように。

 貴方は優しい。優しすぎるんだ。

 だから知っている。貴方のその願望と決意。それらを担う覚悟を、たかが俺の言葉程度で変えられないのは知っている。

 

「大丈夫、いつか貴方に運命が訪れる。その時に分かるよ」

「……そう、なのでしょうか」

「……なぁ、色気のない方の騎士王。ありゃ、中々の傑作だな。英霊を誑かす達人かもしれん」

「あぁ、そうだ。コイツは人の苦労を認めて、その功績を称賛する。その癖自分の抱え込むものは一切語ろうともしない。

 ――フッ、今更欲しいと言ってもくれてやらんぞ。後いい加減ぶった斬るぞ貴様」

「そいつは面白い、余の口も回るもんよ。さて、どう落とすとするか」

「……だがその前にやるべき事があるだろう」

 

 バーサーカーが突如、顕現。俺の背後で剣を振るい、甲高い音と共に短剣が飛んでいく。

 

“囲まれてるわ、マスター。それも大勢。

 ごめんなさい、何人かは斬り捨てたんだけど”

 

「アサシン!? 死んだはずじゃあ……」

「オルタ、何人いる!?」

「六十と言ったところか。あの女、相当に斬り捨てたな。にしてもアサシンらしからぬ……。

 さてはマスターが変わったな」

 

 思考を回す。

 他のマスター達を守りつつどうアサシンと向き合うか。数の利は向こうが圧倒的に有利。

 ――考えろ、考えろ。

 

「――ふむ、ようやく尻尾を出しおったか。暗殺者風情しかいないのが気にくわんが、まあいい。

 何せマスターの危機だからな」

 

 風が吹き荒れる。

 これは、固有結界発動の前兆……。

 

「騎士王! さっきは悪かったな!

 そなたの王の在り方、確かに受け取った! だが余の王道は其とは異なる! そなたが民草を輝きにて導く王であるのならば! 余は最列に立ちこの体を以て、共に荒野を駆ける王である!

 我が覇道は謳い示すものであり、彼方にて繁栄を目指す先駆けなればこそ!

 故に言葉で語るより、見た方が早かろうさ!」

 

 その風圧に思わず目を閉じてしまう。

 ――次に目を開いた時、眼前にあるのは広大な砂漠だった。

 

「固有、結界……」

「貴方、魔術師でも無いのに……!?」

「――見よ、我が無双の軍勢を」

 

 次々と現れるサーヴァント。その誰もが紛れも無い英雄。

 額を汗が伝う。――これは征服王イスカンダルの覇王そのもの。彼が王として認め共に付き従ってきた者達の絆を、固有結界と言う形で具現化したもの。

 

「……マジか」

 

 見ただけで一部の兵士たちの真名が分かった。その余りのビッグネームに、額を汗が伝う。

 プトレマイオス朝初代ファラオであるプトレマイオス一世、勝利王セレウコス、アンティゴノス、マケドニア王カッサンドロス、マケドニア王国将軍メナングロスとクラテロス、ヘファイスティオン、インドマウリヤ朝初代王チャンドラグプタ――。

 数々の王朝の祖が、ここに集結している。その誰もが、類まれな知名度を持ち、世界史に名を残す無双の英雄達。

 加えてペルシャ兵達が数万も集う。歩兵隊だけではなく、騎馬隊までもが。

 まさしく一個の軍勢。これに勝てるとすれば、それこそ世界そのものを破壊する宝具を持った英霊――ギルガメッシュ、オジマンディアス、カルナ、アルジュナ、ラーマ、英雄殺しのスペシャリストことアキレウス。頭に浮かぶ名前がそれ程しか上がらない。

 後は、円卓の騎士で何とか拮抗に持ち込める所だろうか。

 対軍宝具を持っていたとして、決して容易くは無い――これだけの人数を一度に殲滅する事など不可能だ。ましてやマスターまで固有結界に取り込まれたとすれば。マスターを守りながら、これだけの兵力を相手取るのは困難極まる。

 何て、規格外。

 

「これこそが余の誇る最強宝具――王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)なり!

 さぁて、それじゃあ行くかアサシンどもよ」

 

 場所は広大な砂漠。ハサン達に逃げ場はない。

 目の前で行われるのはまさしく蹂躙の一言だ。

 かつてローマで見たのは軍同士の激突だった。兵を動かし、策を巡らし、剣を振るう国の戦いだった。

 だが目の前にあるのは征服である。それは最早戦争ですらない一方的なモノ。

 

「これが……征服王の」

 

 それは分にも満たなかった。瞬く間にアサシン達は消滅し、兵達は勝利の凱旋を高らかに謳う。

 僅か数分の出来事だったが、イスカンダルと言う人物が目指した覇道の一端を垣間見た。

 気が付けば、アインツベルン城の庭園――宴の席に戻っている。

 

「……成程、それが貴様の覇道か征服王」

「無論、誰よりも苛烈に生き、鮮烈な生き様を見せ、兵と民の羨望を一心に束ねる者。それが余の王の在り方――即ち覇道である」

 

 すごかった……。

 魔力供給したらもう一回、見せてくれないだろうか。

 

「――ランサーを破ったのも、その宝具かライダー」

「何を言うか、余達が狩ったのはアサシンだけだぞ」

「そ、そうだぞ! こっちは他の陣営に先越されたと思ってたんだからな!」

「――では貴方達か」

「……おい、マスター。こいつは」

 

 違う、と言おうとして何かが強く引っかかった。何でそんな大切な事に気づかなかったのか。

 ランサーを討ったのはここにいる者達ではない。

 ――そして俺は全ての陣営の動きは把握していない。

 考えろ、考えろ。今回の聖杯戦争で呼び出されたサーヴァントはほとんど、闇討ちを行うような英雄ではない。キャスターだけが不安定な状態だった。

 違う、セイバーが打倒していない以上、知りうるサーヴァント全てにとってランサーを真っ先に狙う理由がない。

 ギルガメッシュが戦闘を行えばそれだけで大きな被害が出る。

 

「――」

 

 待て、一人マスターがいないサーヴァントがいる。

 セイバー・オルタはカルデアの記憶があり、俺の事をマスターと呼んだ。バーサーカーはカルデアにいるセイバー・ランスロットの意識が混ざり合い、俺をマスターと認識している。

 それらが真実だと言う事は「」が証明した。

 もう一人。彼は、俺の事をカルデアのマスターと呼んだ。夜間こそは行動を共にしたが、日中は同行すらしていなかった。戦闘中も指示こそ聞いてはくれたが、はっきりとしたパスを結んだ感じも無い。微弱な感じで、いつでも切ろうと思えば切れる程。

 だが、アルトリアを抑え込む程のステータスは彼本来にはない。

 

 

 即ち、エミヤ・オルタはカルデアのサーヴァントでは無い。

 

 

 ――なら、彼は誰に呼ばれた?

 

 

「あぁ、集まっていたか。手間が省けたな」

 

 

 枯れた男の声に振り返る。見慣れた銃口が、確実に俺を捉えていた。

 

 

 


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