カルデアに生き延びました。   作:ソン

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ぼく、アーケードに2万ほど溶かすも星5はほぼ来ない。
活動報告にアーケードもろもろの事を書きなぐっているので、暇があれば……。


ちなみに伏線色々と仕込んでるように見えますが、ぶっちゃけそんな大事にはなりません。いや、だってクトゥルフ関連でヤバい事になったら主人公この世界からリタイアしちゃうし……。
後、前話や今話でオリ主が書いている話は元々私がなろうで投稿しようと思っていた長編の設定やプロットだったりします。ただどうしても展開が思いつかず、いっそのこと「ここで出すか」と言う事にしました。
ちなみに話に乗せているのは断片ですので、「設定を見たい!」と言う声がありましたら、活動報告に載せるかもしれません……。



After7 サバ☆フェス! 三日目

 

 一昨日は荷物整理と同人の会議、昨日は同人誌の作成に一日を費やしていた事もあり、今日は一日オフ――まぁ要するにバカンスという事だ。ルルハワに来て三日目といったところである。

 

「あつーい……」

 

 パラソルの下で水をかけあうサーヴァント達を眺める。ちなみにアルトリアの一方的な優勢であった。ジャンヌの水かけをエクスカリバー風船で防ぎつつ水鉄砲で射撃するのである。なんだアレは。

 ランスロットは円卓へのサークル活動を進めており、今は席を外している。バカンスなのだから、気の知れた仲間と楽しむのが一番だろう。

 

「南国はまた、戦場とは違う熱気でございますね」

 

 傍には白と赤の水着を着用したインフェルノ。健康的な体と透き通る白髪がただ眩しい。

 陣所を作る技術を活かしたのか、彼女が組み立ててくれたパラソルは見事に日差しを和らげてくれる。

 まさか、俺がこんなに暑さに弱い人間だとは思わなかった。……契約しているサーヴァントの一部が炎を得意とすると言うのに。

 

「マスター、何やらビーチフラッグと言う競技があるらしい。オレも参加したいのだが構わないだろうか」

「行ってらっしゃい。楽しんできてね」

 

 「ホムンクルスと戦った時の速度で……」と呟きながら、カルナは砂浜へ向かっていく。ホムンクルス? ここではない、別のどこかの世界だろうか。

 遠目に見えるビーチフラッグの会場では、アキレウスとクー・フーリンが最速を競い合っている。審判見えるのだろうか? ……あ、審判柳生さんか。なら大丈夫だな。彼が正座するたびに一部のサーヴァントが何やら嫌な記憶を思い出すような表情をしているのは何故だろうか。

 

「アーチャーも好きな場所に行っていいぞ。武蔵ちゃんの所とか」

「いえ、私の役目はあくまで護衛。セイバー様が不在の今、マスターを守れる懐刀が必要でしょう」

 

 「」は席を外している。と言うのも、俺がある用事を頼んだためだ。

 今回の一件にBBが絡んでいる可能性、そしてフォーリナーと言う単語。可能性に過ぎないが、手を打っておく価値はある。

 まだ帰ってきていないという事はその用事の途中か、それとも別の案件が見つかったからなのか。まぁ、どちらにせよ彼女を信用している。

 

「えぇ、全くです。バカンスではありますが、ここにはサーヴァント。そして他数名のマスターもいます。

 ならば注意を払うのは当然の事」

 

 ランサーオルタ――彼女は鎧を外した軽装をモデルにした水着だ。……オルタに黒は似合うなぁ。

 そして視線が一部分に集中してしまいそうになる。いけないいけない、ちゃんと目を見なくては。

 

「……別に見たければ見て構いませんが」

「いけません、ランサー殿。マスター、節度ですよ! 節度!」

「わ、分かってます」

 

 遠くではキアラが麦わら帽子に白いワンピースの姿で、波に足を触れていく。あぁ、していると本当に年相応の少女だ。

 砂に背中を預ける。じっと肌が焼けていく感覚に身を委ねた。

 日差しを浴びつつ、一眠りするのも悪くないかもしれない。

 

「……」

 

 楽し気な喧騒が心地よい。サーヴァント達が確執も隔たりも無く、互いに笑い合う。

 それだけで俺は満たされた気持ちになれる。自己満足だと、分かっているけれど。

 この手で一時でも幸せを上げられるのなら尽くしたい。それが自分に出来る事だと、分かっているから。

 だから俺は、ここにいたいのだ。

 

「……――」

 

 

 

 

 気が付けば寝てしまっていたらしい。目覚めに誘うように、柔らかな声が聞こえる。

 

「……きて、マスター。困ったわね、中々起きないわ。マシュさんからこういう時は確か……」

 

 聞き覚えのある声。

 それに手を引かれるように、ゆっくりと意識を……。

 

「起きないと殺しちゃうわよ、マスター?」

「!」

 

 前言撤回。すぐに目覚める。

 眼前には、俺の顔を覗き込む彼女の姿。何か安心したような、背中が冷えるような。

 

「こんにちわ」

「こ、こんにちわ……」

「用事は済ませてきたわ。準備にちょっと時間がかかるようだけど、場所は分かる筈よ」

「……ありがとう、これでほっとしたよ」

 

 これでBBの企みも落ち着くだろう。

 さぁ、次はサバフェスとバカンスを楽しむだけだ。七日目のサバフェスが終わり、このルルハワからカルデアに戻れば、またいつも通りの日常が待っている。

 

「ん……人混み?」

 

 先ほどまで見かけなかった人混みと、何やら特設ステージらしいモノ。

 野外フェスの会場のようにも見える。

 近くまで来ると、そのコンテストの名が会場にデカデカと書かれている。

 

「メイヴコンテスト?」

「左様。美を競う女の戦いと言う訳だ。拙僧達が武を示すようなものだな」

「胤舜さん」

 

 上は半裸。手にはいつもの十文字槍。

 宝蔵院胤舜――彼がこの場の用心棒らしい。

 

「美を競うって……他に参加者がいるんですか?」

「そうさな、先ほど義つ――牛若丸殿とマシュ殿が参加されていたのは見たな。まもなく受付が終わるぞ。

 そこの少女も如何かな」

「あら、意外。冗談がお上手なお坊さんね。でも残念だけど、謹んで遠慮させてもらうわ。

 私は、彼一人の言葉で十分だもの」

「ははっ、良い良い。善き男女、善き関係、善き伴侶。実に見ていて心地良いものだ」

「あ、ありがとうございます」

「どうした、もっと自信を持て少年。そこがちと足りんな、喝でもどうだ?」

「全くだ。我がマスターながら、そこが変わらんのは悩ましい事だ」

 

 オルタ達も戻ってきていた。

 水に滴る姿がどこか艶めかしい。

 

「オルタ達はいかないのか」

「馬鹿を言え。私に美など似合わん。お前とお前を守る剣があればいい」

「不本意だけど右に同じ。私の炎はそのためにあるのよ?」

 

 その言葉に、照れ臭くなる。

 目を逸らした先で、一人の少女と目が合った。

 彼女は――

 

「あら、来てたのね」

「?」

 

 メイヴ。女王メイヴ――けれど彼女はカルデアに召喚されていない筈だ。

 けれど、何故こうも親し気に……?

 僅かに、頭が疼く。けれど脳裏によぎる光景は何もない。

 

「もうご存知だと思うけれど、様式美として名乗っておきましょうか。

 私はメイヴ。多くの愛と一つの恋を知った少女、ワケあってここに現界したわ」

「……ええそうね。確かにこの地は彼にとって――」

 

 「」の声は小さく、よく聞き取れない。

 だが二人の仲は何と言うか、良好に見える。

 

「……メイヴもサークル出すのか?」

「っ、え、ええ。勿論、出すのは私の写真集よ? 私の体、私の声。これに堕ちない男がいて?」

 

 俺と目線が合うやいなや、ちょっと引くのはさすがに傷つく……。

 んー……あんまりメイヴの体は何というか、バランスが取れすぎてるんだよなぁ。黄金律と言うのも頷ける。けれど、それだけで欲が出るかと言えば否だ。

 ……あぁ、いやこの話はやめよう。ならキアラが一番という事になる。

 俺は内面が好きになれば、その外面すらも全てが好きになるのだ。単純な男だと笑うがいい。

 

「およ、アラン氏ではござらぬか。それにメイヴ嬢も」

「黒髭……?」

 

 何故Tシャツ姿なのかは置いといて。

 すっごく目がキラキラしてやがる……。

 

「聞きましたぞー、何やらサバフェスに参加されると! さては聖杯目当てと見ました!」

「……ふぅん」

 

 何だ、今のメイヴの目線は。

 

「ですが、残念ながら。サバフェス一位はこのメイヴ殿と決まっておられる……!

 事前調査でも圧倒的支持率! 高嶺の花かと思えば、それがすぐ目の前にあると言う現実! 写真の中で微笑みかけてくれるグッドスマイル!

 うーん、デュフフフwww。寝る前の妄想が捗りますなぁ、これはまた大長編になりそうで候」

「いいの? 仮にもアンタ、一国の女王なんでしょ? 人は選びなさいよ」

「……あら、私が人を選ぶんじゃなくて、人が私を選ぶのよ? 悔しかったら貴方達も写真集を出してみたら? まぁ、その分かりにくい性格を直すところから始めなさいな」

 

 うーん、メイヴは自分の体に情熱を注いでいるから、黒髭的には有りなのだろう。

 コスプレイヤーの方々も、体を維持するために途方もない努力をしていると聞く。メイヴもそうだ。であれば、それにケチつける事など出来まい。

 

「にしても、何でメイヴ。コートなんて着てるんだ? 暑いだろうに」

「そ、それは肌を休ませるためよ? 日焼けはお肌の天敵だもの」

「……そっか。なら仕方ないな」

「み、みたかった?」

 

 背中に差すような視線を感じる。あぁ、返答を間違えれば後で痛い目にあうだろう。

 言葉を濁して、何とか誤魔化す。

 にしても、これではあまりモチベーションが上がらない。可能性が見えない、一位は決まっている――いや、違うのだ。

 何と言うか、今の彼女の決断を尊重するべきだと。その在り方を認めるべきだと、心の何処かが告げている。

 うん、でも――

 

「……聖杯、欲しいなあ」

 

 サバフェスで勝ちたい訳ではない。サーヴァント達が気分転換を出来て、そして思い出が作れれば、俺はそれで満足だから。

 でもどうせなら、その象徴となるモノだって欲しい。

 

「……なら、一つチャンスを――」

「――打倒サバフェスっ! ここで一網打尽のチャンスと見ました!」

「な、何だぁ!?」

 

 空から飛来する一筋の流星。

 煙から見える姿はロボットそのもの。――これ、どう見ても宇宙空間にいる奴ですよね。

 

「さぁ、蹴散らして見せましょう! つい先ほど、別のフォーリナーを倒した以上、私の道に間違いはありません!

 希望の花、決して散る事は無い、生きる力を見せましょう! 私は止まりません!」

 

 意気揚々と戦闘の構えを見せるロボット。

 けれどその周囲を、ビーチにいた英霊達が取り囲む。

 

「あら、斬ってみようかしら」(根源接続者)

「なるほど……潰すか」(堕ちた聖剣)

「へぇ、あの装甲燃やしてみようかしら。いいネタになりそうね」(竜の魔女)

「これはまた珍しい……。一度味わってみとうございます」(快楽天)

「あの槍はまさか……。ふむ、であれば押し潰すに値する」(聖槍抜錨)

「やはり護衛は必要ですね……」(女武者)

「さて、ここは一つ。父親として良い所を見せるとしよう」(円卓最強)

「…………悪くない」(施しの英雄)

「なによ、アレ……。さすがのケルトでもあぁ言うのは見ないわね」(コノートのセイバー)

「なんだ、また懐かしそうな恰好の奴がいるな」(人類最速)

「へぇ、新手か。一番槍は貰っていくぜ」(ケルトの大英雄)

「また面妖な。これは斬り甲斐があると言うモノよ」(剣禅一如)

「ははぁ、あれがふぉーりなーか。さて、どこを穿てば一閃となるだろうな」(暴僧族)

「何と! メカとは拙者の少年心をくすぐる……! だが、場を荒らした落とし前はキッチリ払ってもらうぜ」(カリブの大海賊)

 

「ヘレティクス! 鍵をかけて閉じこもりたい! 戦略的撤退を実行します!」

 

 酷い蹂躙を見た。

 しかも全員が素人ではなく、一級品の戦士のソレだ。

 要するに完封十割である。

 

「やはり先ほどの戦闘で本気を出したのがまずかったのでしょうか……!?」

 

 先ほど? ここに来る前にどこかで交戦してきたのだろうか。

 

「ではまた! 銀河警察はクールに去ります!」

「なんなのかしらね、全く……。それで、そこのマスターは聖杯でも欲しいのかしら?」

「……そりゃ、まぁ欲しいよ」

 

 そうすれば、もっとサーヴァント達を強く出来るしカルデアの保有する強力なリソースとなる。

 えっ、俺の体液? 言うな、邪道だ。

 

「なら機会をあげるわ。マス……貴方、私に情熱的な言葉を囁きなさい」

「は?」

『は?』

 

 声が重なる。

 メイヴの言っている意味が、まだ呑み込めない。

 要するにメイヴを口説けと? けれどそんな事に一体何の意味がある?

 数多くの勇士を知る彼女にとって、俺の言葉などそよ風のようなものだろう。

 

「何で……」

「理由なんてどうでもいいでしょう。もし私の琴線に少しでも触れたら……そうね。写真集は無料頒布にしてあげる」

『おおおおおぉぉぉ!!!』

 

 周囲の男たちが盛り上がる。

 そして感じる重圧。何なのだこれは、どうしたらよいのだ。

 でも、ある意味これはチャンスだ。

 サバフェス一位は売り上げによって決まる。もしメイヴの言う事が本当であるのなら、番狂わせになるのだ。

 

「……分かった」

「あぁ、それと一つ言っておくけど、私キザな言葉にはなれているから。

でも期待ぐらいは――」

 

 さて、どう応えよう。

 愛している……いや、違う。それは一生を添い遂げる覚悟が無ければ口にしてはならない。決して簡単に口にしてはならない事。

 恋している……彼女からしてみれば何てことない言葉だろう。深く届く言葉とは思えない。

 一方的な気持ちの押しつけは良くない。やはり相手が選べる選択でないと。

 

「――メイヴ」

「は、はいっ」

 

 名前を呼ぶと彼女は、背中を瞬時に伸ばした。

 右手を差し出す。彼女に届くように。

 

「一緒に生きよう」

「~~~~っっっっ!!!

 わ、分かったわ! 写真集は止めにしてあげますとも、ええ!

 そ、そそれと貴方はもう少し自分の言葉を自覚なさいな!」

 

 そういって、逃げるようにメイヴは去っていく。

 ……そんなに響く言葉だったかなぁ。

 

 

 

 

 夜。執筆は終わった。

 けれど念には念を入れてもう一つ出す事にする。無論一次創作だ。ページは増えるが、まぁ苦労するのは俺だけだから問題ない。

 サーヴァント達と共に今後の展開を練りながら、文章を打ち込んでいく。

 まず舞台は定番を用意。テンプレートを利用する。魔王と勇者と言う関係は崩さずに、けれどちょっとだけスケールを広くする。

 かつて魔王の侵攻と、それを防ぎ退けた英雄の物語が、遠い御伽話となって風化していた時――聖剣信仰と共に古くから栄える帝国、そして比較的近代に成立した皇国の二国に分けられた大陸。皇国の街で宿屋の従業員として働きながら、ステゴロの喧嘩を得意とする少年。彼が主人公であり、主役にはあるまじき忘れっぽさを持つ。

 彼は帝国の第二王子であったが、聖剣の適正が無く呪いの子と言われ迫害を受けていた事から追放、皇国に流れ着く。そこで宿屋を営む一人の男に拾われ、格闘による卓越した戦闘技術を身に着ける。

 住み込みで働く中で、彼は一人の少女と出会う。人造生命体である少女は己の名前すらも何もかもが分からない。そんな彼女に彼はかつての自分を重ね合わせ、共に暮らす事にした。家を追われた彼に与えられた、血の繋がらない家族。けれど、その平穏も長くは続かない。

 帝国より送られた暗殺部隊。そして少女は、帝国が彼とその国を滅ぼすための爆弾として派遣された。それが感情を得たバグによって、役目を変えたのだ。

 暗殺部隊との交戦、その過程で彼は育ての親も同然の男を失い、自身も毒で致命傷を負う。少女は国を滅ぼす力を、たった一人の少年を活かすために使用した。

 皇国では騎士達によるクーデターが勃発していた。暗殺部隊や人造生命体を招き入れたのは、皇国の王と言う証拠が出てきたからだ。

 騎士達の長と共闘し、少年は王を撃破。長は王の名を襲名し、国を立て直す事に決意する。

 斯くして、少年はまた独りになる。

 

「……」

 

 それから数か月、街の中で孤児院を見かけた少年はそこの修道女に一目惚れする。経験が無いが、何とか誠実に向き合おうとする彼。

 孤児院の子達と修道女――双方の存在は少年にとって大きな支えとなり、心の拠り所となった。

 ――ある晩、少年は個人指名の依頼があり街から離れていた。宿には手紙が届いており、修道女からの手紙が入っていた。それは奴隷商が孤児院に目を付けたと言う事。その奴隷商の名には見覚えがあり、少年を指名した依頼主であった。雨が降る闇夜を駆け抜け、少年は孤児院に向かう。そこでは子供達が魔物化されており、修道女は瀕死の重傷を負っていた。

 少年、自身の心が欠けていく事を知りながら魔物化した子供達を介錯する。修道女の手を握り、復讐を決意。

 単身で奴隷商の邸宅に乗り込み、その最奥部で雇われていた最強の暗殺者と対峙。幾度となく死にかけながらも、かろうじて勝利。奴隷商の事を皇国の治安維持である騎士達に任せ、最期の時を迎えている修道女の下に急ぐ。

 彼女の手を握りながら、言葉を交える。その言葉を、決して忘れまいと決意した。

 

「……よし、ここがスタートラインか」

 

 これは所謂、過去編。主人公である彼の過去に重みを持たせる事で、彼の発言が軽くなる事は無い。

 そして既に伏線も、この時点で仕込んである。

 筆が載って来た。さらに執筆を進める。

 

「……」

 

 少年は皇国の王に呼ばれ、帝国が戦争を仕掛けようとしている事を知る。それを止めて欲しいと。既に皇国の王とは過去編にて何度か面識がある。王は少年の強さを知っている。

 僅かに思案して、帝国に向かう事を選ぶ。その道中にて剣に憧れ、過去の神話を求める少女や宝の収集を旨とする男と出会う。

 その二人と共に帝国に向かう主人公。その道中で何度か英雄の話を耳にする。帝国創生神話。帝国の王は魔王を退けた英雄の血族だと。

 だから聖剣の適正は無いのだと、彼は納得しそれを受け入れた。

 ――帝国に乗り込む一行。帝国の王は兵を構えており、既に退ける気は無い。家を捨て、逃げた愚か者と、彼を叱責する。

 主人公、自身の拳を打ち鳴らし過去の自分と父親を超えて見せると豪語し。戦いが始まった。

 

「……いったん、ここまでか」

 

 構想ではここまでが中盤だ。

 主人公が王族である事。そして家の事柄に終止符を打つべく動く。

 けれど、まだ話は動く。動くけれど、動かし過ぎないように。

 

「んっ……」

「こっちも何とか終わったわ。こう、頭の中のイメージを勝手に書いてくれる魔法でもないかしらね。……そういうのは魔術だったかしら」

「多分、魔術」

 

 ジャンヌも書き終わったようだ。この構想では間に合わない可能性が高いため、俺とジャンヌ、二人で執筆を進める事になった。一人称を中心に、なるべく文体を合わせていく。女性パートはジャンヌに、男性パートは俺が担当する事で何とか整合性は取りたい所。

 ちなみに確か魔法の定義はアレだ。“現代の科学でどんなに費用や日々を積み重ねても達成できない事”であった筈。例えば時間旅行とか別世界の転移とか。だから某猫型ロボットの持つ道具は、魔法を魔術に落とすと言う割ととんでもない事なのである。

 閑話休題。

 

「我がマスターながら、ホントよく付き合ってくれるわね。貴方、ビーチでもろくに泳がなかったでしょ?」

「……いや、泳げないんだよ。それに暑いの苦手だし。だから俺なりに充実してたさ」

 

 それが面白かったのか、彼女は小さく噴き出した。

 南国に向いて無さ過ぎじゃないですかね、俺。いい加減泳げるようになった方がいいのだろうか。

 

「へぇ、じゃあ今度はプールにでも沈めてあげようかしら。二人なら余計な手出しもないでしょう?」

「勘弁して……」

 

 溺れるのを侮ってはいけない。何の兆候も無しに突然沈む事だってあるんだから。

 足着く場所でも、それは同じである。

 

「冗談よ、本気にしないで。プールがヤならそこに連れていくつもりはないわ。

 そうね……邪魔の入らないところが一番かしら」

「映画、とか?」

「そう、それ。遊園地とかはイヤよ。そんな子供っぽい所」

 

 いや、アトラクションも最近は凄いぞ。大人ですら本気で引く程の絶叫マシーンだってある。

 

「……はー、話疲れた。さっさと寝ましょう」

 

 そういって、ジャンヌは俺の部屋のベッドにもぐりこむ。

 いやいやいや、待って、待った、待ちなさい。

 

「あのさ、ジャンヌ。一応ここ俺の部屋だから、自分の所戻ったら?」

「何? こんな夜中に女を部屋から追い出すつもり?」

 

 痛い所を突かれる。一応同じ階だけど、部屋から戻る際何かトラブルが起きないとも言えない。

 少し考えて、まぁいいかと結論を出した。

 

「じゃあ、俺は床で寝るよ。お休み」

「は? ちょっと」

 

 有無言わさず電気を落とす。

 カーペットの心地良さなら、体にそれほどの問題でもないだろう。

 

 

「…………バカ」

 

 




「さて、どうしようかしら。約束は果たすけれど、マスターの願いを叶えてこそのサーヴァントですもの」
「貴方も来ていたのね」
「それは勿論。だって、おかしいと思わない?
 この世界、一つひっくり返せば狂気が満ちているわよ。サーヴァント達の尽力あって、まだマスター達には気づかれてないけど、今のままじゃ時間の問題。
 私もフォーリナーとやらを一人は撃退したけど、正直本命じゃないわ。何より、もうこのルルハワ自体がおかしい」
「……そうね。だって、ここだけ世界が重なっているんですもの。そしてマスターからは彼らの日常が幻影にしか見えない。あの空港が入口だったのね。
 これも外宇宙の存在だから出来る現象かしら」
「マスターの事、頼むわ。私も出来る限りの事はするから」
「えぇ、任せて」

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