カルデアに生き延びました。   作:ソン

65 / 69
夏イベ、表向きはギャグイベでしたが裏ではとんでもない事態になっていたと言う……。BBちゃん、とうとうフロム脳を疼かせるキャラになったか……。
ウチのマルタさんは相変わらず神性絶対殴り倒すウーマンで、大活躍でした。さすが暴力のアルターエゴ。

コミケ行ってみたいけど遠いなぁ……。
ちなみに自分の中二発症はとあるゲームからでした。

「アカルイミライヲー」OPが至高
「我はメシアなり!」ラスボス第三形態BGMが至高

多分、これで分かると思います。
だからジャンヌ、EXアタックで刀使うんだよオラァン!?



After7 サバ☆フェス! 一日目

 

 

「ハワイにフォーリナー反応?」

「うん、まさか夏期休暇の時に探知されるとは……。いや、正直言うとちょっと微妙なんだ。

 フォーリナーのようでもあるし、全く別のクラス反応も混在している……。混ざり合っていると言うか何というか」

 

 微小特異点修復後――チキンベルトと言う名の世界から帰還した直後の事だった。

 ドクターとダヴィンチちゃんが申し訳なさそうな表情で、そう告げたのである。

 既にカルデアからサーヴァントやマスター、スタッフが夏休暇と言う名目でハワイに跳んでいるのだと言う。

 そこで感知された反応、フォーリナー――外宇宙からの存在。狂気を呑み込んだ者、或いは狂気に魅入られそのものに成り果てた者。そういった存在がハワイにいるのだと言う。

 ちなみにキアラの絶好の獲物であり、彼女からすれば一級品の御馳走らしい。

 閑話休題。

 レイシフトではなく、現地へ飛んで欲しいのだと言う。レイシフト反応を感知されれば、そこに到達する前に潰される可能性とて在り得る。

 

「既にAチームが現地入りして情報収集と調査を開始している筈だ。勿論、立香君もね。

 合流して、フォーリナー反応の詳細と原因を明確にし、脅威であれば排除する」

 

 出来事(イベント)が間髪入れず、立て続けに起こると、精神的に疲弊する。

 ハワイ、ハワイかぁ。せっかくの夏だしバカンスで行きたかったなぁ。

 

「――おい、ドクター。我がマスターへの休暇はどうなっている?

 マスターは当然のこととして、スタッフはともかく、サーヴァント共にまで休暇を与えているのだ。

 まさかコイツに休暇を与えないとは言わないだろう?」

 

 落ち着いて、アルトリア。特異点であれだけ鶏相手に暴食の王として振舞ったのに、まだまだ元気である。

 竜の炉心による魔力回復は伊達では無いと言う事だろう。

 

「それは勿論。フォーリナーの調査はハワイの最終目的に過ぎない。どう行動するかは全てキミ達に委ねるよ」

「あら、調査を放っておいて遊び呆けるとは思わないワケ?」

「彼はそんな人じゃないだろう。そんな彼の下に集うキミ達もね。だから何の心配も不安もないよ。

 期間は一か月、確保しておいた。それまでに目的を完遂してくれ。後はどう過ごしても構わないよ。早めでもギリギリでも、ボクらが“おかえり”って言えるなら大丈夫さ」

「まぁ、ちゃんと帰ってきますよ」

 

 フォーリナーと交戦した経験があるのは立香だけだ。けれどAチームもいるのなら、決して劣る事は無い。

 さ、荷物をまとめたらハワイへ飛ぼう。

 ――勿論、契約しているサーヴァント全員と共に。

 

 

 

 

 飛行機に乗る、なんて言うのはいつぶりだろうか。

 この世界に来る前に、一度は乗ったかどうか。それすらも定かではない。

 どうやら俺が覚えている前の記憶は、そのほとんどが薄れていき、残っているのはこの世界に関わる知識だけだ。まるでいらないページを捨てて行って、理想的な一つの本に編纂していくように。

 この空白が埋まる事は無いだろう。いや、埋めてはならないのだ。それは俺自身の否定に等しいから。

 でも寂しくは無い。それに匹敵するだけの思い出は確かにある。

 ――と、現実逃避したくなるような時間を過ごしていた。

 民間の飛行機でハワイに飛ぶ……。まぁ、要するに一般の人々と一緒に機内に乗り込む訳であって。空港ではサーヴァント達の容姿に注目の視線ばかりが向けられていて。寧ろ俺は肩身が狭くなった程。しかも嫉妬の視線も向けられたし……アレは多分男女両方だろう。

 

「ふむ……カルデアに比べると食事はさすがに劣るが、この環境で贅沢は言えんか」

「あら、気に入らないのなら出て行ってくれて結構よ? 寧ろ出ていきなさい。今すぐ、なう、ごー」

「……見苦しい。貴方達の行動はオルタの沽券に関わる事を自覚しなさい」

 

 オルタ達の声が聞こえる。

 頼むから、爆発しませんように……! 機内で武装展開でもしようものなら、それこそ大問題だ。神秘の漏洩につながってしまう。そうなれば、携行型ミサイルで撃ち落とされてもおかしくはない。

 さすがにそこまでしないと分かってはいるけれど、どうしても不安になってしまう。

 

「まさか殿方と異国の地に行くなんて……私、初めての経験です。エスコート、期待しますわ、マスター」

「……お手柔らかに」

「女性へのエスコートですか。不肖ながら私で良ければ、教示しましょうマスター」

 

 キアラが浮きだっているのは意外である。月の世界とはまた別の感覚なのだろうか。

 後、ランスロット。何か凄い日焼けしてるけど、何かあったのか。それとも宝具使って南国になじんだのか。

 

「ハワイ、ハワイか。……南国の地にオレのような男がいて、不似合いにはならないだろうか」

「いや、カルナは似合うでしょ。色白いしスタイルいいし」

 

 普段のポジティブシンキングはどうした、カルナ。

 

「……マスター、マスター! ハワイには“ろこもこ”なるモノがあるそうです!

 ろこもこ……何と愛らしい響きでしょうか」

「ろこもこ……あぁ、ロコモコの事か」

 

 ハンバークと目玉焼きをご飯の上に乗せたもの。……まぁ、ファミレスの朝食メニューを丼にしたと言った方がいいだろう。

 ロコモコの語源は分かっていないけれど、まぁそれは言わぬが花だ。正誤を突き詰めるのではなく、共に考える時間も楽しいものだし。

 

「……マスター」

「どうかした?」

 

 隣に座る彼女の表情こそ、いつもと変わりない。だが視線は少し険しい。

 ――俺ですら、あまり目にしたことがない程に。

 

「危ないと思ったら、いつでも呼んで。どこにいても、貴方の下に来るから」

「大丈夫、皆がいるから安心してるよ。

 早く原因を解決して、バカンスを楽しもう。海とか入った事ある?」

「海はないわね。……冷たいんでしょう? それに溺れたらどうしましょう。私、自分が泳げるか分からないわ」

「泳げなくても楽しみはあるさ。海の中の世界も、とても綺麗なんだ。

 珊瑚……はオーストラリアだから沢山はないけれど、透き通った世界は何とも言えない美しさがある」

「……そう、楽しみね」

 

 

 

 

 ハワイ――某国際空港。

 そこに下りて、入国手続きを済ませたところでふと違和感に気づいた。外貨の紙幣が何かおかしい。

 何だ、ギルドルッシュって。FFか何かここは。

 

「――フッ、お忘れかしらマスター? もうここは特異点よ。ならあらゆる不測を予想するのは当然では無くて?」

 

 そう得意げに言ったのはジャンヌだろう。どういう事か、と聞き返そうと思い振り返った時、思わず目を奪われた。彼女の、水着姿に。

 ――そして、うわぁと言葉を漏らしてしまった。

 彼女、服のセンスがどこか抜けてるんだよなぁ。そこも可愛いんだけれど。

 

「な、なによ!? ハワイと言ったらバカンス! バカンスと言ったら水着でしょう!?」

 

 アルトリアですら苦虫をかみつぶしたような表情である。ちなみにランサーの方も。

 

「大体、何だその刀は。三本も不要だろう」

「刀は二本で充分では……。脇差でもありませんし……」

「……あぁ、分かったわ。マスターが刀好きだから、それで気を惹こうと」

「わー! わー! わー! 焼き殺すわよアンタ達!」

 

 刀はなぁ……。まぁ、カッコいいはカッコいいけど、使い手の方に憧れるって感じだ。

 土方さんとか柳生さんとか。後は小次郎。

 武蔵ちゃんもいいなぁ……。服も素敵だしなぁ。

 

「アロハ、ようやく来たね。まずは無事に到着出来た事を喜ぼう」

 

 ぶはぁ、と吹き出しそうになるのを抑える。

 キリシュタリアさんの服装は南国風。即ちアロハシャツに短パンとサンダル、額に上げられた高級物のサングラス。――普通に似合っているのが何と言うか。

 アルトリアが腰を抓って笑うのを必死にこらえていた。分かる、アレは何の予備動作も無しに見たら、そうなる自信がある。

 

「まず、このハワイの違和感に気づいた事だろう。何せ、通貨の単位そのものが違うのだからね。

 ――そこの彼女が言った通り、ここは紛れも無い特異点だ。Aチームはこの地をルルハワと名付けた」

「ルル、ハワ……?」

「何なの、今のカルデアって大喜利集団か何か?」

「少し黙っていろ、中二病女」

「――よし、羅刹と化すわ」

 

 何か向こうで殺し合いを始めかけている二人を尻目に、それを抑えるランスロットに感謝しつつキリシュタリアさんの話に集中する。

 ルルハワ、ルルハワ……ホノルルにハワイを合わせたのだろう。確かに飛行機からはハワイの地が陸続きになっている事に疑問を覚えたのだから。

 

「――現在、このルルハワにはカルデア、非カルデアのサーヴァントが次々と集結している」

「……それだけの一大事って事ですか」

 

 一騎当千の英雄達が集結する。

 それはきっと、時間神殿に匹敵する程の――

 

「六日後に開かれるサバフェス――同人即売会に参加するためだ」

「ん?」

 

 おかしいな。あのキリシュタリアさんから同人と言う単語が出たぞ。

 ホームズに何か一服盛られたのだろうか。それともこれは俺が見ている夢か何かか?

 

「さばふぇす」

「サバフェス」

「どうじん」

「同人」

「そくばいかい」

「即売会」

 

 ……いや、これは現実だ。まずは受け入れよう。

 いつしかのハロウィンを彷彿させる予感がする。

 

「既にAチームも参加枠で動いている。サバフェスで一位になったグループには聖杯が与えられるからね」

「何で聖杯が……。それにまだ何かありますよね、今回の本当の目的とか」

「――さすがだ。……全てのサーヴァントを総動員させてはいるが、今回の件で観測されたと思わしき存在の発見にまでは至っていない。

 フォーリナーのクラスこそ二名ほど確認したが、既にカルデアの霊基に登録されている。ならば照合パターンが一致する筈だ」

 

 つまりはサバフェスを隠れ蓑にこの特異点を調査していると言う訳だ。

 ……Aチームや立香がいて尚発見に至らないと言う事は、よほどの存在らしい。

 

「現在分かっている情報はこれぐらいか。それとこれも渡しておこう」

「これは?」

 

 渡されたのはカードキー。見たところ、俺と契約しているサーヴァント分はあるけれど。

 

「ホテルのカードキーだ。既にキミ達の部屋は確保している。どう動くかは、各々に任せよう。バカンスと割り切って満喫するも良し、作品を作り上げるべく追い込みをかけるのも良し。

 キミと競い合える事を楽しみにしている。では、また。サバフェスで会おう」

 

 そういって立ち去っていくキリシュタリアさん。

 大まかな事情は凡そ呑み込めた。

 そこまで考えたところでふと、違和感を感じ取る。まるで何かすぐ近くにバグが――。

 

「BBィ、チ――」

「落とすわ」

「にゃるしゅたんっ!? 斬り捨て御免は勘弁ですー!」

 

 「」が何かを断ち切ったようだ。

 キリシュタリアさんと入れかわる形で現れたのはBB。それも水着使用である。

 絶対黒幕コイツでしょ。

 

「あ、あの私、サバフェスの運営ですから、もう少し手心を加えてくれると嬉しいかなーって」

「あら、ごめんなさいね。どうにも貴方を――今すぐ斬りたくてたまらないの」

「貴方が言うと洒落になりません……!」

 

 多分、事情知ってるんだろうなぁ。

 彼女の言う事はあまり鵜呑みにせず、そしてそのまま捉えようとしない方がいい。

 ……にしても彼女が来たと言う事はやはり手を打っておくべきか。

 これは一つ、後で「」に頼みごとをしておこう。

 

「BB、サバフェスって?」

「サーヴァントの学会とでも思ってくれればオッケーです」

「あぁ、要するに好きなモノを形にして共有するって事か」

 

 それコミケじゃねぇか。

 

「ちなみに今回で94回目ですよー」

 

 やっぱりコミケじゃねぇか。

 

「アランさん、ちなみにどうされるおつもりで? 既にAチームの皆さんとセンパイはサークルで参加してますよ?」

「……んー」

 

 俺のサーヴァントは言ってしまえばバリバリの武闘派だ。

 無理に合わないモノに付き合わせるよりも、やはり南国の地に来たのだからバカンスを楽しんで欲しい。

 

「ちなみにサバフェスで一位を取ったサークルには聖杯が与えられます。勿論どう使うかも自由です。どうですかー? 欲しくなりましたかー?」

「特異点修復すれば回収出来るし……」

「やだ、この人感覚がマヒしてる……!?」

 

 正直な事言うと、サーヴァント達にバカンスを過ごさせてあげたいのは確かだ。

 俺に漫画なんて書ける筈も無い。ジャンヌはモナリザを模写していた経験があるから何とかなるとして……アルトリアも器用じゃないし、人そのものがまだ遠い「」も難しいだろう。キアラは読む専門だし、カルナは……あまり器用じゃないって言ってたし。インフェルノとランスロットが何とか努力してこなせるぐらいか。

 慣れない事に貴重な時間を割かせるよりも、心の底から楽しんで欲しいのだ。

 

「一般枠じゃダメか」

「ええ、勿論! マスターさんは全員、作家枠で参戦してもらいますよー?

 ちなみにアランさんはサバフェスまでに新刊が完成しなかったらブ――」

 

 ブタになる、と言いかけたのだろう。

 けれどそれを言い切る前に、カルナとランスロット以外のサーヴァント全員が得物を抜いてBBに突きつけていた。

 ちなみにキアラの操る黒い手が彼女の下半身をホールドしているため、逃走は不可能である。

 

「ブ……何かしら? ごめんなさいね、よく聞こえなかったわ。もう一度声に出してくれないかしら?」

 

 「」が刃をBBの首に密着させている。もし引けば間違いなく彼女の首が落ちるだろう。

 そしてそれを挟むようにインフェルノの刀も抜かれている。

 そして左右から、アルトリアが剣を、ジャンヌが刀を。トドメと言わんばかりにランサーオルタが馬上から槍を突きつけていた。どこから出したんだ、そのラムレイ。

 

「え、ええっと。単なる言葉の言い間違いですよー? な、何でそんな物騒なモノ向けてくるんですかー? ぶ、ぶ……不足なんてもったいないから頑張ってくださいねー、って言いたかっただけですよ?」

「今、考えたわよね?」

「ひぃっ!?」

 

 助けてください、と言わんばかりの目で俺を見つめてくるBB。

 アレは多分嘘泣きでも何でもない。本当に泣きそうになってる。

 

「……どうせBBの事だから、エンドレスとか仕込んでるんだろ。新刊が完成しなかったり、一位を取れなかったら、一日目からやり直しとか」

「ぎ、ギクッ!?」

 

 BBは基本的に直接手を下さない。それは最終手段だからだ。

 苦難の道に放り込んで、足掻く様を見続ける。しかもそれが相手の為と思っているのだからタチが悪い。

 でもまぁ、逆にいえば。足掻き続ける限り、必ず見届けてくれると言う事なのだが。何て歪んだ人類愛だろうか。

 いや、俺もビーストに至った経緯を考えれば大概の事だけれど。

 

「多分、他のAチームも巻き込んでるじゃないか。じゃなきゃ、キリシュタリアさんが他のメンバーの動向を知らないのもおかしい」

 

 ベリルさんとかウキウキだろうなぁ。自分はそっちのけで他人をこき下ろす事を楽しんでいるに違いない。あの人、表面上は人でなしだから。

 キリシュタリアさんや他のAチームがいなければ、もっと過激な事をしていたに決まってる。

 

「ど、どこまで見抜いて……」

「いや、貴方が分かりやすいだけだ」

「っっ~~~!! そ、それより早く助けてくれませんか!?

 か弱い女の子がこんな目にあって――きゃぁぁっ! 刃を動かさないでくださいー! 今ちょっと食い込みましたよ!?」

「落としてあげましょうか?」

「ポロリ(物理)は勘弁ですぅ!」

 

 我がサーヴァント達によるBB弄りはそれから一時間程続いた。

 彼女からしてみれば、生きた心地がしなかっただろう。

 

 

 

 

「よいしょっと」

 

 荷物をまとめる。ともかく新刊を完成させ、サバフェスで一位を取らなければこのループが終わらないらしい。

 いつまでもバカンスが楽しめるのは、確かに良いことかもしれないが。それでは平穏な日常に意味が無くなってしまう。

 だから、終わりを迎えなければならない。

 サーヴァント達を招集し、新刊をどうするか話し合う。

 と言うよりもどんなスタイルにするかだ。

 コミケ……失礼。サバフェスに出す本の内容は自由らしい。

 例えば二次創作もあれば、一次創作もあるし、マニアックな趣味本も、実用的な料理本もある。要するに自分の好きなモノについて存分に語り合う場所、趣味の学会である。

 問題は残り六日でどうするかだ。漫画は論外。書ける人物もほとんどおらず、ジャンヌに負担をかけさせる。趣味本……そこまで語れる人物が無い。

 「」は知っているモノを書かせたら封印指定受けそうだし、アルトリア・オルタはバーガー本、ジャンヌ・オルタは……何なんだろうか。キアラは確実に目を付けられる、ランスロットは恋愛の駆け引きが分かるだろうが本人は余り良い思いじゃない。

 カルナは……嘘の見抜き方とかかなぁ。個人的にはインフェルノの生前の思い出話を聞きたい所。

 閑話休題。

 

「……小説かなぁ。書くのは挿絵だけでいいし、現実的だし」

 

 それなら苦労するのは俺だけでいい。三日ほど徹夜すれば、まぁ原稿用紙三百枚程度は書けるだろう。理論的にいえばであるが。

 挿絵は、まぁ五枚ほど。……これならジャンヌ達もバカンスを楽しみつつ、創作活動だって出来る。

 そして新たに浮かぶ問題が内容である。

 サバフェス……もう面倒だからコミケでいいか。コミケでは五十部売れれば、そりゃもう凄い事である。部数を増やしても捌き切れなければ意味が無くなるし、荷物になって他のサークルの邪魔にもなりかねない。

 けれど、一位を取るには他のサークルを越えなければならないのだ。……Aチームや立香の作品を越えなければならない。それは酷く難しい。

 そして既に一位は決まっていると言われているメイヴのサークル。……性欲に健全性が勝てるのだろうか。

 

「……マスター、つまりは新刊さえ出来れば、もう一度初日に戻るのだろう。

 なら物は試しだ。試しに一冊書いてみるがいい」

「……分かった、ならまずは二次創作で行こう。

 内容は……」

 

 まず定番の復讐モノ。

 居場所を奪われた少年が、自身の生きる理由を求める物語。

 けれど、少年が元居た場所には彼のクローンがいて。少年はそのクローンに強い憎悪を抱く。それは憎悪を生きる理由にしたから。

 その過程で様々な人達に導かれながら、生きていく。もうそこが、もう一つの居場所になっていた事にすら気づかずに。

 ――そして彼の行く末は。

 

「……アンタ、テンプレに捻り加え過ぎじゃない?」

「でもまぁ、書いてる方が楽しいぐらいがいいでしょ」

 

 これは俺の勝手な言い分だが。

 主人公には充分なバックストーリーが必要だ。それは設定を盛るとかそういった話なのではなく。どのように生きてきたのか、と言う事だ。それがあって、ようやく主人公は形を帯びる。

 よくゲームとかで主人公を作れるゲームがあるが、空気になりがちなのはそのためだ。人物背景が全くの空白であるから、ストーリーを動かすに足る充分な理由がないのである。

 寧ろ逆に、全くストーリーの解説をせず全てをプレイヤーの想像に委ねると言う手法もあるが。それは物凄く難しい事だ。どの観点から見ても納得のいくシナリオや世界観は容易く作れるモノでは無い。

 でも人によって見方が変わり、様々な解釈が生まれるからこそ、世界を作るのは楽しいと思う。

 要するに書きたいものを書くなら、しっかり考えて書こうと言う事だ。台詞だけじゃなく、生い立ちに重点を置くべきだと言う事。

 閑話休題。

 

「ならば、挿絵の場面を決めるべきだろう」

 

 カルナの一言で、また会議は進んでいく――。

 

 

 

 

「……まぁ、初日でここまで行ければ上等か」

 

 既に日付は変わり、気が付けばワープロで打ち込んでいる文章は作品の半分近くまで進んでいた。

 うん、これなら早く終わる。……まぁ、一位を取るのは難しいだろうけど。サーヴァント達と一つの作品を作るなんて初めての事だから、もうちょっとだけ続けて居たい。

 背筋を伸ばすと、パキパキと音が鳴った。

 

「マスターちゃん、いる?」

「開いてるよー」

 

 水着姿のジャンヌ・オルタが入ってくる。いつもならその姿にちょっとした恥ずかしさを覚えるところだが、疲れのせいかそこまでは無い。

 

「進歩は上々って所ね」

「まぁ、大方完成させておけば、後は細かい修正をするだけでいいし」

「……アンタって結構面倒な文章書くのね。もっと、こう、ずばっと、はっきり書いちゃえばいいのに」

「まぁそれもあるだろうけど。やっぱり文字を読むからには、イメージで楽しめないと。

 はっきり書いてしまったら、考える楽しみが減るから」

 

 だからと言って全体をそうしてしまえば、ふわふわした内容になってしまう。

 場面に合わせつつ、文章の流れも細かに変えていくのが理想だと思うのだ。

 ……まぁ、偉そうに言ってる癖に出来てないんだけど。誤字とか多いし。でもこれなら、何とか。期日までにはもう一作品作れそうだ。

 

「……」

「……」

「……」

「……そ、そういえばジャンヌは何で俺の部屋に?」

 

 現行の進み具合なら明日確認すればいい筈だ。わざわざ缶詰になる必要もない。

 どうにもそれがはっきりしないのだ。

 

「……の」

「?」

「私の、水着に、感想は無いワケ!?」

 

 ――率直な感想を言えば、大胆だなと言った所。

 けど、うん。素直にいいんじゃないかな。

 

「似合ってるよ。やっぱりジャンヌには黒が合うね」

「……もう一声」

「えっと……すごく、可愛い、です」

「何これ、意外に恥ずかしい……! あぁ、もう言うんじゃなかった!

 それじゃあもう帰って寝るわ! アンタも寝なさい! いいわね!?」

 

 そういってジャンヌは部屋を出ていった。それも逃げるように。

 ……あー、良かった。あれ以上見てたら、抱くまいと決めていた感情が湧き出そうになってしまう。

 一息吐く。

 

「息抜きがてらに、もう一つ考えてみるかな」

 

 無論文章を書くわけではない。ただプロットを浮かべるだけだ。

 ……がっつりとした復讐モノ。それも一次創作。

 ファンタジーに定番な勇者と魔王がある世界。勇者は七人まで選ばれ、力が受け継がれていくシステムになっている。要するに徐々に強くいき、魔王に対抗するワケだ。

 そして主人公は本来、勇者とは無縁な少年。貧民街に生き、それなりに腕っぷしも立つ。彼には引き取った血の繋がらない妹がいた。彼に力を教えた壮年の男と共に生きてきた数少ない、大切な存在。

 そんな少女は勇者に選ばれ、たまたま街に訪れていた勇者の一人に同行する。大切な存在である彼女がようやく名誉を授かる機会に恵まれ、少年はこっそりと貯めていたお金で彼女と共に精一杯の祝宴を上げた。

 ――街外れのごみ捨て場で彼女の遺体が捨てられていたのは、それから三日後の朝の事だった。

 これを機に少年は復讐者となって勇者達を殺す事を決意する。時には一つの村に火を放ち勇者を持ち上げてきた者達全員を皆殺しにし、時には手を貸してくれた協力者を介錯し、少年の心は少しずつ壊れていく。もう満足に夢を見る事など出来なかった。

 勇者の数は残り二人。その一人は、少年を育ててくれた男その人だった。既に手にかけてきた存在がある以上、もう止める事は出来ない。父親も同然の存在を手にかけ、最後に少年が向かったのは魔王の場所。最後の勇者は魔王そのもの。既に魔王と勇者の関係は破綻していたのだ。

 魔王を殺し、少年も致命傷を負う。大切な少女との記憶が走馬灯の如く蘇り、最期に彼女が自分の頬に触れる幻を見ながら、彼は静かに命を終えた。

 

「……いや、悪趣味すぎるだろ」

 

 こんなん書いてるこっちが辛くなるわ。何と後味の悪い結末か。

 でも、まぁ。復讐者は基本バッドエンド一直線だし。誰か支えてくれる人、共に寄り添う人がいなければハッピーエンドにはならないと思っている。

 

「うん、やめよう。やめやめ、とりあえず寝る」

 

 立てたプロットを全て消す。お金を払って読んでもらうのなら、それは気持ちの良い結末であるべきだろう。

 明日は士気を上げると言う名目の下、ビーチを満喫する予定である。

 





「フーッ、フーッ、フーッ、酷い目にあいましたよ……。まさか別のフォーリナーと出会うなんて。
 でもまぁ、おかげで取り戻せましたし、良しとしますか」
「むっ、BBではないか」
「おや、ネロさん? ……えっ、待って。待った。貴方は、まさか月の?」
「――」
「ど、どうしてここに……!」
「――」
「縁を辿って来たなんて一体どうやって……」
「――」
「わ、私なんかとバカンスを!? 水着が似合ってる!?
 っっっ~~~!!!」
「ズルいぞ! 奏者よ、余をもっと誉めるが良い!」
「――」
「わ、分かりましたよ。どうせ先輩、一緒に過ごす相手も少ないんでしょうから、BBちゃんもお付き合いしましょう。
 ――BBチャンネルinハワイ、開幕、です!」



▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。