カルデアに生き延びました。   作:ソン

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今回は平和な短編です。やっぱりこういうのがいいわぁ……。

Lostbelt2の消えぬ炎の快男児が楽しみで仕方ない。
タイトルに焔氷ってついてるから、恐らく氷の方はあのセイバーで確定。うちのスキルマレベルマフォウマ宝具凸のインフェルノがウズウズしている……!


ナポレオンピックアップ爆死しました。おとなしく撤退します。
……いいもん、ウチにはノッブがいるからいいもん。


After4 カルデアの日々

 

 

「アンタ、ひょっとして男色趣味とかあんの?」

「なんだいきなり」

 

 俺の部屋に来るや否やベッドでくつろぎだすジャンヌの言葉に、俺はそんな言葉しか出なかった。

 いや、何言ってるんだホント。

 さっきまで俺が使っていたシーツにくるまりながら、顔だけを覗かせる彼女は何とか言うか非常に動物的である。

 読書していた本に栞を挟んで閉じる。北欧神話を読んでいる途中だったと言うのに。終末戦争が起きる寸前の緊張感は何度読んでも、退屈しない。でも行きたくない特異点では上位に匹敵する。フェンリルとか勝ち目ないし、ロキの娘とかどう勝てばいいんだ。

 と、そんな妄想から現実に思考を移す。

 ちなみに俺の視線から彼女の胸元が見えているのだが、そこから視線を逸らす。女性は胸を見られている事など簡単に分かるらしい。この前、ムニエルがデオンから指摘されていた。あいつ、自分の祖国の大剣豪に何て視線送ってやがる。

 

「だって全く手を出さないじゃないアンタ。その癖、男のサーヴァントとかに出会ったらバカみたいに目を輝かせてる癖に。

 そうなったらもう、女に興味ないとしか思えないんだけど。と言うか、そう聞いたんだけど」

「何、そういう噂流れてるの俺」

「調理の名前みたいなヤツが流してたわよ」

「ムニエルに問い詰めにいくわ」

 

 俺がデオンやアストルフォの二人とも仲が良い事を知っていての狼藉かあの野郎。それとも嫉妬か。

 道理でロマンやカドックが俺とちょっと距離を置くわけだ。後アナスタシアと獣耳女王から少々警戒されているわけだ。

 ははは、意外なところに飛び火しやがった。マジ許さねぇ。今度ロッカーに黒髭の書いた薄い本仕込んでやろう。一部の職員から冷ややかな視線を受けるがいい。アレは中々に堪えるぞ。

 

「……あのなぁ、何度も言うが俺だって女性は好きだ。

 俺と契約しているサーヴァントだって皆美人だし、その……そ、そういう事を考えなかった事は無い。うん正直、ホントに」

「……ふーん。ふーーん」

 

 何だその疑り深い目は。

 そしてシーツで顔を隠すな、目だけを覗かせるな。警戒しないでください。

 

「けどな、一度踏み込んでしまったら多分他の誰かと接する時もそういう事を考えてしまう。それで今までの関係が変わってしまうのが一番嫌なんだ。

 実際、そういった事情で衰勢の転機を迎えた英雄も多い。国が滅ぶことだってある。

 大切な人だから、手を出したくないんだよ」

 

 一度黒髭に何故自分のサーヴァントとニャンニャンしないのかと聞かれ、上記の理由を話したらマジ顔で握手された。

 

“アラン殿は分かってる。推しは見守るもの! CP厨の区別などに意味はありません! 自分の推しが幸せなら、ファンはそれでオッケーなのです!

 イエスロリータ、ノータッチですぞ!”

 

 そういう所があるから、何だかんだで気に入ってるんだよなぁアイツ。

 俺の言葉に、ジャンヌは完全に布団にくるまった。そろそろ出てくれると嬉しいのですが……。

 

「じゃあ、アンタの幸せって何なの?

 自分が笑える事? それとも大切な人が笑ってくれる事? 今だって上手く笑えてないクセに」

「それは……そうなのかな」

「馬鹿ね、ホント馬鹿。

 そもそもアンタが笑えないと私達も笑えないのよ。あの突撃女と意見が被るのはムカつくけど」

「……そっか、ごめん」

 

 サーヴァントからするとやっぱり面倒くさいマスターなんだな俺。

 距離を置きすぎてるように感じてしまうのだろうか。

 

「……そ、それで一つ練習してみる気は無い? 自分の欲に正直になるってコト。

 丁度ここに一人。アンタなら何でも受け入れるサーヴァントがいるんだけど?」

 

 その言葉とジャンヌがシーツにくるまった事。

 意味を理解したとたん、顔に熱が灯る。

 

「……そ、そのさ、ジャンヌ。

 俺はその気になるなら、練習ってつもりは無いよ」

「……う、うるさいわねバカ! さっさと腹括りなさいよ!

 抱くか抱かれるか、どっちなの!?」

「待て待て! ゴールラインぶっちぎって無いか!?」

「うるさいっ! さっさと決めなさい!」

 

 ジャンヌに引きずり込まれる。

 必死の抵抗もむなしく、サーヴァントの筋力にマスターが逆らえる筈も無い。

 だが、そこに救世主が一人。

 

「――話は聞かせてもらった、現行犯カリバーだ突撃女」

「いったぁっ!?」

 

 鞘込めの聖剣が投擲。ジャンヌの後頭部に直撃し、彼女を一発で撃沈させた。

 投げられた聖剣はそのまま主の下まで戻っていく。

 

「器用だなぁ……」

「貞操の危機だったと言うのに、余裕のコメントだな。

 しかし危ない所だった、私の類まれなメイド技能の一つである聞き耳が無ければ既に事が始まっていたぞ」

「いや、彼女その寸前で悩んで立ち止まるタイプって知ってるから……。

それに一応言うけど、貴方達女性だからね。何で俺のサーヴァントって皆肉食なの?」

 

 キアラ?

 アレはスイッチ入ったら星が主食になるから別枠で。セラピストの状態なので、本当に助かる。たまに快楽天に戻りかける事もあるけれど。

 

「――マスター、調子はどうだ。

 以前に比べると少しはマシになったように見えるが」

「……まぁ何とか。ドクターとダヴィンチちゃんに助けてもらったからさ」

「……ならいい」

 

 あの特異点は本当にトラウマになりかねなかった。最悪の場合、あそこで潰されていた可能性もあるのだ。

 そこを救ってくれた征服王には感謝しかない。……出来れば張り手は勘弁してほしかったけど。

 

「……そういえば、まだ褒美をくれていなかったな。

 マスター、貴様はよく成長した。オルレアンの時とは雲泥の差だ」

「そりゃまぁ」

 

 悩みも吹っ切れたし、なんて言えなかった。

 彼女は、その時の俺が抱えていた悩みに気づけなかった事を悔いているのだ。でも気づけなかったのも当然の筈。

 だって俺はそれを、カルデアの誰にも伝えてはいなかった。自身の問題だと思い込み続けていた。

 今となっては最早過ぎた過去でしかないが、それでも彼女は負い目に感じている。

 

「貴方が傍にいてくれたからだ。

 背中を押してくれたのは、貴方の言葉だ。俺一人じゃ、ここまで来れなかった」

「――」

「?」

「……いや、それ以上は言わなくてもいい。

 貴様の言いたい事はよく伝わった」

 

 あれ、これマズい流れだぞ。

 

「なに、貴様の顔を見ればわかる。私の直感とカリスマがそうささやいているからな」

 

 どっちも立香のセイバーと比べてスキルダウンしてなかったですか、それ。

 彼女は俺の顎に手を当てて、顔を近づける。絵画のような儚げな美貌に思わず息を呑んでしまう。

 

「待っていろ、マスター。

 私無しでは生きられないと、その口から言わせてやる。お前の隣はあの幽霊女だろうが、まだもう一つ空いているだろう?」

「――」

「楽しみにしているがいい。

 では私はコイツを連れて部屋に戻る。今日は数少ない休暇だ。戦の疲れを癒すがいい、マスター」

 

 そういって、アルトリアは気絶しているジャンヌを肩に抱えて退室していく。

 ……豪快だなぁ。

 

「……」

 

 彼女に触られた顎に手を当てる。まさかそんな事をしてくるとは予想外だった。

 俺より男前だな、アルトリア……。

 

 

 

 

「ぐぬぬっ……! おのれ、第三形態まであるとは卑怯な……!」

「攻め過ぎだ、女武者。深追いは反撃を許す。『ガチャもPVPも引き際を見極める事が肝心』とジナコも言っていたぞ」

「分かっています、分かっていますが……。ぐぬぬ……!」

 

 途中ランスロットと出くわし、彼と共にレクリエーションルームにまで顔を出した。

 アーチャーとカルナが、何やらゲーム実況をしている最中である。また珍しい組み合わせだ。

 

「またゲームの内容が変わっている……。幅広いなぁ」

 

 アーチャーの趣味となったゲームだが、購入にカルデアの経費を使うなどと言うオルガマリー所長の怒りにより、俺の給料から天引きされる形となった。

 無論、その事はアーチャーに伝えてはいない。彼女がそれを知れば、楽しみの一つを奪う事になってしまう。自身の娯楽がマスターである俺の懐に関係していると知ったら、自ら自粛する事なんてのは目に見えている。

 現代の娯楽を楽しむ様を見れば、そんな事出来る訳がない。

 

「ま、マスター、丁度良い所に! サインを、白サインをお願いします! 私とマスターでこの修道女(ボス)に鉄槌を!」

「あれ、そのボスってNPCサイン無かったっけ」

「それが一戦目には参加しないと言う猪口才な真似を……!」

 

 多分、カルナのアドバイスが仇となって冷静さを失っているのだろう。彼の助言は本質を突く。いつもなら穏やかな筈のアーチャーがゲームにのめり込んでいる事を考えれば、まさしく一種のロールプレイングと言えなくも無い。

 にしても珍しい組み合わせだ。

 

「アーチャー殿、それでは美しいお顔が台無しになってしまいます。やはり女性は笑顔でなくては」

「ランスロット、貴殿の発言は災いを招きかねない。内容には気を使った方がいいだろう」

 

 ここにエルドラドのバーサーカーがいなくて良かった。

 ……あ、いや。彼女自身に美しいと言わなければ良かったんだっけ。

 

「装備は……うわぁ」

「な、なんですかマスターその声は。やはり戦場では武具が至高ではありませんか!?」

「いや、その……」

 

 ステを筋力全振りとはたまげたなぁ……。初見にはありがちな勘違いをしている。

 まぁ、アーチャーは初見の際、全部ゲーム内でしか情報を集めないガチ勢なんだけど……。

 と言うかそれでよくそこまで進めたな。

 

「あのね、アーチャー」

「は、はい」

「筋力を99にしたからって、目に見えて威力が上がる訳じゃないんだこのゲーム。寧ろエンチャントか素直に武器強化した方がいい」

「な、なななっ……!」

 

 バフでステータスの強化が肝心なのである。

 アーチャー、結構脳筋的な考えだしなぁ。戦場では乱戦が大の得意であり、俺と契約してくれているサーヴァントの中でも一対多数の対人においては滅法強い。

 しかしそれがゲームで活かせないのは、彼女の性格かそれとも制作会社の作り込みが英霊に匹敵しているかどっちかだ。

 

「だから言っただろう、アーチャー。せめて体力と持久は上げるべきだと」

「あ、当たらなければどういうという事は……」

「かわせていないのが現状だが?」

「うぐっ……。ま、マスタぁぁ……」

 

 あ、泣きそうになってる。

 搦手に弱いものなぁ、彼女。乱戦には滅法強いのに。

 

「アーチャー、その……この状況を打開できる情報あるけどいる?」

「ぜ、ぜひ! 逆転の一手を!」

「よしステータス振りなおそうか」

 

 彼女の表情がころころ変わっていく。

 でもだからこそ、彼女といる時間も楽しいのだ。

 

 

 

 

 ステ振りでプレイヤーキャラクターが強化されたのが嬉しいのか、今度は一騎当千のプレイを披露していくアーチャーを眺めていると、ふと声がかけられた。

 

「――なんだ、ここにいたのか。丁度良かった」

「カドック、今日待機だったのか」

「前日まで特異点さ。まぁ極小だったからそんなに苦労しなかったけど」

 

 カドック――多分、Aチームにおいて俺や立香の立場に最も近い存在。その策謀家としての実力はカルデアにおいても上位に匹敵する程で、実際彼が特異点修復の際にはぐれサーヴァントやアナスタシアの能力を巧みに使いこなし、格上殺し(ジャイアント・キリング)を果たした事もある。あれは素直に舌を巻いた。

 

「ほら、CD借りてただろ、返すよ。アンタにしては悪くない」

「気に入ってもらったようで何より。邦楽も悪く無いだろ?」

「……そうだな。中々いいロックだった」

 

 彼は意外にも面倒見が良い。いや、彼だけではなく、Aチームの大体は魔術師にしては人間が出来ている方だ。

 もし人理修復の際、彼らがいてくれれば大きな助けになったに違いない。

 そして彼らを知れば知るほど、47人のマスターを誰にも気づかれる事なく爆殺したレフの能力が恐ろしいばかり。

 俺や立香がグランドオーダーを完遂出来たのは、本当に綱渡りだ。誰か一人欠けていれば、何か一つでも遅かったら、何か一つでも判断を誤っていたら――確実に失敗していた。

 

「……にしてもお前のサーヴァントは飽きないな。この前もゲームしてただろ」

「現代の楽しみを知るのはいい事だと思うけど。カドックだってアナスタシアとレースゲームしてたの知ってるし」

「な、な!? ば、ば馬鹿を言うなアラン! あれはたまたま、アナスタシアが買ってきたから……!」

「――あら、どこかのマスターがサーヴァントと交流を深めているのを見て、真似したのではなくて?」

「あ、アナスタシア!」

「私を誘う口説き文句を、部屋で練習していたのは知ってるのよ。誰もいない空間でブツブツ呟く光景は中々だったわ」

「ああああああ!!!!」

 

 死にたくなるなぁ、それ。……そしてイイ顔してますね、皇女様。

 実はカドックの後ろにアナスタシアが立っているのは知っていたのだが、それはあえて黙っていた。

 

「…………何だよ、笑うなら笑えよアラン」

「笑わないってば。サーヴァントと絆を深めるのは大事だし、それを欠かさないカドックは良いマスターだと思うよ。俺も立香もそう思ってるし、ドクターやダヴィンチちゃんだって認めてるんだから。

 素直に自分を認めたら?」

「……ったく。本当に人が良いな、お前。あのグランドオーダーを達成したんだろう?

 なら誇るのが普通じゃないのか? 僕達はただ冷凍睡眠で置物でしか無かったのに」

「それは逆だ。カドック達が危険だから、レフは爆破したんだろ。実際、カルデアの機能を停止寸前まで追い込んだレフの手腕が見事だったとしか思えない。

……それに実際、助けになったのはサーヴァント達だし。俺も立香も、自身だけじゃ何も出来なかった。

 ようやく動けてきたのが後半からだったし」

 

 どちらにせよ、俺は第四特異点でカルデアから離脱した。

 はっきりとはしないが、第五、第六、第七の記憶も朧げ程度には存在している。アレはきっと、彼女を召喚出来なかった俺が歩んだ未来なのだろう。

 死人であった俺がこうして生きているのは、彼女がいてくれて、カルデアの日々があって、善き人々に恵まれたからに他ならない。それこそ本当に、奇跡に近い。もし何か一つでも欠けていれば、俺はここにいないのだから。

 

「……ごめん、悪い事を聞いたな」

「いいよ、過ぎた話だ。今はこうして笑えてる」

「そうか……。なぁ、アラン。僕はアンタや立香みたいなマスターになれると思うか。何も誇れるモノがない男でも、何かを救えると証明は出来るのか」

「……それは言うのは、俺じゃなくて」

「――貴方は私を召喚したマスターでしょう。そして特異点修復の実績も重ねているのだから。

 自信を持ちなさい、そんなに覇気のない目をされると凍らすわよ」

 

 心底嫌だと言わんばかりにカドックは顔をしかめる。

 彼女の言葉はまっすぐだ。悪戯か本気か分からない言葉から目を逸らせばではあるが。

 事実良いサーヴァントだと思う。自身の意志をはっきりと持ちながら、マスターを尊重する姿勢も示す。――カドックとは極めて相性の良いサーヴァントだとつくづく思う。

 ちなみに今のカルデアはマスターとサーヴァントは原則一対一であり、立香のサーヴァントは一部を除いて座に帰還。残留を選んだサーヴァントは彼との契約を続行。

 そして何故か俺が召喚したサーヴァントは全員、退去する事も無く契約を続行。その理由が一貫して“マスターから目を放すと何処に突っ走るか分からない”と言う有様。本当に耳が痛い。

 

「……じゃあそれまで、僕と契約してくれるのか」

「お馬鹿、今更何を言っているの? 貴方が一人前の紳士になるまで、私は傍にいるつもりです」

「……そうか」

「せめて貴方にダンスの一つでも教え込まないと気が済まないわ」

「勘弁してくれ」

 

 いいなぁ、いいなぁ……。

 隣の芝生は青く見えると言うが、まさしくそれだ。

 自分のサーヴァントじゃ、こうは行かなそうだもんなぁ。

 

『ねぇ、マスター。さっきは他の婦人と楽しそうに話していたわね。本当に楽しそうで何よりよ。

 いいえ、怒ってないわ。怒ってませんとも。――ところでその女と話していたコトを、私にも話してくださる?』

『……貴様。私からの誘いには難渋する癖、他の女には笑って対応するそうだな。

 フン、私はどうでもいいがな。その女の前で見せた表情を私にも見せろ。今すぐにだ』

『へぇー、ふーん、そーなんだー。マスターちゃんってば女だったら誰でもそういう対応するんだ、へぇー。

 ――そういえば嫉妬の炎ってよく燃えるらしいわよ。えぇ、また機会があったら試すかもしれませんねぇ、えぇホント』

『……アラン様? いくら私にヒトの記憶が戻ったとはいえ、快楽天であり女の一人である事には変わりありません。

 貴方様の行動次第では、私、いつか歯止めが切れるかもしれませんわ』

 

 恐らく精神的に成熟しているであろうランサーオルタだけが厄介な思い込みをしないでくれたのは本当に助かった。今ならランスロットの気持ちがよくわかる。

 おかしいな、性別で対応は変えてない筈なのになぁ。

 俺の表情に気づいたのか、ランスロットは小声で耳打ちした。

 

「……マスター、女性は女性に対し焼き餅を焼いてしまう事が多いと聞きます。恐らくソレでは無いかと。マスターに信愛を向けているからこそ、矛先がそちらを向いてしまうのでは」

「まぁ、俺に向くならまだいいけど。それが他に行かないようにしなきゃな。ちゃんと受け止めないと」

 

 例えそれが八つ当たりだとしてもだ。

 それにアレだ。年の近い妹と思えば、皆なんて事は無い。

 

「ぐっ、姿を消すとは小癪なっ!」

「矢を放て。刺されば矢で姿が追えるだろう」

 

 まだアーチャーの戦いは続きそうだなぁ。

 カドックとアナスタシアはまた二人の世界に入ってるから、そっとしておこう。

 

 

 

 

「お帰りなさい、マスター」

「ただいま、セイバー」

 

 今日一日カルデアで姿を見ないと思っていたら、俺の部屋に彼女がいた。何故俺のサーヴァントは皆、ベッドに腰かけるのだろうか。

 サーヴァントは一人一つの個室が与えられるのだが、マスターやカルデアが職員が増えた今、建築関係のサーヴァントの助力を得ても、満足な増設に至っていないのが現状だ。そんな事をすれば、国際機関や魔術協会に目を付けられる。

 ――それを知ってか知らずか、彼女は部屋を与えられる事をあっさりと拒否した。

 

“いいえ、私はマスターの部屋で充分よ”

 

 あの時のオルタやキアラの表情は忘れない。ぐぬぬと言わんばかりの目を。

 そして燃料を投下してくれたダヴィンチちゃんの言葉も。

 

“同居とはまるで夫婦だねぇ。いいねぇ、若返るよ”

 

 その後の惨劇はあまり語りたくはない。一つ幸運だったのは、カルデアに全くの被害が無かった事だけだ。それだけは本当に感謝している。

 そして彼女は眠る事は無い。だからずっと起き続けている。夜は退屈で仕方ないと。なら俺がいて、夜の時間が彼女にとっての楽しみになるのなら、それで全然かまわない。

 俺が彼女から貰ったモノは余りにも多すぎる。未だにその少しも返せていない。――もっとも、それは彼女だけに限った話ではないけれど。

 

「……」

「どうかしたの? また難しい顔しているけど……」

「いや、その……何でもないよ」

「嘘、何か言いたそうな顔してる」

 

 思わず口ごもる。彼女に前に、下手な隠し事は出来ないのが現実。

 これは適わないなと、何度思ってきたか。

 

「……今日、会えなかったからどこに行っていたのかと思って」

「心配してくれてありがとう、マスター。ちょっとお話に行ってきたの。

 ここも神さまが増えてきそうだから、先に手を打っただけ。大丈夫、明日からはまた一緒よ」

「そっか……安心した」

「変な人、私と少し会えなかっただけなのに」

「……キミと会えないのが寂しかった、から」

 

 彼女を喪った時の暗闇は今でも鮮明に覚えている。あの気持ちを、もう二度と味わいたくない。

 思わず自分で言ってしまった言葉に恥ずかしくなって、うつむくように顔を隠す。

 両頬に手が添えられる。それにつられるように顔を上げると彼女と目が合った。

 美しいばかりの微笑みに、見とれてしまう。その笑顔をこんなに近くで見た事は無かったから。

 

「――そうね。私もさみしかった。

 だからその分、これからは甘えさせてねマスター」

 

 本当に、彼女と出会えてよかった。

 

 

 







「何ここ」
「……閉じ込められてしまったようね。見て、マスター。“キスしないと出られない部屋”だそうよ。
 私知ってるわ。ソリッドブックでよくある――」
「――やめなさい」

 多分BB経由で知ったんだろう。
 あの18禁、どこでそんな事を知ったんだろうか。カルデアの私生活をムーンセルに映像媒体で送ってやろうか。

「早く出よう。扉を斬れば出られるだろうし」
「……」
「?」
「私とキスするのがいやなの?」
「……いやじゃ、ないけど」

 彼女が目を瞑る。いつでもどうぞ、と言わんばかりに。
 僅かな間、悩んで――右手の甲に、そっと口づけした。

「……」
「……」

 扉の鍵が開く音がする。
 どうやらこれでも一応認められるらしい。
 ちなみに口づけしてから、目は合わせていない。分かっている、確実に不満そうな表情をしていると。

「――」
「――」
「……その、ごめん」
「……意気地なし」
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